月読ノ舞   作:面白い小説探すマン

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捌話

 

 頭の中が真っ白になった…

 

 姉さんが上弦の弐に遭遇したという知らせを受けたときは。

 

 それから、すぐさま走って駆け付けた所には手足を切り落とされて、鬼に胸を貫かれる姉の姿があった。

 

 

 

***

 

 

 

 日の出と共に姿を消した上弦の壱・黒死牟。胸を黒死牟に貫かれた花柱・胡蝶カナエも消えていた。月一郎が手を伸ばした先には既に誰もいない。その隣には、顔に影を落とす胡蝶しのぶがいる。

 

「しのぶさん…」

 

「姉さん…」

 

 しのぶが低い声で言った。

 

「姉さん…はどこに…行ったの?」

 

「それは…」

 

「姉さんは…胸を…貫かれてた。どうして…姉さんが…」

 

「俺を…庇って…」

 

「あんな傷じゃ…生きているはずがない…」

 

「………」

 

「どうして姉さんは…帰ってこないの…?」

 

 月一郎にはかける言葉が見つからない。しのぶは突如顔を上げると月一郎を睨んだ。

 

「どうして姉さんが死ななきゃいけないのよ!!あんたが死ねばよかったのに!!」

 

 突然の罵倒に声を失う月一郎。

 

「なんで姉さんがあんたなんかを庇って死ぬのよ!!あんたが死になさいよ!!姉さんを…姉さんを返してぇ!!」

 

 月一郎はそっと立つとその場からトボトボ帰って行った。その背中に姉を失った妹からの罵声を浴びながら。

 

 

 その日、鬼殺隊にはある噂が流れた。

 

 曰く、新参の柱・時透月一郎は鬼と通じている。

 

 曰く、その者は花柱・胡蝶カナエを結託した鬼と共に葬った。

 

 曰く、その者は鬼の剣技を使う。

 

 

 月一郎はお館様・産屋敷耀哉に呼び出された。

 

 その場には柱が全員揃っており、皆どこか含む視線で月一郎を見る。

 

「オイオイオイオイ!!よくノコノコとこの場に顔を出せたもんだなァ。時透月一郎!!」

 

 風柱・不死川実弥が月一郎を睨んで言うと、顔を近づけた。

 

「何とか言ったらどうなんだァ?ああ!!どんだけ強くても、てめえみたいな得体の知れない奴が柱だなんて虫唾が走るんだよォ!!」

 

「お前…この前は早く柱になれとか言ってなかったか?」

 

 水柱・冨岡義勇が後ろから呆れたように言う。

 

「てめぇは黙ってろや冨岡ァ!!」

 

 そこへ冨岡に向けて怒鳴る不死川をかぎ分けて、巨大な盲目僧、岩柱・悲鳴嶼行冥が月一郎の前にやって来た。

 

「時透月一郎…」

 

 悲鳴嶼は瞳のない白い目から涙を流して言う。

 

「君は自分が助かるために、仲間を犠牲にしたのかね…?」

 

「いえ…」

 

「君は本当に鬼と通じているのかい?」

 

「…………」

 

 何も答えない月一郎に悲鳴嶼行冥は南無阿弥陀仏と最後に唱えると元の位置に戻って行った。

 

「悲鳴嶼さんよぉ、それだけでいいのかい?噂の真偽を派手に確かめとくべきじゃねぇのか?」

 

 音柱・宇髄天元が隣に戻ってきた悲鳴嶼行冥に言う。そこへ炎柱・煉獄杏寿郎が待ったをかけた。

 

「宇随、それはお館様がきちんと説明してくれるだろう!!継国少年は上弦の壱と上弦の弐に遭遇しているんだぞ!!畳み掛けるように詰め寄ってはかわいそうだ!!」

 

「時透です…」

 

「まあ、その上弦の壱と弐に遭遇しといて五体満足ってのもな。何の呼吸を使ってるのか謎だったが鬼の剣技を使っていたってことだけでも問いただしといた方いい気がするけどな」

 

「お館様の」「御成りです」

 

 娘たちの声で柱たちはすぐさま整列する。月一郎は柱から離れた場所にポツンと座った。

 

「おはよう、みんな」

 

「お館様におかれましてもご壮健で何よりです。益々のご多幸を切にお祈り申し上げます」

 

 今回は宇随がお館様・産屋敷耀哉に挨拶を返す。

 

「ありがとう、天元。今日、みんなに集まってもらったのは先日の上弦の壱、上弦の弐襲来の真相についてだ」

 

 お館様は悲しいそうな顔をして言った。

 

「花柱・胡蝶カナエの生存は難しいだろう」

 

「お館様!!」

 

「なんだい、実弥」

 

「時透月一郎がカナエを殺したと聞きますがそれは本当ですか?」

 

 殺気立って月一郎を睨む不死川。

 

「いいや。カナエはね、月一郎を守ったんだよ。月一郎は上弦の壱と弐を相手に本当によく戦った。でも、その末にやられそうになったんだ。けれど、それをあの子が最後の力で月一郎の身代わりになった。同じ柱でも後続の月一郎を守るために自ら身代わりになったんだよ」

 

「そうだったのか…」

 

 不死川は申し訳なさそうに月一郎を見た。

 

「お館様、月一郎は上弦の壱と弐を同時に相手取れるほど強かったのですか?」

 

 宇髄がお館様に疑問を投げ掛ける。

 

「それはね…月一郎が上手く機転を利かせたからなんだよ。上弦の弐はカナエを喰うことに固執していて、上弦の壱は月一郎と一対一で戦うことに固執していた。だから、月一郎は上弦の弐とカナエの壁になりながら上弦の壱と戦ったんだ。現に、上弦の弐が戦いに介入しようとすれば上弦の壱に阻止されていた」

 

「鬼同士で足を引っ張っていたのか…!!ならば、時透が鬼の剣技を使うということは?なぜ上弦の壱は時透との一騎打ちを望んでいたのですか?」

 

 お館様は宇随の怒涛の質問に丁寧に答えた。

 

「順番に答えるよ。月一郎が使う月読ノ舞はその鬼が月一郎の家に伝えたものだからだ。その鬼、上弦の壱は書物にかつての柱だったとある。鬼となる前に自らの呼吸を自分の子供に伝えたんだ。その子供の末裔が月一郎というわけだよ。400年もの間、途切れずに継承されてきたんだ、月一郎たち始まりの呼吸の剣士の末裔にね」

 

「鬼が先祖…」

 

「でも、それは月一郎が鬼と通じていることにはならないよ。そして、なぜ上弦の壱が月一郎との一騎打ちを望んでいたのかもこれが理由だ。自分の子孫にあたる月一郎とはどうしても自分一人で戦いたかったんだろうね」

 

 柱たちは揃って月一郎を見る。

 

「お館様」

 

 話が一区切りついた時、月一郎は口を開いた。

 

「俺は…柱を辞し、鬼殺隊を離れたいと思います」

 

 ………

 

「…は?」

 

 つぶやいた誰かの声。

 

「いやいや、なんでだよ?お前の容疑はもう晴れただろうが!!」

 

 不死川が怒鳴った。

 

「いえ…もう決めたことですので」

 

 それでも月一郎の意思は固い。

 

「ふーん。お前は逃げるわけねぇ」

 

 そこに宇随が言う。

 

「胡蝶カナエに守られるだけ守られといて、自分は何も失わずに逃げるだけか?始まりの呼吸の剣士の末裔が聞いて呆れるぜ」

 

「それもついこの前唐突に言われただけなので、そこまで気にしてません」

 

「何も言い返せねぇとは地味に情けねえ野郎だな」

 

「…俺はあなたたち鬼殺隊が嫌いです。鬼と見るなり切らなければ気が済まない姿勢を貫くあなた方が」

 

「なに?」

 

「この何日かで、俺はあなた方とは相容れないと分かりました。カナエさんならわかってくれたかもしれませんが、あなた方にわかってもらえるとは思えない」

 

「何が言いたい?」

 

「…別に。俺は鬼殺隊を抜けるだけです」

 

「月一郎…」

 

 話を見守っていたお館様が言った。

 

「お館様」

 

 月一郎は改めてお館様と視線を交わす。

 

「後で、二人きりで話がしたいです」

 

 

 その日、柱合会議はお開きとなった。柱たちに月一郎への苛立ちと疑心を残して…。そして、それは同日に起こった。

 

「カアァァァ!!お館様、行方不明!!お館様、行方不明!!時透月一郎ガお館様ヲ連れ去っタ!!」

 

 その月一郎がお館様である産屋敷耀哉を連れ去ったという知らせだった。

 

「緊急!!柱合会議を執り行うウ!!柱は直ちに集合せヨ!!」

 

 柱たちは頭が真っ白になった。

 

 

 

***

 

 

 

 そこにいたのは弱冠5歳にして座るお館様のご子息だった。

 

「みんな…今日は集まってくれて…ありがとう」

 

 幼くして当主の代理を務めなければならない産屋敷輝利哉の両肩にのしかかる重圧は想像を絶する。柱たちは心配で胸中が押しつぶされそうになる中、風柱・不死川実弥が恐る恐る話しかけた。

 

「お、お館様におかれましてもご壮健で何よりです…。益々のご多幸を切にお祈り申し上げます」

 

「ぼ、僕はまだお館様じゃないよ…」

 

「ですが、輝利哉以外に務められる方などおりません」

 

「うん…わかったよ。…実弥」

 

 幼い輝利哉が提案を受け入れたのを見て、不死川がさらに進言する。

 

「お館様!!すぐさま時透の奴を確保し、お父上を救出しにいきましょう!!」

 

 他の柱も皆、一様に頷いた。

 

 これより、次に続く幼いお館様の一言によって、鬼殺隊による時透月一郎包囲網が組まれることになるだろう。

 

 

 

 

 

 




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