催眠アプリで純愛して何が悪い!   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第11話「飛んで火に入る金髪ヤンキー」

「チョーシくれてんじゃねえぞ、モヤシがよぉ……!!」

 

 

 登校中に髪を金色に染めた男子生徒に捕まった僕は、胸倉を掴まれて低い声ですごまれていた。

 何しろすごい腕力の持ち主で、背は高くてもひょろい僕はなすすべもなく路地裏に引きずり込まれたのだ。

 

 まっキンキンに髪を染めた男子生徒は、背は僕より低いもののもりもりと筋肉がついており、なかなかガタイがいい。

 これはいわゆる不良というやつなのだろうか。スポーツでもやった方が本人的にも周囲的にもいいような気がするのだが。

 

 ところで彼は誰なのだろうか。

 初対面の人間に対して失礼な人だと思う。

 

 

「離してくれないかな。僕は君に脅されるいわれがないので、多分人違いだと思うよ」

 

「人違いのわけがあるかボケ!! 葉加瀬(はかせ)ェ、テメエ俺を舐めてんのか!!」

 

「一方的に僕を知ってる人なのかな。僕は君のことを知らないんだけど」

 

「……!? ふっざけんなァ!! 去年も今年も同じクラスだろうがお前!! なんならついこないだ因縁もつけたろうが。テメエ脳みそどうかしてんのか? それとも俺をおちょくってんのか!?」

 

 

 おっと、クラスメイトだったのか。それなら僕の名前を知っているのも納得だ。あいにくクラスメイトの顔も名前も誰一人として覚えていないので、こちらは彼が誰なのか認識できないのだが。

 いや、そういえばこの金髪にはうっすらと記憶があるぞ。

 

 

「ああ、先日校舎裏でありすといたときにぶつかってきたヤンキーの人かな?」

 

「そうだよ! 見りゃわかるだろうが!! とぼけやがって……!!」

 

 

 見てわかんないんだよなあ。

 

 

「それで、僕に何の用? 話なら登校してから休み時間にでもゆっくり……」

 

 

 そう提案した途端、彼の拳が僕の頬に突き刺さった。

 すごい衝撃を受けて、もんどりうってこける。

 あいたた……なかなかいいパンチをしてる。これかなり腫れるな。

 

 

「お前俺をナメてんだろ。ええ? 人を殴るドキョーがないとでも思ってんのか? ざけんじゃねえぞコラァ……」

 

 

 彼は右の拳を左手で包むように腕を組み、ゴキゴキと首を鳴らした。

 額には青黒く血管が浮き出ている。なるほど、これは怒っているんだな?

 他人の感情に疎い僕も、激怒したときの生理反応くらいは知っているのだ。

 しかし困ったな。彼が何故怒っているのかわからないぞ。

 

 

「うーん、僕はキミに何か怒らせることをしたかな? 殴られる理由がわからないんだけど」

 

「いい加減俺をナメんのをやめろってんだよ!! クソが!!」

 

 

 そう叫びながら、彼は仰向けになった僕の胴を踏みつけてきた。

 思わず息が詰まり、ゴホッと咳込む。

 

 

「テメエムカつくんだよ! ありすサンの陰に隠れていい気になりやがってよぉ!! テメエにゃ手を出すなって言われてるからって、チョーシくれやがって……!! 男として恥ずかしくねえのかッ!! 俺はテメエみてえなクズが一番ムカつくんだよぉッ!!」

 

 

 そのまま何度も踏みつけながら、彼はそんなことを喚いている。

 うーん、何を言っているんだ彼は。

 僕は別にありすの陰に隠れているつもりなんてないんだが、一体何を勘違いしているんだろう。

 そろそろ僕も痛くて仕方ないので、蹴るのをやめてほしい。病院に行かないといけないかもしれない。

 

 

「ゴホッ、ゴホッ……。何のこと、か、わからないな……」

 

 

 腹にだいぶダメージを受けているようで、声が自然と絶え絶えになる。

 僕が口を開いたので、彼はいったん蹴るのを止めた。もしかしたら疲れたのでちょっと休憩したのかもしれないが。

 

 

「ありすの、陰に、隠れる? 身に覚え、がないことで、蹴られちゃ、たまらないな……」

 

「とぼけんじゃねえよ! クソ野郎が!!」

 

「それに、僕は思うん、だけど……」

 

「ああ? ンだよ」

 

「一方的に、他人を、殴るキミの方が……男として、恥ずかしい」

 

「…………ッ!!!」

 

 

 サッカーボールを蹴るような容赦のないキックが繰り出された。

 今までよりもひときわ強力な一撃に、僕の喉から自然と苦悶の声が上がる。

 まったく、今日はツイてないな……。

 

 

「オラッ立てやコラ!! ヤキ入れてやるよ!! こんだけボコられていい加減悔しくねえのかよッ!! テメエも打ってこいや!!」

 

 

 再び胸倉を掴まれ、無理やり上半身を起こされる。

 散々一方的に殴っておいて、今度は自分を殴れとは。つくづく意味がわからない。

 悔しくないのかと言われても……。

 

 

「こんなの、歩いてて、ハチに刺されたのと、同じだ。ハチに刺されて、怒り狂う人間なんて、いるわけないだろ」

 

「は、ハチ……? 俺が虫けらと同じだとでも……」

 

「僕にとっては、同じだ。キミの名前は、覚える価値が、ない」

 

 

 僕は赤の他人にどんなことをされても平気だ。だってこれっぽっちも彼らに興味がないから。

 悪意を含めて、他人への共感性が極めて鈍い。僕はそのように生まれついた。

 攻撃してくる相手が人の形をしていようが、虫の形をしていようが、僕にとっては同じことなのだ。

 彼らの悪意を共感する能力が欠如しているから、その意図を理解できない。だから怒りも感じないし、心が傷付くこともない。

 

 僕が怒りや悔しさを感じるのは、家族以外ではありすに対してだけだ。

 ありすだけは僕にとっての特別だ。

 

 

「クソが……クソが、クソがクソがクソがああっ!! ありすサンはこんなクズのどこがッ!! あああああああああッ!!」

 

 

 何やら吠えているが、クズは君だろう。僕の方がまだまっとうな人間だぞ。

 

 ふと、このヤンキーAを催眠アプリの被検体にするのはどうかという考えが頭をよぎる。これだけ理不尽に攻撃されたのだから、少しくらい気分が悪い程度の副作用が出たとしてもおあいこですまされないだろうか。

 むしろ正当防衛ということで許してもらえるかもしれない。

 

 しかし賠償金を払わないといけないと面倒だぞ。これだけ殴られて、お金まで取られるのはもったいないなという気持ちもある。

 いや、交換条件という形なら別に賠償金を払わなくても構わないか。

 とりあえず要望を聞いてみよう。

 

 

「何がほしいんだ?」

 

「アァ!? 今更命乞いかよ雑魚が!! だがそうだな……」

 

 

 彼はニヤニヤと表情を緩ませる。何かもらえそうだと分かった途端に怒りを収めるとは現金な人だな。

 

 

「とりあえずカネだ。財布丸ごと差し出せや」

 

 

 やはり金を要求されるのか。まあいいか、生涯賃金より安く済みそうだ。

 

 

「どうぞ」

 

「へへへ……なんだ、意外と持ってるじゃねえか」

 

 

 財布を渡すと、彼はすかさずパシッと奪い取り、その中身を覗いてニヤついた。今は娯楽にお金を使っていないので、もらったおこづかいをそのまま入れている。お気に召して何よりだ。

 

 

「それで満足した?」

 

「まだに決まってんだろうが!! こっからが本題なんだよ!! おい、ありすサンと別れろや……! テメエにゃ不釣り合いな女なんだよ……!!」

 

 

 んんん?

 

 

「別れる? 何の話?」

 

「とぼけんじゃねーよ!! ありすサンと付き合ってんだろうが!!」

 

「……?」

 

 

 まさか彼は僕とありすが恋人だとでも思っているのだろうか。

 冗談じゃない。

 

 

「そんな事実は一切ない。きみの勘違いだから、その要望には応じられないよ」

 

「ハァ? とぼけんじゃねえよ!! あんだけどこでも構わずイチャイチャしておいて、恋人じゃねえだと?」

 

「違う。ただの……」

 

 

 ただの、なんだろう?

 友達……ではないだろう。出会った頃はそうだったけど、今はあれだけいがみあっているのだし。これまで読んできたマンガから推測すると、友達は無理やり土下座させられたり、土下座させたりという関係ではないはずだ。

 宿敵。いや、別に殺し合いたいわけじゃない。

 天敵。捕食関係にない。違う。

 ライバル。ありすはしょっちゅう煽ってくるし、僕も復讐心を燃やしてるからかなり近い。でもよくよく考えると僕はありすにマウントを取られたくないだけで、彼女に勝ちたいわけではないのだ。

 

 

「ただの幼馴染だよ」

 

 

 結局そういうことになると思う。

 

 

「テメェ……ありすサンの純情を弄んでるってのかよ……!!」

 

 

 彼はわなわなと僕の胸倉を掴む拳を震わせた。どうやらまた怒り出したようだ。

 

 

「やっぱりテメェみたいな奴にはありすサンを任せておけねえ。おい、今からここにありすサンを呼び出せや」

 

「……呼び出して、どうする?」

 

「決まってんだろうが、正式に別れさせんだよ!! そんで、ありすサンは俺の彼女にする!! 今日からありすサンは俺のモンだ! ヒャハハハハァ!!!」

 

 

 

 いま、何て言った?

 

 

 

「おい」

 

「なんだよ? 今更俺に逆らえるとでも……」

 

「取り消せよ。ありすはモノじゃない」

 

 

 彼の喉に右手を伸ばし、ギリギリと締め上げる。

 

 

「!? こ、こいつ……! なんて握力……」

 

「ありすは人間だ。お前の彼女になるかどうかは、ありすが決めることだ。それを、何を勝手にありすの意思を決めているんだ? お前はありすの何だ?」

 

 

 その瞳を覗き込みながら僕は淡々と問いかける。

 彼はケッと口元を歪ませ、吐き捨てるように答えた。

 

 

「ハッ! 女なんてなぁ、男が無理やりモノにしちまえば簡単に言いなりになんだよ! なんならテメェの前で犯してるのを見せつけてやろうか? ヒヒヒヒヒ!!!」

 

 

 ああそうか。こいつはありすを傷付けるつもりなんだな。

 じゃあいいや。

 

 

 こいつにはこれっぽっちも容赦なんてしなくていいや。

 

 

 僕のことならいい。どれだけ傷付けられても怒りなんて湧かない。

 でも、ありすは別だ。

 ありすに危害を加えようとするものは、僕はなんであれ一切許すつもりはない。

 

 

 彼にきめた喉輪の力をさらに増して、そのまま吊り上げた。

 踏まれたカエルのようにグエッと濁った音を漏らし、彼の呼吸が塞がる。

 バタバタと脚を動かして逃げようとするが、今さらもう遅い。

 

 

「は、はなせ……!!」

 

「安心しろ。どんな障害が残っても一生かけて賠償してやる」

 

 

 僕は左手でスマホを取り出して、彼の見開いた瞳に突き付けた。

 

 

「催眠!」

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