催眠アプリで純愛して何が悪い!   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第18話「陽キャクラスチェンジ」

「ハカセ、知ってるか? いじめグループのリーダー格、みんな転校したらしいぞ」

 

「……へーそうなんだ」

 

 

 一夜明けて学校に来ると、クラスが騒然となっていた。

 複数のクラスに渡ってはびこっていたいじめグループが壊滅していたのだ。

 

 

「なんでも親に自分がこれまでしてきた悪事を洗いざらい白状して、何としても罪を償いたいって言ったらしい。これまで虐めてきた子に電話口で謝罪したんだと。修道院があるミッションスクールに転校して、そこで悔い改めるそうだ」

 

「そっか、これで平和になるね。よかった」

 

 

 言うまでもなく僕の仕業である。

 

 やると約束したからには、その日のうちに全部終わらせた。

 昨日のうちにいじめグループの女子全員に催眠をかけてやったのだ。

 彼女たちはカラオケルームの一室で遊びながらささささんからの上納金を待っていたので、まとめて催眠できたのはラッキーだった。

 

 内容自体は大した催眠ではない。

 

 自分がやったことへの罪悪感を膨れ上がらせ、自殺以外の形で自分を裁くように誘導してやっただけのこと。

 人を裁くのにわざわざ手を汚す必要はない。自分という裁判官の裁きからは何人も逃げられず、執行は的確に行われる。その強力さは、にゃる君が既に実証済みだ。

 

 ただ、まさか全員転校してしまうというのは予想してなかったな。

 本当は彼女たちからもデータを取れるかとウキウキしていたのに、手の届かないところに行かれてしまった。これは大失敗だった。次はうまくやろう。

 

 まあ複数の相手にもまとめて催眠をかけられるのがわかったのは収穫だったかな。

 

 

「なあ、ハカセ……お前……」

 

「何?」

 

 

 にゃる君は何か言いたげだったが、いやと首を振った。

 

 

「何でもない。お前には動機もないしな」

 

「ふふっ、変なにゃる君」

 

 

 ……気付かれた? いや、まさかね。

 僕と今回の一件を結びつけるものはないはず。

 

 

「おっはよー!」

 

 

 誰かが教室に入ってきて、明るい口調で声を上げた。

 周囲のクラスメイトがざわついている。

 

 興味もないので無視していると、声の主はつかつかとこちらに近付いてきて、パーンと僕の背中を叩いた。

 

 

「いてぇ!?」

 

「やあ、ハカセくん。今日も頭よさげになんか考えてるね」

 

 

 振り返ると、茶髪をボブカットにした快活そうな女子が、ニカッと無邪気な笑顔でこちらを見ていた。カーディガンを腰に巻き、スカートはやや短め。

 

 

「……誰?」

 

「アタシだよ、さささ! えー嘘、わかんないかなあ。昨日イメチェンしてみたらって言ったじゃん。どう? 似合う?」

 

「別人みたいになった」

 

「なんだよーもう。オシャレし甲斐がないなー、女の子に嫌われちゃうぞー?」

 

 

 そう言ってささささんは僕のぼさぼさの髪に手を置き、乱暴に撫でて楽しそうに笑った。なんなんだ、距離近いぞ。

 

 

「えぇ、これ佐々木(ささき)? 何があったんだよ……」

 

「おっ、新谷(しんたに)ちゃんもおはよ。相変わらず筋肉キレてんじゃん。ひゅーひゅー」

 

 

 絶句するにゃる君の胸板を、ささささんがぽんと叩いて笑っている。

 その後も自分の席につくまでクラスメイト一人一人に挨拶しながら、彼女はその人のいいところをひとつずつ褒めて回っていた。

 

 なるほど、こういう感じになったか。

 

 

 昨日までは根暗を絵にかいたようなひがみ精神の塊だったささささんの突然の変貌に、当初はみんな驚きを隠せないようだった。だがいじめグループが消滅した事件の衝撃の方が大きく、ささささんのイメチェンはそれほど話題にはなることはなかったようだ。

 

 明るい態度で積極的にみんなに声を掛けて回るニューささささんは、やがて日常のひとコマとして受け入れられ、いつしか最初からそうだったかのようにクラスに溶け込んだ。

 思春期に大きくイメチェンすることなんてよくあることだ。

 

 いじめグループが消滅したことでクラスのパワーバランスもまた変動し、ささささんは新たに浮上した女子グループに加わった。その中には以前ささささんがいじめた女子もいたらしいのだが、真剣に頭を下げて許してもらったということだ。

 

 

「最初からこうやって謝っときゃよかったよね。真剣に目を見て話せばわかってくれないことはないと思うし。やっぱり真心って大事だなーって思うわけ」

 

「……それで、何でここにいるの?」

 

 

 新しい女子グループに入ったはずのささささんだが、何故か休み時間ににゃる君と話しているとフラフラと混ざりに来るのである。もう女子仲間からいじめられる心配もないのだから、そっちと交流を深めればいいと思うのだが。

 

 

「えー、いいじゃんか。同じクラスメイトでしょ? 仲良くしようよ」

 

 

 まあ観察は捗るから悪いことじゃないんだけど。

 別ににゃる君と違ってそばにいるように命令をした覚えもないのに、向こうから寄ってくると何かあるんじゃないかと疑ってしまう。元が元だし。

 

 

「いや、それよりあれ……」

 

 

 にゃる君が何やら震えているのでそちらの方を見てみると、ありすが教室のドアの陰に隠れてこちらを窺っている。

 目が合うとフーッと威嚇してきた。

 

 ……何やってるんだあいつ。

 

 そういえばささささんはありすが嫌いなんだったな。

 喧嘩でも始まるんじゃないかとハラハラしていると、ささささんがチッチッチッと小動物を手なづけるときのように口を鳴らした。

 

 

「ありすちゃーんおいでおいでー。私は敵じゃないよー」

 

「フシャーーーー!」

 

 

 手なづけるときのようにどころではなく、完全に小動物を相手にしていた。

 なんか警戒しているのか、ありすは近付いてこようとしない。

 今まで見たことのない反応だな……。

 

 じーっとこっちを恨みがましそうな目で見ているありすの視線に、なんだか僕が悪いことをしているような気分になってしまう。

 

 

「じゃあこれでどーだ」

 

 

 突然ささささんが後ろから僕の頭に手を回してきた。何やら柔らかく温かいものがかすかに後頭部に触れる。えっ、何してるのこの子。

 

 

「あーーーーー!!」

 

 

 ありすは声を上げると、すごい勢いで走り寄ってきて、ひったくるようにして僕を抱き寄せた。

 先ほどよりももっとボリュームがあって柔らかい感触に顔を包まれる。

 

 

「アンタ何してんのよ! ハカセもデレデレして! もう! もう!」

 

「デレデレなんてしてない……」

 

「じゃあ抵抗しなさいよ!」

 

 

 ありすはぎゅーっとすごい力で抱きしめながら、理不尽なことを言った。

 むしろ痛くて仕方ないのでお前に抵抗したい。

 

 

「ありすちゃんは変わんないなー。相変わらずキラキラしてるよね」

 

「アンタ誰よ! 見たことないわね……転校生?」

 

「佐々木だよぉ。去年同じクラスだったじゃん」

 

「……沙希? うそ、なんかえらくイメチェンしたわね……」

 

 

 ありすは僕の頭を抱きしめながら、訝し気な声をあげた。

 ささささんはふふっと小さく笑っている。

 

 

「そこのハカセ君がオシャレした方がいいよって言ってくれたからね」

 

「……何よハカセ、私にはそんなこと言ったことないくせに」

 

「僕が何か言わなくてもありすは十分オシャレじゃないか」

 

 

 ありすの抱擁から何とか抜け出し、息ができるようになったのでそんな文句を言う。すごくいい匂いがした。

 にゃる君が「わかってねえなあ」と呟き、肩をすくめる。何をだよ。

 

 

「まあそんなに警戒しなくても、無理やり奪うつもりはないから安心してよ。私もありすちゃんに恨まれたくないもんね」

 

「……本当ね? 裏切ったらタダじゃすまないわよ」

 

「本当だって。アタシにとって、ありすちゃんはお陽さまだもん」

 

 

 そう言いながら、ささささんは僕にウインクした。

 

 

「もっとも、私もハカセくんのおかげでお星さまくらいには自分を好きになれたかなって思うけどね?」

 

「……むーーーー!」

 

 

 ありすがまた僕を強く抱きしめてきた。

 うう、暖かくて柔らかいものの海で溺れそうだ……。あと後頭部がギシギシ言ってるのですぐにやめてもらっていいですか。

 

 

「なんだろう、なんか羨むべき状況なのに微妙に羨ましくないな……」

 

 

 にゃる君も頭蓋骨が(きし)むくらい抱きしめられたら僕の気持ちがわかるよ。

 これ完全にお気に入りのテディベアを取られまいとする幼児みたいな遠慮のなさだもん。あっ、そろそろ酸素キツイ。肺の中の空気が全部ありす由来に置換されそう。

 

 助けてと必死にハンドサインを送ると、にゃる君はため息をついて言った。

 

 

「……とりあえず週末この4人で遊びに行くか!」

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