催眠アプリで純愛して何が悪い!   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第30話「くらげちゃんリバース」

「お兄ちゃん、遊ぼーーー!」

 

 

 夕ご飯を食べ終わるなり、ゲームのパッケージを山ほど抱えたくらげちゃんが相手をねだってきた。

 いっぱいゲームを持ってきてるけど、実際に遊べるのは1本だけなんだから厳選すればいいのに。……とは思うのだが、くらげちゃんにとっては僕と何で遊びたいのかを相談すること自体が楽しいのかもしれない。

 

 

「いいよ、何で遊びたい?」

 

「えっとね……うーん、アクションがいいかなぁ。パズルもいいなぁ。あ、でもシューティングで協力プレイも捨てがたいなあ……悩んじゃうねぇ」

 

 

 くらげちゃんはギャル風コーデの跡形もなくなった、すっぴんの顔と可愛い部屋着でうーんと頭を悩ませている。

 

 催眠から目覚めるなりくらげちゃんは即座に化粧を落として、新しい服を買いに行ったようだ。

 今は中3という年齢相応の、背伸びしない格好になっていた。髪は大きな黄色のリボンでポニーテールにしていて、コロコロと屈託なく笑うたびにリボンがぴょこんと揺れるのがなんとも可愛らしい。

 

 

「じゃあ協力アクションにするか。他のゲームはまた別の日にできるよ」

 

「うん! よーし、やるぞぉー!」

 

 

 くらげちゃんはぽふんとソファに飛び乗るように座り、僕にぴたっとくっついてコントローラーを握った。ちろりと唇を舐め、鼻歌を歌いながら次々と敵を倒していく。

 

 

「お兄ちゃん遅いよぉ、早く踏み台になって!」

 

「はいはい。でもそこにいると、敵が湧いて来るぞ」

 

「あー! 早く言ってよそういうことー! きゃー死ぬ死ぬー!」

 

「アシストするから、1匹ずつ倒していけ」

 

 

 並んでゲームに興じる僕たちを、お母さんとお父さんがニコニコしながら見ている。帰宅するとくらげちゃんが突然ギャルと反抗期を卒業して昔の彼女に戻っていたことに驚いていたが、ひとまずゆっくり経過を見守っていくことにしたようだ。さすが僕が尊敬する両親だ、器が大きい。

 

 

「あらー。お兄ちゃんと仲直りできたのね。よかったわねぇ」

 

「うんっ!」

 

 

 振り向いたくらげちゃんが、お母さんににっこりと笑い返した。

 よそ見したときに被弾しかけていたので、ささっとフォローしておく。

 

 

「でもお風呂沸いたわよー。冷める前に入っちゃって。みづきちゃん、ヒロくんやお父さんの後は嫌なんでしょ?」

 

「んー……今いいところなのにぃ。あ、そうだ」

 

 

 くらげちゃんは僕の腕にしがみついて、無邪気に笑いながら提案した。

 

 

「お兄ちゃん、お風呂一緒に入ろ! 久しぶりに洗いっこしようよ!」

 

「んん!?」

 

 

 ビールを飲んでいたお父さんが、ブフッと音を立ててテーブルを泡塗れにした。

 僕はびっくりしてくらげちゃんを見返すが、本人は何がおかしいのかわからないといった感じで小首を傾げている。

 うーむ、僕に異性として興味を抱かないという暗示が変な風に効いているのだろうか?

 

 

「ねー、いいでしょー? そしたら一度にお風呂入って時間短縮できるじゃん」

 

 

 くらげちゃんは小学生の頃のように無邪気に僕に甘えてくるようになった。確かに元通りになったのだが、なんか距離感がとんでもなく近くなった気がする。いつも僕にひっついていたがるし、やたらとスキンシップを図ってくるのだ。最初は幼児退行したのかとひやりとしたが、とにかく甘えん坊になっただけらしい。

 

 また仲良くなれたのはいいのだが、年頃の女子としての恥じらいは持ってほしいものだ。兄として妹の将来を心配してしまう。

 

 

「入らないよ。もう中学生でしょ、ひとりで入ろうね。2人で入ったらお風呂のお湯溢れちゃうよ」

 

「ちぇー、けちー。お風呂すぐ上がるから、ポーズ解除しないでね!」

 

「はいはい」

 

 

 くらげちゃんがお風呂に走っていくのを見送ってから視線を戻すと、お父さんが真剣な顔で僕の前に立っていた。怪訝(けげん)に思っていると、隣に腰を下ろしてがしっと僕の肩をつかんでくる。

 

 

「なあ、博士(ひろし)。お前もしやとは思うが、海月(みづき)に妙なことしてないよな?」

 

「してないよ」

 

 

 催眠はかけましたが。

 

 というか妙なことになるのを防いだのだから、褒めてほしいくらいだ。

 もちろんこんなこと言えないが。

 

 

「そうか……そうだよな。俺はお前たちを信じてるぞ」

 

 

 何やら神妙な顔になるお父さんに、お母さんがため息を吐いた。

 

 

「お父さんたら。ヒロくんがそんなことするわけないでしょ、まったくもう」

 

「ははは、そうだな。何しろ博士だものな。わはははは」

 

 

 どういう意味だろう。

 今日もみんなが考えてることは、僕には意味不明であった。

 

 

 

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========

====

 

 

 

「なんでひとりでそんな危ないことしたんだよ! 俺を呼べって言っただろ!」

 

 

 翌日の放課後、空き教室にて。

 僕が昨日取った行動を伝えると、にゃる君は僕の肩を掴んで激しく揺さぶってきた。なんか最近肩を掴むのがブームなのかな。

 

 

「俺を信用してくれてないのか!? もしものことがあったらどうするんだよ!」

 

「信用してるよ。あいつらのひとりやふたり、簡単に倒してくれると思ってた。だから連れてかなかったんだよ」

 

「どういうことだよ!?」

 

「あいつらにケガさせたら、にゃる君が警察官になれなくなるだろ。僕はにゃる君に夢を叶えてほしいんだ。……それに、僕だけの方が成功率が高かったからね」

 

 

 僕がそう言うと、にゃる君ははぁーとため息を吐いた。

 

 

 昨日くらげちゃんに催眠をかけた後で、僕は彼らとの会見場所に向かった。持って行ったのは家にあったアタッシェケースとタブレットだけ。

 あらかじめ金の話を匂わせてあったので、彼らはくらげちゃんから手を引く代わりに金をくれると思ったはずだ。アタッシェケースの中には札束が詰まっているとでも考えたに違いない。

 

 早くそれを寄越せと叫ぶ男たちを(なだ)めて、蓋を開けたら早い者勝ちだよと伝えてやった。すると案の定奥の方に隠れていた男たちも出てきて、互いに押すな割り込むなと罵りあいながら、ギラギラとした視線でアタッシェケースを見つめてきたのだ。

 

 あとは時間を見計らって蓋を開け、タブレットの催眠アプリを起動するだけ。タイマーで起動するようにアプリを改造しておいたので、彼らは一網打尽で催眠にかかった。

 もしにゃる君を連れてきていたら、彼らはにゃる君を警戒してアタッシェケースに注目しない可能性があった。僕だけだったからこそ油断を見せたのだ。

 

 

 さて、彼らに対する対処だが、かけた暗示は3つだけだ。

 

 ひとつ目は『これまで女性を食い物にしてきたんだから、お返しとしてその分だけ女性に奉仕しなくてはならない』という強迫観念を植え付けた。

 

 彼らは彼らなりに考えた方法で女性に奉仕するだろう。僕は彼らの犯した罪を知らない。だから、罪を把握している彼ら本人が自分を裁けばいい。

 もしかしたら財布が空っぽになったり、罪の意識にさいなまれたりするかもしれないが、それは僕の知ったことではない。

 

 ふたつ目は『これまで洗脳した女性たちをここに連れてきて解放しろ』という命令。これは女性に奉仕するという最初の暗示があったので、速やかに連れてきてくれた。到着するなり彼女たちには催眠をかけ、待機状態にした。

 

 3つ目は『僕とくらげちゃんのことについて、催眠をかけられたこと自体を含めてすべてを忘れる』という暗示。

 

 少し話しただけで、僕はこいつらにうんざりしていた。他人の顔と名前を覚えるのが苦手な僕だが、覚えたくないと思ったのはこいつらが初めてだ。

 それに催眠アプリのことは絶対にヤクザや犯罪者に知られてはならないとミスターMも言っていた。なので、催眠アプリで記憶消去ができるかの検証も含めて、彼らの記憶は完全に消去しておいた。

 僕の監視を外れることで師匠から叱られるかもしれないが、記憶を取り戻して僕を襲ってきたら実験は失敗、襲ってこなければ成功ということでいいだろう。

 

 最後に、連れてこられた女性たちに『彼らが施した洗脳から解放される』暗示と、『洗脳されていた間の記憶を消去する』暗示をかけた。

 

 彼女たちが告発すれば彼らの罪は明るみになるだろうが、きっとマスコミから面白半分に根掘り葉掘りと屈辱の記憶を掘り返されたり、PTSDで苦しんだりするのだろう。それならその記憶はいっそない方がいい。どうせ彼女たちを不幸にした連中は、自分の手で裁かれるのだ。

 ……どうも彼女たちにくらげちゃんが辿るかもしれなかった未来を見てしまい、柄にもないことをしてしまった気もするが。

 

 

「……という感じで説得したよ」

 

「なるほどな。それでよかったと思うぜ、俺は」

 

 

 にゃる君は腕を組むとしみじみと頷いた。

 

 

「どう考えても奴らは半グレかヤクザとつながってた。突然心変わりしてもう女性を食い物にしません、なんて言い出しても通じるわけがねえ。恐らく上から制裁されるだろうし、生き延びたとしても待ってるのは女に貢ぐ人生だ。やってきたことを考えれば因果応報だろ」

 

「まあどんな末路だろうと興味なんて一切ないけどね」

 

「そうだな。忘れちまおうぜ」

 

 

 それきりにゃる君は黙ってしまう。

 どうしたのかな。

 

 僕が反応を待っていると、にゃる君はおずおずと口を開いた。

 

 

「なあ、お前が持ってる『説得』する力……」

 

「……うん」

 

「あんま乱用するなよ。いくら正しいことのためでも」

 

「しないよ」

 

 

 僕はぼさぼさ髪の上からこりこりと頭を掻いた。

 

 

「にゃる君は僕が正義の味方に見える?」

 

「……見えねえ」

 

「だろう? 僕は他人に興味がないんだ。だから、正義の味方なんて面倒なことはしないよ」

 

「なるほど。なら、悪の秘密結社みたいなさらに面倒なこともしねえよな」

 

「したくないなあ。他人をまとめて管理するなんて、考えただけでぞっとする」

 

 

 そう軽口を叩いて、僕たちは笑い合った。

 

 

「今回はありがとう、にゃる君。おかげですごく助けられた。キミがいなければどうにもならない局面が2回はあった」

 

「何言ってんだ。俺なんて大したことはできてないだろ」

 

「本当なんだけどなぁ」

 

 

 ……あ、そういえばこれを聞いておかないと。

 

 

「ところでにゃる君、折り入って相談があるんだけど」

 

「おう、なんだ兄弟?」

 

「……僕の妹と付き合う気ない?」

 

 

 そう提案すると、にゃる君は目を白黒させて狼狽した。

 

 

「な……!? 何言ってんだお前!?」

 

「くらげちゃんに、きっと僕よりいい男が現れるって言っちゃったんだよ。僕が知る限り、僕よりもいい男ってにゃる君しかいないんだ。くらげちゃんを幸せにしてくれない?」

 

「い……いや、それは! 違う、嫌だってわけじゃないんだ! 確かに可愛いよ、うん。だけどちょっと……俺にも事情があって……!!」

 

 

 なんかすごく慌ててるな。

 そこまで変なこと言っただろうか。すごくいい話だと思うんだけどな。

 僕としてもにゃる君なら妹を任せるにたる男だと思うし、にゃる君と家族になるというのはいいことだと思う。でもここまで拒否するのは……。

 

 そこで僕はピンッときた。

 僕だってたまには人間の機微(きび)ってやつが読めることがあるのだ。

 

 

「あ、もしかしてもう好きな人がいるとか?」

 

「! そ、そう! そうなんだよ! すまん!!」

 

「そうなんだ。それって誰?」

 

「…………!!」

 

「くらげちゃんよりもいい子ってあんまいないと思うんだけどな。教えてよ」

 

「い……言えねえ……! それだけは……それだけは勘弁してくれぇ!!」

 

 

 にゃる君は真っ青になって頭を抱えている。

 一体どんな相手を好きになったんだろう?

 

 僕には恋愛がよくわからない。いつかにゃる君に教えて欲しいものだ。

 

 

「あ、こんなところにいた!」

 

「もー探したじゃん! 早く行こー!」

 

 

 ガラッと空き教室の扉を開けて、ありすとささささんが入ってくる。

 あれ、探したって何の話だっけ?

 

 

「何か用事あった?」

 

「にゃるのお祝い会! 昨日の放課後にやろうって言ってたのに、ハカセくんひとりで早退しちゃったじゃん!」

 

「あー……そういえばそうだった」

 

 

 先日柔道部の予選選抜を勝ち抜いたにゃる君が、夏の大会に出ることが正式に決まったのだ。そのお祝いをやろうと言っていたのに、慌ただしくて忘れていた。

 

 

「ごめんねにゃる君。さて、じゃあどこ行きたい? にゃる君の好きなところでいいよ」

 

「んー……じゃあヨクドに……」

 

「食ぅもん屋! お好み焼き食べたい!!」

 

 

 答えかけたにゃる君を遮って、ささささんが割り込んでくる。

 食ぅもん屋は関西出身の店主がいろんな料理を出してくれるお店だ。B級グルメから高級料理のアレンジまで品ぞろえが多く、コスパも安いので学生にも愛されている。

 

 

「って沙希(さき)! 何でお前が答えんだよ、俺の祝勝会だろ!?」

 

「ボクが応援したから勝てたんじゃん! つまりこれってボクの手柄でしょ!」

 

「はぁ!? 逆に足引っ張ってたんだが!?」

 

「JKの生足ミニスカだぞ! 頑張らなかったら嘘だろ!」

 

「うるせーちんちくりん!! あれで興奮できたらロリコンだ!」

 

「まだ伸びますー! 成長期ですー!!」

 

「もう伸びねえだろ! 牛乳たらふく飲んでケツしか膨らまなかっただろうが!! せめて胸くらいは膨らめ!!」

 

「はー!? デリカシーゼロなんですけどー!?」

 

 

 ささささんは身長が145センチで止まってしまった。去年は牛乳を飲んでいろいろ育とうとしていたのだが、お尻のサイズしか育たずに悲しみを背負った。胸のサイズは依然としてAのままである。

 

 そうしてにゃる君とささささんはギャーギャーと激しく言い争いを始めた。

 ありすはそんな2人を、楽しそうに眺めている。

 

 

「ふふっ。なんか、中学1年のときの私たちみたいね」

 

「こんなんだっけかなあ……?」

 

 

 そう言いながら、僕は中学時代よりも確かに大人びたありすに、少しドキッとしていた。

 

 

「私もお好み焼きがいいなー」

 

「あ、じゃあ食ぅもん屋にしましょう! そうしましょう!」

 

「は? なんでありすちゃんが言ったら素直についてくわけ? にゃるには自分の意思というものはないのかね!」

 

「うるせえ! ありすサンを尊重することが俺の意思だ!」

 

「ぶーぶー!」

 

 

 楽しそうに言い争うにゃる君とささささんを見て、僕はまたまたピンときた。

 そっと近づいて、耳元に囁く。

 

 

「にゃる君が好きなのって、ささささんだろ?」

 

「……ンンンッ!?」

 

「あれ? 違うの? 一番親しいからそうなのかなって。じゃあ誰なんだろ」

 

「あー、いや……ううううう……」

 

 

 にゃる君はまたしても頭を抱えてうなり声を上げ始めた。

 眼球が激しく振動して、何やらささささんとありすを行ったり来たりしている。

 

 さらに、それを耳ざとく聞いていたささささんとありすも話に入ってきた。

 

 

「えー? そうなのー? ボクなんだー。困っちゃうなー全然タイプじゃないしー」

 

「へえー、沙希が好きなんだ。うん、お似合いだと思うわよ!」

 

「ほ……本当に勘弁してくれええぇ!!」

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