催眠アプリで純愛して何が悪い!   作:風見ひなた(TS団大首領)

41 / 85
第39話「夏祭りWデート」

「どう、この浴衣?」

 

 

 ありすは浴衣の袖をちょんとつまんでその場でくるりと回ってみせた。

 

 今日はありす、にゃる君、ささささんと一緒に夏祭りに行く約束をしている。

 ささささんと連れ立って待ち合わせ場所にやってきたありすは、2人で浴衣姿を披露してきたのである。

 

 薄紅色に朝顔の模様があしらわれた浴衣にピンクの帯をあしらい、まとめた赤毛の髪に白い髪留めを添えていた。

 いつもよりありすの清楚感が引き立っていて、思わず見とれてしまう。

 

 

「ほら、感想を求められてっぞ? 早く言ってあげろよ」

 

 

 にゃる君がにやにやしながら、(ひじ)で僕の脇腹を軽く突っついてくる。

 くっ……。素直にすごく可愛いというのはなんだか悔しい……。

 

 

「……うん、悪くないんじゃない? 髪の色と髪留めのコントラストがいいと思うよ、うん」

 

 

 僕はちょっと視線を逸らして、そんな強がりとも負け惜しみともつかない謎のコメントを口にした。

 にゃる君とささささんが、はぁーとため息を吐く。

 

 

「もうちょっと素直になれよなー、めっちゃめちゃ似合ってるだろ」

 

「そーだよ、ハカセくんに見てほしくて、ありすちゃん頑張って選んだんだよー?」

 

「そ、そんなことないけどっ!?」

 

 

 ささささんに背後から撃たれて、ありすがあわわっと慌てる。はあ、可愛い。

 それにしても……。

 

 僕は改めて、まじまじとありすの浴衣姿を眺める。

 

 

「写真撮っていい?」

 

「い、いいけどっ」

 

 

 パシャっとこの夏で一番可愛いありすをスマホで撮影して、コレクションフォルダに入れた。

 ……そういえば、中1のときはありすが浴衣姿の写真を送って来たんだったな。あのときはありすは取り巻きたちと夏祭りに行って、僕はリアルのありすの浴衣姿は見られなかったんだ。

 

 あれから3年の月日が流れた。

 今日、僕はありすと一緒に夏祭りに来て、生の浴衣姿を見ている。

 

 

「くっ……!」

 

 

 僕は思わず目頭を押さえた。

 

 

「ど、どうしたのハカセくん?」

 

「ハカセ……お前、泣いてるのか……?」

 

「いや、いいんだ。気にしないでくれ。とりあえず2人にはありがとう。本当にありがとう……」

 

「お、おう」

 

 

 つい感極まって、涙腺が緩んでしまった。

 にゃる君とささささんが一緒に夏祭りに行こうと企画を立ててくれなかったら、今年も僕はありすの生の浴衣姿を見られなかったかもしれない。2人には本当に感謝しかない。

 

 

「というか! 一方的に私を撮ってないで、私にもアンタの浴衣を撮らせなさいよね!」

 

 

 ありすは何やらうずうずしたように僕にスマホを向けていた。

 折角だからみんなで浴衣を着ようということで、僕もにゃる君と一緒に浴衣を新調したのだ。

 しかしありすとささささんが浴衣なのは華があるからいいとして、男の浴衣姿なんか撮って何が嬉しいのだろうか。

 

 

「え、まあ別にいいけど……?」

 

 

 僕がそう言うが早いか、ありすとささささんは猛烈なスピードでパシャパシャとシャッターを切り始めた。

 

 

「はぁー、身長高い男の人が浴衣着るとホント絵になるよねぇ~♪」

 

「そう! そうなのよ! ハカセって細いから立ち姿がいい感じになるのよね~。あっ、こら! 猫背にならない! 凛とした感じで立ちなさい!」

 

「今度はちょっと着崩した感じのもほしいなー! ねえねえ、懐に腕入れてみてくれてもいい?」

 

「うーん、これもいい! でもやっぱりハカセはきっちりした感じが似合うわね。今度は襟元締めて! 帯に手をかけて、ちょっと斜め上方向を遠い目で見つめる感じにしてみて! あーいい! これ好き♥!!」

 

 

 女子2人がキャイキャイと盛り上がりながら、しきりにポーズの指定をしてくる。僕は言われたとおりのポーズを取りながら、謎の写真撮影に目を回していた。

 なんだこの状況……。

 

 僕が写真を撮られていると、横からにゃる君が入ってきて、袖をまくりながらフンッとマッスルポーズをとった。

 

 

「おーい、ハカセだけじゃなくてここにもいい浴衣の被写体がいますよ? 見て見てこの上腕二頭筋! セクシーだろぉ?」

 

 

 にゃる君は今日もいい筋肉をしているなあ。

 夏合宿で鍛え抜かれたという体はまさに絶好調。大胆に広げた胸元から覗く、逞しい胸板は頼もしさを絵に描いたようだ。

 運動は大嫌いな僕だが、男としてはやっぱり少し憧れを抱いてしまうな。

 

 ささささんはそんなにゃる君にちらりと視線を向けると、ヘッと鼻で笑った。

 

 

「はぁー? 暑苦しくてキモいんですけど。がっつり割れた胸板とか見苦しいからあんまり見せつけないでよね。胸元閉めろ胸元!」

 

「ああン!? この肉体美がわからねえのかおめぇはよぉ!!」

 

「全然わかりませーん。ねえ、ありすちゃん?」

 

 

 ささささんに振られたありすに、にゃる君がすがるような視線を向ける。

 ありすはあはは……と控えめに笑い、小声で呟いた。

 

 

「ごめんね、筋肉つきすぎてる人ってちょっと怖いかも……」

 

「ぐああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 ショックを受けたにゃる君は、膝から崩れ落ちてしまった。可哀想に……。

 僕はしょんぼりするその背中をぽんぽんと叩いて慰めた。

 

 

「にゃる君、僕はカッコいいと思うよ。元気を出して」

 

「ううっ、ハカセぇ! 俺をわかってくれるのはお前だけだぁ!!」

 

 

 そう言いながら立ち上がったにゃる君は、ヨヨヨと僕と抱擁を交わした。

 にゃる君とこういう茶番をするようになって、もう随分になるなあ。

 

 そんな感慨にふけっていると、にゃる君がふと僕から体を離した。眉毛を上げて、不思議そうにぽんぽんと僕の胸板や肩、腰を叩いている。

 

 

「……ハカセ、お前ちょっと体格よくなったか? 筋肉付いてるよな」

 

「あ、うん。最近筋トレ始めたから」

 

「だよな! うん、がっしりしてるわ。夏休み前とは全然違う」

 

 

 さすが柔道部というべきか。にゃる君には簡単にトレーニングを見抜かれてしまった。

 うーん、本当は夏休み明けにたくましくなったところを見せてありすを驚かせるつもりだったのになあ。ここでネタバレされてしまうとは……。

 ささささんはへえーと目を丸くしている。

 

 

「そうなんだ、意外! ハカセくんは運動大嫌いだと思ってたけど。でも確かになぁー。うん、お腹もシュッとしてるし、姿勢もよくなったよね! 浴衣の立ち姿がサマになってるのってそれでかー、なるほどなー!」

 

 

 ありすは……? ちらっと眼を向けると、何やらニコニコと微笑んでいる。

 あれ、おかしいな。事前に僕が鍛えてるの知ってた?

 勉強会でうちにはよく来るけど、運動を始めたと言ったことはないはず……。

 

 

「うん、いいな! 俺はすごくいいことだと思うぜ! 運動の習慣はつけとくべきだ。……で、沙希ぃ! ハカセが体鍛えたのは褒めるくせに、何で俺の筋肉は褒めねえんだお前!」

 

「加減しろバカ! 女の子はモリモリのマッチョよりもスリムで程よく筋肉がついてる方が好きなの!」

 

「それはお前個人の感想だろうが!?」

 

「はぁー!? キミにボク以外の女からの感想とか必要あるわけ!? ……あ」

 

 

 ささささんは何やら手で口元を隠し、そっぽを向いた。

 

 ???

 なんかにゃる君は居心地悪そうに、視線を外している。なんだろう。妙に顔が赤い気もする。

 ありすはなんかニヤニヤしているし、何が起こったんだろうか。

 

 

「新谷君、そういえば沙希の浴衣の感想をまだ言ってなかったよね?」

 

「ぐっ……」

 

 

 ささささんの浴衣は、ブルーの地に白いネズミがあしらわれた意匠だ。浴衣の色に合わせた巾着袋をちょこんと提げていて、小柄な体格と合わせるとまだ中学生のようにも思える。これはこれで、ありすとは別ベクトルで可愛らしいな。

 

 

「ああ……まあ、いいんじゃないか。小さくてよく似合ってる」

 

「あー? 小さいってなんだよデカブツ筋肉! 可愛いって言え!!」

 

「いてっ! てめえ、すねを蹴るんじゃねえ!」

 

 

 足にキックするささささんの頭を押さえて引き離し、にゃる君が怒鳴る。

 すると止められたささささんは、ネズミが素早く走るようにチョロチョロとにゃる君の後ろ側に回って、膝の後ろをげしげしと蹴り始めた。

 

 

「こんにゃろ、待てちんちくりん!」

 

「やだよっ! ほーらこっちこっち♪」

 

 

 2人はくるくると追いかけっこを始めてしまった。

 うーん、まだ集合したばかりなのに体力を使って大丈夫なのかなあ。

 夏祭りの会場に着く前にバテないだろうか。

 

 ふと気づくと、ありすが僕の隣にそっと立っていた。

 

 いつもそうだなと思う。

 僕が何か楽しいものを夢中で見て時間を忘れていると、ありすは静かに僕の隣にいて、同じものをじっと眺めているのだ。

 

 

「今年は賑やかね」

 

「そうだな。約束が叶ってよかった」

 

 

 去年の夏は、受験勉強に集中しようということで夏祭りに行かなかったのだ。

 その代わりに高校に4人揃って合格したら、みんなで行こうと約束していた。

 

 

「『よかった』かあ。ハカセは変わったわね」

 

「そうかなあ」

 

「そうよ。自分でわからない?」

 

「…………」

 

 

 僕は人間の機微に疎い。他人が何を考えているのかわからない。

 そして自分という人間のこともまた、ときどきわからなくなってしまう。

 でも。

 

 

「ありすがそう言うのなら、きっとそうなんだろうな」

 

 

 霧に包まれた僕の世界の中で、ありすはただひとつの道しるべだ。

 ありすのことなら、僕は他の人間よりも理解できると思う。

 

 

「それに、ありすも変わったよ? 何だか他人を見るときの目に、余裕が出てきた気がする。小学校のときよりも、中学校のときよりも、今はずっと楽しそうだ」

 

「そうかしら?」

 

 

 ありすは口元に手を当て、はしゃいでいるにゃる君とささささんを見つめた。

 そして、くすっと口元を破顔(はがん)させる。

 

 

「そうね。ハカセがそう言うのだから、そうなんでしょ。私たち、いい友達ができたわね」

 

「うん。そうだ」

 

 

 追いかけっこに飽きた2人が、肩で軽く息をしながらこちらに手を振った。

 

 

「おーい、ハカセ! ありすサン! そろそろ行こうぜ、花火上がっちまうよ!」

 

「にゃる、花火まで全然時間あるよ。でも私もお腹空いちゃったし、早くいこー!」

 

 

 僕とありすは視線を交わし、微笑み合った。

 

 

「うん、今行くよ!」




本編に関係ない豆知識

ささささんはネズミが好き。
ネズミグッズを集めていて、ハムスターとハツカネズミを飼っています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。