催眠アプリで純愛して何が悪い!   作:風見ひなた(TS団大首領)

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本日ゲリラ2話投稿! 1話目です。
にゃる君&ささささんの外伝となります。

このお話は昨日間違って今日の分を投稿してしまった補填として急遽書きました。


外伝「電球ソーダは夏の味」

「にゃるー! もう、あいつまたふらふらして!」

 

 

 人ごみを割って歩いていく流を追いながら、沙希(さき)は肩を怒らせた。

 身長150センチにも満たない小柄な沙希にとっては、人ごみをくぐり抜けることなんて造作もない。人よりもすばしっこく脚も早いのも相まって、すいすいと人ごみを縫い、流に小走りで近付いていく。

 

 

「おい、にゃる! にゃるってば! 止まれよ、どこ行くのさー!」

 

 

 人ごみの中で呼びかけるが、流が振り返る様子はない。

 その自分勝手さに、沙希はぷんすかと腹を立てた。

 

 流が興味を抱いたものに吸い寄せられていくのは今に始まったことではない。

 そもそも好奇心が強く、いろんなものに興味を抱く性格なのだ。

 マンガやゲームといった沙希自身も好きなものから、筋トレにスポーツ鑑賞、山登りに流行曲、最近ではバイクや車の雑誌も買い始めた。だから話題が異様に豊富で学年の誰とでも話が合わせられるが、別にそれは人付き合いのためにやってるわけでもないらしい。本当にそれぞれに興味があるようだ。

 

 そして強い興味を抱いたら、そのまま吸い寄せられるようにふらふらと見に行ってしまうのである。たとえ沙希とふたりっきりで歩いてるときであっても。

 

 

(本ッ当に腹立たしいよね、あの幼児ッ!)

 

 

 ボクと一緒にいるのに置いていくのってなんなのさ。

 お前がいない間にタチの悪いナンパ男に声でもかけられたらどうするわけ? 無駄に暑苦しい筋肉してるんだし、ナンパ避けとしては過剰なくらい威圧感あるんだからちゃんと役割くらい果たせよな。

 それともボクなんかより、新しいゲームやバイクの展示みたいなモノの方がお前にとって価値があるってわけ? 当然ボクの方が魅力あるだろ! なあ!

 

 流がふらふらとどっか行ってしまうとき、沙希はいつも内心でぐるぐるとそんな怒りに満ちた言葉を渦巻かせながらその後を追っているのだった。

 

 「お前は幼児か! ボクをおいてどっか行くなよな!」と何度叱っても、流はへらへらと笑って一向に改善する様子を見せない。

 それどころか自分が見つけたモノのどこがすごいのかキラキラとした目で説明を始めて、その素晴らしさを沙希と分かち合おうとしてくる。その無邪気な様子を見ていると、なんだか自分だけ怒ってるのがバカらしくなって、沙希はいつもなんだかんだで許してしまうのだった。

 

 しかし今日という日は事情が違う。何せ夏祭りで、博士(ひろし)やありすが一緒なのだ。いつものようにふたりっきりでいるときみたいに自分勝手な行動をされては、あの2人に迷惑がかかってしまう。

 ボクとだけ一緒ならいいけどさ……と内心で呟く沙希は、果たしてその言葉の意味がわかっているのかいないのか。

 

 

「おい、にゃる! やっと捕まえたぞ!」

 

 

 ようやく流のところに追いついた沙希は、ふらふらと歩く彼の浴衣の袖に飛びついてぐいーっと思いっきり引っ張った。

 

 

「おっ、やっと来たか」

 

 

 肩で息をしている沙希に振り返った流は、のんびりとそんなことを言って笑いかけた。

 

 

「電球ソーダ、お前も飲む?」

 

「…………」

 

 

 沙希は眉をひそめて、流の顔をまじまじと見上げる。

 そしてややあって、顎に手を当てて呟いた。

 

 

「お前、もしかしてわざとはぐれたの?」

 

「まあな。あ、それください」

 

 

 流は軽く頷きながら、屋台のお兄さんから電球ソーダを受け取る。

 電球型の容器に入ったトロピカルブルーの液体がゆらりと揺れ、屋台のオレンジ色の照明の色と混じって鮮やかな緑色に光った。

 

 これはおいしそうだぞ。

 そう思いながらストローからソーダを吸い上げ、流はちょっと残念そうに眉を下げる。

 いや、ただの色が付いたソーダだな。それほどおいしいもんじゃなかったか。

 

 甘いものはそれほど好みじゃない流は、電球ソーダを一口で持て余した。

 

 

「いや、何やってんの?」

 

「何ってお前」

 

 

 電球ソーダをちゃぷちゃぷ揺らしながら、流は沙希の問いに答える。

 

 

「せっかくの夏祭りなんだ、2人きりの時間を作ってやりたいじゃねえか」

 

「あ……そういう?」

 

 

 んむ、と流は頷く。

 

「そりゃ俺とお前で夏祭り行こうって誘ったけどな。俺たちが企画してやらなきゃあいつら互いに誘うこともできない奥手だからよ。でもいざ連れ出せた以上は、俺たちはむしろお邪魔虫になるだろ? だから俺たちはいったん退散して、2人っきりでイチャイチャしてもらおうってわけよ」

 

「……そういうことならボクにも先に言えよ。また自分勝手にふらふらしてって腹立てたじゃん。それにボクだけじゃなくて2人もついてきたらどうするつもりだったのさ」

 

「お前なら2人は待たせて自分だけで追いかけてくるかなって思ってな。ハカセは人混みが嫌いだし、ありすサンは痴漢に絡まれるかもしれない、それなら身軽な自分だけで追いかけようって思うはずだって踏んだ」

 

 

 さすが沙希は思い通りに動いてくれたな、と流はカラカラと笑う。

 そんな流を見て、沙希はため息を吐いた。

 

 

「もう! 自分勝手!」

 

「すまんすまん」

 

 

 そう言いながら、流はふてくされた幼児を宥めるような手つきで沙希の頭を撫でようとする。

 沙希はその手をパンッと払いのけ、じろりと流を見上げた。

 

 

「だから! 女の子の頭を気安く撫でるなって言ってるだろ! セットするの大変なんだぞ! それにちびっこいと言われてるようで腹立つし!」

 

「ちびっこいのは事実だろ?」

 

「うるせーデカブツ筋肉!」

 

 

 イーーッと顔をしかめてみせるいつものやりとりをしてから、沙希はふうっと息を吐いた。

 

 なんだよ。また子供みたいにふらふら勝手なことしてるのかと思ったら、結構考えてんじゃん。

 ……というか、いつもそうだよね。

 なんか三枚目の便利屋みたいな感じでおどけながらみんなの輪に入っていくけど、みんなのことちゃんと見て気遣いしてるし。

 

 

「……にゃるはさ」

 

「ん?」

 

 

 沙希は少し顔を俯かせながら口を開いた。

 

 

「にゃるは疲れたりしないの? そうやって自分をピエロみたいな感じにして、みんなに気を遣って。それって結構しんどくない?」

 

「いいや。ちっとも」

 

 

 にゃるはそう言って、カラッとした口調で笑った。

 ポリポリと頬を掻きながら、言葉を探す。

 

 

「えーとな。中学のときはそりゃ多少はしんどいこともあった。俺、一時期グレてたしな。ガタイもいいし、怯えた目で見てくる奴もいたんだよ。だから俺は怖くないよー、安全だぜーって態度で示すためにあえておどけたりしてたけど……。なんかいつの間にか慣れちまった。今はこれが自然なんだ」

 

「じゃあ今は辛くないの? みんなの面倒見るの、疲れないの?」

 

「そうだなあ……」

 

 

 そう言って、流は電球ソーダをもう一口飲んだ。

 

 

「うん、辛くない。むしろ嬉しいんだ」

 

「嬉しい?」

 

「おうよ。一時期グレてた俺みたいな奴でも、みんなが楽しく毎日を過ごせるように陰に日向に力添えできてる。……たとえば、奥手なダチが彼女と素敵な夏祭りを過ごせるように誘ってみる、とかな? そういうことが自然とできるようになった俺って、なんかいいよなって。世のため人のために働く警察官志望として、一歩成長してるよなって実感するんだよ」

 

 

 そんなことを口にする流が、なんだか屋台の照明に照らされて輝いているように見えて、沙希は少し目を細めた。

 

 

「……眩しいな」

 

 

 小さく口の中で呟く。

 

 沙希だって女子のグループを回っては、いろんな相談ごとに乗ったり、愚痴を聴いてあげたりしている。仲違いをした女子同士を仲介して仲直りできるように取り計らってあげた回数は両手の指で数えきれない。

 自分で言うのもなんだけど、ちょっとお節介すぎるくらい親切な女の子だ。

 

 だけどそれはハカセのおかげだ。

 他人に優しい自分を好きになれるように『魔法』をかけてもらった。だから今の沙希は結構理想の自分に近付けたと思う。

 

 でも、聞く限りは流にはそういった『魔法』はかかっていない。流にかかっている『魔法』は、あくまでも警察官になるという夢を忘れないこと、ただそれだけ。だから流は自分の意思で考えて、他人の幸せを応援してあげられる人間になったということになる。

 

 ハカセの力を借りて理想の自分になりたいと頑張っている沙希の、その理想の姿に自分の力でたどり着いた。目の前にいる彼は、そういう男の子で。

 

 

「ちょっとかっこいいじゃん……にゃるのくせに」

 

 

 思わず口の中で小さく呟いた言葉に、流がニヤリと笑う。

 

 

「ふふん。どうだ、俺に惚れるなよ?」

 

「はぁ? 調子に乗んな! ばかにゃる!」

 

 

 そう言って沙希はぴょんと飛び上がり、にゃるの手から電球ソーダを奪った。

 

 

「あっ……」

 

「なんだよ。食が進んでないみたいだしいいじゃん。ボクだってノドが乾いたの!」

 

 

 そう言って、沙希は電球ソーダをちゅるちゅると啜る。

 

 

「いや……その」

 

 

 別に流はいいのだ。あんまり好きな味じゃなかったし。

 だけどそれって……その……間接キスだよな? お前そういうの気にしないの?

 そんな思いを言葉にできないまま、沙希は電球ソーダを飲み干していく。

 先ほどまで自分が咥えていたストローにためらいなく口をつける彼女の唇が、なんだかいつもより艶めかしく見えて、流はドキッとした。

 

 屋台のオレンジ色の照明に照らされた沙希が、何故だか少し幻想的な存在に見える。浴衣という見慣れない衣装のせいだろうか。

 

 

 落ち着け。落ち着くんだ、俺。

 相手は沙希だぞ? ちんちくりんでワガママな貧乳女だぞ?

 興味を持ったものをどれどれと見に行ったら、決まってなんだかぷんすかしながら追いかけてきて、何で置いていくのさとお説教してくる口うるさいケンカ友達だぞ?

 

 嘘だろ、なんでこんなのがちょっと可愛く思えてるんだ?

 

 いやいや、これは気の迷いだ。だってこんな女、全然俺のタイプじゃない。

 俺が好きなのはもっと背が高くて、胸が大きく出るとこ出てて、尻だって……。でも沙希もお尻は大きいよな……。

 

 

「うおおおおおおおおおお!?」

 

 

 流はパンパンと自分の両頬を猛烈な勢いでビンタした。

 夏の魔物が俺を(たぶら)かそうとしている!? 正気に戻れ、俺!!

 

 沙希は目を丸くして、流の突然の奇行を見上げた。

 そしてああ、と呟くと1/3ほどに減った電球ソーダを差し出す。

 

 

「全部飲まれると思ったの? それなら口で言いなよ。ほら、返すから」

 

「お、おう……!?」

 

 

 沙希から電球ソーダを受け取った流は、目を白黒させた。

 

 えっ、これ俺飲むの? さっきまで沙希が口付けてたストローに? それって間接キスじゃん……?

 でも沙希は全然気にしてないみたいだったし。ここで俺が気にしてる素振りみせたらコイツのこと意識してるみたいじゃん。

 そんなのありえねえだろ。俺はコイツのことなんてなんとも思ってねえし!

 よし! 見てろ、何事もなかったように飲んでやらぁ!

 

 流は少し目をつぶって決意を固めると、さもこんなの当たり前ですし? という顔でストローを口に含んだ。

 

 ……おかしい。さっきと同じ味のはずなのに、なんだかこう……。

 甘酸っぱい味がするような気がする。沙希の口の中の味なんだろうか。

 

 にゃるはそんな考えを頭から必死に追い払い、無心でソーダの残りを飲み干した。

 ……うん! 普通のソーダだ! 全然どってことなかった!

 

 

「どう? 間接キスの味がした?」

 

「!?」

 

 

 沙希はにひひ、と唇の端を吊り上げながらぼそっと尋ねてきた。

 こ、こいつ……! 間接キスだとわかって渡してきたのか……!?

 

 

「おやおや? にゃる君ったら純情だなー。間接キスで真っ赤になっちゃって、可愛いったら」

 

「はー!? バカ言うな、ガキと回し飲みするののどこが間接キスだよ!」

 

「間接キスは間接キスだしー? うぷぷっ、何目をつぶって精神統一みたいなことしてんの? ウケるんですけどー」

 

「し、してねえよそんなこと!?」

 

 

 そう叫び返しながら、流はバクバクと自分の心臓が激しく脈打っているのを感じた。

 えっ、何この鼓動は……不整脈……? なんでこのチビをまっすぐ見られない……? 俺の体は一体どうしてしまったんだ……!?

 

 

 ……流はわかっていない。

 彼の女性の好みは、確かに身長が高くてグラマーな外見だ。

 だがそれ以上に、強気でお節介で、でも彼にだけちょっぴり意地悪をしてくるような毒舌な女の子。そういう女の子はもっと好きなのだ。

 

 そしてこれまでの罰ゲーム合戦を通じて、沙希にしてきた様々な要求……。たとえば一人称をボクにしろとか、自分には遠慮なく毒舌でいろだとか。

 それはすべて彼にとって好みのタイプの要素なのである。

 純情な彼は、自分が無意識にそんな要求をしていたなんてまったく気付いていない。

 

 ただ降って沸いたように、今突然目の前にいるのが理想のタイプの女の子だと気付いてしまって、ひたすら混乱していた。

 

 

 沙希は狼狽(ろうばい)する流を見て、ふふんと鼻を鳴らす。

 

 なんだよ。今更ボクが魅力的な女の子って気付いたとか? 遅いんだよなーにゃるは。そういうところ子供っていうかさ。恋愛に鈍感なんだよね。

 そこへ行くと、ボクなんてにゃるのカッコ良さにはとっくの昔に気付いて……た、し……!?

 えっ、何これ……?

 

 沙希は自分の薄い胸に手を当てて、ドキドキと高鳴った心臓の音を確かめる。

 

 その頬は真っ赤に染まっていて、屋台の照明を受けた浴衣姿も相まって、いつも以上に可憐で。

 抱きしめたいほど愛らしい、夏の妖精みたいで。

 思わず見入ってしまいそうになり、流は無理やり視線を引き剥がしてそっぽを向いた。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 どちらかも何も言い出せない、不思議な沈黙。

 自分の心の整理が追い付かない。

 

 やがてその静寂を破ったのは、やはり沙希の方だった。

 

 

「こ、こうしてても仕方ないしさ! 何かで遊ぼうよ!」

 

「お、おう! そうだな! ハカセとありすサンをもうちょっと2人きりにさせてやらなきゃいけねえもんな!」

 

 

 アハハと無駄に笑いながら電球ソーダの空き瓶を屋台に返却した流の腕を、沙希がぐいーっと引っ張る。

 

 

「ほら! あっちに射的あるよ! 射的! あれで勝負だ!」

 

「いい度胸じゃねえか。俺の集中力を舐めるなよ?」

 

「ふふーん! 超集中ができるのはにゃるだけじゃないんだよなあ。エイム力ならボクの方が上だし。さーて、勝ったら何してもらおっかなー?」

 

 

 腕を引っ張る沙希の小さな手が、いつもよりも熱く感じる。

 そんな印象を振り払うように、流は鼻で笑ってやる。

 

 

「はぁ? 何勝ったつもりでいるんだっての。まあ見てろ、テキ屋のオッサン泣かせてやるからよ」

 

「その強気がどこまで続くかなー? 罰ゲーム楽しみにしとけよっ!」

 

 

 笑い返しながら、さあ罰ゲームは何にしようかなと沙希は考える。

 そうだなあ。よっぽど屈辱的なのがいいだろうなあ。

 

 ああ、そうだ。こんなのはどうだろう。

 

 

 いつもは見上げてばかりで無神経に頭を触ろうとしてくる彼の頭を、逆にいい子いい子と撫でてあげるのだ。

 それはとっても屈辱的だよね?

 

 きっと世界中の誰も、デカくてゴツい彼の頭を撫でたいなんて思う人はいないだろうけど。

 この世にたった1人くらい、彼の頭を撫でたいなんて女の子がいてもいい。

 だってボクは彼が頑張ってること、ちゃんと知ってるから。

 

 

(ボクがキミの頑張りを誉める、世界でひとりだけの女の子になってあげる)




夜の2話目もよろしくお願いします。
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