催眠アプリで純愛して何が悪い!   作:風見ひなた(TS団大首領)

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本日2話投稿!1話目です。


第43話「子猫ありすのマーキングお散歩」

「えっ……誰、あの子……転校生?」

 

 

 夏休み明けの教室はザワザワと賑やかだ。仲の良い子たちが久々の再開を喜び、それぞれのグループごとに話に花を咲かせている。

 僕が教室に入った瞬間だけぴたりと静かになったけど、その後は再びわいわいと賑やかな会話を再開した。

 

 

「あんな子うちのクラスにいなかったよね……?」

 

「うわーめっちゃイケてる……! 背が高いし、体も絞られてる感じ!」

 

「クールで大人びた雰囲気あるし、上級生が間違って入って来ちゃった? でも制服の学年章はウチらと同じだよね……?」

 

 

 それにしても視界が広く見える。

 前髪を整えたのと、猫背を矯正した結果だ。これまでよほど猫背になってしまっていたんだな。なんか世界が一変したように感じる。

 

 多分ありすは驚いてくれると思うけど、早く登校してこないかなあ。

 そう思っていると、「おーーっす! おひさしぃ!」とひときわ大きい声が響いた。

 おっ、にゃる君か。ささささんも一緒に登校してきたな。

 

 

「おはよ、にゃる君、ささささん」

 

 

 そう言って2人の方を向くと、彼らはぎょっとした顔で目を剥いた。

 ずるっとにゃる君の肩からカバンがずり落ちる。

 

 

「は、ハカセ? もしかしてハカセか?」

 

「ん? そうだよ。1週間ぶりで僕の顔忘れちゃった?」

 

「お……おいおいおい!? なんだその髪!?」

 

「うわぁ……うわぁうわぁうわぁ! どうしたの!? すっごいイケメン風になってるじゃん!」

 

 

 にゃる君とささささんが声を上げると、クラスがどよっとざわめいた。

 

 

「マジで!? あれって葉加瀬(はかせ)なのか!?」

 

「うそ!? 本当に葉加瀬くん!?」

 

「な、何があったんだよアレ! ほぼ別人じゃねーか!!」

 

「えっ、葉加瀬くんってそもそも誰だっけ……?」

 

「ほらいたじゃん、クラスの一番後ろでいつも天幡(あまはた)新谷(しんたに)に囲まれてた、ぬぼーっとしたのっぽの冴えないヤツ……!」

 

「ええ!? あのオバケみたいなのがあんな爽やか風に!? し、信じられない……夏の魔物だ! 天狗の仕業よ!!」

 

 

 なんかクラスメイトがうるさいなあ。にゃる君たちが何を言ってるか聞き取りづらいから静かに話してほしい。

 

 

「妹がこうするとかっこいいよーって言うからやってみた。どう?」

 

「お、おう……正直見違えた」

 

「ふわぁ……。妹さんのオシャレセンスすごいね」

 

 

 おっ、ささささんからもお墨付きをもらえたぞ。これは兄として鼻が高い。

 

 

「ありがとう。自慢の妹なんだ」

 

 

 そう言って笑いかけると、ささささんはぽーっとした表情になって僕を見つめ返してきた。にゃる君がそんな彼女を見て、うぐっ!? と声を上げる。どうしたんだ。

 

 

「それよりありすはまだかな……」

 

「ありすサンなら日直だから職員室に日誌取りに行ってるんじゃねえかな。もうすぐ来ると思うぜ」

 

 

 ああ、なるほど。名字があ行だから出席番号1番なんだった。

 そんなことを思っていると、ようやくありすが教室に入ってきた。

 

 

「おはよう。……なんか賑やかね?」

 

 

 ありすは教室がやたらうるさいのに眉をひそめている。

 こちらに来るまで待ちきれず、僕は席を立ってありすのところで向かった。おお、なんか歩き方まで自然とキビキビしてる。催眠と運動の効果だな。

 

 

「おはよう、ありす」

 

「…………!?」

 

 

 ありすはぽかんとした顔で、僕を見つめ返した。

 

 

「え!? は……ハカセなの!?」

 

「うん。ちょっとイメチェンしてみたけど……どうかな」

 

「ど、どうって……」

 

 

 ありすはつま先立ちになりながら僕の頬を両手で掴んで、じっと見つめてくる。ちょっと痛い。

 それから僕の周囲をくるりと回り、制服の上着の(すそ)(えり)、ズボンや靴をしげしげと観察し始めた。

 

 

「……ハカセ、このコーディネート誰にやってもらったの? 自分でできるわけないわよね、こんなこと」

 

 

 あれ、なんか言葉のトーンがちょっと低いような。

 

 

「くらげちゃんにやってもらったんだよ。いや、正確には髪だけセットしてもらって、他は要望を聞いて自分でやってみたんだけど……」

 

「そっか、みづきちゃんかぁ……」

 

 

 ありすはほっと安心したように息を吐いた。何か機嫌が直ったらしい。

 なんか反応が想定外だけど、これは驚いてくれたってことでいいのだろうか?

 不安になってきたので、本人に訊いてみよう。

 

 

「どう? 似合ってる?」

 

「すっごくいい………………っ!!」

 

 

 ありすは絞り出すように、僕には理解できないが感情が物凄く込められた感じで呟いた。

 心なしか目がキラキラしてるような気がする。

 

 

「いい。めっちゃいい。襟もシャツもズボンもきちんとしてるのが本当によくわかってる。さすがみづきちゃん、ハカセのよさみへの理解度ハンパないわ。これは職人の仕事よ……!」

 

 

 めっちゃ早口じゃん。

 そうか、ありすは気に入ってくれたのか。

 何やらスマホを取り出して、うずうずした感じで僕に向けている。

 

 

「ね、写真撮っていい? 撮っていい?」

 

「ああうん、別にいいけど」

 

 

 僕がそう言うと、クラスの女子たちの何人かが「私も!」「ウチも!」とスマホを持って押し寄せてきた。ええ……何なんだ……?

 ありすがクラスメイトに振り返りってキッとした視線を向けると一瞬びくっと震えたが、それでもスマホを持って何か言いたげにしている。

 そんな彼女たちの前にささささんが割って入って、ぴぴぴぴーと口でホイッスルを真似た音を出した。

 

 

「はいはーい、みんなは後だよー。ありすちゃんが最優先でーす。当たり前の理屈だよー、わかるよねー?」

 

 

 何が当たり前なんだ。

 しかしそれで女子たちは納得したらしく、未練ありげなそぶりを見せながらも下がっていく。女子の考えることはわからない。

 

 というか、この前の浴衣のときもそうだが……。

 

 

「なんでありすは僕なんかの写真撮りたがるの?」

 

「私の写真集めてるアンタがそれを訊くの?」

 

 

 僕の質問に質問で返しながら、ありすは嬉しそうにパシャパシャとシャッターを切る。

 ……えっ、ちょっと待って。スマホのコレクションフォルダのことバレてる?

 

 いや、まさか……浴衣の写真とかのことだけだよな? 女性誌買ってモデル写真集めてることまでバレてないよね? バレてたら僕は切腹して果てるぞおい。

 

 

 

※※※

 

 

 

「ハカセ~♪ ちょっとお散歩しない?」

 

「……お散歩?」

 

 

 始業式が終わった後の休み時間に、速攻でありすが僕の席にやってきた。

 なんだその猫撫で声……。普段にない行動されると不気味なんだけど。

 

 

「お散歩って……ここ学校だよ?」

 

「うん、校内をお散歩しましょ?」

 

「十分勝手知ったる場所だし、今更何を見るんだ」

 

「いいから来なさい! ほら、きびきび立つ!」

 

 

 そう言いながらありすはぐいぐいと僕の腕を引っ張ってくる。

 なんなんだ……?

 にゃる君とささささんに視線で助けを求めると、ささささんはやれやれと肩をすくませ、にゃる君は何やら乾いた笑いを上げながら僕の肩を叩いてきた。

 

 

「ありすサンの好きにさせてやれ。これまでずっと待たせてたんだから、今日くらいはいいだろ。男冥利に尽きるぞ」

 

 

 にゃる君が何を言ってるのか全然わからない。

 ……しかし、何しろにゃる君の言うことだ。多分僕のためを思ってのことだろうし、言うとおりにしよう。

 

 僕が立ち上がると、ありすはいそいそと僕の腕に抱き着いて、嬉しそうに頭をすり寄せてきた。

 なんかそうやってもたれかかられると、ちょっと重い……。筋トレしてなかったら満足に支えきれなかったかもしれない。

 

 

「おっ、いいね! お似合いだぞご両人」

 

「ひゅーひゅー♪ アツいねえ」

 

 

 にゃる君とささささんがからかうと、ありすはデレデレとした顔で「やだぁもう……」と呟いて、僕の腕の下に埋もれるように顔を隠した。

 ええ……? ありすがこんなデレデレになってるの見たことないぞ……。

 あ、いや、子猫ありす事件のときに見たか。でもあの顔を学校でするとは。

 

 

「ハカセ、いこ?」

 

「う、うん」

 

 

 僕は脇に抱えたありすに引っ張られるように歩き出した。

 うーん、なんか廊下にいる生徒がみんな僕たちの方を見てるぞ。教室から飛び出して見てくる連中もいるし、これってなんかすごい人目引いてない?

 

 

「ありす、なんかすごくたくさんの人に見られてる気がするんだけど」

 

「うん、そうよ? それが目的だもん。いっぱい見せつけるわよ」

 

 

 え、注目集めていいの? 高校に入ってからは一歩引いた姿勢だったのに、また目立ちたくなったのかな。中学みたいな女王様モードはやめてほしいんだけど。

 それにしても……。

 

 

「やっぱりありすって目立つんだなあ」

 

「ハカセも目立ってるんだけどなぁ。わからない?」

 

「全然わからない」

 

 

 他人に興味がない僕には、逆に他人から興味を抱かれているかどうかなんてわからないのだ。

 すると、ありすはクスクスと悪戯っぽく笑った。

 

 

「まあ、ハカセはそうよね。見た目をカッコよくしても中身が変わるわけないもの」

 

「うん、そうだよね」

 

「だからみんなが見た目に騙されてる間に、私が独り占めしちゃえたってわけ」

 

 

 ありすは子猫がゴロゴロと喉を鳴らして甘えるような音を出して、僕の腕にスリスリと頬をすり寄せた。

 

 

「今更みんながハカセのカッコよさに気付いても、もう手遅れなんだから」

 

「でも、見てくれがちょっと変わっただけだよ?」

 

 

 1年生の廊下を抜けて、校庭へと出る。

 

 校舎の窓から1年生だけでなく2年や3年の生徒が身を乗り出し、グラウンドを走っていた生徒たちが脚を止めてこちらを振り返る。

 道行く生徒たちがありすに視線を集中させてるのを感じて、僕はその視線から庇うようにありすを引き寄せた。

 

 ありすはんふふ、と笑いながら僕を見上げる。

 

 

「私はハカセの中身もカッコいいこと、ずっと知ってたわよ。だからハカセの隣には私がいるんだよって、みんなに教えてあげるの」

 

「そうか、じゃあ僕はありすの隣が定位置ってことになるな」

 

 

 なるほどなあ。

 

 

「それはいいな」

 

「でしょ? だから次の休み時間も、昼休みも、放課後も、今日はずっと一緒に歩こうね」




くらげちゃん「大☆成☆功♪」
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