催眠アプリで純愛して何が悪い!   作:風見ひなた(TS団大首領)

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本日2話投稿!2話目です。


外伝「もしも友達にモテ期が来たら」

「でもさー、本当にハカセくんすごく見違えたよねえ」

 

 

 2学期が始まって1週間が経った、ある日の昼休み。

 所用で席を外した博士(ひろし)を除いたありすたちは、それぞれの弁当を食べながら歓談していた。

 

 

「それな。トレーニングしっかりやってる下地のうえにオシャレ始めたからなあ。しっかり締まった体格で見た目きちんと整えてるから、すげースマートな感じに見えるよな」

 

「そうね……」

 

 

 (ながれ)の言葉に、ありすははあーと物憂げな溜息を吐く。

 それを見て沙希(さき)は不思議そうに小首を傾げた。

 

 

「あれ? ありすちゃん嬉しくないの? めっちゃ喜んでたじゃん」

 

「嬉しいわよ? 嬉しいけどぉ……」

 

 

 ありすはスプーンと一体になった可愛らしいフォークで、つんつんと兎餅さんをつついた。

 

 

「見た目は本当に100点……ううん、150点なの! 私のツボ突きまくりなの! (えり)もシャツもズボンも靴もきっちりと固めてて、背筋まっすぐ伸びてて! 見た目クールな顔立ちで、知性感じさせまくりじゃない? でも口を開いたらいつものとぼけた感じなのも最高……!」

 

「あーわかる。クールな表情から『自慢の妹なんだ』って嬉しそうに微笑まれたときのギャップすごかったもん」

 

「でしょでしょ!? あれもいいの! 家族や友達のことを話すと素直で優しいところが出るの大好き!」

 

「わかるー! すごくわかるー!! 他人に興味ないけど、いったん懐に入ったらすっごく大切にしてくれるところ好きー!」

 

 

 ありすと沙希はキャーキャーと互いの手を叩き、一気に盛り上がった。

 流はじゅるるると牛乳のパックを吸いながら、少し醒めた目で2人を眺めている。

 

 いや、別に流とてハカセのことが嫌いなわけではない。むしろ無二の親友だと思っているし、素直で優しいところも身内を大切にするところも大好きだ。

 しかしこう……自分が好意を抱いている女性2人がきゃあきゃあと親友のことで盛り上がっているのを見るのは……もにょる。めっちゃもにょる。

 

 

(くっ……俺はなんて器が小さい男だ。ダチが褒められているのに、見苦しい嫉妬を……)

 

 

 流は軽く頭を振ると、バクリと焼きそばパンにかぶりつく。

 もしゃもしゃと咀嚼(そしゃく)して飲み込むと、頬杖を突いて訊いた。

 

 

「それで、なんでありすサンは困った顔してたんだ?」

 

「だって……だって、ハカセのいいところに気付いてるの、私たちだけでいてほしかったんだもんっ!」

 

「あー……」

 

 

 沙希はなるほどなーと頷いた。

 

 

「ハカセくんの見てくれに惹かれて寄って行くのがイラッとする、みたいな? お前らニワカにハカセくんの中身の何がわかるんだよぉ! って」

 

「それ。すごくそれ……!」

 

「まあ確かにそうだなあ。俺もあいつの中身がいいからダチやってるわけだし」

 

 

 つーかメジャーデビューしたインディーズバンドのやっかいな古参ファンみたいだな……と思ったが、流はあえて口にしなかった。

 代わりにへらりと笑って、ありすを(なだ)めにかかる。

 

 

「まあ心配することないって。今は物珍しいだけっすよ。どうせハカセの中身は変わってねーんだから、すぐ飽きられるって」

 

「そうかなぁ」

 

「そうっすよ。今もラブレターに呼び出されてるけど、どうせすぐ断って……」

 

「は?」

 

 

 ありすはガタッと立ち上がると、鋭い視線で流を睨み付けた。

 失言に気が付いた流の全身から脂汗が流れ落ちる。

 

 

「なんでそれを私に言わないの」

 

「あ、いや。大丈夫ですよ、心配ないっす。ハカセが承諾するわけが……」

 

「したらどうするの。恋をする人間の心理に興味があるんだとか言いかねないでしょ」

 

「まあそれは言いかねなくもないけど……、だからって告白に応えるとかほぼ絶対にありえないので……」

 

「どこ?」

 

「裏庭です」

 

 

 流が答えるが早いが、ありすは凄まじい速さで教室を飛び出していった。

 ありすが完全に姿を消したのを見て、流と沙希は顔を見合わせ、ほーっと溜息を吐く。

 

 ありすのお弁当に蓋を被せてやりながら、沙希は呆れたように口を開いた。

 

 

「つーかマジで? ありすちゃんがあんだけ始業式の日に全校に見せつけたのに、まだ横から人の男をかっさらおうとするバカっているんだ。正気を疑っちゃうな」

 

 

 中学のときのこと考えたら私が言えた口じゃないけど、という言葉は飲み込む。本当にバカなことをしたなあ……。

 

 

「まあ略奪愛の方が燃えるって手合いも一定数いるだろうしな。それにしても相手が悪いだろうとは思うが」

 

「ああ、まあハカセくんもありすちゃんも最悪の相手ではあるよね……」

 

 

 焼きそばパンを平らげた流は次のパンの袋を破く。

 

 

「大体ハカセがOKするわけねえんだよ。あいつ一昨日告白してきた相手になんて言ったと思う? 『僕はキミのこと顔も名前も知らないんだけど。キミも僕のことなんて知らないでしょ? 何で好きですなんて言ってきたの?』だぞ」

 

「うわぁ……。本人に悪気ちっともないのはわかるけど、言葉がエグすぎるでしょ。触れる者みな傷付けるナイフかよ」

 

「で、相手が『クールで他人に興味なさそうなところが好き』って言ってきたんだけどな」

 

「相手もガッツあるなー。HP1で踏み留まってんじゃん」

 

「そしたらハカセが『わかってるんじゃないか。僕はキミに興味ないよ』だってさ。それでおしまい」

 

「ゲームオーバーかー。もう二度とコンティニューできないねぇ」

 

 

 沙希は水筒に入った麦茶を飲み、ふーと溜息を吐いた。

 流も窓の外に目を向ける。

 

 

「で、その後ハカセが近くで様子を見てた俺に訊いてきたんだけどな」

 

「うん」

 

「『クールで他人に興味ないところが好きっておかしいよね。だって他人に興味がない人間は告白されても振り向かないし、優しくしないでしょ。何でそんな人間を好きだなんて言うんだろうね』だってさ」

 

「……まあ、言われてみればそうだよね。それ、アンタなんて答えたの?」

 

「清楚系AV女優みたいな矛盾する存在を求めてるんじゃねって答えた」

 

 

 ぶふっと沙希が麦茶を噴き出し、飛沫(しぶき)が流の顔に降りかかった。

 

 

「ぎゃーーー! 汚ねえだろうがっ!!」

 

「ご、ごめん……ツボ、ツボに入った……ぷくくくくくく……」

 

 

 沙希がバンバンと机を叩いて爆笑する。

 流がシャツでごしごしと顔をこすろうとすると、沙希はポケットからハンカチを手渡した。それを受け取り、自分の顔についた飛沫を拭き取る。

 

 

「でもあいつ、全然ピンときてなかったな。多分あれ、AV見たことねえぞ」

 

「……ハカセくんってさ、やっぱり性欲ないの?」

 

 

 沙希はちょっと真顔になって訊いてみた。

 実は2年前からずっと気になっていたのだ。だって自分に手を出してもいい状況だったのに、指一本触られなかったから。

 

 当初は彼が紳士だからだと思っていた。だが、友達として一緒にいるうちに相当な変わり者だということに気付き……もしかしたら性欲がないんじゃないかという疑惑に変わりつつあった。

 だってそうじゃないと……そうじゃないと、ボクが指一本触れるほどの魅力もない女の子だということになってしまうじゃないか。

 

 女の子に対して高校生男子らしからぬ枯れた態度を貫く博士に、友人として信頼も敬意も抱きながらも、その一点はずっと沙希の心に影を落としていた。ポジティブ思考を植え付けられているので、普段はおくびにも出さないが。

 この悩みは流もありすにも相談できない。できるわけがない。

 

 沙希が改心した経緯をまったく知らない流は、コリコリとこめかみを掻く。

 

 

「いや、そんなことねえよ。ないならありすサンに執着しねえだろ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「多分あれ、ありすサン以外に異性を感じてねえんじゃねえかな」

 

 

 流の発言に、沙希はぎょっと目を剥いた。

 

 

「い、一途すぎる……! じゃあ何? ハカセくんは生涯に一人の女しか好きにならないわけ? そんな人間いる?」

 

「いるんだから仕方ねえだろ。運動したのもイメチェンも、絶対あれありすサンのためにやったぞ。間違いない、断言できる。あいつの行動原理はほぼ全部ありすサンが関わってる」

 

 

 沙希ははぁー、とため息を吐く。

 ……そうだといいな。それならボクの乙女のプライドも救われるんだけど。

 

 それにしても……。

 

 

「すごいなあ、ハカセくんは。あれくらい愛されたらありすちゃんも嬉しいよね。ちょっと……いや、すごく重たい愛情だと思うけど」

 

「まあありすサンも恐ろしく重い女だからお似合いなんじゃねえかなあ。俺らみたいな一般人は絶対釣り合わねえわ」

 

 

 中2の頃の自分は、よくもまあありすサンに憧れて彼女にしようなんて思ったな……と、流は過去の自分の視野の狭さにヒヤヒヤする。そばで眺めるにはよくても、付き合うのは無理だ。こちらの精神がもたない。

 

 どこの世界にイメチェンしてきた幼馴染を、全校生徒にお披露目ついでにマーキングして回ろうなどと考える高校生がいるのだ。独占欲も顕示欲も強すぎる。しかもまだお互いに付き合ってないつもりなんだぞ?

 それこそハカセのように精神に最初から穴が空いてるような浮世離れした人間でないと、ありすに振り回されるのに耐えられないだろう。

 

 だからハカセとありすがくっついてくれるのは良いことだ。

 流もあの2人には幸せになってほしいと心から望んでいる。

 

 

「ただ……」

 

「ただ?」

 

 

 うーんと唸りながら、流はゴリゴリと頭を掻きむしる。

 

 

「ハカセって運動もイメチェンも、絶対『魔法』を自分に使ってると思うんだよな」

 

「まあそうだよね。運動大嫌いだったし、オシャレはめんどくさがるタイプだと思うよ」

 

「でも、魔法っていつか解けるもんだろ?」

 

 

 流の言葉に、うーんと沙希は唸った。

 

 

「それはおとぎ話とかの話でしょ? 私にかかった『魔法』は解けてないよ?」

 

「多分『魔法』にかかったことを認識できている時点で解けてるんだと思うぜ。解けてないと思ってるのは、『魔法』がかかった状態を維持しようとしてるからだろう。俺とお前の自助努力の成果なんじゃねえかな」

 

「なるほど……」

 

 

 言われてみれば、自分もハカセくんにかけられた『魔法』から随分逸脱してるよなーと沙希は考える。思考回路はポジティブに変わったが、割と毒舌なのは元のままだ。つーか目の前のこの筋肉男が、毒舌に戻してきやがったのだが。

 こいつは本当に、人を毒舌キャラに戻すわ、ボクっ子にするわ、チアガールさせるわ……一体ボクをどんな女の子にしようとしてるのさ。

 

 まあハカセくんの『魔法』も絶対の強制力はなくて、その後の他人との関わりによって精神のありようも変化していくということなのかな。

 

 

「で、それがどうしたの? ハカセくんにかかった『魔法』も、本人が維持しようと努力すれば問題ないんでしょ?」

 

「いや、なんつーか。あいつ多分楽するために『魔法』を使ってるだろ」

 

「うん、そうだね」

 

「おとぎ話って、楽するために魔法を使うと大体何かヤバいしっぺ返しがくるんだよな……」

 

「…………」

 

 

 間の悪い沈黙が満ちる。

 その空気を変えるように、流はハハハと乾いた笑いをあげた。

 

 

「なーんてな! いや、冗談冗談。おとぎ話ってのは大体努力した奴が報われますよって寓意が込められてるもんだからな。現実にはそんなことないだろ」

 

「そうだよねえ……うん。ないない! シンデレラとか魔法に頼りまくって棚ぼた大勝利だよ? あの話好きなんだよね、ネズミが出て来るから」

 

「お前本当にネズミ好きだなあ……」

 

 

 そんなことを話している間に、ありすが博士の腕を掴んで帰ってきた。何やらプリプリと怒っている。

 

 

「ほら、早くご飯食べるわよ! まったくあんなのにデレデレ鼻の下伸ばして……」

 

「伸ばしてないだろ!? 僕は最初から断るつもりで……」

 

「うるさい! あんな誘いにノコノコ顔出す時点で伸ばしてるの! 今度から無視しなさい、無視! いいわね!」

 

 

 そう言いながらありすは博士の弁当箱を開け、ミートボールに自分のフォークをぶっ刺す。

 

 

「はい、とっととご飯食べる! あーん!」

 

「えっ、いや。自分で食べられ……」

 

「あーん!!」

 

「……あーん。うう、無理やり詰め込まれてもなんかおいしくない……」

 

「うーるーさーいー。私が食べさせてあげてるんだから、世界一おいしいでしょ。こんなサービス、ハカセしか味わえないんだからね!」

 

「もぐもぐ……そう言われるとおいしく感じてきたかも」

 

「でしょ。ほら、次は何食べたい?」

 

 

 そんな博士とありすのイチャつきに、流と沙希の顔から笑顔が漏れる。

 

 

「……ま、何があってもこの2人ならどうにでもなるだろ」




他の女に手を出されそうになったので、自分の良さを執拗にアピール(ツン期)。
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