催眠アプリで純愛して何が悪い!   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第68話「色づいていく世界」

「これありがとう」

 

「おっ、読んだか! どうだった? 面白かったか?」

 

「うん」

 

 

 ある日の休み時間、いつものように私がハカセの教室に遊びに行くと、ハカセは新谷(しんたに)君に借りたマンガを返していたところだった。

 誰もが知っている、私たちの親世代が熱中して読んだ国民的な冒険活劇マンガだ。新谷君はハカセがマンガ好きだと知って、家にあるマンガをあれこれと持ってきては読ませているようだ。

 

 実のところ新谷君がハカセを友達と言い出したのは、ハカセをだしにして私に近付こうとしているのではと当初警戒してもいたのだが、彼が必要以上に私に話しかけて来るようなことは一度もなかった。

 

 怪我をしたハカセに私がお弁当を食べさせているときも、夏休みにいろんなところに遊びにいったときも、常にハカセを前に出して私と2人っきりにしてくれていた。その間自分は裏方に徹して、場を盛り上げたり他の子と話したりしていたようだ。

 

 あのハカセと元不良の新谷君では絶対に話なんて合うわけがないと思っていたのだが、ハカセがすごく難しいことを言うと「そうなのか。ハカセは物知りだな」と感心し、TVの話題のようなハカセが知らないことは「今はあれが流行りなんだぜ」とさりげなく教えたりしている。

 グレていた割には実は割とマンガやゲームが好きな一面もあるらしく、最初にハカセと打ち解けたのもゲームの話題が最初だった。オタクというよりは、いろんなものに幅広く興味を持てる性格なのだろう。

 

 ハカセが昔いろんなマンガを読み漁っていたと聞くと、自分が持っているマンガを持ってきてはハカセに読ませて、感想を交換していた。

 

 

 ……なんか私、子供にできた新しい友達が悪い子じゃないか見極めようとしてるお母さんみたいね。これっておばさん臭いかなあ……。

 

 

「ハカセはどこが一番面白かった?」

 

「うーん……面白かったというか共感できたのは、親友が悪い宇宙人に殺されたのに怒って変身するところかな」

 

「ああ、やっぱあそこはいいよな! ダチを殺されて、それまで見せたことのない怒りを露わにスーパー変身……! 少年マンガの王道だよな! あれでドキドキしない男なんていねえよ!」

 

「うん。大切な人を殺されて怒り狂う気持ちはとても理解できた」

 

 

 なんか結構盛り上がってるみたい。

 ふふっ、ハカセにもああいう男の子なところってあったんだ。

 

 そう思いながら見ていると、ハカセは不思議そうに小首を傾げる。

 

 

「でも、あそこはちょっとわからないこともあるんだ」

 

「ん? スーパー化できた理由か? あれはあいつらの一族が……」

 

「いや、そうじゃなくて。主人公は親友1人を殺されて、怒りの心で変身したんだろ? でも悪い宇宙人は主人公の一味に何十人も部下を殺されてるよね。主人公が直接手を下した側近の特戦隊だけでも5人だよ。それなら、悪い宇宙人だって怒りの心で主人公の5倍強く変身できないとおかしくない?」

 

「…………」

 

「数が合わない。主人公は親友1人でパワーアップ、悪役は側近5人で強さそのまま。なんでそうなったの?」

 

 

 無垢な瞳でハカセはそんな疑問をぶつけていた。

 あの子ったら、相変わらず人の心をまったく理解できていない……!

 

 新谷君はどう答えるのかとハラハラしながら見ていると、彼はケラケラと笑いだした。

 

 

「おー。なるほど、その発想はなかった」

 

「にゃる君もわからない?」

 

「んー……そりゃ多分、悪役にとっては部下は大切な存在じゃなかったんだろ。だからいくら殺されたところで主人公みたいに怒れないし、パワーアップもできねえんだ」

 

「そうなの? このオレ様がーってすごい悔しがってたよ」

 

「それは自分のプライドが傷付けられただけだ。自分のことしか考えてないから、ダチのために怒れる主人公にはかなわなかったんだよ。いつだって本当に強いのは、他人のために行動する人間だからな」

 

 

 新谷君がそう言うと、ハカセは目から鱗が落ちたというように何度も頷いた。

 

 

「なるほど……なるほどなあ……! そういうことなのか。にゃる君は本当に勉強になるなあ……!」

 

「おうよ、どういたしましてってな。俺に言わせりゃお前の発想に驚きだぜ。そういうモノの見方もあるんだなっていつも感心してるよ。……で、どうだ? 他に面白かったところはあるか?」

 

「最後の方に出てきた魔人なんだけど。あれってどうして世界チャンピオンの人に懐いたの? あのキャラは何考えてるのかよくわからなかった」

 

「おう。あれは多分な……」

 

 

 2人は夢中でマンガの解釈について盛り上がっている。

 私は新谷君が友達になってくれてよかったな、と今更ながらに思った。

 

 どうやらハカセと新谷君の相性は意外に悪くないようだ。

 きっとハカセが成長するためには友達が必要で、その役は私では務まらないものだった。

 心を育てる友達という役になれなかったのは残念で、新谷君に焼きもちを抱いてしまっているけれど……。私はハカセにとって特別な、別の役になれるはずだ。だから気の置けない男友達という配役は譲ってあげる。

 

 どういう経緯で仲良くなった友達かはよくわからないけど……。

 ハカセ、友達ができて本当によかったね。

 

 私は素直な気持ちで、男の子たちを見つめていた。

 

 

 

 友達になったことを素直な気持ちで祝福できる相手もいれば、まったく受け入れられない相手もいる。

 

 佐々木(ささき)沙希(さき)

 私が去年グループから追放した女が、何故かハカセに接近していた。

 

 私のグループを追われた彼女が、タチの悪いいじめグループに取り入ろうとして逆にいじめの対象になったらしい、ということは風の噂で知っていた。私の取り巻きがあの子今ウリで貢がされそうになってるらしいよ、と意地の悪い笑顔を浮かべながら聞かせてきたのだ。

 私はそのときはふーん、とそっけなく返した。別にざまあみろともなんとも思わなかった。何の興味も抱いていなかったし、なんならそれを聞かせてきた取り巻きも興味ない話をニヤニヤ顔で聞かせてきてうざったいなあと感じていた。

 

 私にとってはとっくに過去の人間に過ぎなかった。

 その彼女が、こともあろうにハカセにベタベタしている。

 

 

「ふーーーーーーーっ……!!」

 

「そんな猫みたいに威嚇しないでよぉ。ネズミ好きとしては怖くなっちゃうじゃん」

 

 

 階段裏へと連れ込んだ佐々木を腕を組んで睨みつけると、彼女はヘラヘラと笑って肩を竦めた。

 

 実際私にとっては、この女はネズミのようなものだ。

 こそこそ隠れて他人の悪口の材料を探し、自分に矛先が向きそうになると途端に怯えて隠れる、卑怯で薄汚いドブネズミ。関わっても害しかなく、いるだけでコミュニティを腐敗させていく病巣。

 それが私にとっての佐々木沙希という人物だった。

 

 だが……去年とはかなり印象が違う気がする。

 ちょっと顔を貸しなさいと言われて逃げずについてきたし、快活に笑うし、物腰に余裕がある。

 

 

「……前になんて言ったか覚えてる? もう二度と私の前に顔を出すなって言ったよね?」

 

「あー言われた言われた。あのときはひどいこと言うなーって思ったよね。思い返せばアタシの方がよっぽどひどいこと言ってたんだけど。あのときちゃんと謝ってなかったよね。いやあ、ゴメーンね」

 

 

 アハハ、と佐々木は片手を突き出してウインクし、軽く頭を下げた。

 

 私は目を細める。

 違う。去年のこいつとはまるで別人だ。

 間違ってもこんな明るいノリの女子ではなかった。もっとジメッとして、根暗で気持ち悪い愛想笑いを浮かべる、卑屈な子だったはずだ。

 

 何があった?

 

 

「どうしてハカセに近付いてるの? あなたに興味を持たれるような男の子じゃないと思うけど」

 

「いや、ハカセくんにもっとオシャレした方がいいよーって言われちゃって。そう言われればそうだなって思って、イメチェンしたわけで」

 

 

 ハカセがそんなことを言うわけない。

 むしろハカセこそもうちょっとルックスを磨いた方がいい人間なわけで。

 そもそも彼が私以外の女の子に話しかけるなんてことがありえるわけがない。

 どう考えたって、こいつの方からハカセに近付いたに決まってるんだ。

 

 

「あなた、評判の悪い連中と付き合ってるらしいわね。ハカセに手を出したのは……」

 

「あー待って待って! もうあの子たちとは縁切ったから!」

 

 

 私が低い声で問うと、佐々木は慌てて両手を突き出して、首をぷるぷると横に振った。

 

 

「あの子たちみんな転校しちゃったし! アタシはもうフリーだから!」

 

「転校した……?」

 

 

 いや、そういえばうちの学年から数人転校生が出たって聞いたか。

 私のクラスからも何人かいなくなったはずだ。派手な化粧をした、評判の良くない女子だったから話題になっていた。

 

 ……不自然すぎる。

 佐々木の急激な変貌といい、謎の転校ラッシュといい、何か私の理解を大きく超えた誰かの思惑を感じずにはいられない。

 

 その誰かの正体とは?

 一番怪しいのは言うまでもない、ハカセだ。

 先日の新谷君といい、今回の佐々木といい、やたらハカセに懐いている。

 絶対に何かの関わりがあると見て間違いない。

 

 だが、ハカセが犯人だったとして、どうやってそんなことを?

 ハカセはエスパーでも魔法使いでもない。こうまで人間を劇的に変えることなんてできるものなのだろうか? 

 言っちゃなんだがあのコミュ障の塊が他人を説得して人生観を変えたなんて絶対にありえない。小さい頃から一緒にいる私が断言できる。

 

 無理やりに他人の思考を捻じ曲げる力と言えば、やはり魔女が持つ『声の力』。

 だがハカセは絶対に魔女ではない。

 心当たりがあるとすれば、去年私が録音したメッセージだが……。

 しかし『おやすみなさい』と囁いたアレは、聴いた者を深く眠らせる効果しかないはずだ。不良を真面目に改心させたり、陰キャを陽キャに変えるような命令は入れていない。

 

 わからない。何が起きているのかさっぱりわからない。

 ハカセに聞いたところで何も教えてくれそうにはない。最近何か隠しごとをしている気がしてならないが、それを私に言うつもりはないようだ。私に話せることならとっくの昔にハカセの方から教えてくれているだろうし。

 

 考えるうちにだんだんとイライラしてきて、私は佐々木を睨み付けた。

 ああ、ムカムカする。この怒りを誰かにぶつけたい。

 やはりこいつは排除すべきだ。

 ハカセに近付くなんて許せない。ハカセのそばにいる女の子は私だけでいい。

 

 

「事情がどうあれ……私、去年言ったよね。二度と私の前に顔を出すなって。あれじゃ理解できなかった? 強く言わなきゃわかんないかなぁ?」

 

 

 怒りに満ちた口調でそう告げると、佐々木は苦笑いを浮かべる。

 

 

「あーこわぁ。ありすちゃんって本当に、ハカセくん以外の人間が嫌いだよね。いや、興味がないのかな。そういうところハカセくんと似てるけど、アタシはありすちゃんのが怖いかな。たまにすごく冷たい目でみんなを見てるの、自分で気付いてる?」

 

 

 他人のことをよく見ている。観察力が高いのだろう。

 私の内面を知られているとあっては、なおさら野放しにはできない。

 

 

「ヘラヘラ笑いながら私やハカセを語らないでよ」

 

「そっかー、能天気に笑ってるように見えちゃってるかー」

 

「改めて言うわよ。『私の前に二度と……』」

 

「まあ聞いてよ。これ、笑ってるように見える?」

 

 

 そう言って佐々木は自分の膝を指さす。

 その膝はガクガクと震え、今にも崩れ落ちそうだった。力が抜けそうになる膝を必死でこらえ、彼女は私の前に立っていた。

 

 

「正直さ、アタシありすちゃんのことすっげー怖い」

 

 

 青い顔に苦笑いを貼り付けながら、佐々木は言う。

 

 

「顔を合わせるのもきついし、今すぐにでも逃げちゃいたい。そんでも無理して笑ってればなんとか耐えられそうだし、言わなくちゃいけないことだから言うね」

 

「なっ……」

 

「ごめん、ありすちゃん。アタシがあなたたちの近くにいることを見逃してください」

 

 

 佐々木はぺこりと頭を下げ、肩を震わせながら懇願した。

 

 

「ありすちゃんが彼のこと大事に思ってるのは知ってる。彼のそばに他の女が近付いてイラッとくるのもわかる。でも、アタシはもっと良い人間になりたい。ダメな自分を変えたい。そのために、アタシを変えてくれたハカセくんや、あなたたちのことをもっと知りたいの。あなたたちの近くにいれば、どう自分を変えていけばいいのか見つかる気がするから」

 

「そんなの自分ひとりで変わればいいじゃん。自分探しなら自分だけで勝手にやれ。あなたの事情にハカセを巻き込まないでよ」

 

 

 あえて辛辣(しんらつ)な言葉で、彼女を拒絶する。

 当たり前だ。こいつが言ってるのはただのエゴ。

 何故私がこいつのために席を譲らないといけないのか。

 

 だがそれでも、佐々木は食い下がってきた。

 

 

「お願い! 決してハカセくんを取ったりしないから! ただそばにいるだけで満足だから。ただの友達でいいから! だから、アタシをそばにいさせて。……もう追放しないでください」

 

「それを信じろって? これまでどれだけ嘘と悪口で他人を傷つけてきたかわかってるの?」

 

 

 私の冷たい詰問に、ぽろぽろと佐々木が涙を流す。

 

 やめてよね、と内心で呟いた。涙なんてやめてほしい。

 私が悪人みたいじゃない。

 

 

「お願いします。アタシはもっといい自分になりたいだけなんです。1人にしないでください」

 

「……ハカセの近くにいたい、というのはまあわかる。でもなんで『あなたたち』なの? 私と新谷君のことよね、それ」

 

「それは……」

 

 

 まだ涙で濡れた顔で、佐々木がえぐえぐと嗚咽を漏らしながら答える。

 

 

「ありすちゃんは私の太陽で……あこがれだから。あなたのことがどれだけ眩しくて、嫉妬して嫌いになって、どれほど憎んでも……。それでもあなたにあこがれてしまう。あなたのようになりたいと思ってしまう」

 

「…………」

 

 

 私はため息を吐いた。

 そういう風に思われることは多い。私なんて、周囲が思っているほど超然とした存在じゃないけど。

 才色兼備、頭脳明晰、高嶺(たかね)の花で学園の女王。そう思われるように振る舞ってはいるのは確かだけど、それはハカセをいじめさせないよう、学校を支配するためだ。実際は自分でも結構ポンコツだと思うし、恋愛脳という自覚もある。

 

 

「私にあこがれなくても、あなたはあなたの良さがあるでしょ。それが具体的に何かなんて、私が知ったこっちゃないけど。それで? 新谷君は?」

 

「新谷君は、私に似てるから……。一度道を踏み外したところも、これからいい人間になろうと頑張ってるところも。だから、私も彼と一緒に頑張りたい」

 

 

 なるほど。

 その理由を聞いて、この子は本当に立ち直りたいと思っているんだなと理解できた。

 単にハカセに惚れたというのではない。以前のように私に取り入ってスクールカースト上位に入りたいというのでも、嘘をついて私とハカセを引き裂こうというのでもない。

 

 本当にこれまでを悔いて、いい人間になりたいと願っているのだ。

 

 

「……また誰かの悪口を言ったり、裏切ったりしてるのを見つけたら今度は容赦なく叩きだすわよ」

 

「! じゃあ……」

 

「仕方ないでしょ。あなたが私たちのそばじゃないといい人間に生まれ変われないっていうのなら、チャンスのひとつもあげないと私が悪い奴ってことになるじゃないの」

 

 

 やっぱり裏切られるかもしれない。自分が甘かったと思う日が来るかもしれない。

 だが、それはこの涙の裏側にあるかもしれない悪意を見破れなかった自分の見る目のなさが悪い。

 他人に助けの手を差し伸べない冷血な子にはなりたくなかった。だってそんな心の冷たい女の子を、ハカセはきっと好きにはなってくれないから。

 

 

「ありすちゃーん!!」

 

 

 新しくぽろぽろと涙をこぼしながら、()()が抱き着いてくる。

 

 

「ありがとう、やっぱりありすちゃん優しいね! 冷たいけど本当は優しい子だってアタシ信じてた!」

 

「あー暑苦しい! くっつくな、私そういうお涙頂戴(ちょうだい)が似合う女じゃないの! ……っていうか、あなたこそコロコロキャラ変わってない!?」

 

「今新しいキャラ模索中だから! なりたい自分が見つかるまで一緒にいてね、ありすちゃん!」

 

 

 このとき沙希が言った言葉に嘘はなかった。

 

 

 この後にゃる君とゲームを通じてライバル関係になった沙希は、彼に挑発されるままに一人称やら髪型やら言葉遣いやらを賭けてしまい、とんでもないことになってしまうからだ。

 

 気が付いたら一人称がボクで意地っ張りな毒舌ツンデレロリっ子という、このときの軽いノリの陽キャとは似ても似つかない女の子になってしまっていた。

 結局高校時代には軽い悪口やボヤキも言うようになったし、かつての根暗ぶりとにゃる君の好みが混ざった女の子になった気がする。

 

 本人も気付かない間に彼女を自分好みに調教してしまった新谷君、恐ろしい子……。

 

 

 しかしたとえ悪口を言ってももう私が彼女を追放する気にはならなかったのは、その頃には私にとって沙希がかけがえのない親友になっていたからだ。

 

 私が学校のいたるところに支配を及ぼし、ハカセをいじめから守っていたことを知った新谷君と沙希は、高校ではもうそんなことはしなくていいと言った。

 そして自分たちでネットワークを広げて幅広い人間関係を構築し、ハカセがいじめられないようにしてくれたのだ。

 新谷君の誰とでも仲良くなれるコミュ力、沙希の人間関係を見極める観察眼、そのどちらも私にはないもので、『声の力』なんかよりも平和的に私たちの身を守れる力だった。

 

 おかげで私は高校では他人を支配する必要はなく、ひっそりと穏やかに暮らせるようになった。私の声や顔に惹かれて告白してくるような男はかなりの数いたが、他人の声と顔にしか興味のない男は願い下げだ。

 何よりこんなめんどくさい女の子でも世界一大事にしてくれる男の子をとっくに見つけているから、全部お断りした。

 

 出不精なハカセも新谷君があの手この手で説得して引っ張り出してくれるので、私たちは4人でいろんなところに遊びに行った。

 そして私は未知の楽しさに目を輝かせるハカセを見て喜び、おどける新谷君に笑い、沙希と一緒にはしゃぎ回った。

 

 多くの人間を支配し続けるというストレスから解放された私にとって、毎日がとても楽しかった。中学の頃とは違って高校時代はとてものびのびとしていて、そこでようやく私は年相応に笑えるようになったと思う。

 

 

 これは高校生になってから気付くことだが、新谷君と沙希には私の『声の力』が効きづらくなっていた。どうやら別の形で『声の力』に何度も晒された結果、徐々に耐性がついていたらしい。

 そのことも私が2人に心を許せる一因となった。彼らはきっと私が口を滑らせても死ぬことはない。気付いたときはとても驚いたが、そのことが素直に嬉しかった。

 

 結局、ハカセだけではなく、私にとっても友達は必要なものだったのだ。

 

 沙希と出会えなければ、私はずっとハカセ以外の他人を心から信じられない冷たい女の子のままだっただろう。

 同い年の友達と共感して、はしゃぎ、遊ぶことが私の心を解きほぐしてくれた。そこに何ら感動的なエピソードなんてなくたって、私は確かに沙希に救われたのだ。

 

 

 私に友達を与えてくれたハカセには、改めて感謝したい。

 彼にはそんなつもりがなかったとしても、彼が新谷君と沙希を連れてきてくれたから、私は孤独な女の子ではなくなった。

 

 彼はいつも、私の手を引いて世界の素晴らしさを教えてくれる。

 

 

 4人で遊びに行ったある日曜日の昼下がり。

 突然の夕立に降られ、公園の屋根が付いた小さなベンチで肩を寄せ合って雨宿りして。

 どうでもよくて面白い話題を言い合ったり、しりとりしたり。

 新谷君に乗せられたハカセが男2人でTシャツを絞るのを、私は顔を真っ赤にして指の隙間から覗いて、沙希が爆笑しながらやんやと囃したり。

 

 そして雨が止んで、私はハカセと手をつないで立ち上がって。

 雨上がりの澄んだ水の匂いに包まれながら、私はハカセに微笑んだ。

 

 

「ありがとう。素敵なひと時だったわ」




ささささんが持ってる能力は人間の内面を見通す観察眼。
強い者に怯える卑屈な子ネズミだった彼女は、自分の身を守るために他人を観察することを覚えました。
やがて成長した彼女は、自分の能力をにゃる君のコミュ力と組み合わせることで、仲間を守る力へと昇華させていきます。
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