オグリキャップ_フルコース   作:コウチャスキー

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前菜ということで、オグリssだと鉄板のぬいぐるみネタはどうでしょう?トレーナーが泥酔状態という文脈を加え、味付けを少々アレンジしました。ご賞味あれ。


<前菜>ぬいぐるみとオグリwith泥酔トレーナー

 今日は珍しくレースの予定がない週末でオフの日だった。トレーナーも休みだし、することもなくて私は学園の周辺を軽くランニングしていた。いつもの学園のトラックではなく、街を走るのも新鮮で悪くない。

 

「あれ?オグリじゃないか。奇遇だね〜」

 

すっかり日も傾いた頃、休憩に立ち寄った公園で水分補給をしていると、見知った声で誰かがそんなふうに話しかけてきた。

声の主の方を振り向く。私のトレーナーだ。彼の顔はいつもより赤い。表情はふにゃリとしていて足がおぼつかない。…明らかに泥酔しているのだろう。お酒を飲んだことの無い私でも分かった。

 

「一体どうしたんだトレーナー、そんなに酔っ払って」

 

「大学時代の同期と街でばったり会って、そのまま居酒屋で飲んできたんだよ」

 

「そうか、それは良い休日になったんだな」

 

「うん、久しぶりに色々話せて良かった。でも、楽しくて学生の時みたいな無茶苦茶な飲み方をしてベロベロに酔っちゃったんだよね。ははっ」

 

トレーナーは赤ら顔でふにゃりと笑いながらそんな事を言う。偶然にもオフの日の彼と出逢うとなると、何だか運命じみたものを感じて勝手に少し嬉しい気持ちになる。

 

「大丈夫なのか?すっかり千鳥足じゃないか」

 

「へーきへーき、この通り余裕余裕」

 

ヘラヘラと笑いながらトレーナーはフラフラと歩きだして、よろける。そんな彼をただ見ているわけにもいかず思わず手が出る。

 

「ん?ああ、ありがとう助かるよ」

 

「ひどく酔っ払っているじゃないか…仕方ない。私が家まで送っていこう」

 

「えっ、いや悪いよそんな」

 

「いいさ、うっかり君が転んで怪我でもしたら、それこそ私は悲しいからな。さぁ帰るぞ」

 

ぶつくさ言うトレーナーを押し切る。ふらつき気味の彼に肩を貸して歩き始めた。ひどく酔っ払いながらも、彼は上手いこと案内してくれたので何とかアパートにたどり着けた。

トレーナーから鍵を受け取り部屋に入る。トレーナーの香りだ。彼の香りがする。彼が住んでいるアパートなのだから当たり前の事なのだが、濃い彼の匂いが部屋から香ってきて、何だかソワソワして少し変な気分になる。

 

「ははっ、なんにもない部屋だけど、くつろいでいってよ」

 

入ってすぐのキッチンを越えて、奥の居室に入る。こざっぱりとした部屋だ。必要最低限の家具はあるけど余分なものは無い。彼らしい部屋のレイアウトだった。

 

「ええっと、お茶でも出さなきゃ。ちょっとまっててね…」

 

部屋の中央の辺りに配置されているローテーブルを前に、項垂れながら座り込んでいたトレーナーは急に立ち上がり、呂律がイマイチ回っていない具合でそんなことを言う。

 

「あっ、危ない!」

 

「おおっとっと」

 

トレーナーが盛大にコケそうになったので慌てて手を掴む。全く、さっきっから危なっかしくて見ていられない。

 

「私が飲み物を取ってくるから、キミはそこに座っていてくれ」

 

「えっ、いいの?助かるよ〜ありがとね」

 

酔っ払っているトレーナーは何が嬉しいのか、とてもにこやかな笑顔で感謝の言葉を私に伝える。お酒とはこんなにも人を変えてしまうのだろうか?

私のトレーナーはどちらかと言えばクール系だ。感謝の言葉も、いつもはもっと澄ました表情で落ち着いて伝えてくる。だから、今日のトレーナーは新鮮だ。何だか本当の彼を垣間見れたような気がする。人懐っこそうにニコニコと微笑んでくる彼を見ていると、無性に胸の内が騒がしくなってきて、そそくさとキッチンへと向かった。

 キッチンの冷蔵庫の中には丁度よく冷やされた緑茶のペットボトルが数本入っていたので2本取り出して、居室の方に戻る。

 

「寝てる…」

 

居室の方へと戻ると、すっかりフローリングに横になって、すうすうと寝息をたてている彼の姿が目に入った。

 

「トレーナー、寝るならベッドで寝るべきだ。体に良くない」

 

「ん?んー、ああ、おはよう」

 

横になって眠ってしまっているトレーナーの身体をゆする。まだ完全には眠りに落ちていなかった様なので、彼は思いの外早く目を覚ました。彼はあくびを1つすると、大きく伸びをして眠い目を擦りながらぼんやりと私の方を見やる。

「いやー、本当にゴメンね。酔っ払いの相手なんてイヤでしょ。埋め合わせはいつかするからさ」

 

トレーナーは『この通り!』と言わんがばかりに手を合わせて頭を下げる。何だかオーバーリアクションだ。普段が大人しいだけに、見ていて面白い。

 

「そうなのか?私は普段見れないキミの姿が見れて嬉しいからそんな事はないが」

 

「お世辞でもそう言ってくれると嬉しいよ」

 

トレーナーは、ぽんやりとした笑顔を浮かべたままぼーっとしている。そうすると何だか手持ち無沙汰になって部屋を見回す。

掃除されていて綺麗な部屋だ。物が少ないから一層そんな事を思わせるのかもしれない。テレビにpcと本棚とベッドくらいしかないこざっぱりとした部屋だ。

ん?何だあのベットの枕元に置いてある物は?何だか見覚えがある…あっ、あれは私のぬいぐるみじゃないか…!

 

「…これは何だ?」

 

ベッドに置かれていたぬいぐるみを掴んで彼の方へ突き出す。

…本物が居るのにどうしてぬいぐるみなんてニセモノが必要なのだろうか。枕元なんてパーソナルスペースに、本物の私を差し置いてニセモノの私が置かれている事が何だかイヤで、それが胸に引っかかってモヤモヤする。

 

「ああそれは、担当しているオグリキャップのぬいぐるみだよ」

 

彼は何でもないようにさらりとそんな事を言う。そんな彼の発言に何処か違和感を感じた。こう、何かが違くておかしい。だけれどもこの違和感を上手く言葉にできない。

 

「あっ、私がオグリのぬいぐるみを持ってる事はここだけの秘密ね。オグリにバレたら怒られちゃうからさ」

 

「分かった"オグリキャップ”には内緒にしておく」

 

違和感の正体が分かった。彼はあまりにも酔っ払っているから話し相手が私であることを忘れているんだ。だから、私に秘密にしておくべきことをうっかり喋ってしまっている。

酔うと判断能力が低下するということは知っていたが、まさかここまでとは思っていなかった。そして、その事をまさか自分の担当トレーナーで知るとは思いもよらなかった。けれども、これはチャンスなのかもしれない。一体どうして彼が私のぬいぐるみを持っているのか、偽りのない本心を聞き出すチャンスだ。

 

「キミには本物のオグリキャップがいるというのに、どうしてぬいぐるみなんてニセモノが必要なんだ?私には分からないな」

 

「うーん、いやむしろ担当しているからこそ欲しかったんだよね」

 

「そういうものなのか?」

 

 私には理解しかねる事だったが、どうやらそういうものらしい。これも応援の一つの形なのだろうか?

 

「それに、仕事をしていて苦しいときとか辛いときにオグリのぬいぐるみを眺めると、もうひと頑張りできるんだよね」

 

「そうなのか?」

 

「うん、家で終わりきらなかった仕事をこなしている時とかに、もう何もかもやだなーって思っても、オグリのぬいぐるみを眺めていると、ひたむきに練習に打ち込む普段のオグリの姿が頭に浮かんできて、『私ももうひと頑張りしなきゃ』って思えるんだよね」

 

「…そうか、そうなのか。それはなんというか、とても嬉しいな」

 

 純粋に嬉しかった。ぬいぐるみはあくまでぬいぐるみに過ぎなくて、それを通して本物の私を見ていてくれたという事実が堪らなく嬉しかった。

ほんの少しでも私という存在が彼の力になれているという事実が嬉しい。まるで私が彼にとっての特別な何かになれたようで、すっかり彼がこっそり私に内緒で私のぬいぐるみを買っていた事もどうでもよくなった。

 

「それにほら、このぬいぐるみ抱き心地が凄くいいんだよね」

 

「…ほう、そうなのか」

 

 前言撤回だ。どうでもよくない。

 

「うん、仕事で詰まった時はついつい抱きかかえてモフモフしちゃうだよね。ほんとこのオグリのぬいぐるみはモフり心地が良くて、もう癖になっちゃうよね」

 

 彼は私のぬいぐるみを膝の上にのせて抱きかかえ、大切そうに撫で始める。

ああ、ひどく心がむずむずする。彼がいい笑顔をしていることも、そんな私の心の内を一層煽る。…あんなニセモノが本物の私を差しおいて彼の膝の上で愛でられていて、あまつさえ彼を笑顔にしているという事実が無性に嫌だった。寒々しくてうら暗い感情が心の底から湧き上がってくる。

 

「本当に可愛いよね、オグリのぬいぐるみ。可愛くて…可愛いから…可愛いくて……」

 

 うつらうつら、とぎれとぎれのテンポで彼はちぐはぐなことを言う。船を漕ぐように頭を揺らしながら彼は眠りに落ちる。

 

「…zzz」

 

「はぁ、仕方がないな」

 

 寝落ちしてしまった彼を抱きかかえてベッドに運ぶ。部屋に掛けられた時計を見やると寮の門限が迫ってきていることが分かった。名残惜しさを感じながらも、仕方なく彼のアパートを後にする。流石に施錠せずに帰るわけにはいかないので鍵を借りた。明日もお互いオフだ。明日の朝早くまた彼のアパートに来て鍵を返えそう。そうすれば彼も不便がないはずだ。

 

◇◇◇◇◇

 

「…うぅ頭痛い」

 

 重い体で何とかベッドを抜け出て、風呂場に向かう。

 

「うーんダメだ何も思い出せない…」

 

 久方ぶりのオフの週末に駅前をフラフラしていたら、たまたま大学時代の同期に遭遇して場末の居酒屋で粗悪な酒をしこたま飲んだまでは覚えている。ただそこから先の記憶が曖昧だ。誰かが私に肩を貸してくれて家まで送ってくれた事は覚えている。ただ、その人の顔が思い出せない。

ピンポーン

 

「はーい」

 

 シャワーからあがって、記憶の糸を手繰り寄せていると、インターホンの鳴る音が響く。反射で思わず返答する。いったい誰だろう?ネットショッピングで何かを購入した覚えはないし、こんな朝っぱらから誰だろう?もしかして大家さんか?めんどくさいなぁ

 

「早朝にすまないトレーナー。私だ」

 

「えっ、オグリ!?」

 

 予想はことごとく外れた。信じられるだろうか、朝起きて自宅の玄関を開けると担当ウマ娘がそこにはいた。まだ酔っていて夢でも見ているのかと思い、ドアを一旦閉めて再度開ける。

 

「おはよう、トレーナー。昨晩はひどく酔っていたが、体調は大丈夫なのか?」

 

でも、やっぱり変わらずそこには彼女がいた。

 

「うん、なんとか。ありがとう…あれ?」

 

 いったいどうして彼女は昨日私がひどく泥酔していたことを知っているのだろう。バラバラだったピースが結ばれて、1つの仮説が浮かび上がる。

 

「もしかして、昨日私を介抱してくれた人って…」

 

「ああ、私だ。キミはそのまま寝落ちしてしまったから鍵を勝手に拝借して昨日は帰ったんだ。だから今日はその鍵を返しに来た」

 

 彼女はポケットからアパートの鍵を取り出して私に差し出す。

 

「…ええっと、何も無い家だけどよっていく?」

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

 玄関でこうして喋っているのもいかがなものかと思い、思わずそんな事を提案した。普段はどこかぽんやりしている彼女だけれども、珍しく有無を言わさぬようなはっきりとした声色で彼女はそう言った。

 

「…ええっと、ひょっとして怒ってる?」

 

「怒っている…?私は怒っているのか…?うーん確かにこれはいい気分ではない。しかし、これは怒りなのだろうか、いやむしろ…」

 

 ローテーブルをはさんで向かいに座る彼女からは何だか怒っている様な雰囲気を感じて、思わずそんなことを訊ねる。そんな私を気にもせず、彼女は顎に手を当てて自問自答する。

 

「…あっ」

 

 そんな彼女の視線の先をたどると、ぬいぐるみのオグリが目に映る。…ああそういうことか。それは怒って当然だ。

 

「っ!おいおい、どうしたんだオグリ!」

 

「ニセモノの私にそうしたのだから、本物の私にそうしてくれたっていいじゃないか」

 

 『ニセモノ』と忌々しげに彼女はそのぬいぐるみを見やりながらそう言って、座っている私の上に乗ってきて、そのまま背をこちらに預けてくる。

 彼女の長い芦毛が頬をくすぐる。筋肉がしっかりとついている体とはいえ、やはり女性の体つきだ。柔らかい女性らしい感触が彼女と密着した面から感じる。石鹸のふんわりとした香りと、女性特有の丸みのある甘い香りが鼻腔をくすぐって、今まで担当しているウマ娘としか見ていなかったはずの彼女に何だか惑わされそうになる。

 

「ほら、昨日キミがぬいぐるみをあんな風に愛でたように、私を愛でるんだ。さあ、早く」

 

 私にすっかり抱きかかえられている彼女は、クイクイと私の上着の袖を引っ張りながらそんなことを言う。そんな彼女に促されて、普段オグリのぬいぐるみをモフるように彼女を後ろから抱き寄せて髪を撫でる。ああ、温かい。そして柔らかい。ぬいぐるみのモフり心地も悪く無かったが、こちらのモフり心地も悪くない。…いやむしろぬいぐるみよりも…

 

「…ぬいぐるみなんてニセモノよりも、本物の私の方が素晴らしいだろう?」

 

 彼女はまるで私の心の内を見透かしたかのようにそんなことを言うものだから、虚を突かれて思わず頷く。

 

「そうだろう。ほら、やっぱり本物の私が1番じゃないか」

 

ぬいぐるみの方にチラリと視線を流しながら、私に抱きかかえられている彼女はそんな事を言い、身体を更に私に預ける。人懐っこい犬や猫が甘えてくる様にグリグリと頭をこちらにすり寄せてくる。長い彼女の芦毛が私の肌をくすぐり、ふんわりと香るシャンプーの匂いが鼻先を掠める。

 

「トレーナー、手が止まっているぞ」

 

「はいはい」

 

膝の上で不満げにそう言う彼女に促されて、頭をまた撫で始める。彼女は鼻歌交じりに柔らかい笑顔をこちらに向ける。

そうなると、自分のぬいぐるみに嫉妬しちゃう自分の担当ウマ娘が何だかいじらしくて、無性に愛おしくなってきて、その後もしばらくご機嫌な彼女を撫で続けた。たまにはこんな休みの日も悪くは無いのかもしれない。

 




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