オグリキャップ_フルコース   作:コウチャスキー

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デザートということで、甘えん坊のオグリssを書きました。子供時代のオグリ、可愛いですよね。


<デセール>幼児化したオグリに懐かれる話

「こっちだ、はやくきてくれ」

 

「ああ、分かったよ」

 

 サラサラした長い芦毛を風になびかせながら少女は私の手を引く。体躯は小学校低学年くらいだけど、やはりウマ娘なだけあって力が強い。子供らしいぷにぷにとした柔らかい彼女の手に引かれ、私も走り出す。

 

「ちょっ、速すぎるってオグリ」

 

 小さな身体でも、ウマ娘だ。とてもじゃないけどヒトの身体では追い付けない。私の手を引いて前を走る彼女に頑張って合わせようとしたけど、ヒトの脚では限界だった。

 先を走る少女は、私のその発言にピクリとウマ耳を反応させ、私を掴んでいた手を離し、走るのやめて急停止する。

 

「ちがう」

 

「えっ?」

 

 頭を横にふるふると振って、『ちがう』とはっきりと言う。

 

「わたしはハツラツ。おぐりじゃない」

 

「ああ、ごめんよ。ハツラツ」

 

 ハツラツと呼び直すと少女は嬉しそうに微笑む。そうだった、そう呼べと言われていた。身体も精神もすっかり幼児になってしまったけど、特徴はそのままだった。長い芦毛に青い両目、表情は澄ましたような落ち着いた表情で、喋り方もどこかあどけなさを感じさせるが、オグリだ。

 タキオンの怪しい薬をうっかり誤飲し、副作用でオグリは幼児化してしまった。不幸中の幸いなのは幼児化以外に副作用が見られず、彼女の身体は健康そのものだったということだろう。

 

「どうしたんだ?」

 

 そんなことを一人考え込んでいると、目の前の彼女は心配そうに私の顔を見上げる。上目使いがくりくりとした彼女の両目を一層強調するようで、吸い込まれて落ち入るようにみとれる。

 

「なんでもないよ。今日の晩御飯の献立を考えていただけだよ」

 

 さすがに、幼児化したオグリを同室のタマモクロスに面倒を見させるわけにもいかず、しばらく私が引き取り、私のアパートで寝泊まりさせる事になっていた。

 

「オ…ハツラツは何を晩御飯に食べたい?」

 

 うっかりまたオグリと言いかけて慌てて訂正する。危なかった。

 

「ええっと、ハンバーグがたべたい。オムライスも、あとは…」

 

 彼女は指折りにその小さな両手で数え上げながら、キラキラと目を輝かせて嬉しそうに晩御飯のリクエストをする。そんなに多くは作れないよと、止めようと思ったけど、たどたどしく食べたいものを私に教える彼女の姿はいじらしくて、甘やかしすぎるのは良くないとは思いつつも全部聞き入れてしまった。

 不意に、可愛いらしく私を見上げる彼女に庇護欲を掻き立てられ、思わず頭を撫でる。彼女は気持ちよさそうに撫でられている。撫でる私の手に甘えるように彼女は頬をすり寄せてくる。温かくて柔らかい。いつまでもそうしていたいような素晴らしい感触だった。

 

◇◇◇◇◇

 

「ごちそうさまでした」

 

「マジか…一体その小さい体でなんでこんなに食えるんだ…」

 

 結局彼女は両手で数え切れないくらいの料理を私にリクエストして、甘い私はその全部を作ってあげた。そして、彼女はつくりあげた料理を全て完食した。うーんやっぱりこういうところはオグリだ。それにしても、趣味で自炊をしていてよかった。まさかこんな所で自炊スキルが生きるなんて思いもよらなかった。作るのも大変だったけど、彼女は美味しそうに全部たいらげてくれたので作り甲斐があった。この後の洗い物は少し憂鬱だけど。

 

「わたしもてつだう」

 

 流しで洗い物を始めると、彼女が私の服のすそをくいくいと引っ張りながら、くりくりとした両目でじっと私を見つめ、そんなことを言う。

 

「あっほんと?ええと、じゃあ洗ったお皿拭いてくれる?」

 

「ああ、まかせてくれ!」

 

 彼女のお手伝いの提案を断ろうと思ったけど、何かのコラムで『子供ができる範囲で家事を手伝わせることが教育上良い』とか書かれていたことを思い出して、洗い物を手伝ってもらう。真剣な表情で任せてもらった仕事を何とかこなそうと頑張る彼女のいじらしい姿は、何だか胸に迫るものがある。じんわりとあったかい気分だ。これが父性というやつか?

 その後は、食休みにぼんやりとテレビを見ていた。最初はソファで隣り合って見ていたけど、途中から私の膝の上に乗り椅子の様に私の膝に座りながらテレビを見始めた。

 ウマ娘の体温は高い。そして子供の体温も高い。だから膝に座る彼女はまるで湯たんぽみたいに温かかった。心地よくてうつらうつらしていたが、そう言えばまだ風呂に入っていない事を思い出して、急いで彼女を風呂に入れる。風呂は1人で入れたが、どうやら大人用のドライヤーは手に余るようで私が髪を乾かしてあげた。細くて柔らかい彼女の芦毛はまさしく絹の様で心地よかった。

 

「いっしょがいい」

 

「えっ?」

 

 すっかりパジャマに着替えて寝る準備に入ったころ、彼女ははっきりとそう言い、私の服のすそをぎゅっと掴んだ。流石に一緒のベッドで寝るのはどうかと思い、私はソファで寝ると言ったのだが、どうやら彼女はそれが気に入らないらしい。

 

「ひとりはいやだ」

 

 ふるふると澄ました顔で首を横に振る。

 

「…どうしても?」

 

「どうしてもだ」

 

 私の服のすそを掴む力が一層強くなる。どうやら本当にどうしてもらしい。

 

「わかったよ、じゃあベッドで一緒に寝よう」

 

「ああ!」

 

 彼女は嬉しそうに私の手を引き、ベットの方に引き連れる。彼女ももう眠そうだったし、私も疲れて眠かったから、そのまま電気を消して床に就いた。

 暗さに視覚が奪われた分、彼女の温かい体温と長い後髪からかおるシャンプーの香りを一層強く感じる。そんなことを感じているとすぐに眠りに落ちてしまい、今日が終わった。

 

 そんな生活が数日続き、とうとうアグネスタキオンの手によって、もとの姿に戻る薬が開発され、無事彼女は元の姿に戻った。薬の作用で幼児化していた数日間のことは忘れてしまうらしいが、まぁ問題はないだろう。こうしてオグリキャップ幼児化騒動は無事幕を閉じた。

 

◇◇◇◇◇

 

「ふぅ…」

 

 奮発して買ってきたお高いクラフトビールを自宅のソファであおる。このところは幼児化したオグリの面倒を見ないといけなかったから禁酒していた。そのせいか、今日の酒は何だか身に染みる。

 

「ん?誰だこんな時間に電話なんて?」

 

 すっかり夜も深けて早寝の人なら床に就き始めるころ、ポケットの中のスマホは私に着信を知らせる。こんな時間の着信自体にも驚いたのだが、画面に表示される発信主の名前にはもっと驚いた。

 

「もしもし。珍しいねオグリが電話なんて」

 

「ああ、寝る前にどうしてもキミの声が聴きたくて、タマに教わりながら頑張って掛けたんだ」

 

「そっか」

 

「トレーナーは今忙しいか?そうでないなら、私との会話に付き合ってくれると嬉しいのだが」

 

「ああ、丁度暇だったしいいよ」

 

「本当か!」

 

 彼女は電話越しでもわかる様な嬉しそうな声で、今日あった出来事を私に話始める。ところどころ、同室のタマモクロスがちゃきちゃきの関西弁で合いの手やつっこみを入れる声が遠巻きに聞こえる。それがなんだか凸凹コンビの漫才を聞いているようで、すっかり聞き入ってしまった。

 

「あっ、すまないもう消灯時間だ。また明日だな、トレーナー」

 

「もうこんな時間か。りょーかい。おやすみ」

 

「ああ、おやすみだ」

 

 電話を切る。そう言えば、オグリが幼児化している時もこんな風に寝るまでお話をしていたなと思いつつも酔いが回ってきたので私も寝ることにした。

 

◇◇◇◇◇

 

 ハツラツからオグリに戻って数日が経ったころ。私はトレーナー室で考え事をしていた。勿論オグリのことに関してだ。幼児化騒動以来、数日のブランクがあるから走りの方には少しの懸念があったけど、すぐに彼女はいつものタイムを取り戻した。そうだ、身体には問題は無かった。問題は精神の方だ。

 

「距離感が近すぎるんだよな…」

 

 最近の彼女は距離感が近い。寝る前に電話してくるようになったのもそうだが、髪を梳かすようにせがんできたり、一緒に移動する時は私の服のすそを掴んですぐそばを歩く。距離が近い。

 

「いやまてよ…」

 

 独り言が止まらない。最近の彼女のふるまいから、ある仮説が帰納的に私の頭に浮かんでくる。そうだ、まるでハツラツみたいじゃないか。オグリが幼児化していた時、彼女は私に髪を梳かされていたし、一緒に歩くときは私の隣で私の服の袖を掴みながら歩いていた。…幼児化していた時の記憶は消えると聞いていたけど、もしかしたら完全に消えるわけではなく、記憶の残滓が彼女の中に残っているのかもしれない。

 

「トレーナー、入るぞ」

 

「んー」

 

 そんなことを考えていると、彼女がトレーナー室を訪れてくる。噂をすればなんとやらだ。

 

「ふぁあ…すまないトレーナー、ひどく眠くて仮眠を取りたいのだが…良いか?」

 

「ああ、いいよ」

 

 あくびを1つして、彼女はそんなことを言う。

 

「それと、膝枕してくれると助かるんだが…ダメか?」

 

 彼女は、唐突にそんなことを言う。ハツラツの時ならまだしも、今の状態ではなぁと思い断ろうと思ったけど、上目づかいでねだる彼女には勝てず、断れなかった。だめだ、私は彼女に甘い。

 

「ああ、温かいな。これならよく寝られそうだ」

 

 トレーナー室のソファで私に膝枕される彼女はそんなことを言う。長い彼女の芦毛がくすぐるこの感じと高めの体温が、そう言えばハツラツだった時もこんな風に膝枕したなぁと私に思い出させる。

 

「ハツラツは本当にこれが好きなんだね」

 

 嬉しそうに膝枕される彼女を眺めていると、そんな言葉が口からこぼれる。

 

「ああ、私は本当にこれが好きで…えっ?」

 

「あっ」

 

 幼児化していた時も彼女は嬉しそうに私に膝枕されていたことを思い出し、その姿が今の彼女と重なって、間違って彼女のことをハツラツと呼んでしまった。彼女はあっけにとられたような表情でこちらを見つめる。

 

「ああ、もしかして幼児化している時の私が、自分の事をハツラツと呼んでいたのか?」

 

「うんそうなんだよ。そうか記憶残っていないもんね」

 

 どうやら本当に幼児化していた時の記憶は残っていないらしい。だとしたら記憶の奥底に残った残滓が無意識に作用して、意図せずやっているとかかな?

 彼女は起き上がりソファに座りなおして、顎に手を当てながら神妙そうな表情で考え込んでいる。

 

「トレーナー、分かっていると思うがハツラツは私の幼名だ。幼名はみだりに呼ぶものではないんだ。だからその、外では控えてくれると助かる」

 

「ああ、そっかごめんよ。以後気を付ける」

 

 なるほど、そういう文化なのか。ヒトとウマの文化の違いを感じた。幼名なんてヒトの方ではかなり昔に廃れたから馴染みがなかった。異文化は尊重すべきだ。彼女がそう言うならそれに従おう。

 

「あっ、いや良いんだ。ヒトには馴染みのない文化だからな」

 

 どこかそわそわと落ち着きがなく彼女はそう言う。ウマ耳も尻尾もせわしない。

 

「外では控えて欲しいんだ。でも、2人きりの時だけはキミにそちらの名で呼んでほしい。…これは、わがままか?」

 

 隣に座る彼女は頬を少し赤らめながら尻尾をゆっくりと揺らし、恥ずかしそうに目線をそらしつつそう言う。でも手はしっかりと私の服のすそを掴み、クイクイと引っ張る。珍しく恥ずかしがるその彼女の姿が無性に愛おしくて、私は彼女のそのお願いを聞き入れてしまう。

 ああ、やっぱり私は彼女に甘い。私に甘えてくるハツラツを撫でながら、そんなことを思った。

 

 




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