リメイク前を知っている方も知らない方も楽しんでもらえたら嬉しいです。
中央市十六室。尸魂界において護廷十三隊が瀞霊廷や現世を護る剣であり盾であるが、四十六室は瀞霊廷における意思決定の最高機関である。
元は護廷十三隊など存在していなかったが、山本元柳斎が問題児達を集め、纏めあげ護廷十三隊を組織として成立させた。
組織の編成も無事に完了し、護廷隊は荒々しくも仕事をこなして何とか軌道に乗りつつあった。
しかし、中央四十六室には大きな悩みがあった。
それは十一番隊隊長にして元大罪人、卯ノ花八千流の存在である。斬り合いを好み、自分よりも強き者を求め仕事せず暴れ回っているモンスターだ。
ハ千流というのは全ての流派は我が手に有り。つまるところ、自分こそが最強であるという名前であり、事実ありとあらゆる使い手達を自身の斬魄刀の錆にしてきた。
そうして築き上げた死体の山は数えるのが馬鹿らしくなる程にまで増えた。本来ならば死刑は免れない程の大罪人であったハ千流だったが、元柳斎が護廷隊へスカウトした。
護廷隊士になり落ち着くかと思った四十六室の面々、しかし卯ノ花は賊の討伐という名目で暴れた。むしろ護廷の為と大義名分を得たと嬉々として剣を振るった。
治療用の鬼道である回道を習い、落ち着きを見せるかと思えば、より長く斬り合いを続ける為であったりで暴れっぷりは収まることは無かった。
本来であれば四十六室は卯ノ花ハ千流の入隊を拒否する予定だった。しかし、山本元柳斎からの強い推薦があり、考えを改めた。卯ノ花ハ千流という実力者を支配下に置ければ自分達が危険な目に合うことはなくなると考えた。
最終的に卯ノ花八千流を支配下に置ければ良かった四十六室。今の荒々しい気性では御しきれないが、そのうち落ち着けば良い筈だった。
しかしいつまで経ってもその兆候は現れず焦った四十六室はある手段に出る事にした。
「という訳で、山本元柳斎よ。卯ノ花八千流をなんとかせよ」
「意味が分かりかねます」
餅は餅屋に、厄介な飼い犬は飼い主にと全てを元柳斎へと丸投げしたのだ。
しかし突然何とかしろと言われてもと元柳斎は食い気味に返事を返す。
「アレは自身の快楽の為にしか戦わん。それを従える事ができれば尸魂界は益々の安寧が約束される。どのような手段を使ってもかまわん、アレを落ち着かせよ」
「はぁ………そうですか」
元柳斎は辟易とした。確かに卯ノ花八千流は制御の効かず問題ばかりである。暴れ回る卯ノ花を落ち着かせようとしたのは一度や二度ではない。
しかし、元柳斎が直接命令しても聞かず、寧ろ反抗しどうにかして戦おうとしてくる。負ける事は無いが卯ノ花を黙らせるのも無傷では済まないのだ。
元柳斎にどうにか出来るのであればとっくにどうにかしているのだ。卯ノ花以外にも問題児ばかりの組織なのにこれ以上無駄な仕事を増やすなと元柳斎はため息を吐く。
「委細承知しました、必ずや卯ノ花八千流を落ち着かせ護廷の刃として仕上げてみせましょう」
しかし、こう言うしかない。最高の意思決定機関である中央四十六室の命令に反抗するだけの力はあるし返り討ちにする事も出来るのだが、護廷隊が組織という体を成している以上反抗はできない。
しかし、命令を受けたとはいえ元柳斎に名案というものは無かった。諭しても、力で押さえつけても効果の出ない狂犬を落ち着かせるにはどうするべきなのか、思いつかなかった。
自室へと戻り考えを巡らせる元柳斎。これまで元柳斎自ら落ち着かせようとしてきたが全て失敗している。
「もはや儂では手がつけられんし………………そうか、儂以外がすれば良いのか」
自分の言う事を聞かないのなら別の者にやらせれば良いという天啓にも近い閃きをした元柳斎。より強き者との闘争を求める卯ノ花にとって最強である元柳斎は格好の獲物であって黙って付き従う相手では無い。
結婚させて引退したとしてもその子供が才能を受け継いでいれば良い。大切な者が出来れば誰でも落ち着きを見せるものだろうと自身の閃きに嬉しさを覚える元柳斎。
「部下では…………話にならんな。彼奴に友人はおらんし…………………せめて伴侶でも居れば頼めたんじゃが……………⁉︎」
天啓、再び。
「そうだ、彼奴とて女。家庭を持てば少しは大人しくなるじゃろう」
かつてない名案に笑みが溢れる元柳斎。しかし、元柳斎は一つの問題を見落としていた。
恋愛のれの字どころか、生首や次の標的といった野蛮な話しか聞かない狂戦士に結婚させる事が如何に難しい事か、単純に落ち着かせるより難しい事である事をこの時の元柳斎は全く考えていなかった。
「という訳で、この中から男を選べ。見合いの手筈を整えてやろう」
「何を仰ってるのか全く分からないのですが」
「お前も良い年だ、家庭を作って大人しくしたらどうだ?」
「何言ってるのですか?斬りますよ」
元柳斎は己の浅慮を悔いた。それなりに良いと思った候補を幾つか見繕い卯ノ花に選ばせたのだが、手渡した瞬間に見合い写真の殆どが真っ二つとなった。
「満足させられるような男でもない限り一緒になる事は到底出来ません。この紙屑の中にそれらしい者は1人も居ません」
「ならどのような者なら良い?条件を述べてみよ」
「最低でも私とそれなりに斬り結べる程度の実力は欲しいです。総隊長を含め他の隊長の皆様はそれなりですが顔が趣味じゃありません」
眉一つ動かさず淡々と失礼な発言をする卯ノ花に心を乱されてはいけないとなんとか落ち着かせながら無事に残った見合い写真を漁る。
「ふむ……………此奴か。此奴なら多少はマシか」
「何か心当たりでもあるのですか?眉目秀麗であれとは言いませんが、護廷隊の男共は清潔感に欠けるのでごめん被ります」
(普段返り血で汚れきっとる貴様に言われたくないわ)
出かかった言葉を飲み込む元柳斎。これを言ってしまえばそのあとは卯ノ花は開戦の合図として受け取り殺し合いが始まってしまう。
青筋を浮かべながら一枚の写真を手渡す元柳斎。
「これは?」
「お主とて痣城の名は聞いたことあるじゃろう」
「痣城………ですか。かつて斬術と鬼道で貴族まで上り詰めたという武闘派貴族ですね。一度遊びに行った事がありますが、あそこの当主は私が少し睨んだだけで腰を抜かす玉無しですよ」
痣城家、斬術と鬼道に優れた家系で武力のみでのし上がった成り上がり貴族だ。当然卯ノ花もこの痣城家の事は知っていたし期待をしていた。
力のみでのし上がった痣城ならば自身を満足させられるかもしれないと。しかし、結果は酷いものだった。
ちょっとした冗談程度のつもりで解放した霊圧に腰を抜かし、鍔を鳴らすだけで震え上がり、腰を抜かし、立ち上がれなくなった取るに足らない雑魚だったのだ。当主が囲っていた傭兵も遊び相手にすらならない雑魚ばかりで酷く落胆したのを卯ノ花は覚えていた。
抜刀する事すら馬鹿らしくなるほどの雑魚を斬る程卯ノ花は暇では無いのだ。
「当主では無い、その弟じゃ。病弱故当主にはなれなかったが、その才覚は一族始まって以来とも噂されておる。一度ワシが手解きをしてやった事もあるがアレはまさしく天才というやつじゃろうな」
「なる…………ほど…………」
護廷隊を組織し始め山本元柳斎という男が他人の実力を褒めるという事を滅多にしないのを卯ノ花は理解していた。
そんな元柳斎が濁さず天才と言いきった男に少しだけ興味が湧く卯ノ花。
しかし、一つ疑問に思う事もあった。死神は霊圧の知覚により敵の強さを測る事が出来るが、痣城邸に押し入った際にそう感じる者は1人もいなかった。
それなのに元柳斎が認める程の才覚をもった男がいた事は卯ノ花の興味を掻き立てるには充分だった。
もし、本当に元柳斎が認める天才が痣城にいたとして、その者は卯ノ花が存在を認知できない程の実力者であるかもしれない可能性がある。
強者との戦いに飢えている卯ノ花にとって確証もない話であっても可能性があるのなら試してみる価値は十分にある。
「わかりました、一度会って話をするとしましょう。ただし、私がその男と一緒になるかは別の話です。それでも構いませんね?」
「うむ、手筈は整えておく」
心の中でグッと拳を握る元柳斎。ここまで何をしても効果の無かった卯ノ花が若干ではあるが興味を示しているのだ。これだけで大きく前進したといえる。
卯ノ花が去り際に見せた表情は完全に自分と殺し合おうとしてる時か、任務と称して出撃しようとしている時と完全に同じものであり、元柳斎は心の中で痣城を哀れに思った。
しかし、一つの貴族で卯ノ花を少しでも落ち着かせられるのなら安いお釣りだろうと早々に切り替える元柳斎であった。
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