治療室の前にある長椅子に卯ノ花は静かに座っていた。
双盾は無事なのだろうか、自分の応急処置は間違っていなかったか……………そんな不安が胸に渦巻いていた。
「あの卯ノ花が男を連れてくるとはなぁ。世の中分からんもんだな」
「どうだったんですか!?あの人は、双盾さんは!?」
「ちょ、落ち着け。落ち着けって」
治療室から出てきた麒麟寺天示郎に掴みかかる卯ノ花。麒麟寺は自分が知っている卯ノ花との違いに戸惑いを隠せない。
麒麟寺は卯ノ花と双盾の関係については知らないが、卯ノ花が斬り合うこと以外に興味が無く、負傷者や病人を助けてくれなどと言う女では無い事は知っていた。
「あの優男、相当弱ってたぜ。外傷が無い所を見るとお前が斬った訳じゃねのは分かる。ただ、今まで碌な治療を受けてねぇんだろうな。いつ死んでもおかしくないぜ。貴族っぽいが、そんな薬の一つも飲ませられない貧乏なのか?」
麒麟寺は護廷隊の隊長であり、回道の開祖にして達人。治療に携われば相手の肉体の状況など事細かに知る事が出来る。
「あの人は、痣城家当主の弟です」
「なんか聞いた事はあるな。それなら納得だ」
尸魂界における怪我人、病人の治療を目的としている四番隊を利用する殆どは護廷隊の隊士なのだが、貴族も利用する事がある。
その為、貴族の情報は麒麟寺の元に集まるようになっているのだ。
貴族と権力争いというのは切っても切り離せないものだ。魑魅魍魎のような者達と戦う上で隙など晒せば何処までも食い物にされるだけである。
「まぁ良い。それで、どうしてその痣城の弟君と知り合う事になったんだ。あの坊ちゃん、お前が興味を持つ程強そうには見えなかったがな」
卯ノ花と麒麟寺の付き合いは長い為、麒麟寺は卯ノ花がどのような人間が把握している。それ故に麒麟寺にとって双盾と卯ノ花がどうして知り合うのか謎だった。
「先日、総隊長より見合いをせよと命令がありまして」
「ぶわはははははは‼︎見合い⁉︎お前が⁉︎冗談は顔だけにしとけよ‼︎今度斉藤の奴にも教えてやるか‼︎」
「斉藤隊長共々殺しますよ」
「いやいや、男に興味ねぇって言ってたお前に何で見合いさせるんだよ。まぁ、あの坊ちゃんの顔はお前好みっぽいもんな」
「本当に殺しますよ⁉︎私のお見合いにどんな思惑があるかなんて知った事じゃありません。ただ…………あの人は初めて興味を持てた人だったので。死んで欲しくないだけです」
麒麟寺としては弟子たる卯ノ花の精神的な成長の兆しがそこはかとなく嬉しくなっていた。斬る事しか興味の無い女がしおらしい表情を浮かべているのだ。
総隊長命令という事は護廷の上、四十六室の思惑があったというのは麒麟寺にも分かる。しかし、その思惑に踊らされているのだとしても、この変化は師匠として嬉しかった。
「お前さんの応急処置のおかげで一命は取り留めてる。今日中に病室に移せる筈だから見舞いなら明日きな」
「側にいるのは駄目なんでしょうか?仕事の邪魔はしません。あの人が目覚めるまで側にいさせて貰えませんか?」
鬼よりも恐れられた卯ノ花の変化に笑いたくなる麒麟寺だったが、あまりにも真剣な表情に考えを改める。
「わーったよ、とりあえず一旦隊舎に戻って支度してこい。暫く入院する事になるから必要な事は済ませておけよ」
「恩に切ります」
足早に去る卯ノ花。弟子の変化は嬉しいといってもあまりの乙女っぷりは複雑な心境の麒麟寺。
「貸し一つだからなぁー‼︎」
それを聞いたのか、聞いていないのか卯ノ花は瞬歩で麒麟寺の視界から消えた。
双盾が目を覚ますと双盾の手を卯ノ花が握ったまま眠っていた。
「よぅ、目が覚めたかい?色男」
「貴方は……………」
「四番隊隊長、麒麟寺天示郎。そいつの師匠ってとこだな」
「そうですか、霊圧の質がこの中では卯ノ花さんと同じくらい洗練されたものだったので只者ではないと思っていましたが………」
四番隊舎には二百人程の隊士がいるがその中で最も強い者を双盾が瞬時に知覚出来ていた事に麒麟寺は驚いた。
卯ノ花が興味を持つだけの実力はあるというのが麒麟寺にも分かった。
「しかし、卯ノ花に試合申し込むたァ………お前さん怖いもの知らずだな」
「彼女に認めてもらうにはそれしかありませんでしたから。斬魄刀には結構止められたんですけど、男なら美人の前くらい格好つけたいものでしょ」
爽やかな笑顔で言い放つ双盾に驚きを隠せない麒麟寺。確かに卯ノ花の容姿は整っている、文句無しで美人と言えるレベルで整っている。
しかし、敵を斬る事にしか興味を示さない剣の鬼を前にして美人と言えるその胆力は、尸魂界中探しても中々見つかるものではないだろう。
「凄いな、お前さん。どんな育ち方したら、こんな鬼みてぇな女に美人って言えるんだ。尊敬するぜ」
「何を仰るんですか。こんなに優しい女性はそんなにいませんよ」
卯ノ花が握っていた手を解き、卯ノ花の頭を優しく撫でる双盾。その様子を若干引き気味に眺める麒麟寺。護廷隊に強者多しと言えどそんな事は山本元柳斎ですら出来ないだろう。
大抵の者は卯ノ花の頭に手を伸ばせばその瞬間に手首が斬り落とされる。例え頭に触れたとしても片腕ごと斬り落とされ燃やされる事は必至だ。
「卯ノ花さんと試合した時、最後の方はかなり殺気が籠ってましたけど最初の方は僕の体を気遣って加減をしてくれいました。僕が倒れてしまった後もこうして貴方のところまで運んでくれた。
卯ノ花さんが本当に剣だけの人間ならこんな事はしてくれませんよ。この人は本当に優しい人なんです」
そう言って卯ノ花を優しく見つめる双盾。その様子に麒麟寺はため息を吐かずにはいられなかった。
「そりゃまぁ、回道学んだ者としちゃあ当然の事だし、卯ノ花からしたらお前らは殺す価値も無い雑魚って認識だったんじゃねーのか?」
麒麟寺とて双盾がそういった雑魚ではない事は充分理解している。
「仮にそうだとしても、僕はその優しさが嬉しかった。ほら、恋は盲目っていうじゃないですか。僕が感じた彼女の優しさに僕は惚れたんだと思います。だから、お見合いとか関係無く僕は残りの人生を彼女と過ごしたいって思いました」
先ずは好きになってもらわないと、と照れながら言う双盾。それを聞いた麒麟寺は満足そうに頷く。
「そうかい、あんたになら卯ノ花を任せられそうだ。ガサツで斬り合う事しか頭にない女だが、幸せにしてやってくれ」
「もう、お帰りですか?」
「そろそろ逃げないと俺の命が危ないんでな」
そう言い残すと麒麟寺は瞬歩で消えてしまった。すると、双盾は隣から荒々しい霊圧を感じた。
卯ノ花が顔を真っ赤にして霊圧を荒げていたからだ。
「す、すいません。無作法にも頭を撫でてしまって…………」
「い、いえ。それは別に構いません。それと、急用が出来たので今日はこれで失礼します。また明日見舞いに来ますので」
卯ノ花も麒麟寺と同様に瞬歩で消えた。
卯ノ花の心拍数が上がっているのは麒麟寺に対する怒りか、はたまた双盾の話を聞いてしまったからなのか。
卯ノ花自身もそれが分からなかった。長く生きてきた中でこのような事は初めてだったのだ。
男の話に心躍らされ、男に触れられ胸を高鳴らせるなど初めての事だった。
「それはそれとして麒麟寺天示郎‼︎貴方のそのアホ丸出しの髪型を素敵に散髪してあげます!」
「誰の髪型がアホ丸出しだコラァッ‼︎」
この気持ちの高鳴りは麒麟寺にぶつける事にし、一日中麒麟寺を追い回した卯ノ花だった。
2人の喧嘩により、山本元柳斎自慢の庭園が吹き飛び麒麟寺と卯ノ花は始末書を書かされた。
いきなり女性の頭撫でるとかどうなん!?って思うけど双盾さんのイメージcvって山寺宏一さんなんすよね。声の感じは龍が如くの秋山さんとかエヴァの加治さんみたいな感じですね。
そして当然くっそイケメンなんわけです。そしてその美声。惚れない方が無理な話ってんですよ。山寺ボイスに口説かれたらそれはもうメス落ち確定です。