卯ノ花家の受難   作:木野兎刃(元:万屋よっちゃん)

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卯ノ花、移動する?

「あとは投薬治療続けながら経過観察といきたいが、あのお坊ちゃんは屋敷じゃまともな治療が受けられねぇ。だから、この四番隊隊舎で預かる事にした」

 

 

「それを聞いて安心しました」

 

 

「しかしだなぁ…………生憎どれだけ期間が必要か分からねぇ奴に割けるほどこの隊舎も広くねぇ」

 

 

四番隊隊舎は総合救助詰所。隊士は勿論、時々であるが貴族の利用もある。隊士が負う怪我は命に関わるものである事も少なくはない。

 

病床数に余裕はあるのだが、緊急事態に備え一定の余裕は保っておかなければいけないのだ。卯ノ花もそれを理解していたのか、若干の悔しさを顔に滲ませる。余裕を保つ為、場合によっては双盾が退院しなければいけない場合も出てくる。

 

卯ノ花は唇を噛み締めた。自分がもっと回道を極めていれば、もっと薬学の知識があれば彼を助けられたかもしれないと。

 

 

「自惚れんなよ、卯ノ花。ちょっとそっと回道習った程度で死にかけの人間治せるほど治療ってのは甘くねぇんだよ。お前は自分がすべき事をした。それで充分なんだよ」

 

 

その様子を見た麒麟寺はこつんと卯ノ花の頭を小突きながら言い聞かす様に話す。

 

 

「それでも……………もっと私に回道の実力があれば」

 

 

小突かれた事を気にも留めていないのか、悔しさで肩を振るわす卯ノ花。

 

ありとあらゆる剣術流派の流れは我に有りと名乗ってきた卯ノ花ハ千流が力を渇望する。どれほど珍しい変革か。

 

この世にも珍しい変革に麒麟寺に親心のような何かが芽生えていた。護廷隊創設から共に戦った仲間として、回道を教えた師として卯ノ花の変革は嬉しくも寂しくもあった。

 

 

(四十六室の思惑に乗っかるのはムカつくが、こいつに必要なのは、あの坊ちゃんなんだろうな)

 

 

卯ノ花に必要なのは戦いや血などではなく安らぎであるべきと麒麟寺は強く思った。

 

 

「そんなにてめぇを責めてぇなら一つ頼まれてくれや」

 

 

「なんでしょうか」

 

 

「お前が四番隊の隊長になれ」

 

 

「何を言っているのですか。私には十一番隊がありますし、貴方だって隊長でしょう。そう簡単に自分の責務を投げ出して良い筈がありません」

 

 

任務と称して暇潰しともいえる闘争に明け暮れる女が何を言うかとツッコミたくなる気持ちをグッと堪える麒麟寺。ここでツッコミを入れてしまっては台無しとなってしまう。

 

 

「零番隊への昇進が決まったんだよ。後任のやつを探してたんだが、丁度良い。お前が隊長やれ」

 

 

零番隊、王族特務の特別な部隊。霊王宮にて霊王を守護する最後の砦。

 

尸魂界の歴史そのものと認められたものだけが資格を持つとされ、その強さは護廷十三隊を凌ぐとも言われる、都市伝説級の噂となっているがその詳細を知る者は元柳斎以外誰も居ないとされている。

 

 

「零番隊ですか、実在していたのですね」

 

 

「お前が四番隊の隊長になれば、隊長権限であの坊ちゃんの部屋はキープ出来る。お前の回道の腕前は確かにあるし、医学知識も充分にある。お前以上の適任はいねぇ」

 

 

「四番隊…………ですか」

 

 

「もし、四番隊の隊長を引き継ぐならそのハ千流って名前は捨てて貰わなきゃならねぇ。理由は分かってるよな?」

 

 

卯ノ花が四番隊の隊長として移籍した場合、卯ノ花は現在の名前であるハ千流、つまりは剣八の称号を捨てなければならない。

 

四番隊は救護詰所でもあるが、隊士以外の治療を受け付けている。そこには一般人だけではなく貴族も含まれる。

 

ハ千流は護廷隊にとって最強の称号になっているが、瀞霊廷全体としては世紀の大罪人というようになっている。一般人や貴族も通う場所で大罪人が隊長を務めるのはイメージが悪いのだ。

 

ただでさえ、一部の貴族から護廷隊への風当たりは強く、ハ千流のまま四番隊の隊長となれば余計な問題を起こしかねない。

 

双盾の為であれば部隊を移るのは吝かではない卯ノ花。どの隊であっても自分のやりたい事は変わらないからだ。

 

しかし、卯ノ花が決断を渋るには理由があった。

 

 

「確かに剣八は瀞霊廷にとっては恐怖の象徴であって私の罪そのものです。ですが、私が積み上げてきたものを捨てたくありませんし、捨てて良い十字架ではありません」

 

 

「それなら別のやつに名乗ってもらえよ。そうすりゃ、剣八は消えないだろ」

 

 

「それはそうなのですが…………………」

 

十一番隊は山本元柳斎に任された戦闘専門部隊。護廷隊最強の部隊の長が弱くては務まらない。

 

そして剣八は最強にして最恐の称号。半端な者に名乗らせる訳にもいかないし、自分の犯してきた罪の象徴を他人に背負わせる訳にもいかなかった。

 

 

「俺が零番隊へ行くのは決定事項だし、総隊長には次期四番隊隊長はお前しか居ないと進言する。一週間もすれば正式な内示が出る筈だ。それまでに候補を探しとけ」

 

 

そう言われて、卯ノ花は十一番隊隊舎へと帰っていった。

 

双盾の事を思えば、四番隊の隊長となって側で治療をした方が良いだろう。しかし、それは自分の罪と誇りを他人に背負わせてまでする事なのか。

 

どれだけ考えようともその答えは出てこない。まるで深い霧の中に迷い込んだかのように思考に靄がかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、卯ノ花に対し四番隊へ移動命令が下された。引き継ぎを兼ねた報告として、十一番隊の隊士達が訓練室に集められることになった。

 

 

「私は四番隊の隊長となる事が決定したようです」

 

 

「良かったじゃないですか、隊長。何でそん顔してるんですか。あの人、名前忘れましたけど貴族の人の治療もしっかり出来て、上手くいけば隊長が満足出来る戦いが出来るかもじゃないですか」

 

 

「それはそうですが、どうしたら良いのか分からないのです。一時の気の迷いで貴方達にまで迷惑をかけてしまっても良いのかと…………………」

 

 

卯ノ花自身、自分の発言に矛盾のようなものを感じていた。今までは誰の迷惑や使命など考えず、自身の快楽を満たす為だけに暴れてきた。

 

それを満たしうるかもしれない人物を見つけた瞬間から自分の中の何かが変わっているのは確信していた。今の隊士に迷惑をかけたくないという思いも自身に起こった何かしらの異常として捉えていた。

 

 

「何を寝ぼけた事を言ってるんですか、隊長。隊長に迷惑をかけられるなんて今更ですよ」

 

 

副隊長の言葉に他の隊士達もそうだと頷いていた。十一番隊の隊士は卯ノ花の性格を反映してか、戦闘狂な一面が強い。暴れ回る卯ノ花への対応やそれに伴って増える仕事に苦労をしてきた。

 

しかし、それでも隊士が卯ノ花についていったのはその圧倒的な強さに惹かれたからだ。

 

『とりあず死ぬな。隊長以外に斬られても死ぬな、隊長に斬られても死ぬな』というのが十一番隊の隊士達の常識だった。これまで何百人の隊士が訓練と称して死にかけたか。

 

多少の迷惑など、隊士達にとって大した問題にはならない。

 

隊長が移動し、その引き継ぎ業務の発生程度のトラブルなどそよ風に吹かれる程度のことでしか無い。

 

 

「それに隊長、惚れた相手なんでしょ?だったら着いていくべきです‼︎隊長みたいな人は家庭を持って落ち着くべきです」

 

 

「は、ほほほほ惚れ⁉︎何を言うのですか⁉︎私はべべ別に痣城さんにそういう感情は抱いていません‼︎」

 

 

顔を真っ赤にして声を荒げる卯ノ花。隊士達は初めて見る卯ノ花の一面に思わずほっこりしてしまった。

 

 

「何をほっこりしているのですか‼︎ぶっ殺しますよ⁉︎」

 

 

「あっはっは、照れちゃって隊長。可愛いとこあるじゃないですか」

 

 

「本当にぶった斬りますよ貴方⁉︎」

 

 

「じゃあ、やります?」

 

 

冗談のつもりで副隊長に言ったのだが、副隊長意外にも乗ってきた。副隊長が冗談で無い事は霊圧の揺れを見れば分かる。

 

 

「本気で言ってるのですか?」

 

 

「流石に真剣じゃ勝ち目無いですし、木刀での試合形式といった感じでやりましょう。俺が勝てば隊長は四番隊の隊長となってもらいます」

 

 

「負けたらどうするのですか」

 

 

「それはその時考えます」

 

 

副隊長とはいえ他の護廷隊の隊長とも互角以上に戦える実力を持った副隊長、決してただの雑魚では無い。

 

しかし、卯ノ花と勝負するには実力の差があり過ぎる。

 

一般隊士から木刀を手渡される。隊士達は2人の邪魔にならないようにと2人から少し距離を取る。

 

隊長になるには幾つかの方法がある。護廷十三隊が結成された時に定められた規定には定められた試験に合格する事、隊長複数名からの推薦を得ること、二百名以上の立ち会いのもと現隊長と戦い勝利する事。

 

護廷十三隊が結成されてから暫く経ち、特例で繰り上げ昇進した隊長以外は皆現隊長との勝負で勝って隊長となっている。

 

より強き護廷十三隊をつくるためにその試験の難易度は高く、他の隊長は基本推薦などしない。

 

現実的に考えて今の隊士達が隊長になるには隊員立ち会いの元、隊長に勝つしかないのだ。

 

 

「本当に私と戦うつもりですか?今なら冗談という事にしてあげても良いのですよ」

 

 

「この虎徹天音、隊長にそんな冗談を言うほど馬鹿じゃないっすよ」

 

 

十一番隊が旗上げされた当初から副隊長として卯ノ花を支えてきた男、虎徹天音。彼は卯ノ花の戦う事に対する思いというのを理解していた。

 

戦闘専門部隊として戦闘においてふざける事は絶対にしてはならない。戦いを冗談とするのは今まで築き上げてきたものを愚弄する事に等しい。

 

虎徹は今培ってきたプライドと実力、そして卯ノ花への忠誠心に従って卯ノ花に勝負を申し込んだのだ。

 

 

「これまでの恩、纏めて返させていただきます。嫁入り前だからって加減してもらえると思わない事です」

 

 

虎徹はこれまでの全てを懸けて卯ノ花に戦いを挑んだのだ。それは虎徹の瞳に宿る意志の強さが物語っていた。

 

 

「そこまで言うのなら受け立ちましょう。油断も慢心も一切を捨て全力で貴方をぶちのめす事にします。覚悟なさい、天音」

 

 

隊長として、剣八として虎徹の決意を無駄にしてはいけないと卯ノ花は木刀を構えた。

 

二百名にも及ぶ隊士達に見守られながら2人の戦いは幕を開けるのだった。




キャプテン翼のライズオブニューチャンピオンというソフトを買いました。キャプテン翼はあまり知らなかったんですけどとあるVtuberの影響で買いました。

慣れるまで難しいですけどめっちゃ楽しいです。オススメですよ。

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