隊首会。定期的に開催される隊長達による報告会のようなもの。四十六室の決定の通達、総隊長命令の通達や重要案件の会議などが行われる。
「これより新隊長を発表する。四番隊隊長卯ノ花烈」
ハ千流という名を捨て、本来の名を語る事にした卯ノ花。強き者への拘りを捨てた訳でも無く双盾の為だけに捨てた訳でもない。
更に強くなる為であった。戦闘だけではない、助けるべき時に助けられない弱い自分にならない為であると自分の中でそう結論づけた卯ノ花。
微笑ましそうに見てくる元柳斎と信じられないものを見ているといった同僚達に青筋を浮かべる卯ノ花だが怒りをグッと抑えた。何故なら自分はもうハ千流では無いからだ。
「卯ノ花烈、麒麟寺天示郎、山本元柳斎の連名により虎徹天音を十一番隊隊長とする。そして虎徹隊長の申し出である剣八と名乗る事を許可する」
「有り難き幸せ。この虎徹剣八、護廷の刃として誠心誠意尽くしましょう」
卯ノ花と虎徹の試合は結果的にいえば虎徹の勝利となった。何度打ちのめしても、もう一度と立ち上がった。何度も繰り返すうちに、自分の攻撃に対応出来るようになり、反撃もするようになっていた。
卯ノ花はそんか彼の覚悟と成長を認め隊長に推薦した。麒麟寺には四番隊に移る条件として、山本元柳斎には見合いをした報酬として虎徹を隊長に推薦させた。
「一通りの必要事項は伝えた。これにて隊首会を終了とする。卯ノ花隊長は暫し残れ」
隊長達がぞろぞろと退室していく。以前あった滅却師の尸魂界への侵攻以来大した事件は無く、これといった変革も無い。
それ故に隊首会は早く終わる事が多い。
「して、その後痣城双盾はどうだ?」
「痣城邸にいた頃よりは体調は安定していますが、油断はならない状況ですね。双盾さん提案の訓練方法を四番隊の隊士で実践しているのですが、次の隊首会にはそれなりの報告が出来るかと」
四番隊は基本的に非戦闘員である為、隊士の戦闘能力は他隊と比べてかなり低い水準にある。
ハ千流出会った頃のノリで訓練すれば平の隊士でもそれなりに戦えるようになるかもしれないが、それでは耐え切れず辞める者や死傷者が出かねない。それにハ千流としての卯ノ花はもう封印したのだ。
「うむ、それは結構。恋仲としてはどうなのだ?多少の進展はあったのだろうな」
本来であれば護廷隊ではない双盾の協力は受けるつもりが無かった元柳斎だが、卯ノ花を変えた人物として評価が高くなったこと、双盾提案の訓練方法に興味が湧いたのだ。
それに、非戦闘部隊である四番隊の隊士が強くなれば護廷隊として出来る幅も増える。そしてその訓練を他隊にも実践すれば更なる強化に繋がる。
以上のことから元柳斎は双盾の提案を呑み静観していた。
隊長の入れ替えがあってもそれなりに上手く回っているのは元柳斎としても安心なのだが、2人の仲介役をした者として双盾と卯ノ花の関係が気掛かりであった。
「セクハラですか?総隊長といえど斬りますよ。あと、恋仲などではありません」
「鍔を鳴らすな、鍔を。四十六室への報告もある。中には貴様が四番隊の隊長になった事に嫌悪感を示す者もおる。貴様が変わった事を証明せねばならんのだ」
最もらしい事を言う元柳斎だが、卯ノ花の件に関して四十六室は可能な限り関わりたく無い為元柳斎に全て任せている。つまり、報告義務などは存在しない。
単純に、元柳斎の興味本位で聞いているだけだ。
「恋仲も何も私にそう言った感情は無い筈です。そんなものとうの昔に捨てました。私は仕事があるので、用がないなら今日はこれで失礼します」
卯ノ花は何かを誤魔化すように早口で答えると足早に部屋を出ていった。
「''無い筈''か………………これはこれで前進したと言えるか」
女として、人として当たり前の愛するという感情を捨ててきた卯ノ花が無いと否定し切らなかった。今まで卯ノ花を口説こうとした死神は居ない訳では無かった。
そんな相手に卯ノ花は能面のような表情を浮かべながら斬り捨てていた。
そんな卯ノ花が自身に愛するという感情が無いと思っていた事に疑念を感じ始めている。
麒麟寺天示郎を始めとする他の隊長達も卯ノ花が変わってきたと言っていた。
「かなり落ち着いたようで一安心といったところか。一先ず、任務達成の報告だけしておくか」
四十六室から命令された卯ノ花を大人しくさせろというもの。命令は四番隊に移籍し、卯ノ花ハ千流なら烈と名乗った事で解決したとして結果の報告をすれば良いかと元柳斎は結論付けた。
しかし、四十六室の中には元大罪人である卯ノ花が瀞霊廷の救護詰所である四番隊になった事に否定的な者もいる。卯ノ花が変わったと思っていない者の方が多い。その印象の払拭はこれからの卯ノ花に掛かっている為元柳斎は可能な限り見守る所存だ。
「それにしても…………抜き身の刃が鞘に収まった分、何かの拍子に抜刀されたら大変な事になりそうだな」
触れるもの全てを斬ると言わんばかりだった雰囲気が鞘に収まった事で、その刃が抜かれた時以前よりも切れ味を発揮してしまうのではなかろかと感じ、今後卯ノ花の堪忍袋の緒が切れないよう注意しようと決心した元柳斎であった。
四番隊隊舎にきて以来双盾の体調はすこぶる良くなっていた。ちゃんとした診察に基づく薬の処方、規則正しい生活のお陰なのだろうか。
「双盾さん、体調は良いようですね」
「ええ、おかげさまで。最近は白打の練習もしているんですがやっと型が定まってきたところなんです」
自作したのか、いつのまにか病室に置かれていた丸太に拳打を打ち込む双盾。
「他の死神の方みたいに上手くはいかないですが、人に見せられる程度には出来るようになりました」
卯ノ花はため息を吐くと双盾の襟首を掴みベッドへと投げ込む。
「あまり無茶をしないでください。また血反吐を吐いて周りに迷惑をかけるつもりですか」
「これだけ身体の調子が良いと何でも出来ちゃいそうで……………最近考えてるのは白打や斬術と鬼道を組み合わせた戦術が出来ないかと考えてはいるのですがどうもしっくり来ないんですよ」
入院してから暇潰しに書き記した斬術、鬼道、白打の修練方法は卯ノ花から見ても舌を巻く程の完成度だった。
これが死神の間に普及すれば護廷十三隊の戦力の総合値は間違い無く高くなるだろう。
「それはそれとして、先程の白打は悪くありませんね。殴り合いになれば有用なのかもしれませんが、基本的に死神が戦うのは虚ですし、隠密機動でも無い限り白打をメインで使う事が無いので実用性はそこまで高くないかと。でも、護身術程度なら使えますね」
「卯ノ花さんにそう言って貰えると自信が出ま……ゴホッ‼︎」
突然咳き込む双盾、卯ノ花は慌てて駆け寄る。血を吐き出してる訳では無い為然程酷い訳では無いのだろうが咄嗟に回道をかけていた。
「だから無茶はしないでと言ったでしょう‼︎また貴方に倒れられたら私は………私は……………」
初めて会った時の事を思い出したのか卯ノ花は悔しげに唇を噛む。
自身の不甲斐なさが産んだ状況。あんな思いは二度としないと武力以外の力を求めてきた卯ノ花。
「そんな顔しないでください。僕がこうしていられるのは卯ノ花さんのおかげなんです。貴女のお陰でこうして毎日が楽しいんです。だから笑ってください、貴女の笑顔を僕に見せてください」
「全く、貴方はいつもそうやって………………変な女に引っかかっても知りませんよ」
「あはは、それはちょっと困るかな」
小さく溢した言葉に卯ノ花は笑みを浮かべた。自分がもう言い訳のしょうがない状態にある事を。
「ふふ、その時は存分に笑わせてもらうとしましょう」
久方ぶりに笑顔を浮かべた卯ノ花。戦闘中の愉悦からくる獰猛な獣を思わせる笑顔では無く、心から来る爽やかな笑顔だ。
「やっぱり美人は笑顔が似合いますね」
「な、ななな何を言うんですか‼︎そんな冗談を言ってないで大人しく寝てなさい‼︎」
笑顔に見惚れた双盾が何気なく呟いた一言に顔を真っ赤にする卯ノ花。
「薬はそこの棚に入れてありますので、食後にちゃんと飲む事‼︎運動するのは良いですが、無茶はしない事を徹底してください‼︎お大事に‼︎」
卯ノ花は飛び出すかのように病室の扉を強く閉める。救護詰所であるというのに声を荒げ、顔が熱くなり、心拍強く脈打つ。
戦闘中のような高揚ではない、別の何か。
卯ノ花自身に湧き上がってきている感情の名前は彼女自身にも分からない。
一緒にいるだけで心休まり、暖かな気持ちになり何気ない一言や仕草に胸が高鳴るこれは何なのか。
卯ノ花にこの答えが見つかるのはまだ先の話である。
リメイク前はこの時点で自身の気持ちに気付いてた烈さんだけど今回はちょっと違いますね。限りなくリーチな感じです。
次の回は明日の18:30くらいです。お楽しみに!!