卯ノ花が四番隊隊長となり数年が経過した。双盾も屋敷にいた頃に比べて体調は良くなっていた。
しかし、未だ1日の大半はベットの上で過ごしており定期的に散歩や軽い運動が出来る様になった程度だ。
「それで、僕に要件ってのは何かな?虎徹隊長」
「やめてくださいよ、貴方は護廷隊じゃないし身分だけで言えば貴方の方が上なんだ」
「そんな怒気を含ませた霊圧でここに来ているんだ。僕に何か言いたい事があるんでしょ?」
双盾の病室に来ていた虎徹の霊圧には明確な怒気が含まれていた。殺気とは別のものだが、そこに含まれている感情はとても強いものだ。
「一つ、聞きます。貴方は卯ノ花隊長に惚れてるんですよね?ちゃんと夫婦になろうって思わないんですか」
「中々言うタイミングが無いし、治療部隊の隊長として忙しくしてるあの人にこれ以上迷惑はかけられない。僕の気持ち一つであの人のこれからを邪魔したく無い。ちょっと我儘ですが、今のままで良いんです」
双盾は自身の病弱さを理解していた。幾ら体調が良くなっているとはいえ、日が経つ毎に死に近づいている事を実感していた。
いつ死ぬかも分からない自分が想いを告げる事は卯ノ花を縛り付ける事にしかならない。未来ある彼女に自分という重荷を背負わせてはいけないと双盾は思っていた。
「迷惑だと……………貴方それ本気で言ってんのか?」
「仮に僕の想いを伝えて一緒になれたとしても、長くはいられない。僕が病弱でなかったら隊を移る必要も無かったし、彼女自身の願いも果たせたかもしれない。こうして彼女を縛ってしまっているのにこれ以上迷惑を「歯ァ、食いしばれ」ッグ‼︎」
双盾が想いを語っている最中、虎徹は我慢の限界とばかりに双盾を殴った。
殴った虎徹の目には涙が浮かんでいた。
「迷惑?腑抜けた事言ってんじゃねぇよ‼︎あの人がその程度の荷物で潰れる弱い人だと本気で思ってたのか⁉︎俺達みたいな馬鹿200人を纏めてた人だぞ‼︎今更病人の1人や2人増えようが関係ねぇ‼︎」
殴られた頬を押さえ双盾は虎徹の話を黙って聞いていた。
「隊長は貴方に惚れてる‼︎でも、あの人は護廷の者としての責任感の強さと貴方への罪悪感のせいで想いを告げられないでいる。いや、自分の想いに気付かない振りをしてる。貴方から行かなくてどうすんだよ‼︎想いを告る事が出来るのに何でしないんだよ‼︎」
それは双盾への怒りだけでは無かった。虎徹自身が感じていた悔しさの表れでもあった。同様に想いを抱きながら伝える事が出来なかった虎徹と伝えられる立場にいながら言おうとしない双盾。
自分に出来なかった好きな人を幸せにするという事を叶えられるのにしようとしない事に悔しさと怒りを感じていたのだ。
「あの人を幸せに出来るのは貴方しかいない。あの人に安らぎを与えてやれるのは貴方しかいないんだ。もし、これ以上腑抜けた事をぬかすなら、お前を殺す」
それだけ言い残し虎徹はその場を去っていった。双盾はその後も暫く頬を押さえ黙り込んでいた。
四番隊の隊舎には隊士達の訓練の為に道場が設置されている。しかし、入院し復帰する隊士達のリハビリ用の施設として利用されることの方が多い。
そんな道場に卯ノ花と双盾は2人きりでいた。お互い腰には斬魄刀を差している。
「話があるからと来てみればどういうつもりですか」
「以前、出来なかった試合の決着をつけましょう」
「そんなことが出来る身体じゃないでしょう」
「以前麒麟寺さんからいただいた丸薬のお陰で短時間なら大丈夫です。貴女と本気で語るなら''コレ''しかないでしょう」
そう言いながら抜刀する双盾。その霊圧は卯ノ花が初めて会った時とは比べ物にならないほど高まっていた。
それが薬の影響なのか、体調が整った双盾の本来の霊圧なのかは卯ノ花には分からない。
「もし、何か躊躇っているようなら…………ちょっとの怪我とかじゃ済まないですからね」
そう言いながら瞬歩で距離を詰める双盾。卯ノ花に戦う意志は無く、構えすらしておらず反応が遅れてしまう卯ノ花。
しかし、剣八としての本能が双盾の攻撃に反応したのか、瞬間的に抜刀し双盾の攻撃を受けていた。
「辞めなさい‼︎これ以上は抑えきれなくなる
‼︎今の貴方にはあまり抑えて戦う事は出来ません‼︎」
今の双盾の霊圧は並の隊長格よりも数段上だった。少なくとも卯ノ花がハ千流として殺すに見合う実力である事は確かだ。
そんな状態では長らく抑えてきた剣八の部分を抑えきれなくなってしまう。
そんな事はお構いなしと双盾は攻めを苛烈にしていく。
「今の貴方は護廷の保護下にあって殺される心配はありません。それなのに、何故命を賭けるような真似をするのです⁉︎」
卯ノ花が四番隊の隊長になってから卯ノ花は、元柳斎に掛け合い双盾が痣城本家と関わらないようにしてもらった。
そうした事で、殺される心配なく、安全に治療が出来るようになった。それにより体調は良くなっているが、戦闘が出来るほどではない。
医療に関して麒麟寺は卯ノ花の上をいっている。そんな麒麟寺が作った薬であるならそれなりの効果がある。
しかし、麒麟寺から渡された丸薬とはいえ、副作用が無いとは言えないし、効力がどれだけ続くかわからない。このまま戦っても自分に殺さるか、発作を起こすかの二択である為卯ノ花は何とか双盾を止められないか考えた。
「貴女が惚れてるからです」
「な⁉︎」
咄嗟の告白。体が硬直するのと同時に赤面していくのを感じた卯ノ花。時間にして数瞬、まさに刹那といえる時間。しかし、戦闘の最中ではその刹那の隙すら命取りとなる。
双盾の一撃は卯ノ花の肩を切り裂いた。すぐさま回道をかけ治癒していく。
「あの日、刃を交えてから僕の頭の中には貴女しかいない。貴女を惚れさせる為なら命の一つや二つ、喜んで賭けてやりますよ」
「あの、ちょ、やめてください‼︎」
顔から火が吹き出るほど赤面した卯ノ花。多くの戦闘を経験してきた卯ノ花だが、戦いの中で告白してきた者は1人もいない。
ましてや双盾は初めて好きになった人である。その人から自分への想いを告げられ嬉しさと恥ずかしさのあまりどうにかなってしまいそうだった。
「破道の一、衝」
今の双盾は何がなんでも卯ノ花と戦う気でいる。そんな双盾を出来るだけ傷つけ無い為に斬魄刀目掛け鬼道を放った。
「緩い」
しかし双盾は自身に放たれた鬼道を着弾する直前に斬った。
鬼道を弾くのでは無く斬った。そして双盾の霊圧先程までと違い更に大きくなった。
「これが僕が今出せる全力です」
「分かりました。一撃、ただの一撃だけ本気で参ります。死なないでくださいね」
直後卯ノ花が解放した霊圧に双盾は生まれて初めて冷や汗が出た。
並の死神では近寄る事すら許されない冷たく、恐ろしい霊圧。
意思を持った死がそこに立っていた。
次の瞬間卯ノ花は双盾の目の前に現れ、突きを放ってきてちた。明確に迫る死。その中で双盾の頭の中はこれまでに無いほど冴え渡っていた。
「うぉぉぉぉぉあ‼︎」
これまで上げた事ないであろう雄叫びを上げながら卯ノ花の刃をその身で受けた。
「なっ⁉︎」
卯ノ花の突きが身体を貫いた瞬間に双盾は卯ノ花腕を力強く掴み、斬魄刀を引き抜けなくする。
咄嗟の事で反応が出来なかったのか、捨て身の行動を以外に思ったのか卯ノ花は動きを止めてしまった。
「ガホッ、ゴホッ………………僕の………か…ちで…………………」
血を吐き出しながら左手に握った斬魄刀を卯ノ花へと突き立てる。
双盾の視界はそこで暗転した。
双盾が目を覚ますと病室の中だった。攻撃を受けた筈の部分は綺麗に治療されていた。
隣には卯ノ花が立っていた。
「貴方は大馬鹿者です。勝てる筈も無いのに私に薬を飲んでまで勝負を挑み、私の太刀をその身で受け止めて………………」
「う、うの、卯ノ花さ、ん…………」
意識が覚醒したばかりだからなのか、舌が回っておらず辿々しい双盾。
「貴方病とは別に馬鹿の虫を治さなければいけないみたいですね。私が治してあげます」
気付いているのか、いないのか頬を染めながら話す卯ノ花。卯ノ花がどういった腹づもりで話したかは卯ノ花自身にも分かっていない。双盾は小さく微笑み、そして手を取る。
「ぼ、ぼくは………この病のせいで、いつ死ぬか分かり、ません。でも、必ず治して、みせます。もし、完治したなら僕と本気の斬り合いをしてください。それまでは僕と一緒にいてほしい」
「ええ、勿論。貴方の馬鹿の虫とその病は私が一生をかけて治してみせます。そして何の憂いも無くなった時、貴方の首を私が撥ねます」
卯ノ花の心を写したかのように、病室から見える夕日は美しく輝いていた。
まだだ!!まだ恋を自覚させんよ!!
双盾さんも大概ぶっ飛んでんなって笑う。このカップル(予定)殺伐としている……………