双盾は流魂街、更木の外れの方に来ていた。珍しく兄から連絡があったからだ。屋敷に住んでいた間も出た後もまともな会話などはした事が無い双盾と当主。
文面は本当に兄が自分に宛てたものなのかと疑う程丁寧な文に呼び出される場所が屋敷などでは無く、留魂街。双盾は斬魄刀を腰に差し、薬箱から丸薬を懐に入れ四番隊隊舎を出たのだった。
双盾の目の前には、当主と武装した傭兵が百人近くいた。
「体調は良さそうだな、良かった」
「おかげさまでかなり良くなってるよ。ありがとう兄さん」
「思ってもない事を……………」
「何を言って「黙れ‼︎昔からお前はそうだった‼︎」」
双盾の言葉を遮り当主は怒りを露わにする。昔から溜め込んでいたものが一気に吹き出したかのように。
「そうやって出来た人格を装って周囲に愛想を振り撒き、俺を見下していただろ‼︎父も母も貴様が当主になれば比べられていた俺を憐んでいただろ‼︎」
双盾の才能は痣城始まって以来のもの。平凡以下な当主の才能とは比べるまでもなかった。先に生まれただけで当主になれる、双盾が病弱でなかったら…………幼少期から腐るほど聞かされてきた言葉。
どれだけ努力しようと、どれだけ成果を出そうと誰も見ない。誰も認めない。常に比較されてきた当主にとって双盾の優しげな瞳は自身を見下しているとしか思えなくなっていた。
「哀れなお前に教えやろう!!あの大罪人は今日ここでお前と一緒に殺される‼︎お前はあの大罪人を誘き出す為の餌であり人質だ‼︎あの女が死んだあと私がこの手で殺してやる‼︎どうだ、双盾‼︎お前を嵌めた、俺はお前を超えたんだ‼︎」
この作戦を聞いた時、当主は初めて双盾に勝てた気がした。
卯ノ花は言うまでもなく護廷隊の中で最強格であり、体調さえ良ければ互角以上に戦える双盾も化け物のようなものである。
しかし、双盾の体調が回復しているとはいえ長時間の激しい運動は出来ない。ましてや戦闘など以ての外である。
数の暴力で双盾の抵抗する体力を削り、人質に取る事で助けに来る卯ノ花を無傷で殺す事が出来る。他の護廷隊への牽制は貴族達が担当しており、自分は双盾と卯ノ花の死に様を間近で見られる。
当主は隙の無い計画に笑いたくなる気持ちを隠せなかった。
「安心しろ、お前はあの女が来るまで殺さん。人質として働いてもらわんと困るからなぁ。お前たちは俺に負けるんだぁ‼︎」
「残念だよ、兄さん」
計画を聞かされた双盾の顔には焦りや苛立ち、恐怖といった感情は一切無かった。そこにはただの憐れみしかない。
双盾は懐から丸薬のようなものを取り出し、飲み込む。すると、双盾の霊圧は好調時に近いものとなった。
「ありがとうございます、麒麟寺さん」
双盾が服用した丸薬は麒麟寺が作ったものだ。服用者の霊圧を高め、体調を整える効果がある。
「さ、兄さん。久しぶりに兄弟喧嘩といこうじゃないか」
「またお前は俺をぉぉぉぉぉぉお‼︎やれぇ、やれぇ‼︎死ななければ何をしても構わん‼︎やれぇ‼︎」
斬魄刀を引き抜き、構える双盾に金切声をあげながら傭兵達に指示を出す。
すると斬魄刀を構えた男達が双盾に斬りかかる。
しかし、双盾は慌てる事なく蚊でも払うかのように二度三度斬魄刀を振るう。すると双盾に斬りかかっていた男は糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。
しかし貴族達が刺客はまだ多くいる。
「お前が化け物じみているのはよく知っている‼︎だがお前は長時間戦う事は出来ない‼︎ここにいる奴らは一番金を掛けて用意した強者揃いだ‼︎お前のような化け物でも耐えきれないだろうなぁ‼︎」
双盾を警戒してか痣城の傭兵達は斬魄刀を始解させている。炎熱系、氷雪系、直接攻撃系………さまざまな斬魄刀がただ1人のために向けられている。
「お前達のせいで、使用人も部下も俺を見なくなった‼︎皆痣城の名に畏怖を感じなくなった‼︎お前のせいで俺はぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「やっぱり兄さんは当主に向いてるよ…………家名を、貴族としての誇りをなによりも大事にしてる。そんな事、僕には出来ない」
「殺せェェェェ‼︎殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセェェェェェェェェ‼︎」
息を切らす事もなく、軽々と斬魄刀を振るう双盾に対し何かが切れてしまったのか壊れたラジオのように殺せと連呼するようになってしまった。
当主の声を号令にして一斉に斬りかかる傭兵達。双盾は1人ずつ丁寧に斬って落とす。
避けて、斬る。躱して、斬る。防いで、斬る。傭兵達は必死に双盾を殺しにかかるが誰も双盾に傷をつけられない。誰も双盾の表情を崩す事は出来ない。
「当主として重圧にも負けず、当主として頑張ってきた兄さんを本当に尊敬してた」
また1人、斬って落とす。
「僕を憎んでいたのも知っていたし、殺そうとしているのも知ってた。それが兄さんの為になるならそれも仕方無いと思っていた」
当主にゆっくり、ゆっくりと近づく。襲い掛かる傭兵達を虫でも払うかのように斬って落とす。
「兄さんが卯ノ花さんとの見合いを許可してくれなかったら僕はただ死を受け入れるだけだったと思う。僕がもっと上手くやれてればと思って割り切るよ。この首で怒りが収まるならいくらでも差し出すつもりだった。別に怒りもしないし恨みもしない…………………でも、一つだけ許せ無い事があるんだ」
その言葉には普段の双盾ならば考えられない程の怒気が含まれていた。
「僕と兄さんの問題に関係の無い卯ノ花さんを巻き込むな‼︎」
怒気を撒き散らしながら双盾はゆっくりと当主を間合いに捉える。周りにいる傭兵達は動く事が出来ない。少しでも間合いに入れば死ぬという事を本能で理解してしまったからだ。
「抜きなよ、兄さん………僕と兄さんの一騎打ちだ。よく狙った方が良いよ。僕を仕留め損った瞬間に兄さんの首を刎ねる」
斬魄刀を構えず手を広げる双盾。当主の目には能面の如く無の表情をした双盾が写っている。怒りはしているがその瞳に当主は全く写っていない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎」
喚き声にも近い叫び声を上げながら斬魄刀を引き抜き双盾へと斬りかかる当主。
直後、傭兵達の後ろの方で小規模の爆発と極度の霊圧の変化が起きた。
双盾は咄嗟に当主の襟首を掴み遠くへと放り投げる。次の瞬間、弾丸のように飛んできた何かが双盾へと斬りかかる。
「これはちょっと不味いかな?」
「お前、面白そうだな‼︎俺と遊んでくれよ‼︎」
飛来してきたそれは少年だった。身長でいえば双盾の胸あたりの高さしかない子供である。しかし、その手にはボロボロに刃こぼれした斬魄刀が握られていた。
「ジジィ共の口車に乗せられて来てみたら雑魚しかいねぇのかと思って暇してたがよぉ、ちったぁ遊べそうな奴がいて良かったぜ‼︎」
「そうかい、君と遊んであげられる程余裕が無いからね。帰ってくれると嬉しいな」
「折角楽しめそうな奴を見つけたんだ‼︎どっちかが死ぬまでやろうぜ‼︎」
獣のような雄叫びをあげながら双盾へと斬りかかる少年。双盾はそれを冷静に捌きながらかんさつした。
技術はお粗末なものだが、その膂力からくる速さと力強さは脅威だった。だが、何よりも脅威なのはその成長速度。
双盾の動きを見たからなのか、段々と攻撃が鋭くなっていくのだ。自分よりも練度の高い敵の動きを見て自分に合うように実践する。
少年は強くなっている実感が湧いて楽しくなっているのか獰猛な笑みを浮かべている
「凄いね、君。僕が戦った中で一番………いや、二番目に強いかも」
双盾が思い浮かべたのは卯ノ花の顔。斬り合いを楽しみ攻撃、防御の全てが相手を殺す為の剣技である卯ノ花の強さは双盾の目から見ても瀞霊廷の中で最上位の強さであると確信出来た。
しかし、目の前の少年は単純な斬り合いだけならば卯ノ花よりも強い可能性があった。
総合力で言えば間違い無く卯ノ花である。しかし、可能性と異常な成長速度を考えれば少年の強さは危険と言わざるを得ない。
「そうか、お前以外にも楽しめそうな奴がいるのか‼︎そいつともやってみてぇな‼︎」
「凄く素敵な人だよ…………でも、君には会わせられないな」
卯ノ花の望みは自分より強い相手と死合う事。今は自分に興味を持っているが、この少年と出会ってしまえば卯ノ花の心が満たされかねない。そうなれば病弱で満足に戦えない自分は見向きもされなくなってしまうと双盾は感じた。
「君が僕と遊ぶ事で満足するなら良いけど」
「斬り合いに満足もクソねぇだろ‼︎お前みたいに強い奴がいるならそいつとも斬り合うに決まってんだろ‼︎」
「そうか、なら決まりだ。君は今ここで殺す」
「良いねぇ‼︎そうこなくちゃ面白くねぇ‼︎」
この少年をこのまま野放しにしてしまえば卯ノ花だけではなく、多くの護廷隊士が死ぬ事になる。
双盾は手に入れた居場所、大切な人を失わない為に目の前の少年を殺す覚悟を決めた。
双盾が覚悟を決めた事を感じ取ったのか、少年は嬉しそうに笑顔を浮かべながら双盾に襲い掛かった。
お久しぶりでごさいます。
こちらの方は千年決戦のアニメまでにこっちも千年決戦まで入りたいですね。
次回は双盾対少年(ショタ剣八)ですね。
呪術もこちらもエタりはしません。ゆっくりですが更新します。良かったらコメント感想などくれると嬉しいです