時間がかかりましたが、最終話です。
難しい話ではない。
涙を流す少女がいた。
少女は本当は少女でないのだとしても。
本当は人類の脅威なのだとしても。
オレはその結末に耐えられなかった。
だったら、やることは一つだ。
覚悟を決めろ、拳を握りしめろ。
世界を敵に回しても、少女を救う。
これは今までの戦いとは異なる。
脅威を撃破する戦いではない。
味方を防衛する戦いではない。
そもそもの戦いに終止符を打つ。
天城セカンドが笑える世界にする。
これは、そういった戦いだ。
欲しいのは
宇宙人が幸せにならないと、天城セカンドが笑えないと言うのならば。
絶対に、宇宙人ごとセカンドを救ってみせる。
「……要するに」
天城セカンド。宇宙人の兵装も、怪獣の肉体も、妖怪の能力も失ったその少女(元男)は、オレに向かってこう言った。
「馬鹿は死んでも治らねぇってことだろ?」
「あの、そこまで言わなくても……」
オレたちは瓦礫の下に潜んでいた。
近くにグレムリンはいない。グレムリンとの戦闘後、セカンドのワープを使って逃走し、今は二人で相談している。
「テメェの言い分は分かった。だが、具体的にどうする?三大勢力の全てが敵に回り、グレムリンという最悪の敵が未だ存在し、地球でも怪獣が暴れている。敵は多いし、逃げ場もねぇ。どうしようもねぇだろ」
「……どうしようか」
「馬鹿か!?あれだけ啖呵を切っといて、何も考えてなかったのか!?宇宙人を救う方法も、戦争を止める武力も、おれ達には何もねぇんだぞ!?」
「待った待った、暴れるな!そんなボロボロの服で暴れると、色々と見えすぎるんだって!」
「見た目同じだろぉが……気にすんな!!」
「気になるわ!見た目同じだから、なおさらオレまで恥ずかしくなるわ!!!」
暴れるセカンドを宥め、必死に考える。
まずは情報を整理する。
まず、オレたちの目的は宇宙人を救うこと。具体的には、第二次超常戦争を止める。宇宙人を故郷に返す。そのための方法を探る。
次に、オレたちの障害は三つある。
一つ目はグレムリン。キャノンボール上に存在する全ての機械を支配する、最悪の妖怪。文明を捕食する異星の脅威。
二つ目は地球怪獣ガイア。カイの生みの親にして、地球そのもの。怪獣の母体。現在、地球上で怪獣を暴れさせている人類の脅威。
三つ目は三大勢力。『ガバメント』、『カンパニー』、『アウトロー』。
最後に、オレたちの今の戦力。
オレは幾つかの兵装と、カイの細胞を持つ。特殊兵装の機械支配ユニットは、グレムリンの攻撃で破壊されているので使用できない。怪獣のカイは力を貸してくれるかもしれないが、他の仲間である三大勢力は敵に回っている。
セカンドが使える兵装は
「……詰んでないか?」
「だから言ってんだろ。無理なんだよ……」
「なら、いつも通りやるしかないよな」
「何か思いついたのか?」
一人で無理なら二人で。
二人で無理なら三人で。
それでも無理ならもっと沢山。
やることはいつだって同じだ。
「グレムリンに力を貸してもらう」
「はぁ!?」
「あらゆる機械を支配できるグレムリンが、オレたち二人を逃すとは思えない。出てこいよ、何処かに潜んでるんだろ?」
空間が揺らぎ、
それこそが妖怪グレムリン。
宇宙人よりも宇宙人らしい、エイリアンの如き容貌をした異星の脅威。
『応答、よく気がついた』
「気づかないわけないだろ。オレがどれだけお前の相棒をやってきたと思ってる」
その言葉に、グレムリンが目を見張る。
オレの信頼の眼差しに気づいたのかもしれない。
「頭沸いてんのか!?コイツはテメェの身体を乗っ取って、異星を襲撃した全ての元凶なんだぞ!!」
「いいや、オレはもう間違えない。一方的に悪だと決めつけて、一方的に攻撃するだなんてもうごめんだ!」
グレムリンは文明の捕食者である。
グレムリンは異星の脅威である。
グレムリンは絶対的な悪である。
……本当にそうなのか?
オレはもう信じることを諦めない!
「オレはグレムリンを信じてる。グレムリンが異星を襲撃したのは真実かもしれない、グレムリンが宇宙人をハッキングしたのも真実かもしれない。でも……お前はそれが全てなんかじゃない!お前は何度もオレを助けてくれた、お前はひとりぼっちになったオレの心の支えだった!」
『…………ぁ』
「そもそも、お前には宇宙人をハッキングする動機がない。妖怪が人類を襲うのはその生命力を必要とするからだ。でも、宇宙人に人類を襲わせたとして、それがお前に何の得があるっていうんだ。だから……それはきっと、他人のための行動なんだ」
宇宙人が人類を襲わなかった場合、第一次超常戦争はどうなっていたのだろうか。
迫り来る二つの脅威。
存在しない宇宙人という要因。
宇宙人は多くの犠牲者を生み出したが、生み出したのは犠牲者だけじゃなかった。
「お前、人類を救いたかったんだろ?」
「はぁ?どぉいうことだよ……」
「人類の脅威の三竦みだよ。宇宙人がいなかったら、『ガバメント』のサイボーグ技術も存在しない。つまり、怪獣の天敵が存在しなくなるんだよ。しかも、半妖や超人は妖怪の血統や奇跡的な偶然といった要因によって生まれる。努力で作成できる
『わ、たし、は…………』
「そもそも、三竦みっていうものが人類に都合が良すぎて不自然だったんだよ。怪獣の弱点をつける上に、お前が制御できるものを選んだんだろ?お前は怪獣から人類を救いたかった。だから、宇宙人を地球へ呼ぶ必要があった」
グレムリンは悪じゃない。人類を救うことと、人類の脅威を増やすことは矛盾しない。
もしかすると、グレムリンには人類を救う以外の目的もあったのかもしれない。でも、オレはグレムリンを信じている。例えどんな目的があったとしても、グレムリンは人類を見捨てられないし、オレのことを助けてくれる。それがわかる程度には、一緒にいたんだ。
「十年前だけじゃねぇぞ!八年前……テメェが異星を襲撃した件はどうやって説明する!?テメェだって女に作り替えられたんじゃねぇのかよ!?」
「そんなの知るか!でも……きっと、そうしただけの理由があったんだ!人類にも宇宙人にも被害を与えたのかもしれないけど、それでもグレムリンは悪いだけの存在じゃないんだ!だから教えてくれ、グレムリン!あの日に何があったのか!!全ての原因となったお前の動機を、オレとお前の関わりを!!!」
グレムリンは人類を救った。
グレムリンは異星を襲撃した。
グレムリンはオレに取り憑いた。
そこに、グレムリンの動機が隠されている。
八年前の事件にオレが関わっていたのなら、きっと悪いのはグレムリンじゃなくてオレなんだ。
『……回答、……私は、人類を救うつもりなんてなかった。しかし、私たち妖怪は人類に形作られた存在で、人類が滅亡した未来は私たちにとっても都合が悪かった。私は……私たちは、ただ生きたいだけなんだ。人類から生まれたのに、人類を喰らうような矛盾した存在でも、生きていたかった……』
グレムリンは息を深く飲む。
その見た目は悪魔のようであったが、その目は迷子の少女のように泣きそうだった。
『でも、八年前……私がレイを殺したときに全部諦めた。どれだけ理性で耐えても、妖怪の本性は揺らがない。存在の揺らぎは、生命力の飢えは満たされない。あの時、妖怪は滅ぶべきだと気づいた』
それこそが天城レイの一度目の死。
飢えに耐えきれなかった妖怪と、ただそこに居ただけの人間の結末。
その悲劇を覆そうとした奴がいた。
「そうか……異星を襲撃したのは目的達成のための手段に過ぎない。オレを
『肯定……、私に人体を治療する能力はない。私にあるのは機械をハッキングにする力だけ。……応用して電気信号を操ることで、ショック死は避けられるのではないかと推測したが、結局は脳以外の全ては使い物にならなくなった。だから……肉体を丸ごと入れ替える必要があった』
全身に兵装を収納した次世代兵器だが、実際はそれ以外に方法が無かっただけ。それを目的として造られたわけではなく、全身義体は治療の副産物に過ぎない。
「オレが女になったのはどうしてなんだ?最初はお前の趣味かと思っていたけど、そこまで思い詰めた状況でふざけるような奴じゃない。何が意味があるんだろう?」
『唖然、レイは……どこまで私を信頼している。…………宇宙人産の
「……まぁ、やけに都合が良いとは思ったよ。過去に会ったことがあるぐらいの理由で、チカさんやフミさんに受け入れられるはずが無いもんな。やっぱり、お前は信頼に値する奴だよ」
『否定、容姿は庇護欲を抱かせるもので、信頼を抱かせるものではない。レイが『アウトロー』に受け入れられたのは、レイの功績。……それに私はレイに信頼されるような存在ではない。私は目的を隠して、レイをずっと戦わせていた。私はずっと自分のことしか考えていない化け物だ』
どうして、人類を救ったのか。
それは、生きたかったから。
どうして、異星を襲撃したのか。
それは、生かしたかったから。
どうして、オレに憑依したのか。
それは……
『私という妖怪は浅ましくも、人類を殺害したという罪から逃れたかった。そんなことで、罪が消える訳がないのに。……人類を殺すしかない存在なんて、滅んでしまえばいい。でも、人類が存在する限り新たに生まれる妖怪を、どうやったら滅ぼせるのかは分からない。それでも、レイならきっと解決策を思いつく。だって……私はレイを信じている』
「どうしてオレに取り憑いたのか、ずっと疑問に思ってた。それはお前が、オレは妖怪を滅ぼしてくれると信じてたからだったのか。それ程までに、お前はオレを信じてくれた。……だったら」
誰も彼もが、生きるためにもがいている。
生きるために人類を滅ぼす宇宙人。
生きるために人類を滅ぼす怪獣。
生きるために人類を滅ぼす妖怪。
生きるために人類の脅威を滅ぼす人類。
「だったら……ッッッッ!!!!」
やっと、ここがスタートライン。
世界の真相を知る、脅威の事情を知る。
長々と御託を並べるのはもう終わりだ。
「
『…………え?』
人類勢力のオレ、天城レイ。
宇宙人勢力の天城セカンド。
怪獣勢力の新星怪獣カイ。
そして、妖怪勢力のグレムリン。
四つの勢力、四つの種族。
「やってやるよ。宇宙人と戦う必要がなくなるように、宇宙人を故郷に帰す。怪獣を産む必要がなくなるように、エネルギー問題を解決する。妖怪が人類を襲う必要がなくなるように、飢えを満たしてやる」
みんながいれば、オレは何だってできる。
そう信じてる。
「だから、助けてくれよ。オレだけじゃ無理なんだ、お前の力を貸してくれ」
『否定、不可能だ。私には世界を救うような力はない。私が力を貸してとしても、何の意味も……』
「オレだけじゃ無理でも、お前一人じゃ無理でも、オレたちならきっとできる。だって、そうだろう?オレたちは助け合ってきただろ、相棒!!」
そいつは化け物だ。
でも、自分の行動を後悔するヤツだ。話だって通じるし、涙だって流す。感情が豊かなくせして、それを押し殺してAIのフリをするヤツだ。
グレムリンに手を差し出す。
これが最初だ。人類と脅威が共存する世界を、こっから創り上げる。
『…………了解、全身全霊でレイを助ける!』
「
周囲は完全に囲まれていた。半妖最強の九人、
しかし、現実は異なる。現在、地球では大量の怪獣が発生している。ほとんどの者は既に制圧したキャノンボールではなく、問題が発生している最中の地球へ向かった。そして、相性が悪い半妖が多くキャノンボールに残っている。オレたちは大して警戒されていない。
「冗談を聞く気はありませんわよ。わたくしは『アウトロー』のトップです。貴方にどれだけの恩があろうと、人類の為ならば貴方と戦えますわ。人類の脅威を助けるとか……一体何を考えていますの!?」
「それはこっちのセリフだ。宇宙人だって人類と同じように感情があるし、セカンドに至っては構造も人類と同じだ。お前らだって中継で事情は聞いたんだろ?躊躇って何が悪い、救う方法を模索することの何が間違ってる!」
「……貴方が言いますの?今回の作戦を発案したのは貴方でしょう。そもそも、状況を考えなさい。今も怪獣被害は続いていますわ。仲間同士で争っている場合ではないのです!……というか、わたくしを幸せにするっていう発言はどうしてくれますの!?」
「だったら尚更そこを退いてくれ。オレは宇宙人だけじゃない、怪獣……それを生み出してる地球も救う。人類だってついでに救うし、チカさんだって幸せにする。全部丸ごと解決してやるよ」
セカンドたちは
対して、相手は半妖最強の九人。
一人一人が
人類最高の九人に立ち向かう。
「九対一……いいえ、世界対一ですわよ。勝ち目がある訳ないでしょう。貴方の言い分はぶっ飛ばしてから聞くことにしますわ」
「いいや、オレは一人じゃない。そうだろ?」
『勿論、私がついている』
鬼に金棒。
虎に翼。
オレにグレムリン。
例え相手が
「……説得は終わりですわね。仕方ありませんわ。
命令と共に、
たった九人の手で、世界が作り替えられる。
世界を歪ませる九つの異能が発動する。
それは
それこそは人類が求める『永劫』の異能。
あらゆる生命を不死身に作り替える人魚の血液。
それこそは軍団を生み出す『母胎』の異能。
無数の人体を生み出す船幽霊の腕。
それこそは自然を掌握する『天災』の異能。
万象を我が物とする天狗の神通力。
それこそは光すら凌駕する『絶影』の異能。
無限の距離を一瞬で踏破するスレンダーマンの足。
それこそは未来を侵蝕する『運命』の異能。
運勢や幸運を好き勝手に弄ぶ座敷童の指。
それこそは生命に終焉を齎す『万死』の異能。
周囲から生命力を剥奪するバンシーの涙。
それこそは世界を観測する『全知』の異能。
戦闘にはまるで役に立たない白沢の頭脳。
それこそは精神を魅了する『傾国』の異能。
かつて大国を覆した九尾の狐の美貌。
それこそは異能の頂点に立つ『無双』の異能。
あらゆる異能をオリジナル以上の出力でコピーする鬼の変化。
「怪獣細胞……活性化ァァァッッッッ!!!」
『召喚、多重層金属装甲』
「ふぅぅぅぅ……行きますわよ!」
直後、文字通り世界が吹き飛んだ。
キャノンボールに大穴が空く。
そう、異能であれば怪獣の生命力で防ぐことができる。だが、これはただの物理攻撃だ。ただのパンチが星を砕いた。
「無茶苦茶過ぎる!?」
『推奨、遠距離からの攻撃……いや、多分それでも無理。99.9%の確率で接近戦に持ち込まれる』
「じゃあどうしろってんだ!?AIの振りしてたんだし、それっぽい作戦考えてくれ!」
『了解、…………努力で頑張れ作戦!』
「巫山戯んな!?!?!?」
バカみたいな会話中も、攻撃は鳴り止まない。
無限に湧く巨人を何とかビームで足止めし、生き物のように暴れる嵐や地面を飛行ユニットで回避する。また、瞬間移動後の一瞬の隙をついて
「お前らの方がセカンドやグレムリンよりも、よっぽどバケモンじゃねぇか!!!」
「なッッッッ!?乙女に向かって何てこと言いますの!?ぶち殺しますわよ!!」
「乙女って年齢じゃないし、そもそもアンタは男だろうが!!」
「おっ……乙女に年齢は関係ありませんわよ!!そこのジュウちゃんだって、普段は少女趣味全開のヒラヒラした服着てますわ!!!」
「あれ〜?妾、いい歳して万年少女趣味のクソババアってディスられた????」
避ける、逃げる、距離を取る。
パンチ一発でも喰らえばオレは死ぬ。
手加減も何もあったもんじゃない。
何処かで本気は出さないんじゃ無いか、オレを殺しはしないんじゃ無いかと油断していた。
「さぁ、諦めて跪きなさい。わたくしの手で自ら殺して差し上げますわ!」
死。
人生四度目の死のオーラに震える。
この人は本気でオレを殺すつもりだ。
「ふざっ……ふざけんじゃねぇぞ……」
それは怒りだろうか、それとも恐怖だろうか。手が震える。拳に力が入る。
それはきっと嫉妬だった。
「それだけの力があって、どうして誰一人として宇宙人を助けようと思わない!どうしてセカンドを救う選択肢を無視できる!」
「会話する気はありませんわよ」
「お前たちは故郷に帰れずに、宇宙に独りぼっちな宇宙人の絶望を想像できるか?自分の生存を諦めて、次世代に託した地球の絶望を想像できるか?自分たちは滅びるべき種族だと思い詰めた絶望を想像できるか?……人類の脅威が溢れた絶望を知りながら、どうしてアイツらの絶望を想像できない!」
「理想論はともかく、具体的には?救いというのは余裕ある者が行うことで、人類には他種族を救う余裕なんてありませんわよ。そんなもの、共倒れするに決まってますもの。具体的に、人類の脅威を救う希望はありまして?」
宇宙人を、怪獣を、妖怪を救う希望。
それでいて、人類さえも救う希望。
そんな都合のいい希望…………
「
思い出せ。
今まで得た全ての情報を使え。
希望の光はここにある!
「まず、怪獣が発生したのは自然破壊の結果だ。地球という資源を食い尽くすことでしか、人類はエネルギー得られないからだ」
エネルギー問題の解決。
数世紀に及んで解決できなかった難問。
地球怪獣ガイアを生かすためには、どうすればいいのか。
「だが、エネルギーは地球以外からも得ることができる。例えば、太陽光なんか再生可能エネルギーとして重宝されてなかったか?地球だけじゃなくて、宇宙にも注目すればエネルギーは補填できるんだ」
「……本気で言ってますの?それで自然破壊が防げるなら、とっくの昔に解決してますわ。宇宙から得られるエネルギー程度の量では、人類の営みを支えるには足りませんわ。その程度では、地球も人類も救えませんわ」
「人類の技術ならそうかもしれない。でも忘れてないか?」
「……何をですの?」
「
「…………あ」
セカンドと初めて会った時を思い出せ。
セカンドはこう言った、『
オレたちは地球を救うことができる。
「次だ、妖怪は人類を喰らわなければ、生命力を足りずに飢えに襲われる。しかも、その肉体は不安定で、理性を保つのも困難だ」
チカさんはかつてこう言っていた、『
「だったら、存在を安定させる肉体と、飢えを満たす生命力を用意すればいい」
「……言うのは簡単ですわ。ですが、そんなもの何処にもありませんわ。そこらの動物に取り憑かせても、生命力は足りませんわ。まさか、人類に取り憑かせるとは言いませんわよね?」
「いいや、あるだろ。地球上で最も生命力を持ち、それでいて自我を持たないものが」
「…………まさか」
「
カイは夢の中でこう言っていた、『
ガイアにとっては肉体のごく一部に過ぎず、その上で生命力に溢れた肉体。存在を安定させる肉体と飢えを満たす生命力の両方を持つもの。
「カイ曰く、オレの言動はカイの細胞を通してガイアにも繋がるらしい。何なら、カイに説得して貰ってるしな。確認してみろよ、地球での怪獣被害はもう収まってるんじゃないか?もうガイアに怪獣を使って人類を襲撃する理由はない」
「そんな……こと、あるはずが……」
「いや、君の言う通りです。地球の怪獣は活動を止めた。僕の『全知』がそう言っている」
彼の異能はオレも知っている。彼は
「後は宇宙人だ。宇宙人を故郷に帰す方法はない。そんな都合のいい技術もない。だったら作ればいい」
「…………どうやって?」
「
グレムリン。
イギリスに伝わる妖精の一種。
機械に悪戯をする妖精とされ、妖怪のグレムリンも機械支配という異能を持つ。
だが、伝承はそれだけじゃない。
「グレムリンは人間に発明の手がかりを与えるという伝承を持つ。例えば、ベンジャミン・フランクリンの凧上げを手伝ったり、ジェームズ・ワットに蒸気機関の発想を与えたりとかな。グレムリンは文明の捕食者じゃなく、
「伝承があることと、異能を持つことは別ですわ。そのような伝承があるとして、都合よくそんな異能を持っているとでも?」
「無いよ。でも、それも創ればいい。チカさんが言ったことだ、
解決のピースは既に揃っている。
中継カメラを通して繋がる世界中の人々に、グレムリンの異能を信じてもらう。ただそれだけで、グレムリンは宇宙人を救う技術を創り出す異能を手に入れる。
「これが具体的な解決策だ。これが誰も犠牲にせず、みんな救える方法だ。後は行動に移すだけだ。さぁ、やろうぜ!オレだけじゃ世界を救えない!人類だけじゃ人類しか救えない!だから、人類の脅威も世界中の人も全員巻き込んで、みんなの力で世界を救ってやる!!!」
宇宙人の力で怪獣を救う。
怪獣の力で妖怪を救う。
妖怪の力で宇宙人を救う。
足りないところは人類の力で補う。
人類対人類の脅威じゃない。
世界対一人じゃない。
人類と人類の脅威。世界と一人。
みんなの力でみんなを救う。
「そもそも、アンタが言ったんだろ?これは
「それ、は……」
「そうですね。僕もこれ以上戦う理由は見当たらない」
「でも、被害者の感情はどうなるの〜?人類の脅威を許容することは、未来に負債を残すのさ☆ 妾たちが許したとしても、世界がそれを許すかな?」
そりゃそうだ。誰だって、争いたいわけじゃない。他の手段があるなら、そっちを選びたい人だって当然生まれる。
「そうだな、世界がそれを許すかどうか。だったら、聞いてやろうじゃねぇか!なぁ!アンタたちはどうしたい!!」
その時、
キャノンボールの制圧は終わった。ならば、妖怪を発生させるための中継は既に終わっているはずだ。何故浮いている?……いつから?
「まさか……」
これはオレと
これはオレと世界中の人たちとの戦いだ。
これは武力を用いた戦いじゃない。
これは言葉を用いた戦いだ。
だから……
「オレから言えることは一つだけだ。今までの日常よりも、宇宙人や怪獣、妖怪が一緒にいる日常の方が楽しいに決まってる!それを作るのはアンタたちだ!!!」
テレビを固唾を飲んで眺める人がいた。
ラジオからその声を聞く人がいた。
友達とスマホを囲む人たちがいた。
家で、街頭で、車内で、世界中の人たちが同じ映像を見ていた。
『挨拶、初めまして。私の名前はグレムリン。妖怪、人類の脅威です』
それは150cm未満の身長に、青い髪の美少女……つまりは天城レイと全く同じ姿をした者だった。
『告白、宇宙人による地球への襲撃は、全て私の責任です。人類の皆様には多大なる迷惑をお掛けいたしました。怪獣を止めるには宇宙人の力が必要だった。そうは言っても、私は罰せられるべきだ』
それは罪の告白だった。懺悔の言葉だった。
人類の脅威に対して、超常戦争に対して、どこか他人事だった全ての人類が、今滅ぼそうとしている者を知った。
『それでも、もう少しだけ時間をください』
あるいは、怪獣が活動をやめた戦場で、『ガバメント』のトップはテレビを食い入るように見ていた。
『それでも、一度だけ我儘を許してください』
あるいは、市民を避難させたシェルターで、『カンパニー』のトップはその言葉に耳を傾けていた。
『
SNSで#Gremlin_Speechをつけたツイートが拡散され、トレンド入りする。その言葉は世界中の言語に翻訳され、瞬く間に世界中を駆け巡る。
『その人は世界の全てを敵に回しても、人類の脅威を救う決断をしました。私はそれに報いたい。
その言葉を聞いて、同時中継された映像の中で、グレムリンと同じ姿をした
『これが終わったら、どうなったっていい。これからの理想の世界に、私が存在しなくても構わない』
誰もそれを邪魔しなかった。
その少女を批判する人は誰もいなかった。
『懇願、ですからっ、どうか!』
最後に、その少女はこう言った。
『私に力を貸してください。全ての人類の脅威を救い、
「SNSを見てください。『子供が戦ってるのに、大人が頑張らなくてどうする』『こんなに人間味あるなら人類の脅威じゃなくて、人類の友達になれそう』『ロリのためなら命も賭けられる』僕も同意見です。『全知』が断言しましょう、この流れには逆らえないと」
「そんな訳がない。妾は人類の精神をよく知っている。満場一致なんてあり得るはずが……!?」
そこで
ようやく、この茶番に気がついたようだ。
「そうか……思考誘導!?妾の異能はもう妾だけのものじゃない。茨木博親、貴様か!?いや……しかし、この距離でそんな真似ができるはずが」
「そうかもな。地球規模の思考誘導はお前かチカさんぐらいしかできない。でも、
チカさんの肉体が作り替えられる。
変化の異能はチカさん以外も保有している。
例えば……
「例えば、儂がチカの真似をしとったら、その間にチカが地球に行けばいい。誰も儂に気づかんかったんは笑ったがのう」
「茨木浩史!?でも、妾の記憶が確かなら、フミちゃんの異能出力はそこまでじゃなかったはず。星に大穴を開けるパンチなんて……。あっ」
「オレはカイの細胞を保有し、他者に生命力を付与することができる。その力でフミさんをずっと強化してた」
流れはこうだ。
グレムリンを仲間にした後、セカンドにカイを回収して貰い、オレはチカさんとフミさんと父さんに連絡を取った。色々怒られたがそれは省略する。
そして、フミさんはチカさんの振りをして
カイとチカさんはセカンドの
「世界を救うために世界征服とか、流石の妾もびっくりだね……」
「人聞きが悪いな。思考誘導って言っても大したものじゃないよ。勇気を出して貰うだけ、ただ背中を押すだけのものだ。オレは人類の善意ってやつを信じてる」
後はグレムリンがオレと同じ容姿のアバターを使ったことも大きい。あれは庇護欲が抱かれやすい外見をしているため、人々の心に言葉が響きやすい。グレムリンがオレのために作ってくれた容姿が、世界を救うきっかけになる。
「これから世界は混乱に陥る。人類の脅威を救うことは世界に火種を作り、未来に負債を残すことになる。これからの世界を背負う度胸はあるかな?」
「ねぇよ」
それはこれまで世界を背負ってきた者だからこそ、聞けることなのかもしれない。だが、そんな度胸あるはずがない。当たり前だ、オレはどこにでもいる普通の男に過ぎない。……男かどうかは少しアレだが。
「でも、オレは人類ってやつを信じてる。これまでの人類だって負債を残したかった訳じゃなくて、その時のベストを尽くしてきた。だから、オレも現在のベストを尽くす。未来のことは、未来の人類が何とかしてくれるさ」
「……他力本願も、ここまで来ると清々しいな。あぁ、全く。人類を象徴するようなやつだよ、お前は」
「それにオレも、ここまでやって責任も取らないタマナシ野郎じゃない。人類の脅威が脅威って呼ばれなくなるまで、何とか頑張ってみるよ」
「いや、レイちゃんに玉はないでしょ〜♪」
痛いところを突かれた。
いやあるよ、魂にある。
『報告、肉体の変化を確認』
「うわー……オレじゃん」
いつの間にかグレムリンが様変わりしていた。
世界中の人々の認識に影響され、グレムリンはオレと全く同じ容姿をしていた。それもそうか。説得のためにオレの顔を使ったのなら、グレムリンの認識にオレの容姿が混じるのも当たり前だ。
つまり、グレムリンがTSすることで世界を救う。字面を見ただけで頭が痛くなりそうだ。
オレとセカンドとグレムリンが並ぶと、三姉妹みたいになるかもしれない。
『異能、叡智付与。レイに宇宙人を故郷に返す技術を授けました』
「ホントだ、何か閃いたんだけど」
マジか……怪獣の生命力と妖怪の異能、宇宙人のワープ技術を組み合わせることで、こんなことができるのか。いやでも、開発までにどんだけ時間がかかるのだろうか。全然終わってない、戦いはこっからじゃねぇか。
「わたくし今回はずっと蚊帳の外でしたわ」
「俺もだ」
「GYA!」
「うわ!こっち来るの速っ!?」
真後ろにチカさんと父さんが立っていて、驚いて跳ねる。足元にはカイもいて、危うく踏みそうになった。少し離れたところを見ると、セカンドがこちらを見ている。どうやら
「さっさと帰りますわよ。貴方たちは世界一の有名人になったのですから、速くしないと淡路島に観光客が集まりますわよ。ほら、セカンドとやら。速く起動しなさいな」
「あぁ!?テメェめちゃくちゃ偉そうだな!?」
「うるせぇですわよ。こちとら地球全土に異能を行使して、クソ疲れてますの」
「お嬢様はクソとか言わないんじゃないか?」
「おクソ疲れてますの」
「脳みそ死んでるな?」
「GYAU!!!」
ガヤガヤ騒ぎながら、
「……おにぃちゃん」
地球に帰る直前、セカンドはオレにしか聞こえないほど小さな声でこう言った。
「その……ありがとう」
天城セカンドは笑顔だった。
オレのやったことは無駄じゃなかった。
こうして、オレたちは地球に帰還した。
第二次超常戦争は終結した。
第二次超常戦争が終わって、数ヶ月経った。
あれから世界は平和になったかと言うと、そんなことは全く無かった。
宇宙人を模した暴走無人兵器、アンドロイド。
怪獣の細胞に適応した動植物、
妖怪に成り果てた生物の遺骸、ゾンビ。
新たに誕生した三つの脅威。
世界っていうのは上手くできてるみたいで、問題が一つ解決すれば新たな問題が生まれた。
それでも変わったことが幾つかある。
例えば、カイがデパートを歩けるようになった。妖怪に与えられた怪獣の肉体は、そのほとんどがカイのようにマスコットサイズの小さなものだった。今では街中でチラホラと歩いているのを見かける。
ちなみにグレムリンの肉体は特別性となっている。超常戦争の報酬として
他にも、宇宙人が『ガバメント』の研究を手伝っている。まだ、宇宙人が故郷へ帰還する技術は作れていないが、少しずつ研究は進んでいる。宇宙人の最近のブームは、
ちなみにキャノンボールは未だに亜空間ポケットに入ったままだ。淡路島の方ではキャノンボール観光ツアーという企画が立ち上がっているらしい。
「よぉ、おにいちゃん。出勤だ、妖怪と宇宙人が喧嘩してるらしい」
「オレ今日、一ヶ月ぶりの休日なんだけど……」
『再生、“それにオレも、ここまでやって責任も取らないタマナシ野郎じゃない。人類の脅威が脅威って呼ばれなくなるまで、何とか頑張ってみるよ”』
「ぐあぁぁぁぁっっ!!!黒歴史を流すな!!」
「GYAUGYAU!!!!!」
最後に一つ大きく変わったことがある。
勢力が一つ増えた。
その名も『ユニオン』。
今のところ四名しか所属していない弱小勢力である。
「仕方ないか……勢力を広げて金稼いで、男の
『忠告、もう諦めたら?』
「うるさいな、TSエンジョイ勢が!!!」
弱小勢力『ユニオン』は今日も、人類とその友達の融和のために奮闘する。
この色々なアレが多すぎる世界で。
▽
見た目:青髪ロリTSサイボーグ
能力:兵装展開
全長:149cm
属性:宇宙人/人類
陣営:『ユニオン』
▽
見た目:ドラゴンのぬいぐるみ
能力:火炎放射、生命力の付与、進化
全長:約40cm
属性:怪獣/友達
陣営:『ユニオン』
▽
見た目:黒髪ロリTSサイボーグ
能力:ワープ
全長:149cm
属性:宇宙人/人類・友達
陣営:『ユニオン』
▽
見た目:青髪ロリTSサイボーグ
能力:機械支配、叡智付与
全長:149cm
属性:妖怪/友達
陣営:『ユニオン』