【完結】色々なアレが多すぎる!   作:大根ハツカ

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ヒロイン(?)登場


02 男と女のアレソレ

 十年前の第一次超常戦争のとき、人類滅亡の危機に対して各国は協力して立ち向かった、なんてことは全くなかった。

 むしろ、各国は足を引っ張り合い、戦争は頻発して勢力図もぐちゃぐちゃになった。最終的に、世界は三つの陣営に分割された。

 

 

 一つは『ガバメント』。いわゆる、旧体制側の陣営だ。かつて存在した国連によって創設された軍隊を基盤としており、その本拠地をアメリカに置いている。

 『ガバメント』所属国は地球の防衛と治安の維持、そして国の統一を目指して活動する。

 

 もう一つは『アウトロー』。いわゆる、元犯罪組織の陣営だ。第一次超常戦争の前から裏社会を治めていた組織が基盤となっており、身体に妖怪の血が流れる半妖が数多く所属している。

 『アウトロー』は明確な拠点を持たないが、アジアを中心として広がっている。

 

 この二つのどちらにも属さないのが『カンパニー』。いわゆる、会社のような陣営だ。世界的軍事企業を基盤としており、お金のためだけに動く。

 この陣営は各地に点在しているが、陣営同士の仲間意識などは存在しない。

 

 ちなみに、日本の立ち位置は微妙であり、東京を中心とした東日本を『ガバメント』が、京都を中心とした西日本を『アウトロー』が治めている。両陣営は敵対しているため、毎日のように日本のどこかで代理戦争が行われている。

 

 

 これだけ長々と話したのは、結局オレがどの陣営に属しているのかという話だ。オレは改造されたことで元の戸籍を失っている。よって、『カンパニー』には雇ってもらえない。

 また、宇宙人産の改造人間(サイボーグ)であるオレは、潜在的には人類の脅威とも言えるため『ガバメント』の排除対象だ。

 

 よって、オレが所属できる陣営は一つしかなかった。

 

 

 

 

 地下への階段を下り、薄暗い業務員用通路を通って更に地下を目指し、警備員室に偽装された部屋の奥に行く。不自然に掛かった暖簾をくぐると、その先には『アウトロー』の隠れ家が存在する。

 

 この隠れ家は大阪に存在する中では比較的大規模な拠点であり、地下迷宮梅田から徒歩で十分程度の距離にある立地のいい隠れ家だ。

 そして、オレの恩人が拠点にしている場所でもある。

 

 

「よく来ましたわね、レイさん!ちょっと遅いのではなくて、ってその右腕どうしましたの!?」

 

「チカさん久しぶり、右腕は昨日爆発した」

 

「爆発!?」

 

『訂正、右腕は切断による欠損』

 

 

 律儀なAIに訂正される。でも、結果的に爆発したんだから、あまり変わらない気がする。

 

 この偉そうな喋り方の人は茨木チカさんといって、居場所がなくて何処にもいけなかったオレを拾ってくれた恩人だ。

 オレが戸籍を偽装できたのも、オレが仕事に恵まれたのもチカさんのおかげだ。ついでに言えば、オレに仕事を与えている上司の娘さんでもある。そのため、色々な意味で頭が上がらない。

 

 

「その腕では当分仕事が出来ないのではないかしら。バイトでも紹介しましょうか?」

 

「ある程度貯金もあるから大丈夫だよ。それにバイトってどうせあの店だろ?」

 

「もちろんですわ。わたくしが運営する『メイド喫茶きゅんきゅん』は貴女を歓迎します。何故ならば、わたくしの野望は世界中の美少女にメイド服を着せることだからですわ!!!」

 

 

 怪獣討伐の仕事を始めるまでの数週間、オレはチカさんが運営する店で働いていたことがある。時給も高く、労働環境もホワイトだから特に文句は無かった。

 だが、いくら見た目が女の子であろうと、メイド服を着て接客するのは流石に恥ずかしかった。肉体偽装ユニットを開発したのも、このことが原因だ。……昨日の戦闘で肉体偽装ユニットが壊れてさえいなければ、今も変身(男装)していただろう。

 ちなみに、チカさんはメイド服を着せるだけでなく、自分で着るのも好きなので、普段着として着ている。金髪メイド服お嬢様とは属性を詰め込みすぎな気もするが。

 

 

『疑問、青髪オレっ子ロリTSサイボーグの方が属性過多では?』

 

 

 正論が突き刺さる。

 というか、このAI何処でそんな言葉覚えたんだ。オレの脳内データベースか?

 

 

「ともかく、右腕も三日で修復してくれるらしいから、心配してくれなくても大丈夫。そんなことより、今日は相談したいことがあって、チカさんに会いに来たんだ」

 

「レイさんが私に頼るとは珍しいですわね。どうかしたんですの?」

 

 

 チカさんが胸の前で腕を組み、聞き返す。本人は至って真面目だが、このポーズでは体の一部が強調されるため、反射的にスーパーアイを逸らしてしまう。

 チカさんは身長など、色々とアレがデカイ。オレも改造されたときに、デカくしてくれたら良かったのにな。……いや胸の大きさを気にしてるとかではなく。

 

 

『否定、胸部の脂肪などただの贅肉に過ぎず、スマートな体型こそ至高。提言、この機体(からだ)は完全無欠にして最強無敵』

 

 

 AIに褒められると、自画自賛しているみたいで恥ずかしくなる。オレの脳内データベースが本当に心配になる。

 

 気を取り直して本題に入る。それは昨日遭遇した異常事態についてだ。ただ、説明するのがまどろこっしいので、手っ取り早く本題を伝えるために、リュックサックから“それ”を取り出す。

 

 

「これ拾ったんだけどどうしよう」

 

「GYAU」

 

 

 その怪獣を見たチカさんが絶句する。

 怪獣の見た目は一言で言うならば、翼の生えたトカゲ、つまりは西洋のドラゴンのようだった。しかし、その大きさはドラゴンのイメージとは大きく異なる。大きいのではなく、とても小さい。それはランドセルくらいの大きさで、遠くから見るとぬいぐるみのようにも見える。

 

 

「ば」

 

「ば?」

 

「GYA?」

 

「おバカですの〜〜〜!?!?!?」

 

『推測、驚愕中』

 

 

 凄い剣幕でキレられる。

 結果的に、昨日の経緯を一から十まで説明することになった。

 

 

 

 

 

「なるほど、確かに新たに怪獣が産まれてきたとは聞いたことがありませんわ。今までの復活仮説だけでなく、最近主流のガイア仮説も覆す話ですわね。名付けるなら、新生怪獣と言ったところですわ」

 

 

 太古に生きていた怪獣が復活うんぬんって、あれ仮説だったのか。事実だと思ってた。

 それはともかく……。

 

 

「そいつの名前はカイ、怪獣のカイ。昨日の夜に決めた」

 

「GYAU!」

 

「名前つけてたんですの!?しかも安直!!!そもそも、どうして持ち帰ることに????」

 

「産まれてすぐにオレを見たからかは分からないけど、凄い懐かれてさ。昨日の夜も布団にめちゃくちゃ入ってきて温かった。トカゲみたいな見た目だけど、恒温動物だった」

 

『推測、機体(からだ)には冷却機能があり、冷たいから寄ってきた』

 

 甘えてきたと思ってたんだけど、そんなパソコンに寄る猫みたいな理由だったのか。温度の関係は逆だけど。

 

 チカさんは悩ましげに眉をひそめ、頭痛がするみたいにこめかみを抑える。うんうん言って色々検討を行い、最終的にため息を吐いて電話を取り出す。

 

 

「わたくしの手に余りますので、お祖父様に連絡しますわ。取り敢えず、実家に行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

「GYA〜♪」

 

 

 チカさんの実家へ向かうことが決まった。チカさんは日本における『アウトロー』のトップの孫であるため、実家とはつまり京都にある『アウトロー』の日本拠点のことだ。

 地下鉄を使用すると、何かあった時に民間人を巻き込むことになるため、一度地上に上がりチカさんの家に寄ってから、自動車で京都へ向かう段取りになった。

 

 カイの鼻歌(下手)を聴きながら、階段を登る。隠れ家がある地下にはエレベーターが繋がっていないため、地上に出るにはいちいち階段を上がる必要がある。

 

 

「まさか、レイさんがこんな物を拾ってくるとは思いませんでしたわ。どう考えても危険な物でしょう、これ」

 

「オレを拾ったチカさんに言われたくはないなぁ、オレもどう考えても危険物だろ」

 

 

 行方不明者の名前を騙る宇宙人産改造人間(サイボーグ)とか、あからさまに罠だし、どう考えても怪しい。何せ、本人確認のために血液型を調べようにも、血液すら通ってない機械だ。むしろ、可燃性の液体が通っている。

 話しながら、階段を上がる。

 

 

「あの時は……わたくしの別荘の前で人が倒れていたから、仕方なく連れ帰っただけですわ。レイさんがご家族の方に罵倒されていたのも聞いていましたし」

 

「それは仕方ない。姿形にあの時の面影はないし、オレだってオレが天城レイ(オレ)であることを証明できない。自分が天城レイだと思い込んでいるだけの人型機械(アンドロイド)だっていう可能性も否定できない」

 

『……』

 

 

 知らない女が行方不明の息子の名前を騙っているんだ、怒らない方がおかしい。それに、チカさんは罵倒と言っているが、あれは怒鳴っていたというより、泣き叫んでいたと言った方が近い。泣いてくれる人がいる、それだけで十分だと思った。

 話しながら、階段を登る。

 

 

「姿形が異なっても、内面的なもので誰だかわかるのではなくって?オーラで判断できるのは、わたくしに妖怪の血が流れているからかもしれませんが……」

 

「オレが行方不明になってから、もう何年も経ってるんだ。改造人間(サイボーグ)のオレに戸籍はないけど、人間のオレ(天城レイ)はもう鬼籍に入ってる。オレのことを鮮明に覚えてる人なんていないよ」

 

『……』

 

 

 オレが誘拐(アブダクション)されたのは数ヶ月前、だがそれはオレの主観においての話だ。実際には、あれから八年経っている。

 オレにはその間の記憶はなく、コールドスリープさせられていたのか、それとも記憶を抹消させられたのかもしれない。ただ分かるのは、いつの間にか地球に帰ってきていたという事実だけだ。

 話しながら、階段を登る。

 

 

「……例え、レイさんがレイさんじゃなくたって、貴女は危険物なんかじゃありませんわ。だって、あんなにメイド服が似合うエロティックな人が、優しくない訳ありませんもの」

 

 

 子供も慈しむような顔でトンチキなことを言う。感動的な言葉みたいに言ってるが、よく聞くとただの変態だ。

 

 

「GYAUGYU」

 

 

 カイがリュックから手を伸ばし、オレの頭を撫でる。慰めているのかもしれない。ただ、カイはその大きさからは想像できないぐらい力が強いため、撫でられる度に頭がグラグラする。あと、鱗が割と痛い。

 話しながら階段を……あれ?

 

 

「これ、おかしくないか?」

 

「おかしいですわね」

 

「GYA?」

 

 

 チカさんも異常に思い至ったようで、子供を慈しむように優しかった顔が警戒したものに変わる。

 地下迷宮梅田では毎日のように増築と改築が繰り返され、見覚えのない場所は山のようにある。また、『アウトロー』の技術が使われたことで、迷子になりやすい構造になっている。

 

 だが、これは物理的におかしい。

 隠れ家は地下4階に存在する。そして、オレたちは階段を5回上がった。それにも関わらず、オレたちは未だに地下にいる。

 

 それに加えて、あることに気がつく。

 AIの声がしない。先程から黙っていると思っていたが、この状況で何も発言しないのは不自然だ。よく耳を澄ますと、砂嵐のような音も聞こえる。おそらく、何か声が出せない状況にいるのだろう。

 

 

『推……、……ャ……………』

 

「おい、何があった!」

 

「どうしたんですの?」

 

「いや、AIの調子が悪いみたいで……」

 

『推……、ジャミン……よる……害』

 

 

 一瞬だけ音声が少し聞き取れる。しかし、その後は今度こそAIは沈黙した。そして、聞き返す暇もなく、答えが目の前に出現する。

 

 それは歪だが人の形をしていた。金属的な皮膚が廊下の明かりを反射して輝き、駆動音を響かせながら四足歩行で歩いて来た。オレはそれに見覚えがあった。当たり前だ、それはオレの人生における最も大きなターニングポイントを作った脅威。

 宇宙(そら)の彼方から地球(ほし)に来訪した侵略者(インベーダー)

 

 

「宇宙、人……」

 

 

 オレの機体(からだ)を作ったのが宇宙人ならば、脳内のAIを作ったのも宇宙人に決まってる。ならば、AIをジャミングできるのも宇宙人しかいない。

 鼓動が速くなるのを感じる。宇宙人と遭遇するのは数ヶ月ぶりだが、その見た目はトラウマのように記憶に焼き付いている。この地球に来訪した宇宙人は、それ以前に語られていたイメージとは大きく異なっていた。

 形こそ人間と近似しているが、その体は血肉ではなく金属で出来ている。顔を持たず、生殖も行わず、睡眠も食事も行わない人類の脅威。文明の収穫だけを目的とする金属生命体。

 

 

「いいえ、違います。これは妖怪ですわ」

 

「え?」

 

「GYAU」

 

「宇宙人の残骸に妖怪が取り憑いているのですわ。ほら、カイくんも頷いていますわ」

 

 

 カイは頭をこちらに向けて頷く。そして、瞳孔が大きく開いた目で、相手を睨み付ける。

 よく見ると、宇宙人はジャンク品の寄せ集めのようにボロボロだった。また、宇宙人は普通に二足歩行のはずなので、四足歩行しているのは取り憑いた妖怪なのだろう。

 

 

「妖怪とは生命力を素材として、人の思念によって形作られますわ。そのため、肉体はひどく不安定で、何かに取り憑いて安定しようとしますわ。また、足りない生命力や思念を補填するため、人を襲いますわ」

 

「じゃあヤバくないか?オレは右腕の兵装を失ってるし、地下だからほとんどの他の兵装もほとんど使えない。チカさんも暴れづらいだろうし……」

 

「わたくしを誰だとお考えで?」

 

 

 刹那、ガッッッッ!!!っと轟音が鳴る。

 額に角を生やしたチカさんが一瞬で妖怪の目の前に移動し、その頭を蹴り飛ばす。蹴りはその細い足からでは想像できないほどの威力を持ち、一撃で妖怪の機体(からだ)を全壊させる。

 

 

「わたくしの名は茨木チカ。一族の中でも最も鬼の血が濃く、日本で最も強い半妖ですわ!」

 

 

 日本妖怪において最強の鬼、その半妖。

 能力は変化(へんげ)。妖狐なども保有する能力だが、鬼の変化は肉体の見た目を変える程度ではない。その真価は自身の身体性能(スペック)を幾らでも書き換えられることにある。超音速で動ける速度になることも、ミサイルを弾ける硬さになることも、ビルを持ち上げられる怪力になることだって可能だ。

 

 本気を出すと周囲を瓦礫に変えるため、地下迷宮梅田では力をセーブしなければならない。しかし、この程度の妖怪ならばチカさんは本気を出すまでもないようだった。本来ならば(・・・・・)

 

 

「GYA!」

 

「げげげげげっっっっ!!!!」

 

 

 カイの声に反応して、チカさんは後ろへ大きく飛ぶ。直後、さっきまでチカさんがいた場所が吹き飛ぶ。そこにいたのは、先程ぶっ壊れたはずの妖怪だった。しかし先程までとは異なり、オレの左目の肉眼に獣のようなオーラが映る。

 更に、チカさんの足に糸か綿のような何かが纏わりつく。ふと下を見ると、それはオレの足にも纏わりついており、オレは足を動かせなくなっていた。

 

 

「一旦撤退しますわ!」

 

「GYAO!」

 

 

 咄嗟にオレはカイをリュックにいれ、チカさんはオレを抱き上げる。チカさんは階段横のドアを蹴破り、薄暗い廊下を全力で走る。

 走る邪魔になるのもアレなので、おんぶの形になって腕に力を込める。これでチカさんの手は空いたが、代わりにオレとチカさんの密着度合いが高まる。

 

 

「レイさん!?胸ガッッッ、胸が当たっておりますことよ!?!?」

 

「ごめん、男に引っ付かれるのは気持ち悪いとは思うけど、今は身体は女同士ってことで我慢して欲しい!」

 

「……そうやったな!いや、間違えた。そうでしたわね!!!」

 

 

 そう簡単に逃すわけもなく、妖怪は四足歩行で追撃を行う。チカさんは近くのドアを手で引っこ抜き、そのドアを投げ飛ばす。オレは射撃ユニットを起動させて、妖怪に向けて弾丸を放つ。

 だが、当たらない。正確には、当たっているはずなのにいつの間にか別の場所から無傷で現れる。段々と妖怪との距離が縮まり、糸っぽいものを鞭のようにしならせる。

 

 

「げげげげげげげ」

 

「GYAU!」

 

 

 いつの間にかカイがリュックから頭を出しており、その口から火を放ち糸を燃やす。カイが火を吹けるとは知らなかったが、トカゲなのに温かったのはこういう理屈だったのかもしれない。

 更に、火に怯んで硬直した妖怪にカイは頭突きをお見舞いする。今度こそ間違いなく妖怪は吹っ飛び、その隙にチカさんは全力で逃げる。

 

 

 妖怪の足音が聞こえなくなるまで距離を取り、チカさんの息が整った所で作戦会議を始める。

 

 

「何だ、アレ。攻撃は当たらないし、変な糸で歩けないし、機動力は高いし。チカさんはこの妖怪に心当たりあるか?」

 

「匂いからして二種類の妖怪、それも狐と狸が混ざってますわね」

 

 

 さすが半妖と言うべきか、やはりチカさんは妖怪に詳しいようだった。

 

 

「狐はおそらく狐火、夜に道のない場所を照らすことで人を迷子にさせる妖怪ですわ。狸は足まがり、足に糸を巻きつけて歩くのを妨害する妖怪ですわ」

 

「最初に地下から出られなくなったのが狐火の影響で、足が動かなくなったのが足まがりの影響ってことか?」

 

 

 しかし、一つ疑問が残る。

 機動力とジャミングは宇宙人の機体(からだ)のせいだとしても、それでは攻撃が当たらない謎の現象に説明がつかない。

 

 

「レイさんの考えていることは、何となく分かりますわ。それは恐らく狐火の能力の応用ですわね。狐火はわたくし達に幻影を見せていたのですわ」

 

「妖怪ってそこまで応用力が高いのか?」

 

「いえ、明らかに強くなりすぎですわ。足まがりだって本来は動きづらくする程度、わたくしが音速を出せないほど弱体化させられるとは思いませんわ」

 

 

 妖怪と相性の良いカイはともかく、チカさんだけ走れることを不思議に思っていたが、あれでも弱体化していたとは……。

 

 

「で、これからどうする?」

 

「レイさんが考えてくださいまし。わたくしが思いつくのは、力づくで地下ごと破壊するぐらいですわ」

 

「え……」

 

 

 オレ、妖怪と遭遇したの二度目なんだが。

 マジで言ってる?マジ?マジかぁ……。撤回する気は無さそうな笑顔に反論を諦める。どうせ、断れる訳もないし、地下を壊される訳にもいかないので、解決法を必死に考える。まずは、今まで出た情報を整理する。

 

 宇宙人、金属、妖怪、幻影、夜、明かり、廊下、糸、半妖、変化、怪獣、瞳孔、火炎放射、リュック、最後にオレの兵装。

 

 考えに考え、他力本願な作戦を立てる。

 

 

「あー、カイとチカさんに任せる」

 

 

 

 

 

 

 準備を一通り終わらせ、リュックを背負う。廊下に一人で立ち、妖怪を待ち構える。自分の鼓動だけが聞こえる静寂の中、妖怪の足音を探る。

 その瞬間、突然現れた妖怪がその腕でリュックを貫く。先程の戦闘でカイこそが自らの天敵であると悟ったのだろう。リュックを背負うオレのことは無視して、何度も繰り返し執拗にリュックを貫く。そして……

 

 

「やっと捕まえましたわ」

 

 

 小さくなったチカさんがリュックから手を出し、その細い腕で妖怪を力強く掴む。

 妖怪は逃げようともがき、掴まれた腕を自ら切り離すことで離脱する。そして幻影を発動させ、妖怪の姿が消える。

 だが、対策は練ってある。

 

 

「カイ、頼む!」

 

「GYAOOOOOO!!!!」

 

 

 カイが口から火を放ち、その火が床にぶちまけられた可燃性の液体を伝って広がる。辺り一面は火の海となり、妖怪の姿があらわになる。

 狐火の能力は夜に明かりを照らすことで幻影を見せることだ。そして、この場での明かりとは廊下にある全ての電球。そもそも、電球(狐火)自体が幻なのだろう。カイの瞳孔が大きく開いていたことからも、この廊下は本当は暗闇だと分かる。ならば、解決法は簡単だ。

 

 

「げげげげげっっっっ!?!?!?」

 

 

 それとは別に光源を作れば良い(・・・・・・・・・・・・・・)

 オレの機体(からだ)に通う可燃性の液体をあらかじめ床に準備しておき、カイの火を引火させて光源にする。火の海は電球の光を掻き消し、その空間の本当の姿を見せる。そこに書かれた文字はB4(地下4階)。オレたちは階段すら上がっていなかった。

 更に、カイの火は足まがりの生み出す糸を燃やし尽くす。これで二種類の妖怪の能力を封じられた。

 

 この作戦はカイが一番最初に狙われると破綻する。よって、オレは偽装を施すことにした。

 まず、この廊下が本当は暗闇であるならば、妖怪かその機体(からだ)には普通の目とは異なる何らかのセンサーがあると考えた。そして、カイに火を吹かれた時に硬直していたことから、サーモグラフィーによる熱源探知だと予想した。

 そのため、カイの体温に変化(へんげ)したチカさんがリュックに入り、オレは冷却機能でカイを冷やして隠した。これによって、妖怪はまんまと勘違いして、リュックを攻撃していたわけだ。

 

 

 だが、オレの作戦はここまで。カイの火で妖怪の能力を封じたが、あとは全てチカさんに任せた。正に他力本願な作戦と言えるだろう。

 

 

「任せてくださませ、一瞬で終わらせますわ」

 

 

 チカさんの蹴りが、今度こそ妖怪の頭部を吹き飛ばす。頭が折れたというよりも、溶けたと表現できるほどの蹴りであった。

 ただ、オレたちは妖怪の生存能力を見誤っていた。頭部を破壊されてもなお、妖怪は残った三本の足で動き、火の海から脱出する。

 

 しかし、妖怪もまた一つ見誤っていることがあった。それは、日本最強の半妖はこの程度ではないということだ。

 

 

「げげげ?」

 

 

 火の海から逃げ切ったはずの妖怪の足に何かが絡まる。それは()だった。奇しくも、妖怪が使っていた能力と同じ糸が足に纏わりついている。

 

 

変化(へんげ)による身体性能(スペック)の書き換え……その程度で日本最強になれるとでお考えで?」

 

 

 その糸の先には、チカさん()がいる。頭から角の代わり狸の耳を生やした鬼が立っている。

 

 

「どうして鬼が妖怪の頂点に立っているのか、お考えになったことはありますか?」

 

 

 糸が妖怪の足を締め付け、金属製の足を丸ごと破壊する。それは明らかに、この妖怪よりも能力の出力が高かった。

 

 

「それは、わたくしたちが変化(へんげ)によって、あらゆる妖怪の能力を模倣(コピー)し、原型(オリジナル)以上の出力で使用できるからですわ」

 

 

 コツコツと音を立てながら、鬼が歩く。

 そして、ちっぽけな妖怪の元へ辿り着く。足を失った妖怪はもがくが、もう逃げられない。

 

 

「わたくしの大阪(シマ)で暴れた報いを受けて貰いますわ」

 

 

 この人こそ、日本最強の半妖。

 『アウトロー』の中でも、大阪全域の統括を任された序列二位(ナンバーツー)

 

 グシャッッッッ!!!という音と共に、妖怪が完全に沈黙する。

 

 

「これにて一件落着ですわ!!!」

 

「GYA!」

 

『……回復、AIサポート再起動』

 

「めちゃくちゃ疲れた……」

 

 

 AIがないと解析や考察を全部自分の頭でしないといけないので、負担がハンパなかった。今日はチカさんにおんぶされていたから良かったものの、自分で動き回ってたら頭なんて全く動かなかっただろう。

 AIのありがたみが分かる戦闘だった。

 

 

『謝罪、足手まとい』

 

「別にいいよ、普段から助けてもらってる訳だし。もし気に止むなら、次は助けてくれ」

 

『……了解、次こそ貴方を救ってみせる』

 

 

 重いな……。未だにAIのキャラが掴めない。

 ひとまず、これで一件落着ということで京都に向かうか。地上へ上がるために階段を探すと、周囲がやけに煙たいことに気づく。

 

 

『推奨、火災の消火』

 

 

 ……そういえば、この場にいるのが半妖と怪獣と改造人間(サイボーグ)だったから気づかなかったけど、普通の人がここにいたら酸欠で死ぬのではないか。

 

 

「ヤバい!!普通に人死ぬぞ、こんなの!?」

 

「GYAO!」

 

「火で火を消そうとするんじゃねぇ!!やめろカイ!!!」

 

 

 オレたちの消火活動(たたかい)はこれからだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 慌てるレイたちを尻目に見ながら茨木チカは……、いや茨木博親(いばらきひろちか)は一人で思案する。

 

 

「(今の妖怪、明らかに強くなりすぎてた。原因はたぶん……あの怪獣やろな)」

 

 

 その心の声は普段の話し方とは異なる。むしろ、こちらの話し方が元であり、レイの前での話し方が演技だ。普段の話し方は関西弁が混ざったもので、あんなエセお嬢様のような話し方ではない。

 

 

「(無意識かは知らんけど、生命力を他者に与える能力。小っこいから油断してたわ。姿なんていくらでも変えれる……ボクみたいに(・・・・・・))」

 

 

 変化(へんげ)の本質は容姿を変えることにある。

 変化(へんげ)は何もかもを変えられる。容貌も、髪色も、身長も、そして……性別さえも(・・・・・)

 

 

「(でも、あの怪獣さえおったら、次の戦争も勝てるかもしれん。レイさんは参加させるつもり無かったんやけど、そんなこと言ってられへんなぁ)」

 

 

 こうして地下迷宮梅田での小さい戦いが終わり、世界を巻き込む超常戦争が幕を開ける。




茨木博親(いばらきひろちか)
見た目:鬼っ子金髪メイドTSお嬢様
能力:変化(へんげ)
全長:170cm(可変)
属性:妖怪/人類
陣営:『アウトロー』

▽新生怪獣カイ
見た目:ドラゴンのぬいぐるみ
能力:火炎放射、生命力の付与、???
全長:約40cm
属性:怪獣/脅威
陣営:星

▽狐火+足まがり
見た目:ボロボロのペッパーくん
能力:近接兵装、幻影、歩行妨害
全長:約120cm
属性:宇宙人・妖怪/脅威
陣営:異星・?
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