時折、ふと考える。
オレは本当に天城レイなんだろうか。
天城レイとは190cmを超える身長があり、運動部に相応わしい筋肉を持った男だ。声は低く、可愛らしさなどカケラもない。
対して、オレはどうだ。だいたい150cmぐらいの身長に、折れないか心配になるぐらい細い手足。声はアニメキャラのように高く、誰もが認める絶世の美少女。
この女のどこが天城レイと言えるのか。
もし、オレが天城レイでないのなら、本当の天城レイは何処にいるのだろう。何をして、何を考えて生きているのだろうか。家族の元に帰りたいとは思わないのか。天城レイから見える景色は、オレとどれだけかけ離れているのか。
つまり、何が言いたいかというと。
もう身長だけでいいから、今すぐ元の体に戻らねぇかな……。
現在、オレたちは2mを超える身長の大男たちに囲まれている。これだけデカいやつらの横に並ぶと、オレの小ささが浮き彫りになる。
囲まれていると言っても、何かに巻き込まれているとかではない。
「若頭ァ!ご苦労様です!!!」
「「「「ご苦労様です!!!!!」」」」
屈強な男たちが頭を下げ、オレたちに道を譲る。正確には、チカさんのために道を開けている。オレたちは今、京都にある『アウトロー』の本拠地、つまりチカさんの実家にいる。
辺り一帯全てがこの家の敷地内らしく、庭に池もあって馬鹿でかい。屋敷は和風でありながら最新の設備が整っており、その外見は観光名所にもなりそうなほど素晴らしい。
地下迷宮梅田での戦闘の後、火災やら何やらの後始末で結局、オレたちは大阪に一泊することとなってしまった。
そして今日の朝、車で京都まで来る予定だったが、急遽チカさんのコピーした能力を使い、瞬間移動することで一瞬で京都に到着した。
ちなみに、オレの右腕はまだ修理されていない。肉体偽装ユニットなどの搭載していた兵装は修理されたが、兵装を搭載する右腕自体の修理はまだ時間がかかるとのことだった。仕方なく兵装は、空いていた胸に搭載している。
「瞬間移動する能力があるなら、昨日の戦いのとき地下から脱出できたんじゃないのか?」
「そんな便利な能力ではありませんわ。この能力の名前は瞬間移動ですので、空間を超えているのではなく、移動にかかる時間が一瞬になるように加速しているだけですわ。ですので、地下や屋内などの障害物が多い場所では、使用しづらいのですわ」
宇宙人の
チカさんは話しながら、一人の男を指差す。
そこには小さな男の子を肩車しているスキンヘッドの男がいた。巨大な体はスキンヘッドが似合っているが、どうしてか忍者の格好をしている。その男は指差されたことに気がついたようで、オレたちに手を振りかえしてくる。
「瞬間移動の
「待って待って、情報量が多い」
『了解、取得情報の整理を開始』
あのスキンヘッドの人の趣味が勝手にバラされちゃったよ。いや、ショタコンだったらあの男の子は大丈夫なのか。何で忍者の格好をしているんだ。そもそも、隠し神っていう名前の妖怪自体知らないんだけど。
色々な疑問を飲み込む。『アウトロー』には『アウトロー』の事情があるのだろうし、あんまり踏み込むのも良くないだろう。
一度頭を冷静にし、AIが整理してくれた情報を閲覧する。するといくつかの疑問が生まれる。
「屋外で瞬間移動を使えるなら、そもそも何で車を使う予定だったんだ?あと、何で急に瞬間移動することになったんだ?」
「ドライブデートしたかったからですわ!」
チカさんは恥ずかしげもなく、それでいてからかう様に言い切る。逆にオレの方が照れてしまい、顔が赤くなる。
「ですが、瞬間移動に切り替えた理由は、一刻も早くお祖父様に会わないといけないからですわ」
チカさんが耳元に顔を近づけ、小さな声でささやく。顔を見ると、その顔はいつになく真剣だった。まるで、何か深刻な理由があるように。
「……何かあったのか?」
「昨日の妖怪が使っていた
「考えづらいけど、オレの
『否定、機能不全はジャミングの影響』
だとしたら、考えられる理由は一つしかない。
「あそこには第三者がいた……?」
「昨日、最後に火災がありましたわよね?あの時に火災探知機が反応しなかったのも、第三者によるジャミングだと考えられますわ。そして、その目的は一つしかありませんわ」
視線はオレの買い替えたリュック、その中にいる怪獣に向けられる。
「GYA?」
「やっぱ、カイ狙いか。ジャミングってことは、宇宙人の仕業か?」
「ですわね。そんなわけで、実家に匿ってもらいに来たわけですわ。相手が宇宙人であるならば、半妖のわたくし達が負けるはずありませんもの」
話しながら使用人さんの先導に従い、広めの和室に入室する。というか、先導してくれた使用人さんはメイド服を着てたけど、和室と全く合っていなかったな。
『推測、茨木チカの趣味』
だろうな。チカさんは実家でも好き勝手やっているようで、今まで見かけた使用人さんは全員がメイド服を着ていた。流石の変態力だと謎に感心してしまう。
入出した部屋は非常に広く、高そうな掛け軸が掛かっていた。何となく正座をして、和室で待つ。
「今からチカさんのおじいさんに会うんだよな、どんな人なんだ?」
「言動は軽い人ですが、関西を治めるに相応しい人だと思いますわ」
そうか、チカさんの祖父としか考えていなかったが、今から『アウトロー』のトップと会うのか。今更だが緊張してきた。
「間もなく、会長がご入室致します」
いつの間にか扉の横に立っていた黒服の男が告げる。黒服にサングラスをつけており、表情が全く分からない。オレのスーパーアイが存在に気づけなかったということは、そういう能力だろうか。
「念のために頭を下げてくださいまし。そんなことを気にする人ではありませんが、そこのグラサンに口を挟まれないためですわ」
「分かった、素直に従うよ。ほら、カイも頭を下げてくれ」
「GYAU」
少しすると足音が聞こえ、すぐに襖が開く。
どんな人だろうか。『アウトロー』のトップらしく厳つい顔をしているのか、それとも意外とインテリ系なのか。はたまた、半妖だし人間の見た目とはかけ離れている可能性もある。
緊張と少しの高揚感を感じ、床を見つめる。様々な想像をしながら、その人が話し始めるのを待つ。
「そんな堅苦しい場じゃない、頭を上げい」
想像と全く異なる声が響く。少女のように可愛らしく、それでいて色気のある声だ。あまりに想像から外れていたので、反射的に頭を上げてしまう。
そこにいたのは着物を装う絶世の美女。
「え?」
その人は全身に妖艶な雰囲気を纏い、はだけた胸は豊満な身体を強調する。白い髪は幻想的な印象を与え、裾の短い着物は健康的な太ももを惜しみなく出している。その容貌はどう見ても若い女性だ。
この人がチカさんの……祖父?
「うーむ、チカの野郎は何も言っとらんかったのか?仕方がないのう……」
その人はガニ股でオレとカイの前まで歩き、その場で
「儂の名前は
そう言って、フミさんは笑った。
「怪獣の幼体?別にええぞ、いくらでも匿ってやるわい」
許可は驚くほどあっさり取れた。
フミさんは意外と話しやすい人で、質問すると何でも答えてくれた。オレが
フミさんがチカさんの祖父であることは事実らしい。というのも、フミさんが女性の姿をしているのは
フミさん曰く、「男の姿をしていた頃は、女の家を遊び歩くヒモ男」だったらしい。チカさんの父親であり、オレの直属の上司であるオッサンもその時にできた子供だとか。
そして、フミさんが女性の姿をしている理由も語ってくれた。
「当時の儂は女遊びに飽きておってな。次は美女に化けて、幼馴染のヤツを誘惑して遊んでやろうと思ったら、逆に喰われてしまってのう。そのまま色々あってヤツと結婚し、ヤツが亡くなった後も妻としての姿をしているというわけじゃ」
色々と破天荒な人だった。
チカさんとは似ても似つかないが、『アウトロー』のトップと考えると似合うと思ってしまう。いや、全力を出している時のチカさんとは、雰囲気が似ているかもしれない。
その時、ふと疑問が浮かぶ。
「フミさんが『アウトロー』のトップってことは、フミさんはチカさんよりも強いんですか?」
フミさんは呆気に取られた顔をすると、チカさんを見てため息を吐く。オレも反射的に同じ方向を見ると、チカさんは気まずそうに目を逸らす。
「儂はあくまでも
顔が引き攣る。チカさん、そんな凄い人だったのか。そんな凄い人なのにメイド服に対してはこんなんなのか。チカさんは目を逸らしたまま動かない。
普段の言動を知っているためか、微妙に納得しづらい。オレの内心に気付いたのか、フミさんは続けて説明する。
「『アウトロー』には
「鬼ならみんなできる能力とかじゃないんすか?」
「無理じゃな。少なくとも儂には
それでも十分強力だと思うが、
チカさんはもはや
「くはははは、コイツがこんな顔になっているのを見たのは久しぶりじゃの。小学四年生のとき以来かのう」
「お祖父様!?思い出話はやめてちょうだいですわ!?!?」
「GYAU?」
何それ聞きたい。
小学生のチカさんとか、全然想像がつかない。しかも、チカさんが顔真っ赤になる出来事とか絶対面白い。
「奇怪な話し方をするのう。あの時は確か、近所の兄ちゃんを気に入って子分にするとか言い出しての……」
「ちょっとマジで黙れジジイ!?!?!?」
「ほうほう、それでそれで?」
身を乗り出して、耳を澄ます。
だがその時、カイの不思議な行動が目に入る。カイは何もない天井をじっと見ていた。いや、正確には天井の更に先を見つめている。
更に、オレのスーパーアイが微弱な揺れを感知する。建物や地面が揺れているのではない。
オレはこれを知っている……何処で?
『緊急、上空から
AIからの緊急報告。オレの直感に根拠が生まれる。ワープを使える存在は、オレの知る限り一つだけだ。咄嗟に叫ぶ。
「上から宇宙人が来るぞ!!!!」
直後、天井が崩壊する。
美しい屋敷が瓦礫に変わる。空にはブラックホールのような黒い穴がある。
爆心地には仮面をつけた男が立っている。
『解析、……失敗。推測、仮面による解析妨害』
相手が怪獣なら解析は成功するだろうし、相手が妖怪なら妨害する必要はない。ならば、仮面男は宇宙人だろう。恐らく、チカさんが言っていたジャミングの犯人で間違いない。
「カチコミかぁ!?」
「オメェらァ!エモノ持てやぁ!!!」
「会長は後ろに下がってくだせぇ」
『アウトロー』の半妖たちが集まる。
半妖は宇宙人に対して相性がいい。それにこの人数差で負けることはない。万が一がないように、仮面男を半妖たちが囲む。
チカさんは何かを警戒するように周囲を見渡し、フミさんは不思議そうに首を傾げている。
「
「おれ達がどれだけテメェら半妖に妨げられてきたと思ってる。対策ぐらい考えてんだよ」
答えは思わぬ所から返ってきた。
オレが今まで見てきた宇宙人とは、全てがコミュニケーションの取れない存在だった。当たり前だ、住む星が異なるのだから言語も異なる。いや、そもそも宇宙人は言語というコミュニケーション方法すら持っていないのかもしれない。
だが、仮面男は言葉を発した。ボイスチェンジャーのような不自然な声で、オレたちにも伝わる日本語で話した。
「
その思考はどこかオレにも似ていた。
人類の思考を持った宇宙人、間違いなく強敵だ。
「貴様が予言を回避できた理由は分かった。じゃが、ワープとやらは月に一度しか使えないはずじゃ」
「オイオイ、んなことも分かんねぇのか?おれ達が使うのは技術だぞ。応用することでしか発展しない半妖と違って、おれ達の技術は進歩する。
「うーむ、随分と自慢げじゃな?じゃが、これだけの半妖を前に貴様一人で勝てるとでも?」
既に包囲網は出来上がっていた。
だが、嫌な予感がした。その思いはカイやチカさんが未だ警戒していることで補強される。
そして、空の穴からそれが降ってきた。
「たしかに
空から降ってきたのは怪獣であった。
怪獣の見た目は、一言で言うと空中を浮遊するクラゲだった。触手のついた半透明の風船と言い換えても良い。体のサイズは大きく、その風船のような見た目も相まって、まるで気球のようにも見えた。名付けるならば浮遊怪獣だろうか。
そして、浮遊怪獣は一頭ではなかった。見渡す限りの空を大量の浮遊怪獣たちが覆う。
『解析、怪獣は体内が水素で満ちており、風船と同じ原理で浮遊』
「これは怪獣細胞からおれ達が量産した対半妖兵器だ。絶対的な相性差ってやつを分からせてやるよ」
「させませんわ!」
半妖たちに突っ込んできた浮遊怪獣を、チカさんがその腕力でブン殴る。浮遊怪獣は大して強くないようで、たった一撃で潰れる。
しかし……直後、浮遊怪獣を中心として大爆発が引き起こる。
『解析、水素に引火』
「あの浮遊怪獣全てが爆弾になるってことか!?」
「そいつらは死ぬと起爆するように作り替えている。テメェらに生半可な爆弾は効かねぇが、強大な生命力を持つ怪獣そのものを爆弾に変えたら、どうだろうなぁ?」
ただでさえボロボロな瓦礫が、更に吹き飛ぶ。そこにいたのが
しかし、『アウトロー』
チカさんは無傷だった。メイド服に汚れさえつけず、瓦礫の上に立っていた。
「この程度ですか?でしたら、相性差では覆せない圧倒的な実力差を見せてあげますわ!」
「やっぱ、この程度ではテメェは死なねぇよなぁ?ちょっとばかし、退場しといてくれ」
仮面男が指をパチンと鳴らすと同時に、チカさんの足元に黒い穴が生まれ、チカさんが穴の中に吸い込まれていく。
「チカさん!!!」
何が起こったのか、一瞬のことで全く分からなかった。分かるのは、この場において最大戦力であったチカさんが消えたと言う事実だけ。
「なぁに、気にするな。ちょっとしたワープだよ。おれ達の母星に招待させて貰っただけさ」
「母星だと……?」
飛ばされた先が遠すぎて、全く想像がつかない。
宇宙人のホームグラウンドってことは敵の数がこちらとは段違いだ。それに、環境そのものが地球と異なるのならば、生存できるかどうかも分からない。
「心配するな、どんな罠が待ち受けていようと、チカが負けることはない。むしろ、重要拠点に半妖を招き入れる暴挙をしているのは、相手の方じゃ。最後の力を振り絞って暴れられても困るし、どうせ足止めに徹しておるのじゃろ?」
「その通りだよ、あんな化け物をウチに置いておけるかよ。長くても三十分で脱出するんじゃねぇの?まぁ、その程度じゃ間に合わねぇだろうがよぉ」
宇宙人は含みを持たせた言い方をして、オレたちを馬鹿にするように笑う。
「三十分でオレたち全員を倒すことができるとでも?」
「馬鹿かよテメェ。そもそもさぁ、八年前に
コイツ、オレのことを知ってるのか!?
詳しく聞き返したい衝動を、ぐっと抑える。今はそれどころじゃない。
仮面男の言ったことはオレも不思議に思っていたことだ。
八年間コールドスリープされていたのか、それとも記憶を抹消されたのかのどちらかだろうと考えていた。
「それは時間の流れがちげぇからだよ」
予想外の言葉に脳が停止する。
「相対性理論って知ってるかぁ?時間ってのは絶対的なものじゃなく、場所によって時間の流れは異なる。例え、おれたちの星を三十分で脱出しても、ここでは何十時間も過ぎてるんじゃねぇの?」
「浦島太郎みたいなものかの?」
『解説、相対性理論において重力の増加や速度の上昇によって、時間の流れは遅くなる。推測、宇宙人の母星は地球よりも重力が大きい、又は公転の速度が速い』
話の規模の大きさに脳がついていかない。
そんなオレを無視して、話は進む。
「そういや言ってなかったな。分かってるかもしれねぇが、おれ達の目的はそこの怪獣だ。そいつを渡すなら大人しく帰ってやるよ」
「GYAU」
「渡さんよ、それは儂らに必要なものじゃ」
フミさんは断る。その目は義理や情とは別に、何らかの計算が秘められているようにも見えた。
話し合いは決裂した。そもそも、話し合いと呼べるものですらなかった。であれば、後のことは決まっている。
「だよなぁ……それじゃあ、まぁ殺し合おうぜ!」
宇宙人との激突が始まる。
『アウトロー』
血統:人魚
能力:不死身
血統:船幽霊
能力:液体生命化
血統:天狗
能力:環境支配
血統:スレンダーマン
能力:瞬間移動
血統:座敷童
能力:幸運操作
血統:バンシー
能力:即死
血統:白沢
能力:情報取得
血統:鬼
能力:
血統:九尾の狐
能力:??