【完結】色々なアレが多すぎる!   作:大根ハツカ

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03 オレの失ったアレ(下)

 

 

 

 

 

 先に動いたのは仮面男だった。指をパチンと鳴らすと、仮面男の背後に複数の小さな黒い穴が生まれる。

 

 

『解析、超高熱蒸発光線』

 

 

 AIの助言とともに、穴からビームが放たれる。それはオレの失った右手に付属していた兵装と同じ物だ。おそらく、あの穴から母星の兵装を呼び出しているのだろう。

 しかし、オレには当たらない。オレのスーパーアイが空間の揺らぎを捉え、事前に分からないはずの銃口を丸裸にする。カイを抱えて、全弾回避する。

 

 だが、敵は仮面男だけではない。

 上空から触手が伸びてくる。浮遊怪獣の触手はパッと見ただけでも、数百本あるように見える。そして、その数百本の触手を持つ浮遊怪獣が、更に数百体も存在する。

 一体一体の脅威度は大したことはないが、手数の多さや物量の多さが邪魔で仕方がない。しかし、浮遊怪獣は死ぬと起爆するため、殺すわけにもいかない。全ての浮遊怪獣を無力化する必要があるが、怪獣であるためか毒なども効かないので、防戦一方になってしまう。

 

 必死に二つの脅威からの攻撃を避けていると、フミさんが黒服さんを伴ってこちらに近づいていくる。どうしてか分からないが、フミさん達は全く仮面男に狙われていない。やがて、仮面男の攻撃が止まる。

 

 

「面倒くせぇな、認識阻害か?攻撃しようとすると、途端に殺意がブレやがる」

 

「黒服の能力じゃの。意識を逸らす程度の能力じゃし、長くは保たん」

 

 

 怪獣には効き目がないのか、黒服が浮遊怪獣の攻撃を防ぎながら、フミさんが話す。

 

 

うちの陣営(アウトロー)は怪獣に弱い。だから、カイの力を借りたいんじゃ」

 

「GYA?」

 

「カイを?でも、火を吹くぐらいしか出来ないと思いますけど……」

 

 

 しかも、今回の敵は宇宙人と怪獣だ。相性的にも有利でも何でもない。火を吹いたところで焼石に水だろうと思う。

 

 

「チカの野郎は本当に何も言っとらんのう。……そのまでして、戦争から遠ざけたかったのか」

 

「戦争って、何の話ですか」

 

「いや、今はいい。まずはカイについてじゃ、其奴は無意識に生命力を垂れ流しておるから、儂ら半妖はカイの近くにいるだけで強化される」

 

 

 妖怪を強化する能力か、昨日の妖怪が異常に強くなっていたのもそれが原因かもしれない。確かにこんな能力があれば、妖怪からも宇宙人からも狙われるだろう。妖怪にとっては自身を強くする強化アイテムで、宇宙人にとっては妖怪を強くする脅威となる。

 

 ……本当にそうか?

 妖怪を強化する、ただそれだけのことで妖怪と宇宙人の両陣営からここまで危険視されるのか。新しく生まれた怪獣というのは、本当にその程度の異常性なのか。

 思考を中断して、今は目の前のことに集中する。

 

 

「分かりました、カイをお願いします。カイもフミさん達を守ってくれ」

 

「GYAU!」

 

「了解じゃ」

 

「仮面男はオレが抑えるので、浮遊怪獣の対処をお願いします。相性的にはオレは怪獣を当たった方が良いんでしょうけど、仮面男の……」

 

「あぁ、原理が分かったぜ」

 

 

 仮面男の声が話し合いを中断させる。

 仮面男の顔は見えないが、その声が笑っていることに気づく。人を馬鹿にするような嫌な笑い方だった。

 

 

「この認識阻害は攻撃させなくするんじゃねぇ、テメェらを狙えなくするんだ。だったら、簡単だ。テメェらじゃなく、辺り一帯を吹き飛ばす!!!」

 

 

 仮面男が指をパチンと鳴らす。

 その音と共に空間が揺れ、目の前に黒い穴が生まれる。上空にある穴ほどではないが、大きな穴であった。その穴から浮遊怪獣が飛び出し、爆発する。

 オレは空間の揺らぎから浮遊怪獣(爆弾)が出てくる場所が分かっていたため、頭を伏せて爆風を耐える。しかし、カイとフミさんは吹き飛ぶ。黒服さんはいつの間にか視界から消えていた。無事を確認したいが、その隙はなさそうだ。

 

 これこそがオレにしか仮面男を抑えれない理由。とにかく、空間跳躍(ワープ)が厄介すぎるため、事前に空間跳躍(ワープ)の位置を予測できるオレしか攻撃に対応できない。

 

 

空間跳躍(ワープ)使いすぎじゃないか?どこからそんなエネルギーを用意してるんだ」

 

「それも空間跳躍(ワープ)の応用だぜ。おれ達はブラックホールとパスを繋げることで、莫大なエネルギーを手に入れた。たかだか、一つの星に寄生しているテメェらには真似できねぇだろうがな」

 

「ブ、ブラックホール……?」

 

『解説、ブラックホールは近づきすぎた物体を分解し、超高エネルギーのジェットを放出。推測、放出したエネルギーを空間跳躍(ワープ)で回収』

 

 

 何かまた規模のデカいものが出てきたな。

 空間跳躍(ワープ)を便利使いしすぎだろ。あと、宇宙人なのに普通に話せるの違和感があり過ぎて混乱する。

 

 

宇宙人(おれたち)のあらゆる技術の根幹には空間跳躍(ワープ)が関わっている。エネルギー炉心だけじゃねぇ、兵装展開も時間停止も全部が空間跳躍(ワープ)の派生だ。こんな風にな!」

 

「うぉっ、ちょっ、話しながら攻撃するな!てか、えっ、オレも空間跳躍(ワープ)使ってたのか!?」

 

「はぁ?当たり前だろ。そもそもテメェが勝手に持ち出して、逃げんだろうが」

 

 

 どういうことだ……?

 オレの記憶に残っているのは、宇宙人に誘拐(アブダクション)された所までだ。その後、異星でどう過ごし、どうやって帰ってきたのかは知らない。

 そして、宇宙人の話によると相対性理論とやらで、異星に滞在した時間は一瞬だった。つまり、改造されていた時間しか異星にいなかったのだろう。だから、オレが帰って来た理由も宇宙人によるものだと思い込んでいた。

 射撃ユニットで応戦しながら会話する。

 

 

「へぇ、覚えてねぇのな。まぁ、それも仕方ねぇと思うが」

 

「……なぁ、オレの記憶を確認できるか?何か残ってないか?」

 

『……実行、ログ確認。回答、記憶なし』

 

 

 オレに何があったんだ?

 一つ謎が解けたと思ったら、また謎が増えてしまった。

 

 

「よく分からねぇが、どうでもいい。おれが殺してスッキリさせてやるよ」

 

「待ってくれ、聞きたいことが沢山あるんだ!まず何よりも、何でオレを女の子にしたのか聞きたい!!」

 

「知らねぇよ、作った奴の趣味じゃねぇの?」

 

 

 マジでそんな理由なのか!?ふざけやがって、絶対に男の身体を取り戻してやる。

 怒りを推進力に変えて、真っ直ぐ突っ込む。相手の武器が空間跳躍(ワープ)である限り、距離を取ることに意味はない。左手の近接ユニットから一本の剣を取り出す。

 

 

「スパッとソード!」

 

「絶対そんな名前じゃねぇだろ!」

 

『訂正、超音波振動剣(ヴィブロブレード)

 

 

 この剣は粒子レベルで振動し、チェーンソーのように回転して物体を切り裂く兵装だ。仮面男が身を包む謎の装甲も切り刻めるだろう。

 対して、仮面男も一本の剣を取り出す。それは光り輝く一本の剣だった。オレの剣と仮面男の剣が激突する。

 

 

『解析、光熱素粒子剣(ビームサーベル)

 

 

 オレの剣が溶かされる。切り裂く以前に、触れることすら出来なかった。オレの兵装に対する最適解を一瞬で提示しやがった。そのまま、ビームサーベルでオレを攻撃する。しかし、大した速度ではない。

 仮面男の攻撃を全て回避し、また接近する。避けてから気づいたが、仮面男は近接戦闘において素人だ。仮面男がオレの頭に向けて、ビームサーベルを振るう。だが、それより前にオレの左手が仮面男に直撃する。その一瞬前……

 

 

『緊急、背後に空間跳躍(ワープ)の予兆』

 

 

 全力で横に飛ぶ。地面を転がり、肩で息をする。

 もし攻撃を優先していたら、飛ぶのが少しでも遅かったら、オレは背後から真っ二つになっていただろう。仮面男の空間跳躍(ワープ)はただ距離を無くすのではなく、全方位から攻撃を行えるという点が何より面倒だ。死角からの攻撃はオレのスーパーアイにも映らない。

 そして、もう一つ気づいたことがある。

 

 

「指を鳴らしてたのはブラフか」

 

「当たり前だ。指パッチンなんて面倒くせぇ起動方法、誰が採用するかよ」

 

『推測、脳波による発動』

 

 

 強い訳ではない。空間跳躍(ワープ)があるとはいえ、単純な強さならば昨日や一昨日に戦った怪獣や妖怪の方が上だ。

 だが、とにかくやりづらい。なんと言っても、こちらの攻撃が全て読まれているのが最も面倒くさい。オレを改造人間(サイボーグ)にしたのが宇宙人であるなら、オレに搭載してある兵装を作ったのも宇宙人だ。兵装の機能も特性も、全ての情報が把握されている。

 

 

『想定、大規模な空間跳躍(ワープ)にはチャージが必要』

 

 

 確かに、それが出来るのなら一瞬でオレは死んでいただろう。すぐに大規模な空間跳躍(ワープ)ができないのなら、取れる手段が一つある。

 

 

「とりあえず、煙幕!」

 

『起動、隠密ユニット』

 

「なっ、逃げるつもりかテメェ!」

 

 

 ガン無視して、一旦退却する。

 大規模な攻撃ができないということは、少しの間なら放っておいてもいいということだ。今はとにかく、考える時間が欲しい。

 煙幕の中を走りながら考える。仮面男が煙幕から抜ける前に、対策を思いつかないといけない。

 AIが整理した情報を閲覧する。それっぽい策は思いつくが、現実的ではない。

 

 

「どうしたもんかな……」

 

「どうしたんじゃ?」

 

「えっ!?」

 

 

 すぐ横にフミさんが立っていた。浮遊怪獣との戦いが激しかったのか、着物が所々破れている。直視するのは色々とダメな気がしたため、目を逸らす。

 カイや他の人たちは見当たらない。何かあったのかと心配になる。

 

 

「安心せい、他の者は怪獣どもを抑えておる。レイだけに宇宙人を任せるのも悪い気がしての、手伝いに来たのじゃ」

 

「……だったら、お願いしたいことがあるですけど」

 

 

 オレ一人じゃ、仮面男には勝てない。

 腹をくくる。情けない策を考える。オレはオレの持ちうる全てを使い、全力で人に頼る。

 

 

 

 

 

 未だ張られている煙幕に飛び込み、感知能力を高める。その中で仮面男を見つけ、死角から近づき奇襲する。

 何度も拳を振るい、弾丸を射撃する。

 その全てを避けられる。あと数ミリが届かなず、煽るようにスレスレで避けられる。

 

 

「当たる訳ねぇだろ。おれが持つ情報はテメェの持つ兵装だけじゃねぇ。機体(からだ)のパーツのサイズからその可動域まで全部把握してんだ、テメェに勝ち目はねぇよ」

 

「お前、オレのことを何にも分かってないな?」

 

「……何だと?」

 

 

 オレが改造人間(オレ)である限り、宇宙人から与えられた力に頼っている限り、仮面男に勝つことはできない。

 だが、それがオレの全てじゃない。オレが自分で手に入れたものは沢山ある。人脈や戦闘技術だけじゃない、オレの感情そのものがオレの力になってくれる。

 例えば……性別に対するコンプレックス(・・・・・・・・・・・・・)、とか。

 

 

「お前が知ってるのは改造人間(オレ)機体(からだ)のことだけだ。お前は天城レイ(オレ)のことを何にも分かっちゃいない」

 

『起動、肉体偽装(・・・・)開始』

 

 

 瞬間、比喩などではなく文字通り肉体が変化する。150cmを下回る身長が190cm以上に、美少女の見た目が男に、鋼が肉の身体に変化する。

 肉体偽装ユニットは、チカさんにメイド服を着せられる羞恥心に耐えかねて製造した兵装。オレがAIと共に、地球で自作した物だ。

 

 

「男になるだけの兵装、それに何の意味がある!?」

 

「お前らには分からないだろうけどさ。オレはこれでも、改造人間(サイボーグ)にされて女の子になったことに、ショックを受けてるってことだよ」

 

 

 もちろん、肉体偽装ユニットは戦闘には何の役にも立たない。むしろ、オレは弱体化してしまう。だが、この一瞬だけ、仮面男はオレの動きを読みきれなくなる。

 左腕を大きく振りかぶり、指に砲弾を装填し、仮面男の顔面に拳を叩きつけ、暴発のように砲弾を射出する。

 

 

「グッッガァァァァァアアア!!!!!!!」

 

『報告、左手首を破損』

 

 

 それは仮面男の悲鳴だったのか、それともオレの悲鳴だったのか。肉の身体になったオレは、その射撃の反動に耐えられず、手首が異常な方向へ曲がる。

 しかし、その甲斐あって仮面男の顔面に一撃を決める。硬い仮面にヒビが入る。だが、仮面男もやられたままでは終わらない。スーパーアイが間近に空間の揺れを感知する。

 

 

「邪魔くせぇ!!!」

 

「んぁっ……胸触りやがったな!」

 

 

 仮面男の腕が空間跳躍(ワープ)して、オレの胸を鷲掴みにする。そして、胸部に搭載された肉体偽装ユニットを破壊する。指が擦れて、つい変な声が出てしまう。

 

 

「大したサイズでもねぇのに、うるせぇよ!!そもそも、テメェがそんな所に兵装を搭載してるからだろぉが!!!つーか、テメェは男だろ。変な声出してんじゃねぇよ!!!!!」

 

「う、うるせぇ、変態野郎!!!絶対に許さない……ぶっ殺してやる!!!!!!」

 

『絶許、貧乳こそ正義、貧乳を馬鹿にするものに天罰を』

 

 

 こっちだって、出したくて声を出してる訳じゃない。気配を感じやすくするには色々と敏感になる必要があり、感知能力や感度の兼ね合いとかの問題がある。

 というか、そもそもの原因は宇宙人だろ。オレを改造したのも、こんな機能を開発したのも全部宇宙人だ。マジで殺してやる。

 

 

「な、何も分からねぇ……意味不明すぎる。どこに怒るポイントがあった。どうして、そんな兵装を作った。そもそも、テメェらの行動は全く理解できねぇ。あの怪獣を守るのもどうしてだ。それはテメェらにとっても脅威だろぉが!!!」

 

「特に理由なんて無いよ。助けたいと思った、ただそれだけだ」

 

 

 難しいことなんて何もない。

 助ける理由も、助けない理由もいくつだって思いつく。だったら、後は自分がどうしたいかだけだ。例えそれが人類の脅威であったとしても、助けたいと思ったならば助けるべきだ。

 

 

「オレからしてみれば、お前たちの方が意味わからないよ。どうして襲撃してきた、どうしてカイを狙う。そもそも、どうして地球に侵略してきたんだ?」

 

 

 仮面男はイラついたように頭を掻く。いや、仮面男と呼ぶべきではない。その仮面は限界に達し、ひび割れる。雰囲気が変化する。スーパーアイが何かを捉えた訳ではないが、オレにはその宇宙人が何かに起こっているかのように感じる。

 

 

 「どうしてだと?……テメェがそれを聞くかよ、滑稽にも程がある」

 

 

 宇宙人の仮面がポロポロと崩れ落ちる。今までボイスチェンジャーでも使っていたのか、本当の声が聞こえる。宇宙人の……その人の素顔が明らかになる。

 190cmを超える身長、運動部に相応わしい筋肉、声は低く、可愛らしさなどカケラもない。

 オレはそいつの顔を知っている。

 オレはそいつの声を知っている。

 オレは誰よりもそいつを知っている。

 

 そいつの名は……

 

 

「おれの目的はただ一つ。テメェに奪われた天城レイっていう記憶を取り戻すことだ」

 

 

 宇宙人は……否、天城レイ(・・・・)は言う。

 

 

「おれが本物の天城レイだ。テメェはおれを記憶をインストールした人型機械(アンドロイド)に過ぎねぇ」

 

「……ち、がう」

 

 

 天城レイの言葉を否定したいという気持ちが、心の奥底から生まれる。だってそれは、オレというアイデンティティの否定を意味するからだ。

 しかし同時に、その通りかもしれないという思いも浮かぶ。

 

 

「何が違う。本当に自分が天城レイだと、心の底から思い込んでいたのか?それとも、天城レイでなくても受け入れてくれる仲間や友達でも見つけたのか?」

 

「ちがう……」

 

 

 戸惑い、驚き、悲しみ、怒り、諦め。

 様々な感情が心に巡り、脳内が混沌に満ちる。周囲の音も、AIの声も聞こえなくなり、世界に自分とヤツしか存在しないように錯覚する。

 

 

「だがそれも、本当はおれが享受するはずのものだ。何もかも、おれからテメェが奪ったものだろぉが。全部返してもらうぞ」

 

 

 そして、ヤツの言うことは全て事実なのだろうと納得してしまう。だって、否定する理由が見つからない。自分が偽物(ガラクタ)であることを認めてしまう。

 そして、そして、そして、そして……

 

 

 

「だから、論点が違うだろうが」

 

 

 そして、それら全ての感情を握りつぶす。

 思考を巡らせる、世界を認識する。

 

 

「お前の身の上話も、オレの正体だってどうでもいい。オレが聞きたいのは、テメェがカイを狙う理由だよ」

 

 

 そうだ、最初の話を思い出せ。

 オレが偽物かどうか、ヤツが天城レイかどうか。そんなものは何も関係ない。ヤツがオレをどれだけ憎もうと、それはカイを狙う理由にはならない。

 

 ヤツの発言に惑わされるな。

 もしも、オレの記憶が何もかも偽物だったとしても、オレがカイを助けたいと思ったことは絶対に本物だ。

 

 

「流石にこれぐらいで心が折れることはねぇか。まぁ、安心しろよ。テメェは間違いなく本物の天城レイだよ」

 

「そうかよ、そりゃあ良かった。それで、お前は何者だ?」

 

 

 ヤツが笑う。物理的な仮面だけでなく、天城レイという仮面さえも捨て去り、オレを嘲笑う。

 

 

「おれも天城レイだぜ、おにぃちゃん?」

 

「……まさか」

 

 

 ヒントはあった。

 浮遊怪獣、それは宇宙人が討伐した怪獣の細胞から量産されたモノ。全ての個体が元となった怪獣と同じDNAを持ち、全てが元の怪獣と同一とも言える存在。

 

 仮面が剥がれ、解析妨害をすることも出来なくなったヤツをスーパーアイで観察する。その結果はすぐに分かった。

 

 

『解析、DNA一致率100%』

 

人造人間(クローン)か!?」

 

「名乗るなら天城セカンドって所かねぇ。まぁ改造されたテメェとはDNAは一致してねぇがな」

 

 

 安直な名付け方だが、分かりやすい。セカンドのネーミングセンスはオレと同程度だろう。

 

 

「それで、そこの怪獣を狙う理由だっけ?そんなもん、そいつがおれたちの脅威になるからに決まってんだろぉ?」

 

「脅威だと?例え妖怪を強化できるとしても、怪獣にとって宇宙人は天敵だろ。どうして脅威になるんだ」

 

 

 セカンドはオレとは似つかない顔で笑う。

 

 

「言うわけねぇだろ。そもそも、どうしておれが行儀よくテメェとの会話に付き合ってると思ってんだ……時間稼ぎだよ!」

 

 

 セカンドが手を上げ、言い放つ。スーパーアイが空間跳躍(ワープ)の前兆を観測する。だが、逃げられない。その範囲は屋敷全域に及ぶ。

 

 

「わざわざテメェらと戦う必要なんてカケラもねぇ!このまま宇宙の彼方にぶっ飛ばしてやらァ!!!」

 

 

 空間が揺れる。準備が完了する。

 そして……

 

 

「は?」

 

 

 何も起こらない。

 空間跳躍(ワープ)不発(・・)する。

 

 

「ど、どうしてだ!?なんで発動しねぇ!?チャージは終わってるはずだろぉが!!!」

 

「そんなもん、決まってんだろ。チャージした分はもう使い切ってるんだ。空を見ろよ」

 

「は……」

 

 

 それは言葉というよりも、息を飲む音だった。

 そこにあるのは黒い穴、そして穴にも負けないほど暗い夜。

 

 

「さっきまで昼だっただろぉが!?どうなってる!?」

 

「分からないか?相対性理論だよ」

 

 

 セカンドはもう声すら上げなかった。

 

 

「お前の空間跳躍(ワープ)で下と上を繋ぎ、地面ごとオレたちを瞬間移動させ続けた。瞬間移動で加速され続けたオレたちは、周囲と比べて時間の流れが遅くなった」

 

 

 スキンヘッド忍者さんの瞬間移動はチカさんと異なって、視界内の範囲にしか移動できない。だが、空間跳躍(ワープ)の穴を経由することで、移動距離は無限に引き伸ばせる。

 そして、瞬間移動は距離に関係なく移動にかかる時間は同じであるため、移動距離が長くなるほどその速度は速くなる。

 

 

「だが、どうやっておれの空間跳躍(ワープ)を使った!?しかも、おれ自身にも気づかせないで!?」

 

「それは儂じゃな」

 

 

 隠れていたフミさんが現れる。

 その姿は女性の姿ではなく、天城レイ……つまり天城セカンドと同一のものだ。

 

 

「貴様が言ったんじゃ、空間跳躍(ワープ)は能力ではなく技術じゃと。レイ曰く、それは脳波に反応するものらしいのう。ならば、貴様に変化(へんげ)すれば儂にだって使える。こっちには認識されなくなる半妖だっているしのう」

 

 

 側から黒服さんも現れる。フミさんが隠れられたのも、セカンドが周囲から意識を逸らしていたのも、全てはこの人の……ぬらりひょんの認識阻害の力だ。

 

 本来なら、変化(へんげ)も瞬間移動も認識阻害もここまで強力な能力ではない。だが、カイが生命力をフミさんたちに付与することで、時間を曲げるほどの無理が可能になった。

 

 

「……時間が遅くなったから何だってんだ。状況は全く変わってねぇ。おれには怪獣だっている!」

 

「怪獣の対処法はもう思いついてる。あいつらは風船と同じ原理で浮いてる。つまり、地上にいるには、何らかの重りが必要だ。そして、その役目はあの触手が担ってる。わさわざ、怪獣たちを殺さなくても、触手さえ切り落とせば勝手に空へ飛んでいく」

 

 

 それについては、既に他の半妖の人に伝えてもらっている。これだけ時間が経過していれば、もう対処は終わっているだろう。セカンドは黙り込む。憎悪の篭った目でオレを睨みつける。

 

 

「それにどうしてオレがお前に話しかけたと思ってる。オレの話も、時間の流れを遅くしたのも、全部時間稼ぎだよ!!!」

 

 

 直後、空間跳躍(ワープ)の黒い穴から一人の少女が飛来する。メイド服を着て、額から角を生やした少女であった。

 

 

「……う、そだろ。速すぎる!?時間稼ぎを含めても、まだ数時間しか経ってないんだぞ!?」

 

「あら、いつの間にかこんなに時間が経ってましたのね。十分で戦いを終わらせておいて正解でしたわ」

 

 

 オレがセカンドを倒す方法を考える必要なんてない。他力本願にも程があると思うが、チカさんさえいればオレたちは勝利する。

 

 

「では、こちらのお掃除もいたしますわ」

 

 

 一瞬だった。チカさんが手を振った、ただそれだけの動作で何もかもが吹っ飛んだ。何をしたかも分からなかった。残っていた怪獣、瓦礫、それら全てが消え去る。

 これこそが日本最強の半妖。周囲の被害を考えなければ、戦いは一瞬で終わる。

 

 

「今日の所は撤退させて……」

 

「させるとでもお思いで?」

 

 

 セカンドは悔しそうに吐き捨て、空間跳躍(ワープ)を起動させる。だが、チカさんはそれを逃さなかった。

 チカさんの腕がセカンドを貫く。そして、貫いた腕で臓器をまさぐり、心臓を抉り出す。セカンドは口や腹など、体のあらゆるところから血を吹き出す。

 

 

「……おれを殺しても、テメェらの死は変わらねぇぞ。もう、第二次超常戦争は止まらねぇ」

 

「では、その時に貴方のお仲間もあの世に送って差し上げますわ」

 

 

 チカさんは最後に、セカンドの頭を撃ち砕く。それで終わりだった。

 セカンドの死体は、発動していた空間跳躍(ワープ)の穴に吸い込まれて消えていく。やがて、その穴も空の穴を消える。

 

 一瞬のことで、何も口を挟めなかった。

 相手は倒すべき脅威だったとしても、死を目の当たりにしたことで胸に重いもの積もる。

 

 

「なぁ……結局、戦争って何のことなんだ?どうしてカイは狙われた?この戦いは何のために起こって、どんな結果になったんだ!?」

 

『……』

 

 

 セカンドと戦った。殺してやると思った。

 だが、実際に死を目の当たりにすると、他の脅威とは受ける気持ちが大きく異なる。見た目が人間だから、それとも……オレだからか。

 相手の目的も心情を知らないまま、何も考えず殺させたことは本当に正しかったのか?

 

 胸に後悔が積もる。

 取り返せない失敗に心が痛む。

 自分の手を汚しさえしない自分に嫌気が差す。

 オレはきっと、この戦いの本質を何も分かっていなかった。

 

 

「……分かりました。お話いたしますわ」

 

「じゃが、まずは場所を変えるぞ」

 

 

 超常戦争はまだまだ始まらない。

 夜はまだ始まったばかりだ。




茨木浩史(いばらきひろふみ)
見た目:鬼っ子白髪着物TS熟女
能力:変化
全長:160cm(可変)
属性:妖怪/人類
陣営:『アウトロー』

隠岐正道(おきまさみち)
見た目:スキンヘッド忍者
能力:瞬間移動
全長:198cm
属性:妖怪/人類
陣営:『アウトロー』

青沼亮治(あおぬまりょうじ)
見た目:黒服グラサン
能力:認識阻害
全長:202cm
属性:妖怪/人類
陣営:『アウトロー』

▽天城セカンド
見た目:黒髪制服高身長青年
能力:ワープ、解析妨害
全長:191cm
属性:宇宙人/人類・脅威
陣営:異星

▽浮遊怪獣
見た目:触手の生えた半透明の風船
能力:浮遊、爆発
全長:約20m
属性:怪獣/脅威
陣営:異星
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