いつも月夜に米の飯、米の飯より思し召し   作:ルシエド

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「あなたはだれ?」

 目覚めた時、俺は俺を忘れていた。

 

 どこかの部屋で、乱雑に衣類を積み上げて作ったように見える即席ベッドの上で、俺は目覚めていた。

 

「……俺は、誰だ?」

 

 困ったな。

 俺はいつから遺跡で発見される記憶喪失ヒロインになったんだ?

 いや違え。

 だいぶ混乱してるな俺。

 冷静になろう。

 こういう時はまず自分の状態を確認、要救助プロトコルを起動、量子通信同期を開始……する前に、まず状況を確認しなければ。

 

「e381a0e38184e38198e38287e38186e381b6e381a7e38199e3818befbc9f」

 

「え? 何? 何々何の何?」

 

 この子は?

 喋ってる?

 よな?

 いや、何言ってんのか分からん。

 

「e8a880e89189e3818ce9809ae38198e381a6e381aae38184efbc9f」

 

 だんだん状況が理解できてきた。

 どうやら俺は、何かのなんかがあって記憶を失い、倒れていたところを、この子に助けてもらったようだ。

 頭がめっちゃ痛えし、俺の頭には不格好な包帯や手当ての跡がある。

 慣れない手付きで、この子が助けてくれたんだろう。おそらくね。

 はーん。

 この子が俺の命の恩人か。

 

「どうやら命を助けていただいたようで、どうもありがとうございます。この恩は……」

 

「e381a9e38081e59c9fe4b88be5baa7efbc81efbc9fe38080e38184e38184e38293e381a7e38199e38288e3819de381aee3818fe38289e38184e381aee38193e381a8efbc81」

 

 少女があたふたしている。

 ううむ。

 何か状況の説明でもしてくれてんのかな。

 ありがたいが、申し訳ない。

 何言ってるのかさーっぱり分からん。

 物腰や声色から優しそうっぽい少女だから、どう気遣ってもらってるのかさっぱり分からんのが逆に申し訳ないなこれ。

 

 いや、というか。

 

 

 内向的そうだがめっちゃ素材のレベルが高い美少女……と思ってたが、なんだこの耳、この尻尾……生体流動波動が観測できる。

 つまり、生来持ってる身体の一部なのか。

 妙だな。

 198886年に『人間に似せた亜人的生命体』の作成は、禁止されたはずなんだが。

 条約違反?

 研究所からの脱走者?

 いや、振る舞いや雰囲気からそういうのは感じられない。

 

 まず意思疎通できるものを探してみるか。

 ええと。

 未開の未知の部族とコミュニケーション取るためのマニュアル、脳のどこに入れてたんだっけ……いや記憶喪失の俺が覚えてるわけねえだろ!

 

 ところでなんで君は俺の周りをうろうろしてるのかな。

 雨乞いかなんかの儀式?

 

 

 ああでもない、こうでもない。

 

 なんやかんや、コミュニケーションが取れた。

 なんと日本語で筆談ができたのだ。

 これはありがてえ。

 共通言語が一つあれば会話できないことも気にならねえな。

 女の子が着替えを見つけてきて着替えてたのも些細なことだ。もはや気にならん。

 

 気にならねえな、と思ってたんだが。

 

「え? ウマ娘って何? 知らねえ……」

 

「e4b896e7958ce7b5b1e59088e4bd93e381a3e381a6e381aae38293e381a7e38199e3818be280a6e280a6efbc9f」

 

 筆談で言葉を交わす内に、なんというか。

 

「トレセン? ははぁ、なるほどなるほど。知らねえ……」

 

「e5a4aae999bde7b3bbe998b2e8a19be8bb8de381a3e381a6e381aae381abe280a6e280a6efbc9f」

 

 なんもわからんということが分かってしまった。

 人間と共存してるウマ娘。

 トレーニングセンター学園。

 トゥインクルシリーズ。

 はーん、分からん!

 俺の知らない世界か?

 

「e381a9e38186e38197e381a6e38193e38186e381aae381a3e381a1e38283e381a3e3819fe38293e381a0e3828de38186」

 

 

 やっべ。

 女の子が不安になってる感じがする。

 あかんわこれ。

 俺が情報確認と考察に夢中になってケアしてなかったからだ。

 うっかり失態にも限度があるぞ。

 

 ほーれほれ。

 アンドロメダ生息型、危険度Sランク触手怪獣のモノマネ~!

 これで笑わなかった女子は居ねえんだわ。

 ほら笑った。

 もっと笑っていいんだぞ。

 

 ……なんで俺は自分のこと何も覚えてねえのにこんなのばっか覚えてんの!?

 

「e381b5e381b5e381b5」

 

 

 おっ。

 初めて笑ったな。

 なんだ、笑った方が可愛いじゃんか。

 いつも笑ってりゃいいのに。

 ウマ娘ってのはよく分からないが、この子が笑うと素敵な美少女なのは分かった。

 

 よし。

 そろそろ周辺確認しとくか。

 ここはたぶんどっかの屋内だが、外の状態を把握しとかねえと周りを見回しても意味はねえ……と思うしな。

 

「自己紹介しとくか。俺は……俺の名前何? いやそもそも口で言っても伝わらないかこれ」

 

 筆談で記憶喪失であること、自分の名前も分からないことを伝えてみよう。

 

 よし、伝わったな。

 

 あ、なんかびっくりするくらい心配されてる!

 

「e3819de3828ce5a4a7e4b888e5a4abe381aae38293e381a7e38199e3818befbc81efbc9f」

 

 

 あ、なんか分かる。

 「大丈夫なんですか!?」って言われてる気がする。

 大丈夫大丈夫。

 

 筆談で彼女の名前が「ライスシャワー」であることも知れた。

 ううん?

 なんか……ううん?

 日本語使ってるから日本人と思ってたけど違うのかこれ?

 

 偽名とか使われてる?

 なんか育ち良い感じするしいいとこのお姫様とかだったりするんだろうか……身分を隠したお姫様か……扱いミスると起訴されて連邦裁判で死にそうだな……よし。

 丁重に。

 丁重に扱おう。

 偽名だったとしてもツッコまんぞ。

 

 俺は"身の程を知っていますか?アンケート"に「知ってる」「知らない」「俺だけがあいつの良さを知ってるんだよな……」の三重投票をしたほど空気が読める男。

 

「e38193e381aee4babae8a898e686b6e596aae5a4b1e381aae381aee381abe381aae38293e3818be38199e38194e3818fe5b9b3e6b097e3819de38186e280a6e280a6」

 

 紙とペンは常に持っておくか。

 できれば何度でも書き直せるデジタルボードの方がいいんだが。

 この子にも一式渡しておこう。

 いやいや、そんなお礼しなくていいんだよ。

 頭を上げなさい、ライスシャ……ライス姫。

 

 しかし瓦礫が多いな。

 部屋を出て、外に向かえば向かうほど瓦礫が増えていく。

 足元注意ってこの子にも言っておかな……いや、言っても聞こえねえのか。不便。

 あ、転ぶ!

 

 手を伸ばして掴―――届くか―――届け―――間に合った!

 

「e3818de38283e381a3」

 

 あっぶねえ、この子、足元がおろそかすぎる。

 やっぱ箱入りか?

 姫なのか?

 ブラックプリンセスか?

 

 しゃあねえ。

 姫、お手を拝借。

 俺の手に手を乗せて、ちゃんと掴んでくれ。

 瓦礫が多いところ抜けるまでな。

 

「e38182e280a6e280a60d0a」

 

 後で無礼討ちとかはやめてくれよお姫様。

 こえー。

 上の方の血筋の人の手に触れるのマジこえー。

 昔令嬢に無礼を働いて惑星ごと消された農夫とか居るって聞くしなあ。

 

「e38182e280a6e280a6」

 

 ……手が本当に小さいなこの子。

 背も小さい。

 耳と尻尾に目を瞑れば、ただの小さな女の子だ。

 転んだら大変なことになりそうだ。

 気を付けてやらないとなあ。

 

「e383a9e382a4e382b9e381abe3818ae58584e38195e38293e3818ce38184e3819fe38289e38081e38193e38293e381aae6849fe38198e381aae381aee3818be381aae280a6e280a6」

 

 

 なんだその顔は。

 何を考えている?

 無礼討ちか?

 無礼討ちなのか?

 い、命だけは許してください……お願いします。靴舐めましょうか?

 

 お。

 外だ!

 出口だ!

 これで手を離せる!

 転ぶなよお姫様!

 あと手を繋いでた時間は短いから無礼討ちだけは許してください!

 

「さて、状況は……窓からちらっと見えてたが……やっぱ見間違いじゃあないか……」

 

 外に出た瞬間、街が一望できた。

 

 俺は、何故か驚かなかった。

 

 記憶を失う前から"そうなるだろう"と思ってたという確信があって、"そうなっていた"街があったから。

 

 

 燃える石。

 燃える街。

 燃える世界。

 街のところどころに倒れている人間らしきもの、死体らしきもの、人間のように見えるがそう見えるだけの似た残骸、全てが渾然一体となっているかのような光景。

 

 惨劇としか言いようのない破壊の跡。

 

 そうだ。

 俺は。

 こうなると知っていて。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なんで、止めようとしてたんだったっけ……?

 

 あ。

 

「そうだ、思い出した。世界がぶつかったのか」

 

「e381a9e38081e381a9e38186e38197e3819fe38293e381a7e38199e3818befbc9f」

 

 黒髪の女の子が、不安げにこっちを見上げている。

 ああ。

 なるほど。

 ずっと不安げだったのは、この街を既に見ていたからだったのか。

 ……悪い。

 これは、俺の同郷の奴のせいだ。

 

 世界の資源には限りがある。

 人間が『本能的な満足を得るために必要な文化的生活』を100億人に過ごさせるために必要な資源量や、各種必需品の生産には、地球が何十個も必要だった。

 おそらく、この破壊された街の文明レベルを見る限り、『俺の世界』とぶつかった『こっちの世界』の文明レベルでも、100億人に等しく満足な生活をさせるには、地球が五個は居るだろう。

 たぶん。

 人間は本質的に腹が減ってポテチをすぐ食い尽くすデブなのだ。

 

 『俺の世界』は宇宙に進出してから長かったが、その内誰かが気付いてしまった。

 もうすぐ、地球人類は宇宙の資源を全て使い果たしてしまうということを。

 地球の資源を使い果たしてしまいそうだったから宇宙に出たのに、困ったことに人間は宇宙の資源すら使い果たしてしまう段階に入ってしまったのだ。

 腹減ってポテチすぐ食い尽くすデブか?

 

 そこで、頭のいい人が考えた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 

 なんやかんやあって、平行世界に接続する装置ができた。

 そうだ。

 思い出してきた。

 その装置の使用に、反対があったんだ。

 まだ安全性が確認されてない、と。

 だが政争に勝利した派閥が押し切って、平行世界との接続を実行した。

 

 資源とは全てだ。

 無ければ必需品製造惑星も、食料製造用銀河も、全て止まる。

 そして沢山の人がまず飢え死にする。

 ポテチを食い尽くしたデブのように。

 するか? しないかもしれない。まあするだろう。

 人道的に考えれば、餓死は避ける以外にない。

 この機械はまだ安全じゃないから餓死してろ、って市民に言えるか? 言えねえな。

 

 安全性より人道を優先して、他世界への接続は実行された。

 俺は……俺は、どうしてたんだっけ?

 いや……そうだ……俺も、反対してた、気がする。

 誰かに教えられて……桐生院……誰だっけ……そもそも、俺は……いや、それは今思い出さなくていいことのはずだ。

 

 それで、最悪の予想を上回る最悪の事態が起きた。

 ポテチを食いすぎたデブが成人病になって倒れた日のように、甘い期待は裏切られ、先のことを考えない行動は破綻を呼び、突然に全ての終わりが訪れた。

 

 世界と世界が衝突し、両方砕けて、一つに混ざった。

 

 全てが壊れたんだ。

 

 

 最悪だ。

 "こっち"の世界の人達は完全にとばっちり。

 俺たちの世界の都合に巻き込まれて、世界を一瞬で失ったんだ。

 ……クソ。

 分からねえ。

 なんでこんな憤ってるのか、俺にも分からねえ。

 だけど。

 記憶を失う前の俺は……これを、止めたかったことだけは分かる……畜生。

 

 

 

 

 

 

 全てが壊れ、混ざっていた。

 俺の世界と、こちらの世界が混ざり合っていた。

 

 俺の知る日本の最新世代のビルと、こちらの世界の旧世代的な建物が混ざっている。

 俺の世界にあった人工森林に、街の建物が無造作に呑まれている。

 空中ハイウェイは崩壊し、こっちの世界の高速道路に軒並み突き刺さっていた。

 空間の隙間に格納されていたはずの万能生産機は、世界衝突の衝撃か何かで引きずり出され、海の水と融合して奇っ怪なオブジェクトになっている。

 こっちの世界の空気と、俺の世界の宇宙船が融合して、半透明なバラバラの破片になって降り注いだ痕跡も見て取れた。

 

 世界が終わっていた。

 

 たぶん、際限なく求め続けた、俺達の世界のせいで。

 

 言葉が通じないことが、異世界の言葉しか使えないことが、俺が加害者の同族であることの証明……絶対に消えない、罪の証だった。

 

 ……っと。

 ライス姫?

 うずくまって、どうし……いや。

 

「e381a9e38186e38197e38288e38186e280a6e280a6e381a9e38186e38199e3828ce381b0e38184e38184e381aee280a6e280a6e38193e3828ce3818be38289e280a6e280a6e8a8b3e3818ce3828fe3818be38289e381aae38184e38288e280a6e280a6」

 

 

 ライス姫は震えて、怯えて、何かに祈るように、夢に覚めてくれと願うように、手を合わせて縮こまっていた。

 ……そうだよな。

 女の子だもんな。

 不安で、怖くて、何が何だか分からないに違いない。

 

 ちゃんと振る舞え、俺。

 俺は加害者の方で、彼女が被害者の方だ。

 記憶が欠けてても分かる。だから、しっかりしねえと。

 記憶が欠けてる不安も、俺が何なのか分からない恐怖も、跪いて叫び出したい後悔もある、だけど、今俺の方が弱音を吐いたり誰かによりかかるのはダメだ。

 絶対に駄目だ。

 

 責任を取れ。

 俺の世界が、この子の世界を滅ぼした責任を。

 彼女の手を取って、できる限り彼女に優しくして、彼女を連れて、歩き出せ。

 

「大丈夫か? ゆっくりでいい、歩こう」

 

 彼女の手は。変わらず、小さかった。

 こんな小さな手から、当たり前の平穏を、当たり前の毎日を奪った罪悪感を、繋いだ手からひしひしと感じた。

 

 感覚が、身体が、"俺の使い方"を覚えている。

 骨から発電する。

 筋肉を重力波の放出から、電磁波の放出に切り替える。

 神経網のプログラムを、省ATPモードから標準稼働モードへ。

 量で表面の分子構造を調整。

 原始的なカーボンアンテナを再現。

 黒く染まった左上を空に掲げて、周辺に電磁波を投射する。

 古い通信様式だが、緊急時はこれで通信を行うってのが決まりだ。

 

 

 ……よし。

 反応が返ってきた。

 同郷の生存者、ではないかな。

 規定の返信信号。

 つまり、人が乗ってない『機神』だ。

 とりあえず車代わりには使える……と思いたい。

 

「アルビオンの反応がないな……観測できる範囲にあるのはギガスだけか」

 

 慣れた機体がないのは辛いな……慣れた機体? 俺は何に慣れてたんだ?

 

 

 ともかくここを離れよう。

 街を焼く火はまだ収まりそうにもない。

 このままここに居ても、危ないだけだ。

 

 行くぞーライス姫。

 炒り米になっちまう。

 ライス姫?

 ライスちゃん?

 

 

 ……? なんだライス姫。なんかびっくりしてるが。

 

 ああ。

 悪いな。

 "こういうの"やらない人類なのか、こっちの人間は。

 真っ黒なおててで怖がらせてしまった。

 記憶欠けてるから迂闊になってんのかな、俺。

 

 とりあえずメモで伝えておこう。

 

 こうこうこういうわけだ。

 分かる?

 分かって?

 

 ……五割も分かってもらえてねえ気がする!

 

 五割分かってもらえたなら十分か?

 十分だと思っておこう。

 

「大丈夫、大丈夫だ。どうにかする。俺だけ生き残っちまったなら……俺がやるしかない」

 

 ライス姫の手を引くために、手を差し出す。

 俺が差し伸べた手を、ライス姫は取ってくれた。

 不気味に思ってるのが伝わった。

 よく分からないものを怖がるような表情が見て取れた。

 その上で、俺を信じてくれたことが分かった。

 たぶん、きっと。

 この子は疑うよりは信じようとする、そんな底抜けに良い子なのだろう。

 

「e3819de38293e381aae381abe4b88de5ae89e3819de38186e381aae9a194e38292e38197e381aae38184e381a7e38082e58886e3818be38289e381aae38184e38193e381a8e3818ce38184e381a3e381b1e38184e38182e3828be38191e381a9e38081e383a9e382a4e382b9e38292e5bf83e9858de38197e381a6e3828be381aee38081e58886e3818be3828be3818be38289e38082e383a9e382a4e382b9e381afe280a6e280a6e38182e381aae3819fe3818ce682aae38184e4babae38198e38283e381aae38184e381a3e381a6e38193e381a8e381afe38081e58886e3818be3828be3818be38289」

 

 彼女の口から出た、筆談さえ介さない、彼女の心からの言葉さえ、俺には分からない。分からないが。

 

 俺の手を取ってくれたこの純粋さに、応えなければならないんじゃないか、なんて、今思った。

 

「俺はタイムマシンを作ってこの悲劇を無かったことにするために、ここに送られたんだ」

 

 最初から無かったことにすれば。

 

 世界は、壊れなかったことになる。

 

 短い旅に出よう。さっさと終わらせて、世界を救ってしまう旅に。

 

 

 

 

 

 様々なものが混ざった景色。

 ぶっちゃけ、違和感しかないなこれ。

 つーか気持ち悪い。

 雑コラで作ったみたいな風景だ。

 

 そこを、お姫様の手を引いて歩いていく。

 

「大丈夫か? って口で言っても意味ねえんだった。くそう、俺に学習能力はないのか」

 

「e38193e381aee4babae38081e9809ae38198e381aae38184e381a3e381a6e58886e3818be381a3e381a6e3828be381aee381abe381a4e38184e381a4e38184e4bd95e5baa6e38282e383a9e382a4e382b9e381aee5bf83e9858de38197e381a6e3828be381bfe3819fe38184e280a6e280a6e381b5e381b5e381a3」

 

 筆談で疲れてないかとか、足は痛くないかとか、そういうのを聞いてみる。

 『平気です』と筆談が返ってきた。

 はーん。

 頑張り屋だなこの子。

 無理はするんじゃないぞ。

 辛そうなら休憩取るから。

 悪いが、もうちょっと歩いてくれ。

 

 細々としたことを筆談で伝えて、俺は目的のものが在るであろう地点に向かう。

 

 

 こっちの世界でも日本が山だらけなのは同じなんだなあ。

 まあ地形レベルで同じみたいだしな。

 山があると1000km級の宇宙戦艦が離着陸する場を作れないから、日本は不利とか大昔はあったんだっけか……歴史の授業でやった覚えがある。

 最終的に東京沖の海上メガフロートに離着陸場作って宇宙に進出したんだっけか。

 

 逆にどうなんだろうか。

 よく知らんが、このウマ娘とかいう近似人類は、日本の山々で育てられた遺伝子を受け継いでるから足が強いとかあるのか……?

 いかんな。

 どうやら俺は考察癖があるようだ。

 無駄に考え込んでる気がする。

 自分で自分を忘れてるってのも難儀だなあ。

 

「e38182e38082e38182e381b6e381aae38184e381a7e38199e38288efbc81e38080e38182e38081e8b6b3e58583e38081e8b6b3e58583e381a7e38199e38288e381a3efbc81」

 

 ……?

 あ、足元か。

 おー危ねえ、ナノブレードの破片だ。

 考え事しながら踏んでたら普通に足無くなってたな。

 あっぶねあっぶね、完全に踏むルートだった。

 

「e38193e381aee4babae38081e38282e38197e3818be38197e381a6e383a9e382a4e382b9e38288e3828ae3818ae381a3e381a1e38287e38193e381a1e38287e38184e381aae381aee3818be381aae280a6e280a6」

 

 

 ありがとう、ライス姫。

 サンキューシャワー。

 俺も頼れる大人ポジを堅持するため、もうちょいしっかりしないとなあ。

 

「e38289e38081e383a9e382a4e382b9e3818ce38197e381a3e3818be3828ae38197e381aae38184e381a8e280a6e280a6e38193e381aee3818ae58584e38195e38293e38081e38186e381a3e3818be3828ae381a7e6adbbe38293e38198e38283e38186e3818be38282e280a6e280a6efbc81」

 

 ……うん?

 あの、ちょっと、なんで俺の腕を抱いてるんですかね。

 待ってくれ! これ後でセクハラ案件になって処刑されない?

 辺境惑星追放刑とかならない?

 ならないといいんだが。

 もしそうなったら命乞いの時間だけはください。お願いします。

 

 抱き締められて分かったことは三つ。

 この子には乳がないこと。

 乳がないから俺のメンタルがギリギリセーフであること。

 そして、俺の腕を抱き締めようとしてもこの子の身長だと、手首の方しか抱き締められないということだ。

 妹とか娘とかにすがりつかれた男の気持ちって、こんなんなんだろうか。

 庇護しないと。

 

 っと、うん。

 こっちだ。

 こっちに行けば、たぶんある……あったあった。

 

「e38188e381a3e280a6e280a6e38193e3828ce381a3e381a6e280a6e280a6e6a99fe6a2b0e381aee38081e381a9e38186e381b6e381a4e38195e38293efbc9f」

 

 機神第六世代『ギガス』。

 全長22m。重さマイナス20t。

 馬型の運搬用機神だ。

 前世代までの多機能高級路線の反省を生かし、一切の戦闘力を持たない代わりに、内部に圧縮空間を保有することによる圧倒的な運搬能力と、無補給長期活動能力を備えている。

 低コスト化も成し遂げ、どんな星系でも一機は見る代物だな。

 圧縮空間を生成・維持する胸部と同じくらいのコストで作られた足は、比較的高級なパーツだが、水上でも宇宙でも太陽の上でもさらりと走れる。

 僻地開拓において最も活躍した第六世代の一つに数えられる。傑作機だな。

 

 やー、運が良かった。

 世界が衝突融合した時点で、ほとんどの街も、ほとんどの基地も、ほとんどの機体も破壊されていて無事残ってるものはほぼなかったはずだ。

 無かったはずだけど、奇跡的にこいつは残ってた。

 まさに天文学的確率での奇跡だ。

 完動状態のギガスが歩いていける範囲にあった幸運と合わせりゃ、コイントスで1万回連続で表が出続けるくらいの確率なんじゃないかこれ?

 

 あるいは……ライス姫がこの幸運を招き寄せてくれたんだろうか。

 ははっ。

 おもしれー。

 ライス姫は居るだけで俺に幸運をくれる幸運の女神かなんかかもしれないな。

 

「e381a7e38282e38081e8a68be3819fe38193e381a8e381aae38184e381a9e38186e381b6e381a4e38195e38293e381a0e280a6e280a6」

 

 ん? なんだこの反応? 筆談してみるか。

 

 ……え?

 馬を知らん?

 なんで?

 君ウマ娘とかいう生物なのでは?

 じゃあ馬を素材に人間と融合させた新世代亜人とかそういうのじゃないの?

 そういうのじゃない?

 あ、そうなんだ……えええ?

 

 筆談、筆談、筆談。

 

 ……なるほど?

 つまり、俺の世界にウマ娘がいないように?

 ライス姫の世界には馬がいない?

 なんじゃあそりゃあ。

 もしかして今回の実験失敗で初めて、ウマ娘と馬が同時に存在する世界が出来てたりするんですかね……?

 なんてトンチキなんだ。

 ライス姫の世界で『馬鹿』とかの言葉がどうなってるのかマジで気になるんだが……!

 

 ま、いっか!

 俺のバッグに入ってた飲食物が尽きる前に到着できてよかった。

 よく頑張ったなお嬢さん。

 不安な中、この距離をよく頑張って歩いたな。

 

「e38182e38081e9a3b2e381bfe789a9e280a6e280a6efbc9fe38080e3818fe3828ce3828be38293e381a7e38199e3818befbc9fe38080e38182e3828ae3818ce381a8e38186e38194e38196e38184e381bee38199e38082e280a6e280a6e383a9e382a4e382b9e3818ce4bd95e3818be9a3b2e381bfe3819fe3819de38186e381abe38197e381a6e3819fe381aee38081e58886e3818be381a3e3819fe381aee3818be381aae38082e38288e3818fe591a8e3828ae38292e8a68be381a6e3828be4babae381aae38293e381a0」

 

 ふっ。

 何言ってるのかさーっぱり分からん。

 連れ回したことの文句とか言ってんのかな。

 マジごめんね。

 筆談でここまで頑張って歩いてくれたことを褒めに褒めておいてやろう。

 

 

 あ、めっちゃ照れてる。

 これは言葉が通じなくても一発で分かるわ。

 かわいい。

 

 さて、乗り込むか。

 俺が動かせるといいんだが。

 ちょっと待っててくれライス姫。

 ……ちょっと待ってて?

 待っててくれ!

 腕離して!

 すぐ戻って来るから!

 怖いのは分かるけど何かあったら頼れる俺がすぐ戻って来るから待ってて?

 

「e8b6b3e58583e381abe381afe6b097e38292e4bb98e38191e381a6e381ad」

 

 

 ……いやなんかこれ俺が心配されてる気がしてきたな。

 さっきナノブレードうっかり踏みかけてたから心配されてるのか……?

 あ、筆談でそう言ってきた。

 はい、すみません。

 無事に帰ってくるんで待っててください。

 ご心配かけて申し訳ありません。

 

 さーて、ギガスの足から頭まで登って行かねえと。

 記憶がねえからか、デカい機械の馬の内部を登っていくのが新鮮でワクワクするな。

 

 

 ……。

 ……。

 ……。

 

 ……やっべ。

 こういうのどう開けるんだっけ。

 ヤバい!

 ドア……ドアってどうやって開けるんだっけ!

 そういや最初に屋外に出た時はドアとか触ってねえしそれ以後もドア触れてねえ!

 ドアの開け方忘れてる!

 ドアは開けるものだって記憶も開けたような記憶もあんのにドアの開け方が分からない!

 なんだっけ!?

 めっちゃ当たり前のことなのは分かるのにその当たり前をどうすんのか分かんねえ!

 た、助けてくれ!

 

 あ。

 

 

 はい……心配かけてすみません……。

 全面的に俺の不徳の致すところです。

 ちょ、ちょっと待っててくれ。

 もうちょっと、もうちょっとで思い出すから。

 あ、おいおい、その辺のボタンに勝手に触ると危なっ―――

 

 

 

 

 

 

 おっ……おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!

 

 うっ、動いた! ライスシャワー! その指が! ボタンを押して! 解決!

 

 その小さく細い指からは信じられない神の指!

 

「あ……ありがとうライス姫! 我が幸運の女神!」

 

「e38188e38081e382a8e383ace38399e383bce382bfe383bce381bfe3819fe38184e381a0e381a3e3819fe3818be38289e38081e4b88ae381abe8a18ce3818fe3839ce382bfe383b3e68abce3819be381b0e38184e38184e381a0e38191e3818be381aae381a3e381a6e280a6e280a6」

 

「マジでありがとう! 記憶失って最初に出会ったのが君でよかった! ありがとう!」

 

 全力で、全力で、感謝しないと。

 

 あ。

 

 照れてる。かわいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライス姫はその辺の椅子に座っててもらおう。

 ええと、大丈夫大丈夫、ドアの開け方は忘れてるけど他は覚えてる。

 椅子に座って。

 血液認証機に指を入れる。

 チクリと針が刺さる痛みを我慢して、DNAの同種族認証をクリア。

 各計器が点灯する。

 

 

 起動パス入力して立ち上げて、と。

 んーと。

 パスワードが三つ同時に存在するトライクォンタム式か。

 常に変動し続ける三つのパスワードが量子的に重なった状態にあり、特定の量子状態にある暗号鍵を入力して、不確定状態の情報をパスワードとして使うベーシックなセキュリティシステムだったはずだ。

 俺の生体素子で行ける? 行けてくれ。行けーっ! 行けたー! 行く行く行くー! うおおおおおおお! エロ同人の女みたいな言葉を吐いてしまった!

 ふぅ。

 マジでよかった……これで動かなかったら本当にどうしようかと。

 

 いざという時ライス姫がギガスを動かせるよう、大昔の……俺から見れば大昔だが、こっちの世界の文明レベルで見れば一般的な文字入力のみのセキュリティに変更しておくか。

 

「ライス姫、好きなもんとかある?」

 

 筆談でさらさらと会話する。

 へぇ、パンが好きなのか。

 たとえば?

 最近好きなのは?

 ほう、メロンパン。

 見る目がありますね。

 一万年以上宇宙で一番人気を争っていたパンですよ。

 好きな食べ物もなんか可愛げがあるな……まあいいや、これパスにしとこう。

 メロンパンってカタカナで入力したら動かせるようにしといたからよろしく。

 

「e38193e381aee4babae38081e383a9e382a4e382b9e381aee38193e381a8e784a1e69da1e4bbb6e381a7e4bfa1e38198e58887e381a3e381a6e3828be38191e381a9e38081e5a489e381aae38193e381a8e38195e3828ce3819fe38289e381a9e38186e38199e3828be3818be381a8e3818be88083e38188e381a6e381aae38184e381aee3818be381aae280a6e280a6」

 

 さて、まずこの混ざりに混ざった世界がどういう地形になってんのか情報を集めよう。

 でないと、どっちに行けばいいのかも分からない。

 タイムマシンを作るためには、"必要なもの"を確保しに行かないと。

 

 目的地は十箇所。

 あの人が……誰だったか……まあいい。

 日本の『神殿』十箇所のどこかに、タイムマシンの設計図を隠したと言っていた。

 俺のDNAデータがあればその設計図のデータロックを解除できる。

 ただ、今の混ざりきったこの世界のどこの十箇所なのか、まだ分からない。

 

 まあ昔はよくあったとか聞く、メガネ付けたままベッドで寝てしまった翌朝の行方不明メガネみたいなもんだろう。

 機械に見つけてもらう方が早い。

 

「管制システム。現在の日本の国土データを収集して整理して出せ」

 

『了解しました。地形、地名、地勢のデータを収集、表示します』

 

 管制システムがハッキング、観測、情報残滓の回収、量子ネットワークからの情報構築など、ありとあらゆる手段で『今の世界』の土地情報を収集していく。

 

 なるほど。

 なるほど。

 なるほど?

 

「指定した座標にマーキングを。目的地十箇所の入力を行った時点で終了とする」

 

『了解しました。座標の入力をお願いします』

 

 座標は丸暗記してる。

 俺の世界では『十の神殿』だった場所は、こっちの世界の土地や建物と融合したりして、そのまんまの座標にあるはずだ。

 こっちの世界の住所に照らし合わせると、この十箇所。

 

 北海道札幌市中央区。

 北海道函館市。

 福島県福島市。

 千葉県船橋市。

 東京都府中市

 新潟県新潟市北区。

 愛知県豊明市。

 京都府京都市伏見区。

 兵庫県宝塚市。

 福岡県北九州市小倉南区。

 

 そんで、現在地が福岡の北の方。

 

 

 こうなるわけで。

 ……やべえ、地名に馴染みがない。

 俺の世界でも昔の日本の地名はこんな感じだったんだっけ?

 違和感が凄すぎて脳味噌おっつかない。

 島じゃないのに広島とか狩猟ばっかしてそうな鳥取とか何を考えて名付けたんだこれ。

 

「e38182e3828ce280a6e280a6efbc9f」

 

 うん?

 どした?

 内陸部なのに魚の名産地とかいう欺瞞に満ちた土地に違和感でも持ったか?

 そこは湖があるからいいんだよ。

 俺の世界でもそうだった。

 あ、違うみたいですね。すみません。

 

 ……へえ?

 神殿の場所が全部ウマ娘の中央所属レース場と同じ?

 東京レース場とか中京レース場とかがある?

 へぇー。

 偶然……あるいはなんらかの因果があったのかね。

 こっちの世界ではURA?とかいう勢力が確保してた土地が、俺の世界での『神殿』を作ってた勢力と平行世界の同一組織で、ウマ娘の有無によって違う歴史を歩んでたとか……まあどうなんだか分からんな。後で調べとこ。

 

 ここ一ヶ月はトレセン学園のウマ娘達がG……GⅠ(じーいち)

 筆談だから読みは自信がねえ!

 GⅠ(じーいち)とかで将来走るために平日の練習でこの十箇所のレース場を知り合いのウマ娘が回ってた?

 みんなデビュー前?

 ライス姫もデビュー前で友達が何人かいたみたいな話?

 ほー。

 デビュー前ってのがピンと来ないが、デビュー前のウマ娘は各地を巡ってて、『神殿』と混ざってるであろうレース場の近くに居たかも、みたいな話か。

 この理解で合ってる? 合ってるよな?

 ああでもそれなら、ライス姫は俺より現地に詳しかったりするかもな。

 いざという時、助かるかも。

 

 そういう前提があるなら、行く先々でお友達のウマ娘を回収できるかもな。

 ライス姫のおかげでどうにかここまでこぎつけたんだ。

 ライス姫のお友達くらいは助けて行ったって、バチは当たらないだろう。たぶん。

 

 筆談でそのへん伝えとくか。

 あ、軽くライス姫のお友達勢の特徴とか聞いとくか?

 その方が見つけやすくはあるか。

 いや……ウマ娘特有の表現されたら俺にも分かんないかなぁ……?

 

「e280a6e280a6e38184e38184e381aeefbc9fe38080e38182e3828ae3818ce381a8e38186e280a6e280a6」

 

 

 あー。

 なんかやっぱ、筆談なくてもなんとなく言ってることが分かる気がする。

 この子は本当に分かりやすい。

 それが、今は本当に助かる。

 疑わなくて済むっていうのは、本当に助かることだ。

 

 さて。

 

 行くか。

 

 ゆっくりと、世界を救いに。

 

 競争相手なんて居ない。一着もビリもない。ゴールにさえ着けば俺達の勝ちだ。

 

 まず向かう先は、ここから北上して、下関?方面に向かって、北九州?の果てに。

 

 福岡県北九州市小倉南区、小倉レース場を目指す。

 

「そこでタイムマシンの設計図見つかったらすぐに終わるんだが、それは流石に期待しすぎか」

 

 その時。

 ライス姫のお腹がくぅと鳴って、ライス姫の顔が真っ赤になった。

 思わずくすっとしてしまった俺は悪くない。

 だからそんな目で見ないでくれ。

 次回からは気をつけるから。

 

 『食べ物確保しながら進んでいこうか』と俺は書いて示す。

 

 『ごめんなさい』と書いて見せてきたライス姫に、俺は苦笑した。

 

 『俺もお腹空いて死にそうだから』と書くと、ライス姫は微笑んで、ぺこりと頭を下げてきた。

 

 構わないさ。

 急ぐ旅でもない。

 ゆっくりと、できる限り、君の苦しみが少ない道を行こう。

 

 

 陽が沈んでいく。

 月が現れ、星が姿を見せ始める。

 木々の合間から闇が這い出て、街を飲む火が穏やかになって、緩やかな風が吹いている。

 静かな夜に、柔らかな空気、生き残った虫の鳴き声がさざめくように混ざっていく。

 月に叢雲。

 華に風。

 俺の世界とこっちの世界、どちらにもあったものが混ざり合って、流れていく。

 

 ゆっくり行こう。

 

 これから救う世界の景色を眺めながらでも、きっと世界は救えるはずだ。

 

 

 




12/20追記

https://dencode.com/ja/string/hex
別にセリフを読めなくても問題はないですが、ウマ娘サイドの言語はコレを使うと読めます
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