いつも月夜に米の飯、米の飯より思し召し   作:ルシエド

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「汚名返上のチャンスだ! 勝ち星を稼ぐ!」

 俺は。

 俺は?

 いや、今は考えるべきじゃない。

 考えたところで答えは出ない。

 俺は記憶喪失なんだから。

 

 そもそも『俺は俺は』って考えまくってるのがだいぶカスだ。

 自分のことしか考えてられないやつは死ぬしかない。

 頭を切り替えろ。

 脳内の分泌物質を制御して、強制的に自分を落ち着かせろ。

 『まあいいか』で思考を切り替えて、次の思考へ。

 

 

 ああ。

 来てる来てる。

 はるか彼方の反応が、うっすら感じられる。

 

 光学迷彩使って結構な速度で距離を詰めてきてるな。

 俺らは車とかどけながら進んできた分、だいぶ追いつかれかけてる。

 つっても目に見えないだけで、システム格差があるから位置は把握できてる。

 問題はない。

 

 次の街の一角で追いつかれる、と思う。

 そこで迎え撃った方がよさそうだ。

 上手く地形を使って引きつけてみる。

 二人はちょっと離れとくんだぞ。

 

 俺が建物の間に入って迎え撃ってる間に、二人はすたこら逃げてくれりゃいい。

 各々の移動プランをメモに書き出しておいたから、後で合流しよう。

 

 

 ……。

 ……。

 ……。

 

 カフェちゃん、離してくんない?

 大丈夫だって。

 相手はそこそこ旧式な感じがするからさ。

 たぶんどうにかなる。

 

 え?

 竜の機神相手には瞬殺だった?

 今度は拐われるのではなく大怪我するかもしれない?

 ……。

 ……。

 ……。

 

「ふぅー……泣きたい……」

 

 

 その話を蒸し返すのはやめろ。

 繰り返す、やめろ。

 もう二度と……かっこつけて瞬殺なんてされるか……!

 俺に汚名返上の機会くらいくれ。

 察しがいい子なんだから男のプライドにも理解を示して?

 

 

 まあ、プライド抜きにしても、女の子は連れて行けねえんだ。

 俺は一人で行くし、二人にはついてこないでほしい。

 はよ服離してくれ。

 

 お前らに変な寄り道させたくねえんだよ。

 血がくっせえ寄り道をさせたくない。

 真っ直ぐに、お前らだけが行ける道を行ってほしい。

 

 走れ。

 俺の知らないどこかに向かって、走れ。

 それはライバルに勝つとか、栄光とか、夢が叶うとか。

 そういう感じの名前が付いてるやつなんだよ。

 ああいうのに向かって走ってるお前らが、なんか好きだ。

 ウマ娘のレースとかいうのも、一回くらいは見てみたいくらいにな。

 

 だから来んな。

 俺は、お前らに殺し合いどころか、マジの喧嘩だってしてほしくねえし。

 お前らが大怪我なんてしたら卒倒しそうだ。

 手伝ってくれなんて言うつもりはない。

 

 これは、んまあ、適切なたとえじゃないかもしれないが。

 俺の世界の大昔の戦争だと、馬は武器を持たされなかった。

 馬は敵を殺すことを求められなかった。

 馬の役割は走ることだった。

 その代わり、敵の馬を殺さないことを心がける……そういう兵士も居たんだと。

 馬を死なせんのは戦士の恥とか言った家系もあったらしい。

 

 役割というか。

 使命というか。

 責任というか。

 そういうのあんだろ?

 俺に世界を救う使命があるように。

 君達には走るって使命があるが、戦うことは君らの使命じゃないんじゃないかね。

 

 そういう考えが俺にはあるので、俺には強権を発動させることができます。

 タキオン先生、カフェちゃんを引っ張ってでも連れてって。

 

 

 含みがありそうなツラしてんな。

 ま、いい。

 頼んだぞ。

 

 心配すんな。

 心配されるとなんか心がザワつくから。

 世界を救うまでは死んだりしないって。

 

 ん?

 

 

 カフェちゃん、そんな引っ張られても俺は別に……あれ?

 あれ?

 あれ?

 あれ……?

 

 

 アグネスタキオン、そこにいる。

 俺の服の背中を引っ張ってない。

 

 

 マンハッタンカフェ、そこにいる。

 俺の服の背中を引っ張ってない。

 

 ……。

 ……。

 ……。

 後ろ見てみよう。

 誰が俺の背中引っ張ってんのかな?

 

 

 ……。

 ……。

 ……。

 誰も居ないね。

 

 あの、出撃前にホラー映画の冒頭みたいな展開入れるのやめてくれませんか?

 

 敵との戦いに赴こうとする男に敵よりも怖そうな存在が存在を匂わすのをやめろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……もうちょっと姿勢低くしといた方が隠れやすいか。

 

 サーチはできた。

 生存者無し。

 ここも廃墟の街だ。

 誰を巻き込む心配はない。

 敵はまだ見えない。

 

 

 比較的無事な建物が多い区画に引き込む。

 建物の中や合間を使って、敵の機動や射線を妨害する。

 状況を見て、瓦礫が多い区画を使っていこう。

 それこそ、俺が散々苦労したように、車輪で走るようなやつを止めるなら、瓦礫が多い方に行くのがベターに思える。

 

 

 敵は分からん、が。

 知覚能力はこっちが上回ってるはず。

 盤上は俺の方が見えてるはず。

 なら地形を上手いこと利用していこう。

 相手が機神じゃなければどうとでもなるはず。

 

「さあ来い、何が来る? 何でも来い、俺はお前より後の被造物だ」

 

 来い、さあ来い、最初は情報収集から初めて次につなげ……ん?

 

 

 ……あっ。

 あっ。

 見覚えのあるシルエット。

 予想してた強さが10、俺の強さが15くらいなら、強さ30くらいのやつ。

 

 あ、猿の機神じゃーん、ようこそ。

 お前だったぁ。

 そっかぁ。

 (さる)の神殿から出てきたのかな、はっはっは。

 

 なんか俺の勘違いだったかな。

 猿は全機神の中で最も自衛を求められなかった機神。

 人間にできることをこなすためだけに作られたやつだ。

 

 装甲と武器が積まれてるように見えるが、猿が命令もされてないのに人を撃つわけがない。

 暴走したところで、自衛するっていう思考を持たされてないから、人を襲うような行動を取るわけがない。

 人に命令でもされてなければ、猿が人を攻撃するわけがない。

 

 ホールドアップ、ホールドアップだ。

 手を上げろ。

 

 

 そうそう、そうやって。

 両手上げろ。

 腕を俺の方に向けるな。

 フリーズ。

 フリーズ。

 フリーズって言ってるんだが?

 

 

 その拳を開いて空に向けな。

 拳を知らない人に向けてはいけませんってお母さんに教わらなかったのか?

 無礼にもほどがあるぞ。

 喧嘩したいヤンキーでも今時そんな挑発やってねえわ。

 俺に喧嘩を売るつもりがないならその拳を開いて上に上げよう?

 ほら。

 俺、喧嘩強いから。

 近所でも武器使わないなら最強って言われてたくらいだから。

 言われてた気がするから。

 俺と喧嘩すっと怪我じゃすまねえかもよ?

 だからそんな喧嘩腰、やめようぜ。

 

 

 そっかぁ。

 拳から銃口出しちゃうかぁ。

 いやもうこれダメだ。

 

 死んじゃう。

 

 バーカ! 滅びろ猿!

 

 

 おおうっ!

 

 

 かわせるかこんなの!

 死ぬ!

 死んだ!

 死んでない!

 かわせた!

 すごいな俺!

 ライス姫と出会ってからやることなすこと上手くいってる俺をなめるなよ!

 

 

 くっ。

 壁だ、壁を使う。

 遮蔽物を上手く利用して……!

 

 地元名物っぽい大岩!

 地元の伝説に繋がる解説があるっぽい大岩!

 盾になってくれ!

 ごめんなさい地元の皆さん!

 

 

 うわぁめっちゃ嫌な音してる。

 

 落ち着け。

 一秒、二秒、それくらいでもいい。

 戦闘の合間に考える時間を作ろう。

 落ち着いて立ち回れ。

 別にあいつを倒す必要があるわけでもない。

 タキオン先生とカフェちゃんが離れたら、俺もすたこら逃げ出して合流すればいい。

 

 『群体の機神』の一体でしかないとはいえ、俺が一体引きつけとけばそれで十分だ。

 目標を達成するのに十分な成果は得られている。

 と、なると。

 どう立ち回るか。

 

 うおっ!?

 

 

 じ、地元の名物っぽい大岩ー!

 ありがとう、守ってくれて!

 それとさようなら!

 

 

 さっきのが銃弾で今度は炸裂鉄球!

 もういやんなるなこれ。

 旧式だ。

 旧式の攻撃兵器だ。

 こんなもん、『竜』にも、『馬』にも通じない……とは思うが。

 俺に対しては十分必殺だ。

 

 一発だって受けたらヤバい。

 余裕ぶった顔なんて作ってもいられねえ。

 

 素子を起動。

 エネルギーを集中。

 ……そうだ。

 タキオン先生の論文と添付資料見たな。

 あの方程式を取り込んで利用すれば……もっと速く、もっと高く、跳べるんじゃないか?

 

 やってみるか。

 名付けて、『ウマジャンプシステム』!

 ……今は余裕がなさすぎてネームングが死んでるので後で考えよう!

 

 

 足の外側に補助具を形成。

 ウマ娘の超常の力に耐える身体構造を参考に、肉体構造を再構築。

 そのまま。

 全力で。

 跳ぶ!

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 ……いけるっ!

 

 

 人間が生み出した技術の粋で、人間の機能を拡張したのが俺のような『大人』なら。

 人間が自然発生した"ウマ娘の理"によって、人間外の超常能力を得たのがウマ娘。

 俺の基幹プログラムに、タキオン先生の研究データを組み込めば。

 これまでの俺と比べてもありえないほどの性能を発揮することができる!

 いける!

 

 どうだ猿!

 もうお前じゃ、俺には……俺達には、追いつけない!

 どんなやつが相手でも、とりあえず逃げ切る力を俺は得た!

 

 今の俺は無敗のウマ娘アグネスタキオンの力を取り込んだ最強の逃げ切りステイヤーだ!

 

 ……ウマ娘の用語ってこれで用法合ってんのかな。

 間違ってないといいけど。

 ん。

 あれ?

 

 

 ……。

 ……。

 ……。

 その背中のミサイルかっこいいね。

 構えないでくれると嬉しいな。

 

 あ、ミサイルですか。

 そうですか。

 なるほどなぁ。

 頭いいなぁ。

 俺が速く走れるようになっても、まあ。

 ミサイルで広く吹っ飛ばせば特に意味もなく消し飛ばせるもんなぁ。

 さすが猿。

 "人間の次に頭がいい"がコンセプトなだけあるわ。

 ははっ、まいったなぁ。

 

 やめろバカ野郎!!!!!!!!

 

 

 あっ。

 

 やべっ。

 

 弾道計算!

 爆発半径予測!

 タキオン、カフェ、両者の位置測定!

 俺の方で引きつけて二人と逆方向にミサイルを誘導!

 誘導終了後、離脱!

 走行ルート算定、設定!

 

「カフェー! ミサイルで吹っ飛んだ死体から幽霊って生まれるかな!?!?!?」

 

 もし俺が死んだら霊になってカフェに指示出して!

 俺の死体のDNAデータでタイムマシン作ってもらおう!

 なんかもう!

 そういうこと想定する段階になってきた!

 

 頼んだ最終保険マンハッタンカフェ!

 タキオン先生ならタイムマシン作れるから!

 

「こんちくしょう……!」

 

 俺が死んでも!

 世界だけは!

 皆だけは!

 救ってくれ!

 

 これが―――俺の遺言で良い!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーっ、ふーっ、ふーっ」

 

 あっっっっっっっっっっっっっっぶねえッ!!!!

 

 し、死ぬかと思った。

 

 というか俺の状態がそのままだったら普通に死んでたなこれ。

 

 

 

 

 殺される直前に生体素子が完全復活してくれてよかった。

 マジでラッキー。

 幸運のウマ娘ライスシャワーの加護が手厚すぎる。

 今こうして見ると、幸運さえ味方すれば……ギリギリ、捨て身の俺の一撃ならコアを破壊できる、そんくらいの強さの猿だったな。

 

 

 

 

 こっちも結構なダメージがあった、が。

 俺の倍くらい強いやつが相手だったんだ。

 奇跡的な幸運の勝利と見ていいだろ。

 頑張ったからちょっと褒められたくなってきたが……俺は子供ではないので我慢できる。

 

 むしろこの幸運をくれたお米のお姫様に感謝でも言いにいかないと、な。

 

 

 

 

 しかし。

 もうほぼ確定だな。

 どっかで機神が保全されてる。

 あるいは。

 残ってた機神が、このへんに片っ端から集められてる。

 世界が衝突してその後に、機神がどこでも見かけるほどそんな沢山残ってるわけもねえし、こんな狭い地域でこんな何機も見つかるなんてことあるわけがない。

 

 第五世代で多機能高級化させすぎた機体を、なんらかの機能に特化させ、低コスト高性能を実現させたのが第六世代。

 ギガスとかのやつ。

 

 "本物の神"を目指した、技術の終着点を作るための、最新最強の技術集約機が第八世代。

 タキオン先生が直してた『オロチ』なんかがそれ。

 

 この猿はおそらく第二世代の改造機。

 ベースは『シーミア』あたりかな。

 あれに装甲と武装を無理矢理盛った感じ。

 

 シーミアは"ささやかな苦労を代わってあげる"ための機神。

 本来は家事手伝いとかがメインの仕事だ。

 家に持って帰った仕事やってくれたり。

 ご飯作って待っててくれたり。

 朝優しく起こしてくれる、そんな猿だ。

 だからベースサイズも1.5mくらいでめっちゃ小さいんだな。

 こいつは、装甲盛ってゴリラにしてるからだいぶでかくなってるみたいだが。

 

 俺の中だとシーミアは、赤ん坊を抱いてあやしてる猿のイメージが強い。

 

 

 優しい機神だ。

 暴走しただけじゃ、壊れただけじゃ、絶対に人を襲わないくらいに。

 ささやかな人の願いを叶え、ささやかに人を救い続ける。

 最も日常に寄り添った機神。

 

 『人がしてる簡単なことはできるくらい頭がいいが、人よりちょっと頭が悪い』。

 『人ほど賢くはないが、人よりは強い』。

 だから『猿』。

 『(さる)』の機神と、そうなった。

 そういうやつだった、はずだ。

 俺の記憶が、正しければ。

 

 ん?

 

 

「もう一機ぃ!?」

 

 こりゃだめだ。

 さっき勝ったのも奇跡だし。

 もっかいやったら絶対に死ぬ。

 

 うーん。

 戦闘に発展させたくないな。

 死にそう。

 

 万が一にも戦ったりしない方が良さそうだな。

 逃げよ逃げよ。

 レーダーで位置確認して隙間抜けていこう。

 

 猿はまあまあ性能高い、が。

 まあまあだ。

 竜ほどのクソ強じゃあない。

 感知能力も比較的高いがそんだけだ。

 多少の数なら相手しないでどうとでもなる。

 猿の高い感知能力の合間を抜けて逃げて行けばいい。

 

 逃げる前に軽く分解して調べよう。

 分解した感じ、やっぱそこそこ旧式だな。

 所属も予想通り(さる)

 申の神殿。

 千葉県船橋市、か。

 製造形式はコアに培養した人間の脳の改造品を入れてるタイプか。

 辺境の反政府組織が昔に廃止された技術を蘇らせて、再生産してたやつ。

 

 よし。

 そんなら、レーダーに映せる。

 今時、ステルスに特化した無機物より、タンパク質の塊の方が見つけやすいもんだ。

 

 あ、そうだ。

 柔らかいし腐る脳を長保ちさせるためには、専用の培養液が必要だったはずだ。

 それはレーダーに引っ掛けられる。

 AKTEY波の波長を調整して放射すれば、敵の位置を全て把握できるはず。

 手動で波長を調整して放射しよう。

 

 左手をアンテナにして、と。

 向こうから俺の位置が分からないように。

 俺が一方的に位置を把握できるように。

 技術の格差を、探知に落とし込む。

 

 

 レーダー起動準備。

 この形式のレーダーめったに使わない気がする。

 記憶ないから分かんないけど。

 記憶なくてもそう思うってどんだけ使ってなかったんだこのレーダー。

 

 

 まあ、居て一体。

 二体居たら厳し目か。

 一体までなら倒せるだろうし、三体までなら許容範囲。

 四体居るってことはまずねえだろう。

 

 猿の機神を三体までなら切り抜けられるなんて、俺も成長したな……ふっ。

 まあ俺成長前の俺のことなんて知らないんだけども。

 

 よし、レーダー観測開始!

 

 

 ……。

 ……。

 ……。

 

 キモいくらい居る!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 あ。

 もしかして。

 追いかけてきた一体は、俺らをここに追い込んできてた?

 誘い込まれてた?

 

「……ふぅー」

 

 よし。

 二人を探すか。

 ちょっと今日は、もう。

 うん。

 だめだわ。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま。どうしようもないから隠れてしばらく寝てることにするわ」

 

 なんだその顔は?

 おい、なんだその目は?

 なんか言ってみろよ。

 

 はい。

 勝てなかったんで帰って来ました。

 笑えよ、カフェ。

 

 

 

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