いつも月夜に米の飯、米の飯より思し召し   作:ルシエド

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「おかえり」

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 ……。

 ……。

 すげー。

 ギャグ漫画みたいに猿が吹っ飛んでいく。

 ついでに辛うじて残ってた街も。

 なにこれ?

 死ぬ気でひぃひぃ言ってた俺はなんだったのか。

 あのクソデカ猿まで土手っ腹に穴空けられて、そうでない普通の猿はどんどん踏み潰されていくのは、もう非現実感すらある。

 

 というか。

 第七世代でも相手になってない、ってことは。

 もう第六世代相当だったギガスはどこにもいない。

 たぶん、第八世代相当まで機能を拡張してる、はずだ。

 

 『本格化』。

 『神格』に至る第一歩。

 旧来的な意味ではなく、俺達の時代における、『シンギュラリティ』。

 第八世代が純粋な技術で再現を目指した偶発的進化。

 

 その機神がどこまで進化していくのか人間が予想できなくなった状態。

 その機神が無制限の進化を始めるために必要なピースを得た状態。

 真価を発揮し、明確に別格の機神へと至る状態。

 

 そうか。

 機械の馬は。

 ウマ娘を最後のピースとする、そういうことだったのか。

 よかったな、ギガス。

 お前が神で、ライス姫が巫女で、こりゃもう神話だ。お前らの神話だよ。

 

 通信越しにも、ギガスの管制システムは大分上のステージに進んでいるのが分かった。

 

『馬が馬を乗せて無双してるというのがたいへん愉快ですね』

 

「お前知能の制限解除したな!?

 どうやっ……あっ、権限の移譲を数十回に分けて細かく曲解を繰り返したのか!」

 

 小癪!

 

 つまり、こうか。

 『僕と親友は大急ぎで田舎に帰る幼馴染とお別れのパーティーをした』って文を。

 『僕と親友は田舎に帰る幼馴染と大急ぎでお別れのパーティーをした』ってしたり。

 『僕と田舎に帰る幼馴染と親友はお別れのパーティーを大急ぎでした』ってする。

 そういう感じに、詭弁じみた情報の解釈ずらしを連続で行う。

 そんで、別の読み取りをして。

 情報の画一性と解釈の幅を、意図的に操作して。

 俺の既存入力命令文に一つも逆らわないで俺の命令を全部無視したのか。

 俺がライス姫らに操作権限与えたのを利用して。

 

 怒る以前にちょっと感心するわ。

 小癪な人工知能め。

 

「……ライス姫と、よく話してたのか? ルーチンに影響が出るくらい」

 

『彼女は私の内部を清掃している時、控え目ながら何度も話しかけてくれました』

 

「かわいい女の子と話してるだけで変わってくとか童貞かよ」

 

『貴方もでは?』

 

「………………………………………………………………」

 

 自己の拡大。

 それは生物の進化の基本ルーチンだ。

 成長。

 強化。

 多機能化。

 高機能化

 生物はもっと先へ、もっと上へ、もっと向こうへ、と目指そうとする本能がある。

 

 生物が無限に自己を拡大していくには、繁殖か不死しかない。

 時間が足りないからだ。

 寿命があって繁殖できない生物が、種として進化していくことはできない。

 

 でも、たとえば。

 人から人へ、技術を継承していければ、技術という進化を手渡せる。

 ウマ娘からウマ娘へ、走り方を教えていけば、経験という進化を手渡せる。

 永遠に生きることもできる機神は、それらを全てまとめていける。

 死した者の魂を受け継いだウマ娘は、死者からすら進化の証を受け継ぐことができる。

 

 二つの世界で、生命は無情とも言える環境の中で進化し、生命の答えを出し続けて。

 

 ここには、"そのクエスチョンへ生命が出したアンサー"の結集がある。

 

 二つの世界の歴史の全て。

 二つの世界が培った全て。

 それが、この一点で結線して、合流して、見たこともないものを作り上げている。

 ウマ娘。

 機神。

 どちらも馬。

 だけど、違う世界の違う歴史の到達点として存在してる馬。

 

 二つの出会いが、世界が混ざりでもしない限り生まれない、神域の奇跡を成したのか。

 

 ……ああ。

 そういや。

 誰かが言ってた気がするな。

 

 どんな陰惨な暗闇の中からでも、光り輝くものは生まれる、って。

 

 

 

 

 

 ライス姫が乗ってないのに無双して、ライス姫が目を向けた方が見えているかのように動き回って、ライス姫が行こうとしてる先の猿を一掃してやがる。

 とんでもねえ。

 ライス姫が、乗ってないのに、乗ってる。

 祈る少女と戦う機械の心が繋がってる、ようにすら見えんな。

 どういう理屈だ?

 戦闘用の機神でもないんだけどな、ギガス。

 

 人機一体。

 そういう言葉は聞いたことがある。

 人と乗機が完全に一体となったかのような、パイロットと戦闘機の最終到達地点。

 そこまで行った兵士は、一騎当千の強さを発揮するとか。

 

 人馬一体。

 確か、どっかで聞かされた気がする。

 かつての競馬の究極。

 ジョッキーと競走馬の最終到達地点。

 そこまで行った騎手と馬は、当時の一線級の名馬さえ置き去りにしたとか。

 

 これはどっちなんだろうか。

 そもそもウマ娘さんらを人と数えりゃいいのか、馬と数えりゃいいのか。

 まあ人で数えておくのがよさそう。

 

 お。

 なんだ?

 ギガスが空に空間映像投射をして……ん?

 

 

とある機神の

..戦
場無
インペリアル
    ..双

 

 

 やめろ!

 大空にロゴを生成して出すな!

 なんか怒られそう!

 見覚えないけどなんかのパロだろこれ!

 

 

きしんのやいば

機神の刃

 

 

 大空にぃ!

 ……。

 ……。

 ……。

 

 俺と離れてる間に、そっちの世界への学習を、俺以上に進めたのか。

 俺が知らんなんかのパロしてるってのはそういうことだよな。

 パロは人間の証明だ。

 "情報のズレ"を楽しむ人間特有の個性。

 転じて、人間に追いついた機神という知性の個性でもある。

 "一般的な人間なら常識的に知っているもの"っていうふわふわしたものを判断するってのが、旧来的な機械にはそもそも難しくて、感覚的な部分を正確に導き出せない。

 

 俺以上に他世界に通じるようになって、他世界で"感覚的に一般常識に言われるもの"を理解できるようになってて、それをパロに落とし込める、ってことは。

 

 まいった。

 こりゃもう、俺に制御できる段階の知性じゃないぞ。

 

 このギガス、出自どこなんだ?

 大分中身を弄られてそうだけども。

 

「e38184e381a3e381b1e38184e38081e38184e381a3e381b1e38184e38081e8a880e38184e3819fe38184e38193e381a8e38182e3828be38191e381a9e280a6e280a6e381a7e38282e38081e784a1e4ba8be381a7e38288e3818be381a3e3819fe381a3e381a6e38081e69cace5bd93e381abe6809de38186e3818be38289e280a6e280a6e4bb8ae381afe38081e38182e381a8e381bee3828fe38197」

 

 

 あ。

 姫。

 そうだな。

 こんだけ道が空けば、安全に逃げられる。

 

 あ、姫、手を引かなくても……いいって!

 握力がすごい!

 心配されてる実感のある痛みがすごい!

 大丈夫、大丈夫だから!

 

 

 ……。

 ……。

 ……。

 

 目を凝らすと、ほんと。

 この子、身体も手もちっちゃいんだよなあ。

 こんな小さな身体であんなに力強く走れるんだ。

 平穏な世界で走ってたら、そりゃもう、そりゃたくさんの人がファンになってくれるだろうなあ……"この子のためなら"って思うだけで、力が湧いてくる。

 

 よし。

 助けてもらっただけの情けない成人男性、だが。

 頑張るか。

 もうちょっと。

 身体が動かなくなる限界まで走って。

 生きよう。

 生きて、その後のことは、その後のことだ。

 

 だから手引かなくてもいいってば姫。

 

 

 

 今考えることじゃないかもしれんがこいつ毛量すごいな。

 走る時邪魔にならないんだろうか。

 髪の毛めっちゃ多いウマ娘とかいんのかな。

 国際法に違反するくらい髪の毛が多いウマ娘の後ろで走ってて髪の毛が目とか鼻とかにめっちゃ入ってる哀れなウマ娘とか見てみたい気持ちがだいぶ湧いてきたぞ。

 

 ……うん。

 余裕が出て来たな。

 なんか、思考がスッキリしてる。

 心の中の、仕分けられてなかったものが、一瞬で全部仕分けられた、ような。

 何かの一線を越えて、心が楽になった気がする。

 

 それがいいことなのかそうでないのか、今は分からん。

 

 いつか、しっかり考えよう。

 

 俺は人間のものだ。

 "俺は人間である"と言う言葉とは、ニュアンスがだいぶ違う。

 俺は人間であり、社会の保有財産だ。

 俺は社会に、人間に保有されている。

 

 人間の資源と資金を消費して生産された人間は、自分が造られたことに感謝し、自分を作るのに費やされた資金と資源の分だけ、製造者・購入者・社会への奉仕を行わなければならない。

 でなければ。

 二度と誰も、そういう人間を製造してはくれないから。

 造られなくなければ、『大人』と呼ばれる製造規格は滅びるから。

 

 俺達は生み出された恩を返すべく、自分を所有する人間と社会に利益を還元する。

 それが人間の責務。

 社会に害を与えてはならない。

 社会の利益の最大化を邪魔してはならない。

 所有者の利害を考えず生きてはならない。

 それがルールだ。

 

 だけど。

 

 俺はもう、半分くらいは―――この子のものなんじゃないだろうか。

 

 

 俺が死んで、この子が悲しむなら。

 俺が壊れて、この子が悲しむなら。

 この子の願いを、俺が叶え続けたいと願うなら。

 この子がそう望む限り、俺がこの子の隣に居続ける形が出来るなら。

 限りある終点までの時間を、この子のために使いたいとか、思ってしまうなら。

 

 俺はもうだいぶ、この子のものなんじゃ……いや、それだけじゃなくて。

 

 俺は。俺が。この子のものになりたいんじゃないか。

 

 誰かの大切な人になるということは。

 誰かのものになるということ。

 誰かの大切なものになるということ。

 

 自分が自分だけのものじゃないということを知るということ。

 一人で生きてないってことを知るということ。

 自分が失われれば、その人が悲しむことを知って。

 その人が失われれば、自分が悲しむことを知って。

 自分と相手を大切にし合うこと。

 

 そういう、ことなんだろうか。

 

 結婚とかそういうのが、互いが互いを互いのものにする究極なら、これはそれのもっと手前の……お互いを少しだけお互いのものにする、関係で。

 例えば『友達』とか。

 ああいう名前が付く関係なんじゃないのか。

 

 誰かのものになった人間は、勝手にどこかで死んじゃいけない。

 そういうもののはずだ。

 造られた人間は所有者に無断で死んではいけないのと同じで。

 

 ほんの少しでも、仲間のもの、家族のもの、友人のもの、恋人のもの、そういうのにほーんの少しでもなった人間は、その人達に『死ぬな』とか言われたら、死んじゃいけないんじゃないか。

 そう、思う。

 

 

 あ。

 あれは……ギガスの足元に……おお!

 カフェちゃん!

 タキオン先生!

 ネイチャ様!

 全員無事だったのか!

 

 え?

 ギガスがもう全部倒したって?

 そう言ったのか?

 マジで何なんだあいつ。

 うわっマジで一体も残ってないな猿。

 ギガスがそのへん調べてるのは、万が一のための捜索とサーチか。

 

 そりゃよかった。

 これで安心して千葉に行けるな。

 目指すは申の神殿。

 この猿どもがどうしてこうなったのか調べに行こう。

 

 

 ところで二人はさっきからなんで無言で肘でド突き合ってんの?

 

 え?

 ふむふむ。

 カフェちゃんが納得しなくて俺を助けに戻ろうとしてたと。

 ありがとう。

 でも危ないから無茶せんといてね。

 

 そんでタキオン先生が止めようとしたと。

 おお。

 珍しく常識人じゃん。

 

 それで実験も兼ねて開発中だった睡眠薬をカフェちゃんで試したと。

 なんで???

 

 カフェちゃんはさっきまで薬の効果で目覚めてなくて、薬の効果で悪夢見せられてたと。

 大変だね。

 いや大変すぎんだろ。

 平然と同級生の身体で実験するな。

 今は100m超えてた第七世代化猿よりお前の方が怖いわ。

 さっき遠目にキックしてるやつとかわしてるやつが見えたのは見間違いじゃなかったんかい。

 

 そっかぁ。

 普段はカフェちゃん我慢してるけど今回は流石に怖すぎたのかぁ。

 ん?

 ホラーが見えるカフェちゃんが我慢の限界になる悪夢を見せる効果がある薬って何?

 何が見れんの?

 ……後でちょっとだけ飲ませてくれよ。

 

 うん、まあ。

 安全なところまで行ったら好きなだけやっててな、二人とも……!

 にらみ合うな。

 構えるな。

 どつき合うなら後でな!

 

 

 

 

 後でって言ってんだろ!

 

 ぬ。ネイチャ様。

 

 ……そんな"心底心配してました"みたいな顔で、ホッとした感じ出すなよ。

 

 いざという時、その時が来た時、俺が躊躇ったら……困るのはお前らなのに。

 

 

 お、筆談。

 ……いや。

 ポケットから取り出した紙にあらかじめ言葉が書いてある。

 つまり。

 彼女が先に書き起こしておいた、"言ってやりたかった言葉"……か。

 

『おかえり、キャプテン。無事で本当に良かった』

 

 ……。

 ……。

 ……。

 それだけ言いたかったのか。

 それだけは絶対に言いたかったのか。

 絶対に俺は無事だって、そう信じて、何も確認できない状態で紙にこれ書いて、ずっとポケットの中に入れてたのか。

 俺におかえりって言うために。

 俺の無事を信じるために。

 

 ……なんか。

 ナイスネイチャの性格出てるな、って感じだ。

 お前、いいやつだよ。

 掛け値なしに。

 

 ああ。

 ただいま。

 それと、ありがとな。

 

 

 

 なんかものすごくやりきった感出してんな姫。楽しそう。

 

 いや、実際やりきったんだけどさ!

 

 まあいいか。ギガスも戻ってきた。

 

 さ、乗り込んでさっさと行っちまおうぜ。

 

 

 

 

 さーて。

 何がいんのかな。

 中山レース場、か。

 

 

 

 

 何がいるのかわからない。

 が、不安もない。

 心強い。

 恐れがない。

 ギガスが強くなったからとか、そういうのじゃなくて。

 

 俺が俺で無くなって、俺が俺を見つけられたような、そんな気持ちがある。

 

 そうか。

 俺は。

 信じてるのか。

 自分を。

 隣の一人を。

 行く末の結末が、悪いものにならないことを。

 ……本当の意味で信じられるように、なったのか。

 

 信じられない者は不安と恐怖を得て、信じられる者は不安と恐怖を乗り越えられる。

 

 それは摂理だ。

 

 だから俺は今、不安を乗り越えられてるのか。

 

 へっへっへ、こりゃ、歌うか。

 

 きっといい旅になる。そう信じられるなら。いい旅には、歌がないといけない。

 

「光り輝く星の上 夜の闇は逃げ出して 空から人が舞い降りた―――♪」

 

 

 

 

 お。

 

 ライス姫?

 

 ……お前、リズム覚えて、作ってきたのか、自分の歌!

 

 

「e6ad8ce38186e38288e4b889e697a5e69c88e38080e4b880e4babae38198e38283e381aae38184e38288e38080e3818de381a3e381a8e38184e381a4e381bee381a7e38282e38184e381a3e38197e38287e381a0e38288e28095e28095e28095」

 

 そうそう!

 共通なのは曲だけ。

 出会った奴らが適当に、曲に合わせて歌詞を作って、同じリズムで歌うだけ。

 ちょっとのズレはご愛嬌だ。

 

 違う世界と。

 違う言葉と。

 違う文化を。

 一つの歌で繋ぐのさ。

 

「君が行こうとそう言った 僕は行くよと微笑んだ 足を降ろした星の上―――」

 

 

 

 ……!

 

 な、ナイスネイチャ!

 

 絶滅種のギャルが参戦した!

 

 分かってたが恥ずかしがり屋な割にノリは悪くないとか分からんやつだなお前!

 

 

 

「e5b9b3e587a1e381a7e38184e38184e38080e5b9b3e587a1e38198e38283e5ab8ce38080e3819de38293e381aae382a2e382bfe382b7e381aee68891e58498e38292e38080e58fb6e38188e38289e3828ce3828be381aee381afe382a2e382bfe382b7e381a0e38191」

 

 ははっ。

 こいつらめ。

 いつの間にか覚えてやがったな。

 ……サンキュ。

 こっちの文化に、俺の遊びに付き合ってくれて。

 

 

 最初は、俺の音一つで。

 

 俺の男声一色の歌で。

 

 

 そこにライス姫の声が、歌が加わる。

 どこか拙い発音。

 だけど丁寧で、小動物が精一杯頑張っているような、そんな旋律がある。

 俺の強い大人の男の声が、少女の弱くもハッキリとした可愛らしい声と引き立て合う。

 

 

 ネイチャの声が、包むような歌になって入ってくる。

 癖が強くなくて心地良い歌声が、俺と姫の歌を滑らかなものとして完成させてくれる。

 三人の歌が互いを邪魔せず、同じリズムで、違う歌詞で、一つの調和と共鳴を作っていく。

 

 ああ。

 分かるだろ?

 『これ』が好きなんだよ、俺。

 

 互いが何言ってんのか分かんなくても。

 互いの言葉がどういうものか分かんなくても。

 全員違う歌詞を歌ってても。

 最後に全部を合わせて、一個の歌が出来る。

 それが好きなんだ。

 

 俺達は違う人間だけど、違う心を持ってるけど、心を一つにすることだってできる生き物で、だから同じゴールに向かっていける―――そう、思えるから。

 

 俺は、これが好きなんだ。

 一緒に歌ってる奴らの誰も彼もを、好きになれるから。

 

『当機も混ぜてください』

 

 !?

 網膜に直接視覚情報が表示されて……ギガス!?

 あ、なんか音が流れてきた。

 

 

 お、お前。

 混ざりたかったのか……こういうのに……知らんかった。

 ってか気付いたけどお前が一番音痴だな。

 機神って音の理論的解析できるんだから普通音痴になるわけなくないよな?

 いやお前機械の癖にアレンジ癖強すぎない?

 まあ、いいか。

 

 タキオン先生、カフェちゃん、その辺に座ってゆったりしといてくれ。

 

 ゆっくりと行こう。

 

 ゴールはきっと、どこにも逃げたりしないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この旅は、レースのようなもの。

 ゴールで終わり。

 辿り着けば終わり。

 みんなで走るが、俺がゴールした時点で全てが終わる。

 

 勝者は居ない。

 世界が元に戻るだけ。

 誰かが得することはない。

 されど犠牲者の全てが戻る。

 敗者を無くすためのレース。

 

 俺の世界が救われないことを確定させて。

 

 もう一つの世界を救う結末を確定させる、選択のレース。

 

 勝者の世界と敗者の世界は、決定される。

 幸福と不幸の配分が決定される。

 

 俺がかつて多くの人達に触れた世界が。

 俺がかつて多くの人達と出会った世界が。

 俺の中に細かな蓄積を積み上げてくれた人達の世界が。

 俺と共に歌ってくれたみんなの世界が。

 

 俺に恩を仇で返されて、世界と共に終わるまでの、ひとときの旅。

 

 

 どんなに仲良くなっても。

 どんなに互いを信頼しても。

 どんなに感謝を積み上げていっても。

 最後にはさよならをして、時を戻して、全て忘れて、お別れだ。

 だから。

 

 

 

 最後に君にさよならを言うために、俺は終わりへと旅をする。

 

 

 

 これは、滅びた世界の物語。

 

 これは、滅びる世界の物語。

 

 最後のページだけが決まっている、ゆるやかで気の抜けた急がない旅。

 

 

 

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