いつも月夜に米の飯、米の飯より思し召し   作:ルシエド

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https://twitter.com/swhoarrled/status/1457000262665576448
 本日日付変更と同時に世界滅亡杯は終了します。たぶんラスト投稿になります


「これでは言うなれば……メジロ缶詰ですわ……」

 あれを……こう。

 ゲートを……こう。

 ああいうの作ったら、練習じゃなくてレースもできるのでは?

 

 

 そう思ったけどだいぶめんどいなこれ。

 ううん。

 よく知らん施設を思いつきで作るのはダメだな。

 ギガスの操縦しながら端末脳波操作で作れるようなもんじゃなかった。

 

 

 競馬知ってるからできる、って思ったけども。

 ウマ娘の体格に合わせるの、微妙にめんどくさい。

 いや微妙じゃねえわ。

 たぶんだいぶめんどくさいわ。

 

 

 頭の中で縮尺いじらないとダメだもんなあ。

 馬より横幅があるのに、馬より前後幅がない、高さは個人差あり、それがウマ娘。

 これ競走馬用のゲート知ってるからって作れるもんじゃねえわ。

 ウマ娘用の実物でも見なきゃダメだな。

 

 ……ん?

 

 あれ、もしかして、こっちの世界の馬小屋ってめっちゃ小さいのか。

 いや馬小屋自体ないのか?

 それともウマ娘用の安宿があんのかな?

 

 データ確認。

 確認終了。

 ……馬小屋で生まれた偉人、イエス・キリストと聖徳太子が、ウマ娘たちに出産を手伝って貰ったことになってる……なんだこっちの世界の歴史……クソ。

 めっちゃ本格的に研究したいな、これ。

 

 お。

 通信だ。

 ネイチャ様か。

 

 

 え?

 皆にデザート何がいいか聞いて回ってる?

 プリンがいいです。

 ネイチャ様の手作りプリンめっちゃ美味しいのでもっかい食べたい。

 

『e4bd95e3818be4bd9ce6a5ade38199e3828be381abe38197e381a6e38282e38182e38293e381bee6a0b9e8a9b0e38281e381aae38184e38288e38186e381abe38197e381aae38195e38184e38288e383bc』

 

 なんか優しいこと言われてる気がする。

 しかしネイチャ様は料理中。

 筆談は不可だ。

 こういう時の不便度合いはどうしようもねえんだよなあ。

 空気を読むしかない。

 

 美味しいごはん作るからもっと頑張れ! とかだろうか。

 ……どうだろ?

 ネイチャ様はもうちょっとゆるめに優しいこと言いそうな気がする!

 まあいいか。

 なんにせよ美味しいごはんが待ってる。

 頑張ろう!

 ならネイチャ様にもっと頑張れって言われたことにしとくか!

 

 

 あ。

 あんがと。

 あったけー。

 香りが良い。

 わざわざ甘くしてくれてありがとう。

 疲れが取れる気がする。

 

 しかしまあ……操縦席の横に喫茶店みたいな区画がある機神、世の中広しと言えどこのギガスだけだろうな……うん。

 

 

 街から色々と運び込んで器具で軽く固定するだけで、一時間もかからない喫茶店メイクが完了してしまった。何度見てもちょっと面白い。

 

 まあ、でも、確かに。

 機神で一番揺れないのは操縦区画なんだよな。

 いちいち操縦区画が揺れて操縦できなくなったら、一度でも揺れる攻撃を受けて以後、一方的に負けてしまいかねないものだし。

 大体の機神は、操縦するところが一番揺れないようにはなってる。

 コーヒー入れるなら確かにここが一番安全だよな。

 やけどもしないで済む。

 

 でも、なあ。

 やっぱ喫茶店の横で操縦してるのは違和感すげえって!

 

 別に悪いってわけでも実害あるってわけでもないんだが。

 こう、なあ。

 タキオン先生はどう思う?

 

 

 ……。

 ……。

 ……。

 いや、大したことねえな。

 ごめん喫茶店くらい全然大したことなかったわ。

 

 操縦席の横に実験室作ったやつが居たわ、ここに。

 

 

 信じられねえよ。

 操縦席の横に実験室作ったやつとか初めて見たよ。

 そこの棚に爆発物置いてんの何?

 操縦席の横に無意味に爆発物持ち込んだやつ初めて見たよ。

 なんで操縦してる俺の横で爆発しそうなやつ混ぜてんの?

 操縦席の横で爆薬混ぜてるやつ初めて見たよ。

 リスクマネジメントをどこに忘れてきた?

 遺失物届け出してこい。

 

 ふむふむ。

 へー。

 緊急性と即応性を重視、か。

 もしかして俺戦闘中に大怪我したらここで蘇生薬の実験台とかになるの?

 俺の肉体が研究設備で手当てされんの?

 マジで?

 効率的だね。

 助けてくれ。

 なんでお前の優しさとか気遣いはこんなキチガイじみた形で発揮されるんだ。

 

 っていうかここ本当に操縦席?

 もしかして何か俺が勘違いしてるだけでただのダベり場だったりしない?

 

 

 見ろよそこに置かれた冷蔵庫。

 なんだよ操縦席に置かれた冷蔵庫って。

 なんで中身が充実してんだよ。

 お菓子と飲み物がいっぱいあるね。

 なんだここはお前らの部屋か?

 

 私物持ち込みすぎだろ全員。

 このコタツいつ持ち込まれたっけ?

 なんかもう馴染みすぎて違和感すらねえわ。

 もう遊びに行きやすいダチの部屋か何かになってるわけ。分かる?

 この操縦席に俺もう夜食食いながら皆で雑談してるイメージしかねえんだよ。

 どうしてくれんの。

 

 特にこいつだよ、コタツのヤドカリか何かか?

 

 

 え。

 あ。

 はい。

 俺がいつもここに居るから皆ここに集まること多いのね。

 なるほど。

 俺そんなに寂しがり屋に見える?

 見えるんすか。

 そっかぁ。

 気を使わせてすんません。

 超絶白状すると一人でギガス運転してる時、横に誰かが居て筆談で雑談してくれるの、ちょっと……いや結構嬉しかったわ。

 

 寂しくない、ってのも嬉しかったけど。

 寂しくなくなったってのが、俺の寂しさとかそういうのを倒してくれるやつが居てくれるってのが、寂しさが無くなること以上に嬉しかった。

 俺の寂しさとかを気遣ってくれるやつがいることが嬉しかった。

 

 ありがとう。

 

 

 ……最近、ウマ娘の子達の感情とか表情とかが分かるようになってきた気がする。

 仲良くなれてきたからかな。

 そうなら、嬉しい。

 いや。

 嬉しい以上に、誇らしい。

 

 うむ、この辺の概念、大体分かってきた。

 なるほどなぁ。

 特定の場所に誰かがいつも居ればそこがたまり場になるんだな。

 仲良しグループで一人がよく特定の小惑星に居ると皆そこに集まるやつか。

 え?

 しない?

 中庭の自動販売機の前のベンチとかだとよくある?

 へー。

 中庭の自動販売機ってのがまず想像できねえ……調べとこ。

 

その無知が彼にとっての終局の序曲だった―――

 

 ギガス?

 適当なモノローグ出すんじゃねえ。

 クソ!

 一度進化したギガスの知能は差し戻せねえしさぁ!

 もうどうすんだよこいつ!

 この落ち着きのない知性と知能の高さ、まるで子供と大人が混ざったような厄介さ!

 

そのまんまあなたじゃないですか―――

 

 ……。

 ……。

 ……。

 野郎っ……!

 

 神格に到達してまず得た能力がレスバの強さかっ……!

 

 ふざけんな猛省しろっ……! 泣くぞっ……!

 

『あくまで当機の個人的見解としては、貴方のそういった性質を嫌ってはいません』

 

「それはまあ……ありがたいけど……」

 

『当機を進化させたのはライスシャワーです。

 しかし、それだけの話。

 今後も当機を操っていくのは、専門知識を備えた貴方であるべきです』

 

「……そうだな」

 

 他の子らに任せておける案件でもねえんだよな。

 さっきはタキオンに操縦席の横で爆薬弄るなと言ってたが、実際のところ俺が最良の操縦をしている限り、ギガスと能力を補完し合っている以上、もろに攻撃が当たることはない。

 当たったところで操縦席の内も揺れない。

 たぶん試験管からこぼれることすらない。

 操縦席の内まで揺れて爆薬が漏れて……ってなるようなら、もうとっくにギガスの防御機構の限界を超えてるから、俺達の死は秒読みになってるはずだ。

 

 

 亜音速まで加速しても、そのまま何かに衝突しても、たぶんこのコップの中のお茶に僅かなさざなみ一つ立つことはない

 

 ギガスの性能は十分だ。十分すぎる。

 

 なら、頑張んなきゃいけねえのは、俺の方だよな?

 

『ゆえに、貴方に更なる技能の強化を求めます』

 

「ああ、分かってる」

 

 流石ギガスだ。

 ちゃんと分かってる。

 ま、何でも言ってくれ。

 聞き流したりしねえよ。

 進化したお前の助言なら、どんなに辛辣でも必ず俺のためになるはずだ。

 

 

 いい助言を頼むぜ。

 こんな俺を心配してくれるような奴らを、全力で守りてえんだ。

 もっと守れる俺になりたい。

 なんだって言ってくれ。

 

『まず、当機には貴方に対する問題提起……人間であれば不満と言うものを提示します』

 

「俺に不満……どこに不満があるんだ?」

 

『シンプルに習熟度です。貴方の本来の乗機は飛行型。当機と技能がマッチしていません』

 

「……まあ、な。

 俺の技能は外部から入力したデータ式だ。

 長年の修行で身に着ける経験式とは違う。

 鳥を操作する技能は、馬を操作する技能には、せいぜい四割しか転用できねえ」

 

『まず、これまでの評価査定リザルトを両世界の娯楽概念をミックスした形式で表示します』

 

「は?」

 

 

 

 

 

 育成完了!

 

 

 

 B

 RANK

 

 

「当然の結果ですね。くっ、ボーボボに負けた……」

 

 

評価点 7655

 

 

   マイ・マスター(仮)

 

 通算戦績           

 

    5戦5勝

 

 主な優勝歴          

 『ライスお友達杯』

 『ネイチャ家事分担S』

 『カフェ救済カップ』

 『タキオン寄生先賞』

 『神殺しS』

 

 

 

 

 

 

 ……。

 ……。

 ……。

 ……。

 

「お前……なんか口で言うほど俺のこと低評価してないな……」

 

『そうでしょうか? もっと上を目指せるはずです』

 

「これ俺への期待が高すぎるだけなんじゃないか……まー、頑張るよ」

 

『機体の期待ですね。ふふっ』

 

「まさかここまでの話の流れ全部これが言いたかっただけとかないよな!?」

 

 しかし、やるなあ。

 両世界の娯楽概念を混ぜて一つのものを作れるレベルの知性に到達してたか。

 確かにこれは膨大なデータを詰め込んだ俺の脳も、見覚えがないと言い切れる。

 おそらくどちらの世界にもこういうリザルト画面は無いだろう。

 斬新な創造物だ。

 創造物の創造物、って言っても間違いはない。

 

 

 大昔。

 機械ができず、人間にしかできないことの候補がたくさん考えられた。

 そこでは0から1を生み出す芸術的作業が挙げられてた、そうだが。

 もうたぶん、ビジュアルデザインとかなら俺の一万倍ギガスの方が上手そうだな。

 "機神"ってのはそういうもんだってのを、改めて実感する。

 

『この採点の内訳を説明します。それが改善作業の指針となるはずです』

 

「頼む。このリザルト下に並んでるのはなんだよと言いたいとこだが、説明まで待ってやる」

 

『賢明です。まずは―――いえ、一度中断しましょうか』

 

 え。

 なんで。

 なんか気分損なった?

 俺どっかで失言したかな。

 気分害してたらごめんね。

 

『ライスシャワーがこちらに向かっています。出迎えてあげてください』

 

「……あ、ああ、そういう?」

 

『応対が完璧であれば、評価査定を引き上げます。

 普段の良かったところと良くないところも話し合いましょう。

 できれば将来の展望も聞きたいところですね。

 また、ここまでの貴方の成績も彼女に伝えておきましょう。

 保護者にあたる存在を加え、高い視点から三人で彼女のために話すことに意味があります』

 

「三者面談か何か?」

 

 

 感覚リソース再振替。

 ……。

 本当だ、姫の足音がする。

 

「けど、あっちが急ぐ用とも限らないだろ?

 ギガスが考える俺の課題点をとりあえずざっと俺に伝えてもらってからでも……」

 

『ライスシャワーが来ているのに当機と話すのですか?

 あちらは女の子なのに?

 そんなだからダメなのですよ。

 判断能力の低下が見られます。査定RANKをBからCに落としておきますね』

 

「お前の指摘キッツ! 分かった、分かったよ、あっちと先に話してくるよ!」

 

 

 もうただの暴君だろ!

 なんかこいつ誰かに似てるな。

 誰かのトレースで進化した知性の舵取りをしてるのか?

 でも思い出せん。

 こういう時は大体記憶失う前の俺の知り合いの誰かだろうって感じだ。

 

 俺の面倒臭い脳の癖を理解できるようになってきたぞ俺。

 早く記憶全部戻ってほしいぞ俺。

 俺に対して一番面倒臭いの俺だぞ俺。

 

 

 よっ。

 どうした。

 ギガスの掃除はもう終わった頃だろ?

 何か用なのか?

 

 へ?

 このプリンを?

 俺に?

 この前めっちゃ美味そうに食べてたから?

 作ってくれたのか?

 ライス姫が?

 ああ……ネイチャ様が作り方を教えてくれたのか。

 

 "初めて作ったから形が変化もしれないけど"って言われてもな。

 ……言うほど変なところも見当たらないし。

 俺には美味しそうに見えるぞ。

 ちょっと形は違うように見えるけど、そんくらいだな。

 

「e38182e381aee381ade38081e38397e383aae383b3e3818ae38184e38197e3819de38186e381abe9a39fe381b9e381a6e3819fe3818be38289e38081e5a5bde3818de381aae381aee3818be381aae381a3e381a6e280a6e280a6e69c80e8bf91e7ac91e9a194e3818ce69f94e38289e3818be3818fe381aae381a3e381a6e3818de381a6e381a6e38081e882a9e381aee9878de88db7e3818ce5b091e38197e381afe382aae383aae3819fe381aee3818be381aae381a3e381a6e38081e38184e38184e38193e381a8e381a0e381aae381a3e381a6e38081e383a9e382a4e382b9e38081e3819de38186e6809de381a3e381a6e381a6e38082e5a5bde3818de381aae38282e381aee38292e38282e381a3e381a8e9a39fe381b9e38289e3828ce3819fe38289e38081e38282e381a3e381a8e38282e381a3e381a8e38197e38182e3828fe3819be381aae6b097e68c81e381a1e381abe381aae3828ce3828be381aee3818be381aae38081e381a3e381a6e6809de381a3e3819fe381aee38082e383a9e382a4e382b9e38282e38081e3818ae38184e38197e38184e38194e381afe38293e38292e9a39fe381b9e3828be381aee5a5bde3818de381a0e3818be38289e38082e3818ae58584e38195e38293e381aee5a5bde3818de381aae38282e381aee4bd9ce381a3e381a6e381bfe381a6e38081e3818ae38184e38197e38184e381a3e381a6e8a880e381a3e381a6e38282e38289e38188e3819fe38289e38081e381bfe38293e381aae381aee58886e38282e4bd9ce381a3e381a6e38081e381bfe38293e381aae381a7e9a39fe381b9e381a6e38081e38197e38182e3828fe3819be381aae6b097e68c81e381a1e381abe381aae3828ce3819fe38289e381aae280a6e280a6e381a3e381a6e38081e6809de381a3e3819fe381ae」

 

 

 ……。

 ……。

 ……。

 なんか、あれだな。

 こう。

 めちゃくちゃいい子なかわいい子に直球で好意の類向けられると、むずむずする。

 

 なんだろうかこれ。

 

 まあいいか。

 

 

 

 じゃ、いただきます。

 う……ん?

 ん……?

 ええと……ん……?

 あれ、なんだろうか、この味。

 

 うむ?

 タキオン先生?

 ライス姫の背後に回って、メッセージボードに文字書いて、何を……?

 

 

 ……。

 ……。

 ……。

 そっかぁ!

 うん!

 美味しいぞ!

 ありがとう!

 とっても嬉しいな!

 

 でももし次があるなら普通のプリンで頼むね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この状態の日本に普段から住んでるやつはそう思わないのかもしれないが。

 

 外野の俺だから思うのかもしれないが。

 

 海多くない?

 

 山多くない?

 

 海に囲まれた山ばっかの島国って……すごいな。

 

 生存者を見落とさない程度のペースで、ずっと海沿いに千葉目指して移動してるが、右手側にはずっと何かしらの海が、左手側にはずっと何かしらの山が見えてる気がする。

 

 

 ただ、おかげで破壊が酷くないところを当たれば、山の幸や海の幸を手軽に大量に補給できるのはだいぶありがたい。

 これだけ豊かな自然があれば、促成措置をしておけば、果実や魚類もあっという間に生育を終えるだろう。

 次にここを通る人達も食料に困らないはず。

 

 世界が崩壊してから、日数も経った。

 もう街の中の食料も、生の物から順に腐り始めてるはずだ。

 

 崩壊した世界の妥当が湧いている。

 破壊された文明の残骸を、時間が喰らい始めている。

 もう誰も入れ替える人がいないから、直す人がいないから、ただ残骸が崩れていくだけの街の光景が、胸の奥の方を締め付けてくる。

 

 

 

 廃墟だけの世界。

 壊れた後の世界。

 もう終わった世界。

 街は壊れた残骸で、残されたものも腐り始めて。

 なのに山や海は綺麗なままで、雄大な自然が広がっている。

 

 なんだかそれがアンマッチで、不思議に感じた。

 

 その内この廃墟も、山が生んだ緑の津波か、海が生んだ青い津波に飲み込まれて、どこかに消え去ってしまうんだろうか。

 

 そう思うと、砂の城が崩れるのを見つめているような、不思議な気持ちが湧いてくる。

 

 ちょっと視線を横に向ければ、廃墟の合間に、自然動物の楽園がある。

 

 

 山から降りてきたやつ。

 街で飼われてたやつ。

 ペットショップや動物園から逃げ出してきたっぽいやつ。

 双方の世界から、融合した世界に転がり込んできたやつら。

 人間が居なくなった後の畑や食料品店を、はちゃめちゃに食い荒らしている。

 

 ああ、そういえば。

 大昔の戦争だと、戦争で負けそうになると、動物は殺処分してたんだっけ。

 逃げ出すと危ないから。

 

 ……どうすっかな。

 

 

 ……。

 ……。

 ……。

 

「踏むなよ、ギガス」

 

『勿論』

 

 本当に危険そうなやつだけ隔離して、後は放置しよう。

 全部殺しながら進もうとすれば、できるんだろうけども。

 それで抑えられる、俺達以外の人間のリスクってのはあるんだろうけども。

 

 悪い。

 ギガス。

 私情だ。

 

 

 この子達の見てるとこで。

 そういうこと、あんまりしたくない。

 悪いな。

 俺の勝手だ。

 合理的な思考じゃねえとは思うけど。

 俺が"そうしたい"からそうしたい。

 先を急ごう。

 

 ……人間だけに生きる権利がある、ってわけじゃあねえもんな。

 

 ? ネイチャ様から通信?

 は?

 タキオン先生がなんかエンジンルームで興奮してる?

 あ、はい。

 いつもの病気ね。

 

 

 ごめんタキオン先生止めといて。

 ありがとな。

 最近ただでさえ食事とか洗濯とか任せっぱなしなのに。

 ……。

 サンキュ。

 助かる。

 こんなに心強い"助け合っていきましょ"はそうそう無い。

 

 また暇な時に異世界料理教え合おうぜ。

 

 

 

 地理的には、もう千葉に入ったな。

 

 ええっと。

 

 こうだから。

 

 位置がここで、こうなってて。

 

 

 ☆=現在地

 ①=丑の神殿/福岡県北九州市小倉南区/小倉レース場/ごはんが美味しい

 ②=寅の神殿/兵庫県宝塚市/阪神レース場/なんかでかい噴水がある

 ③=辰の神殿/京都府京都市伏見区/京都レース場/三冠クラシック菊花賞!

 ★=申の神殿/千葉県船橋市/中山レース場/【目標地点】

 

 

 んー。

 もうちょっと拡大して。

 こうか。

 

 

 

 

 ☆=現在地

 ★=申の神殿/千葉県船橋市/中山レース場/【目標地点】

 

 

 ……。

 ……。

 ……。

 ふっ。

 やーべ。

 このバカ丸出しの移動経路誰にも見せられねえな。

 一回道順間違えて海飛び越えてるもん。

 自分で見ててもアホだと思うわ。

 殺してくれ。

 

 ギガスの要望を聞いて訓練しすぎた。

 集中を変なところに割きすぎた。

 ギガスもギガスで目的地に辿り着けるなら別にどんな道でもいいだろうと思ってるし。

 これはマズいな。

 進化してすぐの『性能は高いけど安定して自分を行使できない人工知能』と、『記憶を失っているから自分を満足に使用できない男』のコラボレーション。

 最悪では?

 

 ん?

 ……。

 来たか。

 

 

 まだ、遠いが。

 ()()()

 

 

 予想してた通りではある、あるが。

 それでも背筋がピリッとする。

 飛んで来たのは、予想通り申の神殿から。

 お嬢さんがたを不安にさせず、安心安全で乗り切ろう。

 

 さて。

 申の神殿。

 そこに居るのは、誰だ?

 

 

「ギガス、皆に警告出せるな?」

 

『問題なく』

 

 俺が出した指示通りに、ギガスが皆の視界の中に表示を出す。

 

 ギガスの中に居る限り、全員がギガスの投影機能の範囲内に居る。

 

 ギガスのスピーカーから音声を流したって良いが、俺達は筆談で繋がる仲間達だ。

 

 視界の隅っこに、情報が出てくる文字盤があった方がいいだろう。

 

- 戦闘注意(CAUTION) -

 敵性存在攻撃確認

 全機能解放:操縦権を移行

 

 

 さて、と。

 

 俺が乗ってる時の、ガチの戦闘シフトのギガス。

 

 何気にこれは初めてか。

 

 じゃあこいつが、"俺達"の初陣かね。

 

「戦闘開始。システムを完全に切り替えろ。俺達の本職じゃあないが、俺達のすべき仕事だ」

 

 視界に投影される文字情報が、置き換わる。

 

- 戦闘警告 -

 戦闘開始:衝撃に備えて下さい 

 

 さて。

 

 やったるか。

 

 行くぞ!

 

 

 ミサイルが殺到し、群がると同時に爆発していく。

 

 なんともまあ。

 

 派手な爆発だ。

 

 市街地レベルでの戦闘に使うような兵器としては、十分すぎる威力がある。

 

 けどまあ、当たらんがな。

 

「おう、おう、こりゃ御挨拶だな。だいぶ素敵な歓迎だ」

 

 

 このくらいの弾幕なら。

 

 今の俺とギガスには当たらん。

 

 『本格化』によって『神格』に到達したギガスには、全てが見えている。

 

 俺は、進化したばかりで自分を安定して使えないギガスを支えてやるだけでいい。

 

 まるで、馬に乗る騎手のように、この名馬を乗りこなすだけでいい。

 

 敵は機神。こちらも機神。だから、必勝には人の助けがあればいい。

 

 

 するりするりと、かわして行くぞ、ギガス。

 

 多少手を合わせれば分かる。

 敵も機神。

 神殿に組み込まれた機神だ。

 建物と化した機神のタイプ。

 

 そう分かる時点で、相手は人間じゃない。

 機神は人間の長所を取り込んだ純デジタルだ、が。

 人間の脳はアナログとデジタルの混ざったシステム。

 肉のコンピューターであり、電気のコンピューターでもあるものだ。

 それが接続された機神のルーチンは、多少動きを見れば分かる。

 事実、向こうの機神は俺達がそうであると把握してるはずだ。

 

 あっちには人間が居ない。

 俺達を攻撃してるのは人間じゃない。

 

 ……ハズレか?

 あの神殿には誰も居なくて、機神がオートで攻撃してきてるってことだよな。

 

 いや。

 思い込みはよくない。

 先入観は勘違いを生み、勘違いは死をもたらす。

 

 俺が上流階級だと思ってたライス姫は姫だったか?

 いや俺の中ではまだ姫だけど。

 上流階級の存在ではなかった。

 最初のビビりはてんで的外れだった。

 いや俺の中ではまだ姫だけど。

 先入観を捨て、かつ推測は止めず、柔軟な思考で、姫を守っていこう。

 よし。

 

 

 慎重に進みながら、距離を詰めるぞ。

 

 どうも神殿周囲にバリアの類が貼られてるくさい。

 

 それを抜けるまで一発も貰わないよう、処理能力を過不足なく割き続けるんだ。

 

 

 ミサイルなら、まあ。

 

 光速度ミサイルでも温存してねえかぎり、どうとでもなるだろう。

 

 この分ならあっちからの攻撃は問題無い気がする。

 

 だから後は、ライス姫らの方にも気を配りつつ、神殿のバリアを抜ける方法を見つける。

 

 一発も攻撃もらわず、機体をあんま揺らさないようにして、時間をかけず勝つ。

 

 それが一番大事なことだ。

 

『東北側に防衛システムの穴があります』

 

「は? 神殿クラスの設備に穴なんて生まれるわけないだろ。統合論理防衛機構だぞ?」

 

『どうやら故障しているようです。ここから攻略が可能と推測します』

 

「ははーん。世界衝突の影響か何かか。こいつぁツイてる」

 

 完全稼働状態の神殿が敵になってる、って時点で最悪の不運だったが。

 まーた最高の幸運が来たな。

 不運がまた幸運に負けてる。

 笑っちまうぜ。

 論理的に考えて、これでライスシャワーが幸運をもたらしてないってのはありねえよなあ……おい……!

 

『狂言はチラシの裏にでも書いておいてください、目を通しておきますので』

 

「e38193e381aee4babae6a98be3818ce8bba2e3818ce381a3e381a6e38282e383a9e382a4e382b9e38195e38293e381aee5b9b8e9818be381aee3818ae3818be38192e381abe38197e381a6e3819de38186e381a7e38199e381ad」

 

「e381b2e38081e590a6e5ae9ae381a7e3818de381aae38184e280a6e280a6」

 

 カフェちゃん、ライス姫、椅子に座ってろー。

 ネイチャ様らも戻って来たか。

 ギガス、しばらく一人で回避してられるな?

 

 俺が神殿に入って全部止めてくる。

 その間だけ皆を頼んだぞ。

 

『了解しました』

 

 外は爆撃の雨。

 ただギガスを狙ってるから合間を抜けるのは難しくなさそうだ。

 日々ウマ娘と一緒に走り込みしたりして走法を極めてきたこれまでを、なんかいい感じに形にしてやるっ……形に出来たらいいな。

 

 

 せっせこせっせこ。

 しゃかしゃか。

 こそこそ。

 

 ……。

 爆撃の合間を抜けていく、最高にスタイリッシュなヒーローみたいな絵面になる……と思ってたが……だいぶゴキブリだなこれ。

 めっちゃ叩かれてるけど全部かわしてるゴキブリ。

 六割くらいゴキブリだ。

 ……。

 くそっ。

 仲間にかっこいいとこ見せてえなあ。

 なんて俗っぽい欲求持ってるんだ、俺は。

 反省しとこう。

 

 

 よし、神殿まで辿り着いた。

 ……。

 マジでバリアがこの方向だけないな。

 なんでだ?

 システムがこの区画だけ完全にぶっ壊れてる。

 ドアのロックさえ無い。

 これじゃ、原始的な鍵だけかけた扉よりガバガバだぞ……?

 

 

 

「どういうことだ……? なんでここだけセキュリティ壊れてんだ……?」

 

 

 

 

 施設に目立った損壊はない。

 世界衝突の影響で壊れた可能性は否定された。

 無傷の神殿の、その一角だけが破壊されている。

 内部のシステムデータだけ、丁寧に、かつ念入りに。

 

 ……破壊工作、か。

 

 それ以外にありえない。

 

 何者かがこの神殿を制圧していた。

 そこに別の誰かが攻撃を仕掛けた。

 おそらく攻撃は最高レベルの電子戦攻撃。

 第八世代相当になったギガスでも抵抗は難しい、そういうレベルのものだったはずだ。

 

 でなければ神殿のシステムは壊せない。

 神の坐す聖域は、何より堅いシステムで守られてるから。

 と、なると。

 ここのシステムを破壊した、そいつは。

 ギガスであっても、簡単に破壊できる可能性がある。

 

 ……警戒しといた方がいいな。

 機神すら破壊するとは。

 そいつは俺みたいなギリギリのやつじゃない、本物の神殺しに違いない。

 

 お。

 伝言板か。

 なんか情報残ってねえかな。

 ここに来た奴が何か書き残してるかも。

 そうだったら、ここで何があったか特定するチャンスだ。

 今は何でもいいから情報が欲しい。

 お。

 一個だけ書き込みがあるな、どれどれ。

 

 

 

 『触ったら何もしてないのに壊れました 直せるでしょうか ミホノブルボン』

 

 

 

 ……。

 ……。

 ……。

 

 お前誰だよ!

 前も見たぞこの名前!

 二度目じゃねえか!

 三度目があったら流石に真顔になるからな。

 

 まあいいか。

 罠じゃなけりゃ望外の幸運だ。

 この壊れたところから、神殿の中に入っていける。

 

 よし神殿の制御室に入れた。

 ここに配電盤があって。

 ここに制御盤。

 ここがこうで、そこがああで。

 はい。

 無力化。

 さようなら、防衛システム。

 

「ふぅー」

 

 俺の専門はこっちなんだよな。

 ぶっちゃけ肉体あんま使わない人間だった……ような気がするし。

 機械弄る方が手に合ってる……気がする。

 覚えてないんだけども。

 

 とにかく、予想以上に上手く行ったな。

 もうちょっとしんどいことになるのも覚悟してたが。

 怪我人0でここを掌握できたのは、事前想定と比べると奇跡に近い。

 

 まだ動く神殿が手に入ったのは、ちょっと期待してなかったレベルの幸運だ。

 

「ギガスに連絡入れて、と、よし。まず、軽く神殿を調べてみるか……」

 

 誰かが居たはずだ。

 誰かがここを使っていたはずだ。

 ウマ娘の皆の世界の人間以外、全てを殺そうとしてたやつが。

 猿を俺達が居たところに送り込んでたやつが。

 

 む。

 猿の制御端末の部屋だ。

 止めとこ止めとこ。

 お。

 俺達以外は誰も襲われてないのか。

 ……よかった。

 それが心配だったんだ。

 ほい、機能停止。

 これで猿に殺されるやつは0のまま終わり、と。

 室内マップで一番大きな部屋は、この扉の向こうか。

 

 

 おお。

 なるほど。

 バリアに当たった光をねじ曲げて、集めて、神殿の中の一部に誘引して、そこを『いい景色の庭』に改装してるのか。

 そりゃ広い部屋になるわ。

 

 ここは、リラクゼーションルーム?

 違うな。

 この壁の分類番号……ここ会議室か。

 

 打ち合わせの最中に美しい庭を眺めていたかったんですかね。

 風流。

 人間的というかなんというか。

 発案者は人間らしいがそこそこおバカな感じがする。

 

 っと。

 ここのテーブルの上にある、紙は……?

 

 

 メモ。

 いや。

 手紙、か。

 誰かにあてた手紙……か?

 読める字、ではある。

 誰かが誰かにあてた手紙か?

 

 

 

 失敗したのか成功したのかも分からない


 どうしてこうなってしまったのか


 私は救いたかっただけだ


 何を犠牲にしてでも


 私は壊したかっただけだ


 でも何故壊したかったんだろう


 これは危険だ、私は気付かなかった


 次に目覚めた時、私は私なのか


 分からないがおそらくは最悪に至る


 せめて彼女らは助けたい。宝物は黒い部屋に


 あの人が、貴方が、来てくれればきっと


 いいえ、必ず来てくれると信じます


 これを読んでいるのが貴方だと


 信じています。私のヒーロー


 ロックを解除するパスワードは


 貴方が好きだったあの黒い馬

 

 

 

 ……これは。

 なんだ?

 誰かから誰かへの伝言?

 通達?

 連絡?

 ……遺言?

 

 

 

 

 紙自体に他の仕込みはない、か。

 ふむ。

 紙にインクで記す形式。

 ウマ娘さんらの世界のメジャー形式だ。

 俺達がいつも筆談で使ってるやつ。

 

 圧縮情報を使ってないあたり、俺とは同郷じゃない?

 いや、それも早計か。

 状況が許さずこれでしか伝言を残せなかった可能性もある。

 時間が許さずこれでしか伝言を残せなかった可能性もある。

 今は考えても分からないだろうな。

 

 それにしても。

 黒い部屋。

 なら、こっちか。

 神殿内の地図を見て、と。

 

 一冊制暗号。

 one-part code。

 alphabetical code。

 最も基本的な暗号の一つ。

 俺達の世界では、もう幼児の玩具くらいにしかなってないもの。

 

 その典型事例として、『BLACK』は『CAA』に相当する。

 神殿内の地図を見て、綺麗に別れた区画、そのそれぞれの位置を、縦・横・奥行きの三つの座標軸の上のどの位置にあるか、で仕分ける。

 一番最初はAAA。

 最後は最大ZZZ。

 ここは三軸が八個ずつに分かれた正立方体の施設だから、AAA~HHHまで分けられる。

 

 Cを『X軸の三番目』、Aを『Y軸の一番目』、Aを『Z軸の一番目』と見て、と。

 最も妥当な部屋にあたりをつけて、そこに行ってみればいい。

 

 そこに行って。

 

 パスワードを入力して。

 

 そうして。

 

 ……俺は、なんでパスワードを入力したら開くと確信してる?

 

 なんであの暗号の解き方はこれでいいと確信してるんだ?

 

 なんだ。

 俺の中の知らない俺。

 俺が忘れてる俺。

 俺が俺を突き動かしてる。

 なんだ。

 その部屋に何が……誰が居るんだ?

 

 進んで。

 歩いて。

 突き動かされて。

 俺は厳重なその扉を、パスワードを用いて開き。

 『ライスシャワー』と入力して開いたその扉への違和感と納得の正体も理解できないまま、その扉を開いて。

 

 

 その向こうに行って。

 

 そして。

 

 彼女らを見つけた。

 

 

 ……。

 ……。

 ……。

 双子の姉妹の方ですか?

 

 いや。

 この顔。

 面影がある……っていうか、見覚えがあるな。

 めっちゃある。

 五年くらい見てない顔だったが。

 

「マクドさん?」

 

「誰ですのわたくしを昔のあだ名で呼ぶのは! ……あら? もしかして……」

 

 馬の耳が生えていない方の少女がハッとして、俺の顔を見て驚いて、じんわりと涙を目尻に浮かべて、唇を震わせる。

 

 間違いない。

 

 イーロイ博士の孫娘と……そのそっくりさんのウマ娘?

 

 世界と世界を繋げる装置を完成させたあの人の、孫娘さんだ。

 

 え、どういうこと? 何故同じ顔? ……平行世界の同一人物?

 

「お祖父様の所有していた……いつも私に優しくしてくれてた、新型製造体の……」

 

「覚えててくれたのか。いや、新型だったのは当時の話で今はもう―――」

 

「お、おおおおおお! ようやく……ようやく知っている人に出会えましたわあああ!!!」

 

 こらこら。

 

 こらこら。

 

 抱きついてくるんじゃない。

 

 びっくりして心臓止まっちゃうだろ。

 

 マクドさんにそっくりなウマ娘の人! 助けてくれ!

 

「e38282e38186e381aae38293e381aae38293e381a7e38199e381aeefbc81efbc9f」

 

 

 




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