いつも月夜に米の飯、米の飯より思し召し   作:ルシエド

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「自分の好きを信じられない人……それは、悲しいことですわ」

 

 歌えや歌えや。

 うむ。

 やっぱ歌ってるとなんとなく操縦も調子が良い気がする。

 たぶん気のせいだけど。

 

 余裕ある内に、作業と並行して、破綻が進んでる俺の思考も整理しとかないとな。

 思考の論理性が保てなくなる。

 どっかでやっとこう。

 

 

 

 大昔、歌は曖昧で混沌だった。

 それは神を奉る聖歌。

 あるいは神を崇める賛美歌。

 時には神に感謝する祭りの歌だった。

 

 歌は踊りと共に、芸術の始祖だったと言われる。

 曖昧で混沌だった始まりから、様々な形に分化していって、多種多様なものになっていって、それが文化とか芸術とか呼ばれるものになっていったとかなんとか。

 

 人が石器しか使えなかった時代に歌と踊りは生まれ、歌と踊りは神に捧げられ、そこから芸術が生まれ、芸術から技術が生まれて、技術から神が生み出された。

 それは帰結であり、円環でもある。

 

「光り輝く星の上―――夜の闇は逃げ出して―――空から人が舞い降りた―――」

 

 ま。

 皆好きだったってことなんだろう。

 歌も。

 踊りも。

 皆好きの形が違ったから、別々の好きの形に沿った形に変化して、多種多様な形に分化していった……その内の一つが、俺が好むこの歌の形式であるってだけだ。

 

 正解が無いのは良いことだ。

 ……良いことなのか?

 今何気なく俺が思ったことでしかないが。

 良いことなんだろうか。

 

 でもまあ。

 歌に正解があったら、皆その歌しか歌わないだろうしな。

 そしたら色んな歌が生まれてなかっただろう。

 正解が無いから皆試行錯誤したわけで。

 

 低俗と言われるアマチュアバンドなんて誕生もしてなかったかもしれない。

 

 

 ウマ娘はどうなんだろうか。

 

 まあそっちも個性ある競争が成立してんなら"走りの正解"は見つかってないんだろう。

 見つかってるなら、皆同じ走り方になってるだろうし。

 なってない以上、"こう走るのが正しい"っていう走り方は見つかってないんだろうな。

 

 正解は多様性を駆逐する。

 なんとも難儀な話だ。

 

 "正しい"があるだけならいい。

 いやまあよくねえんだけど。

 "正しいやつ以外は間違ってる"。

 これが良くない、みたいなとこはあるんだよな。

 

 これが転じると『勝ったやつが正しい』と同線上の論理になって、『勝ったやつ以外は間違ってる』にもなりやすい。

 戦争なんて大体この論理だ。

 

 

 

 

 負けたもの。

 間違ったもの。

 歪んだもの。

 そういうのでも好きなら好きでいい……くらいの塩梅がいいと思うんだがね。

 

 推してるウマ娘が負けても応援し続けるのと、『気分悪くなりたくないならいつも勝ってるウマ娘を推せばいい』みたいな話は、別だろうしな。

 

 昔よくあったっていう、人気投票上位のやつのファンが下位のやつのファンを煽るとかの事案は、ウマ娘でもあったりするんだろうか?

 一番人気のウマ娘を応援するのが正しい……みたいな風潮あったら尋常じゃなく嫌だな。

 

 

 勝ったウマ娘が書いた『これを読めばレースに勝てる』という、個人的経験しか参考資料がない主観的な本と。

 実際にレースでウマ娘勝たせたことがないトレーナーが書いた『これを読めばレースに勝てる』という、膨大なデータの統計とスポーツ医学による客観的な本と。

 

 たぶんその二つだと、一般的には前者読んだ方が勝てるみたいな風潮ができるはずだ。

 実際は後者を読んだ方が勝てるという事実があったとしても、だ。

 人間は基本的にそういう精神構造を持っているもんだから。

 

 『実際に勝った選手の本』ってのは、売れる。

 いつの時代も売れてきた。

 "勝利"という情報を付加しただけで、人はそこに正しさを見るから。

 

 勝利という情報には、正しさという情報が含有されている。

 

 

 正しさの指標をどこに求めるか。

 何をもって正しいとするか。

 そして、どの正しさを信じ、どの正しさを信じないで、切り捨てていくのか。

 『勝ったやつが正しい』『負けたやつは間違ってたことになる』という正しさの指標があって。

 『勝利は全てじゃない』『勝ったやつが褒め称えられるとは限らない』とかの、それに反論する主張があって。

 だけどそれでも、勝者に正しさを見る人間の本質は残った。

 それが人間の文明だ。

 

 うーん。

 正しさと勝利を求めるのは本能だから、コーディングを繰り返しでもしないと無くなったりしないのかね。

 

 ……はて。

 なんか違和感がある。

 昔の俺は、こういう思考をする人間だったか……?

 分かんね。

 覚えてねえし。

 

 

 いや。

 でも。

 そうだ。

 なんか思い出せそうな気がする。

 昔、今と違う俺が、こう思ったんだ。

 コーディングの合間に、そう思ったんだ。

 

 『天皇賞でマックイーンに勝った偉業を褒めてあげればいいのに』って。

 

 『ヒール扱いされてたやつでも勝ち続ければヒーロー扱いになるんだな』って。

 

 勝ったのに正しく見られない悲劇とか。

 それでも勝ち続けて正しくヒーローのように扱われた大逆転とか。

 "勝利に紐付けられた正しさ"に振り回されながらも、その中で足掻いた美しさがあった。

 

 『お前が勝ったのは正しくなかった、間違いだった』と人々に思われるのは、世の条理に反するがために、絶大な苦痛を伴う。

 正しいもの以外を間違いとするなら、正しい勝利以外は間違った勝利になる。

 

 それは人が抱えた本能の業。

 拭い去れない地獄の釜の底。

 

 それでも。

 この勝利は間違ってない、と叫ぶなら。

 間違っていると他人が言おうと別にいい、と叫ぶなら。

 ヒールがヒーローに勝って次のヒーローになってやると、気概を見せるなら。

 

 

 

 

 

 

 それは。

 たぶん。

 本当に、かっこいいんだ。

 

 なんか思い出せそう……ダメだ、思い出せなくなってきた。

 思い出せそうになるたびに消えていく。

 まるで霞のように。

 どうなってんだ、俺の記憶は。

 

 

 今何思い出してたんだっけ。

 馬のその知識を誰かに教わってたはずなのに。

 誰かに教わった記憶があるはずなのに。

 思い出せない。

 なんでだ。

 はて。

 

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 お。

 サンキュ、マックさん。

 もう寝てると思ったよ。

 メジロベッドイーンだと思ってた。

 

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ありがとう

 

 おお。

 マグカップにスープだ。

 美味しい。

 スープと気持ちの暖かさがありがたい。

 ほっかほかだ。

 

 なんか褒めるか。

 今日も美人ですねマックさん。

 ……この反応。

 言われ慣れてそうだな。

 

 褒められると照れて逃げるのがライス姫で、茶化して別の話題に変えようとするのがネイチャ様で、言われ慣れてるから優雅に受け止めて喜ぶのがマックさんか。

 ちょっとキャラが見えてきた気がする。

 

 

これ、名前は?

 

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美味しいね

 

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 『お気に召したようで何よりですわ』みたいな顔してるな。

 ギガスの翻訳はありがてえけど。

 この子に関してはあんま翻訳要らん気がする。

 マクドさんと似て非なる、けれどやっぱり似てる人なんだよな。

 根底の思考がたぶん、ほとんどそっくりなんだ。

 

 真摯で、真剣で、真心があって、いつも真面目で、真っ直ぐな人。

 ライス姫が皆に愛される人なら、マックさんは皆に尊敬される人だ。

 マクドさんもそうだった。

 

 マックさんもきっと、裏で苦労したり苦悩したりしてたとしても、誰も見てないところで努力を重ねて、気高く強く生きていく人なんだろう。

 マクドさんがそうだった。

 

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大丈夫大丈夫

 

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脳は交換したから

 

 

 これ美味しいな。

 コーンスープの上に浮いてるやつ。

 サクサクしてたりスープ吸って味わいが変わったり、面白くて美味いや。

 

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 当たり前だけど、皆好みが違うんだな。

 カフェちゃんはコーヒー。

 タキオン先生は紅茶。

 そんでマックさんはスープ。

 

 深夜にさ、みんななんか差し入れてくれるんだ。

 みんな寝てりゃいいのに、俺に一声かけてくれて、ちょっと話していってくれるんだ。

 それがなんか、めっちゃ嬉しいんだよ。

 金額換算だと大したことねーのに。

 なんか、その一杯があったかいっていうか、うきうきするっていうか。

 ……なんなんだろうな、あれ。

 

 これ美味いなーって話をしたり。

 ギガスのあれどういう機械なんだ? みたいな話をしたり。

 トレセン学園でどんな授業やってんだ、とか話をしたり。

 そんななんでもねえことがさ。

 なんか楽しくてあったかいんだよ。

 上手く言語化できなくて悪いな。

 

 

 なんだその顔。

 

 まあ、いいか。

 でさ。

 この世界はあんまり『正しい味』が普及してないのかなって。

 いや、それが悪いことじゃないんだけどさ。

 

 ん?

 ああ。

 そっか。

 そもそもこの辺の話、マックさんとあんましてなかったっけ。

 

 俺の世界は"この味が正しい"があるんだよ。

 "正しい味以外を好きになってはいけません"と教えてる星系も多い。

 最初からそうしておくことで、食べ物の好き嫌いとかの概念も消せるしな。

 食品が一つの形式に規格化されたことで、食糧生産のコストもめっちゃ下がった。

 二つの世界の首都の食の多様性を比べれば、たぶん君らの世界が勝ると思うんだぜ。

 

 

 なんでと言われても。

 

 なんかこう。

 人って、味の上下を決めたがるもんだろ?

 よその国で定着してる料理を下に見たりとか。

 自分の国が他の国より美味いもの多いと思ったりとか。

 流行りの食べ物になんかケチつけたりとか。

 他人が好きだって言ってるものに不味いって言いに行ったりとか。

 

 

 

 

 

 

 ま、だからさ。

 そういう人間の性質は、いつか『この味を美味しいと言うのが正しい』みたいなのを生み出したりもするわけだな。

 人間の味覚を脳構造とセットで完全に解析して。

 自然界に存在しない化合物を食物に使って。

 やがて、どんな食材も凌駕した、『究極に正しい味』を求めていく。

 

 ただ、まあ。

 俺の世界でも、それが宇宙の大半で普及したかっていうとそうでもないんだけどな。

 こっちの世界でもそっちの世界でもメロンパンは皆好きだったみたいだし。

 

 マクドさんの祖父、イーロイ博士もそうだった。

 正しい味より、目白……アナゴの方が好きな人だった。

 辺境のグルメに人一倍詳しい人だった。

 そういうとこで尊敬されても嬉しくねえかもしんねえけど、あの人のそういうとこ、俺は尊敬してたんだ。

 

 孫娘想いの、孫娘のためなら、孫娘達が生きていく未来の世界を守るためなら、なんだって出来るお爺ちゃんだったよ。イーロイ博士は。

 

 『この世で一番美味いものを決めるなど無粋』ってのが、博士の口癖だった。

 当時の俺は、よく分かってなかった感じだけどな。

 今になってようやく分かってきた気がする。

 

 俺は大して好きな食べ物とか無かった、と思うけど。

 誰だったかな。

 誰とだったかな。

 みんなでお菓子をみんなで食べて、くだらないことを話してる時間とか、好きだった。

 そんな気がする。

 誰と食べてたか、思い出せないけど。

 

 

 まあ、"正しい食の形"とか。

 そういうのが生まれると、割と食の多様性って失われて行きがちなんだよな。

 

 ……どうやって正しさなんて決めるんだか。

 科学が決めた。

 そんでおしまいの話。

 

 正しい味。

 正しい美味さ。

 正しい食べ物。

 

 皆が美味いと言ってるものを美味いと思う舌が正しい。

 皆が不味いと言ってるものを美味いと感じるのは間違ってる。

 

 美味い店にだけ行きたいから、ネットで"皆の評価"を見てから行く。

 皆の感想だけ盲信して店を選ぶ。

 ちょっと微妙に感じたけども、皆が美味しいと言ってるから美味なように思えてくる。

 

 馬鹿舌。

 貧乏舌。

 飯が不味い国の出身の人。

 皆が性格最悪の料理人だって言ってるから料理も不味いに違いない、と言われてる人。

 

 まったく。

 なんだろうな。

 人間の脳と味覚を完全に解析し終えた時代の後の、完璧に正しい、何よりも美味しい味、それだけが様々なバリエーションで出し続けられる食生活。

 あれはあれでいいんだろうけども。

 

 それを素直に受け入れられないのは、もしかしたら、俺を設計した目白(メジロ)のお祖父様が、目白(アナゴ)がめっちゃ好きだったからなのか。

 うーん。

 わっかんね。

 

 

 俺はカフェちゃんのコーヒーも、タキオン先生の紅茶も、マックさんのスープも、美味しくて好きだなって思ったよ。

 それでいいんじゃないかな。

 それがいいんじゃないかな。

 各々好きなものがある感じでさ。

 好きなように好きなものを好きになるってのは、いいことだと思うかな。

 

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 まあ。

 

 脳情報弄れば、人間はなんだって好きになれるんだけども。

 

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 生まれつき、何を好きになるか決まってるやつも居るだろうし。

 自分が何を好きになるか知らんまま生きてる人も居る。

 何かの目的のために何かを好きになるよう決められて生まれてくるやつも居る。

 

 "自分が何を好きになるか"だって、自分の意志で決められる時代だしな。

 

 ほら。

 昔はいたそうじゃないか。

 いや、そっちの世界だとまだ居んのかな?

 『ついダメな異性を好きになっちゃう』ってやつ。

 

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 まあ、それが起こんのは、色々脳内の作用があるそうだけど。

 

 生物は異性のパートナーにより優れた個体を選ぶのが自然だろう?

 顔か、身体能力か、頭脳か、優しさか、包容力か、愛か、何を基準してるかは知らんけど。

 より優れてる方を選ぶもんだ。

 あえて劣等の方を選ぶ脳の動きは、バグの一種なんだよな。

 

 ダメな異性を選ぼうとする心の動きってのは、生物学的にはバグ以外の何かではない。

 よりよい子孫を残していくのが、生殖を用いた進化の基本だ。

 でなければ、劣った形質を引き継いだ子孫がどこかで絶滅してしまうから。

 子孫にはより優れた形質を残さなければならない。

 

 ダメな異性に優しいってのは、生存競争の中で生まれる形質じゃあないんだ。

 

 

 『それを好きになったら不幸になってしまう』と分かっていても。

 『それを好きになってしまう』。

 これは人類が永らく抱えた悪癖だったとか。

 

 だからほら、解決したいと思った人が居たらしいんだよな。

 

 自分では到底結ばれないような高望みの恋ばかりして、結婚どころか恋人すら出来たことがないひとが、自分の異性の好みを修正して、身の丈にあった恋人を作れるようになったとか。

 

 "どうしても同性愛者から異性を愛する普通の人になりたい"って苦悩の果てに思った人が、自分をそういう人間にするという、苦渋の決断をしたりとか。

 

 昔は愛玩用に製造された美少女が、購入者の容姿をどうしても好きになれないからって、自ら望んで購入者の様子を好きになる嗜好をインストールすることがよくあったって聞くな。

 

 大昔。

 人は、自分の『好き』を操れなかった。

 『好き』は人の心から勝手に湧き出るものだった。

 

 『好き』は魔物の一種だった。

 懺悔室を訪れ、神に祈り、神に吐き出し、神に許されなければ存在すら否定される『好き』さえも世にはあったらしいな。

 

 『好き』は人を惑わせ、狂わせ、暴走させる、人にはどうしようもないものだった。

 かつてはそうだった。

 いつからかそうでもなくなった。

 

 人は嫌いなコーヒーを『好き』になることができるようになった。

 紅茶が飲めなくなったら、一時的に大好物の紅茶を『好き』から外せるようになった。

 家族がいつも作ってくれる嫌いな味のスープを『好き』になって、日々を良くした。

 負け続きのアスリートをTV越しにいつまでだって『好き』で居られる。

 性格が気に食わない常勝無敗のウマ娘だって『好き』になれるだろう。

 

 どうかね。

 どう思う?

 

 じゃあさ。

 

 人工の優しさに価値がないのと同じように、人工の好きにも価値はないんじゃないかな。

 

 俺さ。

 好きなもの大体生まれる前から決まってんだよね。

 何を好きになるか最初から決まってんだよね。

 

 宇宙の大体どこでも手に入る食材を基本的に好きになるようになってんだよ。

 どこでも飢えないように。

 大体の社会構造や政治家好きになるようになってんだよ。

 そうすりゃ国家転覆や革命に加担しないから。

 努力と献身、奉仕が好きになるようになってんだよ。

 周りの人間に自然と尽くすように。

 

 じゃあさ。

 俺がこれから好きなるもんも大体、生まれる前に入力された設定に沿ってんじゃないかって思ったりするわけよ。

 記憶が消えて、入力された設定がガタガタになってても、そう思うんだ。

 

 ライス姫に可愛いとか、頑張ってるなとか、報われて欲しいなって思うのも。

 ネイチャ様に面倒見いいなとか、甲斐甲斐しいなとか、優しいなとか思うのも。

 タキオン先生に破天荒だが気遣いがあるなとか、好感が持てる天才だとか思うのも。

 カフェちゃんに苦労した分幸せになってほしいとか思うのも。

 

 もちろん、マクドさんやマックさんも好きだ。

 マクドさんは初期設定に名指しで入ってるから、とびきり特別だ。

 だけど。

 どうなんだろうな、これ。

 

 いや。

 疑うまでもないんだけどさ。

 俺の人格はそもそも誕生前から計算尽くで組まれてる。

 誰を好きになるかもメンタルプログラムに沿って決められてることだ。

 俺が決めたことでもあるが、同時にどっかの誰かが決めたことでもある。

 

 この『好き』は、俺だけのものじゃない。

 俺が生んだものじゃない。

 俺から生まれたものじゃない。

 誰かが書いた精神設計図の中から生まれたものだ。

 そこに疑うところなんてない。

 

 だけど。

 

 俺は。

 たぶん。

 そう思いたくないんだと、思う。

 

 分かんねえけど。

 俺は。

 俺の中の当たり前に、抗いたいと思ってる。

 なんでか分かんねえけど。

 

 あの時、ライスシャワーが、本気で俺の心配してくれて、泣きそうな顔で、俺に向かって一直線に走ってきて、俺の手を握ってくれた時。

 このままじゃいけないような、そんな気がしたんだ。

 

 どう思う?

 

 

 ……そうか。

 うん。

 マックさんならそう言う気がしたよ。

 マックさんはそっちの倫理基準で立派な人だもんな。

 

 まあ、なんだ。

 俺の世界でもこの辺の『好き』とかを弄るかどうかは、大分個人の裁量に任せられてるとこはあったわけでな。

 

 じゃなきゃアナゴばっか食ってる目白のお爺様とかおらんし。

 人造の優しさより天然の優しさの方が価値があるからな。

 人造の好きより天然の好きの方が価値があるのも当然だ。

 『好き』も人造だと価値は下がるよなあ、ってなるわけでさ。

 

 ん?

 そっちには似たような文化ないのか?

 『恋愛シミュレーションゲームの女の子に告白されるより、現実の女の子に告白される方が価値がある』みたいな倫理。

 ない?

 ああ。

 マックさん、そういうのあんま詳しくないのか。

 納得。

 まあそういうのがあるから、下手に弄らないのも良いんだ。

 

 俺も自分の『好き』を弄ることほぼない。

 その権利も無いしな。

 俺の『好き』を弄っていいのは、俺の所有権を持ってる人間だけだ。

 マクドさんとか。

 

 

 だから。

 ほら。

 さっきの話。

 人間が劣等の異性に対し好意を抱くのは一種のバグみたいな話したろ?

 

 俺はそのへんのバグをちょくちょくコーディングで修正しないと変なことになるんだよな。

 たまに変なこと言ってたり矛盾してたりしても許してほしい。

 最近は特に。

 自分の中の矛盾を機械以外で解決すんのになれてないんだ。

 

 まあ、ダメなやつを好きになるみたいなバグは、生物学的には間違ってるから―――

 

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 うん?

 

 なんだね。

 

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 ……。

 ……。

 ……。

 まあ。

 

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 はい。

 

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 うん。

 つらつら書き連ねないで?

 やめてくれ。

 

 そりゃまあ。

 そうなんだけども。

 ライス姫はあんな、ほら、気弱で内気じゃん。

 でも、俺に"ほっとけない"って言ってたんだ。

 なんか考え事しながら歩いてる内に釘とか踏んでそうだって。

 そんで、同行してくれて、手助けをしてくれてたんだ。

 

 まあそりゃ……俺が頼りないとか、見てて不安とか、心配だとか、あんだろうけどさ。

 つまりそれは"劣等の異性に対する好意的な行動"なわけで。

 親しみとか友情とか、赤の他人への好意とか、ライス姫の動機や感情にどういう名前を付けるかは人によるだろうけど……それは、悪い感情ではないわけで。

 ライス姫優しいじゃん。

 まあ、だから、ほら、な?

 

 ネイチャ様とかカフェちゃんとかもそういうとこは、まあ、あるわけだけど?

 

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 ん。

 

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 ぐ。

 

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 ……。

 ……。

 ……。

 今は俺の話してないから。

 え?

 してる?

 やめい。

 俺を論破しにかかるな!

 

 なんでそんな愉快そうなんだ。マクドさんからなんか吹き込まれたのか?

 

 

 ああはいそうですよ。

 俺は完璧な人間だから助けられてるわけじゃあない。

 記憶を失って、色々ダメダメになってるから周りに助けられてんだ。

 

 "ダメな男にも優しい"みんなと行く先々で出会えたから、その縁が俺を今でも生かしてるし、この世界が救われる可能性が残されているのは間違いねえよ。

 

 ダメになってるから、俺は一人で使命を果たせない。

 ダメになってるから、皆に助けてもらって上手くやれてた。

 もういいだろ!

 はいはい、俺の言ってることは間違ってたよ!

 おんのれ!

 

 ……。

 感謝してるんだよ。

 本当に。

 あんま伝わってないかもしんないけど。

 

 

 俺、考察癖があるみたいな話、したよな。

 だから、余計なこと考えちまうんだ。

 こんなスープ一杯飲んでても、な。

 

 なんか……断片的に蘇る記憶と、コーディングできてない今の精神の状態が混ざってなんか変になってるだけだ。

 

 ああ、別に苦しいとか悩ましいとかではないんだ。

 なんか、自分で自分が分かんねえだけ。

 今の自分が悪いと思ってるわけじゃあない。

 むしろ、なんか楽しく感じてる心もある。

 

 ……今は特に余計なこと考えがちっぽいな、俺。

 早く平均稼働状態を目指すよ。

 性能を最大限発揮すんなら、この精神状態はノイズだ。

 余計な手間かけてごめんね。

 できるだけ迷惑かけないようにするから。

 

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 ん。

 サンキュ。

 マックさんかっこいいよな。

 ギガスの翻訳の文字数制限が一番枷になってない人だわ。

 

 あ。

 そうだ。

 『好き』の話なら、もっと明るい話もしたいよな。

 

 他のウマ娘はどんなのが好きなんだ?

 やっぱり全体的に人間に近いのか、実際はそうでもないのか。

 あ、異性の好み話しとかではなくてな。

 それはセクハラになっちゃうので脇に置いといて。

 食べ物とかの話な。

 メロンパン好き? くらいの話。

 

 へー。

 ほうほう。

 なるほど。

 

 

 メジロ家ってお嬢様の集まりみたいなイメージ持ってたけどそんなでもないんだな。

 意外と俗っぽいものが好きな感じがする。

 牛丼とか食うんだ、お嬢様。

 え?

 いやいや。

 バカにしてるとかそういうのじゃないぞ。

 親しみを持てるからいいんじゃないかなって、そう思う次第ですよ。

 

 友達は?

 ライバルとかは?

 ほー。

 トウカイテイオーさん?

 なるほどなるほど。

 へー!

 デビュー前からバチバチに競ってるんだ。

 マックさんがそんなに言うってことはかなり速いんだろうなあ。

 マックさん、今の仲間の皆の中でも、どう見てもトップクラスに速いもんな。

 

 MT(マクテイ)対決ってとこか。

 その時はマックさんが勝った? へー!

 やるなあ。

 そんな盛り上がってたならちょっと見てみたかったわ。

 

 公式戦でも勝てると良いな。

 ライバルなんだろ?

 応援してるよ。

 

 

 天皇賞目指してるんだっけ。

 どんな感じのやつなんだ?

 いや、なんかかっこいいとは思ってたんだよ。

 『王の名前を冠する賞』とか競走馬の情報とか小説でくらいしか見ねえからさ。

 ファンタジックでいいなって。

 

 ……ほほう。

 おー。

 歴史があるんだなあ。

 かいつまんで聞いてるだけでも勝ってるウマ娘がすげーや。

 そりゃ、目指すか。

 夢に相応しいもんだろうしなあ。

 

 ウマ娘って年間どんくらい走ってんの?

 え?

 学生だけで年間3400レース?

 上のリーグや公式外競争含めるともっと多い?

 こっわ。

 毎週大体60レース以上あるとかアンドロメダ星系のバイクレースじゃないんだからさあ。

 

 勝ち残った上澄みのウマ娘の足すごいことになってないそれ?

 めっちゃバキバキになってない?

 なってないのかぁ。

 そっかぁ。

 やっぱウマ娘不思議生物では?

 

 ふむ。

 重賞。

 クラシック。

 GI。

 前に聞いたな。

 ざっくりとだけど。

 そうだ、ちょうどいいや。

 

 この作業がひと区切りつくまで、君らがどんな夢に挑んでるのか、教えてくれないか?

 

 報酬は……そうだな、そこの引き出しにカフェちゃんが入れておいてくれた、手作りクッキーとかでどうだい。

 

 

 へー。

 ほー。

 面白いなぁ。

 そのシンボリルドルフさん何年生なの?

 いや、それより……退学になってないのが不思議なのがちらほらいるな。

 大丈夫なん?

 大丈夫なのか。

 トレセンは懐が深い学校なんだなあ。

 タキオン先生の存在を許してるだけはある。

 

 あ。

 箱のクッキー切れてる。

 新しいの出しておこうか。

 はい、召し上がれ。俺もパクパクですわ! どうぞ。

 

 何?

 モノマネに侮辱の意図を感じる?

 気のせいだ。

 親しみの表現ですよ。

 

 

 じゃあこれ食べてちょっと待ってて。

 少し、外に出て大気成分の調査してくる。

 今、ギガスの精密探査を行うなら俺の身体を検査端末にするのが一番正確だろうからな。

 

 

 ああ。

 君は外には出るなよ。

 まだ除雪の筋道も立ってないからな。

 今ちょうど作業10時間目だけど、終わる気配がまるでない。

 ギガスがこれ以上先に進むなら、調査が絶対に必要だ。

 

 外の吹雪の風速、見てみるか? たまげるぞ。

 

 

 大丈夫。

 

 ギガスの足回りから3mは離れない。

 

 それ以上は、流石に俺も危険だから。

 

 

 

 

 今、外に出たら。

 

 多分、機神でも二度と帰って来れないぞ。絶対に出るな。

 

 さっき高さ100mの大雪崩が、街を一つ飲み込んだところだ。

 

 

 

どうぞ

お疲れ様ですわ

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コーンスープですわ

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ふふっ

無理していませんか?

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また徹夜して……

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クルトンですわ

ですわね

ええ……

それは……まあ……

ちょっとよろしくて?

ライスさんは?

反例がありますわよね

私見ですが―――

同じでしょう?

ライスさんも同じですわ

『こんな自分に』

『優しくしてくれた』

『だから好きだし』

『報いたい』

そう、互いに思っている

いつでも寄りかかりなさい

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