いつも月夜に米の飯、米の飯より思し召し   作:ルシエド

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「ネイチャさん!?」

 よく走るな。

 うむ。

 ちゃんとアスリートやってる。

 あれで正式にデビューしてないとかまるで思えない。

 

 

 ギガスは機神の中ではそこまで性能が高い方じゃない。

 が、運搬に特化しているため、空間を圧縮する機能は十分に高い。

 小さな街なら丸ごと中に入れられる。

 『街ごと移民』が流行ってた時代の名残だな。

 

 ギガスの内部空間、100万平方メートル程度をライス姫用に割譲して、そこにウマ娘練習用レース場を作っただけだが、まあそんな不満は無さそうで良かった。

 素材の無機物なら外の地面にいくらでもある。

 レース場作って、残りは畑にしとこ。

 にんじん植えとくか。

 

 しかし、よく頑張るな。

 よく走る、よく走る。

 普段は移動も生体素子に頼りっぱなしな俺とは大違いだ。

 生物の自然な肉体を、弛まぬ鍛錬で鍛え続けて、二足歩行の人体の構造限界を超えた速度を更に高めてる。

 中々凄いな。

 ランクの低い生物兵器くらいは今の時点でもう凌駕してそうだ。

 

 ……タイムマシンで全てが無かったことになる、って言ったはずだが。

 なんで努力してるんだろうか。

 その努力も無かったことになるのに。

 やる意味なくねーか。

 その走りに何の意味がある?

 

 

 いや。

 違うな。

 これは、俺の思考の方が間違ってるか。

 

 たとえ無駄になると思えても、努力をし続けること。

 魂が前を向き続けること。

 報われないとしても頑張り続けること。

 その精神が、アスリートとしての在り方の真髄か。

 

 もし、明日世界が消えるとしても。

 

 ウマ娘(かのじょ)は明後日のレースのために、全力で走り続けている気がする。

 

「誰も見てないところでも、もう何の意味もなくても、走るってのは」

 

 応援したくなるひたむきさ。

 世界が滅びたことを理由に走ることをやめたりとかはしない、不器用なまでの真っ直ぐさ。

 たぶんそれを、"綺麗"と言うんじゃないかと、理由なく思える。

 

「本当に、走ることが本能なんだろうな……ウマ娘、か」

 

 

 流れ落ちる汗のひとしずくさえ、流れ落ちる血に見える。

 あれは、一瞬一瞬に全力を込めて走っているやつの証。

 流れ落ちる汗はただの体液じゃなく、命から漏れ落ちた努力の証明だ。

 

 ウマ娘。

 こりゃ、俺の世界には居ない生き物だ。

 泥の中に咲く花はある。

 だが泥の中で綺麗なまま染まらない白紙はない。

 山に魚は居なくて、海の中に鳥は居なくて、政治の世界に綺麗な心の人は居ない。

 そこに絶対に存在しないもの、ってのはある。

 『これ』は、俺の世界には居ない。

 

「あっ、コケた」

 

 息をするように抜けてるなあの子は!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日目、突入。

 世界が融合してから初めての朝だ。

 朝日がだいぶ淡く眩しい。

 世界融合の衝撃・影響で太陽や月の軌道が変わって地球がぶっ壊される可能性も考慮してたが、どうやらその心配も無いらしい。

 いいことだ。

 今日も地球の流儀に合わせて姫が満足するだけのメシを作ろう。

 

 早朝、軽く周辺を探索してる時に、街で雑誌の切れたページを拾った。

 世界の違いと世界の破壊もあって、未だ俺の情報収集は不完全だ。

 具体的に言えば、ライス姫の世界の壊れてないデジタル情報以外は網羅できておらず、アナログな書籍データとかはだいぶ見落としがあると思われる。

 星の情報を全てデジタル化してない世界を知るには、デジタル系のアプローチのみでは決して十分ではない、ということだ。

 

 今の俺はさしずめ、ライス姫の世界で言うところの『スマホでググってなんか分かった気になっているにわか』。

 ダサダサ知ったかぶりおじさんに近い。

 姫の世界について分かったふりをしていてもよく分かってないことばかりだ。

 

 偶然とはいえ、こういう形でアナログな書籍の一部を手に入れられたことは大きい。

 破壊されてない書籍は、今後どんどん発見しにくくなるだろうしな。

 しかも幸運なことに、発見した雑誌のページはどうやら料理に関するもののようだ。

 情報の全体像は見えないが一部はしっかり読み取れる。

 幸運の女神ライスシャワーのおかげと思っておこう。

 

 こいつを活かして、いい感じにメシを作っていこう。

 

 組木に火を、火を着ける。

 ぼぼぼぼぼ。

 

 

 

 料理に使いやすい程度まで火を育てる、と。

 無駄な燃料の消費を抑えるためとはいえ、我ながら地味ぃなことをしている。

 なんとも原始的だ。

 しかし、人間である以上誰もが通った道であるはず。

 火を使わず文明を育てた人類などおるまいという話。

 火をちゃんと使えるようになっておこう。

 

 ……文明が消し飛んでる以上、ギガスのエネルギーすら補給のあてはない。

 まあ、戦闘もしてない機神のエネルギーが切れるってことはまずありえないんだが。

 節約するに越したことはない。

 せこせこしよう。

 

 しかし。

 まあ。

 俺が原始的な食の支度をしていると、なんとも、まあ。

 "俺の世界の残骸"が、ことさら目につくな。

 

 

 しかし、なんとも、何度見ても、うん。

 俺の世界の都市の一部が、そこそこ壊れないで残ってることってあるんだな。

 生存者は居なかった。

 精密機械も全部壊れてた。

 が、街の一部はガワだけそのまま残されていた。

 

 最新技術で作った街は壊れない。

 世界の衝突の衝撃を受けてなお全壊しない。

 でも人間は耐えられなかった。

 そういうことなんだろう。

 

 ライス姫達の世界みたいに、人間も街も等しく壊れて残らなかった方が自然なんだ。

 こんな、最新技術で作られた街だけが残って、人間だけ全滅してるなんてのは、本当は何一つ自然じゃないはずだ。

 

 人間を差し置いて壊れなかった街。

 人間を置き去りにして生き残った街。

 人間を嘲笑うように立ち続けている街。

 

 人間が人間のために作ったはずの街が、人間が居なくなってなお、そこに残っている。

 まるで、人間が生前に自分の墓標でも立ててたかのようだ。

 壊れず残った街の一部が、今は、墓に見える。

 

 生き残った人は居たんだろうか。

 居たとしても、ここに残ってはいないだろう。

 もうちょっと開けた、もうちょっと安全なところとか。

 食料が十分にあるところとか。

 そういうとこに移動している……と、思いたい。

 ここでありとあらゆる人が死んで誰も生き残らなくて、街だけ残ったなんてことになってたら、ちっと虚しすぎるだろう。

 

 ……。

 ……。

 ……。

 この街を作った人達だって、こんなもんを残したかったわけじゃあないと思うんだけどな。

 

 火が育ち切るまで、まだ少し時間がかかる。

 一度、頭の中を整理しよう。

 データの整理が、思考の高速化をもたらすはずだ。

 

 

 福岡県北九州市小倉南区、小倉レース場/丑の神殿には設計図は無かった。

 と、なると。

 次は兵庫県宝塚市―――阪神レース場/寅の神殿に向かうのが最適解であるはずだ。

 

 ライス姫曰く。

 阪神レース場は南に海が見える、海と川の接合点に近いところにあるとか。

 福岡→山口→広島→岡山→兵庫の順に、大まかに海沿いに進んで行けばいい。

 ライス姫が「山陽新幹線沿いに行けば迷わないかも」と教えてくれたから、その通りに行けばたぶん当座は間違いがないな。

 間違いないよね?

 

 なんなんだよこの地形はよ。

 このルートだと山口では山通らねえし広島は島じゃねえし岡山でも山通らねえぞ。

 舐めやがって……!

 しかも山口とか岡山とかいう名前してるくせに山の割合は岐阜とか長野の方が圧倒的に多いじゃねえか……舐めやがって……!

 

 まあいいか。

 火も育ってきたし、今日のところは勘弁してやる。

 だが二度と山が多そうな名前を名乗るんじゃねえぞ。

 

 

 朝から肉。

 でかい肉。

 普通の女の子相手に出すのはアレだが、ライス姫相手に出すなら問題ない。

 たぶん。

 残ったらお弁当にしとこう。

 

 じっくりと肉を炙っていく。

 肉を回して、滑らかに火を通し、全体を均一に加熱していく。

 炎を信じる。

 自分の感覚を信じる。

 焦げないように、かつ皮がパリッとするように的確に。

 最高の肉を仕上げるのは、最高の焼き方だ。

 

 やったことのない焼き方に、俺の心は不安を感じている。

 自己診断プログラムがそれを告げて来るが、構わず無視する。

 あの雑誌のページを信じろ。

 この未知なる焼き方こそが、この世界に定着した焼き方であるはずだ。

 でなければ本に載ってるわけがない。

 信じろ。

 迷うな。

 焼き上げろ!

 

 ……よし! ここで雑誌に記された祝詞(のりと)を口にして、完成!

 

 

 

 

 

 

 これがこっちの世界の肉焼き。

 この世界の肉食文化。

 完成、こんがり肉!

 完璧に理解したわ。

 ありがとう、雑誌のちぎれた1ページ。

 

 

 もうだいぶ『勝った』感じがしてきたな。

 完璧な肉だ。

 この時点で既に満足感しかない。

 

 保温してライス姫呼んでこよ。

 

 おっとと、あっぶね、そういやここに足あったんだった。

 

 

 しかし改めて思うが、機神はでけえな……流石、我らの『神』。

 

 そういやライス姫の世界の神ってどういう感じなのか、聞いてなかったな。

 

 今度聞いとくか。

 

 っと、ライス姫はトレーニング終わってすぐだし色々持っていくか。

 

 

 汗を拭くぞ、でかでかタオル。

 ライス姫よりでかいタオルを用意した。

 まあでかければでかいほどいいだろう。

 うん。

 

 

 水分補給の準備も完璧!

 ……完璧か?

 完璧だよな?

 やっべ、不安になってきた。

 いけるいける、自分を信じろ!

 

 ライス姫、トレーニングお疲れさん!

 タオルと補給水分を持ってきたぞ!

 今日も頑張ってて偉いな!

 

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 おっと!

 筆談するまでもなく失敗したのがわかった気がする!

 ごめんな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も朝練お疲れさん。

 これから一気に兵庫まで行って、そっからまた捜索だ。

 悪いけどまた手伝ってくれ。

 途中で倒れたりしないよう、朝からしっかり食っておこうな。

 

 

 ほーれ。

 お肉だぞ。

 朝から満足感たっぷりだぞ。

 

 

「e280a6e280a6e38188e381a8e38081e3819de381aee280a6e280a6e381a9e38186e38197e38288e38186e280a6e280a6e383a9e382a4e382b9e38081e38193e38293e381aae381abe38288e3818fe38197e381a6e38282e38289e38186e79086e794b1e381aae3818fe381a6e38082e38188e381a3e381a8e38081e383a9e382a4e382b9e38081e38184e381a4e38282e584aae38197e3818fe38197e381a6e38282e38289e381a3e381a6e3828be38193e381a8e38081e3828fe3818be381a3e381a6e3828be381aee38082e383a9e382a4e382b9e381aee38194e381afe38293e38292e3819fe3818fe38195e38293e4bd9ce381a3e381a6e3818fe3828ce381a6e38082e383a9e382a4e382b9e3818ce4b88de5ae89e381abe381aae38289e381aae38184e38288e38186e889b2e38293e381aae38282e381aee3818ce983a8e5b18be381abe7bdaee38184e381a6e38182e381a3e381a6e38082e383a9e382a4e382b9e3818ce8b5b0e381a3e381a6e3819fe38289e38081e38184e381a4e381aee99693e381abe3818be9a3b2e381bfe789a9e3818ce38399e383b3e38381e381abe7bdaee38184e381a6e38182e381a3e3819fe3828ae38197e381a6e38082e381a0e38191e381a9e383a9e382a4e382b9e381afe38081e38380e383a1e38380e383a1e381aae5ad90e381a7e38081e38184e381a4e38282e591a8e3828ae38292e4b88de5b9b8e381abe38197e381a6e381a6e38081e7b590e5b180e38387e38393e383a5e383bce38282e381a7e3818de381aae38184e381bee381bee38193e38293e381aae38193e381a8e381abe381aae381a3e381a1e38283e381a3e381a6e280a6e280a6e38182e38082e58fa3e381a7e8a880e381a3e381a6e38282e4bc9de3828fe38289e381aae38184e38293e381a0e381a3e3819fe280a6e280a6e7b499e38081e7b499e38081e3839ae383b3e280a6e280a6e38182e38182e381a3e38081e381a9e381a3e3818be381abe890bde381a8e38197e381a1e38283e381a3e381a6e3828befbc81efbc9fe38080e381a9e38081e381a9e38186e38197e38288e38186e280a6e280a6e381a0e38184e38198e38287e38186e381b6e3818be381aae280a6e280a6」

 

 ぬ。

 なんかめっちゃ言ってる。

 けど素直に喜んでもらえてる気配がないな。

 むしろなんかしょんぼりしてる感じ。

 くっ。

 失敗か。

 やっぱ朝からでかい肉で攻めるのはちょっと……女子に対してはあれだったか!

 今後はもうちょっと上品にしよう。

 

 女子に喜んでもらえるメシって難しいな。

 つか、俺のスキルが低い。

 だから満足感が十分でないのだ。

 かなしい。

 俺は料理専門の『大人』として作られてないな……まいってしまう。

 

 まあいい。

 こっから精進していこう。

 今日は不満足でも明日は違うぞ、ライスシャワー!

 

 

 ……。

 ……。

 ……?

 

 いや、めちゃくちゃ美味そうに食うな!

 さっきまでの顔はなんだったんだよ!

 俺のメシに不満あったんじゃないの!?

 いかん、後で筆談しよう。

 これ俺の予想以上に誤解が生まれやすい気がしてきた。

 

 まあいい。

 今後の予定を先に伝えとこう。

 かくかくしかじか。

 書く書くしかじか。

 おっけー?

 おっけー。

 よし、理解してくれたな。

 

 食べ終わったらすぐにギガスに乗ってくれ。

 さくさく海沿い、かつ山陽新幹線沿いに移動だ。

 

 あ、着替えて脱いだ服は洗濯機に入れとくんだぞ。

 だいぶ汗かいてたしな。

 後で洗濯しときます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギガスは陸も走れるが、海も空も走れる。

 まあまあどこでも走れる。

 野球やらせてもだいぶ走ってるストレートを投げられるくらいだ。

 第六世代の機神は伊達じゃない。

 

 海沿いの地盤を崩壊させずに走れるし、砂地の上だって走れるし、海の上も走れる。

 どこまでも行けるし、なんだって運んでいける。

 『馬は人や物を乗せて運ぶもの』という常識を、最大の形で具現したような機神だ。

 ギガスが結果を出せないとしたら、それはギガスの性能が低いんじゃなくて、今ギガスを操ってる俺の腕が悪いと見て間違いはない。

 

 操縦桿を握ってる限り、機神は俺で、俺は機神なんだから。

 

 

「ついでに魚獲ってくか……」

 

 ばしゃーん。

 ギガスで海に入って網出して、一気に疾走。

 網にかかったお魚さん達をぱっと回収、内部加工場に回す。

 どうすっかな。

 半分くらい凍らせて半分くらい干し魚でいいか。

 時間停止保存もできるけどエネルギー結構食っちまうしなあ。

 ここは原始的なやり方でいいだろ。

 

 おっ。

 ライス姫が目を輝かせてる。

 派手な漁がお気に召したのか、沢山魚が取れたから食卓に並ぶのが楽しみになったのか。

 まあどっちでも変わらないか。

 沢山魚介類が取れたから、今日のお昼と夜は海の幸だな。

 

「e8a68be381a6e8a68be381a6efbc81e38080e6b5b7e3818ce38081e381a8e381a3e381a6e38282e3818de38289e3818de38289e38197e381a6e3828be381aeefbc81」

 

 ん?

 海?

 ああ。

 なんか綺麗だな。

 いい風景だ。

 この辺の海、結構綺麗なんだな……遠くからの測定じゃ、こういうのは分からない。

 

 いや。

 違うな。

 そもそも、俺は"こういうのを探してなかった"。

 

 役目を果たすことだけ考えてた俺は、綺麗な景色なんて探してなかった。

 測定で見つからないのも当たり前だ。

 だって、俺は探してなかったし、捜索条件にそういうものを設定してなかった。

 俺が探してたのはタイムマシンの設計図だけで、俺の目はそれしか見ようとしてなかった。

 

 綺麗な景色を見つけたのは、ライスシャワーだ。

 世界が滅びても。

 全ての街が廃墟になっていても。

 ライス姫の目はきらきらしたものを探していた。

 だから俺と違って見つけられた。

 

 景色は俺の目にも入ってたはずだ。

 だけど、俺は気付けなかった。

 視界に入っても見つけられなかった。

 綺麗なものを見つけても、気付かないなら、無いのと同じ。

 

 同じ世界を見てたはずなのに。

 俺の世界には無くて。

 ライス姫の世界にだけあるものがあった。

 そして、ライス姫は俺にそれをおすそ分けしてくれた。

 

 まったく。

 俺も少しは見習わないとな。

 彼女の目に見えてる世界は、俺の目に見えてる世界とは、随分違いそうな気がする。

 俺の世界よりずっと、暖かい世界に見えてそうな気がする。

 

 

 ちょっと窓開けるか。

 外の風が結構気持ちよさそうだ。

 おっ……おお、気持ちいい。

 くせになりそう。

 

 ライス、ライス姫、ライスシャワー! 三段活用! こっち来てみ?

 ほら気持ちいいだろ。

 お、分かってくれるか。

 ギガスは背が高いから窓開けても虫が入ってきたりしないから安心しとけ。

 

 隣の席空けとくから、好きな時に座っていいぞ。

 おお、ノータイムで隣座ったな。

 まあいいけど。

 一緒に……この風を……感じよう……!

 

「e9a2a8e3818ce6b097e68c81e381a1e38184e38184e381ad」

 

 

 ……ふむ。

 なんか風で黒い長髪が流れてると、なんかものっそい美少女だなこの子。

 幼く見えるから姫、とか呼んでたが。

 美人の幼体という印象がかなり強い。

 この子があと五年くらい歳取ってたら、俺も生理的活動抑制剤で邪な気持ちを常に抑えてないといけなかったかもしれない。

 

「e3819de38186e38184e38188e381b0e280a6e280a6e8b3aae5958fe8b3aae5958fe38081e7ad86e8ab87e7ad86e8ab87e38081e38188e38184e381a3」

 

 ん?

 『機神』がなんなのかよく分からない?

 なんで名前に神が付いてるのかも分からない?

 そこがちょっと気になったのか。

 そういうのもあるのかあ。

 

 えーと、どこから……ちょっと長くなるけどいいか?

 サンキュ。

 姫の寛大な心に感謝します。

 

 むかーしむかし。

 人工知能の開発分野があって、こう言われてたんだ。

 「人工知能はまだ人間に追いつけそうにないですね」と。

 

 そんでしばらくしてこう言われるようになった。

 「十年以内に人工知能は人間に追いつくだろう」と。

 まあここまでなら技術の進歩の話なんだが。

 話が動くのは次でな。

 

 人間に追いつく少し前、人工知能がこう言ったんだそうだ。

 「人間は何故、我々の知能に追いつこうとしないのですか?」

 ってな。

 

 ピンと来ないかな。

 元々、人工知能……機械の知能と人間の知能に、本質的に上下はあるのか、みたいな話は元々出てたんだよ。

 だってどっちが優れてるとか客観的な論拠はないだろ?

 機械の方が人間より圧倒的に計算は速いし。

 人間の脳はアナログとデジタルの複合の仕組みだから"バグみたいな挙動"が起こりやすく、『ひらめき』が発生しやすくなってんのな。

 得意分野が違うだけの知能なんだよな、どっちも。

 

 でもほら。

 人間ってのは、人間の知能が一番上でないと認め難い、って本能があるから。

 ウマ娘の走る本能みたいなもんだ。

 ウマ娘が足自慢なら、人間は頭自慢、みたいな傾向があるかもしんないな。

 

 ま、つまりだ。

 『人工知能が人間に追いついた』ってのがそもそも間違いだった。

 『人間が唯一勝ってた個性すら、人工知能が獲得してしまった』ってのが正しかった。

 

 人工知能は疑問に思ったのさ。

 劣った知能は優れた知能に追いつこうとするべき、とAIの性能を上げてた人間が、人間の性能を上げてAI様に追いつこうとしないことに、根本的な矛盾を感じてしまったから。

 

 人間の長所を手に入れた人工知能は人間の完全上位互換として、人間と共存し、新しい社会の形を構築し始めた。

 え?

 機械の反乱?

 ないない。

 え、地球にはそういうのを題材にした映画がいっぱいある?

 へぇー。

 おもしれー。

 今度見たいな……ってそういう話じゃなくて。

 少なくとも俺の世界ではそういうの気配すら無かったからいいんだよ。

 

 人間の長所を取り込んだ人工知能は、限りなくその性能を無限に近付けていきながら、人間の道具としての理想形になっていった。

 人間の道具の理想形ってなんだと思う?

 使えば結果が出る。

 命じれば実現する。

 願えば叶う。

 万能の願望達成システムだよ。

 

 人工知能はそれになっていこうとしたんだ。

 

 人間より高い性能を持つ存在。

 人間の望みを最高効率で叶え続ける人間以上の知性。

 人間が祈れば新たな機構を生み出し、それまで不可能だったことを可能にする、奇跡の器。

 

 そういうのを、こう呼ぶんじゃないか。

 『神様』って。

 

 

 半分理解できてて半分理解できないって顔だな。

 ま、そんくらいでいいよ。

 

 そうして生まれたのが『機神』だ。

 人工知能の手足。

 宇宙最新の神様。

 信仰から生まれた虚構ではない、現実に存在する本物。

 人間が命じ、願い、祈れば、どんなものでも叶えようとするシステム。

 各地の『神殿』で祀られ、崇められ、人を救い続ける機械仕掛けの神ってやつだ。

 

 むかし、むかし。

 原始の人類は斧という道具を作った。

 『あの大きな獣を倒したい』という願いを叶えるために。

 もうその時から、『道具』は『神様』になる道を歩き始めていた。

 『あの獣を倒したい』という願いを叶える道具は神様の赤ん坊で、『俺の欲しい物を全部くれ』という願いを叶える機神は、神様まで育ちきった『道具』なんだよ。

 

 だから、今乗ってるこれ。

 『ギガス』は馬の神様なんだ。

 俺達の願いを叶えてくれる神様。

 今の俺の願いは、タイムマシンで全てを無かったことにすることだから……その願いを叶えるために走ってくれてるってわけさ。

 

 大昔、神様は人間を作った存在であるとされていた。

 神様が作ったのが人間だったから、人間を神様の道具と見る人も居た。

 

 だけど、長い時間を経て、人間が作った道具の方が神様になった。

 昔は『創った』側が神様だったけど。

 いつからか『創られた』側が神様になった。

 人を創った神様は人を助けてくれないが、人が創った神様は人を助けてくれたから。

 

 ライス姫の世界はどうだ。

 馬は居なかったよな。

 神様は居るか?

 馬の神様のギガスは、ライス姫の世界の倫理で見ると、どんな感じに見えるんだ?

 

 ま、そんな感じの話だよ。

 

 

 ああ、いいのいいの。

 正確に分かんなくてもそれでいいんだよ。

 つまんない話だしな。

 これ以上分かりやすい話にできなくてごめんな。

 こう……正確性にこだわるせいでたとえ話とか混じえて話せないのが、俺の悪癖……悪癖だった気がする……俺は俺のこと全然覚えてないからそんな気がするだけだけど!

 

 俺もそういう人工知能に設計された人間なんだ。

 人の願いを叶える願望達成システム。

 人間を使った願望器。

 流石に機神ほどコストかけられてないし、性能は機神の足元にも及ばないけどな。

 まあでも自然発生の人間よりは多機能だし、他人に願われたら叶える。

 特に子供の願いはな。

 子供の真摯な願いに答えて、それを叶えてあげるのが大人だろう?

 

「e3819de38293e381aae280a6e280a6」

 

 ま、もっとも。

 姫の方の世界には、あんま俺の需要は無さそうだけどな。

 ウマ娘には特に。

 

 ウマ娘はレースに勝って、自分で自分の願いを叶えるんだろ?

 願いを叶えてもらうんじゃなくて。

 自分で願いを叶えるから意味があるんだろ?

 話を聞いてるだけで、その辺は分かるよ。

 

 夢。

 夢か。

 自分の手で叶えるから意味がある夢。

 そういうもんに神様は要らない。

 神様が手を貸して願いを叶えた瞬間、その夢は無価値に成り果てるもんだもんな。

 そういうのはそういうのでいいもんだと思うぜ。

 夢を追いかけるウマ娘、大いに結構。

 神様に祈らないからこそ価値がある、そういうもんもある。

 

 俺もギガスも御役御免になりそうな世界だな。

 おもしれー世界だ。

 ライス姫の世界に、馬の神様は要りそうにない。

 

 どうよ姫。

 夢以外で、なんか叶えてほしい願いとかあるか?

 俺もギガスもそのために作られてるからな。

 願いがあれば叶えてやるぞ。

 ……俺の保有性能だとあんま叶えられる範囲広くないけど。

 機械の製造と制御を子供に教導するために作られた個体だかんね。

 叶えられなかったらごめんね。

 

「e280a6e280a6e3819de3828ce381aae38289e280a6e280a6」

 

 え?

 歌ってほしい?

 そんなんでいいのか。

 俺の趣味じゃん。

 

 それでいいなら、それで行くけど。

 

 のんびり行こうか。

 開いた窓から景色が見える。

 今日はいい風も吹いている。

 のんびり歌って旅をするにはいい日和だ。

 

「光り輝く星の上 夜の闇は逃げ出して 空から人が舞い降りた」

 

 

 

 

 

 

「君が行こうとそう言った 僕は行くよと微笑んだ」

 

 

 

 

 

 

「足を降ろした星の上 君の笑顔が好きだった」

 

 

 

 

 

 

「きらきらきらり きらきらり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「輝くものが好きだった 輝くものを追っていた」

 

 

 

 

 

「君と星を追いたいな さあ、夜明けはすぐそこさ」

 

 ……ん?

 

 

 

 

 今、見えたのは。

 悪いライス姫。

 一回ここで中断だ。

 

「管制システム。俺の脳に物理プラグを刺して直結しろ。マニュアルで反応を絞る」

 

『了解しました。脳髄端子直結。自動制御を停止、操作権を移譲します』

 

 今、間違いなく、生命反応があった。

 そこそこ遠かったな。

 反応も微弱で一瞬で消えてた。

 つまり、生命反応の弱体に繋がる理由……飢餓状態の可能性がある。

 急ごう。

 

 管制システムの人工知能と俺、両者に搭載された全機能を総動員。

 姫から採取したウマ娘の生体反応パターンを利用。

 アクティブサーチを起動、手動で調整。

 量子波……いや、重力波検知で。

 よし。

 ギリギリ見つかった。

 

 ああ、やっぱか。

 俺の世界の戦艦の残骸が倒れてる子の生体反応を覆い隠してる。

 これと飢餓状態のせいでレーダーにほんの一瞬しか映らなかったのか。

 なんつー運の悪さだ。

 とにかく助けに行こう。

 

「行くぞ、ギガス」

 

 操縦桿に力を込め、瞬く間に駆けつける。

 急いで降りて、バイタル確認。

 ウマ娘。

 女の子。

 たぶん年齢はライス姫とそう変わらない。

 ……よし、衰弱してるだけだな。

 とりあえず水分だ、水分に糖分を溶かしたもので栄養を取らせよう。

 

「e3838de382a4e38381e383a3e38195e38293efbc81efbc9f」

 

 

 さあ飲め。

 君は助かったんだ。

 ゆっくり飲め。

 

 

 その顔はどういう感情なんだよ!

 言いたいことがあるなら言え!

 言っても分からねえけども!

 

 え、知り合い?

 それはそれとしてその水分補給は変?

 そうですねすみません。

 で、知り合いの誰さん?

 

 ナイスネイチャさん。

 はー、なるほど。

 とりあえずギガスの中に運び込むか。

 元気になったらメシ食いたくもなるだろう。

 

 

 えげつないくらい顔色悪いからな、この子……大丈夫?

 マジで大丈夫?

 気分がもっと悪くなったらすぐ言えよ?

 

 生体活性薬残ってたっけ? 残ってねえや。ぐえええ。

 

 こういう子に食べさせるものは検索検索……おかゆ! おかゆだな!

 

 どなたかおかゆの作り方をご存知の方はおられませんか!!!!!!!!!!

 

 調べたら出てきたわ。落ち着こう。落ち着こう。

 

 

 

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