いつも月夜に米の飯、米の飯より思し召し   作:ルシエド

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「優しい小さな彼女に祝福あれと、機械の神様も、そう思ってる」

 旅にアクシデントはつきものだ。

 だから、俺はアクシデント込みで大まかな計画表を作った。

 途中に何があってもいいように。

 

 だが、港湾のガス貯蔵施設近くで大火事を見ることになろうとは。

 想定はしてたが、実際に目にするとびっくりするな。

 不幸……いや、幸運か。

 大爆発する前に見つけられたのは奇跡だ。

 

 

 今の内に大量に水ぶっかけて消火しとこう。

 大惨事になる前に。

 人は……検知なし。

 いないな。

 ざっぱーん。

 

 

 ギガスの機能を応用し、海から水分を抽出して、純水にしてぶっかける。

 加勢が弱まっていくのがはっきりと見えるな。

 これ以上のアクシデントはなさそうだ。

 

 水。

 大抵の並行世界でも基本的な、知的生命体の利用物質。

 これがある宇宙では、知的生命体は大体これを利用してるって論文あったな。

 

 三態特性。

 臨界水特性。

 過冷却水特性。

 アモルファスに溶媒に疎水効果に、その他諸々。

 

 だけど特に、使い回しやすい冷却水としての性能が高い。

 熱いものに水をぶっかけると、水は気体に形を変えて熱をたくさん持っていき、その後勝手に冷えてまた落ちてくる。

 循環する水は、火災の天敵だ。

 大体の自然火災は、雨に殺されるもんだしな。

 

 水が豊富にある世界なら、たぶん熱いものを冷やすのに一番使われてるのは水だ。

 冷却するだけならもっと適したものはいくらでもあるけど。

 たぶん、一番使われるのは水だと思われる。

 だから水がない星とか色々大変なんだし。

 

 

 そういえば。

 データベースによると俺の世界でも西暦2000年代までは、馬を使った災害救助とかがあったらしい……が。

 馬の代わりにウマ娘が居る世界だと、ウマ娘が災害救助とかしてたりするんだろうか。

 文明の技術が発展しきる前の時代にウマ娘が居ると、災害の中で救われる人もめちゃくちゃ多かったりすんのかな。

 うん。

 ウマ娘が存在してるIFの世界について思いを馳せるのは、ちょっと楽しい。

 

 お。

 ネイチャ様、おはよう。

 

 

 朝練終わった?

 ライス姫はまだやってる?

 そっか。

 おつかれさん。

 まートレーニングはやればやるだけいいとかそういうもんではないしな。

 

 ライス姫が上がったら朝メシにしようぜ。

 

「e381aae38293e3818be280a6e280a6e383a9e382a4e382b9e3818ce587bae4bc9ae381a3e381a6e99693e38282e381aae38184e38182e38293e3819fe381abe5a699e381abe68790e38184e381a6e3828be79086e794b1e38081e8a880e89189e381aee7af80e38085e381abe8a68be38188e3828be6b097e3818ce38199e3828be3828f」

 

 どした、なんかあったか。

 

 ん?

 今やってる作業の忙しさ?

 こんくらいならギガスの人工知能に全部任せてもいいくらいだ。

 ギガスの補助がない俺とギガスの知能比べたら、たぶんギガスの方が頭良いからな。

 普段は俺とギガスを直結した方がちょっとだけ判断能力が高まるってだけで。

 合議制大事ね。

 

 

 だからまあ、操縦桿離しててもいいくらいだ。

 

 なんか用?

 え、筆談で雑談?

 お互いのことを知ろうってやつか。

 ……あー。

 そっか。

 筆談は手を使うから俺が操縦してる時は邪魔になるかもって思ったんだな。

 なるほどなるほど、気遣いギャル。

 おしゃれするようになってギャルレベルがガン上がりのギャル先生。

 

 ま、話したいなら相手するさ。

 何から話す?

 好きなもんの話か?

 嫌いなもんの話か?

 大抵の会話には対応できるぞ、頭にデータセットが入ってるからな。

 だが俺の方から面白い話はあんま振れないぞ、そういう経験がないからな。

 

 何の話する?

 

 え? 恋バナ? 恋愛経験とかまったくないです。次の話題を頼む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お……おおおお! 凄いな! 尾も白いから面白いなのか! はーなるほど……」

 

「e38193e38293e381aae381aee381a7e381aae38293e3818be38281e381a3e381a1e38283e5969ce38293e381a7e3828be280a6e280a6e38186e383bce38293e38081e383a9e382a4e382b9e3818ce8a880e381a3e381a6e3819fe9809ae3828ae38081e69cace5bd93e381abe4b99de6adb3e58590e381aae381aee3818be381aae38182e38082e69cace69da5e4bdbfe3828fe381aae38184e68385e7b792e3818ce882b2e381a3e381a6e381aae38184e381aee3818be38282」

 

 

 と、トーク強者……!

 

 間違いねえ。

 こいつ、ただ話してるだけで飽きさせないタイプのギャル!

 絶対に友達が多い!

 筆談レベルも俺や姫より格段に高い!

 トークが幅広く不快感がなくて面白い上に字が丸っこくて嫌味がない!

 きょ、強者……!

 話に聞くウマ娘のチームとか、もし俺が組む時が来たらお前以外リーダーにしないわ。

 

 筆談デバフかかってそう。

 普通に口で話してた方が強そうだな。

 こんだけ筆談のトーク回しが滑らかなら、口で話せる状態の方が絶対強い。

 

 

 何?

 昨日いつ寝たか?

 寝てないぞ。

 あんま寝てる場合じゃないなって分かったからな。

 夜通しギガスのセンサー動かして俺もずっとそれ見てたぞ。

 

 ネイチャ様がああいう感じに行き倒れてたわけじゃん。

 しかもそれを見つけたのはギガスと接続してた俺の方の情報処理だったわけで。

 俺が常に情報処理に接続してないと、ネイチャ様みたいな人を見落としかねない。

 絶滅種のギャルが本当に絶滅してしまうかもしれん。

 ライス姫みたいな人が放っておかれてしまうかもしれん。

 そしたらほら。

 あんま寝てる場合じゃなくね?

 

 問題はない。

 まだ汎用タンパク質の貯蓄はあるしな。

 そんな無限に無駄遣いできるほどの量は無いけど。

 

 疲労した脳から全情報を抜き取って。

 新しく作った脳に抜き取った情報を全部入れる。

 これで寝不足での判断ミスなんか起こらねえってわけよ。

 物理的に脳が新品になってるわけだからな。

 俺はそんなにこまめに脳を交換する方じゃないが、この脳がすっきりする感覚は、病みつきになる人が出るのも納得だよな。

 

 これで、今手元にあるのが午の機神(ギガス)じゃなくて酉の機神(アルビオン)だったらもっとこう……無駄なく色々活用出来たと思うんだよ。

 回収した古い脳を分解再構築で新品の汎用タンパク質に出来たから。

 こっちの世界で言うとこの?

 自然に優しいリサイクル?

 が出来たわけ。

 タンパク質の損失無く、脳の素をローテーションして常に新品の脳を維持できるから、疲労だの睡眠だのって枷が全部なくなってたわけよ。

 

 やっぱこう、な。

 慣れた機神が一番便利に感じるんだよなあ。

 人間の悲しいサガよ。

 

 

 その顔はなんだ。

 何が言いたい。

 何がまずい?

 言ってみろ。

 

 ん?

 食事と睡眠と息抜きはしっかりやれ?

 『そういうのよくない』?

 ほうほう。

 あ、俺の生活が不健康に見えたから微妙な顔してたのか。

 気にしいな子だな。

 『健康的な生活をまず送りなさい』?。

 なるほどなるほど。

 え、なにこれ。

 『このくらい寝なさい』? 『このくらいは食べなさい』? 『無理禁止』?

 

 ……お前俺の姉か母親かなんかなの!?

 

 俺は人口受精卵式の製造法で生まれたから母親とか見たこともねーんだぞ!

 

 その内気が向いた時に寝ておくから大丈夫だってば。

 大丈夫大丈夫。

 いやだから大丈夫だって。

 大丈夫だって書いてるだろ?

 お前けっこうしつこ……だから大丈夫だって!

 服離して!

 そんな深刻な顔になることじゃないって!

 

 

 分かった、分かったから!

 夜中はギガス停めて俺も寝ます!

 それでいいだろ!

 もう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二目的地、到着。

 兵庫県宝塚市、阪神レース場……寅の神殿だ。

 これで二つ目、か。

 

 元々は他の星から山ほど持ち込まれた植物が共生していた、共存の楽園みたいな閉鎖環境だったはずが、今はもう見る陰もない。

 植物は皆土、水、大気、石、金属と融合してぐちゃぐちゃだ。

 まるで地の上に虹を敷いたような、素敵な色合いの神殿だったのになあ。

 

 ふむ。

 案の定神殿もレース場も原型を保ってない。

 俺、姫、様の三人で手分けして細かく設計図の在り処を探っていくしかなさそうだ。

 

 阪神レース場、か。

 いまいちよく分かってなかったが、大阪市と神戸市を挟んだ地域を『阪神間』と呼ぶんだな。

 だから兵庫とかの地名として『阪神』が使われると。

 なるほどなるほど。

 

 しかしなんで(とら)だったんだろうか。

 そういえばあんま深く考えてなかったが。

 地元民が虎の名前を望んだ理由があるはずなんだよな。

 神殿の祭神は地元民の要望で決定してたはずだから。

 

 十の神殿の名前の由来は、元をたどれば十二支。

 大昔の神話的動物概念に由来を持っている。

 子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の十二匹から、小さい動物だからと当時機神のモチーフになっていなかった子(ネズミ)と、卯(ウサギ)が除外された十匹をモデルにした機神を、それぞれの神殿が信仰していたはず。

 

 何故兵庫だと、阪神だと、虎だったんだろうか。

 謎だ。

 神殿建設当時、俺がその場に居たら知る機会もあったんだろうか。

 

 

 うーむ。

 謎だ。

 ウマ娘に聞いても知ってるわけないしな。

 何故兵庫が阪神で虎だったんだろう。

 今度調べとくか。

 

 ともかく。

 ここまで来れば。

 サクッと二箇所の神殿を回れる。

 

 寅の神殿は兵庫県宝塚市、辰の神殿は京都府京都市伏見区にあるからだ。

 

 ギガスの上にでも立ってみれば、多分二つの神殿と二つのレース場は同時に見える。

 

 

 ☆=現在地。阪神レース場、寅の神殿

 ★=京都レース場、辰の神殿

 

 

 

 これは古い言葉の『竜虎相搏つ』にかけたものだったはずだ。

 寅が虎、辰が竜。

 二つの神殿は隣り合う県に、向き合うように設置された。

 まるで、互いを喰らい合う虎と竜のように。

 

 

 

 だから二つの神殿の位置はかなり近い。

 ウマ娘の脚力なら、たぶん走っても一時間かかるか、かからないかくらいで移動できるんじゃないだろうか。

 ギガスの移動速度なら、エネルギーを消費しない巡航状態ですらもっと速いだろう。

 

 いつからだろうか。

 人類……俺の世界の人類は、"対立関係"というものを研究し始めた。

 高め合う二つ。

 競い合う二つ。

 シンプルに言えば『ライバル』か。

 ライバル同士が高め合う効果を科学的に、学術的に、証明するのが学会の流行りになった。

 

 いくつかは精神論の領域を抜けて、存在論や魂証明論の足がかりとなり、他分野にも引用されるくらいになってたと記憶している。

 

 竜と虎は宿命のライバルだから……あ、そうだ。

 ウマ娘はどうなんだろうか。

 ウマ娘のライバル関係とかはあるんだろうか。

 その関係が高め合ったりとかはするんだろうか。

 

 まあ、あるだろうな。

 彼女らも精神的にはほぼ人間だし。

 無い方が変だ。

 競い合うライバル、仲間、戦友、相棒……そういうのが高め合うウマ娘の関係とかも山ほど存在していたはずだ。

 それこそ、竜と虎のように。

 

 でも……そうだ。

 ライス姫達は、確かデビュー前とかだったんだったか。

 じゃあ、ライバルとかはほとんど居ないよなあ。

 デビュー前からの知り合い、なら居るとしても。

 デビュー後にバチバチにやり合ったライバルとかは、生まれようがない。

 

 ちょっと、そこは惜しく感じる。

 もしも。

 もうちょっとだけ、世界の融合が後だったら。

 ライス姫達がデビューした後に、世界が融合してたりとかしてたんだろうか。

 ライス姫達にも、ライバルが出来てたりしてたんだろうか。

 そうして、ライバルと競い合いながら、夢の頂きを目指してたりしてたんだろうか。

 

 いや。

 過去形で言うことでもねえな。

 全部無かったことにすれば、ライス姫達の世界も、何事も無かったことになる。

 ライス姫達はちゃんとデビューできる。

 デビューして、いろんなライバルと競い合って高め合える。

 そして、夢だって叶えられる。

 

 ライス姫がネイチャ様とライバルになって一緒に走ってたりとかもするかもしれない。

 

 それは、今は、俺の想像でしかないが。

 本当はもう、失われた未来なのかもしれないが。

 俺はそれをひっくり返す方法を知ってる。

 自分のことは何も覚えてなくても、それだけは覚えてる。

 

 未来を取り戻す。

 俺のではなく。

 彼女らの未来を。

 この旅は、そのための旅でもあるはずなんだ。

 

 よっし。

 気合い入ってきたな。

 俺は。

 責任を取る。

 俺の世界の人間の罪を償う。

 同郷の人間として、ウマ娘が在る世界に対して、贖罪をする。

 

 そうして初めて、ライス姫達が夢を叶えられる世界が戻ってくる。

 まあ。

 そうなった世界を、俺が見ることはないんだろうけども。

 

 ま、それでいいさ。

 とりあえず今は、そこを目指していこう。

 ライス姫呼んで三人で朝メシ食って、そっからだ。

 

 あれ?

 

 

 

 

 なんだ?

 この手当たり次第並べられた掃除用具は。

 こんなん俺出したっけ。

 いや出してねーな。

 そもそもこの手の道具は一応回収してギガスの中に置いといただけで、俺使わんし。

 はて。

 お、ライス姫。

 

 

 何やってんだ?

 え、掃除?

 

 『いつもギガスさんにお世話になってるから』って……君な……いや、ライス姫らしいか。

 

 

 ギガスにさん付け。

 機神に心から感謝。

 そんで、お礼するために掃除か。

 ギガスの中をぴかぴかにしてあげようと思ったわけだ。

 冷たい水に手を浸して、せっせせっせと雑巾絞って、広いギガスの中を拭いて回って。

 ……いや、ほんと。

 お前みたいなやつは、俺の世界には、全然いなそうだ。

 

 ああ。

 なんだろうな。

 "俺はこれのためならいくらでも頑張れる"みたいな……そういう気持ちが湧いてくる。

 なあ。

 もし、世界を直せたら。

 直った後の世界で、君の夢が一つ残らず叶うといいな。

 なんか、そう思った。

 

「e383a9e382a4e382b9e38081e4bd95e38282e381a7e3818de381aae38184e3818be38289e280a6e280a6e381a7e38282e38081e3808ee38182e3828ae3818ce381a8e38186e3808fe381afe38081e381a1e38283e38293e381a8e4bc9de38188e3819fe3818be381a3e3819fe3818be38289e280a6e280a6」

 

 ……うん、そうだ。

 

 ちょい、ちょい、こっち来て。こっちの部屋な。

 

 はいこれ、俺が今日作ったケーキ。

 

 試作品だけど、貰ってくれ。

 

 俺からじゃなく、ギガスからの贈り物、ってことで。

 

 

 おいおい、そんな遠慮すんなよ。

 

 ギガスはお礼が言えないんだ。

 道具の行き着く先として存在する神様だから。

 道具は人間にお礼を言えないし、神様は人間にお礼を言ってはいけないから。

 『大事に使ってくれてありがとう』と言う道具はないし、『崇めてくれてありがとう』と言う神様はいないだろう?

 それは、そういうルールなんだよ。

 

 だけど。

 たぶん、だけどな。

 ギガスに礼を言う機構が持たされていたら、きっと君にお礼を言ってると思うから。

 

「そんな君だから、俺は少しでも君を満たす助けになれる自分を、誇りに思える」

 

 

 もらっといてくれ。

 そんで、美味しく食べてくれ。

 できたら、今後ともギガスと仲良くしてやってくれ。

 神様だけど、機神は誰かの祈りを叶えるために存在してて、俺が生まれるよりずっと前に、誰かの夢のために生み出された機械の神様だから。

 

 いつかきっと。君を、夢が叶うところまで、連れて行ってくれる。

 

 俺は、そう思ってる。

 

 

 

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