いつも月夜に米の飯、米の飯より思し召し   作:ルシエド

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「死人に口なしだなんて、誰が最初に言ったんでしょうね」

 俺がここまで出会ったウマ娘は四人。

 ライスシャワー。

 ナイスネイチャ。

 マンハッタンカフェ。

 アグネスタキオン。

 全員日本人離れしてるとこもあるが、基本的な人種は日本人っぽい。

 ううむ。

 もうライス姫高貴な生まれの偽名使い説は捨てていいな。

 いやもう実はとっくに捨ててんだけども。

 

 あの嫌味の無さで上流階級は無い。

 

 

 不器用ながらに手当てがなされていたおかげで、傷も悪化してない。

 助かった。

 異世界の病原菌のリスクはこの身体状態だと対処もできないからな。

 

 俺の体は生体素子の復帰まではパパっと応急処置もできそうにもない。

 この包帯とかは、やっぱりカフェちゃんが巻いたりしてくれたようだ。

 状況把握終了。

 ありがとうカフェちゃん。

 その優しさがありがたいです。

 

 天然ものは相対的に価値が高まる。

 それは人類文明の普遍の真理だ。

 水も、宝石も、風景も、食用生物も、他諸々も天然であるほど価値が高まっていく。

 君らの優しさは天然ものだから、価値が高いと、そう言える。

 

 俺が他人に優しくすることは、データセットを脳に入力して生まれた人工の必然だから、まったく価値が無いんだが、君らは違う。

 君らの優しさは天然だから価値がある。

 優しさも工場で作られる大量生産品と、自然に生まれる天然物は別ってわけだな。

 

 俺が誰かに優しくしても本質的な話すると、

 「いやお前のは工場で埋め込まれた倫理の通りにやってるだけだろ」

 「お前と同じデータ入ってるやつ全員同じ行動してたぞ」

 「ロボットと変わらんわ」

 って言われて終わりになるのが普通じゃん?

 

 でも君らのは「優しくていい子だねえ」ってなるわけじゃん。

 この差は大きいわけよ。

 

 博物館には天然の優しさとか飾れないのが難点なんだけどな、はっはっは。

 多くの人が美しいと思っても飾れないのはもったいないわ。

 

「e6b097e5ae89e3818fe280a6e280a6e8a492e38281e3828be696b9e381aae38293e381a7e38199e381ad」

 

 

 ……。

 ……。

 ……。

 ヤバい。

 感情が読めん。

 筆談してこない。

 ただじっと見てくる。

 俺はこの圧に耐えられるのか?

 既にケツを乗せた風船に近い状態なんだが。

 

 

 あ、なんかちょっと顔が動いた。

 だから何?

 って感じだが。

 俺はここから何を読み取ればいいんだろう。

 というか俺が書いた筆談をするっと無視しないで。

 手も足も出なくなってしまうぞ。

 ってかなんだこの表情は間違い探しか何かか?

 

 上等だ、筆談もサボりがちなお前の気持ちを僅かな表情の動きから的確に察し、お前に何一つ不満を抱かせない完璧なおもてなしをしてやる……!

 この手当ての恩は必ず返す。

 覚悟しておけ!

 とりあえずなんかジュースでも買ってきましょうか?

 あ、重ね重ね、怪我の手当てありがとうございます。

 

 しかし、こいつ顔がいいな。

 びっくりするほど美人だ。

 女優業とかしてそう。

 まっくろけっけな細身の美人だ。

 

 あ、コーヒー。

 まっくろけっけだ。

 くれんのか。

 ありがとう。

 

 

 でもせめて筆談でなんか言ってくれないか。

 無言だとこう……「分からない?」みたいな圧かけられてる気がする。

 俺もしかして試されてる?

 そういうのじゃない?

 そっか。

 ようやく筆談してくれたなこいつ。

 いただきます。

 

 

 ……!

 なんか色々乗ってる……!

 !

 甘い!

 なめらか!

 コーヒーが飲みやすい!

 カップの横に乗ってるのはお菓子!

 ほんのりとした甘さ!

 クリームを足して甘くなってるのに、香りのバランスまで良くなってる気がする!

 

 まさか、こいつ。

 さっき俺が吹雪で冷えた身体をコーヒーで暖めてた、あの時。

 俺の表情や反応から、コーヒーの味を俺に合わせて調節したのか?

 そういえば、相手をじっと見る癖あるなこいつ。

 あの時に?

 甘く、滑らかにして、香りも柔らかに調節したのか?

 人間カフェかよ。

 

 怪物(モンスター)……!

 

 ありがとうマンハッタンカフェ!

 めちゃ美味しい!

 ん?

 いや待てよ。

 

 

 俺もしかして表情読まれてる?

 俺の方が表情読めるようにならないといけない、って思ってたのに。

 俺はまだカフェちゃんの表情読めてないのに逆に読まれてる?

 いや、俺の反応からコーヒーの味調節してたんだから、もう確実に読まれてるよな。

 なんでやねん。

 

 猫の言葉を理解しようとしてる人間の前で、人間の言葉を平然と覚える猫みたいな。

 なんかそんなのを見たような気持ち。

 いかん。

 焦る。

 俺の悪癖が出て来た。

 余裕、余裕を持っていけ。

 他人に先を越されても焦らないようにしよう。

 

 ふぅー。

 俺はカフェちゃんに何歩か遅れて、相手の表情を読めるようになる男だ。

 そうなろう。

 もうだいぶ後に引けなくなってきた。

 相手にだけ"理解するための苦労"を押し付けて自分だけ知らんぷりとか、できるわけがない。

 

 対等、対等を目指そう。

 

「e38182e381aae3819fe381afe280a6e280a6e381a8e381a6e38282e280a6e280a6e5ac89e38197e3819de38186e381abe280a6e280a6e7be8ee591b3e38197e3819de38186e38081e381a7e381afe381aae3818fe280a6e280a6e382b3e383bce38392e383bce38292e9a3b2e381bfe381bee38199e381ade38082e382b3e383bce38392e383bce3818ce5a5bde3818de381aae591b3e3818be3819de38186e381a7e381aae38184e3818be381abe3818be3818be3828fe38289e3819ae280a6e280a6e4bb96e4babae3818ce59684e6848fe381a7e3818fe3828ce3819fe38282e381aee38292e9a3b2e38280e381aee3818ce38081e5a5bde3818de381a0e3818be38289e381a7e38199e3818befbc9f」

 

 

 あっ……お、おかわりありがとうございます。

 大事に飲みます。

 

 ダメだ!

 気遣いと察しの良さにおいて完膚なきまでに敗北してる!

 

 もしかしてこいつ、仏頂面なだけで口で会話できればコミュ強魔人なのか?

 そんな気がしてきた。

 たぶんそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとなく観察してるだけだと、たぶん気付かない程度の違和感。

 それを辿ると、カフェちゃんに対する違和感が浮き彫りになってくる。

 

 その理解が正しいのかは分からん、が。

 この子は俺のことをじっと見ている、ように見えてるが。

 その実、俺の後ろあたりをずっと見てる。

 視線分析したから間違いない。

 

 

 え、いや、何?

 俺の後ろになんかいんの?

 なんもいないよな?

 お前何見てんの?

 なんかスタンドでも傍に立ってた?

 

 

 目線のキレがすごいから恐怖しかねえ。

 お。

 筆談だ。

 ようやく筆談を覚えてくれたか、よしよし、お兄さん嬉しいぞ。

 

 ……目に映らないものを信じられるか?

 そりゃ、目には見えないものの方が、世の中にはいっぱいあるだろうけど。

 それがどうかしたのか?

 

 ふむふむ。

 はんはん。

 なるほど。

 カフェちゃんは幽霊が見える、と。

 へぇー。

 霊に呼ばれて俺を見つけて、霊に頼まれて手当てしたと。

 ほほぅー。

 そっちの世界だと幽霊見えんの一般的なの?

 そうでもない?

 そうなのか。

 

 じゃあ、あれか。

 特別な異能者扱いとかされてるのか。

 かっこいいな。

 え?

 精神病扱いされたりすんの?

 幽霊なんかいるわけないからって?

 虚空に向かって一人で喋ってる奇人変人として扱われてる?

 おかしいウマ娘の思い込み認定されてるからトレーナーが誰もついてくれなかった?

 

 かわいそう。

 ごめんなうっかり触れて。

 デリカシーなさすぎたわ。

 

 しかしなあ。

 そうか……そういう時代かあ。

 俺の世界じゃもうとっくに、そういうの無くなってたから、意識から抜けてたわ。

 霊能力者差別とかまだ残ってる時代なのか。

 

 あれ。

 あれ?

 いや待てよ。

 霊が見える君が俺の後ろじっと見てるのって、結構ヤバくね?

 俺の後ろどうなってんの?

 

 

 あ、はい。

 答え合わせありがとうございます。

 以後この正解を活かして生きていこうと思います。

 じゃ、ねえんだよ。

 コミュニケーションを横着して親指だけ動かして済ませるな。

 

 

 筆談の途中で押し黙って俺の後ろを凝視するな!

 俺の後ろを見て眼球を左右に動かすな!

 目に見えないものを目で追うな!

 

 新手の脅迫か!?

 

 

 え、なに?

 はぁ。

 俺の後ろに霊? が? いっぱいいる?

 俺が見守られてる?

 死者を大切にしてる人は見守られやすい?

 ははっ、ナイスジョーク。

 

 ジョークだと言ってくれ。

 頼む。

 

「ええ……身に覚えがなさすぎる……」

 

 死人を特別大事にした覚えとかないぞ。

 せいぜい人並みだ。

 まったく心当たりがない。

 そりゃ流石に死者を冒涜はしてないが。

 常識レベルくらいにしか扱った覚えがねえ。

 

 何?

 ヤンデレの悪霊にでも祟られてんの俺?

 こわい。

 たすけてくれ。

 

「"よくも俺達の世界を壊したな"って祟られるような覚えなら死ぬほどあるんだが……」

 

 

「e381aae3828be381bbe381a9e280a6e280a6e6adbbe38293e381a7e38282e381aae3818ae5bf83e9858de38197e381a6e3828be79a86e38195e38293e381aee9a194e3818ce8a68be38188e381aae38184e381a8e280a6e280a6e38193e38186e38184e38186e4babae99693e381abe381aae381a3e381a6e38197e381bee38186e381aee381a7e38199e381ade280a6e280a6」

 

 な、なんだその顔。

 その顔で俺の後ろ見るのやめてくんない?

 いや。

 だって。

 

 ヒロインがめちゃくちゃびっくりしてる前で「またまた~(笑) 驚かせようとしたってそうはいかないぞ(笑)」みたいなセリフ吐いて後ろ振り向かない男、そのまま死ぬやつじゃん。

 太古の昔に流行ったホラー映画のやつじゃん。

 

 俺の後ろになんか居る?

 俺このまま振り向いたら死なない?

 大丈夫?

 あ、大丈夫なんだ。

 

 振り向くぞ、振り向くからな?

 オラッ!

 ……なんも居ないな、ビビらせおって。

 いや何も居ないのはそれはそれで怖いって。

 

 なんで怯えてるのか分からないわね~みたいな顔やめろ。

 その余裕が強者の証なんだよ。

 

 

 へ?

 俺の周りには、特に悪霊とかはいない?

 いいやつしか俺の後ろにはいないのか、そうなのか。

 それはまあ安心したが。

 

 霊視とかよっぽどの高級個体以外、製造時点で積まれないからな。

 当然俺にも積まれてない。

 積まれてるやつは当然のように積まれてるけどさ。

 

 ええと。

 たとえ話、難しっ。

 事実の列挙しか得意じゃないんだ俺。

 二つの世界の違いが障害にならないたとえ話は……ええっと?

 ウマ娘さんらの世界にあるものでたとえるとどうなんだ?

 

 そう。

 あれだ。

 赤と青の、子供向けの本を読んでる時に飛び出る眼鏡。

 あれあれ。

 あれの霊版。

 

 そういうのが俺の世界にはあるから。

 霊と呼ばれてるものとか?

 波動生命体とか?

 やる気イーターとか?

 ああいう、光を遮断も透過もしない、光を素通りさせる身体組成を持つ高度な知性体……こういう言い方は分かりにくいか。

 

 つまり、『目には見えなくてものを考えられるもの全般』を見えるようにする眼鏡とか、眼球とか、カメラとか、そういうものが作られるようになったのが俺の方の世界。

 

 俺の方の世界だと、金さえあれば霊は見えるんだ。

 金さえあればな。

 こっちの世界で言うPS5?

 みたいな?

 高性能だけど高いし全然作られてないよ、みたいな?

 

 そういうやつなのな。

 

 

 ああ。

 こっちにはまだ無いのか。

 そういう道具。

 そりゃ差別も残ってるだろうなぁ。

 

 ふむふむ。

 へぇー。

 

 えっ。

 そんな酷い扱い受けてんのカフェちゃん?

 マジで。

 おいおい。

 赤の他人なのに俺もちょっと腹立ったぞ。

 クソじゃねえか。

 幽霊見えるお前をめちゃくちゃネタにして笑いもんにすんのは最悪だろ。

 俺がその場に居たらパンチだよパンチ。

 

 ……いや。

 だめだめ。

 なんだ、なに赤の他人を勝手に想像で悪人にして心の中で罵倒してんの。

 よくねえよくねえ。

 よく知らんやつを伝聞で悪人のすんのはよくねえ。

 おちつけ、おちつけ。

 

 

 で。

 他にはどんなことがあったりしたんだ?

 

 あーはいはい。

 あるよなそういうの。

 幽霊なんているわけない、とか。

 黒人は劣等種だ、とか。

 時間遡行や並行世界移動は創作の夢物語だ、とか。

 オタクに優しいギャルは実在しない、とか。

 幽霊が見えるとか言ってるやつは詐欺師だ、とか。

 

 アホみたいな話だ。

 まあ詐欺師避けには間違ってねえとは思うけどな。

 マジで霊が見えるやつは一部で、後は詐欺師だろうし。

 ただ……マジで見えるやつをいじめんのは、違えだろう。

 

 文明の未熟は、時折真実からほど遠い適当な解釈を、真実のように広める。

 苦労したんだなあ、君。

 この段階の文明だと理解者も居なくて大変だったろ。

 人間は割と、おかしいやつはいくらバカにしてもいいと思うもんだしな。

 子供は特に。

 同年代のガキンチョの言い分とか最悪だったろ。

 はぁー、聞いてるだけで辛い。

 

 ほれ。

 これあっちのコンビニの残骸から掘り出してきたお菓子。

 よく頑張ったなよしよし。

 辛い人生を頑張って生きてきたやつは、それだけで偉いんだぞ。

 えらい、えらい。

 偉いやつは報われるべきなんだってさ。

 

 

 お前。

 いや、君。

 ポッキー食うの存外に行儀悪いな。

 コーヒー置け。

 いや置けって。

 存外に俺の話聞かないなお前!

 スタイルを変えない地蔵か何かか!?

 そりゃこんだけ頑固なやつなら周囲がいくらバカにしてもスタンス変えられるわけねえや。

 

 もうそのまんまでいいよ。

 そのままの君でいて。

 俺の方が慣れりゃええわ。

 

 

 ……。

 ……。

 ……。

 ポッキーとコーヒーを口に運びながら筆談書いとる。

 

 ふ、振る舞いが下品に見えない。

 いや、顔がめっちゃいいのもあるが。

 たぶん育ちが悪くないんだなこの子。

 フランクなだけで。

 細かい動きに品があって、躾が見て取れる。

 育ちが悪いやつはもうちょっと所作が荒い。

 

 ううむ。

 ウマ娘ってあっちの世界ではどういう位置付けなんだ。

 ウマ娘の名家とかお嬢様とかいんのか。

 分からん。

 まあでも、変なお嬢様とかそうそう居るわけがないだろう。

 育ちと躾が徹底してるからこそのお嬢様だろうしな。

 カフェちゃんより変なやつがいるとかそういうことはあるまい。

 お嬢様にも限度ってやつはある。

 

 

 ん?

 なんで霊を信じられるのか、って?

 そりゃまあ、俺の世界では技術的に克服した段階だしな。

 金さえ出せば見えて当然で、"霊なんていない"とか言うやつの方が変人なんだ。

 俺の世界だったら君の方が常識的な人間として扱われてただろうよ。

 

 ……あー、いや。

 この返答はなんか違うか。

 求められてるのは、もうちょっと違うとこか。

 "人はどうやって霊の実在を受け入れられたのか"。

 "どういう心持ちであれば霊の存在を受け入れさせることができるのか"。

 たぶん、そういうとこだ。

 この子は実害受けた被害者だもんな。

 霊が居るのを皆が当然のように受け入れられる世界は、どういうもんなのか。

 知りたいと思って当然だよな。

 

 そうだな。

 うーん、と。

 10秒時間くれ、とりあえずなんか考える。

 

 

 そうだな。

 俺は君らの世界を全部把握できてるわけじゃあ、ないが。

 記憶喪失で記憶ガタガタの、異世界交流に相応しい人間でもないが。

 簡潔に言えることはある。

 

「宇宙人は居たぞ、マンハッタンカフェ」

 

 俺が筆談でそう言うと、ほんの僅かな眉の動きが、彼女の表情を形作る。

 

 はっはっは。ほんのちょっとだけ表情読めるようになってきたぞ。

 

「異世界人も居た。俺がそうだ」

 

 

 分かるかカフェちゃん。

 

 幽霊。

 異世界人。

 未来人。

 宇宙人。

 超能力者。

 昔は全部居ないってのが常識だったらしいぞ、俺の世界では。

 これは推測だが、そっちの世界もそういう感じだったんじゃないか?

 あー。

 やっぱそうか。

 

 しかしおもしれーよな。

 俺からすりゃウマ娘は居るのに幽霊の実在は疑ってるのなんで?

 って感じだが。

 居ると証明されてるウマ娘と証明されてない幽霊は違う、ってことなのか。

 おもしれー。

 異世界の常識研究とか一回はやってみたい。

 と、変な思考は脇に置いといて、と。

 

 こんな言葉はそっちにはないか?

 オカルトは信じるもの。

 科学は疑うもの。

 愛はオカルト、浮気は科学で見つけるもの―――って慣用句。

 

 

 知らない?

 そっか。

 まあ、いいさ。

 つまりこういうことだ。

 

 霊の存在が証明されてない時代に、霊の実在を信じるのはオカルト。

 そして霊の存在を証明するのはオカルトではなく、科学なのだ、って話さ。

 

 ゆえに。

 

 科学は、不可侵の価値を駆逐する。

 

 永遠は無く、どんな生き物も死ぬのと同じように、『幻想』にも寿命はあるんだ。

 

 

 星空は神々の世界だった。

 大昔は、な。

 だけど、人が空を飛ぶようになって、そうじゃなくなった。

 

 『神聖なる天上』は無くなった。

 『ただ上の方にある空間』になった。

 空の上、宇宙まで行けるようになると、もう誰も神の世界が其処にあるだなんて信じない。

 

 大昔は雲の上に楽園があるとか信じてた人間も居たらしい、が。

 どうだ?

 そっちの世界は、そういうのまだ信じてる人、いるか?

 

 幽霊は雲の上の楽園に行くんだ、とか。

 死んだ人は空のお星さまになるんだ、とか。

 ああいう神秘は、そっちの世界にはどんくらい残ってる?

 

 

 タキオン先生が竜を修理して操るの見てたろ?

 あれは機神。

 機械の神。

 ある程度文明が進んでいけば、神様と道具の意味は同じになっていく。

 崇められ畏れられていた神様は、やがて願いを叶えるシステムになっていった。

 

 俺の世界では、幽霊ってのは、特定のエネルギー集積体が人間の残滓として活動し、脳内の電気信号パターンを波動の一種として霊体に記録したもの……ってなってる。

 幽霊に対して科学の定義が存在する。

 やがて、神も科学の定義に落とし込まれていった。

 

 神は未知なる超常の存在という定義じゃなくなってった。

 常識のある人間だったら完璧に把握して、使えるようになってないといけない。

 そういうもんなのが、機神だ。

 

 

 そうすると、幽霊が見える、見えない、の話ってのが別のもんになってくる。

 

 何が本当に正しかったのか、って話じゃねえんだ。

 正しい方が勝つって話でもねえ。

 『何が常識に反してるか』なんだな。

 

 そっちの世界じゃ、霊が見えるって、見たまま言っただけで酷いこと言われたんだろ。

 霊の存在が証明されてないから。

 証明されてないから、居ない。

 居ないものを居ると言ってるのはおかしなやつ、って論法だ。

 

 じゃあ俺の世界だとどうだろう。

 幽霊が居ることは証明されてる。

 じゃあ、幽霊が居ないって言ってるのはおかしなやつ、になる。

 

 君からすりゃ笑えない話だろうけどさ。

 笑っちまうようなくだらない話だよな。

 世界から世界に渡っただけで、正しさが正反対にひっくり返んなら。

 『みんな』が信じてる正しさってのはどこにあんのかね?

 

 俺の世界じゃ機神は常識で、知らねえやつはおかしいやつ扱いされてもおかしくないが、そっちの世界は機神知らないのが当たり前で、知らない人が普通になるわけだろ?

 

 違う常識の異世界人があんま好き勝手言うのもアレだけどさ。

 

 そういう正しさを錦の御旗にして、他人を傷付けたやつってのは。

 どうしたら責任取れんのかね。

 常識を理由に他人を傷付ける人ってさ、予想の百倍くらい居るんだよなあ。

 どうなってんだろあれ。

 "常識的に考えたらそれはお前の心の病気なんだ"とか言う人とか、そのへんのあれとか、さ。

 

 

 ……どうしたカフェちゃん?

 

 カフェちゃん?

 大丈夫か?

 顔色ちょっと悪いぞ。

 

 なんか……嫌なことでも思い出したか?

 っと、悪い。

 そういう連想させるつもりじゃなかった。

 話運びをミスった……いや、そもそもこういう話を振るべきでもなかった。

 すまん。

 

 

 ……ごめん。

 逆に気を使わせちゃったか。

 

 まあ、ともかくだな。

 君がこれまでの人生で嫌な思いをしてきた、として。

 大体全部文明のせいだ。

 文明がガキンチョすぎるせいだ。

 人々が赤ん坊だからだ。

 まだお前と肩を並べて、同じ背の高さで語れねえのさ。

 

 だからな。

 俺はこう思う。

 『自分に見えないものが見えてる他人を無条件でバカにするやつは何やってもダメ』だ。

 そんで終わり。

 簡潔だろ?

 

 

 何が正しいのか、じゃねえんだ。

 結果的にお前は正しかった。

 霊は居た。

 お前にだけ霊が見えてた。

 「それは幻覚」だの「君はおかしい」だの「病院に行け」だの言ってたやつが間違ってた。

 結論出すだけならそれで終わりだ。

 

 だが、問題はそこじゃねえと思う。

 お前だって、自分が正しかったんだと周りに知らしめたかったわけじゃねえだろ。

 ちょっと筆談してるだけでもそれは分かる。

 お前は、他人に分かってもらうことを、もうなんか半ば諦めてる感じがする。

 

 俺は、なんつーか。

 それが辛い。

 それが悲しい。

 別に、お前なんか悪いことしたわけじゃないだろ。

 

 被害者でしかないのに、被害者でしかないから諦めるしかないの、なんか嫌だ。

 

 

 たとえば、俺の目とお前の目に見えてる青空は同じか?

 俺達は本当に同じ青を見てるのか?

 『空の色が青だと教わった』から、全然違う色の空を見てんのに、それを二人して青って言ってるだけだったりしないか?

 人なんてそれぞれ違うもんが見えてて、別々の世界を見ながら生きてるのかもしれない。

 そんなもんじゃあないか?

 

 他人の恋愛感情とか。

 友達から自分への想いとか。

 自分の頭のうすらハゲとか。

 ああいうのだって見える人と見えない人が居るもんだろ。

 じゃあ見える見えないで誰かを傷付けんのが、まず変じゃね?

 

 見えるのが正しくても、見えないのが正しくても、どっちでもいい。

 他人に見えないものが見えても、特別じゃあないし。

 他人に見えてるもんが見えなくても、劣等ではないし。

 じゃ、この真理から導き出せる正解は一つだ。

 分かるだろ?

 

 他人が言われて傷付くことを他人に言ってはいけません。

 言ったら俺が怒ります。

 以上です。

 小学生でも守ってるルールなんだから、みんな守ろうな……って話。

 

 友達の間で言い合う冗談くらいを上限にして、それよりヤバいのはやめとこうな、みたいな。

 

 なんにせよ。

 まあ。

 今度さ、お前に見えてるもんを教えてくれよ。

 代わりによ、俺のこの眼に見えてる電波の世界を教えてやろう。

 たぶん俺も、カフェちゃんが見たことのないものを色々教えてやれるからさ、暇な時に暇潰しに話でもしようぜ。

 

 

 ……ん!?

 

 今笑った!?!?!?

 

 笑わなかった!?

 

 

 むっ。

 気のせいだったか。

 なんも変わっとらん。

 やべー美人が仏頂面してるだけだ。

 

 なんてこった。

 幻覚が見え始めたってことか。

 かわいそうなやつの笑顔を見たいあまりに、俺の弱い心が幻を見せた。

 そういうわけか。

 なんて弱いんだ、俺は。

 彼女の笑顔を見たいからと、言葉を尽くすあまり、自分すら騙してしまったのか。

 

 先の一瞬の笑顔は、真夏の陽炎に溶けてしまうような幻影だったのか……くっ。

 

 

 おい????

 即刻俺で遊ぶのをやめろ。

 やめろ。

 これは最後通告だ。

 やめなければ訴訟も辞さない。

 

 こいつ。

 たぶん根っこの部分結構愉快な性格してんな。

 真面目すぎるライス姫とは違う。

 軽妙で気安いが根が真面目なネイチャ様とも違う。

 

 気が向いた時にするっとからかってくるタイプだ。

 おのれ。

 

 

 あん?

 なんだお礼とか。

 礼言われるようなことしてないぞ。

 ぎょ、仰々しい。

 そんな頭下げんといて。

 頭上げて上げて。

 そういうことされるとなんか悪いことしてる気分になるのだよ。

 

 ん?

 たまに俺の話し方がタキオン先生っぽい?

 気のせいじゃね?

 俺は流石にあそこまでエキセントリックじゃねえぞ。

 あれは同じゴールに向かう共闘者としては頼りになるが、たぶん同僚になるとあらゆることが死ぬほどめんどくせーことになるやつだ。

 

 ズボラ。

 絶対ズボラだろ私生活。

 大して付き合いのない俺にすら分かる。

 あれの相方になると一生苦労すんぞ。

 

 

 え?

 もう生徒会の人からタキオン先生のお目付け役に事実上任命されてる?

 だから今もタキオン先生についてきてるってことか?

 ご、ご愁傷様です。

 そっかぁ……タキオン先生は知的好奇心と原因究明のために走り回ってるとして……君がついて来てる理由……それかぁ……大変だな。

 保護者のお姉さん枠であったか。

 

 へ?

 お互い様?

 え、あ、ああ。

 そうか、お前から見ると、俺もライス姫とかの面倒見ながら旅してる、カフェちゃんと同じ旅の保護者枠に見えるのか。

 

 まあ、そりゃ、保護者的なもんではあるが。

 守ろうとして生きてる者ではある、とは思うが。

 

 たとえば、の話だけど。

 俺と仲良いライス姫が傷付くようなこと言ってるやつが居たら俺はだいぶキレ散らかす。

 ライス姫ほど仲が良いわけじゃないがお前に言われてもたぶんそこそこキレ散らかす。

 

 でもたぶん、俺もうっかりしたら他人を傷つける言葉言っちゃうと思うんだよな。

 言葉からも、ライス姫らを守りたいけども。

 守ろうとしてる俺が誰かを言葉で傷付けるとか、たまにやっちまいそう。

 そうしたら、もう本気で謝るしかない。

 土下座でもなんでもするしかないよな。

 

 大事なのは相手が傷付いた瞬間を見逃さないことと、ごめんなさいな気がする。

 

 どう思う、マンハッタンカフェちゃん。

 

 

 俺の言い分が子供っぽい?

 そうかな。

 そうかも。

 そんな気がしてきた。

 じわじわ恥ずかしくなってきたな。

 忘れてくんない?

 肩でもお揉みしましょうか?

 

 おい。

 いくら払ったら忘れてくれる?

 忘れろ!

 

 なんだその顔は。

 なんだその顔はっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから大丈夫だって、カフェちゃん。

 

 俺のことなんて本気で心配するやつなんていねーよ。

 

 優しいやつなら、俺のこと気遣ったりするかもだけど、それは俺が特別だからじゃない。

 優しいやつが、誰に対しても優しいからだ。

 じゃあ、そういうやつらが口にする「大丈夫?」は、心配だけど心配じゃねえよな。

 『慈悲』だ。

 

 慈悲は誰でも貰えるさ、そりゃな。

 その辺の捨て犬でも貰える。

 優しいやつは捨てられた犬にだって優しいからよ。

 なら、俺だって慈悲は貰えて当たり前だ。

 

 そいつは心配だけど心配じゃない、そーいうやつ。

 

 ガチの心配は泣いちまったりするもんだが、俺のこと心配して泣くやつがいるか?

 

 俺は居ないと思うがね。

 

 

 ……俺の背後霊が、俺の心配してる?

 心配して泣きそうなくらい?

 

 ははっ。

 そりゃいいや。

 俺には見えねえけど。

 どっかで死んだどっかの人が、俺の心配してくれてる。

 それは素直に嬉しい。

 俺みたいなのは、正当な人間に心配されるってこと自体あんまねえからさ。

 

 まあ俺は眼球を換装しないと霊は見えないし、カフェちゃんみたいに霊と話せないし、真偽の確かめようがないんだけどな。

 はっはっは。

 

 

 ん?

 え?

 どこ指差してんの?

 俺の後ろの霊?

 何か言ってんのか?

 

 ふむふむ。

 いや、でも……そう、か。

 それは、霊とカフェちゃんが正しい。

 

 俺達は元々、互いに聞こえない言葉で話してたか。

 互いに聞こえない言葉を、筆談で教え合ってる。

 今更、互いに見えないものを、筆談で教え合ってたところで、何も変わらない。

 一番の肝は、筆談で教えたことを、確認が取れなくても信じる、信頼関係。

 

 『あいつが筆談で言ってるこれをとりあえず信じる』って前提が崩れたら、全部台無しで、全部意味が無くなるようなもんか。

 そうだな。

 それは、よくないことだ。

 まずは信じてみようとしなけりゃ、コミュニケーションに意味なんてねえよな。

 

 言葉だって幽霊みてえなもんだ。

 

 疑おうと思えばいくらでも疑える。

 嘘にしようと思えば何でも嘘にできる。

 信じないやつは一生信じない。

 斜に構えたやつらは、"それ"を信じたやつらをバカにし始める。

 信じたやつらばっかり傷付いて、信じないやつらばっかり賢いようなふりができる。

 

 相手が真摯に口にした内容に『嘘だ』とレッテルを貼ること以上に、気軽に他人を傷付ける手段なんてのは、そうそう無い。

 

 

 だけど。

 他人がどんだけレッテル貼ろうと、真実の形は変わらない。

 幽霊も、言葉の真実も、ただそこにあるだけだ。

 信じないやつが捻じ曲げる。それだけ。

 ただただ、他人が貼ったレッテルの数だけ、どっかの誰かが傷付くってだけの話だ。

 嘘も、言葉も。

 

 しゃーねえ。

 約束してやろう。

 カフェちゃんの言うことは今後無条件で心底信じてやろう。

 俺が背後霊に心配されてるとかの話も、まー信じる。

 どうせ生きてるやつにガチの心配されねえって事実は変わりゃしねえんだ。

 カフェちゃんとこんな雑談した後にカフェちゃんの言うことなんか疑ったらダサいしな。

 

 

 今一瞬笑っ……いや、保留で。

 なんて女だ。

 表情が掴みきれん。

 まだまだ修行が必要だな、これは。

 

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 あっ。

 来た。

 

 

 タキオン先生。

 荷物の回収とか終わったんですかね。

 え?

 薬品とデータだけ回収してあと全部捨ててきた?

 

 豪胆だな。

 いや、でも、聡明だ。

 これから移動することを考えると、荷物は少ない方がいい。

 研究機材なんて全部運ぼうとしたらそれだけで体力を使い果たしかねない。

 こいつ。

 机上の空論だけ語ってるタイプじゃあないな。

 実践を主とするタイプ。

 研究室で地道に成果を出すタイプじゃあないが、真面目なやつを集めたチームにこういうやつが一人居ると、全体の発明のサイクルがべらぼうに速くなって、結果を出しまくるようになる。

 

 そうだ。

 天才肌の、そういうやつは。

 天才の穴を埋める誰か。

 たとえばカフェちゃんやネイチャ様のような誰かを添えるといい、と。

 誰かに言われた。

 言われたんだ。

 誰に、いつ、言われたんだっけ。

 

 ネジの抜けた天才の横には、真面目なやつとか、世話焼きなやつとか、時にはアホすぎるやつとかを据えておけば、いい感じに回ると、そう、教わって。

 

 

 俺は俺を忘れてる。

 俺を?

 誰を?

 何を?

 いや、使命だけ覚えておけばいい。

 この命の使い方だけ覚えているなら、それでいいはずだ。

 

 なんだっけ。

 何考えてたんだっけ。

 まあいいか。

 

 なんだタキオン先生。

 俺とカフェちゃんの会話が気になるのか?

 カフェちゃんに根掘り葉掘り聞いてんな。

 そして長文書き始めた。

 大した話をしてたわけでもねーぞ、どうした。

 

 

 こいつ、あれだな。

 筆談でデバフ食らってデバフネイチャになってるネイチャ様とか、筆談で感情が更に伝わりにくくなってるカフェちゃんとはまた違うな。

 

 理解はできないが長ったらしいセリフ吐いてることからも分かる。

 発言一回が時折むちゃくちゃに長くなるタイプだ。

 時々会話がしんどくなるタイプ。

 言いたいことを言い切るまで発言を区切らないタイプとも言う。

 

 そういうやつだから、筆談が微妙にマッチしてる。

 言いたいこと全部紙に書くまで区切らなくていいんだからな。

 だからとにかく溜めに溜めて、長文を一気に解き放ってくる。

 セリフを書いてる、というか。

 文の集体をまとめてぶん投げてくるってのが正しいか。

 

 

 まあ。

 他のやつは真似しないだろう。

 たぶん。

 いや、だって。

 他人を長々待たせても平気で、その間に長文書き続けて何も気にせず、気まずい待ちの沈黙の空気も何ら気にしないやつしかできねえだろ、これ。

 

 何だこいつは。

 胆力の怪物か?

 何故マンハッタンカフェのあの目に平然と耐えられる……!?

 

 

 カフェちゃんがたまに災害を見る目でタキオン先生を見てる理由が分かってきたわ。

 

 

 

 『面白い話をしてるじゃないか』

 

 『オカルトは信じる』

 

 『科学は疑う』

 

 『なんて定型があるけどね』

 

 『まさかオカルトが科学で証明されたほどの先進的な世界からの来訪者とは!』

 

 『機神で分かっていたことだけど、ずいぶんと興味深い世界のようだ』

 

 『信じることは試さない』

 

 『理は疑われて初めて試される』

 

 『カフェの言うことを信じる者は、霊の実在を証明しようともしないが』

 

 『カフェの言うことを疑う者は、霊の実在・非実在、どちらも証明できない』

 

 『まさに悪夢のロジックだ。だが、カフェは心臓に毛が生えているから平気なのだよ』

 

 『あ、今の文は冗談なので真に受けないように』

 

 

 『目には見えないものの実在性、非実在の論議か、興味深いねえ』

 

 『それにしても面白い。カフェの言いたいことの一番肝心なことがすっぽ抜けている』

 

 『すっぽ抜けているというか、正しい形で伝わってないと言うべきかな?』

 

 

 『カフェが思った以上に、君にとってそれは肝心なことではなかったのかもしれないが』

 

 『目には見えないものの実在を信じている、と君は言い』

 

 『目には見えないものの実在を信じられない者を、遠回しに揶揄しながら』

 

 『"仲間が君を心配する気持ち"という非実在性のそれを、まったく信じてないのだから』

 

 『傑作だよ』

 

 

 

 『君は目には見えない幽霊は実在すると言うのに、仲間が君を心配する気持ちは否定している』

 

 『仲間は今、君を大いに心配してるかもしれないのに』

 

 『目には見えないそれを、君は自己評価ゆえにバッサリ切り捨てているというわけだ!』

 

 『いやはや、異世界であろうともこういうものを、矛盾と言ったりするんじゃないかい?』

 

 

 

 ……こいつ!

 

 くそ!

 

 今これで気付いたから、何一つとして言い返せない!

 

 ごめんなマンハッタンカフェ!

 

 呆れた顔をするな。

 

 まったく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの遠くから見てる目をどう振り切るか、相談しにくい空気になっちまったじゃねえか。

 

 

 

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