いつも月夜に米の飯、米の飯より思し召し   作:ルシエド

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・使用AAは既存のものの改造・合成・調整・新造パーツの追加で作ってます
・ドット単位のズレは後で時間ある時にしれっと修正してるかもしれません



「……タキオンさんと貴方って、難しい話を議論できるお互いに唯一の相手で、妙に遠慮もないので、なんだかとても仲良さそうに見えるんですよね……」

 心配。

 心配か。

 マジのガチで心配されるってことは、大事にされてるってことだ。

 

 慈悲からも心配は生まれる。

 ただ、本物の心配は、慈悲とは関係ない。

 大切だから心配するんだ。

 大切なものだから失われることが怖くなるんだ。

 

 大事にされることは恐ろしい。怖い。

 

 使い捨ててほしい。

 

 その方が慣れてる、気がする。

 

 ティッシュに心があったら、大事にされることを望むだろうか。

 俺はそうは思わない。

 他のティッシュと同じようにしてほしいと思う、気がする。

 同じように作られたみんなと同じようにしてほしい思う、だろう。たぶん。

 

 みんなと違うものになるということは恐ろしいことだ。

 俺が今それを恐ろしいと思ってるってことは、記憶を失う前の俺もそうだったんだろう。

 カフェちゃんは立派だ。

 他人と違う自分を認めて、他人と違う自分で居る。

 それがどれだけ強いことなのか、見た感じ、タキオン先生は分かってそうな感じがする。

 

 いや。

 そもそも。

 俺は。

 『レースで他人に勝って一番になって他の人と違う自分になる』っていう、ウマ娘の本能的な生き方そのものに、"俺はああいう風になれない"っていう確信を、持ってる気がする。

 俺は、おそらく。

 根本の部分に、『決まった規格の存在で居るのは楽でいい』っていう、気持ちがある。

 

 だけど。

 覚えてないから、俺は俺を思い出せない。

 俺はどういう人間だったんだろう。

 すっぽりと、記憶の真ん中が、丸ごとどっか行っている。

 

 俺は自分がガチの心配されるような人間だとは思ってない。

 俺は誰かから大切にされることが怖い。

 

 俺が死んだ時に誰かが悲しむことが、とても、恐ろしい。

 

 でも、まあ、いいか。

 タイムマシンで全部無かったことにするだけで、俺の使命は完了する。

 

「e381a9e38186e381a0e38184efbc9fe38080e58b95e3818be3819be3819de38186e3818be381aaefbc9f」

 

 お、タキオン先生。

 ちょっと待ってくれ。

 この車の鍵穴の解析、アナログとかあんま慣れてないから微妙に時間かかってるが、解析だけならすぐに終わる。

 よし、終わった。

 

 解析した情報を参考にして、と。

 鍵に求められる強度は洋白か真鍮……いや、回すだけならもっと低くていいか。

 

 生体素子起動。

 稼働率85%を確認。

 普段負担のかからない、自己体内・肋骨からカルシウムを抽出。

 ATP(アデノシン三リン酸)からリン酸を追加。

 Ca10(PO4)6(OH)2を構築。

 分子構造を最大強度になるよう整列準備。

 鍵穴に合わせて鍵を生成。

 強度確認。

 人間の歯のだいたい倍くらい、と。

 よし、これなら回るな。

 

 

 これが最近できるようになった、俺が俺を使う応用よ。

 

 はいエンジンかかりましたー。

 

 持ち主の方すんません、世界救うまで借りていきます。

 

 

「e3818ae3818ae38081e38284e3828be381ade38188」

 

 フッ。

 人間日々成長ってやつよ。

 あー、この技の初披露はライス姫相手が良かった、みたいな気持ちちょっとあるな。

 あの子はなんでもすごいすごい言ってくれそう。

 他人の自尊心を満たすプロだよ、あの子は。

 

「e5909be381afe3819de381aee4babae3818ce5b185e381aae38184e69982e381abe8a492e38281e3828be38193e381a8e381afe38182e381a3e381a6e38282e38081e3819de381aee4babae3818ce5b185e381aae38184e69982e381ab」

 

 ん? また何書いてんだ。

 ……。

 おい。

 こら。

 筆談で『私より遅い車だけど乗り心地は良さそうじゃないか』とか言うやつ初めて見た。

 車は世界を救うためのお借りしてるだけだから、俺は実質泥棒で君らは無罪だろうけども、その上で最低限持ち主への敬意は持とう!

 

 え?

 このくらいの車と比べるならタキオン先生が自転車乗った方が速えの?

 うるせえ。

 俺がついていけねえわ。

 車の後部座席でゆっくり休んどけ。

 

 なんで無改造の身体でそんな出力出せるんだ。

 ヤッバいな。

 ……もしかして君、ウマ娘の中でも足が速い方なのか。

 

「e38193e381aee382a2e382b0e3838de382b9e382bfe382ade382aae383b3e381aee68890e7b8bee38292e8819ee3818de3819fe38184e381aee3818be381adefbc9fe381bee38182e38081e38388e383ace383bce3838ae383bce38282e5b185e381aae38184e38081e69cace6b097e381a7e587bae8b5b0e381aae381a9e38197e381a6e38184e381aae38184e7a781e381aee68890e7b8bee381abe38081e789b9e7ad86e38197e381a6e8aa87e3828be983a8e58886e381aae381a9e381aae38184e3818ce280a6e280a6」

 

 は?

 未デビューだけど今のとこ全勝?

 つまり生涯無敗ってこと?

 なにそれ。

 こわっ。

 モンスターかよ。

 『特筆して誇る部分などない』とかここの行に書いてあるけど虚偽はやめていただけます?

 

 ぬっ。

 なにっ。

 なんだとっ。

 よくここまで筆談で言えるなこいつ。

 

 いや、まあ、よ。

 現実を正しく観測してこそ正しく研究者、ってお前は言うが。

 仲間が自分をどう思ってるか正しく認識しろ、ってお前は言うが。

 私の共同研究者で助手である自覚を持て、ってお前は言うが。

 別にお前の認識が正しいって保証があるわけでもないだろ。

 

 そういうのほどほどにしとけよ。

 お前はたぶん俺より頭が良いが、ちょっとしたことでつまらん敵を作りそうなタイプだ。

 そんな感じに見える。

 

 

 こんなに「こいつ分かってないな」ってなることある?

 

 なってこった。

 俺の記憶は歯抜けだ。

 歯抜けではあるから、ハッキリとは言い切れないが。

 

 俺の中で「そのままの君で居て」ランキング一位がマンハッタンカフェに、「そのままの君で居ないで」ランキング一位がアグネスタキオンになりつつある。

 恐ろしい女だ。

 素っ頓狂の具現だろこんなの。

 

 助けてくれ、「成長してなりたい君になれるといいね」ランキング一位のライスシャワー。

 

 

 お、カフェちゃんも準備できたか。

 じゃー車に乗ってくれ。

 ささっと移動しちまおう。

 荷物は後ろの方で頼む。

 

 ……なんか性格出てるな。

 コーヒーメーカーとかの私物が多めで、整理してダンボールに入れてるカフェちゃんと。

 私物が少なめで研究資料が多く、絶妙に整理の仕方が汚いタキオン先生のダンボールと。

 ま、気にするほどのことでもないけども。

 

 

 

 

 ☆=現在地

 ★=目的地、京都レース場

 ●=入力した通りにギガスが逃げてくれてるならライス姫達はたぶん今この辺

 

 

 

 今の手札で周辺の地理条件を調べてみたが、どうも瓦礫が多い。

 ギガスはどこでもまっすぐ進めるが、こんな前時代的……一般的な車じゃそうもいかない。

 

 車輪は直径の1/4以上の段差を登ることが難しい。

 たとえば30cmのタイヤだと7.5cmの瓦礫でもう行き詰まる。

 勢いをつけないとそういう瓦礫を越えられないので、移動できる範囲度が状況次第で一気に狭まってしまう。

 車ってのはそういうものだ。

 生物が車輪ではなく足を得たのは、段差を登りやすいからと言う学者も居たくらいだ。

 

 だから彼女らの世界の車は、どっちかというと整備された街で走るのに特化してる。

 開拓星なんかで使われる車とはまるで別物だ。

 俺に残ってる記憶の範囲……だと。

 俺が一番乗ってた車は、こんな感じだった気がする。

 

 

 足があって、足の先に車輪があるやつ。

 こういうのだと瓦礫の上でも、整備された道の上でも、最高のスペックを発揮できる。

 いい車なんだよなあ。

 こういうやつ。

 ま、無いものねだりしても意味はない。

 

 今の俺達の(あし)が通れる道を探して、そこを進んで行こう。

 

 だから、今の最適解はこのまま辰の神殿……京都府京都市伏見区、京都レース場に向かう方がいいと思うんだ。

 そこでちょっとライス姫とネイチャ様を待ってみる。

 同時に、この車で進める道を模索してみる。

 長期的な展望はまだ詳細に決まってないが、当座の計画としてはこれでいいんじゃないか。

 

 賛成ありがとう。

 じゃ、改めて、そういうことで。

 

 

 足を得たからには、遠くから見てる『アレ』に接近される前に、ささっと移動しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風が気持ちいいな。

 

 これで遠くから見てる何かが居なけりゃ、もっとゆっくりドライブできるんだが。

 

 

 うん?

 どしたタキオン先生。

 ああ、"アレ"に見られてることに気付いた理由か?

 現代の兵器開発において、敵を見つけることと、敵から隠れることは、技術が進めば進むほどに両立するのが難しいことなんだ。

 見るということは。

 見られるということなんだな。

 

 そっちの世界では、電波を飛ばして反射を確認して、物体の位置を確かめたりするんだろ?

 レーダーとかあのへんだ。

 でもそういうのは、電波を飛ばさないと行けないから、自分の居場所がバレる。

 敵から隠れていたいならレーダーを使うべきではないし、敵を見つけたいなら電波を飛ばして探さないといけないわけだ。

 

 見るということは、見られるということなんだ。

 

 

 電波を探知されないために重力波を使って、重力波を探知する機械を避けるために量子波を使って、気付かれないように宇宙で宇宙線を使ってレーダーを展開して……そういう繰り返し。

 技術のいたちごっこさ。

 

 なんせ、実現は難しいが、自分は隠れたまま相手の位置が分かるんであれば、一方的に遠くから攻撃を繰り返すことだってできるだろ?

 兵器開発の夢なんだよ。

 全てから永続的に隠れるシステムと、全ての隠蔽を無視して敵を見つけるシステムを両立して、一方的に勝てる兵器を作る……ってやつはな。

 

 なら。

 俺がアレに見られてたことに気付いた理由もシンプルだ。

 アレの方が旧式で、俺の方がずっと後に製造された新型なんだな。

 

 旧式のステルス能力を、俺の対兵器感知能力が上回ってたんだ。

 だから結構な距離でも気付けたんだな。

 

 とは、いえ。

 ステルス能力とレーダー能力は戦闘力に比例してるわけでもない。

 ウマ娘だって性格の性能と走る性能は別物だろ?

 性格良いからって走る速さがすごいわけじゃないだろう。

 タキオン先生だってまだ無敗で生涯全勝のウマ娘じゃん。

 

 は?

 深い意味は無いが?

 大人しく後部座席でじっとしてろ。

 繰り返す、大人しく後部座席でじっとしてろ。

 

 

 だから!

 さっきから!

 ちょっかいかけてくるな!

 俺で遊ぶな!

 運転の邪魔しないで!

 

 こういう車は運転したことねーんだよ!

 ああ、はい、白状します!

 余裕ぶってるけど結構いっぱいいっぱいですねえ!

 だからやめろ!

 大人しくしてろ!

 俺の頬で遊ぶな!

 

 あっ。

 

 

 

 ありがとうマイフレンド。

 マジで助かったマイフレンド。

 そのままその悪魔を抑えといてくれ。

 ふぅ。

 まったく。

 

 

 こんなごちゃついた道路通るのは神経使うんだ。

 

 好奇心を止められないタキオン先生の気持ちは……実はちょっと分かるんだけども。

 

 大人しくしといてくれ。

 

 

 交通量が多い区画なんて目眩がしてくる。

 ぶっ壊れた二つの世界の車がそこら中にひしめき合ってて、まるで地獄だ。

 動いてる車はない。

 鉄の墓場、鉄の森。全部邪魔してくる壁にしか見えない。

 

 車は重い。

 壊れたら人の手ではどけられない障害物になる。

 動かすなら重機の類が必要なことも多い。

 事故一発で道が埋まるのが車の欠点だな。

 

 事故とかで道が埋まると、流通も移動も止まる。

 だからすぐどけないといけない。

 いけない、んだが。

 大体そういう作業の音頭取るのは国なんだよな。

 

 こういう事態になって、国が死ぬと、もう誰もどうにもできない。

 "永遠に塞がった道"が国内に大量に発生する。

 こんな状態になった国を自由に動けんのは、それこそギガスとかくらいなんだよな。

 

 めんどくせえ~。

 

 あ、また壊れた車が道塞いでる。

 

 うひぃ。

 

 

 二人ともちょーっと待っててくれ。

 素子起動。

 身体強化。

 雑に全身等分強化で。

 押して蹴って投げてどかす。おら行くぞ!

 

 どっこいしょ!

 

 あれも邪魔、これも邪魔、それも邪魔、あー面倒くさいぞこれ。

 

 どっこいしょ!

 

 ここは橋の上だ、ゴミがいつまでも居座ってんじゃない!

 

 

 ゴミをどける、運転。

 壊れた道を避ける、運転。

 瓦礫を避ける、運転。

 めんどくせっ。

 

 後部座席のカフェちゃんがこっちを気遣ってるのが分かる。

 え、なに?

 あ、コーヒーか。

 くれんの?

 ありがとう。

 

 

 あったけえ……コーヒーと……人の心が……あったけえよ。

 

 こぼれない容器でコーヒー渡してくる人は信用できる。

 

 タキオン先生、カフェちゃんにあんま迷惑かけるなよ。

 "なんで私を名指しで?"みたいな顔をするな。

 運転中に何度も筆談させやがって……!

 

 おっ、と。

 

 ふぅー。

 ようやくゴミもなくて壊れてない道に入れた。

 しばらくはまっすぐな道。

 気楽に運転できそうだ。

 

 ここまでの道のり、あんまりにもゴミと面倒が溢れてて、ロードムービーとかには一生使えなさそうな惨状だったからな……あんまりにもあんまり。

 

 

 へっ。

 思わず歌っちまうな。

 なんもかんもぶっ壊れてるが。

 風は気持ちよくて、空は真っ青で、雲が柔らかそうで、世界は綺麗だ。

 

「光り輝く星の上―――」

 

 こういう風が吹いてると、今日はいいことがありそうだな。

 

 

 なんだタキオン。

 どうしたタキオン先生。

 用があるなら今の内に頼むぞアグネスタキオンさん。

 

 

 なに?

 平行世界の接続装置とタイムマシンの仕組みが聞きたい?

 いやさんざん繰り返し説明したろ。

 しょうがねえな。

 運転しながらの筆談は遅くなるが、許してくれよ。

 

 

 

 おっ、はしゃいで座席揺らすな~?

 

 タイムマシンは、お前の名前と同じもの……『タキオン』を使うシステムだ。

 タキオンは、昔から存在だけは予想されていた。

 

 物質は普通、時間の流れに沿って存在する。

 そして光の速度に近付けば近付くほど、時間の流れが遅くなり、光の速度に到達した時点で、その物質の時間は停止する。

 なら、その向こうまで行ければ。

 超光速にまで辿り着ければ、時間を逆戻りできる。

 

 そういう理論に使われたのが、常に光より速く動く粒子、タキオンだ。

 

 

 通常の機械は過去から未来へ情報を伝える。

 けれどタキオンを用いた機械は、未来から過去へと情報を伝えられる。

 過去に未来の情報をもたらすことで過去を変えたり、未来の精神情報で過去の精神情報を上書きすることで、擬似的に過去に戻ったりもできる。

 古い脳から新しい脳に情報を丸移しして、脳を新品にして寝ないで活動するテクニックとかの延長みたいなもんか。

 

 ただ、まあ。

 未来でも出来たばっかりの技術だったからな。

 確定なのは過去を変えられることだけ。

 不具合もあったし、未来に行ったりもできなかった……と思う。

 

 なにより、完成したのが世界衝突寸前だったからな。

 完成品は、世界衝突と同時に破壊されてたはずだ。

 残ってるのは設計図だけだから、設計図を見つけて作らないといけないんだ。

 

 細かいとこは覚えてない。

 あ、知らんのかもしれん。

 記憶喪失だからか、割とあやふやだわ。

 

 

 

 

 平行世界と接続する装置は、正式名称『ハーヴェストタイム』。

 型番PRLJ-14895-47582。

 主任開発者はイーロイ博士。

 資本は国家、日・米・露の地球残留派の共同出資。

 主目的は平行世界と接続することで、平行世界から際限なく資源をかき集めること。

 耐用年数は、初期開発段階で12000年。

 

 無限に分岐する並行世界を、『無限にエネルギーと総資源数を増大させながら膨らんでいく宇宙モデル』で解釈し、無限の資源を回収する機構である、と定義される。

 そのため、最も多くの並行世界モデルを内包している。

 

 

 中心部に特例個体の少女が組み込まれ、湊式ハイドライブ形式のエンジンを併用。

 メインの干渉器は異能の複製・増幅を主機能とする。

 補助感情機能として、宇宙の壁を貫通する重力干渉器を使用。

 出力の0.0001%程度でも、宇宙の壁に穴を開け、平行世界理論を実証している。

 現在は既に、世界衝突の影響で破壊されていると考えられる。

 

 お前の頭脳でもう忘れたってことはないだろ。

 何の確認だ?

 

「e381afe381afe381a3e38081e381aae38293e381a0e3828de38186e381ade38188」

 

 

 ……?

 なんだ、ハッキリしねえやつだな。

 

 うおっ。

 なんだこの紙。

 なんだこの長文。

 後部座席でずっと書いてたのか?

 

 いやもうこれただの論文だな!

 

 筆談じゃねえ!

 

 俺に求められてんのこれ論文の査読だ!

 

 

 

 

 

 『ひとまずの結論は出せたよ、感謝する』

 

 『私一人では辿り着けなかっただろう。君とカフェが必要だった』

 

 『君とカフェが居なければ、こんな突拍子もない真実には辿り着けなかっただろうね』

 

 『過去の細かい実験データは資料1集にまとめたから目を通しておいてくれたまえ』

 

 

 『私はウマ娘の身体の不可解さ、物理法則を超越した肉体を研究していた』

 

 『カフェは私が知る限り唯一、人の霊魂を観測し、それを深奥まで知る人物だった』

 

 『君は異世界からやってきた、世界から世界への渡航を技術論で語ることができる者』

 

 『このどれかが欠けていても、おそらく真実は得られなかっただろうね』

 

 

 『カフェは、見えないものが見える』

 

 『実際のところ、簡易な検証はできていたんだ』

 

 『どうやってもカフェが知り得ない事実を、カフェが霊に教えてもらって』

 

 『知ることが不可能な事実を知っていた、ということを何度か確認していたからね』

 

 『事例集は資料2集だ、後で見ておいてくれ』

 

 

 『私が立てた仮説の一つに、ウマ娘の力の源流を霊魂に求めるというものがあった』

 

 『なにせ、霊魂は言うなれば、目に見えないエネルギーの塊だろう?』

 

 『ウマ娘は明らかに異様なエネルギーを発し、それが精神に直結している』

 

 『精神的に凄まじい状態に成ったウマ娘が奇跡の勝利を果たした事例がいくつもある』

 

 『大して食事をしないウマ娘が、大食らいのウマ娘を圧倒した事例も枚挙に暇がない』

 

 『人間ではこういう現象はほとんどない。ウマ娘だけの現象だ』

 

 『ならそのエネルギーはどこから来るのか?』

 

 『カフェは言っていたよ。目には見えない状態になっても、大きな力を持っているのだと』

 

 『検証不可能な仮説として、私はその魂に"ウマソウル"と仮の名前を付けておくことにした』

 

 『ウマ娘に宿る超常の魂。不可視の力の塊。物理法則を超越させるエネルギー源だ』

 

 

 『君からの技術提供を受け、ようやくオカルトは科学での検証が可能となった』

 

 『時間がないため軽い実験しか行っていないが、もう既に仮説は裏付けを得たよ』

 

 『仕組みが同じだった、からね』

 

 『仮称・ウマソウルとは、平行世界から渡ってきた"馬"の英雄の魂だ』

 

 『それがウマ娘の生物学的に異常な形質、その全ての源なのだと考えられる』

 

 『実証過程は資料3集を確認してくれ』

 

 

 『古来より、死者の魂は異界に渡ると言われていた』

 

 『天国だったり、地獄だったり、あの世だったり、理想郷だったりね』

 

 『臨死体験をした人間が"天国を見てきた"と言うことも珍しくはないらしい』

 

 『おそらく、死後の魂は、世界の壁に縛られず、隣の世界に渡れるのだろう』

 

 『そして隣の世界に渡って、新たな生命に宿ることがある』

 

 『そうして、馬の英雄という新たなエンジンを得た、疑似高次生命体』

 

 『それがウマ娘、というものなのではないだろうか』

 

 『この点は仮説が多くまだ検証できていない可能性も多いため、資料4集に整理した』

 

 

 『カフェ曰く、霊魂になったものの一部は大きな力を持って人を害するらしい』

 

 『そして、全ての死者が"そう"なるわけではないらしい』

 

 『なら馬も全てがウマソウルとなるわけではなく、馬の英雄のみがそうなるのではないか』

 

 『生前から英雄と言うべき力を持った馬の、力のある霊が人に宿れば』

 

 『それは平行世界から力を得る蛇口に等しい。ウマ娘の超常の力に十分説明がつけられる』

 

 

 『ウマ娘の超常の力の法則も、君から得た計算式で解明することができた』

 

 『平行世界を利用したエネルギーの簒奪の方程式、それがぴたりと当てはまったね』

 

 『君の世界の、平行世界からエネルギーを奪う際の、エネルギーを簒奪するカーブ』

 

 『私の世界の、ウマ娘が走る時に人体限界を超え発する不可思議なエネルギーのカーブ』

 

 『その二つがピタリと一致した』

 

 『奇しくも、この二つは同種の物理学方程式で表せるものなのだね』

 

 

 『すなわち』

 

 『君の世界と我々の世界が衝突して壊れながら融合したのは、偶然ではない。必然だ』

 

 『二つの世界は平行世界から何かを吸い上げて存続しようとする世界という意味で同種』

 

 『他世界から何かを得なければ成立しない、鏡合わせの兄弟の世界だったのだ』

 

 『兄弟ならば近くに在るのは当然だ』

 

 『近くに在るならば、事故が起こった時、真っ先に衝突するのは当然だ。そうだろう?』

 

 

 『カフェと君のおかげで、私を長年悩ませた研究のハードルはほぼ解決された』

 

 『だが、しかし』

 

 『それが新たな疑問を生んだ』

 

 『オカルトは信じる、科学は疑う、それは二つの世界に共通のルールであったね』

 

 『だから私は疑おうじゃないか』

 

 

 

 『何故君は、時間移動ではなく、平行世界を繋げる理屈に、ここまで詳しい?』

 

 

 

 『私の研究を一気に完成に向かわせるほど、君は平行世界に繋げる理論に詳しかった』

 

 『しかも打てば響くように、詳細まで詳しい知識を持っている』

 

 『君は間違いなく、平行世界を繋げる機械を作った人間の一人だろう』

 

 『タイムマシンの方の設計に、君が関わっているかどうかは知らないけどね』

 

 

 『君は記憶喪失ゆえに無自覚なのだろうが』

 

 『君はタイムマシンで世界を救おうとする陣営の人間でありながら』

 

 『平行世界に干渉する機械の方に詳しい。記憶を失ってなお言動にそれが透けるほどに』

 

 『はてさて、君は、記憶を失う前、どこにどんな役割で所属していたんだろうね?』

 

 『君の奴隷根性を見ていると、あまり詮索しない方がいいかもしれないが』

 

 『君の性格を見る限り、君を操っていた誰かが居たのかもしれないが』

 

 

 『記憶を失う前の君は本当に、世界を救うために此処にやってきたのかい?』

 

 

 

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