少しアルタイルとベガの過去が見え隠れします。
それではよろしくお願いします。
俺達が会場に着くと、ちょうど競技の一つが終わったらしく、1組の勝利らしい。
あ〜あ、落ち込んでるな。
「行けるね?アルベルトさん、リィエル」
「無論だ」
「問題ない」
2人に確認をとってから俺達は2組に近づく。
「みんな!待たせてごめん!」
「アイル!?今までど…こ…に?」
俺の言葉にみんなが一斉に振り返る。
でもその視線は俺の後ろにある。
「お前達が2組の連中だな。俺の名はアルベルト、グレン=レーダスの古い友人だ。こっちはリィエルだ。やつがこの学校の講師になったと聞き見に来たのだが、グレンのやつ急用で手が離せなくなったらしい」
「「「え!?」」」
「そこで先生からの伝言。『お前たちの指示は、ここにいるアルベルトに任せる。そして…優勝してくれ、頼む』だって」
「優勝してくれって…」
「見ず知らずの人にそんな事言われても…」
システィーナ達の動揺も最もだ。
いきなり訳分からん奴に指示を任せようとは思わないだろうしな。
そんな時、リィエルがシスティーナの手を取った。
「お願い、信じて」
「…!?貴女…」
システィーナはその手に何か感じたのか2人をハッとした顔で見る。
これは…勘づいたか?
最後の俺の顔を見てくる。
その顔はほぼ確信している顔だったので、ウインクだけ返しておいた。
「…分かったわ。クラスの指揮をお願いします。アルベルトさん」
「「「「システィーナ!?」」」」
クラスの皆がシスティーナに判断に驚く。
「大丈夫なの?この人達…」
ティティスの不安も最もだが、今はなりふり構ってる暇はない。
「大丈夫も何も、やるしかないだろ?ていうか、もしこの状況で負けてみろ。グレン先生、調子乗ってバカにしてくるぞ。『お前らって俺がいないと全っ然ダメダメなんだな〜!ごめんね〜!途中で僕が抜け出したせいで負けちゃって〜!』って感じか?」
我ながら会心のモノマネだった。
「言いそう…」
「ウザイですわ。とてつもなくウザイですわ!」
「あのバカ講師にそんな事言われるのだけは断じて我慢ならないね」
「くそぉ!やるよ!やってやる!」
どうやら、マジで似てたのかクリーンヒットしたらしい。
おかげでみんなにまた火がついた。
…一部煽りすぎた気がしなくもないが…。
「…やりすぎだろお前」
「なんの事だか…」
さあ、こっちも反撃開始だ。
おお、1組の…セタだっけ?
結構リアルな龍だな。
始まった【変身】の競技、さっき実況も言ってたがここで落とせば、俺達の優勝は絶望的だ。
そんな競技に…
「む、むりだよ〜…」
1番気の弱いティティスが挑む。
あ〜あ、顔は真っ青、目も涙目だな。
しょうがない、一肌脱ぐか。
「弱い気の虫がついてる…ぞ!」
「ひゃあぁぁぁぁ!!」
肩を叩いたら物凄くビックリされた。
いや、逆に俺がビビったわ…。
「あ、アイル君!!な、何するの!?」
「いや、気を抜いてやろうかと」
「むしろ腰が抜けそうだよ!?」
おやおや、ティティスがこんなツッコミを入れるとは…。
「ちゃんとイメトレはしたんだろ?それに特別講義も」
「う、うん…でも…」
「どうせ祭りなんだ。気楽にやれって!こういうのは楽しんだ者勝ちだ!もし変な事言ってくるやつがいたら俺に言え!渾身の右ストレートをお見舞いしてやる!」
俺は元気づけるためにわざと明るく、シャドーを打つ。
その様子を見てたティティスは突然笑い出す。
「?なんだよ?」
「だって…グレン先生と同じような事言うんだもん!2人って少し似てるよね」
「心外だな!あんなロクでなしと一緒にすんな」
いやいや、絶対似てないし。
似てないったら似てない。
「ふふ!行ってきます!」
「おい!ティティス!はぁ…行ってこい!」
そう言ってティティスは会場に向かっていく。
その背中はさっきまでとは違い、落ち着きと自信に満ちていた。
「さあ!続いて2組のリンちゃんの登場だ!どんな変身を見せてくれるのか!」
「『刮目せよ・我が幻想の戯曲・演者は我也』」
そうしてティティスが変身したのは時の天使【ラ・ティリカ】だった。
会場の誰もが息を飲むその神々しい姿。
まるで聖画集から飛び出してきた様な変身に
「…すげぇ…綺麗だ…」
思わず呟いてしまう。
俺に出来るかって言ったら100%出来ない。
きっとティティスだからこそ出来たことだろう。
「天使様だ!聖画から飛び出してきたような時の天使【ラ・ティリカ】様の降臨だー!得点は…10点、10点、10点、10点!40点満点!パーフェクトだー!」
【変身】は文句なしのティティスの勝利だ。
「ティティス!おめでとう!」
「ありがとう!アイル君!後、私の事名前で呼んでいいんだよ?最近、ルミア達の事は名前で呼んでるでしょ?」
「そういう事なら。おめでとう!リン!」
「うん!ありがとう!アイル君!」
そう言って俺たちはハイタッチをした。
そのままクラスの所に戻るのをアルベルトさん達と見守っていた。
「リンの奴…強くなりましたね」
「ああ…立派になった」
「ところで…リィエル?なんで怒ってるの?」
「…知らない。アイル君のバカ…」
そんな裏のやり取りを交えつつ、進んでいく競技祭。
「続いて【グランツィア】も、難易度の高い【サイレント・フィールド・カウンター】で勝利!ここで2組が1組に並びました!この混戦の中、勝負の行方は最終種目【決闘戦】に委ねられます!」
お、ウィンガーの負けをウィズダンが取り返した。
これは中々熱い展開だなー!
「最終種目【決闘戦】!先鋒戦を1組が、中堅戦を2組がとり、1対1になったー!そして大将戦、1組はハインケル選手!2組はシスティーナ選手だ!学年を代表する2人の対決だー!」
「いよいよ私の番ね!」
「折角、僕が場を盛り上げてあげたんだ。無駄にはして欲しくないね」
「そこは『後は任せた』って言うところでしょう」
お、やる気十分だなシスティーナ。
ならさらに燃料を投下しますか。
「ここで先生からの伝言その2。『もし優勝出来たら、お前らに好きなだけ飲み食いさせてやる!』だってね?アルベルトさん」
「…ああ、確かにそう言っていた。期待、しているぞ」
「期待!していて下さい!」
そう言って、ハインケルに真っ直ぐ向かうシスティーナの背中を見ていると、アルベルトさんが小声で話してくる。
「おい!何勝手なことを…!?」
「別にいいでしょ?特別賞与に給料3ヶ月分なんだから」
その言葉に黙り込むアルベルトさん。
さてと、大将戦しっかり観戦しますか。
「グッ!?」
思ったより火力が強い!
「おおっとハインケル選手の【ファイア・ウォール】にシスティーナ選手思わず後退!」
さてと、どうしようか?
みんなの声援が背中を押す。
あの時のアルベルトさんの言葉、リィエルの手、アイルの目。
きっとそういう事なのだろう。
私の分からない所で戦ってるんだあの3人は。
でも応戦してくれている。
それだけで私は戦える!
「『拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを』!」
私の切り札を切る。
黒魔改【ストーム・ウォール】は私だけの魔術。
だから、ハインケルは当然知らないし、動揺する。
「なんだこれは!?改変呪文!?『雷精の…』」
今更遅いわ!
これで終わりよ!
「遅い!『大いなる風よ』!」
すぐに切り替えて【ゲイル・ブロウ】を放つ。
「決まったー!システィーナ選手の【ゲイル・ブロウ】がハインケル選手を場外に吹き飛ばした!これで優勝は2組だー!」
もみくちゃにされるシスティーナ。
俺達はそれ見ながら、次の用意をする。
「アルベルトさん、リィエル」
「ああ、ここからだな」
「うん、行ける」
「それでは2組にはアリシア七世女王陛下より勲章が授与されます!」
そう言われ、アルベルトさんとリィエルが壇上に上がる。
俺は糸を体に巻き、いつでも動けるようにしておく。
「…今年の魔術競技祭の優勝クラスの代表と担任講師は、女王陛下から直々に勲章を賜る栄誉を得る…。待ってたぜこのタイミングを」
そして、アルベルトさんとリィエルの姿が変わり、グレン先生とルミアが現れる。
「グレン先生とルミア!?」
「馬鹿な!?お前達は逃走中のはず!?」
「入れ替わったのさ!協力者とな」
壇上で種明かしをする先生。
その姿を見てシスティーナは呟く。
「やっぱり…あれは…!アイル!知ってたの!?」
「ん?まあね〜。ただ言えないだろ?色々と」
そう答えながら準備運動をする俺。
そのまま一気に走り出す。
「ええい!賊を捕えよ!」
「『すっこんでろ』」
部下が壇上に上がる前にアルフォネア教授が結界を張る。
これは…【断絶結界】か。
俺は滑り込みセーフで潜り込んだ。
「へぇ、【断絶結界】か。気が利くなセリカ。後、お前。入って来たってことは最後まで付き合うんだよな?」
「当たり前」
そう答えながら、俺は糸を編み上げる。
「僭越ながら、陛下。そこのおっさんと部下は陛下の名を騙り、罪の無い少女を殺そうとした。どうか辞めるように勅命を」
「黙れ!逆賊が!」
おっさんがグレン先生を恫喝するが、黙るのはそっちだろ。
「うるせぇ、あんたが黙れよ。こっちには誰も傷つけずに済ませる方法と、その用意があるって言ってんだよ。いいから引っ込んでろおっさん」
俺は冷たく睨みつけながら、威嚇する。
おっさんはそんな俺の威嚇など気にもとめない。
「それではダメなのだ。この騒動が終われば、どんな罰でも受ける。腹も切ろう。だが陛下だけは…何としても、陛下だけはお守りせねばならんのだ!陛下!時間がありません。ご決断を!」
「だから!その前提をぶっ壊す用意があるって言ってんだよ、この石頭!斬る以外脳がないなら、すっこんでろ!!」
「おい!アルタイル!それ以上は!?」
「勅命です」
俺とおっさんが言い争ってる時、陛下が口を開く。
「その娘を…ルミア=ティンジェルを討ち果たしなさい」
「「な!?陛下!?」」
なんで!?なんでだ!?
ここまで来れば解決じゃないのかよ!?
クッソが!!これだから大人は!
「ご英断、感謝致します!陛下!」
そう言いながら、剣を抜くおっさん。
英断?何処がだ?
「はぁ…期待はずれだな陛下。何が誰もを愛し、誰もに愛されるお方だよ?結局、我が身可愛さでぶりっ子してるだけじゃん…爺さんの嘘つき」
「貴様!陛下への侮辱、今すぐ撤回しろ!」
「…アルタイル?」
「いいや!やめねぇ!どんな事情があれ、どんな秘密があれ、テメェの娘を殺せなんて言う奴、クソッタレ以外の何物でもない!」
「…アイル君…?」
俺達の親は…一族は、俺達を守る為に犠牲になった。
たった2人の子供を守る為に、その身を盾にして逃がしてくれた。
俺はそんな人達が好きで、憧れた。
だから強くなろうとした。
「きさまぁ!!」
「何が英断だ!自分の子供を守る決断もしない!存在を隠し、追放した!挙句に殺すだと!?ふざけんな!!己が身をかけて、命を懸けて、子供守るのが親じゃねぇのかよ!!それが!!本当の英断ってやつなんじゃねぇのかよ!!」
家族を殺すなんて英断じゃない。
本当に大切ならば意地でも守るべきだ。
それを選ばなかった、ただの臆病者だ。
そんな人に大切なものを奪われてたまるか。
だったら俺は…魔術師の道理に従う。
「『汝望まば、他者の望みを炉にくべよ』…俺の望みは、ルミアや他のみんなとの日常を守ることだ。もし、それを阻むのなら…陛下、例えあんたがルミアの親でも、俺はあんたを殺す」
「「「「な!?」」」」
みんなが驚く、そりゃそうか。
堂々と国のトップを殺すと言ったんだから。
「やめろアルタイル!今すぐ訂正しろ!」
グレン先生が流石に慌てて止めるけど、引く気は無い。
自分で吐いた唾は飲む気は無い。
「…もう遅い。本気か小僧」
「…本気だおっさん」
「ならば容赦はしない」
「上等だ。いざ、尋常に…」
「「勝負!!」」
そう言って俺達は一気に踏み込んだ。
「シッ!!」
「ぬるい!っ!?切れんだと!?」
俺は糸の弾を撃ちながら、同時に剣を編む。
おっさんは切ろうするも、切れずに弾くに止まる。
そのまま斬り掛かるが、やはり古強者。
接近戦では話にならず、弾き飛ばされてしまう。
「隙だらけだぞ!小僧!」
全身を切り刻まれるが、糸を巻いてるので切れない。
切れないが…衝撃は重い。
実は糸の防御には欠点がある。
斬る、貫くには強いが、一定の衝撃にはあまり効果が無いことだ。
テロリストの時はそれ程の重さはなく、防げた。
だがおっさんの剣戟は、確かに防げるが、衝撃は止められず、確実にダメージは増えていく。
「うっざい!!『吠えよ炎獅子』!」
「何!?軍用魔術だと!?」
咄嗟に【ブレイブ・バースト】で距離をとる。
ダメージは与えられてないが、何とか体勢は直せた。
炎が消えるのと同時に姿を消すおっさん。
俺は結界を張り、全方位を守る。
その瞬間、結界に衝撃が走る。
「守ってばかりでは倒せんぞ!」
そう言いながら、結界全体を切り刻もうとしている。
そんな中、俺は結界内で魔術を唱える。
「『三界の理・星の楔・律と理は我が手にあり』」
重力で一気に押しつぶす。
「グハ!?こ、これはなんだ!?」
「重力だよ」
俺は結界を解き、地面にめり込んでるおっさんの顔面を、足を糸で強化して、全力で蹴り飛ばす。
そのまま飛んでいくおっさんを引力で引き寄せ、追撃を図ろうとする。
「ガバ…!おのれ…!フッ!」
「何!?グボッ!?」
あいつ、引力を利用して剣を投げやがった!?
俺の引力とおっさんの膂力で、想定外の勢いで腹に刺さる。
まずい…骨が何本か逝った…!
衝撃は半端なく、引力が止まる。
「フン!」
「ガハ…ッ!!クッソが…!」
更に今度は慣性を利用して勢いを乗せて攻撃してくるおっさん。
その衝撃も滅茶苦茶重い。
また、骨が逝った…。
今度は俺が転がされ、剣を突きつけられる。
「終わりだ、小僧」
クソが…!まだだ…終われるかよ…!
「…ガァァァァァァァ!!」
地面に重力を叩きつけて割る。
足場を崩されたおっさんは体勢を崩しよろける。
その隙にタックルして転がす。
重力でおっさんを釘付けにしつつ、更に瓦礫に糸を巻きつける。
「おのれ!小僧…!?」
「墓標をくれてやる…潰れろ!!」
重力で持ち上げて、一気に落とす。
重力で勢いをつけ、更に糸で強度を底上げする。
幾らおっさんでもこれで…!
「『そこまでだ!』」
突然アルフォネア教授が瓦礫を全て消し飛ばす。
気づいたら、陛下はネックレスを外してグレン先生に投げ渡していた。
先生も【愚者の世界】を発動、事なきを得ていた。
「アイル君!?大丈夫!?」
ルミアが駆け寄って、そのまま治癒魔術をかけてくれる。
「へ、陛下!?何故!?」
「こいつだよ」
そう言いながらグレン先生は、愚者のタロットカードをチラつかせる。
「愚者のアルカナ…!?一定効果領域における魔術起動の完全封殺!貴公まさか!?」
「さてとまずは…この大バカ野郎!!」
「痛ってぇ!何すんだよ!」
なんで突然の拳骨!?滅茶苦茶痛てぇんだけど!?
「当たり前だろうが!!こっちはタネが割れてんのにあんな無茶苦茶しやがって!?相手は誰だか分かってんのか!?お前のとこの爺さん、エンダース・トワイスと同じ、40年前の封神戦争の英雄だそ!!」
マシか…道理でバカ強い訳だ。
「知らないっすよ、そんな事。どうでもいい」
「しかも!陛下を殺す!?お前本気だったろ!いつからお前はテロリストになった!?」
「ここまでしないと、このおっさんは釣れないでしょ?…まあ、本音もあったけど」
「お前な〜…」
「どういう…?」
ルミアは呆然としながら、呟く。
ルミアは気づいてなかったか。
俺?一応気づいてたぞ?
それでも言いたかったから、散々言ったけど。
「…陛下。もういいんじゃない?呪殺具はないんだし」
「…エルミアナ!」
涙を流しながら、ルミアを抱きしめる。
呆然とするルミアにグレン先生が解説する。
「『外したら殺す。』『一定時間経過で殺す。』『呪いの存在を言っても殺す。』解呪条件は『ルミアを殺すこと。』って所だろうな。つまり下手な事を言えば、呪殺具が起動しちまう。だからああするしか無かったんだよ」
「ごめんなさい!あなたをまた傷つけて…本当にごめんなさい!…無事で良かった…」
「お母さん…お母さん!」
そう言って泣きながら抱きしめ返すルミア。
その光景はただの親子だ。
そこで気が抜けたのか、急に意識が遠のいてきて、
「…い!アイ…!」
「しっ…ル…ん!」
そのまま気を失った。
糸をまきつけてのガードを考えた時、これではあまりにも無敵過ぎると思い、防弾チョッキの話を思い出し、衝撃に弱いということにしました。
後、あくまで物理防御なだけであり、身体的頑丈さは上がりますが、魔術耐性はあがりません。
そんな感じでデメリットもちゃんとありますよ!
それではありがとうございました。