「ところで君たちは、真の邪悪と出会ったことはあるかい?掛け値なしの純度100%の悪を見た事あるかい?僕は…ある」
唐突に始まった、ジャティスの一人語り。
どうやらジャティスは、どこかの世界で【無垢なる闇】と出会ったことあるらしい。
「絶対的な正義は存在するんだよ、グレン。真の邪悪がいる以上、そうでなくてはいけない」
絶対的悪がいる以上、絶対正義もいる…そう言ってるのか、コイツは。
トンチンカンなことではあるが、理屈の上ではありえない話では無い。
森羅万象は基本時に二極一対。
表と裏、男と女、光と影、陽と陰、生と死、善と悪。
魔術の基本理論であり、世界の根柢法則だ。
だがあくまでそれは、理屈の上では、と話。
「寝言言ってんじゃねぇぞ、テメェ。そんなものあるわけねぇだろ、常識的に考えて」
「それは君が、その常識に囚われてるからさ。そして知ってはいても識らないからさ。そんな常識を壊す、底なしの悪がいることを」
「…」
「…とはいえ、僕もまあ、当初はまるで分かってなかったよ。軍時代の僕は、絶対的正義を目指し、狂犬のように悪に噛みつき、そして君をライバル視していた。今思えば、実に若気の至り、恥ずかしい限りさ」
「…」
「だが封印の地で全てを識った。君たちも心当たりはあるだろう?大導師の神秘体験さ」
タウムの天文神殿のあれを思い出す。
確かにあの時の俺たちは、ある意味トランス状態だったからこそ、あんな態度取れたが、まともな状態なら、どうなっていたか…。
そしてそれから、ジャティスの凶行が始まった。
『何かを為す者とは、歩み続けた愚者である。為さぬ者とは、歩みを止めた賢者である』
アルフォネア教授の言葉だが、まさかこいつがそれを体現し続けてきたと思うと、なんとも言えない気持ちになる。
「後は君だ、グレン。君に勝たなければ、君を越えなければ、僕の正義はいつまでも始まらないんだ。本当に…後は君だけだ」
そう言うジャティスの目は、宿敵に挑むような、憧れに焦がれるような、そんな目をしていた。
「…だから…それがわけわかんねぇっつってんだよ!どうして俺なんだよ!?なんでお前の正義の試金石が、俺じゃなきゃいけなかったんだよ!!」
怒鳴りつける先生だが、当のジャティスは肩を竦めるだけ。
「それが僕もサッパリでね。まあ当時はウマが合わないとか、気に食わないとか、認められないとか…そんな理由だったんだろうよ。だけどね、グレン。5億年の研鑽の末…ついに僕は理解したよ。確信したよ。やはり…君だ!君こそが、僕が愛すべき、倒すべき…そして超えるべき好敵手であり、壁だったのさ!」
「…はぁ〜…」
多分先生なりに、欠片でも理解しようとしたのだろう。
だから対話を望んだ。
それが無意味だと思いつつも、俺はその意志を尊重した。
だがこれまでだ。
「…ジャティス。俺は前、こういったよな。お前の正義は矛盾している、と。そしてただの独善だとも」
「ああ。そうだね、アルタイル。その時のことを訂正しよう。確かに君の言う通り、僕の独善なのかもしれない。僕の正義は矛盾しているのかもしれない。だからこそ…」
「…」
「だからこそ!今ここで!ハッキリ宣言しよう!僕の正義は絶対だ!!矛盾はなく、独善でもなく!!絶対的正義であると、ここに証明しよう!!!」
OK…上等だ。
俺は【アリアドネ】に魔力を流して、空天神秘を起こす。
「ならその正義…俺たちの正義を以て、捩じ伏せる」
「行きましょう!先生!ジャティスは世界に仇なす敵です!そして…セラさんの仇です!」
「『汝望まば、他者の望みを炉にくべよ』。先生、私たちは魔術師です。魔術師は魔術師らしく、その流儀で戦うしかありません」
「ん。わたしは…戦う。ジャティスは敵。グレンを、みんなを守るために戦う。理由なんて…それで十分」
俺たちが身構えるを見届けたジャティスは、何故か満足気に笑う。
「グレン。君の傍らに立つ彼ら彼女ら。それらもまた、長い戦いと葛藤の末に得た、君の力だ。臆せず、気兼ねなく、遠慮せず、存分に振るうといい」
「こいつらを道具扱いすんじゃねぇ!」
「ククク…失言失礼。まあお互い、言葉は尽くした。後は思うがまま、心ゆくまま、互いの正義をぶつけ合おう…」
そしてついに、火蓋が切って落とされた。
「【
「『時の最果てへ去りし我·慟哭と喧騒の摩天楼·時に至る大河は第九の黒炎地獄へ至り·その魂を喰らう黒馬は己の死を告げる·我·六天三界の革命者たらんと名乗りを上げる者ゆえに』!!!」
「『我に続け·颶風の民よ·我は風を束ね統べる女王なり』!!!」
「時天神秘【OVER CHRONO ACCEL】!!!」
「風天神秘【CLOAK OF WIND】!!!」
「空天神秘【UNLIMITED CROSS RANGE】!!!」
先生の時間をゼロにする結界が展開され、システィの風が駆け抜け、俺の糸が全てを切り裂く。
正直勝ち確だ。
なのになんだ…あの余裕は!?
「素晴らしい…!素晴らしいよ、グレン!それに君たちもだ!僕が超えるべき敵が君たちでよかった!…さぁ!今こそ!5億年の研鑽の成果を見せよう!」
ジャティスが身構え、呪文を唱える。
「『我は己が正義によりて運命を超える者·あらゆる理を·あらゆる力を·我が揺るぎなき不退転の意思と決意を以て·ねじ伏せる者』」
ジャティスから壮絶なる魔力が吹き出し、右手に偃月刀を持った禍々しい女神が現れ、俺の糸を弾いた。
というかおかしいだろ…!
「
「それ以前にこの場は既に、俺が支配してんだぞ!?お前がなにかする時間なんぞ、もう永遠にねえはずなんだが…!?」
先生の言うこともそうだが、俺の糸だって距離をゼロにしてる上、次元ごと斬り裂いて攻撃してるわけなんだから、防ぐことは不可能だ。
なのにどうして防げるんだ…!?
そう葛藤しているうちに、ついにジャティスの魔術が完成する。
「正義【ABSOLUTE JUSTICE】」
絶対…正義…!
「フェアじゃないから説明しよう!僕が至った天は、君たちが至った天のように、高尚なものじゃない。ただ愚直なまでに、僕の正義と意思を貫くための神秘。僕が正義の行いと信じる限り、僕はあらゆる
「…あ、アホか!?お前はぁ!」
なぁにがそれだけだ!
それだけで、お前は最強じゃねぇか!
「要するに、究極の自分ルールを一方的に、その場に強いるってことじゃねぇか!」
いくら凄まじい力を発揮する神秘でも、そこにはルールがある。
魔術の極みとはいえ、そこは科学的なのだ。
神の如き力とはいえ、ルールは守っているのだ。
だがジャティスのそれは、根本的なルール無視&破壊。
要するに世界法則の支配と創造。
「ははは。もちろん弱点もあるさ。あくまで効果範囲は僕自身と術の射程内。そして僕が正義だと100%信じられる行動に限る」
「ざっけんのも大概にしろよ、このカラスがぁ!!」
マズイな…前半はともかく、後半は致命的だ!
確かにこの術の弱点は、致命的な脆弱性がある。
心の底から、自分を100%信じられる人間はいない。
だがそれも、ジャティスなら別だ。
5億年の時間経過を、余裕で耐え抜くジャティスが使うとするなら、もはや最強と言わざるを得ない。
「アイル君…」
ルミアが俺の服の裾を掴んで、不安そうに見つめる。
…そうだ、相手がどれだけ強いかなんて知ったものか。
勝つしかない。
今までも…これからも。
「…ふぅ…しっ!」
俺は息を吐いてから、両頬を叩く。
「…行くぞ!やるしかない!」
「…ああそうだな…!いつもみたいに、出たとこ勝負だ!活路を見出しかねぇ!…それに言っちゃなんだが、実は手はある…!」
なんだよ、それならそうと先に言えよ!
だったら話が早い…一瞬隙を作る!
「行くぞ…!」
俺の糸と、先生の【クイーン·キラー】の弾丸が、ジャティスを打ち据える。
「ヒャハハハハハハ!アハハハハハハハ!」
だが案の定とでも言うべきか、ピンピンしていた。
「この…!」
「アイル君!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
さらにシスティやルミア、リィエルも加わるが、やはりダメージは無い。
だが例えそうだったとしても、俺たちはやるしかない。
こうして天空城での、最終決戦が始まった。