ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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最終決戦編第6話

「ところで君たちは、真の邪悪と出会ったことはあるかい?掛け値なしの純度100%の悪を見た事あるかい?僕は…ある」

 

唐突に始まった、ジャティスの一人語り。

どうやらジャティスは、どこかの世界で【無垢なる闇】と出会ったことあるらしい。

 

「絶対的な正義は存在するんだよ、グレン。真の邪悪がいる以上、そうでなくてはいけない」

 

絶対的悪がいる以上、絶対正義もいる…そう言ってるのか、コイツは。

トンチンカンなことではあるが、理屈の上ではありえない話では無い。

森羅万象は基本時に二極一対。

表と裏、男と女、光と影、陽と陰、生と死、善と悪。

魔術の基本理論であり、世界の根柢法則だ。

だがあくまでそれは、理屈の上では、と話。

 

「寝言言ってんじゃねぇぞ、テメェ。そんなものあるわけねぇだろ、常識的に考えて」

 

「それは君が、その常識に囚われてるからさ。そして知ってはいても識らないからさ。そんな常識を壊す、底なしの悪がいることを」

 

「…」

 

「…とはいえ、僕もまあ、当初はまるで分かってなかったよ。軍時代の僕は、絶対的正義を目指し、狂犬のように悪に噛みつき、そして君をライバル視していた。今思えば、実に若気の至り、恥ずかしい限りさ」

 

「…」

 

「だが封印の地で全てを識った。君たちも心当たりはあるだろう?大導師の神秘体験さ」

 

タウムの天文神殿のあれを思い出す。

確かにあの時の俺たちは、ある意味トランス状態だったからこそ、あんな態度取れたが、まともな状態なら、どうなっていたか…。

そしてそれから、ジャティスの凶行が始まった。

 

『何かを為す者とは、歩み続けた愚者である。為さぬ者とは、歩みを止めた賢者である』

 

アルフォネア教授の言葉だが、まさかこいつがそれを体現し続けてきたと思うと、なんとも言えない気持ちになる。

 

「後は君だ、グレン。君に勝たなければ、君を越えなければ、僕の正義はいつまでも始まらないんだ。本当に…後は君だけだ」

 

そう言うジャティスの目は、宿敵に挑むような、憧れに焦がれるような、そんな目をしていた。

 

「…だから…それがわけわかんねぇっつってんだよ!どうして俺なんだよ!?なんでお前の正義の試金石が、俺じゃなきゃいけなかったんだよ!!」

 

怒鳴りつける先生だが、当のジャティスは肩を竦めるだけ。

 

「それが僕もサッパリでね。まあ当時はウマが合わないとか、気に食わないとか、認められないとか…そんな理由だったんだろうよ。だけどね、グレン。5億年の研鑽の末…ついに僕は理解したよ。確信したよ。やはり…君だ!君こそが、僕が愛すべき、倒すべき…そして超えるべき好敵手であり、壁だったのさ!」

 

「…はぁ〜…」

 

多分先生なりに、欠片でも理解しようとしたのだろう。

だから対話を望んだ。

それが無意味だと思いつつも、俺はその意志を尊重した。

だがこれまでだ。

 

「…ジャティス。俺は前、こういったよな。お前の正義は矛盾している、と。そしてただの独善だとも」

 

「ああ。そうだね、アルタイル。その時のことを訂正しよう。確かに君の言う通り、僕の独善なのかもしれない。僕の正義は矛盾しているのかもしれない。だからこそ…」

 

「…」

 

「だからこそ!今ここで!ハッキリ宣言しよう!僕の正義は絶対だ!!矛盾はなく、独善でもなく!!絶対的正義であると、ここに証明しよう!!!」

 

OK…上等だ。

俺は【アリアドネ】に魔力を流して、空天神秘を起こす。

 

「ならその正義…俺たちの正義を以て、捩じ伏せる」

 

「行きましょう!先生!ジャティスは世界に仇なす敵です!そして…セラさんの仇です!」

 

「『汝望まば、他者の望みを炉にくべよ』。先生、私たちは魔術師です。魔術師は魔術師らしく、その流儀で戦うしかありません」

 

「ん。わたしは…戦う。ジャティスは敵。グレンを、みんなを守るために戦う。理由なんて…それで十分」

 

俺たちが身構えるを見届けたジャティスは、何故か満足気に笑う。

 

「グレン。君の傍らに立つ彼ら彼女ら。それらもまた、長い戦いと葛藤の末に得た、君の力だ。臆せず、気兼ねなく、遠慮せず、存分に振るうといい」

 

「こいつらを道具扱いすんじゃねぇ!」

 

「ククク…失言失礼。まあお互い、言葉は尽くした。後は思うがまま、心ゆくまま、互いの正義をぶつけ合おう…」

 

そしてついに、火蓋が切って落とされた。

 

「【王者の法(アルス·マグナ)】…起動します!」

 

「『時の最果てへ去りし我·慟哭と喧騒の摩天楼·時に至る大河は第九の黒炎地獄へ至り·その魂を喰らう黒馬は己の死を告げる·我·六天三界の革命者たらんと名乗りを上げる者ゆえに』!!!」

 

「『我に続け·颶風の民よ·我は風を束ね統べる女王なり』!!!」

 

「時天神秘【OVER CHRONO ACCEL】!!!」

 

「風天神秘【CLOAK OF WIND】!!!」

 

「空天神秘【UNLIMITED CROSS RANGE】!!!」

 

先生の時間をゼロにする結界が展開され、システィの風が駆け抜け、俺の糸が全てを切り裂く。

正直勝ち確だ。

なのになんだ…あの余裕は!?

 

「素晴らしい…!素晴らしいよ、グレン!それに君たちもだ!僕が超えるべき敵が君たちでよかった!…さぁ!今こそ!5億年の研鑽の成果を見せよう!」

 

ジャティスが身構え、呪文を唱える。

 

「『我は己が正義によりて運命を超える者·あらゆる理を·あらゆる力を·我が揺るぎなき不退転の意思と決意を以て·ねじ伏せる者』」

 

ジャティスから壮絶なる魔力が吹き出し、右手に偃月刀を持った禍々しい女神が現れ、俺の糸を弾いた。

というかおかしいだろ…!

 

人工精霊(タルパ)…!?いや、なにか違うか!?」

 

「それ以前にこの場は既に、俺が支配してんだぞ!?お前がなにかする時間なんぞ、もう永遠にねえはずなんだが…!?」

 

先生の言うこともそうだが、俺の糸だって距離をゼロにしてる上、次元ごと斬り裂いて攻撃してるわけなんだから、防ぐことは不可能だ。

なのにどうして防げるんだ…!?

そう葛藤しているうちに、ついにジャティスの魔術が完成する。

 

「正義【ABSOLUTE JUSTICE】」

 

絶対…正義…!

 

「フェアじゃないから説明しよう!僕が至った天は、君たちが至った天のように、高尚なものじゃない。ただ愚直なまでに、僕の正義と意思を貫くための神秘。僕が正義の行いと信じる限り、僕はあらゆる律法(ルール)を受け付けず、打ち砕き、捻じ曲げ、破壊する!そして僕が正義を通すに相応しい律法(ルール)を創立する!それだけさ!」

 

「…あ、アホか!?お前はぁ!」

 

なぁにがそれだけだ!

それだけで、お前は最強じゃねぇか!

 

「要するに、究極の自分ルールを一方的に、その場に強いるってことじゃねぇか!」

 

いくら凄まじい力を発揮する神秘でも、そこにはルールがある。

魔術の極みとはいえ、そこは科学的なのだ。

神の如き力とはいえ、ルールは守っているのだ。

だがジャティスのそれは、根本的なルール無視&破壊。

要するに世界法則の支配と創造。

 

「ははは。もちろん弱点もあるさ。あくまで効果範囲は僕自身と術の射程内。そして僕が正義だと100%信じられる行動に限る」

 

「ざっけんのも大概にしろよ、このカラスがぁ!!」

 

マズイな…前半はともかく、後半は致命的だ!

確かにこの術の弱点は、致命的な脆弱性がある。

心の底から、自分を100%信じられる人間はいない。

だがそれも、ジャティスなら別だ。

5億年の時間経過を、余裕で耐え抜くジャティスが使うとするなら、もはや最強と言わざるを得ない。

 

「アイル君…」

 

ルミアが俺の服の裾を掴んで、不安そうに見つめる。

…そうだ、相手がどれだけ強いかなんて知ったものか。

勝つしかない。

今までも…これからも。

 

「…ふぅ…しっ!」

 

俺は息を吐いてから、両頬を叩く。

 

「…行くぞ!やるしかない!」

 

「…ああそうだな…!いつもみたいに、出たとこ勝負だ!活路を見出しかねぇ!…それに言っちゃなんだが、実は手はある…!」

 

なんだよ、それならそうと先に言えよ!

だったら話が早い…一瞬隙を作る!

 

「行くぞ…!」

 

俺の糸と、先生の【クイーン·キラー】の弾丸が、ジャティスを打ち据える。

 

「ヒャハハハハハハ!アハハハハハハハ!」

 

だが案の定とでも言うべきか、ピンピンしていた。

 

「この…!」

 

「アイル君!」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

さらにシスティやルミア、リィエルも加わるが、やはりダメージは無い。

だが例えそうだったとしても、俺たちはやるしかない。

こうして天空城での、最終決戦が始まった。

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