ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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最終決戦編第8話

まだ早いとは思ったが、それでもこの一撃ならば…そう思わざるを得ない一撃。

さしものジャティスも、あの一撃には無力だ。

 

「っ!?」

 

真銀の剣が砕け散る、その瞬間を見るまでは、そう思っていた。

アルフォネア教授最後の切り札は、ジャティスの体に1ミルとて、通っていなかった。

 

「なんだいこれは?僕がルールだと言ってたじゃないか。ルール違反はよくないな、グレン」

 

マズイ…あそこはジャティスの領域だ!

今まで誤魔化してきたが、あの位置はマズイ!

 

「間に合え…!」

 

俺は咄嗟に先生を【次元跳躍】で、俺のすぐ側まで飛ばす。

どっちが早いか賭けだったが、俺の方が早かったらしい。

 

「すまねぇ…!」

 

「大丈夫です。だけど…参りましたね、これは」

 

「ああ…!まさか【万理破壊の世界剣(ロウ·ブレイカー)】が効かねぇとは、完全に誤算だったぜ…!」

 

無言で佇むジャティスと、肩で息をする俺たち。

焦燥感が心を焦がすが、俺はそれを辛うじて落ち着かせる。

 

「…やれやれ…次はどうすっかなぁ…!」

 

「負けられないよ…!アイル君!」

 

「当然!」

 

俺とルミアが身構えると、隣にシスティとリィエルが来て、2人も構える。

だがジャティスは俺たちを全く見ずに、その後ろにいた先生に声をかけた。

 

「…そんなものかい?」

 

「チッ。知るかよ。テメェのインチキ魔法の前じゃ、どんな術も技も児戯になるに決まってんだろうが」

 

「違う。そうじゃない」

 

嘲りや侮りだと思ったのか、忌々しそうに返す先生の言葉を、ジャティスは真っ向から否定した。

こいつ何を…っ!?

気付けばジャティスは、怒りを紛らせた視線で、先生を睨んでいた。

 

「違う。違うんだグレン。君の力は…正義は、そんなものじゃないはずだ!確かにシスティーナ、ルミア、リィエル、アルタイル。君たちは素晴らしい。僕の正義の足元にも及ばないが、僕がねじ伏せるに値する力と正義がある。そこは認めよう」

 

嬉しくねぇし、随分ないいようだなこの野郎。

 

「だがグレン。君は一体、いつになったら本気を出す?いつになったら真剣に僕の正義と向き合ってくれる?ことここに至って、この僕を失望させてくれるのはやめてくれないか…!?君がそんな体たらくだとしたら…僕は一体、何のために5億年の研鑽を積んできたと思ってるんだ!?」

 

「なにを訳のわかんねぇことペラこいてんだ、テメェは!?俺はいつだって本気で全力だ!俺みてーな三流魔術師にテメェは一体、何を求めてやがんだよ!?そもそもテメェのワケワカメな正義なんざ、どうでもいいわ、ボケッ!俺はセラの仇のテメェをぶっ倒せればそれでいい!そんでもって、学院のヤツらや仲間たちを救えるばそれでいい!それ以外のことは知らん!知ったことか!それだけだ!」

 

「…先生…」

 

ただ訳の分からない言い分に、先生は怒鳴り返してるだけ。

…にも関わらず。

俺には何故か、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。

 

「…本気で言っているのかい?本当に…それだけなのかい?君の力は…正義は…?その程度なのかい?」

 

「本気もクソも、今も昔も俺は三流魔術師だろうが!今はセリカの力を分不相応にも、一時的に使えるようになっただけだ!俺は俺であって、それ以外の何物でもねぇんだよ!!!」

 

呆然と呟くジャティス。

そんなジャティスに、先生は苛立ち混じりに叫ぶ。

しばらく本気で驚いた顔で黙り込み…

 

「…失望したよ、グレン。心底、失望した。君がその程度だったとは…。君は…君だけは違うと、凡百の愚者どもとは違う…そう信じていたの」

 

そう本気で哀しそうに呟いて、帽子を深く被り直す。

ルミアたちが怒るが、ジャティスは意にも返さない。

 

「ぶっちゃけ言うとさ。9を助けるために1を切り捨てる。1を助けるのに9を切り捨てる。君たちはどっちがより上位の正義だと思う?」

 

どっちが上位の正義か…だと?

そんなもの決まってる。

 

「どっちもどっちだ」

 

「正解」

 

考えるルミアたちを無視して、俺はジャティスの問いに答える。

 

「どちらがより上の正義かなんて、見方によって変わる。世間的に前者が重んじられているのは、最大公数を重んじる合理的思考からだ。現にアルベルトさんは前者だが、自分のことを1度たりとも、正義だとは言っていない」

 

「もしそれを超える正義があるとするなら、10を救う。ま、絶対無理だろうけどね」

 

こいつ…誰がそんなに言葉遊びをしろと…!

そう苛立っていると、我慢出来なかったのか、システィが怒鳴り声を上げた。

 

「ふざけないでください!だったらあなたの正義だって矛盾してるじゃないですか!」

 

「たとえ話さ。そもそも僕の正義に誰かを救うだの、守るだのは関係ない。全くの無関係なんだよ。ただまぁ…ヒントは送ろう」

 

だがそんな怒りを無視して、ジャティスは飄々と話す。

 

「…『何かを為す者とは、歩み続けた愚者である。為さぬ者とは、歩みを止めた賢者である』」

 

それは…アルフォネア教授の…。

何となくだけど…本当になんとなくだが、ジャティスが言いたいことが、一欠片だけ分かった気がする。

今の先生は、俺たちを優先するあまり、歩みを止めてしまっている。

【正義の魔法使い】になろうとする…その歩みを。

 

「この世界の魔術師ならば、誰もが知る格言。この言葉こそが、グレン。宿敵たる君に送る最後の塩だ」

 

「…何を…言ってやがる…!」

 

「グレン。君は今まで頑張った。ひたむきな君の生き様は、多くの者たちの心を揺さぶってきた。君は今までずっと、誰かに何かを与え続けてきたんだよ。だから…もうそろそろ、その何かを、自分に与えてもいいんじゃないか?」

 

「だから…!お前の言ってることの意味が…!」

 

「もしこれだけ言っても目覚めないのなら…哀しいかな。僕とっくに、君を超えてしまったらしい。僕にとってもう君に価値は無い。…終わりにしよう。ちょうどいいものがあるんだ」

 

そう言うとジャティスが手をかざして、詠唱を始める。

 

「『遍く世界は汝が見る夢·汝、万物の混沌統べし者·汝、盲目にて白痴の主』」

 

ここに来て新手の攻撃か…!

俺たちがすぐに身構えるのを見ながら、ジャティスが闇から何かを引きずり出す。

それは…

 

「箱?」

 

箱としか形容のしょうがない、箱だった。

そしてその中から出てきたのは、黒光りして赤い線が走る、多面結晶体型の宝石だ。

 

「これは彼、大導師が数千年かけて造り出したものさ。このままお蔵入りはもったいないだろ?だから突貫工事で、一応使える程度には仕上げたのさ」

 

まさか…あれが!?

それに気づいた時には、既に術式が発動していた。

間に合うか…!

 

「みんな!【マインド·アップ】!急げ!」

 

その直後、眩しい光が俺たちを包んだ。

 

 

 

「大丈夫かい?わしの可愛い孫娘」

 

「…お爺様」

 

「さあ行くよ、システィーナ。叡智の門の鍵は開いている」

 

「ええ、行きましょう!お爺様!」

 

システィーナは祖父のルドルフと、メルガリウスの天空城の謎を解き、ついにそこに足を踏み入れ、その光景をいつまでも眺め続けた。

 

 

 

「うふふふ、素敵よ。エルミアナ。彼もメロメロよ?」

 

「ふふっ、ルミィったら、本当に綺麗。愛しの彼もイチコロね?」

 

「お、お母さん!///姉さん!///」

 

「でもしばらくは、公務の合間を縫って、こうして3人で何気ない話をして、のんびり紅茶でもいただきましょうか」

 

「じゃあ私は、早速お茶会の準備をしてきますね、母様」

 

「私…2人のことが大好きです!ずっと…ずっと一緒にいられるのいいですね!」

 

社交界デビューの着せ替え人形にさせられていたルミアは、そのまま母のアリシアと姉のレニリアと、楽しいお茶会をした。

 

 

 

「コラぁぁぁぁぁ!!リィエル!待ちなさい!」

 

「むぅ…イルシア、しつこい」

 

「君たちはどうしてこう、双子なのにこうも違うかな…?。それはさておき、おやつに苺タルトを作ったけど…」

 

「っ!」

 

「ぁぁぁぁあ!待ちなさいリィエル!また私の分まで食べたら許さないからね!」

 

「…さて、腹ごしらえでもしたら、リィエルの勉強を見てあげるかな」

 

リィエルは双子のイルシアと、2人の兄シオンと共に暮らす。

それはなんてことない、とある兄妹たちの普通の日常だった。

 

 

 

…様。兄様!」

 

「んぁ…?」

 

この声…ベガか?

なんかすげー夢見てた気がする…。

でもなんの夢だっけ?

 

「もう。朝ごはんできてますよ、兄様」

 

俺のベッドの横には、腰に手を当てて()()()()し、少しムスッとした顔をするベガ。

 

「あぁ…わりぃ。先に行っててくれ。すぐに行く」

 

俺はそう言ってベガを部屋から出し、学院の制服に着替える。

東の辺境の村の生まれの俺たちだが、魔術を学ぶため、このフィジテにあるレストランで住み込ませてもらっている。

ベガがいるのは、将来的にベガも通うため、先にフィジテに慣れさせよう、ということらしい。

 

「おはよう。爺さん。婆さん」

 

「おはよう」

 

「おはよう。アルタイル。さあさあ、早くお食べ」

 

「はーい。いただきまーす」

 

…うん。

相変わらず婆さんとベガの飯は美味い。

そう思いながら食べ進めていると、爺さんが何かを滑らせてきた。

 

()()からだ」

 

「お、マジで?」

 

()()()()()からか…。

遠いため、月一くらいのペースで手紙を送りあっている。

どうやら村も特に変わったことは無いらしい。

あとは長期休暇には帰ってこい…か。

 

「ベガ〜。()()()()が今度の長期休暇は帰ってこい、ってさ」

 

()()()()()()()がですか?分かりました。兄様も早めに予定を教えてくださいね?」

 

「おう。…ってやべっ!?遅刻する!」

 

慌てて飯を食べて、バッグを持って店を出る…って忘れ物!

 

「忘れ物した!」

 

俺は慌てて部屋まで駆け上がり、机に上に置きっぱにしてあった、()()()()を片手に階段を飛び降りる。

そんな騒がしい俺を、呆れたように見る爺さんと、微笑ましそうに見る婆さん。

そして困ったように笑うベガ。

 

「よし!行ってきます!」

 

「行ってこい」

 

「行ってらっしゃい」

 

「行ってらっしゃいませ、兄様!」

 

俺は店のドアを開けて、フィジテの街を走り抜ける。

走って走って走って…そして…

 

 

 

魔王遺物【輝ける偏四角多面体(トラペゾヘドロン)】…これが大導師の奥義。

この物質には、夢と現実の境界線を弄る力がある。

この力を利用し、人の夢と現実をそっくり入れ替える…これが大導師の計画の全容。

各個人にとって、最も幸福な世界線として、それぞれが独立し、永遠に続く。

そして現実の肉体は、赤い結晶体の中に閉じ込められ、永遠に存在し続ける、永劫不朽の石と化す。

外からこれを解くには、世界を一つ壊す程の破壊力が必要になるが、そうすれば中の人物の精神がどうなるか、想像すら出来ない。

…そう、外からは、だ。

 

 

 

「だ…ラァァァァァア!!!」

 

「ぐぅぅぅぅ!」

 

「はぁ…!はぁ…!」

 

「ん…!」

 

クッソ…何とか破れたか…!

あぁクソ!

悪趣味も大概にしやがれ…あの腐れ魔王!

 

〖あ、あなたたち…!〗

 

「ククク…夢は所詮夢。本人がそれを望まなければ、醒めるは道理さ。【禁忌教典(アカシックレコード)】の力があればともかく、こんな子供だましが通用するような彼らじゃない。…ああ、一応弁明すると、夢の内容に関しては関与してないよ。個人が心のどこかで望んでいる夢さ。だから僕を責めるのは…!…筋違いなんだけどなぁ」

 

チッ…難なく防ぎやがって…!

 

「手ぇどけろよ。その舌引っこ抜くからさ」

 

「それは無理な相談だね」

 

貫手を掴まれたまま、俺とジャティスは睨み合う。

内容に関与してない?

知るかそんなもの。

 

「テメェ…絶対ェぶっ潰す!」

 

「酷い屈辱…!絶対に許しません!」

 

「本っ当にムカつく人だわ!」

 

「ん。絶対にボコる」

 

俺は【次元跳躍】で距離をとり、ルミアたちと共に構える。

どうやら全員、怒り心頭らしい。

どんな夢見たかは知らないが、そりゃあんな幸福な夢見させられたら…腹も立つわな。

とにかく今やれることはひとつだ。

 

「徹底的に攻める!何とか弱点を炙り出すぞ!」

 

「ええ!先生!私たちがフォローします!行きましょう!」

 

…だが。

何故か先生からの返事がない。

…まさか…。

俺たちが慌てて振り返るとそこには…

 

「…先生?」

 

未だ結晶の中に囚われている、グレン先生の姿があった。

 

 

 

ガラガラガラ…ゴロゴロゴロ…。

 

心地よい揺れと音の中、俺の意識が揺れる。

頬を撫でる爽やかな風。

不意になにか小さく、柔らかいものが頬に触れた。

じんわり温かく、いつまでも感じていたい。

でもすぐに離れてしまい、その名残惜しさに、やっと俺の意識が覚醒しだした。

 

「…ん…?」

 

見渡す限りの穏やかな大草原。

ここは…一体…?

 

「あ…ご、ごめんねグレン君。起こしちゃった…かな?。南原のアルディアまでまだもう少しあるから、寝ててもいいよ?」

 

この…声は…。

すぐ隣から声が聞こえた。

シルクのような白い髪に白い肌。

民族的な衣装と羽根飾り。

肌や頬には赤い顔料で描かれた紋様。

 

「…ぁ…ぁぁ…」

 

何故か、もう二度と見ることは無い…そう思っていた。

 

「どうしたの?グレン君…泣いてるの?なにか怖い夢でも見たのかな?」

 

そう微笑むその顔に、俺はつい顔を背ける。

 

「バカ…そんなんじゃねぇ。子供扱いすんな」

 

そもそもなんの夢見てたかなんて、すっかり忘れた。

きっとその程度のものなんだろう。

だから、何故か思い出さなくてはいけない気がする…そんな感情は押し殺す。

 

「…()()

 

「なぁに?ふふっ。今日はなんだかおかしなグレン君♪」

 

()()=()()()()()()()がそこにいる。

()ではない。

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