此方ではない彼方。
彼方ではない此方。
どこか明確には言えない場所にて、アルタイル達は最強最悪の敵、ジャティスとの最終決戦を迎えていた。
「…先生?」
そんな中、ジャティスは大導師の遺した遺産、【輝ける
夢の中に閉じ込められたアルタイル達だが、何とかそこから脱出することが出来た。
…グレンを除いた4人は、だが。
「…せ、先生?何をしてるんですか?」
「あの…先生?」
「グレン?」
〖ちょっと…何してるのよ?早く起きなさいよ…〗
結晶に閉じ込められたままのグレンを見て、呆然とする4人とナムルス。
そんな様子を見てジャティスは、帽子を深く被り直した。
「薄々分かってはいたけどね…。君はここまでだ、グレン。結局君は…この程度だった。僕の勘違いか、買い被りか。さようなら、僕の好敵手だった男。どうか眠れ。穏やかに…安らかに…」
そんなジャティスの顔は、どこか哀しげな顔だった。
「…おい。お前、何をした?」
いつまでも起きない先生から、俺はジャティスへと視線を向ける。
「何って…ああ。君達にはまだ、こいつの説明をしてなかったね」
その手にあるのは立方体の箱。
その中には赤い結晶が入っていた。
「これは【輝ける
…幸せな世界…か。
なるほど、確かにあれは幸せな世界だ。
全てが満ちていて、全てが手に入った世界。
「一方この肉体はこうして結晶に包まれ、永久的に消えることはなくなる。それを壊すには世界を崩壊させるレベルの破壊が必要だ。
だがそれをすれば、精神がどうなるか分かったものではないけどね。その結晶から出る方法は一つ」
「俺達みたいに夢を拒絶すること…そうだな」
「そうさ」
「…そうか」
必要なことは聞けた。
つまり俺らから先生にどうこう出来ることは無い。
なら俺らがやることは一つ…。
「『宙の最果て·星々の錨·我は六天三界を穿つ者なり』」
空天神秘【WORLD ANCHOR】を起動する。
世界の重力を支配する。
「ア、アイル君…」
「ボサっとすんな!構えろ!先生が戻ってくるまで、俺達でジャティスと戦う!なんなら勝つ!!」
強気な俺を見て、ジャティスはニヤリと笑う。
「君達で僕に勝つ?それは無理だよ。君達如きでは、僕の足元にも及ばない」
まあ、そうだろうな。
これだけ強気に言ってなんだが、多分…いや、間違いなく俺達ではジャティスに勝てない。
それだけの差がある。
だが…
「それをどうにかするのが魔術師だろうが」
思考を止めるな。
冷静さを失うな。
足りないならかき集めろ。
知恵を…力を…全てを絞り出せ。
最後の一滴まで…余すことなく…!
「あいにく俺は、賢く生きる気は無いんでな」
「…ええ。ええ!そうよ!やってやるわよ!」
「私達も戦う!行けるよ!アイル君!」
「ん!倒す!」
俺の隣にシスティ達も並ぶ。
そんな俺達を見て、ジャティスは満足気に笑いながら、腕を振り
「…いい。いいよ。さあ、来たまえ!僕の正義を以て、君達を倒そうじゃないか!」
「倒すのは俺達だ!行くぞ!」
こうして俺達は、何度目かの衝突した。
世界を崩壊させかねない戦いの火蓋は、再び切って落とされたのだった。
…
そう、これは
「セラァァァァァァァア!!!」
夢の中で俺は、ぐったりとしたセラを抱きかかえ叫んだ。
身体に刻まれた致命的な斬痕から、噴き出している真っ赤な鮮血。
既に手遅れだと伝えてくる、冷たい身体。
「畜生…!■■■■■の野郎…よくも…!」
怒りが溢れてくる。
■■■■■の名前が思い出せないが、セラを殺した憎い仇に対する怒りと、それ以上に
セラを■■■■■から守れなかった、自分自身への憤怒に身体を震わせながら、涙を流すしかない。
あと1人誰かいたら変わったかもしれない。
この時●●●●●がいたら、まだ間に合ったのかもしれない。
顔も名前も思い出せない●●●●●にすがりたくなるほど、俺は怒りと絶望感に苛まれていた。
これからだったのに。
やっとセラへの想いに気づいて、これからはセラだけの正義の魔法使いになろうと。
そう決めたばかりだったのに…あんまりだ。
「クソ…すまねぇ…セラ…俺は…」
「ううん、いいの。…貴方が無事で…良かった…」
必死に掠れた声を出すセラ。
あぁ…もう限界なのか…。
「あぁ…でも…帰りたかったな…。夢だった…。どこまでも広がる…アルディアの草原と…あの…優しい風の匂い…。懐かしいな…帰りたい…叶うなら…貴方と、一緒に…」
「せ、セラ…」
無意味だと分かりつつも、何とか繋ぎ止めようと、必死に抱きしめる。
だが死神はセラの手を引き、情け容赦なくどこかへ連れていこうとする。
「ねぇ…グレン…く、ん…」
そして最後に
「………、…………を、……………で…」
ほとんど聞き取れなかった。
そんな失
それを最後にセラは…。
(…最悪の夢だった)
グレンの目の前には、広大な草原の中、馬車の御者席に座り馬を制御しながら、夢を振り返る。
だがその夢は、まるで蜃気楼のように消えており、しょうじき何も思い出せない。
ただ胸に残る、果てしない怒りと絶望感が、ひたすらグレンを苛む。
「グレン君。大丈夫?」
「あぁ…。クッソ眠いだけだ」
心配そうにするセラを適当にあしらいながら、目的地を目指す。
セラ曰く、いくら南方の遊牧民族であろうとも、法や秩序は存在しており、諍いが起きた際その仲裁を行う氏族がセラの生家、シルヴァース家なのだ。
それゆえシルヴァース家は氏族の中では一番古く大きく、それに伴う責任と立場を持っている。
そして奇妙な話だが、遊牧民族でありながら、定住しなくてはいけないのだ。
南方のアルディア首都アルディリア、そこが目的地だ。
「…ふぅ、やっとか」
そんなグレンの視線の先には、遥か地平線の辺りに見え始めた山々の影。
その麓にある明らかな人工物の影…つまり都市の影だ。
「お疲れ様。あと少しだよ、グレン君」
「…言うてまだ、半日くらいはあるぞ」
「じゃあ少し早いけど、先にご飯にしようか」
そう提案したセラに乗り、セラが食事の準備をする間に、火起こしをするグレン。
「火打ち石はっと…あん?なんだこれ?手紙?」
自分の背嚢の中に紛れていた、差出人不明の自分宛の手紙。
中にはこんな内容の手紙が入っていた。
ーー貴方はこの世界から出られない。
ーー貴方をこの世界へ縛り付ける存在がいるから。
ーーだけどこの世界には、たった一つの分岐点があり、それが唯一の帰還点。
ーー貴方の原初を思い出せ、選択を見誤るな。
「…なんだ、これ?」
意味不明な文面に、首を傾げていると、不意にポケットに何かあることに気づく。
「…ああ。ここにあったのか火打ち石。…うん?まだ入ってる?」
さらに漁ると出てきたのは、赤い五芒星に編まれた何かだ。
「これも一体なんだ…?」
訳が分からず捨てようとして、不意にグレンの手が止まった。
何故か捨ててはいけない…そんな気がした。
(なんなんだよ…)
「グレンく〜ん!まだ〜?」
「あ、あぁ!すぐ行く!」
急かされたグレンはすぐに、組み上げた簡易的な炉に火をくべた。