ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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よろしくお願いします。


愚者の旅路編第1話

此方ではない彼方。

彼方ではない此方。

どこか明確には言えない場所にて、アルタイル達は最強最悪の敵、ジャティスとの最終決戦を迎えていた。

 

「…先生?」

 

そんな中、ジャティスは大導師の遺した遺産、【輝ける偏四角多面体(トラペゾヘドロン)】を起動。

夢の中に閉じ込められたアルタイル達だが、何とかそこから脱出することが出来た。

…グレンを除いた4人は、だが。

 

「…せ、先生?何をしてるんですか?」

 

「あの…先生?」

 

「グレン?」

 

〖ちょっと…何してるのよ?早く起きなさいよ…〗

 

結晶に閉じ込められたままのグレンを見て、呆然とする4人とナムルス。

そんな様子を見てジャティスは、帽子を深く被り直した。

 

「薄々分かってはいたけどね…。君はここまでだ、グレン。結局君は…この程度だった。僕の勘違いか、買い被りか。さようなら、僕の好敵手だった男。どうか眠れ。穏やかに…安らかに…」

 

そんなジャティスの顔は、どこか哀しげな顔だった。

 

 

 

「…おい。お前、何をした?」

 

いつまでも起きない先生から、俺はジャティスへと視線を向ける。

 

「何って…ああ。君達にはまだ、こいつの説明をしてなかったね」

 

その手にあるのは立方体の箱。

その中には赤い結晶が入っていた。

 

「これは【輝ける偏四角多面体(トラペゾヘドロン)】。この偏四角多面体には、夢と現実の境目を弄る力がある。この力を利用することで、人の夢と現実をそっくりそのまま、入れ替える術式なのさ。その夢は当人にとって現実のなり、その先に一つの確たる新たな世界を創造する。その人の最も幸せな世界がずっとね」

 

…幸せな世界…か。

なるほど、確かにあれは幸せな世界だ。

全てが満ちていて、全てが手に入った世界。

 

「一方この肉体はこうして結晶に包まれ、永久的に消えることはなくなる。それを壊すには世界を崩壊させるレベルの破壊が必要だ。

だがそれをすれば、精神がどうなるか分かったものではないけどね。その結晶から出る方法は一つ」

 

「俺達みたいに夢を拒絶すること…そうだな」

 

「そうさ」

 

「…そうか」

 

必要なことは聞けた。

つまり俺らから先生にどうこう出来ることは無い。

なら俺らがやることは一つ…。

 

「『宙の最果て·星々の錨·我は六天三界を穿つ者なり』」

 

空天神秘【WORLD ANCHOR】を起動する。

世界の重力を支配する。

 

「ア、アイル君…」

 

「ボサっとすんな!構えろ!先生が戻ってくるまで、俺達でジャティスと戦う!なんなら勝つ!!」

 

強気な俺を見て、ジャティスはニヤリと笑う。

 

「君達で僕に勝つ?それは無理だよ。君達如きでは、僕の足元にも及ばない」

 

まあ、そうだろうな。

これだけ強気に言ってなんだが、多分…いや、間違いなく俺達ではジャティスに勝てない。

それだけの差がある。

だが…

 

「それをどうにかするのが魔術師だろうが」

 

思考を止めるな。

冷静さを失うな。

足りないならかき集めろ。

知恵を…力を…全てを絞り出せ。

最後の一滴まで…余すことなく…!

 

「あいにく俺は、賢く生きる気は無いんでな」

 

「…ええ。ええ!そうよ!やってやるわよ!」

 

「私達も戦う!行けるよ!アイル君!」

 

「ん!倒す!」

 

俺の隣にシスティ達も並ぶ。

そんな俺達を見て、ジャティスは満足気に笑いながら、腕を振り擬似霊素粒子(パラ·エテリオン)をばら撒き、創世級(ジェネシス)の天使たちを生み出す。

 

「…いい。いいよ。さあ、来たまえ!僕の正義を以て、君達を倒そうじゃないか!」

 

「倒すのは俺達だ!行くぞ!」

 

こうして俺達は、何度目かの衝突した。

世界を崩壊させかねない戦いの火蓋は、再び切って落とされたのだった。

 

 

 

()()()()

そう、これは()()()()だ。

()()()()()()()()()()

 

「セラァァァァァァァア!!!」

 

夢の中で俺は、ぐったりとしたセラを抱きかかえ叫んだ。

身体に刻まれた致命的な斬痕から、噴き出している真っ赤な鮮血。

既に手遅れだと伝えてくる、冷たい身体。

 

「畜生…!■■■■■の野郎…よくも…!」

 

怒りが溢れてくる。

■■■■■の名前が思い出せないが、セラを殺した憎い仇に対する怒りと、それ以上に

セラを■■■■■から守れなかった、自分自身への憤怒に身体を震わせながら、涙を流すしかない。

あと1人誰かいたら変わったかもしれない。

この時●●●●●がいたら、まだ間に合ったのかもしれない。

顔も名前も思い出せない●●●●●にすがりたくなるほど、俺は怒りと絶望感に苛まれていた。

これからだったのに。

やっとセラへの想いに気づいて、これからはセラだけの正義の魔法使いになろうと。

そう決めたばかりだったのに…あんまりだ。

 

「クソ…すまねぇ…セラ…俺は…」

 

「ううん、いいの。…貴方が無事で…良かった…」

 

必死に掠れた声を出すセラ。

あぁ…もう限界なのか…。

 

「あぁ…でも…帰りたかったな…。夢だった…。どこまでも広がる…アルディアの草原と…あの…優しい風の匂い…。懐かしいな…帰りたい…叶うなら…貴方と、一緒に…」

 

「せ、セラ…」

 

無意味だと分かりつつも、何とか繋ぎ止めようと、必死に抱きしめる。

だが死神はセラの手を引き、情け容赦なくどこかへ連れていこうとする。

 

「ねぇ…グレン…く、ん…」

 

そして最後に

 

「………、…………を、……………で…」

 

ほとんど聞き取れなかった。

そんな失われてしまった(Lost)最後の(Last)言葉(Word)

それを最後にセラは…。

 

 

 

(…最悪の夢だった)

 

グレンの目の前には、広大な草原の中、馬車の御者席に座り馬を制御しながら、夢を振り返る。

だがその夢は、まるで蜃気楼のように消えており、しょうじき何も思い出せない。

ただ胸に残る、果てしない怒りと絶望感が、ひたすらグレンを苛む。

 

「グレン君。大丈夫?」

 

「あぁ…。クッソ眠いだけだ」

 

心配そうにするセラを適当にあしらいながら、目的地を目指す。

セラ曰く、いくら南方の遊牧民族であろうとも、法や秩序は存在しており、諍いが起きた際その仲裁を行う氏族がセラの生家、シルヴァース家なのだ。

それゆえシルヴァース家は氏族の中では一番古く大きく、それに伴う責任と立場を持っている。

そして奇妙な話だが、遊牧民族でありながら、定住しなくてはいけないのだ。

南方のアルディア首都アルディリア、そこが目的地だ。

 

「…ふぅ、やっとか」

 

そんなグレンの視線の先には、遥か地平線の辺りに見え始めた山々の影。

その麓にある明らかな人工物の影…つまり都市の影だ。

 

「お疲れ様。あと少しだよ、グレン君」

 

「…言うてまだ、半日くらいはあるぞ」

 

「じゃあ少し早いけど、先にご飯にしようか」

 

そう提案したセラに乗り、セラが食事の準備をする間に、火起こしをするグレン。

 

「火打ち石はっと…あん?なんだこれ?手紙?」

 

自分の背嚢の中に紛れていた、差出人不明の自分宛の手紙。

中にはこんな内容の手紙が入っていた。

 

ーー貴方はこの世界から出られない。

ーー貴方をこの世界へ縛り付ける存在がいるから。

ーーだけどこの世界には、たった一つの分岐点があり、それが唯一の帰還点。

ーー貴方の原初を思い出せ、選択を見誤るな。

 

「…なんだ、これ?」

 

意味不明な文面に、首を傾げていると、不意にポケットに何かあることに気づく。

 

「…ああ。ここにあったのか火打ち石。…うん?まだ入ってる?」

 

さらに漁ると出てきたのは、赤い五芒星に編まれた何かだ。

 

「これも一体なんだ…?」

 

訳が分からず捨てようとして、不意にグレンの手が止まった。

何故か捨ててはいけない…そんな気がした。

 

(なんなんだよ…)

 

「グレンく〜ん!まだ〜?」

 

「あ、あぁ!すぐ行く!」

 

急かされたグレンはすぐに、組み上げた簡易的な炉に火をくべた。

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