ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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よろしくお願いします。


愚者の旅路編第2話

ついにグレン達は、南原アルディアの首都、アルディリアに着いた。

帝国でよく見られる高い城壁ではなく、ちょっとしたハシゴさえあれば簡単に越えられそうなものだ。

その代わりとてつもなく長い。

 

「遊牧民族だから、馬に乗り越えられなきゃ大丈夫なの」

 

というセラの説明を聞きながら、城門をくぐるグレン。

その先に広がる畑の光景を見て驚くグレンに、セラは笑う。

 

「あはは。何?その顔。私達が全員、放浪生活をしてる訳じゃないよ?定住を選ぶ人だっているんだから」

 

そのまま進んでいき、気付けばすっかり都心部に着いていた。

平たい白レンガ造りの家屋に、赤い顔料で描かれた民族模様。

いよいよ実感してくる異国の雰囲気。

だが一番グレンが驚いたのはそこではない。

 

「とにかく人が多いな…」

 

その圧倒的な人の数に、グレンは圧倒されていたのだ。

大通り沿いに広がる野菜や食料、生活必需品や木彫り細工にアクセサリーなど、多くの露店が直接絨毯を引き連なっている。

買い物をするのは地元の者だけでは無い。

ターバンを巻いた南大陸の商人、着物を着た東方中原諸国の商人、グレン達西側諸国の商人など、それぞれの特産品を手に商売に励む姿など、様々な人々で賑わっていた。

 

「時代が変わったからね。今ではほとんどの氏族がこうしてこの街で商売をして、放浪では手に入らないものを買ってる。幸いここの特産品は、どれも大人気の高級品だから、需要が高いの。こういうものを求めて来た行商人さん達のおかげで、ここまで発展したっていう面もあるの」

 

「なるほどなぁ」

 

セラの説明を聞き感心するグレン。

そんなこんなで中心部にある、一際大きいレンガ造りの宮殿のような場所に着く。

 

「ここか?」

 

「うん。私の実家、シルヴァニア宮殿だよ。…帰ってきたんだ。私…」

 

「…」

 

嬉しそうに笑うセラを見て、何故かかける言葉を見つけられなかったグレンなのだった。

 

 

 

ド緊張…のはずだったか、いつの間にか調子を狂わされた砕けたご両親への挨拶を終え、さてほっと一息…かと思えば。

 

「なぁんでこんなに人が集まってんだ…?」

 

ここは宮殿の敷地内に設けられた、闘技演武場。

そこに立たされるグレンの前には、セラによく似た少女が一人。

彼女の名はシス=シルヴァース。

セラに従姉妹にあたり、次代の【風の戦巫女】である。

今からシスと決闘をすることになったグレン。

何故こうなったのかと言うと…

 

「セラお姉様がこんな何処の馬の骨とも知れないものに娶られるなんて、私は反対です!」

 

…という、本来父親でありシルヴァースの族長、アルディアの王である、シラス=シルヴァースとやるべきやり取りを、まさかの従姉妹と繰り広げたからである。

ちなみにシラスとその妻サーラは、結婚に大賛成だった。

 

「…なぁんか、懐かしいな。この感じ」

 

不意に胸に過ぎった、懐かしい感覚。

苦くて重くて、それでいて眩しい…そんな思い。

 

「…今回はマジでいくぜ。悪ぃな、白猫」

 

「何訳分からないことを言ってるんですか!あと猫扱いしないでください!」

 

 

 

始まった2人の決闘。

【風の戦巫女】とは、シルヴァース最強の戦士に与えられる二つ名だ。

故に下馬評では、圧倒的にシスが優勢だった。

なのだが…

 

「よっと」

 

「ふぎゃあ!?」

 

実際にやってみると、グレンの圧勝に終わった。

挙句にこれでもまだ、セラに頼まれ手加減している。

その後始まった酒宴。

 

「酒宴…?な、なぁセラ。南原の人達って…」

 

「えぇっと…うん、まあ。お酒、滅茶苦茶強いよ?」

 

「そうだよなぁ…。みんながみんな、セラみたいにバカ強いんだよなぁ…」

 

「え?()()()()()()()()

 

「…」

 

実は可愛らしい風のお姫様であるセラ、特務分室ではぶっちぎりの酒豪なのだ。

あの酒豪で鳴らすバーナードすらぶっ倒す。

 

(あれより…強い?)

 

自分の肩を組んで来る各氏族の族長たちの笑顔。

とてもいい笑顔なのに、悪魔の微笑みに見えてくるグレン。

 

「えぇっと…死なないでね?グレン君。私、結婚前に未亡人にはなりたくないよ?」

 

そんな不安げな未来の妻をジト目で見てから…

 

「だ…誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」

 

そんな大声をあげるグレンなのだった。

 

 

 

…夢を見る。

ウォトという、糖酒をバカみたいに飲まされたせいか、中々ぶっ飛んだ夢を見る。

 

「はぁぁぁぁぁあ!『Iya,Ithaqua』!」

 

白い衣を纏った銀髪の少女は、どこかの誰かに似た風使いだ。

外宇宙の大いなる神性を従え操る光の風は、あらゆる次元と空間を超え、絶対零度の凍気が、男と天使の群れに襲いかかる。

 

「応えて!【私達の鍵】!」

 

右手に銀の鍵、左手に金の鍵を持つ金髪の少女は、時空の支配者だ。

次元の捻れが、亀裂が、歪みが、零次元空間圧縮が。

刹那に過ぎ、あるいは巻き戻され、小規模黒孔が、男と天使の群れに襲いかかる。

 

「【絆の黎明·神域】!いやぁぁぁぁぁあ!」

 

小柄な青髪の少女は、剣を必要ともしない剣士だ。

人の身でありながら、その領域を超えた剣神。

あらゆる運命と概念を斬り裂く銀の極光が、男と天使の群れに襲いかかる。

 

「【WORLD ANCHOR】!消し飛べ!」

 

黒髪の少年はこの世の全てを支える、重力の統治者。

引き寄せる引力と弾き出す斥力、相反する二つの力を混ぜ合わせ生み出された、全く存在しない架空の質量。

世界を崩壊させる程の破壊力を持つその一撃が、男と天使の群れに襲いかかる。

こんな少年少女達の攻撃を喰らえば、普通は肉体は消滅し、魂は滅殺され、概念も滅ぼされ、来世すら残らない。

禁忌経典からすら消されるだろう。

だが…にも関わらず…

 

正義(ジャスティス)ッ!」

 

男には全く効かなかった。

そのまま再び天使を生み出し、左手の偃月刀で斬りかかる男。

 

「チッ…ウゼェんだよ!」

 

そんな偃月刀に、赤い糸で編んだ槍を片手に撃ち合う少年。

そんなあまりにも非現実めいた光景に、俺は乾いた笑みを浮かべるしかない。

はっきり言って勝てない。

確かに少年少女達は世界最強クラスだ。

だがそれでも、この男はその上を行く。

 

「グゥ…ッ!いい加減にしつこいな!まだ行けるよな!みんな!」

 

「ええ!まだまだよ!」

 

「うん!戦える!」

 

「行ける!」

 

弾き飛ばされた少年の隣に、少女達が並ぶ。

圧倒的戦力差を前に、まだ抗おうとするその姿は痛々しく…青臭く…眩しく…そして何より。

 

「先生は絶対に帰ってくる…!だから私達でそれまで耐え凌ぐの!」

 

焦燥感に駆られていた。

何故か知らないが、早く行かなくては…。

でもここはどこだ?

そんな訳が分からないまま、ただその光景を見るだけ。

 

「先生がどんな夢を見てるかは知らないけど…でも夢の中で立ち止まり続けるはずがない!だってあの人は…あの人は…!」

 

あの銀髪の少女は何を言っている?

意味が分からない。

『夢の中で立ち止まり続けるはずがない!』?

何を言っているだ?

 

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