ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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よろしくお願いします。


愚者の旅路編第3話

「…おぇぇ…完っ璧に二日酔いだぜ…」

 

「あはは…ご苦労さま」

 

【ブラッド·クリアランス】まで使い、血液内のアルコールを減らして参加した酒宴の翌日、すっかり二日酔いのグレンはシラスに呼び出されていた。

その内容はというと…

 

「まず婚礼の儀の日取りが決まった。一週間後だ」

 

婚礼の儀には、南原特有の文化があるため、色々と用意が必要なのだ。

そして二つ目が…

 

「…え?き、教師!?俺が!?」

 

アルディリアにある学び舎で、講師を務めて欲しいという内容だった。

そんなこんなで引き受けた教師役。

着いた学校はアルザーノ帝国魔術学院とは比べるべくもない、学校というより日曜日の教会の延長線上のようなものだった。

そして教室に入った時…

 

『先生!また遅刻ですよ!』

 

『まあまあ、システィ。先生も色々あったんだよ』

 

『いやいや、どうせ寝坊でしょ』

 

『ん。苺タルトおいしい』

 

どこかで見た気がする少年少女達が、どこか親しげで気安げな視線を向ける。

 

「…グレン君?」

 

「…あ?」

 

(なんだ…今の?)

 

教室に入るなり呆然とするグレンに、セラが心配そうに声をかける。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁあ!?なんで貴方がここに!?」

 

そんなグレンの悩みをぶった斬る絶叫。

そこにいたのはシスだ。

 

「ってお前もいるんかーい」

 

そんな訳で見事にギスギスなグレンだったが、【ショック·ボルト】を題材にした授業を行った結果、見事に生徒達の心を掴んだ。

…だがシスの抱える迷いや葛藤には、まだ遠く届かなかった。

シスがシルヴァース家の秘宝の一つ、【風の鳩琴(オカリナ)】と共に消息を絶ったのはこの日の夜のことだった。

 

 

 

そしてその事実に気付いたセラ達は、シスの行方がカーダス山脈だと当たりをつけた。

かつてシルヴァース家は【大いなる風の一族(パイレ·デル·フィーベル)】として、風の神に仕える神官だった。

途中でシルヴァース家は【大いなる風の一族(パイレ·デル·フィーベル)】から分家。

その際に賜ったのが【風の鳩琴(オカリナ)】だった。

 

「君には怪しく聞こえるかもしれないが、我々には神の声が聞こえるのさ。概念的なものではなく、大いなる神性のね。ただシスには神の声が聞こえないんだ」

 

「でも神は人間の味方じゃない!無色透明の暴力そのもの!神の声が聞こえてないのに【風の鳩琴(オカリナ)】で無理やり従えようだなんて、力を暴走させるだけなの!」

 

「しゃーねー。いっちょ行くか!」

 

グレンはセラと共に、カーダス山脈へと辿り着く。

だが既に時は遅く…

 

ーー汝、時渡る狂気と暴威。風に依りて永劫を引き裂く者。

ーー汝に仕えし旧き神官の系譜シルヴァースの風の戦巫女が此処に希う。

ーー『Iya,Ithaqua』

 

それはスペリングではなく、鳩琴の旋律が奏でる音。

そしてシスを依り代に現れるは、数多の風を従え、時と空間を超え三千世界を永劫渡り歩く、大いなる神性。

かの神性の名は…風を統べる女王、風神イカータ。

 

「…あぁ…ァァァァア!?やめて…私を食べないでぇぇぇぇぇぇ!!?」

 

だがシスには…否、人間では外宇宙の神を降ろすなど、出来るはずもなく。

シスは少しづつ、その体と精神を蝕まれ出した。

 

「ど、どうすればいい!?セラ!」

 

「今、シスと神を繋いでるのは【風の鳩琴(オカリナ)】だから、あれを破壊すれば…!」

 

「チッ。秘宝らしいが仕方ねぇよな!」

 

グレンが魔銃【ペネトレイター】を構える。

確かに現状の距離なら、グレンは確実に当てられる。

だが…

 

(クソ…!風の動きが不規則すぎて読み切れねぇ!)

 

イカータの撒き散らす風が、その狙撃の予測の邪魔をする。

忌々しそうに銃をしまった直後

 

ーー【ペネトレイター】で、どうにかなる状況かよ。少しはマジになれや。

 

気付けば。

自分の隣に()()()()()()

どこか見覚えのある服装に、ぼろのマント。

その目はしっかりとシスを見ていた。

 

「グレン君!どうしたの!?」

 

そんなセラの声が聞こえた時には、影も形も無くなっていた。

 

「ッ!?す、すまねぇ!【ペネトレイター】じゃ無理だと思ってよ!だが俺にはこれがある!」

 

そう言って引き抜いたのは、古めかしい火打ち石式拳銃(フロントリック·ピストル)

 

「この銃弾の軌道を操作できる【クイーンキラー】なら行ける!」

 

「…ねぇ、グレン君?そんな銃持ってた?ううん、今どこから出したの?」

 

自信満々に説明しようとしたグレンに、セラは困惑気味に尋ねる。

だがグレンは、それには答えられなかった。

だがそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…行け!」

 

それを振り切るように放つ【クイーンキラー】の銃弾。

だがその大口径の銃弾すら、荒れ狂う風の前に粉々に切り刻まれてしまった。

 

「うげっ…!?マジかよ!?」

 

しかもその行動のせいで、完全にイカータから敵判定されたグレンは、その恐ろしい風に襲われる。

 

「グレン君!」

 

だがそれは、すぐさま鳩琴(オカリナ)を吹いて風を操るセラによって阻まれる。

しかし、そのセラもここまでの移動の【疾風脚(シュトルム)】のせいで、大きく魔力を消耗している。

 

「ゲホッ!ゴホッ!」

 

「セラ!」

 

血を吐くセラに、グレンはかつてない危機感を抱く。

 

(()()()()()()()?また俺は、()()()()()()()?)

 

そんな訳分からない事を思い、猛烈な焦燥感に駆られていた。

 

(どうすれば…!?どうすればいい!?)

 

ーーそんなもん決まってんだろ?いつまで寝ぼけてやがるんだ、お前。

 

再びもう一人のグレンが声をかけてきた。

 

ーー【クイーンキラー】…いい線いってたんだけどな。だかああいう外宇宙の邪神共を相手にするにゃ、少々役不足だ。そんなのとっくの昔に分かりきってただろ。

 

呆れ返ったようなもう一人のグレン。

このグレンが何者なのか…それは今のグレンには分からない。

否、()()()()()()()

 

「じゃあどうしろってんだよ!?クソッタレが!」

 

ーーだから、いつまで寝ぼけてんだよ。

 

さらに呆れてようなもう一人のグレン。

 

ーー今のお前には()()だろうが。

 

「ッ!?」

 

その言葉を最後に、もう一人のグレンは消えた。

そう…あるのだ。

そんなことは()()()()()()()()()()

だが()()()()()()()()()

 

「…ッ!」

 

やがて決意を決めたグレンは、セラの隣に並び立つ。

 

「ぐ、グレン君!?危ないよ!」

 

「いや、もう大丈夫だ」

 

そう言って左手を前に掲げ、何やら呪文を唱えた瞬間、眩い光とともに赤い魔晶石が現れた。

それを握り小さくブツブツと呟き…

 

「時天神秘【OVER CHRONO ACCEL】」

 

その瞬間、全ての時が止まった。

 

「え?…ぇぇぇぇぇえ!?」

 

驚くセラを他所に、グレンは歩いてシスに近づき、魔銃【ペネトレイター】を抜く。

 

「『0の専心(セット)』」

 

慎重に【風の鳩琴(オカリナ)】に狙いを定めて、一撃。

たった一発の銃弾で、南原崩壊の危機を救った。

その銃声は、まさに終わりを告げる鐘の音だった。

 

 

 

…歩み続ければいい…か。

未来への不安に押し潰されそうになったシスに、自分がかけた言葉。

それが深く俺の胸に刺さる。

そして俺は…再び夢を見る。

あの4人が、1人の男に挑む夢だ。

 

「君達は…いつまで戦い続けるんだい?」

 

「先生が帰ってくるまでだよ!それかお前をぶっ倒すまでだ!サイコ野郎!」

 

世界を引き裂く投槍の一撃が、黒い女神の一撃とぶつかり、文字通り世界を震撼させる。

 

「ジャティス。確かに貴方は強いわ。どれだけ歪み狂っていても、貴方の正義は本物。そこは…それだけは認めてあげるわ」

 

「お褒めに預かり恐悦至極だよ」

 

銀髪の少女の刺々しい言葉に、慇懃無礼に返す男。

 

「ならば理解したはずだ。君達では僕には勝てない、と」

 

「…そうね。それは否定しないわ。私達のこれまでの道が、これからの道が、正しいと信じてる。でもあまりにも貴方とは、かけてきた時間が違う」

 

そう言うと、男は手を叩いて褒めた。

 

「よく勉強してるじゃないか。そう、魔術の二大法則が一、【等価交換の法則】。魔術の本質とは、自分の心の有り様を極め、自らの在り方を突き詰めることに他ならない。君達の進んできた道や神秘、正義が僕に劣ってる訳では無い。ただ単純に…()()()()()。それだけだ」

 

「そりゃ5億年も自分の正義のために邁進してきた人なんて、世界広しと言えど貴方しかいないでしょうね!ありとあらゆる分枝世界を全てひっくるめても、いてたまるもんですか!」

 

「ふむ…そこまで分かってて、なぜ君達は僕と戦い続けるのかな?」

 

その声色に見下す意志も、挑発の意図も微塵も感じない。

ただひたすらに興味と敬意だ。

 

「…逆に聞くがよ。お前、逆の立場ならどうするよ?」

 

黒髪の少年がそう言い返すと、男は黙り込む。

 

「絶対に諦めねぇよな。死ぬその時まで。最後までお前はお前の正義を貫こうとするよな。それが答えだよ」

 

「私達は先生が帰ってくるって信じてる!だから戦える!だから諦めない!」

 

「だが一向に帰ってこない。君達は買いかぶり過ぎなんじゃないか?君達が思っているより、ずっと凡人なのかもしれないよ?」

 

「ハッ!何をいまさら。あの人は割とどこにでもいる凡人だ。どこにでもいる普通の人だ。…だからこそ!その苦しく険しい道を行くその姿は、何よりも尊かった!何よりも眩しかった!それはお前もよく分かってるはずだ!」

 

少年の強い言葉に、男はニヤリと笑う。

そんな男に銀髪の少女が続く。

 

「でも誰だって迷い時はあるわ!挫けそうになる時だってある!きっと先生は今、自分の最も根幹にある心的外傷…ある意味最強最大の敵と戦ってると思う!だから今度は私達が教えるの!先生がただあゆみ続けた先に未来があるって!ただそれだけで、先生は()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()!!」

 

それぞれの隣に立つ金髪の少女と青髪の少女も、黙って頷く。

そんな様子をしばらく黙っていると、不意に男が笑いだした。

 

「クククッ…!こんな立派な教え子達に恵まれるなんて、教師冥利に尽きるじゃないか。だが僕は容赦しない。『汝、他者の望みを炉にくべよ』…結局のところ、どれだけ綺麗事を並べても、ここに尽きる。なぜなら僕達は魔術師だからね」

 

そう言って山高帽をかぶり直す。

 

「さあ、若人達よ。君達の正義を謳うなら。僕という薪を炉にくべてみろ」

 

「語るに…及ばず!」

 

「端からそのつもりだ…行くぞ!」

 

再び始まる大激戦。

神々の黄昏(ラグナロク)のような光景を、ただ黙って見つめるのだった。

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