ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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よろしくお願いします。




愚者の旅路編第4話

これまでの日々は、本当に幸せだった。

セラのふとした仕草が、こちらを見て微笑む笑みが、愛しくて堪らなかった。

南原の人々も気がよく、悪くなかった。

シスを始めとする生徒達も、街のみんなも、みんな俺を慕ってくれた。

セリカとも話せた。

だからもう満足だ。

だから…もう…

 

 

 

「それではこれより、シルヴァースの姫にて【風の戦巫女】セラ。アルフォネアの伜グレン。両名の婚礼の儀を執り行います」

 

ついに、俺達の婚礼の儀が始まった。

ますセラが、【風の戦巫女】の地位を返上する。

【風の戦巫女】になるには、純潔の乙女という条件があるからだ。

そのまま手順通りに進み、ついに互いの誓いの言葉を述べる段階に。

 

「汝、風の民、シルヴァースの一族の姫、セラ。貴女はグレン=レーダスを夫とし、生涯をかけて愛し合い、共に歩む事を誓いますか?」

 

「はい、誓います。風の神の名において」

 

「汝、北の盟友の民、グレン。貴方はセラ=シルヴァースを妻とし、生涯をかけて愛し合い、共に歩む事を誓いますか?」

 

「…」

 

「…グレン君?」

 

黙り込む俺に、セラが不安そうに見る。

シラスさん達も何事かと、不振な目を向けてくる。

だが…俺は…悟ってしまった。

 

「…ああ。多分()()なんだろうな」

 

目尻に溜まる涙を拭い、俺はこのタイミングだと悟る。

分かっちまった…魂がそう理解しちまった。

この世界に、たった一つだけ存在する分岐路、唯一の帰還点だと。

そう…俺は…。

 

「本当は分かってたんだ。この世界はありえない、おかしいってな。多分、今ここで誓えば、その違和感を忘れて永遠にこの世界で生きていくことが出来る…理屈抜きでそんな気がする。でもな…」

 

こんな俺に神官が再び、誓いの言葉を言わせようとする。

だがここは…俺の生きる世界じゃない。

あいつらが俺を信じて命張ってるあの世界こそが…俺の生きる世界だ。

だから…だから…!

 

「…悪ぃ…セラ…!俺は誓えねぇんだ…!帰らなきゃ…いけねぇんだ…!本当にすまねぇ…!!」

 

苦しみながら言葉を漏らした途端、世界がひび割れた音がして、全てが止まった。

 

「…ねぇ、グレン君。まだ間に合うよ?今からでもグレン君が誓ってくれるなら…私達はずっと一緒だよ?この()()()()()()()()…」

 

俺の手をそっと握るセラ。

その手を振りほどこうとする俺。

 

「…セラ」

 

「お願い…グレン君…」

 

「俺は…!」

 

「お願い…!」

 

振りほどこうとする俺の手を、セラは強く握り離さないようにする。

心が苦しい…嫌だと叫ぶ。

ここに残りたいと叫ぶ。

だが…それでも…!

 

「俺は…立ち止まらない。歩き続ける」

 

俺は、この歩みを止める訳には行かない。

俺を待ってる奴らがいる。

俺を信じて命かけてる奴らがいる。

だから…俺は歩き続ける。

その途端、止まっていた世界が崩れ去り、幸せな世界は崩壊した。

そして現れたのは…あまりにも哀しく寂しい廃墟だった。

これこそが、今のアルディア南原だ。

レザリア王国に滅ぼされた、()()()()()()()姿()

 

 

 

「…夢、覚めちゃったね。…お父様とお母様は、最後まで街を守ろうと、戦死なさった。シスは私を庇って死んじゃった。その後私は命からがら逃げ出して、帝国に亡命して、古き盟約に従って、帝国軍に入って、そして…君に出会った。君や皆と多くの戦いを経てそして…道半ばで死んだ」

 

そんなセラは溢れる涙を止められず、廃墟とかしたアルディアの街を見て泣きじゃくる。

 

「あぁ…アルディア…私の大好きな故郷…。本当に滅んじゃった…。グスッ…ヒック…グレン君と一緒に…生きたかったよぅ…」

 

「俺もだ…!お前と一緒に生きたかった…!」

 

そんなセラと共に泣くグレンは、そのまま涙を拭い背を向ける。

この世界は、セラがグレンと一緒になりたい…そんな願いがあったせいか、他の4人より強固な夢と化していた。

だが同時に、グレンへの忠告の手紙を書いたのもセラだった。

 

「…セラ。俺はもう限界だよ。世界を救うっていっても、どうしてもマジになりきれねぇ」

 

だが同時に、弱りきったグレンの心の弱さも、抜け出せなくなっていた原因でもあった。

大切なものを失う恐怖のあまり、足が動かなくなっていたグレン。

それに気付いていたのは、ジャティスとアルタイル…2人だけだった。

 

「システィーナ、ルミア、リィエル、アルタイル…あいつらは本気だ。女王陛下、イヴ、アルベルト…世界中の皆が本気だ。ジャティスやフェロードみたいなクズ野郎どもでも…本気だった…」

 

そんな不安げなグレンに、セラは笑いかける。

 

「大丈夫。グレン君はいつも本気だったよ。今はちょっと心が疲れてるだけ」

 

「なんで…お前にそんなこと…」

 

「分かるよ。だって私が好きになった人だもん」

 

そんなセラの言葉に息を呑むグレン。

そんなグレンを見ながら、セラは祈るようにグレンに語り掛けた。

 

「ねぇ、グレン君。私、どうしても貴方に伝えたかったことがあるの」

 

 

 

「…どうか、夢を追う歩みを止めないで」

 

 

 

瞬間、グレンの体に電流が走った気がした。

直感したのだ。

それこそが…あの時のセラの最期の言葉。

失われてしまった(Lost)最後の(Last)言葉(Word)…なのだと。

 

「ねぇ、グレン君。夢はただ、見続けるだけでいいの。叶わなくたっていいの。ただ、夢に向かって歩み続けるだけで、いい。夢の形が変わったって、全然構わないの。新しい夢を見つけてもいいの。時に疲れたら休んだって、いいの。ただ…夢を追うことそのものを止めたら… 歩むこと自体を止めたらダメだよ。だって私が大好きになったのは…そうやって、ずっと夢を追って歩み続ける貴方の後ろ姿なんだから」

 

「…」

 

「それに夢を叶えるなんて、全然大したことじゃないんだよ?だって…そうやって、夢へ向かって歩み続けている限り…貴方は、とっくの昔に、最初から【正義の魔法使い】だったんだから」

 

「…そっか」

 

そんなセラの言葉に。

グレンは穏やかに微笑んでいた。

 

「そうだよな…ただ歩み続けるだけでいいんだよな…。人は生まれながらに皆、どこかへ向かってそれぞれ歩き続けている…。別にそれは特別な事じゃない。誰でも出来る当たり前のことだ。それだけで…誰だって特別な存在になれるんだ」

 

そう言って。

グレンは歩き出した。

今なら、ポッケに入っているお守りが導こうとしているのが分かる。

セラに背を向けたまま、そのまま前だけ見て歩き続ける。

そして…。

 

 

 

それは唐突だった。

 

「はぁー…はぁー…」

 

「ケホッ…コホッ!」

 

「ぅ…っ…ぅぅ…」

 

「フー…フー…!」

 

いくら強くなろうとも、いくら心を強く持って挑もうとも、ジャティスとの戦力差は埋まらず。

魔力も体力も尽きた3人を守るために、俺は前に立って構える。

 

「いい加減やめたらどうだい?」

 

「だから…!やめねぇって…言ってんだろ…!」

 

「息も絶え絶え、魔力も体力も尽きかけてる君では、もう勝てないよ」

 

やかましい…んなもん承知だ。

だからって折れるのも有り得ねぇんだよ…!

俺とジャティスが、幾度目かの戦いを再開しようとした…まさにその時。

 

ピシリッ!

 

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

今までうんともすんとも言わなかった先生の結晶に、突如ヒビが入った。

思わず俺達は距離をとる。

眩い光を放ち、そして…

 

ガッシャァァァァァァァン!!!

 

ついにグレン先生が戻ってきた。

 

「せ、先生!」

 

「…先生…!」

 

「グレン!」

 

「グレン先生…世話の焼ける人だ…」

 

〖…主様(マスター)…!〗

 

俺達が先生の元に駆けつけようとして…

 

「グレェェェェェェェン!!!」

 

それより早くジャティスが、俺達を追い抜き先生に迫った。

 

「…ァァァァァア!!ウゼェェェェェェエ!!!」

 

しかし心底嫌そうに叫んだ先生は、そのまま超至近距離で【イクスティンクション·レイ】を発動。

流石に無傷のジャティスだが、派手に後方へと吹き飛ばされた。

…う〜ん…それはともかく。

 

「なんか悔しいわ…!」

 

「見事に出鼻をくじかれたな」

 

ジト目のシスティと、呆れた俺。

 

「でも…本当にご無事でよかったです…!」

 

「ん。良かった」

 

涙ぐむルミアと、どこか嬉しそうなリィエル。

 

〖女をこんなに心配させて…このロクでなし…〗

 

妖精サイズのナムルスは、涙目の仏頂面だ。

 

「…悪いな。心配かけたな、お前ら。だが…もう大丈夫だ」

 

「せ、先生…?」

 

困惑気味に、システィが先生に声をかける。

その気持ちも分かる。

なんというか…一皮剥けたというか、悟りを開いたと言うべきか…。

とにかく、何かが変わった先生。

そんな先生はジャティスの方へ歩み寄り、睨み合う。

 

「…目は覚めたかい?」

 

「ああ。お陰さまでな」

 

「そうか。それで…君はやっと、本気を出してくれるのかい?」

 

「ああ。かったるいが…本気になってやるよ。俺は【正義の魔法使い】だ。昔も今も、これからもだ!」

 

なんの気負いもなく、恥も見聞もなく宣言して。

取り出したのは先生の魔術師としての象徴…

愚者のアルカナ。

一人の旅人が、先導する子猫、寄り添う子犬、肩にぶら下がる子リス、付き従う狼を連れて、世界を旅する…そんなお馴染みのアルカナ。

そして先生の固有魔術(オリジナル)【愚者の世界】が生まれ変わった。

 

 

 

「『我は今、真理へ到達する』」

 

「『されど、その解は深遠に非ず·不変にて凡庸·遍く全ての物がやがて悟り至る道』」

 

「『只、歩み続ける事·此、是と為べし』」

 

「『然らばーー我らは全て特別な存在へと至らん』」

 

「『我、その心の魂の不変を此処に誓う』」

 

「ーー愚者【THE FOOL HERO】!!!」

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