グレンが掲げた愚者のアルカナから、壮絶な魔力と光が溢れ出す。
アルカナの絵柄が変わる。
一人の旅人が長い旅路の果てに、無限の宇宙のような構図の背景の真ん中に聳え立つ、世界樹の麓へ到達しそれを見上げる…そんな構図に。
アルカナのナンバーが0から21に。
【THE FOOL】から【THE WORLD Reached By THE FOOL】に。
そしてグレンの左目が真紅に染まり、奇妙な紋様が浮かぶ。
【中央に目のような図形が配置された五芒星】のような紋様が。
「俺は…ようやく分かったんだ。【正義の魔法使い】なんて、大したもんじゃねぇんだ…誰でもなれるんだ。だからもう、俺は何の迷いも、恥ずかしげも、後ろめたさもなく、本気で宣言出来る。故に…この天に至れた」
静かにグレンが語り出す。
「お前が正義【ABSOLUTE JUSTICE】で、自分ルールを世界に強要するなら、俺は自分ルールを俺自身に適用する。愚者【THE FOOL HERO】は…何も変わらない。この世界に存在する理不尽に、俺は屈しない。どこまでも歩み続けるために、いつか辿り着く目指す場所へ至るため、俺は俺の道を阻む、あらゆる理不尽に屈さない。愚者【THE FOOL HERO】は…何も変わらない!」
それはすなわち、ジャティスの強要してくるルールの否定。
グレンの魔術特性【変化の停滞·停止】を究極の領域まで昇華させた
それを見たシスティーナは確信した。
(互角…!今、先生はジャティスと同じ高みに立った!つまりここからは、単純な力のぶつかり合い!より強い方が…より魔術師として上の方が勝つ!)
そしてそんなグレンを見てジャティスは、己の完全優位性を失ったと自覚した。
100%勝てる戦いが、一気に計算不能になる。
「…ま、君に対して100%なんて、当てにならないけどね」
だがそれでも、ジャティスは余裕を崩さない。
それどころかまるで言祝ぐように
「それでこそ、君だ」
そう言って
「僕の全てをかけて、君を滅ぼす」
「俺の全てをかけて、お前を倒す」
そう言ってグレンは腰に差した刀、【
突然力を発揮しだした刀に、謎の親しみ…まるで長く共に戦ってきた相棒のような…最初から自分の物であったかのような気分になる。
だが今はそれを無視して、魔力を流す。
『我、神を斬獲せし者』が、白く輝き出す。
一方のジャティスも、神鉄で出来た左腕を変化させ、刃を…【
『我、神を斬獲せんと望む者』が、赤く輝きだす。
「…システィーナ、ルミア、リィエル、アルタイル。行くぞ」
グレンの静かな声に、4人も構える。
「…来るといいさ!今こそ、決着の時だ!」
最終決戦が始まった。
「ジャティスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
「グレェェェェェェェェェェェン!!!」
2人の刃と気迫が、この世界を揺るがす。
もはや何者も…俺達すら手を出せない次元の戦いをする先生の邪魔をさせないよう、俺達は周りの天使を次々に駆逐していく。
「あー!クソ!キリがない!」
とりあえず悪態つきながら、俺は目の前の天使の群れを圧殺する。
左から迫る天使の槍を掴み、重力を乗せて投げ飛ばす。
散らばった天使の群れを、システィーナの風が蹴散らすを視界の端で確認して、俺は全てを斥力の塊を圧縮して別の群れに弾き飛ばし、丸ごと消し去る。
引力と斥力、相反する二つの力を強引に混ぜ合わせ、その反発し合う力を一気に解放して跡形もなく消し去る。
『
「お言葉だけどそれじゃダメよ、ナムルス!」
ナムルスの言葉を、システィーナがすぐさま否定した。
こればっかりはシスティの言う通りだ。
「あの男の天が、そんな甘いものな訳ないわ!」
「それに、あっちももたない」
相変わらず超新星爆発のような衝突を続ける2人だが、実はタイマンではない。
ジャティスにはピッタリとつく女神がいる。
「実質的に2vs1だ」
〖クッ…!どうすれば…!〗
ルミア達が必死に押し留める中、俺も戦いながら必死に考える。
…いや、練り上げる。
最近のことだが遠い昔のような…いつだったかジャティスは言っていた。
「『
似ている…俺とジャティスが?
あの時はふざけんなって思ったけど、もし本気でそうだとしたら…?
いや、本当は自覚してる…俺とジャティスは似てる。
己の信じるものの為に、その他の誰かを蹴り落とすジャティス。
己の大切なものの為に、その他の誰かを蹴り落とす俺。
あとは…
「俺にあの5億年に匹敵するものがあるかどうか…」
〖アルタイル?さっきから何を言ってるの?〗
「…ナムルス。ルミア。最後の【
決して大きな声では無いが、それでも聞こえたのだろう、俺の声にルミアが反応した。
「アイル君!何をする気!?」
「一か八かの大博打」
〖大博打って…!〗
「どの道このままだと、俺達は死ぬ」
悪いが議論の余地も余裕もない。
やるかやられるか、その二択だ。
だったら…やるしかない。
「…分かった」
〖タイミングはあなたが言いなさい〗
「ありがとう。システィ!リィエル!少し踏ん張ってくれ!」
「ええ!分かったわ!」
「ん。分かった」
俺は足を止め一応の結界を張ってから、先生の戦いの趨勢を見極める。
俺の一時離脱で3人には負担をかけるが、今はしのごの言ってられない。
とんでもない戦闘だが、俺は先生から教わってきた弟子だ。
その呼吸やリズムは感じ取れる。
「…スゥ…」
瞬き、呼吸すら今は惜しい。
そんな極限状態だが、何故か心は凪いでいる。
ひたすら機を伺い、ひたすら己の心を突き詰める。
5億年がなんだよ…知ったもんか。
俺は俺だ。
俺は絶対に…負けない!
「…今!」
そしてついに時は来た。
ジャティスと女神の十字攻撃。
先生が女神に狙いを定めた直前、その動きを予想した。
「アイル君!」
〖行きなさい!〗
2人の【
「ォォォォォォォォォォオ!!!」
ぐ…だ…け…ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!
そして俺は…先生とジャティスの戦いに割って入り、ジャティスの一撃を横から殴り飛ばした。
「なっ…なんだってぇ…!!!?」
その衝撃でズレる一撃。
「先生ぇぇぇぇぇぇ!!!いけぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
ほんの刹那の間隙。
その隙を逃さず、先生の雷光のような一撃が、女神を斬り裂く。
俺の一撃で空いた距離。
その間に2人は身構え、そして光のような速度で迫る。
「ジャティスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
「グレェェェェェェェェェェェン!!!」
そして二つの流星が、真正面からぶつかった。
唐突だが、一つ
【正義の魔法使い】とは何か?
人は誰しも、最初は生まれながらの【愚者】である。
己の無知と矮小さを自覚した瞬間、【愚者】は旅人となる。
そしてそれぞれの【世界】を目指して、遥かなる魂の旅路を辿る。
その未来に淡い希望を託して。
【世界】が【愚者】の目指す到達点だと言うなら、【正義の魔法使い】はその形の一つに他ならない。
では【正義の魔法使い】とは、一体何なのか?
「私は私の歩むべき道を見つけた。だからもう、大丈夫」
最初、少女は【愚者】だった。
己の生まれた意味を知らず、存在する価値を知らず。
だが少女はついにそれを見つける。
己が真なる願いと望み、剣を振る理由、そして光を得る。
彼女は彼女の【世界】に到達した。
故に彼女は、【正義の魔法使い】であった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
【正義の魔法使い】が振り下ろす渾身の銀色の剣閃が、並み居る天使の大軍を真っ二つに斬り裂いた。
「私は私を支えてくれた、アイル君を支えたい。それが私自身の望みだから」
最初、少女は【愚者】だった。
自分を特別だと思い込み、必要のない存在だと信じ込み、盲目的に尽くそうとした。
だが少女はついに気付く。
自己犠牲でも自己満足でもない、切なる望みとして…愛と呼ばれる、人を人たらしめる心を。
彼女は彼女の【世界】に到達した。
故に彼女は、【正義の魔法使い】であった。
「はぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
【正義の魔法使い】が振るう黄金と銀の鍵が、並みいる天使の大軍を時と次元の狭間へと追放した。
「何も知らなかった私に教えてくれたあの人と一緒に…私は私達の未来を目指します!」
最初、少女は【愚者】だった。
自分の目指すものが何なのか、耳心地よいものばかり聞き、知ったつもりになっていた。
だが少女はついに知る。
夢や希望では括れない厳しい現実を受け入れ、それでもなお真理を目指し、未来に歩く。
彼女は彼女の【世界】に到達した。
故に彼女は、【正義の魔法使い】であった。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
【正義の魔法使い】が放つ輝ける大いなる風が嵐となり、並みいる天使の大軍を吹き飛ばしていた。
「っぶねぇ、忘れるところだった。…よし!問題無し!行ってきます!」
少年は最初、【愚者】だった。
己の力不足を嘆くあまり、その先にある未来を考えもせず、ただひたすらに力を求めた。
だが少年はついに向き合う。
その先に待つ暗闇と絶望、それを受け入れる覚悟、そして理想を成し遂げる真なる強さを。
少年は少年の【世界】に到達した。
故に彼は、【正義の魔法使い】であった。
「ォォォォォォォォォォオ!!!」
【正義の魔法使い】がその拳の一撃で、ジャティスの振り降ろそうとする一撃を、強引に弾き飛ばした。
…痛いほどの沈黙が走る。
先程までの激戦が嘘のようだ。
その均衡を崩したのは…
「…ゴフッ!」
ジャティスの血を吐き出す音だった。
「うーん…どうしてかな…?どうして僕は…負けたのかな…?」
そんなジャティスの声に恨み辛みはなく、むしろ清々しさや、純粋な疑問の感じだった。
「何、簡単な話さ。お前は俺に勝っていた。だがあいつらの道と正義を打倒に値すると言いながら、その価値を認めておきながら、あいつらを軽んじた。それだけだ」
そんな先生の声も、まるで出来の悪い生徒に教える、教師の声そのものだった。
そんな先生に、ジャティスは震える声で呟く。
「そ、そんな…。それじゃあ…」
「ああ。俺はお前に勝てなかった。だが俺
「そんなことって…つまり…つまり…!僕の正義は君に勝っていた…ということか!」
高笑いをするジャティスに、俺はドン引きする。
う〜ん…死にかけてるのにその反応…怖いな、大概。
そして相変わらず意味不明な言葉を先生に残し、何故かシスティに【輝ける
帝国を揺るがし、世界を震撼させ、魔王をも出し抜き、人類史上、あらゆる魔術師が至れなかった高みに到達した、稀代の魔術師。
狂える正義、ジャティス=ロウファンの最期だった。