ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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よろしくお願いします。


後日譚編第1話

時は流れ、季節は巡る…。

私の耳に入る授業の終わりを告げる鐘の音。

 

「…あら、もうこんな時間なのね。今日はここまで。お疲れ様」

 

そう声をかけた途端、授業中特有の緊張感から解かれたからか、生徒達が騒がしくなった。

うん、その気持ちは分かるわ。

私もかつては…って、随分と懐かしい、けど恥ずかしい話が聞こえるわね。

 

「…コホンッ!」

 

わざと大きめの咳払いをして、そのヒソヒソ話を辞めさせる。

本人の目の前で言われるのは、流石に恥ずかしいしね。

 

「私のことはいいから、ちゃんと今日の内容は復習しない。いい?私の若い頃は…ッ!ゲホッ!ゴホッ!」

 

その時、不意にこの世界が揺らぐ感覚。

全身から急に力が抜けていき、喉の奥からせり上る何かに、思わずむせながら膝をつく。

今度は私の周りに集まり出す生徒達。

 

「だ、大丈夫よ…。心配しないで」

 

そう言って私は、何とか立ち上がる。

ぶっちゃけ、ぜんぜん大丈夫ではない。

私ももう歳だ。

魔術で色々誤魔化してきたけど、もうそろそろ限界だろう。

生命の限界、自然の摂理。

ついに従う時が来た。

私はいくつか言葉を残して、アルザーノ帝国魔術学院、二年次二組の教室を後にした。

 

 

 

久々に改めて見た街並みを見て、色々変わったと思う。

それもそうか。

 

「あれからもう…4()0()0()()か…」

 

天空城での戦い…今では魔王大戦と呼ばれるあの戦いから400年経った。

あの戦いは今も尚伝説として語られ、私達も英雄、グレン=レーダスと共に戦ったとして生きた伝説扱いされている。

そして私は、アルフォネア教授以来、2人目の第七階梯(セプデンテ)として名を残している。

 

「…いや、もうみんな死んじゃったから、生きた伝説扱いは私だけ、か」

 

二年次二組の皆の葬式には、全部出た。

他にも一番最初に亡くなった、アイルのお爺様とお祖母様、イヴさんにアルベルトさん。

ル=シルバさんだって、200年前に亡くなった。

私達4人で言えば、一番最初に亡くなったのは、アイルだった。

 

「俺、特務分室に入る」

 

そう宣言したのは、あの人と離れてから一ヶ月後くらいの時だ。

私達…特に私だが落ち込みようは酷く、最初の頃はアイルに当り散らしていたくらいだ。

それを何も言わずに受け止めて、やっと冷静になって謝った後、アイルはこう言った。

 

「天の知恵研究会を倒したとはいえ、外道魔術師は腐るほどいる。先生が守ってくれたこの世界を、少しでも平和に保ちたい」

 

元々、軍属を希望していたアイルだ。

入ることに疑問はなく、イヴさんも卒業後すぐに入隊させ、すぐさまナンバー持ちにさせたらしい。

そんなアイルは数年後、魔導官僚になったルミアと結婚。

子宝にも恵まれ、特務分室としては珍しく、年齢を理由に退役。

 

「…楽しかった人生だった…。でも…心残りもあるけどな…」

 

その後75歳で息を引き取った。

その最後を看取ったのはルミアだ。

 

「ルミアがいなくなった時は、流石に堪えたなぁ…」

 

そしてその半年後、みるみる衰弱したルミアも息を引き取った。

それを看取ったのは私だ。

あれ程泣いたのは、あの人と離れ離れになった時以来かもしれない。

多分あの時は、アイルの分も泣いていた。

 

「リィエルは時間切れにでもなったみたいだったし…」

 

リィエルはずっと一緒だと思ったけど、まるで日向ぼっこをするリスのように丸くなり、静かに息を引き取っていた。

 

「イヴさんはめちゃくちゃキレてたし…。ナムルスさんはちゃんと会えたのかな…?」

 

あの後、最初の頃は不安定だったが、今となっては嘘のように平和になった。

なのにその平和に、あの人はいない。

 

「まだ戦ってるのかな…?」

 

先生、私はとっくにおばあちゃんになっちゃったよ?

私は言うことを聞かない体を引きずるように、帰路へとつく。

そのまま夕飯を食べお風呂に入り、いつも通り鍛錬と明日の用意をする。

 

「歳、とったなぁ…」

 

すっかりおばあちゃんな私の顔を見て、寝台の鏡を閉じる。

死ぬ前に先生に一目会いたい、一言話したい。

そう思った直後。

 

「ゴフッ!ゲホッ!ゴホッ!」

 

盛大に血を吐き出す私。

あ、ヤバい…これまでの比じゃない。

とうとう来たか…!

そんな小さな願いも届かず、私は息を引き取った。

 

 

 

…という()()()()

 

 

 

「…クソ…マジ悪趣味な()だ…」

 

口ではそう言いながら、俺はあれがただの夢ではないと知っている。

きっとあれは、このまま進んだ未来の話だ。

このモヤモヤはきっと…。

 

「…いや、今は考えないでおこう」

 

あれからフィジテの街を始め世界各地で、復興が始まっている。

幸い店に影響はないものの、営業再開出来る訳では無いので、しばらくは炊き出しをしていた。

 

「さてと…炊き出しの用意でもするかね。学校にもそろそろ行かないとだし。他にもやらないといけないことは、沢山ある」

 

そう、本当に沢山ある。

時間は有限だ。

この街のため、世界のために出来ることをしなくてはいけない。

いけないのだが…

 

「…スゥ…」

 

気付けば俺は、先生のお守りの反応を拾おうと必死だし、どうにかできないかと考えている。

 

「…またしてるの?」

 

「ッ!?イヴ先生…おはよう」

 

「おはよう。朝早くからご苦労ね。朝ごはんはあるから食べちゃいなさい」

 

…朝ごはんが…ある?

一体誰が用意したんだ?

 

「お祖母様が早起きだったのよ。私ももう行くわ。今日はどうするの?こっち手伝う?」

 

良かった…イヴ先生が用意したのかと思った。

今日は…

 

「…久しぶりに学校行くよ。いつまでもあのまんまには出来ないからさ」

 

「そうね。早く仲直りしなさい」

 

仲直りというか、俺が一方的に当たり散らされてるっていうか…。

まあ、俺がグレン先生を見殺しにしたようなものだ。

システィが俺に当たり散らすのも、当然のことだ。

でも俺は…例えこうなると分かっていても…俺はルミアを取った。

 

「…よし。朝練してから炊き出しの手伝いして、学校行くよ」

 

「そ。頑張りなさい」

 

そう言って出ていくイヴ先生を見送り、俺も朝焼けのフィジテの街に繰り出したのだった。

 

 

 

炊き出しを終え、俺は一ヶ月ぶりに制服に袖を通して、登校していた。

そしていつもの待ち合わせの噴水広場にて。

 

「「「「…あ」」」」

 

ルミア達とばったり出会ってしまった。

 

「おはよう、アイル君」

 

「ん。おはよう。アイル」

 

「…ああ。おはよう、ルミア。リィエル」

 

「…」

 

挨拶してきた2人に返事をして、黙り込むシスティをちらりと見る。

…うん、やめておこう。

 

「行こうぜ」

 

「…うん」

 

気まずい空気の中、学校に向かって歩き出そうとして、裾を引っ張られた。

俺のローブの裾を握る手の先には…俯いて泣き出しそうなシスティがいた。

 

「…おはよう、システィ。どうした?」

 

「…おはよう、アイル。その…私…謝りたくて…」

 

システィは何も悪くない。

悪いのは力不足の俺だ。

 

「システィは悪くない。悪いのは…」

 

「アイルこそ何も悪くないじゃない!」

 

そんな俺の言葉を遮るように怒鳴り、システィが俺を見上げる。

 

「あの時のアイルは…最善だった。ああするしかなかった。分かってた…分かってたのに…。それでも私はアイルに理不尽に怒って、あまつさえ魔術まで使ってボロボロにした」

 

天空城から戻って翌日、俺はシスティに呼び出された。

その途端、風の魔術で吹き飛ばされ、馬乗りになられ、ひたすら殴られた。

慌てて駆けつけたルミア達が止めなくては、俺は多分あのまま、システィに殺されてただろう。

あの時のシスティは、それくらい正気じゃなかった。

 

「本当に…ごめんなさい…!謝って許されるとは思ってない…!でも謝らせて…ごめんなさい…」

 

このまま気にしてないって言っても、絶対にダメだよなぁ…。

仕方ない…茶化すか。

 

「…許さない。滅茶苦茶痛かったし。ツケ一だから」

 

そう言ってシスティにデコピンしてから、そっと手を離させて、学校への道を歩き出す。

 

「…アイル君…!」

 

「アイル…!」

 

「ん。良かった」

 

「良かったってお前…まあいいや。ほら、俺は一ヶ月ぶりなんだ。早く行こうぜ」

 

上手く伝わってくれたのか、嬉しそうに笑う三人娘を見て、俺も少し笑う。

でもやっぱり…あの人がいないとダメだな。

 

「…足掻きますか」

 

グレン先生を取り戻す。

【無垢なる闇】を滅ぼす。

この二つをなすべく、俺は出来ることをやると誓った俺なのだった。

 

 

 

学校に着いた俺達は、現在絶賛自習中だ。

講師教授陣が、軒並み復興作業に駆り出されてるため、実質的に休校状態。

他のクラスの連中には、未だ重症で入院中の奴らもいる中、うちのクラスはほぼ全員が無事だった。

 

「アイル、手が止まってるわよ」

 

「疲れてるんだ…勘弁してくれ…」

 

そんな事を考えている俺はというと、全く手がつかず、サボり中だ。

俺が一ヶ月の間復興作業を手伝っていたのは、この理由も大きい。

というか、システィとの不仲とやる気のなさ。

これが理由だ。

 

「こちとら炊き出しを手伝ってから来てんだぞ。休ませてくれよ」

 

「何言ってるのよ!」

 

「まあまあ、システィ」

 

「ん。アイル偉い」

 

何故に俺はリィエルに褒められたんだ?

そんなことを考えながら、とりあえずリィエルの頭を撫でてやりながら、ふと思い出した。

 

「そういえばシスティ。ご両親とは連絡取れたんだって?」

 

「ええ。あの能天気夫婦は、何やら愉快な仲間達を連れてるらしいわよ」

 

風の精霊を使った古典的な方法で、システィのところへ手紙が届いたらしい。

というか愉快な仲間って…

 

「相変わらずのタフネスだな…お前の親は」

 

「まったくよ」

 

そんな呑気な話を交えつつ、時折グレン先生がいない寂しさをみんなで埋めながら、こうして自主勉の時間は過ぎていったのだった。

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