ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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よろしくお願いします。


後日譚編第2話

学校が終わった俺は、ルミア達を屋敷まで送り、そのまま復興の手伝いをして、夜遅くに帰ってきた。

 

「ただいま〜…疲れた〜…」

 

「おかえりなさい。さあ、早くお風呂に入りなさい」

 

「んー」

 

婆さんに急かされるまま風呂に入り、飯を食ってあとは寝るだけ。

だがやはり、眠気は中々訪れない。

 

「…もう一度考えよう」

 

いささか心は軽くなった。

今なら、多少どん詰まりな思考から脱却出来るだろう。

何気なく取り出したイヴ先生との、戦術盤用のコマを打つ。

さてと…まず…

 

「【無垢なる闇】と先生のやり取りに、いくつか気になる点があった」

 

【無垢なる闇】の言い回しは妙な点が多かった。

まるでこの先の未来を知っていたような、そんな言葉があった。

 

「…いや、ようなじゃなくて、全部知っていた?」

 

正しき刃(アール·カーン)】を手にしたフェロード。

あの武器をどこで手に入れたのか、それはナムルスもレ=ファリアも知らない。

メルガリウスの天空城にあった、無数の【神を斬獲せし者】の像。

アール=カーン曰く、あれはフェロードが夢見たレプリカと言っていた。

つまり…

 

「フェロードの【正しき刃(アール·カーン)】は、誰かから引き継いだもの…」

 

最初は誰かが使っていて、その中で受け継いだ、ということになるのか?

さて、次はジャティスだ。

 

「ジャティスは真なる邪悪に出会った、って言ってたな」

 

あの男の性格からして、屁理屈は言っても嘘は言わないだろう。

つまり本当に、【無垢なる闇】に出会っている。

だがこの世界に顕現したのは、あの時が初めてのはず。

つまり…信じ難い事だが…

 

「あいつは他の世界から来た人間ってことになるのか…?」

 

というかそれ以外に思いつかない。

そしてそこは恐らく、【無垢なる闇】によって滅ぼされたのだろう。

そして巡り巡って、どんな因果か知らないが俺達の前に立ちはだかった。

…そういえばこの事も、【無垢なる闇】は何か言ってたな。

確か…

 

「『今回はいささか毛色が異なる』…だったか」

 

つまりあそこでジャティスと殺りあったのは、あいつからしても予想外だったのか?

そうなると神すら欺いたあいつは、本当に凄いやつなのだろう。

 

「今回…か」

 

様々な言葉や情報を鑑みるに、やはりこの流れは予定調和なのだろう。

 

「先生と【無垢なる闇】は、世界を渡り戦い続け…そして敗北する。そんな中【正しき刃(アール·カーン)】が何かの偶然でフェロードの手に渡り、そして先生とジャティスが出会い、この世界での因果が成立する…ってところか」

 

そして全ては、【無垢なる闇】の描いたシナリオ通りに進んでいる。

そしてこの流れは既に、何回も繰り返されている。

この舞台を覆すには、何か行動を起こさないといけない。

 

「だが何をどうすればいい…!?」

 

そこで手が詰まる。

必死に考えて…考えて…ふと俺は、退場扱いにしたコマの中から、ジャティスに見立てたコマを取りだした。

 

「そういえばジャティスの奴、システィに【輝ける偏四角多面体(トラペゾヘドロン)】を預けてたな…」

 

…あ、そうか。

あれを使えば、【無垢なる闇】を引き摺り落とせるか…?

全員で一つの夢を見て、【無垢なる闇】の完全アウェーの世界を作れば、ワンチャンやれるか…?

いや、それだけじゃ足りない。

まだもう一手いる。

例えば…そう。

 

「神殺しならぬ神堕としの術式…かな」

 

あれだけの神格だ。

依り代が無いと維持出来ないだろう。

だからマリアから引っぺがして、【無垢なる闇】を孤立させる。

後はそこを全力で叩けば…いけるか?

 

「いや、希望的観測は持ち合わせるな。倒せてラッキー程度に思え」

 

だが1人で考えられるのは、まあこの辺りが限界だろう。

そろそろ3人を頼るかな…。

 

「ルミア。アルタイルだけど、今起きてる?」

 

 

 

アルタイルが思考に沈み込んでいる頃、フィーベル邸ではシスティーナが魔術書を読んでいた。

だが全く集中出来ず、頭からこぼれ落ちていく。

 

「はぁ…。何やってるの。システィーナ、何やってるの」

 

だがいくら集中しても全く効果は無く、ふと視界を落として、何気なく机の上の手鏡に目を向ける。

そして…心臓が悲鳴を上げた。

 

「…〜ッ!?」

 

その手鏡に写った自分の姿が、夢に見た年老いた自分の姿だったからだ。

慌てて目を擦り再び見たが、その時にはすでにいつもの自分の顔だった。

 

「…はぁ。あんな夢見たから…」

 

疲れたようにため息をつくシスティーナ。

だがしばらく黙り込んで…やがて…

 

「ぅぁ…ぁぁぁぁぁ…ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

ついに心の許容量の限界を超えたシスティーナは、頭を抱えて泣き叫ぶ。

 

「嘘だっ!あれは夢なんかじゃない!現実なんだ!これから先、私に待ち受ける確定した未来!!私を待つ未来の現実なんだ!!」

 

それは今朝起きた時点で、分かっていたことだ。

理屈ではなく、魂レベルで理解してしまった。

この夢は現実なのだと。

 

「嫌!嫌だよ!会いたいよ、先生!どうして…!?どうして…!?う…うわぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

「システィ!どうしたの!?」

 

「大丈夫!?システィーナ!」

 

狂ったように泣き叫ぶシスティーナの声を聞き、ルミアとリィエルが慌てて駆け込む。

そんな2人を見たシスティーナは、ルミアにすがるように泣き続けた。

 

 

 

「…そう、そんなことが…」

 

落ち着いたシスティーナから、事情を聞くルミア。

その顔は神妙で、なにか思うところがあるような顔だった。

 

「システィもそうだったんだ…」

 

「…え?」

 

「私も分かる。グレンは戻ってこない気がする。…勘だけど」

 

そんなルミアとリィエルの言葉に、システィーナは不思議そうに首を傾げる。

同じ夢、同じ予感を2人も抱いていたのだ。

3人で少しでも哀しみを分けられるように…そんな風に抱きしめ合う3人。

 

「フン。揃いも揃って女々しいこと。まあ、女の子なんだけど」

 

「ナムルス!?」

 

そんな3人の前に、ナムルスが現れる。

 

「今までどこに!?」

 

「うるさいわね。準備をしてただけよ」

 

相変わらずのツンとした態度だが、どこか他よりなさげなその態度に気付くことはなく、代わりに気になる言葉が出てきたことを尋ねるシスティーナ。

 

「…準備?」

 

「この世界を出る準備よ。このままここにいてもグレンは帰ってこない。黙って出ていくのもあれだったから、最後の挨拶に来ただけよ。後はアルタイルにも声をかけて…」

 

そう言い残して立ち去ろうとするナムルス。

だがその手を、すがるようにシスティーナが掴んだ。

 

「待って」

 

「何よ?」

 

「ダメ。待って。お願い。行かないで」

 

ナムルスが無理矢理振りほどこうとするが、意外に強く握られたシスティーナの手は、中々振りほどけない。

 

「ちょっと!離しなさいよ!」

 

「ねぇ、ナムルス。あなたさっき、『最後の挨拶』って言ってたわよね。貴女も予感…いえ、確信があるんじゃない?二度と先生とは出会いない…そんな確信が」

 

それはナムルスに心を鋭く抉った。

そもそもその可能性を指摘したのも、ナムルス自身だったからだ。

それでもナムルスは、ジっとしていられなかった。

だがそこを突かれたナムルスは、ついにシスティーナ同様、限界を迎えてしまった。

 

「…なら…なら、どうすればいいのよ!?私だって分かってるわよ!でも…それでも…私は…!!」

 

静かに涙を流すナムルスの肩に、ルミアはそっと手を添える。

そのまま深い沈黙が続いたその時、不意にルミアのお守りが光った。

 

((ルミア。アルタイルだけど、今起きてる?))

 

「アイル君…?うん、起きてるよ」

 

突然のアルタイルからの通信に、その場の全員がポカンとする。

 

((よし。システィとリィエルも起きてる?あと、ナムルスの場所知らない?))

 

「えっと…みんな、システィの部屋に集まってるよ?」

 

次々に出てくる自分達の名前に、ますます困惑する女性陣。

 

((お、マジか。ナムルス、どこにも行くな。どうせ行っても犬死だ。それより手伝って欲しいことがある。こっちに付き合え))

 

「…いきなり随分な言い草ね」

 

((何とでもどうぞ。すぐそっち行くわ。じゃ))

 

言いたいことだけ言って通信を切ったアルタイルに、首を傾げる女性陣。

 

「よっ。おまたせ」

 

「「「はやっ!?」」」

 

「ん。アイル速い」

 

 

 

次元跳躍で飛んだシスティの部屋は、まあ彼女らしい部屋だった。

 

「と、突然跳んでこないでよ!」

 

「び、びっくりした…」

 

「すっかり使いこなしてるわね…」

 

「すまんね。急を要するから。…で?何故にこんな大集合してるわけ?」

 

通信の時は聞き流してたけど、よく考えるとこんな時間になんで、全員集合してる訳?

 

「…夢を見たの」

 

ルミアの言葉に、俺も心当たりがあった。

 

「夢?夢って先生がいないまま歳食って、死んでった夢?」

 

そう言うと全員驚いた顔をする。

…いや、リィエルはほとんど変わってないけど。

 

「アイルもそうなんだ…」

 

「夢は所詮夢…って言い切りたいけど、あれはそうじゃないんだろうな」

 

この予感…いや確信は、全員そうらしい。

 

「そしてこれは恐らく、【無垢なる闇】が描いたシナリオ通りの予定調和だ」

 

そう前置きして、俺は自分の仮説を説明する。

 

「…それで?貴方の持論は分かったわ。でも何をさせたいのよ?」

 

苛立ちげなナムルスを見てから、俺はシスティを声をかけた。

 

「システィ、あれ使いたい」

 

俺が指さした先には、【輝ける偏四角多面体(トラペゾヘドロン)】があった。

 

「あれは…」

 

「ジャティスが無駄なことをするはずがない。お前に託したってことは、あれには使い道があるはずだ」

 

俺の指摘に思うところでもあったのか、システィはしばらく呆然とした後、フラフラと近付き、その箱を開いた。

その途端…

 

「なにっ!?」

 

「眩しっ!?」

 

突然光だし、やがてその光は人の形を作り出した。

 

『やあ、久しぶりだねぇ。グレンの教え子達』

 

「「「「ジャティス!?」」」」

 

「…やっぱり何か仕掛けてたか」

 

呑気に呟く俺を他所に、それぞれが戦闘態勢をとる。

やれやれ…少しは落ち着けよ。

 

「大丈夫。こいつにどうこう出来る訳無い」

 

『アルタイルの言う通りさ。そう身構えないでくれよ。今の僕に君達をどうするつもりもないし出来ないさ。読んでたとはいえ、少し哀しいなぁ』

 

…ホログラムに読まれるのは、非常に腹が立つが抑える。

半透明の辺り、生前にこの中に残した残留思念による伝達役ってところか。

 

『しかしまぁ…これを君達が見てるってことは、そうかぁ…僕はグレンに負けたのか…。何度計算しても100%だったんだけどねぇ?僕が負けるなんて、想像も出来ないなぁ…ククッ。あるいは戦いには負けて、勝負には勝ったとかな?まあそれは置いといて…本題に入ろうか』

 

山高帽を深く被り直して、俺達と改めて向き合う。

 

「な、なんで貴方が…!?」

 

『何故って、僕が自ら行動する理由は一つに決まってるだろう?正義のためさ』

 

ここまでブレないとは、本当に大した奴だよ、こいつ。

というか、よくここまでドンピシャで合わせられるな。

 

『僕の正義執行プランは二つ。一つは知っての通り、この世界を丸ごと炉にくべてグレンを超え、【禁忌教典(アカシックレコード)】を掴む。僕自身が【正義の魔法使い】となって、この世全ての悪の根源…即ち【無垢なる闇】を断罪する。これが一番平和的で、手っ取り早いはずなんだけどねぇ?ただどうも君達はお気に召さなかったらしい。なんでかな?アッハッハ!』

 

「…」

 

「シ、システィ!落ち着いて!その手を離して!ね?ねっ!?」

 

「リィエル。システィを抑えとけ」

 

「ん。わかった」

 

頭にきたのかの、蓋を閉めようとするシスティをルミアが止めて、その間にリィエルに抑えられるシスティ。

まあ気持ちは分からんでもない。

 

『…で。万が一、億が一、兆が一、それがダメだった時の為に、別のプランを用意しておいたのさ』

 

ここからが本題だ。

 

『正直成功するとは思えないが、事ここにおいて、確率という数字は最早意味を示さないだろうしね?だったら君達に託すのもありかなって』

 

「どうして…?」

 

『…グレンを助けたいんだろう?』

 

こいつ…そこまで分かってるのか。

死んでもなお、俺達を取り乱させてくれる…本当に大した男だ。

…そういえば。

メルガリウスの天空城、【禁忌教典(アカシックレコード)】…あらゆる因縁や伏線を回収してきた訳だが、ついぞこいつだけは謎のままだったな。

 

『どうやら聞く気になったみたいだね。まあ、読んでたけど』

 

すっかり静かになったシスティを読んで、ついに全てを話し出したジャティス。

 

『まず君達はこの世界一つの真実…真理、真の姿形を知る必要がある。それなくして彼を救うのは不可能だ。ちょっと長い話になるが、最後まで聞いて欲しいな。そして、それを聞いた上で一体、どうするのか?それは君達次第、というわけさ』

 

緊張する俺達の前で、滔々と語り出すジャティス。

それを聞いて分かった事は、俺の予測以上に複雑な事になっていたこと。

そして…俺達のやるべきことは単純であったことだった。

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