ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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よろしくお願いします。


後日譚編第3話

翌日、アルザーノ帝国魔術学院、二年次二組の教室にて。

 

「マジかよ?信じらんねぇ」

 

カッシュのその言葉は、教室に集まった二組生、リゼ達学生の中心メンバー、ハーレイやツェスト男爵など講師陣教授陣、その他システィーナが声をかけた者達の、総意そのものだった。

 

「でも事実よ」

 

壇上に立つシスティーナは、その言葉をしっかり受け止めた上で毅然と言い返した。

その隣にはルミアとリィエル、教室の隅にはナルムスがいて、アルタイルは窓辺に腰をかけている。

 

「にわかには信じられないだろうし、私自身未だ半信半疑だけど…これがこの世界の真実。だとするなら全てに辻褄が合う気がするの」

 

これまでの様々な戦い。

彼らはいつも圧倒的な絶望的状況の中、針に糸を通すように勝利を掴んできた。

一つ踏み外せば全てが崩壊する…そんなギリギリの戦いの中を生き抜いてきた。

だが冷静に考えれば、それはあまりにも…

 

「私達は奇跡的にそれらを全部上手く乗り越えてきたけど…同時に薄々こうも思わなかった?()()()()()()()()()()って」

 

「それは…っ!?そう…だけどよ…!?」

 

唸るしか出来ないカッシュ。

カッシュすらそう感じている現状。

より修羅場を潜り抜けてきたアルタイル達は、より顕著にそれを感じとっていた。

 

「確かにこの世界が貴様の言う通りのものだとするなら、一理ある。決して認めたくは無いがな」

 

そんなカッシュに代わり、ハーレイが口を開いた。

 

「だがそれが真実だとして、貴様は一体どうする気だ?」

 

「当然、私はグレン先生を助けます。この下らない茶番劇に幕を下ろして、私の望む本当の未来の為に」

 

そんなハーレイの鋭い言葉に、システィーナは毅然と言い返した。

 

「でもそれには…私一人の力では足りないんです!だから!ここにいる貴方達の力を貸して欲しいんです!」

 

そう言ってシスティーナは頭を下げた。

平和になったこの世界。

ここから先、戦う必要性は無い。

そのためにグレンは犠牲になったのだから。

グレンがいるかいないか、それはこの先の彼らの未来になんら影響は無い。

たとえこの平和が、嘘と虚飾で作られた砂の上の楼閣のようなものだとしても。

だがたとえそうだとしても…システィーナはグレンを助けたい、ただその一心だった。

 

「これは私のワガママです。グレン先生のために…今もどこかで私達のために、終わりなき因果の戦いを続けている先生を助けるために…どうか、皆の力を貸してください!」

 

すると。

 

「私からもお願い、皆。どうか皆の力を」

 

「ん。私にはよく分からないけど…グレンを助けたい。みんな…ダメ?」

 

システィーナの隣でルミアが頭を下げ、リィエルが縋るように一同を見る。

 

「…」

 

教室の端にいるナムルスも、いつものツンとした視線ではなく、懇願するような視線で一同を見る。

 

「「「「「「「「「「…」」」」」」」」」」

 

対してその場にいる一同は、皆押し黙っていた。

何もグレンを助けるのに、否定的なのではない。

だがシスティーナの言う通りならば、やぶ蛇になる可能性は否めないのだ。

せっかく手に入れた平和と未来が、崩れてしまう可能性があるのだ。

だからこそ、システィーナも『ワガママ』だと称したのだ。

いくら大恩あるグレンのためとはいえ、その二者択一を迫られ他ならば、人なら迷って当然だ。

 

「…なぁ、カッシュ」

 

だがそんな空気の中、静観に徹していたアルタイルがついに動いた。

 

「…なんだ?アイル」

 

「ごちゃごちゃ考えたってどうせ決まりっこないし、こんな話いきなり理屈をこねくり回したって、理解出来ないだろうから、単刀直入に聞くぜ?」

 

カッシュの前に立ったアルタイルは、真っ直ぐにカッシュの目を見て、究極的な質問をぶつけた。

 

「先生を助けたい?助けたくない?」

 

「ッ!?そ、それは…!?」

 

一切の屁理屈を許さない…そういたげな鋭い視線に、カッシュはしどろもどろになりながらも、静かに本音を零した。

 

「…助けてぇよ」

 

「なら何を迷う必要がある?お前は自分の本音が分かってるだろ?だったらやるしかねぇだろ」

 

そんなカッシュの本音を聞き、アルタイルがバッサリと葛藤を切り捨てた。

そんなアルタイルに、カッシュは目を見開いて反論する。

 

「なっ!?それはお前らが強いから…」

 

「関係ねぇよ。自分の望みのためなら、他者の望みを炉にくべて、テメェの命すらかけて成し遂げる。…それが魔術師だろ。そこに必要なのは()()()()じゃない。自分の()()()()()だ」

 

「…自分の意思…」

 

自分の拳を見つめ、強く握るカッシュを見てから、アルタイルは全体に声をかけた。

 

「俺からは無理強いは当然、懇願もしない。ただ問いかける。…お前達は何者だ?お前達の望みはなんだ?」

 

あまりにも飾りのない真っ直ぐな言葉と視線に、その場の全員が息を呑む。

先程とは違う雰囲気の沈黙の中、凛とした声が響いた。

 

「フン、是非もないわね」

 

「ああ、まったくだな」

 

一組の男女が入ってきた。

その正体は…

 

「イヴさん!?アルベルトさん!?」

 

声をかけたとはいえ、来るとは思っていなかった2人の登場に、目を目開くシスティーナ。

そんな彼女を無視して、ズカズカと教室に入り込む2人。

 

「話は聞かせてもらったわ。私は乗るわ、その話」

 

「九を助けるために一を切り捨てる…確かにそれを迫られる状況はある。だがまだその時では無い。それに…賛同するのは俺達だけでは無い」

 

そう言ったアルベルトは、そのまま振り返る。

教室の死角から現れたのは、クリストフやバーナードを護衛として伴った、アリシア七世だった。

 

「「「「「「「「じ、女王陛下ぁぁぁぁぁ!!?」」」」」」」」

 

荒廃した帝国の再建のため、秒刻みのスケジュールに追われているはずの人物が現れたことに、場が騒然となる。

慌てて敬礼しようとした一同を手で制し、凛とした態度で口を開いた。

 

「このまま空に挑んだ救国救世の英雄、グレン=レーダスを失ったとして。全ての重責をグレン=レーダス一人に押しつけ、肩代わりさせて。否…彼をこの世界の平和のための、人柱にしたとして。貴方がたは胸を張れますか?祖先に。誇れますか?子孫に」

 

三度の絶句の中、アリシアは堂々と続ける。

 

「この帝国のため、身を粉にして尽くしてくれた英雄を取り戻す機会を得ながら、このまま手をこまねいているなど帝国王家の、そして誇り高き帝国民の先祖末代までに渡る恥です」

 

そこで言葉を止めて、アリシアはチラリとアルタイルを見る。

そんなアリシアに、首を傾げるアルタイル。

 

「そしてここに集うのが魔術師たる者達であるのなら、その流儀に乗っ取り、たとえ貴方達を危険に晒すとしても、王家始まって以来の愚王と評されようとも、私は勅命を下しましょう」

 

 

 

「皆で一丸となり、グレン=レーダスを救いなさい」

 

 

 

アリシアはそう締めくくって、チラリをルミアを流し見て、イタズラっぽくウインクする。

 

(…お母さん…ありがとう…)

 

ルミアは心の中で、偉大な母にただただ感謝するしかない。

そしてアリシアの強い意志を秘められた言葉は、ついに一同の魂を震わせた。

 

「…だよな…そうだ!闘いはまだ終わってねぇんだ…!」

 

「ああ。終わったように見えてまだ続いていた。根本的には何も解決してなかったんだ」

 

「その通りですわ!私達はただ、終わっていない戦いの続きを、先生に肩代わりしてもらっていただけ…!」

 

「終わらせようぜ、今度こそ本当に…俺達の手で終わらせるんだ!」

 

「み、皆…」

 

そんな風に盛りあがる生徒達に。

システィーナは目頭が熱くなるのを、抑えきれなかった。

 

「今度ばかりは貴女が指揮官よ。システィーナ」

 

「俺達は駒だ。上手く使え」

 

「イヴさん…アルベルトさん…」

 

「もちろん、私も可能な限り協力いたしますわ。私の名を使えば、この国内においてはあらかたの無茶は押し通せるかと」

 

「じょ、女王陛下まで…」

 

様々な人達に後押しされて。

 

「システィ」

 

「システィーナ」

 

「…」

 

ルミア、リィエル、ナムルスに視線を向けられ。

 

「やるぞ。システィ」

 

アルタイルに拳を向けられ。

そんなシスティーナは強気に笑い、その拳に自分の拳をぶつけた。

 

「…ええ!ありがとう、皆!これが本当に最後の戦いよ!絶対に先生を取り戻して、皆で文句の一つでも言ってやろうじゃない!作戦名は…そうね!多分、ここ以上にふさわしい名前は無いわね!」

 

 

 

「【機械仕掛けの神作戦(オペレーション·デウス·エクス·マキナ)】!!!今ここに始動だわ!!!」

 

 

 

こうして残された者達の後日譚(エンディング)は今、静かに熱く、幕を開けるのだった。

 

 

 

すっかり盛り上がる皆を見て、俺は小さく苦笑いを浮かべる。

 

「どうしたの?」

 

「ん?いや…俺はやっぱ、こういうの向かねぇなって」

 

俺の近くに来たルミアに、俺は小さくこぼす。

 

「向かない?」

 

「だって結局、陛下の発破で動いた訳だし。まあ、流石に女王陛下にカリスマ性で勝てるなんて、微塵も思ってねぇけどさ」

 

そんな俺に、ルミアは何故か笑ってから、自分の手を俺の手にそっと添えてきた。

 

「そんなことないよ。アイル君の言葉も確かに届いてたよ」

 

「そうか?」

 

「そうですよ」

 

そんな俺達に、陛下が近付いてきた。

俺は慌てて身嗜みを整え、陛下の前に立つ。

 

「私が何も言わなくとも、きっと彼らは立ち上がったでしょう。貴方の言葉も聞いていましたが、私も心を打つものがありました」

 

「陛下…?」

 

「…ええ。正直な話、私も迷っていたのです。国を預かるものとして、グレンを助けるべく動くのか、国民を守るために留まるのか…。ですが、貴方の言葉が私の心に火をつけました」

 

…そうか…そうだったのか。

 

「それは彼らも同じだったのでしょう。私はただ、貴方がつけた灯火を大きくしただけ。アルタイル、貴方がここにいるみんなを動かしたのですよ」

 

「…お褒めいただき、光栄の至りです」

 

俺は陛下に頭を下げる。

そんな俺の手をルミアがそっと握る。

…俺はあの時、この手を掴むことを選んだ。

だけどやっぱり、あの手も諦めなかった。

またあの手を掴めるなら、俺は今度こそ意地でも掴み取る。

 

「ルミア。アルタイル。よろしくお願いしますね」

 

「「はい」」

 

2人で強く返事を返すと、突然ニヤニヤ顔で俺達に顔を近づける。

…あ、嫌な予感がする。

 

「あと、出来るだけ早く孫の顔を見たいからね?」

 

「…お、お母さん!?///」

 

「へ、陛下!?///何を言って…!?///」

 

こんな時に何を言い出すんだ、この人は…!?

思わず赤くなった顔を見られないようにそっぽ向こうとして、たまたまルミアと目が合った。

 

「「…ッ!?///」」

 

あれ…?

前もこんなことしたような…?

 

「フフッ。ずっと手を繋いだまま…本当に仲がいいのね」

 

い、言われてみれば…!?

手を離そうかとも思ったが、思ったよりルミアの力が強い上、全く離そうとする気配も無い。

とりあえずそのままにしようとして、不意に視線を感じて前を見る。

 

「「…ヒッ!?」」

 

2人でひきつった悲鳴を上げる。

何故なら全員が…いや、ほとんど男だが、ものすごいジト目で、ジリジリにじり寄ってきたからだ。

しかも女子はキラキラした目で、ルミアを見てる。

 

「アイル…テメェ…」

 

「許すまじ…」

 

「先生を助ける前に…」

 

「まずはお前をとっちめる…!」

 

…フッ、仕方ない。

ここは…三十六計逃げるに如かず!

 

「あばよっ!!」

 

「「「「「「「「「逃がすかぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」」」」」

 

せっかく上手く纏まったのに、まずはこんな鬼ごっこから始まるとは…。

こうして俺の後日譚(エンディング)だけは、俺の悲鳴から幕を開けたのだった。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!?」

 

「せっかくかっこよくキメたのに…」

 

ごめん、システィ。

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