文字通り次々と世界を飛び回って、【無垢なる闇】と戦い続けるグレン。
世界を飛び、次元を飛び、時代を飛び、戦い続けたグレンだが、ついぞ【無垢なる闇】に勝つことは無かった。
結果だけ見れば痛み分けだが、いつもその世界は惨たらしく崩壊していく。
そんな中、ある世界…グレンが便宜上名付けた、写し身の世界にて。
一人の少年と出会った。
「ねぇ。お兄さんはどこから来たの?」
(…あれ?暗示が切れてたのか?)
十にも満たないであろう、大変身なりのいい少年が、ボロマントを被ったいかにも怪しいグレンに声をかけてきた。
「どこからだって?そうだな…すごく遠くからだ」
先日さっさと覚えた言葉で、グレンは少年にそう返した。
「遠くから?海外?」
「…いや、それよりずっと…気が遠くなるほど遠くからだ」
首を傾げる少年に、グレンは苦笑いを浮かべる。
いくら教職を生業としていたとはいえ、かなり複雑な説明をしなくてはいけない。
「それより変な格好だね。お兄さん、もしかして…魔法使い?」
(…ほう)
思わず感心するグレン。
この世界には魔術や魔法の類はない。
この魔法使いも、世間一般的な絵本や物語のようなものを想像してのことだろう。
だがそれを抜きにしても、グレンの暗示を見破った少年の
「ああ。実はそうなんだぜ?」
「ヘぇ…!お兄さんはここで何をしてるの?」
「この世界で、やらないといけないことがあってな」
そう言ってグレンは言葉を詰まらせた。
既にこの世界にも、【無垢なる闇】の介入した痕跡がある。
ただイタズラに、不安にさせる必要も無いだろう。
そう思い黙っていると
「寂しくないの?帰りたくないの?」
そう言われると、今度こそグレンは驚愕に目を見開いた。
「そうだな…帰りてぇよ」
「後悔はないの?」
「ないな」
自分でも驚くほど即答したグレン。
その信念は今も尚変わることは無かった。
そしてすぐにグレンは、その場を立ち去ったのだった。
この世界の破滅の原因となる、天の知恵派教団。
そんなカルト教団の本部を奇襲し、あっさりと撲滅させたグレン。
だが【無垢なる闇】の悪意は、またもやグレンの上を行く。
「クソッタレがァァァァァァァァァァァ!!!」
【無垢なる闇】の計画…それは天の知恵派教団を囮にし、外宇宙とこの世界の存在の壁を、取っぱらってしまうことだった。
そうなると何が起こるか?
答えは外宇宙の存在が、この世界に流れ込む、だ。
〖キャハハハハハハハハハハハ!!〗
だが追いついた時には、既に手遅れだった。
今度こそ倒す…そう決意して挑むグレンだったが、ここまでの戦いで力を使い果たしつつあったグレンは、結局敗北してしまうのだった。
大災厄。
そう名付けられたあの日から、グレンは最初に出会って、たまたま生き残った少年…ジャスティンとこの世界を旅していた。
外宇宙とこの世界を繋ぐ門がまだあるため、【無垢なる闇】がまだこの世界にいるからだ。
だがこの世界を滅ぼした罪を被せられたグレンは、ジャスティンと共に放浪していたのだが、ついに捕らえられ、処刑台に乗せられた。
「…やっとか…」
だがこの土壇場においてもなお、グレンは小さく笑った。
「やっと尻尾を掴んだぜ…。正直もうダメかと思ったが…割と分の悪い賭けだったぜ…。いや、そうでもないか」
グレンは自分の命を使った、【無垢なる闇】を引きずり出した。
そうして再びこの世界において、戦いを始めるグレン。
「ォォォォォォォォォオ!!!」
グレンは己の存在すら削りながら、【無垢なる闇】と激しい戦いを繰り広げる。
たとえ勝てたとしても、もはやグレンという存在もまた、消えてなくなるだろう。
だがたとえそうなるとしても、【無垢なる闇】は滅ぼさなくてはならない。
そう誓った。
誓ったはずなのに…
「し、師匠…!?」
「ジャスティン!?」
隠れ家で眠らせたはずのジャスティンがその場に現れ、【無垢なる闇】に人質にはされてしまった。
その一瞬の隙が、せっかくギリギリまで追い詰めた【無垢なる闇】に攻撃を与える事となった。
そして【無垢なる闇】の世界の破壊に巻き込まれたジャスティンは、世界の虚無に呑まれてしまい、グレンもまた世界の虚無に呑まれる。
そして…
〖えー、【無垢なる闇】交通をご利用いただきー、誠にありがとうございますー!ただいまー、終駅を出発ー、終駅を出発ー!次の駅はー、始駅ー、次はー始駅ー!〗
…まだ先は長いな。
僕はたまたま一人になった特務分室の待機室で、一人物思いに耽ける。
結局あの【正義の魔法使い】は本名すら明かさず、そしてあの真に邪悪たる闇は、未だ理解の及ぶ敵では無い。
だがそれでも…
「歩み続けるだけでいい…か」
なら僕も歩み続けるさ。
あの後…この世界、ルヴァフォースに流れ着いた僕は、
そして正義を成すために、ひたすら悪を撲滅し続けている。
そんな中だった。
「ちっす」
「ッ!?」
イヴから紹介された新入隊員、グレン=レーダスを見た時、何故か懐かしい感覚になった。
そんな心底意味不明なことを考えながら、僕達は形式的に挨拶をする。
この時の僕はまだ知らなかった。
この出会いこそ、全ての運命の始まりだったことを。
「…ここは?」
気付けば俺は、どこかの村の寝室で寝ていた。
だが生きている以上、こうしてはいられない。
直ぐに【無垢なる闇】を追いかけようとして、違和感を抱いた。
「…あれ?」
吹き飛ばされた右腕がある…!?
いや、それ以前に…!?
「体が小さくなってる…!?」
すっかりガキに戻っていたのだ。
そしてそのせいか、はたまた俺の原初なのか。
ここの場所について、分かってしまった。
「こ、ここは…!?この村は…!?」
〖キャハハハハハ!アハハハハハハハ!〗
世界のあらゆる汚音と不快音を煮詰めたような、悍ましき怪音。
それでいてこの世界の至高の楽器と演奏家達を寄り集めて、神域の楽曲を合奏させたかのような美音。
この世のありとあらゆる邪悪なるを集め、煮詰めたような混沌。
それはまさに、人の形をした深淵の底の底。
万千の色彩と混沌が織り成す純粋…即ち【無垢なる闇】だった。
〖気づきましたかぁ!?おめでとうございます、先生!そう、ここは貴方の故郷、
「…」
〖しばらくしたらこの村に、帝国宮廷魔導師団特務分室執行官NO.18【塔】のアンリエッタがやってきます!そして実験動物として使われる中、【正義の魔法使い】が…帝国宮廷魔導師団執行官NO.21【世界】セリカ=アルフォネアが助けてくれます〗
「…」
〖そして貴方は【グレン=レーダス】という名前をもらい、
「…」
待て…待ってくれ。
色んなことがありすぎて、全く思考が追いつかない。
それはつまり…俺のこれまでの歩んできた道も。
乗り越えた苦難も、抱えた葛藤も。
俺が得た答えも、決意も。
全て…全て…。
〖うん、そうですよー?
「…ぁぁぁぁぁ…!ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
許さねぇ…許さねぇ…許さねぇ!
こいつだけは絶対に…!!
だがそう思ったところで、何もかもをなくした俺には到底敵うわけなく、全てが漂白されていく。
そして…。
全てが反転する。
次、俺が目を覚ます時…俺は…もう…。
ははは…ふざけんなよ、畜生…。
こんな底なしの理不尽…。
この世にあっていいのかよ…?
バカね、先生!
そんなの決まってるじゃないですか!
あっていいはずがないわ!!!