ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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よろしくお願いします


真·最終決戦

 

「ッ!?」

 

その時光が。

世界に光が溢れた。

闇に亀裂が走り、無限に広がり、そして…世界を覆う闇が砕け散った。

 

「な、なんだこれは…!?」

 

〖…えっ!?〗

 

驚愕は二つ。

俺のものと…俺の頭上にいた【無垢なる闇】のもの。

どうやら予想外だったのか、今まで浮かべていた余裕と愉悦の笑みが消えた。

 

「な、なんだ!?一体何が起きた!?」

 

よく見ると、遥か上空だ。

夜の帳が上がり、夜明けの空をしている。

そんな黎明の明かりに照らされる、半透明の瓦礫。

あれは…

 

「【メルガリウスの天空城】…?」

 

ここでやっと、俺は自分の姿に気付いた。

子供ではなく、【正しき刃(アール·カーン)】以外は元に戻っている。

システィーナ、ルミア、リィエル、アルタイルと共に、空の戦いに挑んだ時の姿に…。

 

「いや、これは…ジャティスとやり合った直後か…?」

 

神としての旅路で得た力が、まるで夢だったかのように、すっかり無くなっていた。

ということは…まさか…!?

 

「戻ってきたのか…!?あ(・)の(・)世(・)界(・)に(・)…あ(・)の(・)時(・)代(・)に(・)…!?」

 

「先生ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」

 

遥か上空から、誰か舞い降りてくる。

それは…。

システィーナ。

ルミア。

リィエル。

アルタイル。

ナムルス。

イヴ。

アルベルト。

もう二度と会えないと思っていた、仲間達だった。

 

「お、お前ら…どうして…!?」

 

「先生っ!」

 

「先生!」

 

「グレン!」

 

「うおわぁぁぁぁあ!?」

 

左手に何かを持ったシスティーナを先頭に、ルミアにリィエル、ナムルスまで突っ込んできて、思わず胃がひっくり返りそうになった。

 

「このバカ主様!バカバカバカッ!死ね!もう死ね!」

 

「あだだだだっ!?痛い痛い痛い痛い!」

 

背後から俺の頬をつけるナムルス。

いやマジで痛ぇんだけど!?

 

「全く、言いたいこと山ほどあったけど…なんか気勢が削がれたわ」

 

少し離れたところで呆れるイヴ。

呆れる前に止めてくんねぇかな!?

 

「痛い!重い!一体お前らなんなんだぁ!?」

 

訳が分からず喚く俺の肩を、そっと誰かが叩いた。

そこにいたのは、いつも通りのアルベルトだった。

 

「…アル…ベルト…?」

 

「随分と無茶をしたようだな、グレン。だがもう、一人で背負う必要は無い」

 

終始いつも通りのアルベルトだが、思わず込み上げるものがあって、目頭が熱くなる。

そして…今度は誰かが俺の手首を掴んだ。

 

「…アルタイル…」

 

「…俺はあの時、ルミアを優先しました。ルミアを守るために、先生を見殺しにしました。だから…」

 

その声には深い後悔に満ちていて、珍しく泣きそうな声だった。

だが…

 

「今度は、全部助ける。全てを欲張って、俺は俺の正義を貫く」

 

その目には、決して消えないであろう、不屈の闘志が燃えたぎっていた。

 

「…そうか。ならわりぃ、助けてくれ、みんな」

 

「当然!」

 

そう言ってアルタイルは、俺の前に立ち、【無垢なる闇】を睨みつける。

 

「よォ、ケリつけようぜ。このゲボ野郎!!」

 

 

 

「それより…何がどうなって…?」

 

〖そ、そうですよ…?こんな展開、今まで一度も…?〗

 

「これですよ」

 

先生に見せるように、システィが左手に持ったものを揺らす。

その正体は…

 

「【輝ける偏四角多面体(トラペゾヘドロン)】…?」

 

「そう。俺達(・)はそれを使って、新たな世界線と未来を作り出したんですよ」

 

これを実用ベースに持っていくのに、相当の苦労があった。

学院中から魔術の天才達をかき集めて、ひたすら実験と調整の繰り返し。

その傍らで俺達も【無垢なる闇】と戦うために、強くなるための修行もしてきた。

 

「アイル君が途中で帰って来れなくなった時は、本気で焦ったよね…」

 

「それ、俺のセリフ」

 

一番戻ってこれる可能性の高かった俺が検証をしたのだが、その途中で戻れなくなったことがあった。

幸い、ルミアとナムルスがいたおかげで、直ぐに見つけて貰えたので、事なきを得た。

 

〖そんなバカな話がありますかぁぁぁあ!〗

 

そんな俺の想像を断ち切るように、【無垢なる闇】が悲鳴を上げる。

 

〖夢と現実を入れ替えて、新しい世界を創出する!?そ、そんなの一個人で出来るわけ…!?だって…それは…我が主様の権能…〗

 

「神様のくせに察しが悪いわね!アイルが言ったじゃない!『俺達(・)』って!」

 

そう、何も俺達(・)だけでやった訳じゃない。

この世界は…皆(・)で作りあげたものだ。

 

「そうよ、夢だったのよ!あの時代を生きた人、皆の夢!グレン先生がいる世界!それが私達の夢だったの!!全ての人が夢見た夢が、今、叶うの!」

 

かつて、無限無数の人間達の存在情報を束ねることで、【禁忌教典(アカシックレコード)】に到達しようとした、一人の狂気の魔術師が存在した。

名は、アリシア三世。

【Aの奥義書】の作成者だ。

【禁忌教典】が一にして全、全にして一であると言うならば、世界中の人間の共通深層意識野…即ち全ての人間と繋がる集合的無意識を束ねることが出来れば、理論的には【禁忌教典(アカシックレコード)】に至ることが出来る。

 

「俺達はそれと同じことをしただけだ」

 

そこで俺達がしたのは、この集合的無意識をほぼ全と言えるくらい統一した。

それは即ち、【禁忌教典(アカシックレコード)】にほかならない。

たった一ページ分かもしれないが、それでも成し遂げた。

 

「俺達は先生の背中を追いかけた。その先にあったんだ。先生。先生が進んだ道は、決して間違いなんかじゃなかったんです」

 

先生の進んだ先に、【禁忌教典(アカシックレコード)】はあったんだ。

そっと先生を見ると、静かに涙をこぼしていた。

未だに信じられなさげに叫ぶ【無垢なる闇】。

そして…

 

「あぁもう!うるさい!!!」

 

ついにシスティがキレた。

 

「もうしゃべるな!ひたすら不快でムカつく!マリアは可愛かったのに、同じ顔と体でこの差はなんなのなしら!?ムカつくからいい加減、その子の体を返してもらうわ!!!」

 

そんな怒り心頭のシスティが、指を打ち鳴らす。

その音が魔力信号となって、地上と空を繋いだ。

その直後、魔法陣が地上から伸びてきて、【無垢なる闇】を締め上げた。

 

〖ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!〗

 

 

 

(なんだよ…いい声で鳴くじゃねぇか)

 

これこそハーレイを始めとする学院の頭脳達が作り上げた叡知の結晶、魔導装置【機械仕掛けの神(デウス·エクス·マキナ)】。

この装置の本質は、マリアと【無垢なる闇】を分離させ、本体を引きずり出すことだ。

 

〖ギィィィィィィイ!?アガァァァァァア!?〗

 

今この世界は、【無垢なる闇】を排除するという世界だ。

故に逃げられないし逃がさない。

そして目論見通りそのままついに本体を引きずり出し、マリアと分離させた。

 

「アイル!」

 

「ああ!」

 

すぐさまアルタイルは【アリアドネ】をマリアに巻き付け、一旦地上に転移する。

 

「…遅くなったな。マリア」

 

眠っている裸のマリアに、【アリアドネ】で編んだ布を巻き、直ぐにテレサ達に託す。

 

「テレサ!ウィンディ!マリアを頼む!」

 

「ええ、私達に任せてくださいまし!」

 

「頼んだわよ、アイル」

 

「ああ!」

 

そのまま直ぐに空中に戻る。

 

「おまたせ。ちゃんと預けてきたぜ」

 

「ありがとう。…さて、マリアは取り返したわ!」

 

「【無垢なる闇】。外なる邪神達がこの地上…物質界に顕現する際、必ず何らかの肉の体を纏うのは単純な話。肉体なき状況では、物質界では存在を保てないからよ」

 

〖〜ッ!〗

 

ナムルスの言葉に、息を呑む【無垢なる闇】。

当然と言えば当然だ。

あっちとこっちではルールが違うし、それが出来るなら、この世界はとっくに邪神達に滅ぼされているだろう。

 

「つまり貴方は今、引きずり出された本体を保つために、相当量の魔力をバカ喰いしてる。私だって【天空の双生児(タウム)】。外なる邪神の端くれ。そんな貴方を逃がすほど弱くは無い!!!」

 

そう宣言して、ナムルスは【黄金の鍵】を振るう。

空の世界にドーム状の格子のような、光の籠が覆い尽くした。

そんな空をしばらく呆然と見つめて。

 

〖…おい。なんでここにいるんだよ?【戦天使(ヴァルキリー)】?お前、いつもなら一人で【神を斬獲せし者】を追いかけて、その過程で存在を高めたけど、結局私の眷属にぶち殺されて、私に玩具にされる…そんな哀れで滑稽な役回りがお前だろうが。それがなんでまだこの世界にいんだよ?しかもいつも通り【戦天使】にまで力をブチ上げてさァ!?どうしてなんだよ!?〗

 

「あぁ…やっぱり私、そうなるのね。ま、いいじゃない。そうならなかったんだし。強いて言うなら、どっかの誰かに『犬死するだけだからやめろ』って言われたからかしら」

 

アルタイルが居心地悪そうにナムルスを睨み、ナムルスは意地悪げにアルタイルを見る。

しかし【無垢なる闇】は直ぐに気を取り直して、嘲り出す。

 

〖ちょっと小細工を仕掛けられてビックリしただけだし!こんなの目の前に小豆さん達をプチプチ潰して、地上をさっさと焼き払って、エセ【禁忌教典(アカシックレコード)】をぶっ壊して、依代を取り戻すだけの話じゃないですか!〗

 

「やれば?出来るものなら」

 

ナムルスが呆れたような呟いた直後。

 

「眷属秘呪ノ極【無間大煉獄真紅·炎天】!!!」

 

その瞬間、世界が赤く、紅く染まる。

イヴの天が、無限熱量となってあらゆる魔術防御を突き破り、【無垢なる闇】を焼いた。

 

〖ギャァァァァァァァァァァァァァァア!!!〗

 

「皮肉ね。灼かれたのは貴方だったみたい」

 

そんなイヴへ、【無垢なる闇】が叫ぶ。

 

〖こ、この熱量…まさか、宇宙開闢の始原の火(ビッグバン)!?嘘だっ!な、なんで人間が…!?〗

 

「フン、しぶといわね。まあ、いいわ。片っ端から焼いてあげる。だけどその前に…ま、踏ん張りなさい?」

 

〖は?〗

 

そんなイヴの言葉に【無垢なる闇】が首を傾げた直後、背後から貫かれる【無垢なる闇】。

 

〖はぁ?〗

 

それ自体に意味は無い。

ただし…すぐに逃げるべきではあった。

 

「重力順転、引力生成。重力反転、斥力生成。混合…虚数質量形成。崩壊まで…3,2,1,0」

 

いつの間にか背後を取ったアルタイルが、【無垢なる闇】の内側で、引力と斥力を強引に混ぜ合わせ、その内包された虚数の質量を弾けさせた。

 

〖@$’¥”$¥$¥/=[]””$¥$”-”/¥$¥#&$(ゝ仝♂〒▼▲〆〜!!!〗

 

もはや言葉にすらならない絶叫を上げる【無垢なる闇】。

世界を崩壊させる破壊力を余すことなく、すべて己の内側で引き起こされた【無垢なる闇】は、相当のダメージを負った。

 

〖この…クソ豚野郎共ォォォォ!!〗

 

「させない!」

 

「今更こんなもの!」

 

「いやぁぁぁぁぁあ!」

 

「容易(イージー)だ」

 

一度離れたアルタイルとイヴを襲う触手を、システィーナ達が尽く落としていく。

その間にも

 

「はぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

「消し飛べ!!」

 

イヴが燃やし尽くし、アルタイルが消し飛ばす。

そんな光景を呆然と見るグレン。

 

「な、なんだよこりゃ…凄ぇ…。しかしどういうことだ…?どいつもこいつも、またさらに位階が上がってやがる。地上の連中との連携といい、色々準備良すぎだろ…」

 

「そりゃそうよ。準備してたんだもの」

 

「…え?」

 

そんなグレンの隣に、ナムルスが並ぶ。

 

「貴方が【無垢なる闇】と共にこの世界を去った後、皆、貴方のことを諦められなかった。貴方のいない、偽りの平和と平穏なんて、受け入れられなかった。だから皆あの2人を…システィーナとアルタイルを信じたのよ。貴方の一番の弟子達を」

 

グレンとナムルスは見上げる。

そこではアルタイルとシスティーナを中心に、【無垢なる闇】を圧倒する5人がいた。

 

「確かに皆、最初は2人の言葉を信じられなかった。でもシスティーナの真っ直ぐさが…アルタイルの強さが…まるで貴方みたいだったのよ。前に歩き続ける姿は…まるで貴方みたいだった。だから皆信じてついてきた。ただ歩み続けるだけでいい。貴方の到達した答え通りだった。報われたのよ、グレン。貴(・)方(・)は(・)…ううん。皆(・)が報われた」

 

そう涙ながらに微笑むナムルス。

その時。

 

〖がァァァァァァァァァァァア!!〗

 

【無垢なる闇】が壮絶な魔力を放ち、アルタイル達を吹き飛ばす。

 

〖くそがァ!ゴミ共が調子に乗りやがってぇぇぇぇぇぇ!ええ、少しは認めてやりますよ!ド生ゴミ野郎ども!確かに人間にしてはやる方ですよ!でもね、所詮は貴方達は人間、そして私は神!そこには越えられない壁があるんですって!〗

 

「ほう?壁か」

 

〖そう、壁!貴方達人間はどう足掻いても、神である私の本質、存在そのものを理解することはできませぇぇぇぇん!だって私、混沌そのものですのでぇぇぇぇぇ!たとえここで負けても、また混沌の外宇宙で復活しまぁぁぁぁぁす!残念でしたぁ!私は必ずこの世界に来て、この世界を惨たらしく滅ぼしまぁぁぁぁぁす!キャハハハハハハハハ!!!〗

 

「成程。ならば是非そうするがいいさ。…次があればな」

 

〖って誰ですか貴方?さっきからいちいちうるさ……ぁあ?〗

 

その時【無垢なる闇】が固まった。

さっきから合いの手を入れていたアルベルトを…正確にはその金色に輝く右目を見て固まったのだ。

 

〖え?…ちょっ…何それ…?まさか、【選理眼(リアライザー)】?どうしてそんなものがこの世界に…?〗

 

「人が神を、混沌を理解出来ぬと誰が決めた?理解出来ないものに常に挑み、克服してきた永遠の探求者こそ、俺達人間だ。魔術師だ」

 

たんたんと言い放つアルベルトは、そのまま【無垢なる闇】を見抜いた。

 

「…容易(イージー)だ。俺はお前の存在を理解した。これで貴様は混沌の神ではなく、ただ強(・)い(・)だ(・)け(・)の(・)化(・)け(・)物(・)だ。いつまで捕食者を気取っている?今のお前は…ただの獲物だ」

 

そんなアルベルトの放つ、【ライトニング·ピアス】の七射同時起動(シンクロ·ブースト)…【七星剣】が【無垢なる闇】を刺し貫く。

 

〖ギャァァァァァァァア!…クヒッ!確かにクソ痛ぇけどよォ!出力がたりねぇんじゃねぇのぉぉぉぉぉ!?〗

 

業腹だが、それはその通りだった。

壁役のルミアとリィエルは守るので精一杯。

イヴやシスティーナでは、【無垢なる闇】を滅ぼせるが、その本質までは叩けない。

一方のアルベルトでは、本質を叩けるが、【無垢なる闇】を消し去るには、単純に力が足りない。

 

「…フッ。それで構わん。所詮俺達は脇役。主役の引き立て役だ。物語の幕引きはいつだって主役…【正義の魔法使い】の一撃だ。そういうものなのだろう?」

 

そう言ってアルベルトは、赤い魔晶石をグレンに投げ渡した。

 

「使え。お前の可愛い弟子達からだ」

 

それを受け取ったグレンは、直ぐにそれを悟った。

 

「…まさか、アイツら。至ったのか?あの術に」

 

「ああ。アルタイルはフィジテ防衛戦の時には、劣化版ではあるが使えたらしい。それを2人で完成系に仕上げ、さらに俺の理解を込めた。今のお前ならば、その理解を己のものに出来るはずだわ。まあどのみち、脳が焼き切れるほど苦しいだろうが、そこは気合いで何とかしろ」

 

「し、しかしよぉ…今の俺じゃ…」

 

今のグレンには、【無垢なる闇】を滅せる程の魔力はない。

しかしそんなグレンに、隣に飛んできたアルタイルが、【アリアドネ】で編んだお守りを握らせた。

 

「だから言ったでしょ?俺達(・)は用意してきたって」

 

「…ああ、そうだったな」

 

グレンはそれを右手に握り、赤魔晶石を左指で弾き、それを掴み取る。

左拳を右掌にぶつける。

 

「『頼む、皆…俺に力を貸してくれ』!」

 

 

 

地上、アルザーノ帝国魔術学院にて。

カッシュを筆頭に二組生達が。

リゼやジャイルなどの他学年、他クラス生達が。

フランシーヌ·コレット·ジニーら、聖リリィ組も。

レヴィン·エレンら、クライトス校組も。

学院の教授·講師陣も。

学院の全ての人間が、お守りを握り締めた左手を空に掲げる。

 

 

 

フィジテ都市内、大勢がごった返す大通りにて。

ロザリー·ウル·ユミスらがお守りを握り締めた左手を掲げ、それに続くようにフィジテの全市民が次々に掲げていく。

エンダースやその妻にベガ、レナードやフィリアナ、ニーナ·ネージュ·ヒューイも左手を掲げる。

アリシア七世やエドワルド卿にルチアーノ卿、レニリア王女にゼーロスも。

クリストフ達特務分室も。

クロウ達第一室を筆頭とする、全帝国軍も。

ありとあらゆる、アルザーノ帝国の民が一丸となって、左手を掲げる。

 

 

 

さらにそれは帝国だけではない。

レザリア王国のファイスや、サハラのアディル、日輪の国のサクヤ。

更には世界各国の人々。

あの大戦を経験し、グレンの空の戦いを見守っていた世界中の全ての人々。

今まさに、グレンの呼びかけに応じ、世界が一つになった。

 

 

 

「ぉぉ…ぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!?」

 

思わず声を上げるグレン。

自分の持つお守りと、皆の持つお守りが共鳴して、溢れ出す魔力の奔流に驚いたのだ。

そしてそれ以外にも込められた人間の誇りの輝きに、グレンは不敵に笑う。

 

「いける…!これならいけるぜ!」

 

とある魔術を行使しようとしたグレンに、【無垢なる闇】が迫る。

 

〖させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!『■■■■■■■■■■■』〗

 

得体の知れない言語で、何らかの魔術を発動しようとする【無垢なる闇】。

だが何も起こらなかった。

 

〖な、なんでだぁぁぁぁぁぁあ!?〗

 

「やっぱ俺と言ったらこれだよな?」

 

そういうグレンの口元には、愚者のアルカナ。

 

「固有魔術(オリジナル)【愚者の世界】!俺を中心とした一定効果領域における、魔術起動の完全封殺!もっとも?今回は【THE FOOL HERO】を併用して、魔術を封殺されるのはお前だけだけどな?」

 

〖ふざけるなですぅぅぅぅぅう!〗

 

そんなこんなしてる内に、グレンは暴走しそうな魔力を制御して、ゆっくりと。

 

「『我等(・)は神を斬獲せし者』」

 

殊更ゆっくりと詠唱を始めた。

 

「『我等(・)は始原の祖と終を知る者』」

 

〖や、やめろ…〗

 

みっともなく逃げようとする【無垢なる闇】に、アルタイル達の猛攻が迫る。

更にはナムルスの結界が、決して逃がさない。

 

「『其は摂理の円環へと帰還せよ·五素より成りし物は五素に·象と理を紡ぐ縁は乖離すべし·いざ森羅の万象は須く此処に殲滅せよ』」

 

〖う、嘘でしょ…!?僕が、私が、俺が、我が、こんな…こんな所で…!?〗

 

「『遥かな虚無の果てに』ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

〖こんな…こんな所でぇぇぇぇぇぇ!!?だいたいおかしいだろ!なんでこの時点で6人+αが揃ってんだよ!?グレンと【天空の双生児(タウム)】以外はいつも、誰かしらかけてただろう!〗

 

無数のループの中、色んな結末を見てきた。

魔術師を辞め、後悔ばかりの惨めな人生を送るシスティーナがいた。

行き過ぎた自己犠牲で、若くして儚く散ったルミアがいた。

全てを捨てた剣に成り下がり、呆気なく戦場で果てるリィエルがいた。

鍵を手に取り魔将星へと堕ち、最後は友に背中から撃たれるアルベルトがいた。

イグナイト卿の走狗に成り果ててしまい、反逆者として処刑されたイヴがいた。

 

〖なんで今回に限ってこんな事に…!?〗

 

(…ちょっと待て?何かおかしくねぇか?)

 

喚きながらも、【無垢なる闇】は違和感に気付いた。

 

(6人+α?)

 

【無垢なる闇】の思うαとは、ナムルスの事だ。

そして今この場にいるのは8人。

正確に言うならば、7人+αだ。

そしてその数の差こそ、最大のミスだったのだ。

 

〖テメェか…!テメェのせいかよ…!〗

 

色んなループを見てきた中で、かつて一度も出てこなかった人物。

故に【無垢なる闇】は、この男に行動を知ることが出来なかった。

これまでの絶望的状況の中、決して赤い糸で皆を繋いだ男。

システィーナと励まし、ルミアに寄り添い、リィエルに手を差し伸べ、アルベルトに勇姿を見せ、イヴを繋ぎ止めた。

そんな多くの誤算の根本的人物。

 

〖アルタイル=エステレラぁぁぁぁぁあ!!!〗

 

そんなアルタイルに、触手を大量に伸ばして、アルタイルを潰そうとする。

だが既に、アルタイルの仕込みは済んでいた。

 

「『虚空より来たる我·沈黙の支配者·空に至る王冠はついに摩天を掴み·その血を捧げし兎の宴に血酒を乞い捧げることだろう·汝、六天三界の支配者たらんと名乗りを上げる者ゆえに』。空天神秘【INFINITE ZERO DRIVE】」

 

無限に距離を伸ばす、フェロードの天。

アルタイルもまた、その領域に手を伸ばしていた。

 

〖クソがぁぁぁぁぁあ!!〗

 

「さてと、ダメ押し、行くか。『抉り刺し·突き穿て·必滅の槍』」

 

今のアルタイルに距離は関係ない。

どこにあろうとも、必ずその槍を発動することが出来る。

そこがたとえ…【無垢なる闇】の内側であろうとも。

 

「【果てへと手向ける彼岸の槍(アリアドネ·リコリス)】!!!」

 

〖ゴバァァァァァァァァァア!!!?〗

 

己の存在そのものに突き立てられた必滅の槍は、【無垢なる闇】に大ダメージを与えた。

最初の一撃の時、既に内側に仕込んでいたのだ。

 

「俺もお前の存在を理解してるんだぜ?アルベルトさんよりの時間かかったけど。…だから、この一撃ではお前を殺し切れないのも知っている。それだけお前の魂の容量はデカイからな。だから、後はよろしく。先生」

 

(任せろ。もはや同じ空間にすらいたくねぇぜ、ドクサレ野郎。消えろ、この全宇宙から。お前は要らねぇ)

 

そしてグレンはついに、その一撃を放った。

 

「ぶっ飛べ有象無象!!黒魔改【イクスティンクション·レイ】!!!」

 

〖ギャァァァァァァァァァァァア!!!〗

 

世界が白く染め上げられ…【無垢なる闇】は断末魔ごと光に飲まれていく。

終わりを告げ、始まりを告げる光が。

今、全てを無にしていくのだった。

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