よろしくお願いします。
「…めでたしめでたし」
俺はそっと、部屋で読んでいた本を閉じた。
俺は今、童話【メルガリウスの魔法使い】を読み終えたところだ。
今改めて読み直せば、本当によくこの世界を紐解いた本である。
そっと巻末の作者コメントの一部を撫でる。
『魔法使い、天に上る光の中へと消えていく。愛弟子に誘われるがままに』
この話、実はガチである。
なんやかんやあった先生が、俺達の力を借りて、なんやかんやアルフォネア教授を、過去から連れ出したのだ。
幸いと言うべきか、アルフォネア教授が俗世との関係をキッパリ絶っていたおかげで、矛盾が発生しないからこそなせた荒業。
「ま、何事もハッピーエンドだよな」
「兄様!遅刻してしまいますよ!」
おっと、下からベガに呼ばれたか。
「はいはい!今行く!」
俺は直ぐに本を置き入れ違いにカバンを手に取り、部屋を飛び出し、階段を飛び降りていく。
「おはよう」
「おはようございます、兄様」
「遅いわよ!ルミアすら用意出来てるんだから!」
「システィ!?私すらってどういう意味!?」
「ん。お腹減った」
「全く、朝から騒がしいわね…」
「さて、早く席に着きなさい」
「さあ!温かいうちに食べて!」
俺の騒がしい日常は、新たな形で始まっていた。
あれから数ヶ月の時がたった。
その間に色々あった。
まず俺達にとっての大事件…爺さんと婆さんが亡くなったことだ。
理由はただの老衰。
笑顔で送り出そうとしたのだが、ベガが泣いてしまい、つられて俺まで泣く羽目に。
レナードさん達に手伝ってもらいながら、簡易的な葬式を開こうとしていたのだが、想像以上の人が集まってしまい、中々盛大なことになってしまった。
「トワイスの爺さんは、それだけ人望があった、ということだ」
そう言ったのはアルフォネア教授だ。
他にもお店の従業員達はもちろん、先生やルミア達やクラスメイト、ベガがどこでどう仲良くなったのか不明だが、ウルとユミルさんも来ていた。
特務分室からも室長に復職したイヴ姉さんとバーナードさんが代表で来てくれて、イヴ姉さんに抱きしめられたベガが、また大泣きした。
更には王室親衛隊総隊長に復職したゼーロスや、陛下やルチアーノの爺様まで駆けつけてきた時には、周りが騒然とした。
「あれ?眠そうだね?どうしたの?」
「いや、やっとお返しとかも全部済んだから、すごく疲れたんだよ」
隣のルミアが俺の顔を覗き込んで、俺のクマを指摘する。
さて、今更だが。
今俺達は、フィーベル邸に厄介になっている。
というのも、あの店は爺さんと婆さんが死んだら引き払うことになっていたらしく、おかげで住む所が無くなってしまったのだ。
「あんのジジイ…最後の最後まで色々やってくれやがって…!」
「ま、まあまあ兄様。何とかしましょう!」
最後の最後まで厳しい爺さんへの恨み節もそこそこに、住む場所を考える俺。
こうなったら、アルフォネア邸に転がり込むか…?
「アルタイル君。ベガ君。少しいいかな?」
「レナードさん?」
「フィリアナ様も」
そんな葬式の休憩中に悩む俺達の元へ、2人が来たのだ。
「お2人からの遺言を預かっている」
「爺さんと婆さんからの遺言?」
はて…そんなやり取りいつの間に…?
2人にそんな接点…あ、レナードさんの誕生日の時か!
「お2人は自分達が亡くなった後、貴方達を引き取って貰えないかと、そう頼まれてたのよ」
「お爺様とお婆様が…そんな事を…?」
思わず2人で顔を見合わせる。
あの爺さん達がそんなこと言うなんて。
「もし良かったら、うちに来ないかね?もちろんベガ君にも、最大限の配慮を約束しよう」
フィーベル邸には行ったことがある。
あそこは車椅子のべガには不便だろうが、宿無しよりよっぽどマシか。
「…兄様。どうなさいますか?」
甘えるようで心苦しいが…是非もなし。
「すみませんが、お願い出来ないでしょうか?」
「分かった。部屋は用意しておこう」
「フフッ。息子は初めてね」
こうして俺達は、外部に流せないもの(ノーブル·リストリアとか、ゴルデンピルツとか)と共に、フィーベル邸に厄介になることになったのだ。
「…あっ。危ねぇっ!?忘れてた!」
「突然何よ!?」
「陛下から頼まれてたことがあったんだった!」
「お母さんから?」
あっぶねぇ…マジで忘れてた。
今ルミアの顔を見て思い出した。
俺は一気に朝ごはんを食べ終え、食器を片付け、歯を磨いて、身嗜みを整える。
「ご馳走様でした!ゴメン!先に学校行ってて!俺もすぐ行くから!」
それだけ言い残して、俺はすぐに次元跳躍したのだった。
「…なるほど…。息子とはこう騒がしいものなのか」
「いや…それは多分違うと思うわよ…」
残された7人は、いなくなったアルタイルの空間を見ながら呆然とする。
そんな状態のレナードの言葉に、システィーナがツッコミを入れる。
「それにしても…うふふ…うふふふふふふ…」
「あらあら、貴方ったら」
突然ニヨニヨしだすレナードと、いつも通りのフィリアナ。
「だってそうだろう?まさか、最愛の娘達とこうして再び食卓を囲める日が来るなんて…しかも娘が2人、息子が1人増えるなんて!…息子はまあ、あれだが」
「兄様がすみません…」
息子のところだけ、いささかテンションの落ちるレナードに、ベガが申し訳なさそうにする。
そんなレナードに、システィーナが怒る。
「ちょっとお父様!ベガが可哀想じゃない!」
「い、いや…!決してそういう訳ではなくて…申し訳ない!」
深々と頭を下げるレナードに、慌てるベガ。
娘大好きレナードからしたら、アルタイルはルミアを射止めた忌々しい男であるのと同時に、将来的に義息子になることが確定している、なんとも言えない存在。
認めてない訳では無いが、素直に喜びづらい…そんな感じなのだ。
単純に、娘を持つ父として…ということだ。
そんなレナードを見て、ナムルスがボソリと一言。
「…キッモ」
「ナムルス!しっ!しっ!我慢して!」
そんなナムルスを静かに窘めるルミア。
さて、なぜナムルスがここにいるかと言うと、肉体を得たナムルスもまた、住む場所に困っていたのだ。
「いや〜!ナムルス君!話を聞けば君は…ルミアの遠い親戚のそのまた親戚の、遠縁の友人の子らしいね!ならば私の娘も同然!」
「いや、もう完全に赤の他人でしょ、それ。繋がり皆無でしょ」
ナムルスの冗談で作った設定をすっかり鵜呑みにしたレナードは、朝からハイテンションのまま暴走する。
「あらあら、貴方ったら」
そんなレナードを、鮮やかな手際で絞め落とすフィリアナ。
そんなナムルスだが…レナード達のおかげで、学院に通うことになったのだ。
そんな学院の制服に身を包んだナムルスは、自分の姿を見て呟く。
「前々から思ってたけど…相変わらずスケベな制服ね、これ。エッチすぎでしょ、痴女なの?」
「「それは言わないお約束ぅぅぅぅぅぅう!!!」」
(実は私もそれを着るのだけは、結構勇気がいります…)
「衣食住を提供してくれるだけじゃなくて、学院に通えるようにしてくれたのも感謝してるわ。だけど…グレンのところはダメなの?」
「それだけは絶対にダメぇぇぇぇぇぇ!!!」
(兄様がいなくても、やっぱり騒がしいですね…)
「ん。ベガ。美味しい?」
「あ、はい。美味しいですよ、リィエルさん」
顔を真っ赤にさせながら騒ぐシスティーナとルミアを無視して、ほのぼのと朝ごはんを食べるリィエルとベガなのだった。
「よっと」
「キャッ!?」
「何奴!…って、貴殿か。アルタイル」
俺が跳躍した先は、復興中の帝都オルランド。
そこに建設された仮説行政執行省内の廊下。
「お久しぶりです。レニリア王女殿下。ゼーロスも久しぶり」
彼女達に会うのは、あの戦いの直前にお守りを私に行って以来だ。
「お、お久しぶりです、アルタイル君。…心臓に悪いですね」
「もはや貴殿に、機密などあってないようなものだな」
「そこはご容赦を。これが一番手っ取り早いですので」
何故俺がここに来たのかと言うと、今日の講義内容に理由があった。
「それでは参りましょう。まずは学院長室ですね」
「はい!」
「私も着いていこう」
本日から3日間、アルザーノ帝国魔術学院にて、グレン先生による魔術講義が大講義室にて行われるのだ。
世界で先生しか体験していない様々な出来事、それを講義してくれる。
その希望者は学院関係者はもちろん、こうしてレニリア王女殿下や他の学院の人達など、レザリア王国と合併したこの国、アルザーノ=レザリア大帝国中から来る。
「話には聞きましたが、他の国からもいらっしゃるのですよね?」
「そうです。様々な国の方々がこの講義の為だけにいらっしゃるのですよ」
そのため…という訳では無いが、現在学院への留学希望者が後を絶たず、フィジテは現在、復興作業と言うよりは、根本的に街ごと作り替えている状況にある。
「随分と詳しいのだな。誰から聞いたのだ?」
「ルチアーノ卿だよ」
この一大プロジェクトには、ルチアーノの爺様率いる西ハマート商会と、ニーナ=ウィーナス率いるウィーナス商会が手を組んで取り組んでいるらしい。
そういえば…
「ウィーナス商会の女社長、グレン先生の昔馴染みらしいですよ」
「まあ!そうだったのですね!貴方は確か、ルチアーノ卿とは縁があったとか…」
「正確にはエンダース殿ですな。その繋がりで知り合ったと、聞いているが?」
ゼーロスの言葉に頷きながら、用意を整えた俺は、2人に先に行ってもらうことにした。
「アルタイル君はどうするのですか?」
「イヴ=ディストーレ元帥を迎えに行こうかと。何かイレギュラーがありましたら、お知らせ下さい。ゼーロス隊長がいれば、大抵の問題は片付くでしょう」
こっちはハッキリ言って、物のついでだ。
どうせ忙殺されてるだろうし、時間は無いだろう。
「そうですか。それでは失礼しますね」
「また後で会おう」
2人が無事に着いたことを反応で確認して、俺はそのままイヴ姉さんの元に跳躍した。
「っ!?…って、アルタイル!?どうしてここに!?」
「…一斉に戦闘態勢を取られると、流石に怖いな」
「いや、アルタイルが悪いからね!?」
というクリストフのツッコミが響くのは、特務分室の室長室だ。
というかやっぱり…
「とんでもない書類の山だね…」
「やっと終わったのよ…。これで行けるわ…」
「…今日だけどね。講義始まるの」
「え?…ぁぁぁぁぁぁあ!?」
すっかり仕事に追われたせいか、日付感覚の無くなったイヴ姉さんは、大慌てで立ち上がって用意を始めた。
ほらやっぱり、来て正解だ。
「レニリア王女殿下を連れていくついでに、イヴ姉さんも拾いに来たんだよ。ほら、用意して。殿下達は先に行ってもらったから」
「お、おいおい!?放ってきたんかいな!?」
「いえ?ゼーロスも一緒ですし、学院長室に跳ばしました」
「貴方って本当に…」
「あはは…流石アルタイル君というか…」
流石ってなんだよエリザ。
ルナまでなんで…ってあれ?
「ルナ?なんでいるの?」
「何よ。貴方までソイツと同じこと言う訳?」
「事情を知らないんだから、そりゃ聞くでしょ」
何故かいるルナ=フレアーに、首を傾げる。
そんな俺にソイツと言われた人物…アルベルトさんが答えた。
「今のルナは執行官NO.14【節制】を冠している」
へぇ、なるほどね。
色々複雑な事情でもあるのだろう…ん?
ルナの奴、なんでチラチラアルベルトさんを見てるんだ?
当然気付いているのか、アルベルトさんも不思議そうではある。
…ハッ、まさか!?
「…クリストフ?あの2人…」
「アルベルトさんはグレン先輩以上に鈍いですし、ルナさんはシスティーナさん以上に無自覚ですからね…」
「あ、あの2人を超えるのか…!?」
半ば冗談半分で聞いたが、どうやらマジらしい。
色んな意味で驚きだ。
さてと、ではもう1人に触れよう。
「イリアはどうする?来る?」
「行かないわよ」
執行官NO.18【月】のイリア=イルージュ。
その正体はイヴ姉さんのお姉さん、リディア=イグナイトの本当の妹、アイエス=イグナイトだったらしい。
いつかアゼル=ル=イグナイトを殺す為、名前を偽って来たらしいが、それが終わった後、燃え尽き症候群に。
だがフィジテ防衛戦の際、ベガと共にイヴ姉さんを助けたらしい。
しかもひょんな事から関係性が発覚し、イヴ姉さんはてんやわんや。
ベガもすっかり懐いてしまっていた。
「ベガも会いたがってたけど?」
「ふーん、そうですか。…ま、気が向いたら行ってあげるわ」
そう言って立ち去るイリア。
…素直じゃねぇなぁ、おい。
というか…
「俺の妹、人たらしすぎない?あれで人見知りなんだぜ?」
「…人たらしは君も言えないと思うけど?」
どういう意味だそりゃ?
…という訳で、用意を終えた2人。
「…あんたも来るわけ?」
「ベガちゃんが会いたがってるらしいので」
「あんたも絆されたわけね。…この兄妹、人たらしすぎない?」
「それは否定しないわ」
「何言ってるよ?早く行くよ。と言うわけで、2人は借りてきまーす!」
そう言って、俺はフィジテに跳んだのだった。
さて、無事に全員集めて、大講義室に来たはいいが…
「って!?グレン先生はどこ行ったのよォォォォォォォォォォォ!!!」
という訳で、相も変わらず先生は先生だ。
システィの怒号が響き渡る。
「どうなってるのよ!?もうとっくり講義開始時間過ぎてるわよ!」
「ま、まあまあシスティ。何かあったのかも…」
「だとしても今日やる!?よりにもよって今日やる!?普通!」
講師のグレン先生が来ない以上、残念ながら話が進まない…どころか始まらない。
ったく…どこで道草食ってんだよ…?
というか…
「なぁんか懐かしくていいじゃん」
「こんなこと懐かしみたくなぁぁぁぁぁい!!!」
ケラケラ笑う俺に、システィがさらに怒る。
おーおー、燃えてるなぁ。
「アイル君…。あまりシスティに油を注いじゃダメだよ」
「はぁーい」
そんなルミアに俺はもたれる。
まあ、許してくれ、眠いんだ。
「フフッ。2人は仲良しね。ところでルミィ。グレン先生という御方は…?」
「え?あ、あはは…。たまにこういうお茶目なところが…」
「たまに真面目なだけで、こっちが常ですよ」
「アイル君。めっ」
レニリア王女殿下に曖昧に返すルミアに、俺が合いの手を入れる。
そんな俺にルミアは頭を撫でてた手で軽く額を叩くと、また頭を撫でてくる。
あぁ…やばい…マジで寝る。
「…あれ?アルタイル君寝てるよ?」
「え?…あ、起きて!アイル君!っていうかリィエルも寝てる!?」
そのまま寝ていると、ルミアに起こされた。
いや〜、ルミアの温かさといい匂いでつい寝ちゃった。
「そしてそこは公衆の面前でイチャつくな!というか殿下の前でよくやるわね、アイル!」
「いいじゃん。ちゃんお付き合いしてる訳だし。しっかりアピールしておけば、余計な虫もつかないし」
そんなやり取りをしていると、やっと講義室のドアが開いた。
「いや〜メンゴメンゴ。ベンチでうたた寝しててつい…」
「遅ォォォォォォォォォォい!!!」
やっとこさ現れた先生に、システィの超絶技巧の風が襲う。
「お、お前ぇぇぇぇ!!第七階梯を軽く超える超絶技巧をこんなお仕置に使うんじゃねぇ!俺の立つ瀬がなくなるだろ!」
「どやかましいわよ!こんなここ一番の大舞台で、遅刻なんてしてんじゃないわよ!!」
「もうむしろ、お前が抗議しろよ!こんな三流の雑魚よりよっぽどいいだろ!!」
「何わけわかんないこと言ってんの!!」
…本当に相変わらずの光景だ。
そんな光景に俺達は苦笑いを浮かべながら、やり取りを見守る。
「さて…どこからやるかな…」
「もう!しっかりしてください!先生!」
「わぁってるよ。ったく…よし、決めた。初日はガイダンスっつーか、根本的な魔術師としての概論を語ろうか。一つ初心に返る意味も含めてな」
その途端。
大講義室の空気が引き締まった。
俺を含めた誰も彼もが抱く、先生の言葉を一言一句聞き逃すまい、そういう熱意からだ。
「今日最初の講義内容は…【夢に向かって歩み続ける意味】について。そして…【俺達魔術師が目指すべき未来】について」
「興味無い奴は寝てな」