それでは、よろしくお願いします。
これは何でもない平和な日常。
彼らの思い出、
「と、いう訳で。俺はそのオーウェルとやらの所に行く訳になったのだが…」
時は昼休み。
俺達3人は、先生に連れられ【オーウェル=シュウザー】教授の研究室に向かっていた。
またあの変態が、変な発明をしたらしい。
その犠牲に満場一致で選ばれてしまった、グレン先生がお供として、俺達を連れてきたのだ。
「事情は分かりましたが…何で私達まで?」
不機嫌そうに呟くシスティーナ。
「ルミアは可愛い。万が一って時に看取ってもらいたいと思うのは、男の性だ。アルタイルは、よく手伝うんだろ?だったら今回も頼む。白猫は…万が一って時の盾だ」
「ルミア!アイル!離して!コイツを殺せない!コイツを殺して私も死ぬ!!」
「心中とかやめとけ。意味無いぞ。やるなら徹底的に地獄見せてからにしな」
「違う!アイル君、そうじゃない!システィも落ち着いて!!」
俺達(主にルミア)が必死に止めながら、何とか研究所に着く。
「さてと…鬼が出るか蛇が出るか」
「いやいや、両方+邪神ですよ」
「どんな人外魔境なのよ!?」
「ていうか、お前目が死んでねぇか!?」
「アイル君!?しっかり!」
アハハ…つい数ヶ月前も地獄を見た。
人呼んで『天災教授』。
ハーレイ先生同様、掛け値なしの若き天才なのだが、その才能の使い方を間違えてる人だ。
しかし、この手伝いは金払いがいい。
実はこの学院、学内で学生向けのバイトを募集しているのだ。
単純な力仕事や書類整理から、荒事まで多種多様だ。
俺はリゼ先輩経由で、割と手広く請け負っていて、オーウェル教授の手伝いも、バイトとして処理してもらっているのだ。
「流石この学院の、ビックスポンサーだよな…」
「アイル君?何の話?」
「何でもない」
「俺帰りたい…」
「無理ですよ、先生。…手遅れです」
そう呟いた途端、ドアが破るように開かれる。
中からでてきた20代後半の男。
ボサボサの髪に、ギラついた左目と、眼帯に隠された右目。
その顔つきは一般的にはイケメンなのだが、その狂気的な笑みが、全てを無駄にする。
グレンはここで悟る。
(あ、コイツ変態だ)
「フハハハ!待っていたぞ!君達!さあ、今から世紀の大発明を見せよう!」
そう言っていきなり何かで俺達を除く。
「ふむふむ…いま君達は腹が減っているな!?」
「いや、違う」
「何!?では…明日の天気が気になっているな!」
「かすりもしねぇ」
相変わらず訳分からん人だな…。
「ば、バカな…!?魂紋パターンを完全に理解出来るのは、間違えないのに…何故だぁ!?」
「こ、魂紋の完全理解ですって…!?」
「お前…!?なんてもんを…!?」
さっきも言った通り、この人は掛け値なしの天才なのだ。
そして…
「こんな使えないポンコツは…いらーん!!!」
「「何してんだァァァァァァァ!!!?」」
才能の使い方を間違えてる人だ。
そのとんでもない発明品をなんの躊躇いもなくぶっ壊した。
しかもタチが悪いのが…
「おまっ!?今すぐ作り直せ!設計図はあるんだろ!?」
「そんなものある訳ないだろう!本来の発明品の片手間に作ったのだからな!」
「だあぁぁぁぁぁぁ!!分かってたけど本物のバカだコイツ!!」
こういう凄いものに限って、思いつきで作ってしまうのだ。
だから、設計図も無い。
あるとしたら彼の頭の中だけなのだ。
「さてと、ここからが本題だ!諸君!」
そしていつの間にか、拘束されている俺達。
「それでは、我が研究室に、4名様ご案内!」
「「キャアァァァァァァァァア!!」」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
「…慣れた俺が怖い」
簡単な自己紹介を済ませた俺達は、さっそく中へと進んでいく。
「先に言っておくけど…何を突っ込んでも無駄だから、ツッコミは程々に」
そう前置きしてから、奥に進む。
すると出てくる出てくる、アホみたいなとんでもない魔道具の数々。
永久機関だの、無機エネルギーを生命エネルギーにする機械など。
そして全てが、教授にとってガラクタ。
もうため息しかない。
「教授、今回もバイトという事で。後アレ、お願いします」
「よかろう!しかしアレを欲しがるなんて…君も殊勝な事だ」
「アレの価値がわからないのは、世界で貴方だけです」
俺達の意味不明な会話を不思議に思ったのか、ルミアが首を傾げながら聞いてくる。
「アイル君、アレって?」
普通に伝えても、つまらんな…よし。
「幸せになれる葉っぱ」
「「「…」」」
俺はわざとはぐらかした。
さてと…皆の反応は…?
「アルタイルてめぇ!!何してやがる!!!?」
「うぉっ!?」
まさかの胸ぐら掴み上げられた。
ていうか…苦しい…!
「アイル!ダメよ!今すぐ捨てなさい!」
「そうだよアイル君!絶対にダメ!!」
ルミアとシスティーナも真剣に怒ってくる。
さてと…どうネタばらししようか…?
「おい、オーウェル!!テメェも俺の生徒に何してくれてんだァ!!」
「む?何と言っても…あんな茶葉を欲しがるのは、彼だけだぞ?」
空気が固まった。
「「「…茶葉?」」」
「…ククク…」
笑いが噛み殺せていない俺を見て、やっと理解した3人。
「「…アイル(君)!!!」」
オーウェル教授が勝手にバラしてくれたお陰で、俺の手間が省けた。
それにしても…!
「アハハハハハ!悪ぃ悪ぃ!皆がげんなりしてるから、からかいたくてさ!」
「アイル君!!本気で心配したんだよ!!」
「そうよ!いくら何でもタチが悪いわ!!」
「お前な〜…!」
先生は呆れたようため息だけだが、ルミア達の目には涙が浮かんでる。
むぅ…、ルミア達に泣かれるとは思わなかった。
そこまで心配かけたのは、やりすぎだったか。
「…すまん。やりすぎた。でも幸せになれる茶葉ってのは、あながち嘘じゃないぜ?先生、あれ見てください。分かるんじゃないですか?」
俺は窓際にあるプランターを指さす。
その正体は…
「あれって…まさか絶滅した幻の茶葉【ノーブル=リストネア】か?まさか再現しちゃったのか…?」
そう、そこには最早世界には存在しない、幻の茶葉がある。
あれを巡って、国同士が戦争を起こすくらい、凄い茶葉だ。
俺はそれを貰って、店で極々一部の人に振舞っているのだ。
「捨てるっていうから、土下座して貰ったの。それ以来、無くなりそうになったら、貰ってる」
「それ…お店で振舞っていいの?」
「だからうちでは、後ろにレプリカってつけて出してる。可能な限り近付けたってだけという体で」
「たしかに幸せになれるって言ったら、そうなんだろうけど…」
「たしかに、価値が分からないのは、教授だけね…」
俺は笑いながら、持っていた手提げから、お菓子を出す。
「はいこれ、オランジェット。本当はもっとリキュールとか効かせたいけど、システィーナが酔うから、弱めに作った」
どうせ、この人にとっての粗茶だ。
間違えなく振る舞うの想定して、持ってきたのだ。
「…う、美味い…!」
「ん〜!砂糖漬けのオレンジの酸味と甘み、チョコの苦味が、絶妙〜!この紅茶とよく合う〜!」
「美味しいけど…負けてる…!圧倒的女子力…!」
少しリラックスしたところで、本題だ。
「さてと…発明品の説明の前に、君達は今のこの国の現状をどう思う?レザリアとの緊迫状態。戦術的有為ではあるが、それもいつまで持つか…?」
(あかん…。コイツ、性根は意外にマトモだ)
(性根がマトモで、しかも優秀な人材だから、クビに出来ないんだわ…)
(多分有り余る才能と熱意が、空回っちゃって、明後日の方向にいってるんだね…?)
この人は意外だが、根っこはマトモだ。
だけど、油断することなかれ。
「はいはい、貴方のその無駄に崇高な思想は分かりました。で?何作っちゃったの?」
「今必要だと考えたのは…正義のヒーローだよ!!!」
(あかん…。やっぱりマトモじゃなかった…)
(性根はマトモでも、根源はマトモじゃなかった…)
(明後日の方向どころか、斜め上に行って、そのまま飛んで行っちゃったんだね…)
「そこでこれだ!」
そうして取り出して先生に手渡したのは、何やらゴツいバックルのついたベルトだ。
「その名も【
「はぁ…」
思わずため息しか出ない。
相も変わらず、才能の無駄使い。
ある意味これが、アイツらの手に墜ちてなくて良かったよ…。
こんなのが敵として出てきたら、悪夢だ。
「説明しよう!これは特定の呪文とポーズで、起動する錬金術の応用だ!剣と鎧を高速錬成して、即装着!身体能力と防御力を向上させ、剣の切れ味は鋼鉄をバターのように切り裂けるのだ!」
「いや、無駄にすげぇな!?」
「ただ、魔術は使えない」
「ダメじゃねえか!?このご時世に、思いっきり逆行してるじゃねぇか!?」
「どっかの誰かさんは、魔術起動の完全封殺が出来るよね?」
「俺とこれを一緒にするな!」
「うるさい!何が魔術だ!ヒーローとは正義!正義とは騎士道だ!かつての騎士道を取り戻せ!」
「ツッコミどころが多すぎて、どうすればいいか分からねぇ!!付き合ってられるか!」
先生が手に取ったベルトを置こうとして、何故か手放さない。
「…先生?」
「何だ…?これから手が離れねぇ…!?」
「ふふふ…岩に刺さった聖剣は、選ばれし者にしか抜けない。…これもまた然り!どうやらグレン先生は、それに選ばれたようだな!実はそれ、触れた者の変身適合率を自動計算、適合すれば絶対に手放せないように【
「これは【
何て無駄に…高性能…!?
「これを解呪出来るのは私だけだが…さあどうする?」
「くそぉ…!?最早選択肢が無い気が…!?」
「先生…もうやって帰りましょう。今まで一応死人は出てないらしいですし…」
システィーナ疲れたように言うが、疲れるのはここからだぞ?
「死にかける事はザラだぞ?主に精神的に」
「知りたくなかった!!!その情報!!!」
そうして先生に教授による、変身講座が始まった。
さて、そういう訳で俺達は暇なので
「はい、おかわりどうぞ」
「ありがとう、アイル君♪」
「流石ウェイター…仕草が様になってるわね」
紅茶を飲みつつ、持ってきたオランジェットを摘んでいた。
紅茶が苦手な俺でも飲める、数少ない紅茶だ。
…うん、オランジェットもいい出来だ。
「本当は紅茶だし、オレンジジャムとスコーンの方がいいんだけどな…持ち運びには向かないし」
「わぁ!それも良さそう!」
「持ち込む前提なのね。しかし…本当に美味しいわね、これ」
「簡単だし、レシピ教えよっか?」
「うん!知りたい!」
ほのぼのと、学生らしい会話をしていた。
後ろのカオスに目を背けて。
「『瞬、転ーーーッ』!」
突然後ろから、眩しい白い光が輝き出し、その姿が見てる。
「おお…!どんなエキセントリックな格好が出てくるかと思えば…!」
「まるで英雄譚に出てくるみたいな騎士ね…!」
「先生!かっこいいですね!」
「なんか…男心くすぐるかっこよさだな…」
何か…ずるいな…!
俺もしたいな…変身!
不覚にも、そんな事を思う。
「さてと、後はテストだけだ!とはいえ、そんなホイホイと平和が乱れる様な事態が発生しない。そこでだ…」
おっとぉ…急に雲行きが怪しくなってきたぞ…。
「という訳で、こういう時を想定して作った、【悪の軍団人形】を召喚しよう!」
「どういう時を想定してんだよ!?お前暇か!?つーか試したいなら、普通に戦闘用ゴーレムで良いだろが!!」
「ほう…そんな事を言っていいのかな…?もし君が放棄すれば、私の軍団が生徒達に…」
「おい!俺の生徒達に手を出す」
「【服を溶かす液】を、かけることになるが?」
「「いいぞ、やっちまえ」」
「アイル君?」
「ごめんなさい」
「って!いい訳無いでしょう!」
ポチッ!
「「「「…あ」」」」
怒ってテーブルを叩いたシスティーナだったが、なんとその下に召喚ボタンがあったのだ。
そうして、生徒で賑わう中庭に出現した悪の軍団は、宣言通りの液をかけ出す。
瞬く間に中庭は、肌色だらけになる。
…男子の肌だが。
「「なんでだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?」」
「アイルクン?」
何故に男だけ!?女も狙えよ!
「ふ、私は紳士だぞ?予めそういう風にプログラミングしているのだ。…それに女子を狙えば、ツェスト男爵が出てくると…面倒だろう?」
「クソ!正論すぎて何も言えねぇ…!」
思わず俺達は頭を抱える。
クソ…!こうなるって分かってたはずなのに…!
「アルタイルはここにいろ!下手に動かれると、被害だデカくなる!こうなりゃ…やるしかねぇぇぇ!」
そうして先生が、ウィンディを助けに人形相手に大立ち回りをしだした。
しかも、ノリノリで必殺技とかつけて。
後日、ベッドでゴロゴロする羽目になりそうだな…。
「先生って…実は気に入ってるのかしら?」
「まあ、変身に興奮しない男子はいないよな。俺もだし」
「アハハ…男の子だねぇ…」
そうして切られた人形は爆散して消えていく。
「無駄に凝ってるわね!?」
「当然だとも!こういうのは大切だろう!これだけで3年はかかった!」
「無駄な努力すぎる!?」
その無駄に凝った無駄な演出は、何故か幻想的な風景で、まるで絵本の世界が飛び出した様な感じだった。
そんな光景は
「か、仮面騎士様…!///」
ウィンディをときめかせるには、十分だったらしい。
「え?いいのかあれで?」
「いい訳ないでしょう…」
「完全に恋する乙女の目だね…」
そして、グレン先生が全ての人形を片付けて、ウィンディを起こす。
そのまま何やら、歯が浮くようなキザったらしいセリフで、ウィンディと話す先生。
そのあまりにも美しく、滑稽すぎる寸劇に
「な に こ れ?」
「目眩がする…」
「あ、あはは…同じく…」
俺達は目眩が堪えきれず、頭を抱える。
「あんた史上、最低最悪の…あれ?」
いつの間にか、オーウェル教授がいなくなる。
何だろう…凄く、嫌な予感がする…!
外を見ると、いつの間にか真っ黒な鎧姿に変わった、オーウェル教授がウィンディを人質にしていた。
しかし、その数分後には先生にボコボコにされている。
「騎士様…!素敵…!///」
それを見ても尚、トキメキが止まらないウィンディ。
「あの凄惨なリンチを長々と見てもなお、そんな事言えるのか…?」
「ウィンディ…本気で大丈夫?」
「恋は盲目だね…」
そんな時、急に音が鳴りだし
『『後30秒デ、自爆シマス』』
急にやばい事言い出した。
「…おい、これはなんだ?」
「フッ…自爆は男のロマン。【仮面騎士】シリーズには全て、搭載されている」
「…で?何か俺のも起動してるんだが?」
「…あ、本当だ。おそらくこれと同じものをつけてしまってるので…てへぺろっ」
「「「…」」」
「ああ!待ってくださいまし!騎士様!騎士様ぁぁぁぁ!!」
俺達は黙って撤退を選んだ。
ウィンディを抱えて、猛ダッシュ。
そして後ろでは大爆発。
「ふざけんなぁァァァァァァァ!!!」
先生の悲鳴を背にして、俺達は走り出す。
そうして、先生達は自爆したのだった。
おまけ
「はぁ…騎士様…きっと貴方はまだ…」
「ウィンディ、未だにあのままなの?」
「今、タネ明かししたらどうなると思う?」
「アイル君!?絶対にダメだよ!?フリじゃないからね!!」