ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

118 / 141
アルタイルのバイト先を、明言してませんでしたね。
基本学院内のバイト、たまに日雇いのバイトです。
1番の収入源は、オーウェルの手伝いという、最悪のジレンマ。
それでは、よろしくお願いします


宮廷魔導師アルバイター、リィエル

これは何でもない平和な日常。

彼らの思い出、追想日誌(メモリーレコード)

 

 

「却下」

 

「アイル君。そこをなんとか…!」

 

「断固拒否」

 

ある日の放課後、俺はグレン先生を含む、いつものメンバーに捕まっていた。

その理由は…

 

「リィエルにバイトさせるのはいいと思うけど…」

 

そう、先月うちに編入してきたリィエルだが、この間の白金魔導研究所の一件で、やっとクラスの仲間として受け入れられた。

しかし、今度は別の問題が浮上した。

 

「社会勉強の為っていうのは、大事だと思うけど、いきなり接客業はちょっとキツイんじゃないんですか?」

 

「やっぱりそうよね…」

 

「うぐっ…」

 

そう、社会不適合という問題が。

要するに世間知らずなのだ。

編入して数々の問題を起こしているリィエル。

その始末書を書いているのが、グレン先生だ。

そのペースはというと、ベストセラー作家ぐらいヤバいらしい。

しかも書けば書くほど、金が減る鬼畜仕様。

泣けてくるな…。

そこでうちのレストランで、バイトをさせようという魂胆らしいが、うちは今募集していない。

というか、こんな地雷は勘弁願いたい。

 

「…まあ、丁度学院内のバイトに行く予定だったので、一緒に来ますか?」

 

「ッ!?いいのか!?」

 

「力仕事で、結構大掛かりな仕事だし、人手は多いに超したことは無いと思いますよ」

 

そうして連れてきたのが

 

「急にすみません、セシリア先生」

 

「いいえ、たしかに人手は欲しいので、気にしないで下さい」

 

「本当にすんません、セシリア先生」

 

保健医であるセシリア先生が管理する、薬草畑だ。

俺達男子組+リィエルは、畑の土起こし。

女子組が、苗を植える作業だ。

これならリィエルでも、監視さえしとけば何とかなるだろ。

 

「リィエルの為とはいえ、何で私達も…」

 

「まあまあ、システィ」

 

「小遣い稼ぎだと思えって」

 

俺とルミアが宥めながら、作業を続ける。

 

「そういえばさっき聞いたけど、ルミアもバイトしてたんだって?」

 

「あ、うん!家庭教師のバイトしてたんだよ」

 

なるほど…ルミアが家庭教師…。

何それ、最高じゃん。

そしてきっと無垢な子供達の心に、無自覚に初恋を抱かせるのだろうな…!

 

「アイル。多分私と同じ事考えたわね」

 

「こんな包容力溢れるお姉さんに、出会ってしまった子供達…。恋しない訳が無い」

 

「そんな彼らはルミアへの恋心をきっかけに、大人の階段を一歩登る…」

 

「「ルミア…!恐ろしい子…!!」」

 

「2人共、何考えてるの!?」

 

などと下らないやり取りをしながら、仕事を進める中、リィエルは黙々と続けていた。

鍬二刀流という、新ジャンルを引っさげて。

しかし、根は真面目なリィエル。

黙々と仕事をこなすその様子は、皆から信頼されるには十分だった。

そんな中、セシリア先生から休憩を言い渡された。

 

「私が奢りますよ?私の最後の、ティータイムかもしれませんし…ふふ♪」

 

「「やめてください、シャレになりません」」

 

俺とシスティーナが、同時にツッコんだ。

本当にマジで、この人の場合シャレにならんでな…。

そんな中

 

「私はまだやれる」

 

そう言ってリィエルが辞めなかったので、先生に監視を任せて、俺達は休憩をする事にした。

この時、気付くべきだった。

グレン先生が、油断しきっていたことに。

 

「なんじゃこりゃあ…?」

 

休憩から戻ってきた俺達が見たのは、一面耕された畑。

やらなくていい所までやってあるよ…。

 

「…ゴフゥ!!!」

 

「「「「「「「せ、セシリア先生ーーーー!!!」」」」」」」

 

あまりの惨状に、血を吐いてショック症状を起こすセシリア先生。

 

「おい、これマジでやべーぞ!!!?」

 

「誰か保健医呼んできて!」

 

「それこの人!!」

 

「「「「「そうだったーーーーー!!!!?」」」」」

 

「る、ルミア!!貴女の出番よ!!!?」

 

「ま、任せて!!!?何とかしてみる!!」

 

「マジで今回が、最後のティータイムだったか…」

 

「「現実逃避してないで手伝う!!」」

 

 

 

 

「さて、第1弾が成功したところで!」

 

「あれを成功とみなすの…?」

 

「してねぇだろ、あれ」

 

「うるせぇ!白黒コンビ!何としても金を稼いで貰わねぇと、生活出来ねぇんだよ!」

 

「「誰が白黒コンビだゴラァ!!」」

 

「ま、まあまあ2人共…」

 

おい、思いっきりピンハネする気満々だったんかい。

まあ、今回はリィエルのせいでもあるし…見逃すか。

今日のバイトが無くなった俺は暇なので、リィエルの社会勉強に付き合う事にした。

そんな俺達がいるのは、学生に人気の喫茶店【アバンチュール】。

俺もルミア達とたまに利用する店だ。

 

「ここでウェイトレスだ!」

 

「だから、リィエルに接客業は早いですって」

 

「だがな、ここ時給が破格なんだよ」

 

そう言って先生に見せられた、求人のポスターを見ると、たしかに破格な時給をしている。

同じく覗き込んだルミアが、驚いたように呟く。

 

「これって最低賃金ですよね…。何か信じられないなぁ…」

 

「ここの店な、制服が凝ってて有名なんだよ。しかも従業員も店長のお眼鏡に適った奴だけ。その見た目で時給や特別賞与が決まるらしい…」

 

あまりの内容に、頭が痛くなる。

ていうか…俺、入れねぇんじゃね?

 

「…何そのフェミニストや、女性団体に非難轟々な店…世も末だわ」

 

「…先に言うけど、流石に男で一括りにはされたくないな…」

 

「アハハ…」

 

そんな訳で面接したのだが、流石に3人共、最高待遇で一発採用。

意外だったのが、俺もすぐ採用だった事。

店長曰く

・たまたまキッチンが人手不足だった事。

・経験者である事。

・女性受けのいいルックス。

の3点で受かったらしい。

まあ、男だし最低賃金なのだが。

そういう訳で着替えたぞ。

白衣に黒のスキニーパンツ、白のエプロンにコックシューズとコック帽。

まあ、典型的なコックさんだな。

 

「先生。ドヤ!」

 

「お!似合ってるじゃねぇか!様になってるぜ!」

 

「ど〜も!」

 

まあ、相手が先生とはいえ、褒められのは、素直に嬉しい。

そのまま女性陣を待つこと数分。

 

「…ん。着替えた。どう?」

 

まず最初に出てきたのはリィエルだ。

フリルの付いたエプロン、カチューシャ、スカート。

要所要所に飾られたリボン。

一見可愛いらしさと華やかさの印象を与えるが、それだけじゃなく、貞淑かつ清楚さも感じさせる。

まさにデザイナーの間違った執念が産んだ、間違った奇跡の逸品だ。

 

「お!よく似合ってるぜ!リィエル。いい意味でお人形さんみたいだな!」

 

「おーおー!馬子にも衣装だな」

 

リィエルが着ると、精巧な人形みたいな雰囲気を醸し出す。

 

「まあ、実際に働くリィエルが着るのは当然として…なんで私達まで着ないといけないのよ!」

 

「まあまあ…システィも今月は厳しいんでしょ?頑張ろう?」

 

現れたのは、怒ってるシスティーナとそれを宥めるルミアだ。

2人共同じく服を着ているが、それぞれ雰囲気が違う。

システィーナは品の良さを感じる、綺麗だ。

ルミアは華やかな愛らしさを感じる、可愛い。

 

「おいおい、システィーナ。せっかく似合ってるんだ。仏頂面はやめとけよ。あとルミアは…可愛すぎる。テイクアウトで」

 

「ありがとう。後、ルミアは非売品よ」

 

思わずポロッとでた言葉がかなりヤバかった。

俺が悪かったから…その絶対零度の視線は止めてくれ…!

 

「ふぇっ!?///その…アイル君になら…!///」

 

「ルミアも同意しない!ほら、始めるわよ!」

 

そうして俺達のバイトが始まった。

 

 

 

さて、どうなったかと言えば

 

「いらっしゃいませ、お客様。ご注文はお決まりですか?…かしこましました。すぐお持ち致しますね」

 

ルミアの心からの笑顔で、客は癒され

 

「アイル!オーダー!15番さん、ローストビーフと、リマノフ海老のフリッター!7番さん、ジャガイモのミートパイ2つと、オススメサンドイッチセット2つと、コーヒー2つ!…え?お会計の人手が足りない?分かりました!入ります!」

 

システィーナが効率よく、仕事を捌き

 

「OK。これ3番さん。8番さんは後少し。14番さんまだ?OK、盛り付けはやっときます。あ、店長、味付けこれでいいです?…ありがとうございます。…ホールが足りなさそうなので、行ってきます」

 

アルタイルが経験をフルに活かして、キッチン、ホール共に上手く回している。

3人共それぞれ、最初こそ慣れなさと勝手の違いに戸惑いはしたものの、各自すぐに慣れて、まるでベテランのように立ち回る。

そして肝心のリィエルはというと

 

「苺タルトをバカにするの…?」

 

「ストォォォォォォォォプ!!!?リィエル!こっちに来ようね!?ルミア!ヘルプお願い!アイル!最優先!」

 

「も、申し訳ありません!お客様!あの子まだ不慣れでして…!」

 

「お待たせ致しました!こちらナポリタンです」

 

システィーナ達のフォローあって、辛うじて何とかなる程度だった。

その後も

 

「ゴラァァァァァァ!!リィエル!!それはお前のじゃない!!食うなぁぁぁぁぁ!!!」

 

「り、リィエル!!お皿はもっと優しく扱わないと!?…あ、ああ…また割っちゃった…」

 

「あああ!?リィエル!!貴女がさっき渡したのセルト銅貨じゃなくて、リル金貨じゃない!!今すぐ取り返してこないと…!!」

 

「す、すみません、お客様!ほら!リィエルも一緒に謝って!!まさか転んだ拍子に、料理がお客様の頭にかかるなんて…!!」

 

「だからそれはお前のじゃねぇって言ってんだろ!!リィエルゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

あまりの惨状に

 

(何故俺は接客業を選んだ!!!?)

 

頭を抱え、机につっ伏すグレン。

コーヒー1杯で居座る、傍迷惑な客になるグレンなのだった。

色々やらかすリィエルだが、まだ辛うじてドジっ子で済む範囲であり、経営が傾く程じゃない。

そうなりそうだったとしても、システィーナ達がギリギリでフォローしていた。

しかしフォローする3人はというと

 

「「ゼー…ハァー…ゼー…ハァー…」」

 

「…ピーク時の…【サザンクロス】より…キツイ…」

 

すっかり虫の息になっていたのだった。

 

 

 

 

慣れてくれば、流石のリィエルもミスが減ってきた。

店長曰く、リィエルのミス分を遥かに上回る収益らしい。

まあ、ルミア達いるし当然か。

ただ、今日はいつもより女性客が多いらしい。

何でだろうな?

 

「きゃあ!」

 

ッ!?何だ!?

ルミアの悲鳴が聞こえたので、手を止めて確認すると、ルミアとシスティーナがチンピラに絡まれてる。

 

「…店長、あの場合荒事は?」

 

「許可する」

 

それはご機嫌だ。

俺はすぐに厨房を出て、一気に近づく。

ルミアとシスティーナを掴む手を掴みあげ、思いっきり捻じる。

 

「「いててててて!!」」

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

「2人共、無事?」

 

「アイル君…!」

 

「あ、ありがとう…」

 

2人共、涙目で震えている。

あぁ…怖かったように。

俺は安心させるように、笑いかける。

 

「大丈夫だ。俺がいるからな?」

 

俺は思いっきり手首の関節を外す。

 

「「ぎゃあァァァァァァ!!」」

 

「うるせぇ。黙れよチンピラ共。失せろ。さもなければ…ブタ箱にぶち込むぞ」

 

殺気をぶつけて、怯ませる。

その殺気にビビって逃げていこうとするソイツらが、突然別の理由でいなくなる。

 

「…ルミアとシスティーナをいじめるなら、許さない」

 

「…終わったな。あらゆる意味で」

 

殺気が一気に霧散する。

そうして始まる、リィエルVSチンピラ共の大乱闘。

いつの間にか、止めようとしていた先生まで、乱闘騒ぎに参加してるし。

全てを諦めた俺に出来るのは、震えるルミア達を励ます事と、安全かつ素早くお客様を避難させる事だけだった。

 

 

後日、【アバンチュール】にて。

 

「〜〜〜〜〜ッ!!!」

 

「あ、アイル君…落ち着こう…ね?」

 

「ムリ…腹が…アハハハハハハハ!!」

 

俺が大爆笑してる原因は、被害金額分ここで働く事になった、グレン先生。

…ご丁寧に、ルミア達と同じ服で。

 

「何でアルタイルが良くて、俺がダメなんだよ!!!?」

 

「俺は店長から、許可があったから」

 

「ちくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

周りには、2組の連中もいる。

もう皆、抱腹絶倒。

マトモなのは、ここにいる三人娘だけだ。

 

「あ〜!笑った!笑った!」

 

「アハハ…。ねぇ、アイル君。あの時…凄くカッコよかったよ?///」

 

「そうね、たしかにカッコよかったわ。ありがとう」

 

「ッ!?///お、おう…///」

 

急に褒めてくるので、こっちまで恥ずかしくなってくる。

クソ、顔が熱い…!

 

「あら?照れてるのぉ?」

 

ニヤニヤしながら、俺をからかってくるシスティーナ。

カッチーン。

 

「ほう…?俺をからかうとはいい度胸だな?…明日の朝、覚えておけよ?」

 

「…お、お手柔らかに…」

 

「アハハ…2人共…」

 

そんな俺達をよそに

 

「…美味しい」

 

リィエルはリスみたいに、苺タルトを頬張っていたのだった。

ちなみにシスティーナは後日、シバいた。




おまけ

「…うちもあれくらい派手な制服の方がいいかな?」

「アイル君のところの制服はシンプルだもんね」

「女性スタッフもパンツルックだしな。ルミアなら問題なく似合うだろ。システィーナが着ると…男装?」

「どこを見ながら言ってるのかしら?…ブッコロス!!!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。