それではよろしくお願いします。
これは何でもない平和な日常。
彼らの思い出、
「「「リィエルが素行不良〜!?」」」
「しっ!3人共静かにですわ!」
とある日の昼休み。
ウィンディに裏庭へと呼び出された、リィエルを除く俺達3人は突然の話に素っ頓狂な声を出した。
「最近、リィエルへ白い目が向けられるようになっているのは、気づいてますわよね」
「あ、あぁ…」
「そこでリン達と探りを入れてみたのですが…」
何でも、歓楽街に入り浸ってるだの、ヤバい仕事をしてるだの、喧嘩にあけくれてるだの、カツアゲしてるだの。
まあ、選り取りみどりだな。
「貴女達は、あの子に1番近しいでしょう?少し気にしてあげてくださいませんか?」
と頼まれたので…
「尾行中ですよっと」
「アイル!しぃ!」
リィエルを尾行してる訳だが、気付いていないのだろうか?
アイツはスイッチが入るのが早いタイプだから、逆に今はオフモードなのだろう。
そんな取り留めない事を考えつつたどり着いたのは
「自然公園…?」
「まさかホームレス!?」
お前…ルミアの護衛だろ…!?
ここにいて守れるのか!?
「リィエルって…宮廷魔導師団のエースなのよね…?」
「資金不足なのかな…?」
「それは無いだろ…ていうか仕事する以上、部屋の用意とかはされてるだろうに…」
そんな風に呆れていると、突然の制服を脱ぎ出した。
「あの子!?何して!?」
「見ちゃダメ!!」
「いてててて!離せ!目が痛い!」
ルミアってたまに想像出来ないバカ力出すから、すげぇ痛い…!
「見てないって!見る気も無いし!そもそも何とも思わない!」
「そういう問題じゃないの!いいからダメ!」
「2人共、何時までしてるの!?速く追いかけるわよ!」
いつの間にか、服を着てテントを離れたらしい。
システィーナ曰く、俺達が揉み合っている間、熊の狩りみたいなやり方で魚を取り、それを氷と共に箱に詰めて、運び出したらしい。
たどり着いたのは、南地区の3番街…要は商店街だ。
「今度は南地区?さっきは東地区だったのに…」
「俺もよくここには来るぞ?安いんだよな〜。買い物してくか」
「アイル君、それは後にしよ?」
そのままリィエルを追いかけると、魚屋のおっちゃんに魚を売り付けていた。
何か…特にこれの言って問題は…?
「リィエルちゃんのお友達かい?坊ちゃん達」
「ん?果物屋の婆さんじゃん。後、坊ちゃんはやめてって」
そのまま俺はリィエルについて聞いてみた。
何でもここでは、マスコットみたいな扱いをされているらしい。
どうやら、だいぶ定着しているらしい。
しかし、どうにも歓楽街に足を運んでいるという、情報も掴んだ。
ちょうどリィエルが動き出したところで、俺達もついて行くことにした。
「…さてと、2人共。ここからは絶対に俺の側から離れるな。怪しい店に連れ込まれたら、かなり面倒くさい事になるぞ」
たどり着いた南地区6番街は、夜の街。
俺達みたいな学生…特にルミア達みたいなうら若き女の子がほっつき歩いていい場所じゃない。
「「う、うん…!」」
顔が赤い2人を側に寄せ、離れないように言いつける。
「君達、可愛いね。良かったら…」
「2人共ツレなんで、失せろ」
「こんばんは、どうかな…」
「却下。消えろ」
「ねぇ、君…私と遊ばない?」
「遊ばない。後、香水臭い」
学院の制服だった俺達は、案の定目立ってしまい、裏路地に逃げ込む羽目になった。
「クソ…マジで何でこんな場所に…!」
「あ、アイル君…!どうしよう…!?リィエル、見失っちゃったよ!?」
「大丈夫、学院で別れる前に、【アリアドネ】引っつけてあるから」
そう言って酔っぱらいを躱しつつ、裏路地を進みやっと追いついた時には、何者かがリィエルに接触していた。
この街の女って風体の女だ。
「いた!…何か話してるみたい」
「趣味は悪いけど…」
俺達は【サウンド・コレクト】…特定の音を拾う魔術で、会話を盗み聞きした。
聞こえてきた会話は、あまりにも妖しく…
「これは…」
「あぅぅ…!///」
「今のって…今のって…!?///」
俺達も、その意味が分からないほど、お子様では無い。
「…ダメだよ!!!リィエルゥゥゥゥゥゥ!!!」
「もっと自分を大切にしないとダメぇぇぇぇ!!!」
「お兄さん!!許しません!!!」
「…って、酒場の用心棒かい!!」
訂正、まだまだお子様でした。
「アッハッハッハッハ!!最近の子供は耳年増でマセてるんだねぇ!!」
「「「すみませんでした」」」
「いいってことよ。それだけあの子が大切だったって事だろ?嫌いじゃないよ、そういう熱は」
そう、俺達が乗り込んだのは色っぽい店では無く、荒っぽい酒場だった。
リィエルはその腕っ節を買われ、ここで用心棒をしているのだった。
あっちこっちで始まる喧嘩を、瞬く間に制圧していくリィエルの姿は、まるで一種のショーみたいだな。
「…まぁ…アンタらにだったら、話してもいいか…」
おや?何やら雲行きが…?
ここはさらに奥に進んだ、南地区8番街。
さっきとは違う意味で…本当に治安の悪いという意味で、危険は場所だ。
「次は『良くない連中とつるんでる』…か…」
「ま、何処にでもいるわな…そういう輩は」
俺達が店主の女性から聞いたのは、そういう不良グループとつるんでるって噂だ。
一度リィエルと別れてから、再び追いかけて尾行を継続しているのだ。
「おいおい、坊主!そんなかわい子ちゃん…」
「『寝てろ』」
「「…瞬殺…」」
俺は絡んでくるバカを速攻で気絶させて、道端に転がす。
リィエルが向かった先にいたのは
「ジャイル…!?」
何でアイツがここに…!?
たしかにアイツは札付きだが…?
しかも周りには、ジャイルがよくつるんでる連中ばかりだ。
全員がそれぞれ武器片手に、気合十分と言わんばかりに、雄叫びを上げている。
ジャイル…8番街…あ。
「まさか…不良グループの抗争…!?」
「そんな…リィエル…!?」
いても立ってもいられなかったのか、ルミア達は茂みから飛び出してしまった。
「バカ!?アイツらは一筋縄じゃ…!?」
「待ちなさい!貴方達、私達の友達になにさせてるのよ!リィエルは返して貰うわ!!」
「リィエル!ダメだよ!ジャイル君も喧嘩はやめて!本当はすごく優しい人だったよね!!」
システィーナが厳しい顔で一喝し、ルミアが2人に必死に懇願する。
俺は慌てて2人の前に立って、2人を止める。
「待て待てお前ら!大丈夫だって!ていうか、これは俺が悪かった!」
「「…え?」」
「いやー!暴れた!暴れた!」
「やりすぎだ、バカ野郎」
数時間後、俺達はジャイルが率いるチームと一緒に、下水道から出てきた。
「なんだよ…リィエルよりはマシだろ?ジャイル」
「マシ程度だな、アルタイル」
「まさか…地下下水道施設の、定期保守作業だったなんて…」
「ごめんなさい…。私達てっきり…」
地下下水道施設の定期保守作業は、都市運営において重要な仕事だ。
魔獣だの、狂霊だの、そういったものが湧きやすい場所なので、それらを祓う仕事が存在するのだ。
ここフィジテは広い上に複雑、しかも豊かな霊脈の影響で、そういう存在が他の場所より強くなったりするのだ。
「そもそものきっかけはアイルだったのね…」
そう、1年の時の大喧嘩した後、体力が有り余ってるならこれでもしとけ、と押し付けてから、リゼ先輩にお願いして、給料が発生するようにしてもらったのだ。
それ以来、コイツらはずっとこの定期保守作業を行っている。
ただ、リィエルが何時の間に混じっていたのかは、俺にも分からない。
「これはあれね…不良がいい事をすると、すごくいい人に見える法則…」
「あ、あはは…ジャイル君はいい人だよ?」
「そうだぞ。柄は悪いが根はいい奴だ」
そんな何とも呆気ないネタばらしに、俺達が肩透かしを食らっていると
「…あのチビジャリのダチなら…」
え?まさかの無限ループ?
ジャイルから聞いた噂は、リィエルが非合法の薬に手を出している、という噂だ。
次もハズレでありますようにと、祈りながら追跡すると、今度は怪しい男が近付いてくる。
2人は金を小箱を交換して、直ぐに離れる。
今度はアタっちゃったか…!
「ダメよ!リィエル!そんな事、貴女が傷つくだけだわ!」
「リィエル…大丈夫だから…!私達がいるから…!」
「それ…俺に渡してくれないかな?」
俺達は出来るだけ優しく、リィエルを諭すように言う。
そんな言葉が通じたのか、それとも泣いているルミア達につられたか
「う…ごめん…3人共…本当に…ごめん…」
リィエルも涙を貯めながら、俺に箱を渡してくれる。
俺はそのまま箱の中身を検分して…固まった。
「…使うのやめる…その風邪薬…」
「「…風邪薬?」」
「…だな。箱に有名な製薬会社のマークあるし、これもお高いけど、かなり効果のある類の風邪薬だ」
そう、俺が固まっていたのは、あまりにも健全な薬だったから。
「でも…そうしたら…あの兄妹が…」
「「「…兄妹?」」」
リィエルに連れられてきたのは、本来リィエルが拠点としているアパートで、フィーベル邸の目と鼻の先だ。
事の真相はこうだ。
学院にアルト先輩という人がいたのだが、彼の父が急逝。
幼い妹を養う為に、先月中退したのだが、そのタイミングで、厄介なウイルス性の風邪をひいてしまった。
しかも借家の家賃が払えずに、大家に追い出されてしまう。
路頭に迷う現場にたまたま居合わせたのが、リィエルだったのだ。
薬を買う為に、リィエルが自分なりに考えて、頑張った結果が、あの数々の噂だ。
カツアゲの噂は、彼らをここに連れてきた時のものだろう。
そんなリィエルが、ここまでして頑張った理由。
それはきっと…。
「…リィエル。よく頑張ったな」
かつての兄と有り得たかもしれない光景が、羨ましかったのかもしれない。
思えば…ベガの話をする時だけは、妙に真剣に聞いてた気がする。
「私達が…グレン先生がいるから…」
そんな静かに涙を流すリィエルを、ルミアが優しく抱きしめ、俺とシスティーナが、頭を撫でるのだった。
その後、彼らはそのままその部屋を使うことになり、職に関しては後日フィーベル家から紹介してもらう事になった。
そしてリィエルは、ホームレス生活から脱却し、フィーベル邸に招かれ、そこで住むことになったのだった。
「…こんなところですかね」
「そうか。…悪ぃな、迷惑かけて」
「ま、ダチだし。気にしないで下さい。それより…噂は知ってましたよね?何で首突っ込まなかったんですか?」
「…何時までも、兄貴の影を追わせる訳にも行かねぇよ。アイツがアイツなりに考えてやっていたんなら、最後までさせてやるつもりだったんだよ」
「…え?まさか、最初から全部…!?」
俺は柱の裏を覗き込むも、既にそこには誰もいなくて
「…ったく…素直じゃないなぁ〜…」
そう呟きながら、俺もその場を立ち去った。
もしベガが同じ事してたら…そう考えてから
「いや…俺も一緒か…お互い兄は大変ですね…」
苦笑いを浮かべるのだった。
おまけ
「兄様?どうなさったんですか?」
「何でもねぇよ。ただ甘やかしたくなっただけだ」
「?」
「妹を持つ兄は苦労するって事さ」