それではよろしくお願いします。
これは何でもない平和な日常。
彼らの思い出、
「あら、おはよう。アルタイル」
「…は?」
ある日の朝、いつも通りの待ち合わせ場所で、いつも通りルミア達を待っていた。
待っていたのだが…
「何よ。ぼさっとした顔して」
その場所に現れたルミアは、まるでヴィジュアル系バンドの様なファッションで現れたのだ。
「な…何じゃそりゃああああああああああ!!!!?」
「アルタイル、朝から何を…?何じゃこりゃああああああああ!!!!?」
穏やかな朝のフィジテに、俺と先生の絶叫が響き渡ったのだった。
「ふん…惰弱ね」
「…で、何してるんだよ。ナムルス」
「は?何言ってるのよ。どこがナムルスとかいう、超絶美少女に見てるのよ。貴方達の目は節穴?」
「自分でいうな、バカ!」
「恥ずかしくないのか?」
そう、コイツの正体はルミアではなく、精神を乗っ取ったナムルスだ。
本人曰く、乗っ取ったのではなく、借りているだけらしい。
「それにしても、システィーナ。よく分かったわね」
「え、えぇ…」
たしかに見破ったのはシスティーナだが…
「お前…案外バカだろ」
「少しも掠ってないぞ…?やるならもっと寄せろよ」
言動にルミアのルの字も無いこの状況に、どこからツッコメば良いのやら…。
「は?嫌よ。なんであの子の真似をしないといけないのよ」
「何故に半ギレ!?」
「めんどくせぇ!」
1日借りるだけなら…まぁ。
タイミングが悪すぎるけど。
「1日だけなら、俺か先生の傍から離れるなよ。絶対に」
「あら?そんなにルミアが…」
「ナムルス。頼む、言う事を聞いてくれ」
「…分かったわよ。だったらそっちも私の事は秘密にして。どうせなら、ルミアとして過ごしたいし」
別にそれは構わないっていうか、説明出来ないし。
ただ…
「「「「「「何があったァァァァァァァ!!!!?」」」」」」
案の定、大騒ぎにはなるわな。
「いや…ルミ!?何が!?」
「社会ですの!?時代ですの!?」
「…嘘だろ?」
あのギイブルが、あれだけ驚愕するのだ。
ほぼ間違えなく、学院中で大騒ぎだ。
「ねぇグレン。何故こんなに騒がれないといけないの?」
「ねぇ。お前マジで言ってる?」
「…ああ、私とした事が。シルバーが少し曲がってたわね。イモかったわ」
「そこじゃねぇよ!アホの子か!?」
何て騒いでいると、突然廊下が騒がしくなる。
あぁ…アイツらだ。
豪快に教室のドアをこじ開けて、入ってきたのは
「「「「「我ら【ルミアちゃん親衛隊】!ここに推参!!」」」」」
「「『引っ込め・変態共』!」」
「「「「「ギャアアアアアアア!!!?」」」」」
俺とシスティーナの【ゲイル・ブロウ】が、親衛隊を根こそぎ吹き飛ばす。
「…誰よコイツら」
「変態集団。覚えなくていい」
俺達の一撃にも負けずに、やいのやいの騒ぐ親衛隊。
しかし、『いつものルミアに戻ってくれ』。
この一言に、カチンときたらしい。
「うるさいわね、豚共。夢見すぎなのよ。1度調教してあげようかしら?そもそも何が天使よ。ファンなら、イメチェンしたくらいで、ルミアを愛せないの?失望させないで。ほら、ぼさっとしないで、証を立てなさい」
「「「「「ッ!?ぶ…ぶひ〜!!!」」」」」
何て高度なSMプレイなんだ…!?
「もうダメだ、この学院」
「先生、諦めないで下さい」
「ナムルス…かっこいい…」
「だから、憧れちゃダメーーーーー!!!」
結局俺とシスティーナでは、収集つかず
「「『いい加減に・しろぉぉぉ』!!」」
魔術で強制的に、吹き飛ばすしか無かった。
「で?マジでやるの?お前」
「は?当たり前でしょ?」
今は魔術戦教練の時間。
なんと意外にも、ノリノリで授業を受けようとしているのだが
「多分やめた方がいいと思うぞ?」
「あら?まさか勝つ気なのかしら?この私に?」
「ッ!?」
咄嗟に飛び退いて、身構える。
ヤバい…なんだこのオーラは!?
半端ない圧力に、自然と冷や汗が流れる。
「別に取って食いはしないわ。遠慮なく来なさい」
「だったらお望み通り…!『雷精よ』!」
俺は負けじと、【ショック・ボルト】を放つ。
真っ直ぐにナムルスに飛んで行ったその一撃は
「わきゃん!?」
見事に命中し、ナムルスを感電させるのだった。
「「「「「「「…え?」」」」」」」
「し、勝者…アルタイル…。え?マジ?」
先生すら唖然とする中、何となく心当たりがあった俺。
「お前な…どんな力があるかは知らないが、今のお前は、ルミアの体なんだぞ?」
「…あ」
うん、先に気付こうな。
結局、ムキになったナムルスが手当たり次第に、挑んで負けた。
「…ま、人外が人の子に地を舐める。…いい経験にはなったわ」
「でも涙目だぞ、お前」
先生、そこは触れないのがお約束。
その後もナムルスは、まあ色々とやらかしてくれた。
魔術薬学で調合に失敗して、爆発させたり。
昼休みには、暗黒物質を作り出し、それを先生に押し付けたり。
なんやかんやで無事に、1日を過ごせた。
「ふぅ…何とか終わったな…」
「お、お疲れ様です…先生」
「グレン。今日は忙しそうだった」
「お勤めご苦労様でした」
俺達は先生を労いながら、帰り支度をする。
「さてと…ナムルス。もういいだろ?」
「ッ!…嫌よ」
「「「え?」」」
そろそろ、おいたがすぎる。
「…おい。何が事情があると思って、何も言わなかった。だが、約束反故は違ぇだろ。筋が通らねぇ」
「あら?そんなにルミアが大事?もしかして…」
「やかましい。とっとと戻れ」
その時ナムルスが、薄く笑ってから
「キャアァァァァァァァァァ!!!」
突然悲鳴をあげた。
「「「「「ルミアちゃん!!!」」」」」
げっ!?親衛隊の連中…!
「コイツらが私の事を…!」
そう言った瞬間
「「「「「この鬼畜共〜!!!」」」」」
「「ゲェ!?」」
「キャア!」
「邪魔!」
いきなり俺達に詰め寄ってくる、親衛隊共。
その隙に
「アハハハ!それじゃ…ごきげんよう?」
「バカ!待て…行くな!!!」
俺の静止を無視して、ナムルスが1人で外に出てしまったのだった。
「…う、うん…?ここ…は…?」
ナムルスが気が付くと、薄暗い倉庫のような場所だった。
「私は…たしか…」
(グレン達から、離れる為にけしかけて…そして学院を出て…って!?)
「縛られてる…!?」
「き、気が付いたんだね。ルミアちゃん」
ナムルスが顔を上げると、そこには男がいた。
生理的嫌悪を催す類の男だ。
「何よ貴方?キモッ。ふざけないで。さっさと解きなさい」
相変わらずの切れ味の暴言を吐き捨てる。
だが返っきたのは
「ち、違ァァァァァァァァう!!!」
「ハァ!?…うぐ…!?」
いきなり首を絞められるナムルス。
「ルミアちゃんはそんな事言わない!もっと優しく、天使のような子だ!!それが何だ!そんなにビッチみたいな格好と言葉使ってぇぇぇ!!…はっ!?」
男は慌てて、ナムルスの首を掴んでいた手を離す。
「ごめんね…ルミアちゃん。苦しかった…?でも、ルミアちゃんが、悪いんだからね…?でも、大丈夫…すぐに、元の天使ちゃんに戻れるように…再教育…してあげるからね…?」
そう言って男が取り出したのは、学院の女子制服と首輪。
ナムルスは直ぐにでも、呪詛を吐き捨てようした。
しかし、口が震えて動かない。
無くして久しい、恐怖を思い出してまったのだ。
(この体を捨てて、すぐに逃げる?嫌!そんな真似、出来る訳ないじゃない!でも…どうすれば…!?)
「誰か…助けて…!」
ナムルスの思考が、グルグルと空回りしているその時
(大丈夫ですよ。ナムルスさん)
突然、内側からルミアの声が聞こえた。
(え?)
(そのままでいいです。ただ、お守りに祈って下さい。後は…彼が助けてくれます)
(貴女…何を…!?)
(ナムルスさん!速く!!)
(もうままよ…!)
そう思ったナムルスが、言われた通りにした瞬間、世界が変わった。
「…へ?」
「ったく…だから言っただろ?俺か先生の傍を離れるなって」
薄暗い倉庫にいたはずが、いつの間にかその外にいる。
自身の身を包むあまりにも暖かく、優しいその力は、どんどんと強ばっていた体を解していく。
「後は俺に任せとけ…ナムルス」
「あ、アルタイル…!」
さてと、お守り反応を追ってここまで来たはいいが、突然ルミアのお守りが喚起し出したのは驚いた。
中でアイツの怒鳴り散らした声が聞こえるが、俺には関係ない。
「…ここで待ってろ」
そう言ってナムルスを下ろしてから、俺はドアを蹴り破って中に入る。
「ッ!?お前は…いつもルミアちゃんと一緒にいる…!?お前が…オマエガァァァァァァ!!!」
「うるせぇよ」
俺は襲いかかってくるバカを躱してから、その顎に右ストレート。
そのまま脳震盪で落ちる体に合わせて、顎に左アッパー。
さらに上段回し蹴りで、顎を粉々にしながら、完全に意識を分断する。
「…殺さないだけ、有難く思え」
警邏官達に引き渡してから、俺達はナムルスに説教をしていた。
「だから、離れるなって言ったんだ」
〖うぅ…ごめんなさい…〗
ルミアに体を返して、いつも通りになったナムルスに事情を説明する。
この数日前から、ルミアにストーカーが付きまとっていたのだが、コイツが中途半端に魔術を齧った輩だったのだ。
俺と先生で、尻尾を掴んだのが昨日。
今日にでも仕掛ける気ではいたんだが、このバカが余計な事を…!
「ま、まあまあ、アイル君。無事だったんだし…ね?」
「…はぁ。ルミアがそう言うなら」
俺がそう言うと、今まで黙っていた先生が口を開く。
「で?これだけ色々迷惑かけて、何がしたかったんだ?」
しばらく黙っていたナムルスが、やがてポツリと呟く。
〖…羨ましかったのかもね、貴方達が。私に肉体は無いし、戯れる仲間もいない。だから…〗
その言葉に、俺達は言葉を失う。
こちらに背を向け淡々と言うその背中は、少し寂しそうだった。
〖もういいわ。貴方達の日常に干渉しない。こんな事1回だけでごめんだわ〗
そう言ってから小さく、ルミアに謝罪する。
姿が消えるその半瞬前
「ナムルスさん!また…また、学園生活を満喫したかったら、言ってください!」
その言葉に、ナムルスが唖然とする。
〖…貴女、怒ってないの?貴女の評判、一日で滅茶苦茶にしたのよ?〗
「あはは…それは困るなぁ…。でも、私の評判より、ナムルスさんが寂しそうにしてる方が…やだなぁ…なんて」
そんなふうに言うルミアに続いて、先生も面倒くさそうに
「ったく。まあ、生徒がしたいなら勝手にこい。ただ、大人しくしてろよ?今日みたいなバカ騒ぎはごめんだからな?」
そんな2人を見て、俺も肩を竦める。
「ま、普通にするなら何時でもどうぞ。少なくても、俺達は歓迎ってこと」
俺達の事をしばらく凝視した後、ボソッと一言
〖…ありがとう〗
そう言ってから、姿を消すナムルス。
「…帰るか」
先生の一言で俺達も動き出す。
またあの穏やかな日常に、そしていつか、ナムルスがその輪に加わる事を、夢見ながら。
おまけ
「ナムルスのセンスは、一体どこから学んだんにだ?」
「さあ…あれだけは…ちょっと…」
【聞こえてるわよ】
「「えっ!?」」