アルタイルをどうやって活躍させるか…。
それではよろしくお願いします。
これは何でもない平和な日常。
彼らの思い出、
「暇だな〜」
「暇だね〜」
俺とルミアは夕焼けに彩られた教室で、グレン先生を待っていた。
システィーナとリィエルは、リゼ先輩の手伝いで遅くなる。
そこで帰りの護衛を、俺と先生が引き受けたのだが、肝心のグレン先生の仕事が長引いてるのだ。
最初はお喋りをしていた俺達だったが、流石に話題が尽きたのだ。
元々俺もルミアもお喋りでは無い。
どちらかと言うと、聞き上手な方なのだ。
俺は暇つぶしがてら、【アリアドネ】で糸を使って遊ぶ。
「…フフ、あの時もこんな感じだったよね」
あの時って言うと…あの時か?
「いや、こんなほのぼのしてねぇだろ」
「たしかにそうだけど、そうやって色々作ってくれたよね」
そう、あれは3年程前の話…。
全てのきっかけは、何だったんだろう?
姉と遊んでいる時、秘密の力を使ってしまった時か。
あの日以来、私の世界はガラリと変わった。
「貴女は王家から追放です。もう、私の娘ではありません。エルミアナではありません」
玉座に座る母から、冷たい目で一方的に告げられた。
「…なんで?…どうして?」
そう嘆いても何も変わらず、私は名前すら捨てさせられ、ルミア=ティンジェルとして、生きる事になった。
私を引き取ったのはフィーベル家という家。
何でも当主レナードとその妻フィリアナは、母と古い付き合いらしい。
そして同い年の娘、システィーナがいる。
皆暖かく私を受け入れてくれた。
だが…馴染める筈が無かった。
特にシスティーナ…彼女が大嫌いだった。
私が望んでも手に入らないものを持っている。
そんな彼女からの同情、憐憫、共感?
「反吐が出る」
これから一緒に家族になろう?
「馴れ馴れしい」
頑張ればいつかきっと幸せになれるから?
「寝言は寝て言って」
彼女の全てが妬ましい、憎たらしい。
私とこの子の差は何?
私の方が何倍もいい子だったのに…!
だから私は、荒れたし、暴れた。
毎日システィーナを泣かして、レナードとフィリアナをひたすらに困らせた。
もう…どうでも良かった。
1度捨てられたんだ、もう何度やられても変わらない。
これだけやれば、いつか彼らも私を捨てるだろう。
もうどうでも良かった。
私なんて、消えて無くなればいい…。
そう自暴自棄になっていたある時の事。
いつも通り、システィーナを泣かして。
家を飛び出した私は、ある路地裏で攫われた。
「あぁ!?俺のせいだって言うのか!?」
「…んぅ?」
男の人の怒号で目を覚ます。
ここは…どうやらかなりボロの小屋だ。
「どうしてフィーベル家の娘と間違えたんだよ!?」
「フィーベル家から飛びだしゃ、そうだと思うだろうが!?」
「てめぇは人相書きも読めねぇのか、あぁ!?」
「黙れ」
そんなやり取りをしている男達にかけられる声。
そこに居たのは、女性だ。
美女と言える人だが、あまりの凄みに、何も言えなくなる。
「し、しかし…カリッサの姉御…」
「黙れと言った」
そう言った時には既に、男は死んでいた。
あまりにも鮮やかな腕前だった。
「私は無能な犬が嫌いだ。だが聞き分けのない犬はもっと嫌いだ」
それだけで誰も何も言えなくなる。
「おや、眠り姫のお目覚めかい。それにしても…クク。災難だったな。何、笑い話だ。君はフィーベル家のご令嬢と間違えられたんだよ」
間違えられた…?
たったそれだけ…?
このままどうなるの?
あれやこれやと話しているけど…私…死んだ。
今日で全部…終わりなんだ…!
「た、大変だぁ!?」
そう絶望している時、外から男の人が慌てて飛び込んでくる。
「チッ…何だい、騒々しい」
「と、特務分室が…!?帝国宮廷魔導師団特務分室が、やってきやがったぁ!」
その報告を受けた場は騒然となる。
「報告は3人。【星】と【女帝】…そして、【愚者】だ!」
「ぐ、【愚者】だとぉ…!?」
何にそんなに怯えているのかは分からないが、そんなに凄い人なのだろうか。
…まあ、今更だけど。
悪党達が騒ぐ中、私は諦観の涙を流すだけだった。
3人を残して、皆外に出ていった。
退屈そうに私を監視する中、それは突然だった。
ガタン!
「「「「!?」」」」
突然床板が抜けて、誰かが飛び出してきた。
「行け!【アリアドネ】!」
何かが駆け抜けたと思ったら
「ガッ!?」
「ゴッ!?」
「グハ!?」
3人の顎を的確に撃ち抜いて、気絶させた。
飛び出してきた何かは、フード付きのパーカーを着た男の子。
多分私くらいの男の子だ。
「ふぅ…何とかなった。君、大丈夫?」
フードをとった下から出てきた黒い髪の黒い瞳の特徴的な少年は、屈託の無い笑顔で、私を見つめていた。
…本当に何してんの俺?
いつもの修行を終え、俺は俺だけの秘密基地に来ていた。
フィジテのある場所の地下で繋がっているここは、俺だけが知る場所。
爺さんも知らない場所だ。
そんな場所なのに…いや、だからか。
「おや、眠り姫のお目覚めかい。それにしても…クク。災難だったな。何、笑い話だ。君はフィーベル家のご令嬢と間違えられたんだよ」
どうやら、悪い奴らの隠れ家にされたらしい。
数は隙間から覗いただけでも、20人ぐらい。
すぐそばには、金髪の女の子が泣きじゃくっている。
流石にこれを見逃すのは、男じゃない。
とはいえ、どうしようもない。
そんな時、急に場が騒然とする。
何でも特務分室が来たらしい。
特務分室は軍の中でも最右翼。
そんな連中が来たんじゃ、コイツらも慌てるらしい。
3人置いて、相手をしに出ていった。
…皆がこの抜け穴から目を逸らした、今!
予め【アリアドネ】の先を拳大に丸めてある。
「行け!【アリアドネ】!」
それを高速で放つ。
完全にこれの性能ありきでやったが、何とか上手くいった。
見事に脳震盪でぶっ倒れた。
「ふぅ…何とかなった。君、大丈夫?」
俺は金髪の女の子の紐を解く。
その女の子は、相変わらずの諦めきった目で俺を見た。
「…貴方は?」
「…ただの一般人?」
我ながら、なんとも間抜けな返事だ。
そんな間抜け具合が伝わったのか、呆れたような顔で、睨まれた。
「だったら早くここから消えれば?貴方も殺されるよ」
へぇ、ビックリ。
こんな状況でも、人の心配なんだ。
「…何がおかしいの?」
あれ?笑ってた?
「ごめんごめん。ただ君、優しいんだなって」
そういった途端、顔を真っ赤にして慌て出す。
「は、はぁ!?///何でそうなるの!?どこが優しいの!?///」
「だってこんな時、普通は助けを求めるだろ?なのに君は、真っ先に俺の心配をしてくれたじゃん」
「そ、そんな事ない!」
怒鳴って俺を否定する。
そこで女の子は、突然俯いてポツポツと喋り出す。
「…私、呪われてる。産まれた時から、不幸になるのが決まってたの。だからお母さんは、私を捨てた。…邪魔だから。こんな呪われた私を助けける人なんている訳ない」
き、急にどうしたんだ…?
呪い?なんの事?
「もう…嫌だ。恐いのも、苦しいのも、辛いのも、嫌だ…。もう…早く終わらせてよ…。ヒクッ…グス…。もう諦めてるから…。だから、もう終わりたい…」
そう言って膝の間に顔を埋めて、泣きじゃくる。
そんな彼女が、どうしても放っとけなくて、俺になにか出来ないか考え続けた。
「…ねぇ、これを見て」
俺は糸を使って色んなものを作った。
鳥とか、犬とか、猫とか…本当に色んなもの。
「わぁ…綺麗…!」
最初の方はただボンヤリと見ている彼女だったが、少しずつ目に光が取り戻してくる。
鳥が彼女の周りと飛び、兎が跳ねて、猫が擦り寄って、犬が尻尾振って甘える。
「…ねぇ?どうだった?」
「すごい綺麗だった!」
「良かった。…これは君が今、
そう、ここからが、本題だ。
俺の言葉を受けて、驚いたように目を見開く。
「生きてるから…」
「俺には君の絶望は分からない。でもね、死んでも意味は無い。何が変わる訳でも無い。だったら、生きよう。這いつくばってでも、泥水啜ってでも、生きよう。その先には、良くも悪くも、何かあるかもしれない。前でも、後ろでも、右でも、左でも、何処でもいい。歩こう。止まっちゃダメ。止まったら…何も変えられない。君は本当に、死にたいの?」
ルミアはその言葉を聞いて思う。
(死んでも意味は無い?そんなの知ってる。何処でもいいから歩こう?そんなの無理だよ。本当に死にたいのか?そんなの…)
「死にたくない!死にたい訳ないよ!でもどうするばいいの!?私は呪われた子!こんな私を救ってくれる人はいない!どうすればいいの!?」
「知らない」
「…は?」
あまりの俺の即答に、彼女が唖然としてる。
「だって君の人生は、君だけのものだ。君を救えるのは、君だけだ。世界は残酷だ。最初から君を救ってくれる誰かはいない。君が考え、行動を起こすんだ。君は…どうしたい?」
少し黙り込んで、まるで吐き捨てるように笑った。
「…何それ。結局何もしないんじゃない。偉そうに言って、結局何もしてくれないじゃない!ふざけないでよ!あれだけ言ったんでしょ!だったら…私を助けてよ!!!」
「分かった」
「…は?」
あ、またポカーンとしてる。
俺はイタズラっぽく笑う。
「君がそう考えて、俺に助けを求めた。それだけでしょ?それによく言うだろ?『捨てる神あれば拾う神あり』って。
そう言って俺は糸で星型のネックレスを作る。
それを強引に持たせてから、壁を糸で切った。
「さあ、ここから逃げて」
「へ?でも…」
「そのお守りが、きっと君を守ってくれる。さあ、速く行って」
その子は少し不安そうに見つめてから、俺の作った穴から飛び出した。
振り向くこと無く走り抜けて、森の中に消えていった。
「…さてと、俺はどうしよう?」
抜け穴から逃げてもいいけど、見つかったら逃げ場が無いからな…。
「よし、俺も森を抜けよう」
そう思い、穴から抜け出した瞬間
「動くな」
横から俺の頭に、銃が突き付けられる。
「ッ!?…う…あぁ…」
あまりにリアルに突き付けられる死の予感に、喉が干上がる。
「ここに金髪の女の子がいたはずだ。どこに行った?」
恐る恐る横を見ると、その服に見覚えがあった。
「…特務…分室…」
「そうだ。お前それが分かるって事は…っておい!?」
はぁ〜…何だよ。
味方…っていうか、軍人さんなら…!
「ビビらせないでよ…」
「いや、何リラックスしてんだよ!?分かる!?俺お前を銃突きつけてんの!?殺そうとしてんの!?」
「だって…助けてくれるんですよね?あの子の事」
「ッ!?…まあ、それが仕事だ」
だったら大丈夫。
だって…特務分室は、ヒーローだから。
俺はあの子が走っていった方へ指を指す。
「あっちに走って行きました。森に入ってからは、見えなかったので…」
「そうか…お前も逃げろよ?」
「あ、待ってください」
俺はそう呼び止めて、糸を1本渡す。
「あの子に持たせたお守りに反応します。それで追いかけてください」
「…すまん、助かる」
そう言って軍人さんも走り出す。
「さてと!行きますか!」
この森は俺の庭。
軽やかに、迷いなく俺は駆け出した。
「はっ…はっ…はっ…!」
走りにくい森を、ひたすらに走る。
理由は…
「待ちやがれ!」
このお守りが導くままに走ってたら、たまたま、悪党に見つかってしまったのだ。
必死に、生きようとした。
ただやっぱり…運命には逃げられなかった。
「きゃあ!?」
木の根っこに、引っかかってしまったのだ。
コケてしまう私。
何とか立ち上がろうとした時
「このガキ…!」
ついに悪党に、追いつかれた。
「あぁ…」
絶望に浸る私に、憤怒の顔を浮かべる。
「てめぇのせいだ…!てめぇのせいで、仲間が軒並み死んでいく!お前も死ねぇ!」
そう言って、指を向けられる。
あぁ…やっぱりダメだった…。
「『雷帝の閃槍よ』!」
放たれる【ライトニング・ピアス】。
その一撃が私を貫く…事は無かった。
何故なら、お守りが光を放ち、障壁となって守ってくれたから。
「これは…」
彼が…守ってくれている。
私を拾いあげようと、してくれている。
「クソ!なんだそ…」
言葉が終わる前に、銃声が響いた。
事切れるように倒れた悪党の後ろにいたのは、黒髪の青年。
その手には煙を吹く、パーカッション式回転拳銃。
「…お前、あのガキにお守りとやら、持たされたか?」
そう聞く青年の言葉に、反射的に手に握っているお守りを見る。
「どうやら、お前みたいだな。…あのガキ、何者だ?…まあいいか、俺はお前を助けに来た…って言っても信じねぇよな」
「…いえ、信じます」
「…なに?」
彼がここまで導いてくれた人なら、きっと信じられる。
だって彼は…捨てられた私を拾ってくれたヒーローだから。
「彼が送り出した人なら、信じます」
「…はぁ。マジで何モンだアイツ?」
そうして私は、青年と共に、後ろ髪を引かれる思いで、この森を脱出した。
そしてもうすぐ3年が過ぎようかという頃
「キャーー!ひったくりよー!」
帰り道、1人で歩いていると後ろから悲鳴が聞こえる。
振り返ると、女性が倒れ込み、若い男の人が鞄をもって走っている。
「ッ!?『雷精よ…!?」
途中で詠唱が止まる。
すぐそばを影が走り抜けたから。
その人は一気にひったくり犯に肉薄して、そのまま糸で縛り上げた。
「なぁ!?何だこれ!?おいほどけ!!」
「んな事する訳ねぇだろ、ボケ」
クラスメイトだった。
黒髪の少年の名は、アルタイル=エステレラ君。
その手につける赤い手袋、そこから伸びる赤い糸。
「…まさか…」
一年も一緒にいたのに、まったく気付かなかった。
多分あっちもだけど…。
「ティンジェル、通報して」
「う、うん!」
そう言われすぐに私は通報した。
この事で、アイル君は警邏庁から表彰され、学校で一躍有名人となった。
「…あ」
「うん?どうした?」
「なんでアイル君の事分かったのか、思い出したから」
「へぇ、何で?」
「1年の終わりの時、ひったくり犯捕まえたでしょ?その時」
あ〜…あったなそんな事…。
「アイル君は?」
「初めて先生と3人で帰った時」
「なるほど…。あのね、私、本当にアイル君に感謝してるの。だから…ありがとう」
「…どういたしまして」
そう言って俺達は見つめ合う。
少しずつ顔が近くなって、お互い真っ赤な顔が、瞳に映るのが見てるくらい近付いて。
そして…
「お〜、待たせたな〜」
「「ッ!?///」」
先生が入ってきたので、一気に顔を背ける俺達。
「…ん?どうしたお前ら?」
「「何でもないです!」」
「顔真っ赤だぞ?」
「「夕日のせいです!」」
俺達はカバンをもってそのまま、教室を出る。
(ちくしょう…!///)
(せっかく今…!///)
((チャンスだったのに…!!///))
「おい、お前ら待てって!」
こうして俺達の平和な日常は進む。
こんな穏やかな日が続きますように…そう祈りながら。
おまけ
「おい、お前ら待てって!」
(すまん…お前ら!実は聞いてた!教師として、流石に止めざるを得なかった…!)