それではよろしくお願いします。
これは何でもない平和な日常。
彼らの思い出、
「お、おかしい…!」
「何がだよ、システィ」
教室にて。
俺達いつもの3人は、愕然とした様子のシスティに集められていた。
「最近、先生の様子がおかしいじゃない!」
あ〜、言われてみれば。
「たしかに最近、即行で帰るしな」
「それに、どこか楽しげだよね…」
俺とルミアが考察をしていると
「大体、この数日何も食べてないはずよね!?なのに、どうしてあんなに元気なの!?そろそろ土下座して謝りに来ると思って、お弁当用意して…ゴホン!」
「おい、誤魔化しきれてないぞ」
「システィ…」
流石のルミアも、呆れた視線を向ける。
この師匠にして、この弟子ありか。
「コレかも」
そう言ってリィエルが、小指を立てる。
「「「…え?」」」
「カッシュが言ってた。男が急に様子が変わった時、大抵これだって」
「「「…」」」
「でもこれ、何の意味?小指がどうしたの?怪我したの?」
俺達は神妙な顔で、頷きあった。
「アイル君、全然神妙じゃないよ?ものすごく、笑ってるよ?」
「こんな面白そうな事、楽しみじゃない訳がない!」
「こっちは先生の家の方向じゃない!何かあるんだわ!」
そんなこんなで放課後、俺達は音声遮断結界を張り、気配も消してすっかりガチの尾行をしている。
どんどんと裏路地に入っていく先生。
見覚えのある道なんだけど…まさかな。
「随分と入り組んだ場所に、入っていくね。何があるんだろう…?アイル君分かる?」
「…1個だけ心当たりがあるけど…頻繁に来る場所じゃ…いや、まさか?」
「アイル君?何か分かったの?」
「…着いてからのお楽しみって事で」
俺は先を急がせ、追いかける。
追いついた先は、とある小さな家屋。
その玄関口には、【ローラム魔道具店】と書かれていた。
「ああ、やっぱり」
「こんな所あったんだ…」
「俺の道具、ほとんどココだぞ。品質いいし、何より安い」
そんな話をしながら俺達が覗き込むと
「あらあら、先生。今日もよくいらっしゃいました」
店長である、【ユミス=ローラム】さんが出迎えていた。
「お、女ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」
結界が無ければ、即バレしてる程の絶叫である。
システィが、小指を立てながらルミアの肩を揺らす。
「どどど、どうしよう、ルミア!?これ確定だよぅ!!!?」
「お、落ち着いてシスティ!!仕事かもしれないし…!?」
「私…こうして先生にお会い出来る時を、一日千秋の思いでお待ちしていたのですよ…?お会いすることを考えるだけで、
「確定だこれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?」
「…///」
「面白くなってきたぞ…!」
「?」
涙を流しながら、絶叫するシスティ。
フォロー出来ず、ナニかを想像して顔真っ赤なルミアと、フォローする気の無い俺。
そして訳が分かってないリィエル。
「おっと。つーことは、今日も
「ふふ。もちろんです。きっと先生を満足させてさしあげます。甘ぁい、
「
「何だろうねぇ〜?」
「そういえば、ウルは?」
「買い物に行ってもらってます。ですのね…その…今は2人きりです。だから、今のうちに…
「
「ナニって…ッ!///」
「いいのか?」
「はい。それに…
「それはアレ!?子供には早い、
「アワワワワワワ…!!///」
「悪いが
「…嬉しい。
「何が
「これが…大人なの…!!!?///」
店の奥へと消えていく先生達を見て、泣き崩れるシスティ。
そして、これから起こる事を想像して、顔を真っ赤にするルミア。
「…結局グレンは、何をやってるの?」
「リィエルには、まだ早いかな」
そう言ってから、俺は後ろを振り返る。
そこには
「人の店の前で何してるんですか?邪魔なんですが」
ここの店長の娘さん、【ウル=ローラム】がいた。
「アハハハ!!こんな事だろうと思ったよ!!」
「「う…うぅ…!///」」
「ふふ、先生はいつも美味しいって言ってくれるから、ドキドキしちゃって…!」
「いや、実際美味いっすよ…
そう、先生が食べていたのはケーキ。
ブランデーが入っていたので、子供のウルに早いのだ。
狼なのは、純粋に空腹で飢えてるだけ。
そんな先生が何故、ここに来ているかと言うと
「まさか、先生が無償で家庭教師してるなんて…」
俺が流し見た先には、ウルに対して真面目に教えているグレン先生。
何故こんな事になっているかと言うと。
・ユミスさんはとある魔術師の家系に嫁いで、ウルを妊娠、出産。
・旦那がクソクズDV野郎で、そこから逃走。
・細々と暮らしているので、魔術を教えてくれる家庭教師を雇えない。例え格安で雇えても、元旦那が裏で手を回して、潰してしまう。
・ウル自身もその事を理解しており、家の為に学費が免除される、特待生枠を狙い魔術学院への入学を目指している。
・先生に白羽の矢が立ったのは、俺達の登校風景を見ていたらしい。
ざっくりこんな感じだ。
…泣かせてくれるじゃねぇか。
「アイルは、知らなかったの?」
「他人様の家庭事情に、首突っ込むかよ。あくまで俺は常連なだけだし」
俺はシスティの質問に、肩を竦めながら答える。
そこまで俺はお人好しでは無い。
「とはいえ、問題が無い訳では無いか…」
「問題?アイル君、どういう事?」
「学院職員の職務規定。たしか無断で教えるのはダメだった気が…。タウムの時、先生と一緒に確認し直したから、先生も知ってるはず。まあ、それを承知の上でやってるなら、いいと思うけど」
まあ、そんな細かい話は置いといて、俺達も手伝う事にしたのだ。
「あら?野暮じゃなかったの〜?」
「うるせぇ。関わった以上は別だ。それよりも、もう先生とは、二度と口を聞かないんじゃなかったか?」
「うっ…!それは…まあ…!食券横領事件は許した訳じゃないけど…善行してるみたいだし!もういいかなって…!」
俺とシスティの憎まれ口の応酬を、ルミアは笑いながら見守る。
とはいえ、俺は少し調べ物がある為、あまり参加出来ず、基本的にルミア達に任せている。
この数日は、順調に進んでるらしい。
「…なるほどな…」
「坊ちゃん、これを。ボスからです」
「だからその呼び方やめてって…。…へぇ、よく許しましたね、あの人」
「それだけ貴方の事を、買っておられるのかと」
「まあ、いいや。とにかくすぐに動けるようにしてください」
俺達は早足気味で、裏路地を走る。
「もう!アイル長すぎよ!」
「悪かったって!」
そう、俺の内緒話が長引いたせいで、遅れているのだ。
しかし慌てて着いたお店は、かなりの荒らされようで、酷い有様だった。
「ユミスさん!」
先生が慌てて駆け寄り、事情を聞いている。
なんでも元旦那の【ダルガン=ガーレーン】が、ウルの親権を強引に奪っていったらしい。
「なんてこった…!」
「酷い…!」
当然、ユミスさんは拒否。
しかし、入念に裏工作をしていたガーレーンは、ユミスさんの親権を失効させ、自身へと移していたのだ。
「待って下さい。子供の親権移動は、法的措置があったとしても、本人の承認も必要になるはずです。アイツがそれを了承するとは、思えないんですが?」
「…あの人の日常的な暴力で、ウルは逆らえなくなってるんです…!」
くそ…!
そうなると時間が…!
俺は懐から1枚の紙を取り出す。
「先生。これ…」
「これは…!?マジかよ!?」
「はい、でもこれを切るにはまず…」
「ああ、親権を無効化しねぇとな…」
俺達は、ユミスさんをルミア達に頼み、ウル奪還へと動き出した。
「…待てや、コラ」
先生が、ウル達の動きを止める。
俺もすぐ側の路地に身を隠し、何時でも動けるようにする。
グレン先生が、弁護士だという嘘をつき、明らかな偽装書類だと、弾劾する。
「…本人の、被監督側のウル自身の意見を聞きたい」
しかしウルは、やはりトラウマから自身の気持ちが言えない。
まずい…致命的な事になる前に…!
「ウル!魔術師にとって最も必要なのは何か、答えろ!」
それは何時も、俺達にも口酸っぱく言っている事。
『自分の意思』だ。
「お前はなんの為に、俺から魔術を習った!?そんな事が分からない奴に、教えた覚えは微塵も無いぞ!いいか!世界は残酷だ!自分の事は、自分でしか守れない!だが、子供のお前にそこまでは求めない!だから、せめてどうして欲しいのか、お前自身から言え!お前から手を伸ばさないと、俺達はお前を助けられねぇんだよ!」
先生のそんな叫びに、ウルの目に光が戻る。
「私は…私は!お母さんがいい!こんなクソ野郎、絶対にヤダ!先生!助けてぇ!!!」
「この…クソガキが!」
ガーダーンが拳を振り上げた瞬間
「任せろ!」
俺は一気に前に躍り出て、振り上げられた拳を、思いっきり蹴り割った。
「ギャアァァァァァァァァァァ!!!?」
「うるせぇな、豚」
俺は喚き散らすガーダーンの割れた拳を、踏みつける。
「お前、色々黒い事してるなぁ…。その中に幾つか、ルチアーノ家のシノギが混ざってるぞ?挙げ句の果てに、違法ドラッグ。お陰様で、
俺が合図を送った瞬間、屈強な男達が現れる。
「裏には裏のルール、ってのがある。それを破ったお前達は当然、裏で裁かれる」
「な、何故…!?お前まさか…!?」
「ああ、俺は関係者じゃないぞ?ただ…」
俺は懐から紙を取り出す。
それは、
当然書いたのは、ルチアーノ卿本人だ。
名前の横には、血をインク代わりに使った指のハンコ。
そして、家紋である天翔る双頭竜。
間違えなく、本物だ。
「さてと、それでは落とし前は付けてもらうぜ。先生、後はよろしく」
そう言って俺達は豚と取り巻きを連れて、闇に消える。
え?どうなったかって?
…知らぬが仏、と言うやつさ。
ウルは無事、母親の元へと戻された。
その後も俺達のウルへの指導は続けられて、いつの日か、小生意気な後輩が出来るのは、また別の話である。
おまけ
「アルタイル、あの男どうなったんだ…?」
「…知りたい?」
「やめろ!その怖い笑みやめろォ!?」
(まあ、実際は俺も知らないけどな。後処理は任せちゃったし。…面白いから黙ってよ)